とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part3

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匿名ユーザー

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──元旦。
「8時ですよ、起きて下さい。当麻さん~」
母親の詩菜に起こされ、上条当麻は目を覚ます。
実家の客間、しかも記憶がないものだから、まるで旅館にいるような気分だ。

「お、明けましておめでとう、当麻」
「明けましておめでとう当麻さん~」
「おめでとうございむぁふ」
初っ端からだらしない挨拶をして席に着く。
すでにおせち料理が並べられ、お雑煮のいい香りが漂っている。

「今年もいい一年でありますように……っと。じゃあ早速いただくとするか」
「あらあら、刀夜さんったら。ああ、取り箸はそっちの『海山』の……それでお願いしますね」
「おー、お雑煮あったまるな。うまいうまい」
のんびりとした空気の中、食事は進む。
「はい当麻さん。筑前煮ですよ」
「お、アレか。どれどれ……」
美味い。本当に美味い。ちょっと当麻が感動していると、
「美琴さんホント料理上手よ。これに関しては私横から口出ししてただけなんだけど」
「ふむ、常盤台中って皆にそんな教育してるのか、当麻?」
「どうだかなあ。頭が良いのは分かってるけど、教育内容までは知らねーな」
「教育というより、あの子の素質だと思うわ。すごく器用な感じがしたわぁ」
「ふーむ。美鈴さんに似てグラマラスな美人に育ちそうだし、あの子はいいぞお当麻」
余計なことを言った刀夜に詩菜の台ふきが飛んでいく。

頭も良く顔も良く料理もでき、凄まじい潜在能力を秘めたスーパーお嬢様。
あれで、短気でわがままで自分勝手ですぐビリビリするのを直せば……と、
上条は考えたところで、「あれ?」と違和感を感じる。
なんだこの違和感は?
「──ところで当麻、昨日の話だが」
刀夜の言葉で我に返る。

「それじゃあ、今日本家に行ってくるが、伝承みたいなものを聞いてくればいいんだな?」
「ああ、ちょっとお願いしたい」
昨日、家に帰ったあと、久々の一家水入らずとあいなったが、過去の思い出話を避ける目的もあり、
上条は一気にこの数カ月の話をしゃべりまくったのだ。
流石にシスターズの話はできず、また美琴の話は向こうで何を話しているか分からないため、
最小限にとどめざるを得なかったが。
インデックスの事、戦争、神の右手関連……このまま行けば自分に何が起こるか分からず、
リスクを承知で両親に知っておいて貰いたかったのだ。

「正直、荒唐無稽と笑い飛ばしたい所だが、お前の目と、体の傷跡を見れば信じざるを得ないな」
「親としては無茶しないでと言いたいですけどね。でも当麻さんは言っても止まらないでしょうし」
「ああ、とりあえず俺は俺の領分でやってるだけだから信用してくれとしか言えない」
「まあ、そんな無茶を経ても、お前は今目の前にいる。やりたいようにやれ」
「ありがとう、父さん、母さん」

話は上条の右手に移り、
「すべてはその右手が絡んでいるというわけだな?」
「そうなんだ。俺はこの右手の意味を知りたい。隔世遺伝なのか何だか分からないけど」
「上条家、もしくは母さんの龍神家に何かヒントがないか、ということか……うーむ」
「上条の本家には元旦、龍神家は2日に行くから、ちょっと聞いてみるわね」
「インデックス君の『神のご加護すら打ち消してるかも』という台詞、お前の不幸体質の理由に合う」
「だろ?両家に何か言い伝えのようなモノがあるのか、藁にもすがりたい気分なんだ」

といった会話を昨日のうちに済ませていた。
ここまで来ると記憶喪失を隠しているのもどうかと思っているが、
これだけは踏ん切りがつかない。
「まあ、話して誰が幸せになるわけでなし」
上条は罪悪感を感じながらも、あえて飲み込む。

「当麻さんは今日は美琴さんと初詣にでもいくのかしら?」
「ああ、あとで連絡とりあってその予定。昼に出かけると思う」
「あらあら、じゃあ私達は先に出るので戸締まりよろしくお願いしますね?当麻さん」
「あいよ」

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

「当麻くん、何て?」
「うん、今一人で家にいるって。お父さんたち親戚回りに行ったって」
美鈴の運転する車の中で、御坂美琴は携帯をしまいながら答えた。
「コブ付きで悪いわねミ・コ・トちゃ~ん」
「いいわよ別に!ただの初詣だし」

大晦日、夜遅くまで母娘は話しまくっていた。
照れながらも、馴れ初めから全部話した美琴はスッキリしていた。
誰かに愚痴も含め話したかったが、学園内では話すわけにいかず、悶々としていたのだ。
ただ、シスターズの件だけは美鈴が怒り狂うのは目にみえているので、
1位とのケンカを上条当麻がおさめてくれた、というマイルドな説明に留めたが。

「しかし……当麻くんはプレイボーイとは違うのは分かるけど……女の敵というか何というか」
「何でもかんでも顔突っ込んで、無理やり解決するのはいいんだけどね」
美琴はブツブツと呟く。
「助けられた方の気持ち放ったらかしだから、もうほんとに……」
(……美琴ちゃんには言えないけど、私も命助けられてるしなあ。結婚してなかったらと思うと……)
「ま、そんな彼を射止めたんだから、シャキっとしなさいな。あっはっはー」
(射止めてない、射止めてない……全部躱されてる……)
口に出しては言えず、美琴は落ち込む。

上条の実家は賃貸マンションだ。
近くまで行くと、すでに外で上条は待っていた。
「明けましておめでとうございますー」
「当麻くん、明けましておめでと~」
「あ、明けましておめでと」
運転席の後部座席から降りてきた美琴は着物姿だった。
上条は固まる。
美琴は『ナントカ言いなさいよ』オーラを出しながら俯いている。
「に、似合ってるぞ。や、やべえ俺こんなカッコじゃ横に立てねえじゃん」
頬を赤らめた美琴は小さく「ありがと。行こ行こ」と言いながら上条を引っ張る。
「ヒューヒュー♪ じゃあ行きますかねー」

(これはヤバイ)
上条は完全に動揺していた。
普段常盤台の校則が厳しく、色付きのリップすらつけていない美琴が着物に合わせて、美鈴の手によってだろう、バッチリメイクを決めている。
(可愛すぎてシャレならん。一緒に歩いたら俺男どもから視殺されるぞこれ)
普段も顔立ちはメイクが必要ないくらいに整っているが、さらにメイクをしたとなればそうなっても仕方がない。バックミラーからは美鈴のニヤニヤした顔が写っている。
「ど~お、感想は?美鈴様の手にかかればこんなもんよ♪」
美琴が上目遣いに上条を見つめる。
「ちょっと待って美琴!上条さんそんな目で見つめられたら……ぬおおおお」
手を顔に当て、視線から外れようと悶える上条であった。

(よっしゃー!)
美琴は上条の反応に大満足モードだった。
「ちょっとは見直した?」
「完敗です、ハイ」
「んっふふ~、よろしい」
上条の逆襲!美琴の左肩に手を置き、顔をのぞき込む。
「!?」
「かわいいぞ、美琴」
「なっ!」 ボンッ!
顔が真っ赤になって言葉にならない。
「やるねえ、女の敵だねえ当麻くん」
「なかなかやるでしょ?いつまでも負けてられませんて」
美琴はプルプル震えていたが、最後にはプイッと表情を見せないように窓の外を眺めだした。

◆         ◇         ◆         ◇         ◆

目的の神社は参拝者でごったがえし、車は渋滞にはまっていた。
「んーと、どうしよっかな」
美鈴はキョロキョロしながら呟いている。
「じゃ、あの赤い塔の下で、待ち合わせってことにしようか」
「?」
「あんたたちはココで降りて。アタシは止めるとこみつけて車置いてくるよ」
「ああ了解。じゃあ美鈴さんよろしくです。美琴行こうか」
「う、うん」

2人は歩道の参拝ルートに乗り、人混みにまぎれてゆっくり歩きだした。
はぐれるとエライことになりそうなので、最初から手をつないでいる。
美琴は意外に平静になっており、自分でも驚いていた。
周りが家族連れやカップルが多く、自然な溶け込み方ができていたせいもあるかもしれない。
むしろ上条の方がアガっていた。
間が持たないので話しかける。
「美鈴さんとはしっかり話せたか?」
「うん、当麻のこと含めあることないこと一杯」
「……。俺の方もこの数カ月のこと話しまくったなー。記憶に触れられたくなかったし」
「! そうよ!」
「ん?」
「昨日アンタのこと説明しててヤバイと思ったのよ。そういやいつまで記憶ないか私知らない!」

「あー……」
「言いにくいとか?」
「いや、えーと。美琴とは俺の記憶では2千円札飲み込まれたときからだ。妹と会った日だな」
「え? つまり、そーなると」
美琴は考えこむ。
「ちょっと待って。アクセラレータと戦った前日じゃないのそれ?」
「そうなるな」
「アンタ初対面で会って次の日に、私を命がけで止めて、アレと命がけの戦いしたの?」
「そうなるな。お前当麻からアンタに戻ってるぞ」
「……」

美琴は凄まじい衝撃を受けていた。
何度も追いかけっこしたり、グラビトン事件などを経験した記憶がない?
その前提なしに私を助けてくれたのか。
いや、ひとまず今は。
せっかく話してくれた上条を気遣うのが先だ。
さりげなく会話を続けなければ。

「うーん、なるほど。それまでの話ってした方がいいのかしら?私の主観になっちゃうけど」
「その主観ってのが一番こえーぞ(笑) そだな、概略でいいよ」
「私が当麻と初めて出会ったのは6月半ばくらい。不良に絡まれていた私を助けようとしたの」
「半年前か。ふーん……ん?助けようとした?」
「……あはは、不良もろとも当麻も電撃あびせて全滅狙いました。そうしたら、当麻は全然効いてないの」
「お前な。なるほど、そこでイマジンブレイカーを知ったんか」
「そういうこと。まあ美琴さんはそれまで全戦全勝だったのに、その男に勝てなくて」

話している間、上条は美琴の手を引きながら目的地へ向かって守りながら誘導している。
「で、まあ1ヶ月ほど出会っては電撃砂鉄剣レールガン諸々全力で行ったけど全部封じられ」
「……上条さん的には、その人かわいそうでしょうがないですよ」
「最後に、『本気でやっていいのか?』と言われ、足がすくんで動けず、心が折れて敗北を知ったの……」
「うーん、俺らしいといえば俺らしいハッタリだなあ」
「で、その数日後にその2千円札の話です。あとグラビトン事件を当麻が止めたってぐらいかな」
「おっけー。サンキュな。事件の方は調べたら記事あるよな?」
「うん、現場写真つきのがある。見れば明らかに当麻が止めたって分かるから」
急に手を強く握られる。
(えっ?)と思ってると。
「ありがとな……わりいな、大事な記憶なくしちまって」
「ッ!! なんで……謝るのよ。誰も悪くないわ」
「……そうだな。よしっ、この話終わり!」
「うんっ!もうすぐ境内だね」

上条は考えていた。
美琴とは幸いにも出会ったばかりと言えるが、それでも明らかに美琴は失った時間に衝撃を受けていた。
これなら両親は?インデックスは?
やはり相当の覚悟が必要だと再認識していた。

美鈴からメールが入り、
『車は止められたが、時間かかりそうだからお祈りおみくじやっときな』
とのことで、2人は先にお祈りを済ますことにした。
上条は賽銭箱に5円玉をぽいっと投げて、お祈りをしている。
(しあわせになりたいです)
美琴は100円玉を投げる。
(こんな素敵な年末年始を迎えさせてくれてありがとうございます。そしてこれからも……)
「……なんで5円なのよ。みみっちくない?」
「いや、ご縁がありますようにと」
「コラーーーー!」

おみくじは、上条は右手で引くか左手で引くか悩んだ挙句、
右手で見事大凶を引き当てる。
「上条さんはね、分かってるんですよ。これで他のひとりの大凶が減ったと思えば」
「……くじの棒はまた中に入れてやり直すんだから、確率かわんないわよ」

そうして、常に周りをにらみつけていた上条のおかげか、美琴に無粋な男の声もかからず、
平和な初詣の時間が過ぎていくのであった。


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