稲荷山蕎麦店繁盛記 四杯目(3)

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「暁」 「月から女の子が落ちてきたんだよ」 開口一番の向日葵の言葉に、暁はちょっと戸惑った。さっきまで、あの男のことでばたばた慌ててからかもしれない。 蔵書室として機能している客間で、暁は向日葵と夜見の話を聞いていた。 「知恵を貸してほしいのよ」と今度は夜見が言ってくる。「貴方の先生にね」 「先生ではありません」きっぱりとそこは否定しておく。人のものを勝手に取るようなやつは先生じゃないし、そんなことしなくてもあいつは先生じゃない。 「彼はただの変人です」 「やっぱり変人なんだー」向日葵が嬉しそうにはしゃぐ。 「ね、いったでしょう」夜見も口の端を上げる。 「さっきのは君達か」えらそうに座っている野比が苦笑した。「しかし、その変人に知恵を借りに来るとは君達も十分変だよ」 「変人でも賢ければいいのよ」夜見がぴしゃりという。「月から落ちてきた女の子について。知恵を貸して」 月から落ちてきたオンナノコ。暁は少し想像してみる。 かぐや姫の末裔?地球侵略?いやいやそれじゃ普通すぎるし…もっとこうロマンチックな感じが… 「弓夜君」 名前を呼ばれて、思考が中断する。いいとこだったのに。 「妄想はそれぐらいにしてさ」 「手ごろな辞書でひっぱたきますよ」 「君、行ってきなさい」にっこり笑って野比がいった。 「嫌です」あなたの仕事でしょうに 「さて…イの72番」暁の言葉を無視して、野比は話を進め始めた。野比の声に反応して、一冊の本が机の上に跳んでくる。 「この本はなんだか分かるかな?弓矢君」 「『満月十夜』ですよね」この男が十日で書き上げた月に関する全てのことが書かれた本だ。 「その通りだ。これを持って蕎麦屋に行ってきなさい。問題は解決する」 「だからなんで私が…」 「弓矢君、行ってきなさい」有無をいわせぬ口調だった。何もいえなくなる。 「で、きてくれるわけ?」夜見がため息をついて暁を見た。 「弓夜おねえちゃんいこっ!」向日葵が袖を引っ張る。 結局いつもこうなる。いっつもこいつの言うとおり。 「分かりました。行きましょう」別に嫌なわけじゃない。 「野比」 扉の閉まる音を聞いて、私は安心した。 外の世界は締め出され、部屋に私1人になった。 これでいい。 彼女は、外の世界で、学び、悩み、傷ついていけばいい。 私の真似のように感情から逃げ出した世界にいる必要はない。 これでいい。 「暁弓夜」声に出してあの娘の名前を呼んだ。 一冊の薄い本が私の元へ飛んでくる。 真っ白なその本の記念すべき一ページ目。 私は彼女の原稿をゆっくりとその上に落とした。 沈んでいく文字列。浸透する物語。 世界を知れ。 「期待しているよ」そういって本を閉じた。 [[食休み!>稲荷山蕎麦店繁盛記]] 次へ
「暁」 「月から女の子が落ちてきたんだよ」 開口一番の向日葵の言葉に、暁はちょっと戸惑った。さっきまで、あの男のことでばたばた慌ててからかもしれない。 蔵書室として機能している客間で、暁は向日葵と夜見の話を聞いていた。 「知恵を貸してほしいのよ」と今度は夜見が言ってくる。「貴方の先生にね」 「先生ではありません」きっぱりとそこは否定しておく。人のものを勝手に取るようなやつは先生じゃないし、そんなことしなくてもあいつは先生じゃない。 「彼はただの変人です」 「やっぱり変人なんだー」向日葵が嬉しそうにはしゃぐ。 「ね、いったでしょう」夜見も口の端を上げる。 「さっきのは君達か」えらそうに座っている野比が苦笑した。「しかし、その変人に知恵を借りに来るとは君達も十分変だよ」 「変人でも賢ければいいのよ」夜見がぴしゃりという。「月から落ちてきた女の子について。知恵を貸して」 月から落ちてきたオンナノコ。暁は少し想像してみる。 かぐや姫の末裔?地球侵略?いやいやそれじゃ普通すぎるし…もっとこうロマンチックな感じが… 「弓夜君」 名前を呼ばれて、思考が中断する。いいとこだったのに。 「妄想はそれぐらいにしてさ」 「手ごろな辞書でひっぱたきますよ」 「君、行ってきなさい」にっこり笑って野比がいった。 「嫌です」あなたの仕事でしょうに 「さて…イの72番」暁の言葉を無視して、野比は話を進め始めた。野比の声に反応して、一冊の本が机の上に跳んでくる。 「この本はなんだか分かるかな?弓矢君」 「『満月十夜』ですよね」この男が十日で書き上げた月に関する全てのことが書かれた本だ。 「その通りだ。これを持って蕎麦屋に行ってきなさい。問題は解決する」 「だからなんで私が…」 「弓矢君、行ってきなさい」有無をいわせぬ口調だった。何もいえなくなる。 「で、きてくれるわけ?」夜見がため息をついて暁を見た。 「弓夜おねえちゃんいこっ!」向日葵が袖を引っ張る。 結局いつもこうなる。いっつもこいつの言うとおり。 「分かりました。行きましょう」別に嫌なわけじゃない。 「野比」 扉の閉まる音を聞いて、私は安心した。 外の世界は締め出され、部屋に私1人になった。 これでいい。 彼女は、外の世界で、学び、悩み、傷ついていけばいい。 私の真似のように感情から逃げ出した世界にいる必要はない。 これでいい。 「暁弓夜」声に出してあの娘の名前を呼んだ。 一冊の薄い本が私の元へ飛んでくる。 真っ白なその本の記念すべき一ページ目。 私は彼女の原稿をゆっくりとその上に落とした。 沈んでいく文字列。浸透する物語。 世界を知れ。 「期待しているよ」そういって本を閉じた。 [[食休み!>稲荷山蕎麦店繁盛記]] [[次へ>稲荷山蕎麦店繁盛記 四杯目(4)]]

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