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いと






 語る前に。まず…糸を一本
 もう一本。

 交差していくように、もう一本…



 縁は奇なもの。と人は言う
 多分それは…あの世と言われる、ここでも同じ。

「悼む側は、都合よく…『天国で仲良くしてくれているといいな』なんて言うけど…。」
 そう言いながら…眼鏡の奥で、柔らかに微笑うこの青年。
 ウチの馬鹿兄貴の親友になってくれたという…
「あはは。まさか本当に、こうして顔つき合わせてつるんでいるとは夢にも思ってないかもね。」

 きっかけは、些細な共通点。

 オレも彼も…冒険者で。
 同じように、超巨大トカゲに挑んで散った。



 きぃ、ぱたん。きぃ、ぱたん。



「ねぇ。やはりさ…未練とかって、今もあったりする?」
「ない…と言ったら嘘になる…かな。」



 鮮やかな赤い糸。憂いを含む青い糸。



「そうだよね…僕も…君の前で悪いかなと思うけど…君の兄さんと、残したもうひとりの友達のことを思うと…」
 その言葉に、ふんわりと暖かい気持ちが膨らむ。
「ありがとね。その友達も…ウチの馬鹿兄貴も…随分としあわせだったんだな。」



 途中で色が切り替わり、切り替わり…
 交わる糸たちが強固に結びつく。


「しあわせだったのは、僕の方だ。」
  ふるり、と首を横に揺らし…なおも彼の言葉は続く。
「彼らと過ごした時間は…僕の人生の中でも、最高に鮮やかな色どりを添えてくれた…いっぱい泣いて、いっぱい笑って…」
 だが、ここまで語って…彼の言葉が、ふつりと切れる。


「ねぇ…」
「ん?」
「…彼らもまた…僕のように…同じ思い出を抱いて…生きていってくれるのかな。」
「それは、ガチだろ。細かな場面に綻びは出来るかも知れないけど…少なくとも、あんたの生きざまは…うちの馬鹿兄貴の生きざまに、ひとつの色を添えてくれた。」



 張りつめて…なおも優しく、彩りを。
 きぃ、ぱたん。きぃ、ぱたん。



「冒険者としてはじめてあの地に来た時のアイツと…オレがこっちに来てからのアイツと…あんたと出会って…見送ったアイツ…」



 一期一会の糸たちは、ときに千切れ…もつれ、絡まりながら。
 織り上がる布は緻密な表情をたたえ…なおも優しくしなやかに。



「同じアイツだけど…全部違う。今のアイツは、あんたと共に歩み…育てられた、オレの自慢の兄貴だよ。」
 驚いたように、一瞬だけ丸くなった目。だがそれは直ぐに…優しげに細く…
「はい!」
 ぱっ、と輝く顔が…まるで太陽の光のようだな。
 そう、思った。



 なぁ。本当は…
 今の言葉、お前に言ってやりたかった。

 オレの人生に、鮮烈で…優しい色を添えてくれた…
 さながら…数々の出会いの中で織られる布に一本混ざった、ひときわ光る銀糸のような存在。

 でも。
 さよならだ。



 糸を切り、新たな糸を足し…長く長く布は織られる。
 それは自分を守る力として。
 それは誰かを包むぬくもりとして。
 絶え間なく、布は織り続けられていく。

 そして今、機織りの様を眺めていた青年は、一本糸を切り…
 新たな糸をその先に結びつけると…
 織り人の傍を風のようにすり抜けていった。 



 もう、この糸を続ける必要はない。
 後は…それが織り上がるのを楽しみに見守っているよ。



 本当に、オレは…
 仕合せ(しあわせ)だった。



 ありがとう。