稲荷山蕎麦店繁盛記 六杯目(2)


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「夜見」
雪は好きだ。白くて丸くて綺麗で、なんてことはまったくの論外。
そもそもそういうのが好きっていうのは自分らしくないと夜見は思っている。
自分らしさ。あたしらしさ。夜見らしさ。
そういったものを夜見は稲荷山蕎麦で獲得した。
それまでの自分にはそういったものが一切なかった。
ただあるだけの塊にすぎなかった。ただの夜の塊。名前もない。
あたしが雪を好きなのはと夜見は空を仰ぐ。
本当はホコリとかチリとかそういう汚いものなのがくっついているのに、それなのに純白でいようとするところと、そして消えてしまう分かっているのに美しいいようとする、気丈さであった。
もうじき年が明ける。冷たい夜を吸い込んで、夜見は店に戻った。

「向日葵」
向日葵は眠かった。
本来ならばぐっすりと夢の中を浮遊している時間である。
しかしながら、今日は仕事納め、大晦日、無理をして働いていた。
そしてその反動が今まさにやってきたのである。
心地よい膜が自分を覆っていくような感覚を向日葵は味わっていた。
「にゃむ」知らないうちに声がでた。猫に似てると向日葵は思った。
今のすごく猫に似てる。こたつの中で丸くなってる幸せそうな猫に似てる。
ねこか、ねこはいいな、なまねこなまねこ。
ぱしっと戸が開く音が聞こえた。
夜見とともにつめたい空気が一瞬、店に流れてくる
またぱしっと戸が開く音が聞こえた。
あれ、誰だろう。夜見ちゃん、また外にでていったのかな?夜が好きだもんな
「にゃむにゃむ」また声がでた。
あ、今のすごく猫に似てる。こたつの中で丸くなってる…
もう限界であった。

「お菊」
戸が開く音が聞こえた。客?もう年が明けるっていうのに?
まさかと思いながらも、ぐっと腰をあげて、調理場と店の境になっているのれんから、お菊はちょっとだけ顔を覗かせてみる。
上品な服装をした老人の姿が目に入った。店の中を見渡している。
そしてその老人、体がぼんやりと光っている。
働きすぎたかいと目をこすっても、やはり光っている。
「ちょいと」
振り向かずに手招きしてお菊は親方に声をかけた。
「どうした?」
「ちょいとあれみてごらんよ」
「どれ?」
親方ものれんから少しだけ顔をだす。
そして「光ってるな」とポツリといった


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