銀内号ヘッドライン

開発経緯

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ginnnaigou

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――『アージェント計画』


 試作戦闘機のコードネームを冠したこの計画は、鍋の国の銀内 ユウ氏によって発案されたニューワールド第四の試作戦闘機開発計画である。


 既に開発されていた三種三機の試作戦闘機――芥辺境藩国(現在は準藩国)の『蒼天』、伏見藩国(現在の星鋼京)の『蒼穹号』、ビギナーズ藩国(現在の満天星藩国)の『マンインザミサイル“栄光”』の三機――は、そのどれもが「航空、低軌道宇宙で運用を主眼においた三十メートル級のスクラムジェットエンジン搭載機」という共通項を持ちながら、それぞれ個別のコンセプトを元に設計・開発がなされた高性能機であった。
 今回の試作戦闘機は、計画発案者である銀内 ユウ氏の「恋人である優斗君が好きなF15系戦闘機をベースに、彼の故郷である第五世界で運用できるようにしたい」という想いから、大気圏での運用を主眼においた航空機型の機体として設計が進められた。

 だが、その一方で「最新型の高性能戦闘機の開発は行うが機体はTLO化させない」という点がスタッフ全員の暗黙の了解となっており、構想段階からできる限り既存技術での設計・開発が求められた。

 そのため、本機の設計には『F15E ストライクイーグル』を始めとしたF15系戦闘機の他、裏マーケットで販売された『国民戦闘機』や『ぺヤーン』や『ユーフォー』といった焼きそば系戦闘機の機体データが参考にされる事となった。
 特に『複座型国民戦闘機』『ユーフォー』の二機種はパイロットである銀内優斗氏が搭乗した事があるため、パイロットの癖などを把握する意味もこめて実機の検分も交えた稼動データの収集も行われている。

 そして、この試作戦闘機設計で問題となったのが、積載するレーザー兵器の問題と稼動する物理域と領域の問題であった。
 本機は大気圏内と低軌道宇宙での運用とレーザー兵器の搭載が試作戦闘機の一般性能要求として求められており、それと同時に第五世界での運用もコンセプト上求められていた。
 しかし、一般的には開発した世界と運用する世界が異なる場合、物理域やテックレベルの差により機体が作動不良を起こしてしまうというケースが多く、かといって無理に他世界での運用を可能にしてしまえば機体のTLO化に繋がるという不安要素が付きまとっていた。
 そこに稼働する物理域に制限のあるレーザー兵器が加われば尚の事であった。



 無論、そのような機体がないわけではない。


 芥辺境藩国が開発した量産型の蒼天である『蒼天・晴型』などはレーザー兵器を搭載しながらも機体をTLO化させずにニューワールド・宇宙空間・第五世界での運用を可能とした戦闘機である。
 また、優れた性能と運用実績を持ちながらも現用戦闘機としては保守的な設計で一世代前の機体にあたるF15系戦闘機をベースに、焼きそば系戦闘機などの非TLOの現用戦闘機を参考にした機体ならば、技術の進み過ぎによる機体のTLO化を抑止できる可能性もあった。
 とは言え、F15系戦闘機は低軌道宇宙での運用もレーザー兵器の運用も想定がされていないというのも事実であり、迂闊な機能追加が機体のTLO化を促してしまうのではという懸念に開発者は頭を悩ませる事となった。


 この問題を受け、計画発案者である銀内 ユウ氏は二つの意向を示す。


 一つは本機は大気圏内(第五世界)での運用を優先するという事。
 二つ目はレーザー光線を用いた索敵兼誘導装備の開発ができないかという事。


 確かに大気圏内(この場合は地球の大気圏内)は宇宙空間ほど過酷な環境ではないため、仮にバイタルエリアなどに宇宙用装備が存在していても大きな問題が発生する可能性が低い。
 加えて、第五世界ではF15系戦闘機の改修型である鷲天(第五世界のF15C改修機)も存在している事から宇宙空間よりは第五世界を含む大気圏内の方が稼動・運用させるための難易度が低いだろうと考えられた。
 そういう意味では宇宙空間と第五世界のどちらかで確実に稼働する機体を作り、もう片方は設計に組み込むだけ組み込んでおき、機体がTLO化してしまうのであれば運用を見送るというのは一つの案ではあった。

 もちろん、そこに銀内 ユウ氏が試作戦闘機の第五世界稼働に関して並々ならぬ思いがあった事は言うまでもないだろう。

 そして、レーザー兵器をレーザー砲ではなく捜索・誘導レーザーという補助装備として――言わば航空機用イージスシステムのようなものとして運用できないか。という銀内 ユウ氏の発言は、「レーザーを武器として用いる=レーザーによる直接攻撃を行う」という考えに囚われていた開発者にとって発想の転換となるものであった。
 元々イージスシステムは空中目標の捕捉・追尾・迎撃を効率良く行うために開発されたシステムであり、本機でICBMなどでの核攻撃を空中で迎撃すると言う事態を考えれば、あっても不足はないと考えられるシステムと言えた。


 無論、原型機よりも機体が大型化であるとは言えイージスシステムそのものを積む事は難しく、イージスシステムの特性の中の「レーザー光線による光学索敵とて敵味方識別及び捕捉した目標を追尾し続ける」という点に絞ったシステムの開発をする必要があり、それによる稼働域の心配はあった。
 だが、捜索・誘導レーザーであるが故に大気等による威力減衰を気にしなくていい点や補助兵装としての柔軟性という点を考えれば、当初考案されていたプランである「試作戦闘機サイズまで大型化した99式熱線銃の搭載」よりも使い道の広い方法であるのも確かであった。


 最終的に宇宙空間での運用に関しては「設計段階では低軌道宇宙の運用を想定した設計を行うが、最悪の場合は機能を封印もしくは削除し運用は見送る」、レーザー兵器の搭載に関しては「航空機用イージスシステムを開発しつつ、第五世界での作動不良に備えて99式熱線銃をベースにしたレーザー砲の開発も並行して行う」という方針で決着が付き、それに応じた設計と開発、テストが行われる事となる。

 そうして完成した試作戦闘機には、銀内 ユウ氏が試作戦闘機の正式名称として決めていた『銀内号(ぎんないごう)』の「銀」に掛け、紋章学で『銀色』を示す『アージェント』(ラテン語の『銀(Argentum)』に由来する)というコードネームを与えられ、大空へと解き放たれる。












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