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神父さまとろくでなし





すまん、まさきさん。


お礼のつもりだったんだけど

結局髭がしゃべって終わっちゃった…
おかしいな。
ちっとでも問題あったら、引っ込めますです






 ぜってー、変だよな。



「どれだけ俺を心配させやがる!平凡な日常を返せ!」

 見舞いに来てくれたと思ったら…なんだか延々と御託を並べ…
 その挙句に、だ。
 思いっきり旧知の神父様に逆切れされたわけですが…



「ハインケル!むしろ長話を聞いていた俺の時間を返せ!」



 いつもだったら、ハインケルの様子を見つつ…どんな答えがほしいのか一生懸命考えるのが俺ですが。
 今回ばかりは、そうも言ってられない。



 なにしろ。
 入院中の身で運動不足な上に、煙草もいつものように自由に吸える状況ではない。
 挙句に骨折が完治していないわけだから…

 絶賛カルシウム不足中。
 今日の俺は触ると怪我するぜ、この野郎。



 …などと思いながら顔をあげ、ふと…ハインケルの様子を拝むと
 顔には出ていないけど、腑に落ちない何かがあるらしく…

 なんだよ。お前もカルシウムたりてねぇのかよ。牛乳飲めよ。牛乳。



「座れ。」
「断る。」
「てか、神父なら俺様の告白きちんと聞けっ。たまにはよ!!」



 あ。ちげぇ。たまには聞け…じゃねぇよな。
 だって…俺。

 自分から本心なんて話すこと、ぜってーなかったもん。



 渋々、近くの椅子に座るハインケルを見届け…とりあえずこう切り出す。



「俺よ、やっと気づいたんだ。」
「…何にだ?」
「自分の馬鹿さ加減。」

 …あ。すげぇ勢いで嫌な顔された。

「修行の一環と思ってちゃんと傾聴しろ。」
「…苦行じゃねぇのか?むしろ。」

 っかー…もうずーっと前から気が付いていたけど、可愛くないひとっ!!

「おだまりっ。あー…まず、そうだ。俺が冒険者になった理由からな。」
「…随分、遡るな。確か、運命に導かれただの…弟を茶化しにきただの…兎に角ふざけた理由だったな。」
「そうそう。それ。」
「…今更、全部フカシでした。とでも…」
「うん。フカシ。」

 …表情は変わらず。
 でも、なんか取り巻く空気の質が変わった。

「恥ずかしかったんだよな。ホントの事いうのが。」
「…なんだ?」
「たぶん…俺は、世界を救いたかったんだと思う。」
「…うさんくせぇんだよ。テメェが言うと。」



「ハインケル。世界ってどうすれば救えると思う?」



 …ひとつ、大きく俺は息を吐く。
 目の前の神父は黙ったまま…でも、俺の紡ぐ言葉を待っている。



「例えば…俺が討伐に行って…モンスターを倒す。そうやってひとつひとつ、人類の脅威を片づけていけば済むと思っていたんだよな。俺。」

「テメェが…その分傷ついていくのも計算の上でか?」

「全部は今の俺の手の内で、俺の手の届く範囲で、俺の運と実力が枯渇しなけりゃ、いつかは叶うことだと思い込んでいたんだよな。たぶん。」



 外から聞こえてくる子供たちの声。
 なんか今日は、やけに部屋に響くな。



「そして…その間に…沢山の家族やダチが死んだ。俺は焦った。振り返れば死体だらけなんだぜ。半端ねーよ。」
「…テメェはよ…そうやって、背負う必要のない誰かの死に引きずりまわされていた。そういうことだな。」

「そこで綺麗にまとめんな。否定はしねぇけど、肯定もしねぇ。」
「でも、テメェが思い上がっていたのはよく解ったぜ。ホントにくっだらねぇ。」


 いちいち、指摘が痛いです。神父さま。


「…兎に角だ。紆余曲折や事情の変化をいろいろ通過して…先だって、ついにこうして引退の運びになったわけですが。俺、今までの事振り返って…自分のしてきたことって何だったのかと思ったら、正直凹んだんだわ。」
「無駄だと、思ったわけか。」
「モンスターは減っていない。冒険者はバタバタ死ぬ。脅威はやはり辛うじて押さえこめている程度。全然変わってねーんだもん。現状がよ。」



「それに気づくに払った代償が…テメェの費やした七年分か。」
「七年足掻かなきゃ、気付かないこともあんだよ。」
「…世界の救い方、とやらか?」
「そうそう。言葉に直せばすげぇ簡単なことだった。みんなが強くなればいいんだ。要は。」



「…あり得るのか?そんなこと。」 
「誰が今すぐといった。物理的に無理だろが。そんなことは。」



 目の前の、眼鏡の奥の瞳の色。
 窓の光が絶妙すぎて…様子が全くワカンネェ。



「妹が言ってた。世界は俯瞰で見りゃだだっ広いけど…要は、それぞれの手で届く範囲の『個々の世界』の寄り集まりなんだ。」



 そう。アンジーは…ここに来た時には、すでにそんなスゲェことに気づいていたんだよな。



「それが一つ一つ手を結びあって、関わり合って磨き合って…大きな世界になる。」
「ふむ…」
「俺が今までやっていたのは、その…個々の世界を守るために、片っ端から手を出したり首突っ込んでみたり…」
「本当に、身の程を知らん野郎だったな。テメェは。」



「うん。だから…無理が出るんだよな。」
「…で?」
「そう。で、だ。」



 イイネ、イイネ。俺的に興が乗ってきた。
 ハインケルは表情読めないから知らんけど。

 でも…

 俺の言っていること、全部拾い集めてくれているのはよく解る。
 どんなクダラネェことでも、こぼれだす言霊の…本当の重要さと儚さをよく知っている男だから。



「みんながみんな…自分ができる範囲内で強くなって、それぞれ補い合って…助けたり助けてもらったり…守り合えば、結果的に世界って強くなるし、救われるって思えてこねぇ?」



 窓の外。
 顔を向けると…見慣れた、能天気な…それでいて、最近やっとピシっと引き締まった顔を見せるようになった…蝙蝠男が歩いている。

 病室に目を戻せば…
 封を切っていない煙草の箱。切り花。足のギプスにおびただしい落書き。



「俺には、七年間ここで槍を振り回して戦ってきた経験と知識がある。物理的になら戦う術を知っているつもりだ。でもそんなのは正直…俺のやりたいことの大義名分にすぎねぇんだよ。」



「何を、やらかす気なんだ。ロイ・ファゴット。」
「人を育てたい。」



 そんな事。
 何十年もかかるだろうし、俺も途中でくたばると思う。
 でも、でもだ。
 みんながそうやって少しずつ強くなって…困難を跳ね返せるようになれば…

 そして。

 その思いを…多くの人たちが、これから先共有できるようになれば…



「…ひとつ聞こう。」
「んぁ?」
「それは、救済でもあるが…破滅への舵取りにもなりえる。俺の言っている意味は、解るか?」
「俺は、先生にも神にもなる気はねぇよ。これから生きていくやつの足場でいい。なれればいいだけだ。」



 郊外にある、村人と冒険者が集まる診療所。
 ひとりの神父がそこから出てくる。



 たった一言つぶやいた言葉は、夏の匂いの混ざる風にかき消され…




 遠くへと、飛んで行った。