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地方自治体の広報戦略の現状

(日本広執学会第13回研究発表大会発表予稿)

要旨:  2007年6月に、全都道府県及び全国の100市町村に対し、「自治体の広報戦略」を中心にアンケート調査を行った。この調査により、広報戦略を明文として有している自治体が極めて少ない現状が確認できた。一方で、政令指定都市を中心にシティセールス及びシティプロモーションに係る施策を行っている自治体がある。
本報告では、先に述べたアンケート調査及びその後に行ったヒアリングをもとに、自治体における広報戦略の現状、内容、さらに必要性について考察を行う。あわせて、シティセールス等の施策において、市民や企業、NPO等とどのような連携により施策が展開されているかを紹介し、検討を加える。
なお、本報告は、発表者を主査として行っている「日本広報学会・行政コミュニケーション研究」の中間報告にあたるものである。


1.研究背景

国による自治体への関与を小さくすることになる三位一体の改革を経て、自治体はそれぞれに戦略性を持った地域経営を行うことが求められている。その内容は、全国一律ではない、それぞれの地域性を基礎とし、マニフェストに基づき選ばれた個々の首長の経営戦略に基づくものとなる。一方、平成の大合併と呼ばれる多くの自治体の合併は、住民の自治体への帰属意識、参画意識の稀薄化を招きかねない。このような背景のもとで、戦略性を持った地域経営を可能とし、地域間競争に勝ち残り、住民に開かれた自治体であるためには、的確な広報戦略に基づいた行政広報、地域広報が必要となる。さらに単なる観光客誘致や「まちづくり」にとどまらない、対地域内・対地域外への広報をも的確に組み込んだシティセールス、シティプロモーションが求められている。


2.研究目的

 こうした背景のもとで、行政施策の広報や政策形成に資する広報である「行政広報」、地域のもつ多様な資源や魅力を地域内外に広報する「地域広報」「シティセールス」「シティプロモーション」が、どのような方針のもとで行われているかを調査、検討する。これにより、自治体広報の現状を確認し、さらに、各広報を基礎づける「自治体広報戦略」策定への提案を行うことを、本研究の目的とする。


3.自治体広報戦略の定義

具体的調査を行う前に、民間企業における広報戦略及び先行研究を基礎に、規範的に自治体広報戦略を定義する作業を行った。自治体における広報戦略については、個々の首長により異なる行政経営方針と、基本的には自治体で共通する行政広報の理念の二つの要素から、ストラテジック・プランニングを経て、形成される。この広報戦略から個別事業の広報戦略が導きだされ、さらに、そのうえで広報スケジュール及びアクション・プラン(個別実行計画)は決定されることになる。この関係を示すと図1になる。




4.広報戦略に係る自治体アンケート

2007年6月に47都道府県及び各都道府県で最も人口の多い市及び人口が5位にある市、さらに注目できる広報を行っている市・村、計100市村を対象にアンケートを行った。47都道府県全てから回答があり、そのうち、アンケートにおいて広報・広聴戦略を文書化している自治体は8県にとどまった。当該県は秋田県、茨城県、岐阜県、静岡県、愛知県、滋賀県、兵庫県、宮崎県である。調査対象とした100市・村のうち回答があった市・村は80市・村であった。この80市・村のなかで広報・広聴戦略が存在するとの回答があったものは9市であった。なお、都道府県及び市・村いずれも広報に係る内部マニュアルは除いた件数となっている。以上のように、自治体において広報・広聴戦略を文書化し、備えている自治体は極めて少ない状況であることが確認できた。ただし、アンケートでは広報・広聴戦略は存在しないと回答した市においても、Webページ等を調査したところ、シティセールス戦略などは公開している事例もあった。このことは、広報・広聴とシティセールス・シティプロモーションが別の範疇のものとして捉えられていることを示している。

5.広報戦略に係る自治体ヒアリング

2007年8月~10月にかけて、アンケートの分析から本研究にとって一定の意義があると考えられる自治体に対してヒアリング調査を行った。ヒアリング先は、青森県、秋田県、宮城県、岐阜県、愛知県、千葉県、長野県の7県及び仙台市、千葉市、さいたま市、横浜市、川崎市、相模原市、長野市、浜松市、和歌山県北山村の8市・村、さらに行政区である札幌市北区である。

6.自治体ヒアリングからの知見及び考察

上記のヒアリングから以下の知見及び考察を得た。

(1) 広報戦略の文書化

「広報戦略」について、都道府県の一部を中心に文書化が進められている。それらのなかには秋田県のように首長主導のもの及び愛知県のように職員主導のものがある。特に後者については自治体全体の取り組みとするためには、単に策定にとどまることなくどのように庁内においてオーソライズするかが課題となる。この点からは広報戦略が文書化されていることは望ましいが、文書化自体が目的ではなく実質的な戦略の共有が図られていることが、さらに重要となる。

(2) 広報戦略におけるPDCAサイクル

広報戦略の策定、実施にあたってはPDCAサイクルが十分に回転することが必要となる。広報戦略を策定(Plan)している自治体において、当該戦略に基づいた政策が遂行(Do)されている例は確認できたが、十分なCheck,Actionが行われている事例は必ずしも多くはない。戦略的地域経営という視点からは、Check及びActionが広報担当課によるものか、広報担当課以外の行政内部からのCheck,Actionなのか、行政以外によるCheck,Actionなのかについても、それぞれの意義は異なり、弁別して検討することが必要である。「広報と広聴の連携」及び「広報担当課による事業課への広報支援機能の充実」はいずれも重要な点である。これらについても、上記のPDCAが十分に循環しているか、Check,Actionが十分に存在しているかの視点から検討することが必要となる。

(3) 広報支援機能

広報担当課による事業課への広報支援機能については、①事業別広報テーマが事業課から広報担当課に的確に提示される体制になっているのか。②提示された事業別広報テーマが広報担当課を中心に十分に連携、調整されているのか。③自治体としての重点事業戦略の見地からの調整や媒体提案が行われているか、などが充実度を測るメルクマールとなる。ここでは横浜市の重点広報計画の策定のあり方は上記からみて高い評価が可能であると考える。
あわせて、それらが庁内に「見える化」(戦略としての共有化)されていることにより、庁内での学びや気づきの生成が行われる。

(4) 戦略型地域経営を志向した協働広報

地域経営においては、行政だけが地域に責任を追うのではなく、市民の負託のもとNPOや地域企業との連携により、よりよい地域づくりがすすめられることが必要とされる。
協働広報とは、行政だけが地域に関わる対内、対外広報を行うのではなく、地域内の企業、NPO、市民が連携して地域に関わる広報を行うことを指す。この点では横浜市における民間メディア企業との連携によるフリーペーパーの活用が企業との連携にとどまるものの先進的な取り組みと考える。
以上の、地域経営を基礎にしてその理念に基づく協働広報を戦略的に進めることを「戦略型地域経営を志向した協働広報」と呼ぶことができる。
この「戦略型地域経営を志向した協働広報」という立脚点からは、ともに地域経営を担う企業、NPOあるいは市民がCheck,Actionを的確に行い得るフレームワークが重要である。この点については市政モニターの存在や秋田県や札幌市北区(「藍ちゃんメール」)等で行われている広報誌綴じ込み等を用いたダイレクトレスポンスなどがある。しかし、個別の事業への評価及び個々の広報コンテンツにとどまらず、広報戦略そのものについての評価を行うことが意味を持つ。この点についての実績は各自治体とも不十分である。

(5) シティセールス及びシティプロモーション

仙台市、川崎市、千葉市、浜松市等政令市を中心にシティセールス、シティプロモーションの取り組みが進められている。シティセールス及びシティプロモーションは「戦略型地域経営を志向した協働広報」の視点からも極めて重要なものとなる。シティセールス、シティプロモーションは単に観光入込客の誘引増加を目標とするものにとどまるものではなく、自治体への帰属意識を高めるなどの対内的な目標も重要である。
上記については、川崎市における川崎シティセールス認定事業、仙台市におけるシティセールスサポーター、浜松市におけるシティプロモーションなどが一定の達成を果たしている。あわせて、シティセールス及びシティプロモーションの展開にとっては、インフラ整備等も視野に置いた検討も重要となる。この点でも川崎市シティセールス戦略が先行事例となる。
以上から導かれるように、広報とシティセールス及びシティプロモーションの連携は十分に必要となる。シティセールス及びシティプロモーションを進める各自治体の連携の状況は様々であり、密接な連携が図られている事例(川崎市等)から必ずしも十分な連携が図られているとは見受けられない事例もある。

(6) 広報予算のあり方

全体的な自治体予算緊縮のなかで、広報・広聴予算についても一律な削減が行われている状況も少なくない。しかし、広報・広聴予算の削減が一方的に進められていくならば、背景で述べた地域を取り巻く課題解決を困難にすることも考えられる。首長の掲げたマニフェストに基づく地域経営への合意形成にとって、広報・広聴が重要な意義を持つと考えられる。地域経営を行うための各事業予算の一定割合が広報・広聴予算として割り当てられる等の考え方も検討されるべきである。
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