とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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美琴vs幻想龍



 そこは荒れた土地だった。
 肌に食い込むような冷たい風が、彼らの髪を不規則に揺らす。

 戦うしかなかった。

 罵って、傷ついて。勝つのはどちらか一人。
 ――それでも、戦わなければならない。
 守りたいもの。貫きたい意志。
 それら全てを賭けて、

 御坂美琴は上条当麻と戦う。

 もうそれしか手段がなかった。戦うしか、なかった。
「……言っておくが」
 上条が重々しく口を開く。
「お前じゃ俺には勝てない」
「さぁ、どうかしらね」
 美琴は震える声を必死にごまかして虚勢を張った。
 確かに。美琴は上条に勝った事がない。
 しかし、
「こっちも言わせてもらうけど、今日の私は本気よ。本気でアンタを倒しにいくから」
 なぜなら、と美琴は、
「私には……アンタに勝たなきゃならない理由があるの」
 御託はいいと、かつて美琴を地獄から救ってくれた上条当麻は、彼女の決意を切って捨てた。
 ……コイツは気づいていない。
 そう、上条が何も気づいていないから、美琴は他ならぬ上条当麻と戦うしかなかったのだ。
 彼は続ける。
「俺を倒してぇんだろ? ごちゃごちゃ言う暇があったら構えたらどうだ」
 まぁ、と上条は、
「勝つのは俺だ」
 そして宣言する。 

「俺は最強だ。いや、無敵といっても過言じゃない」

「……、」
 言い返せなかった。それはおそらく、事実なのだから。
 それだけ言うともう上条は美琴に言うことはなくなったらしく、

 構えた。

「……っ!」
 ビュー!! と上条に呼応するかのように突風が吹きすさむ。
 怖い。
 しかしだからこそ、美琴はその『無敵』に牙を剥く。
 いつかの、頼るだけで何も出来ない少女としてではなく。怖くても勝利を掴み取るため、まだ見ぬ未来(あした)を掴み取るため。
 御坂美琴は立ち上がった。
 美琴がまるで戦士のように、そして祈るように左腕を前に突き出すと、左腕に固定されている機械がガシャンガシャ、と音を立てながら変形していく。
 上条も美琴に少し遅れて腕をかざした。するとやはり、彼の左腕に固定されている機械も緩い『く』の字のように形を変えた。

 ―――そうして、戦う運命にある二人の少年少女は決闘の宣言をする。
 
「「デュエルッッッ!!」」

 戦いの火蓋が切って落とされた―――ッ!

         ☆

 きっかけ―――というよりは美琴が上条との今の関係に我慢できなくなったのだ。
 ……最近は女の子らしく振舞えている、と美琴は自分でも思う。
 電撃をなるべく抑えて、見返りを求めず勉強を見てあげたり。
 適当な理由を付け貧乏な上条のために弁当を作ってあげたり。
 ちょっと背伸びをして大人っぽい服を着てみたり。
 自然な笑顔で上条にスキンシップしたり。
 とにかく色々なアプローチをした。
 しかし、それで美琴の気持ちに気づけるほど上条は鋭くない。
 関係自体は前より良好になったと思う。ただ、良好になったというだけで、変に仲がいい微妙な距離感が逆にじれったくなっていき、

 ――痺れを切らした美琴は、一気に攻めることにした。

 けれど美琴は美琴で告白のためだけに彼を呼び出す真似なんてできないし、好きだといきなり伝えられるような人間でもない。
 なら、以前の罰ゲームのような感じで上条の一日を予約して。どこか静かな所で二人きりになって。この気持ちを言い出しやすい状況を作りたいと、美琴は考えた。
 自分のタイミングで告白したいので、そのプランでいくなら罰ゲームの主導権はこちらが握っておきたい。
 でも勝負は何にしようかな、と美琴が悩んでいると件の少年・上条当麻が『俺最近カードゲームに嵌ったんだ』的な発言したので、それはなんだろう、と意中の人の趣味をこっそり調査。調べていくうちに美琴もそのゲームに詳しくなっていき(上条にもっと近づきたいという感情が大きい)、罰ゲームを賭けた勝負はこれにしよう――と経過はこんな感じである。
 ちょうどその頃、学園都市ではハイパー3Dプログラム『ソリットビジョンシステム』が完成しており、幸か不幸、そのプログラムの試作品となる『決闘盤』が市場で出回っていた。
 ソリットビジョンシステム、とは簡単に言えば二次元的な物質を三次元的なものに変換する機械の事だ。つまり、決闘盤はカードの絵柄を実体化させるもの。かっこいい絵柄のカードが実体化するのだから、演出のほうは想像以上にすばらしい。
 本来、このシステムは軍事目的――主にコストゼロで敵国に威嚇をするという用途で開発されたものなのだが、どこかのお偉い社長さんがああなってこうなってそうなって……、まぁその辺は察していただきたい。
 いつかの、上条と喧嘩をした橋の下の野原。そこが戦いの舞台だ。

 ※カラフルな髪を持つ主人公の方のカードゲームを参考にしています。ぶっちゃけた話が遊戯O。
  誰にでも分かるように細かく説明を入れてはありますが、やったことない人はよく分からないと思うのでスルー推奨です。

 そのゲームには『カード』といわれるゲームを進行するのに必要なアイテムが存在する。それは大きく分けて三種類の機能を持つもので構成され、プレイヤーは数千と存在するカードの中から四十枚のカードを選び抜き、自分のデッキを作りあげる。
 まずモンスター。ゲームを進行するのにもっとも大切な種類のカードだ。攻撃力と守備力、それに多くは特殊効果を有し、敵モンスター及び敵プレイヤーを攻撃して相手のライフポイントを削る。
 ライフポイント、とはプレイヤーの生命線だ。初期状態で両プレイヤーは8000ポイントのライフを所有し、相手のそれを先にゼロにした方がゲームの勝者である。
 魔法(マジック)と罠(トラップ)、その他のことについては追々説明する。
「先行はくれてやるよ御坂」
 上条はこのゲームを相当気に入っている。美琴も、最近は上条の家で銀髪シスターを含めた三人で勝負したりして(あくまで勉強の息抜きで)よく遊んでいた。ちなみに家の中ではこの『決闘盤』ではなく普通にテーブルや絨毯の上でゲームをしているわけであり、至近距離で目撃してしまう上条の自然な笑顔に常時ドッキドキの美琴であった。
 けれど、その中途半端な関係も、罰ゲームで勝ち取った日に全て終わりにしてみせる。
 しかし、その前に大きな問題が一つ。
「ふ、ふん。強者の余裕ってやつ? さすが、あの超人工知能<デュエルターミナル>を完膚なきまでに倒した男ね」
 超人工知能<デュエルターミナル>。それは、無人型対戦カードゲームAIマーシンの事であり、美琴を散々苦しめたあの『樹形図の設計者<ツリーダイアグラム>』の思考パターンを完全にインプットし開発された、一応娯楽物である。
 だが娯楽物というのにはあまりにもAIの能力値が高すぎて、未だかつてそのAIに勝てた者はいなかった。
『樹形図の設計者の思考回路をモチーフしています』、と冷たく表記されたその機械を見た瞬間、美琴は涙が出るほどゾッとしたのだがそこに上条当麻が現れ、
『お、やっと見つけた。このシリーズどこにも配置されてないから焦ったぜ。ってあれ、御坂じゃん? お前もこれやんの? わりぃけど先にやらせてもらうぜ。こっちはかれこれ十件くらい回ってんだからそんくらいいいだろ?』
 と一〇〇円玉を一枚投入したところ、
『よっわーっ! 何これよっわー!? 明らかふざけてんだろこれは!? もうちょっと手の込んだ設定にしやがれクソK●NAMI!』
 いつもの『不幸だ』は一体どこへやら。無敵と謳われたデュエルターミナルをたったの2ターンで倒してしまったのである。何故か上条はこのカードゲームに関してはかなり運がいいのだ。ちなみにその時、『やっぱりコイツは強いなぁ……』と美琴が感動交じりに胸をトキメかせたのは彼女だけの秘密である。
 と、いう過去の持ち主が相手なので、ここはどんな小さなアドバンテージでも確保しておきたい。
「まぁ……ここは素直にもらっておくわ、私の先行」
 各プレイヤーは自分のターンの初めにデッキの上からカードを1枚引く。初期状態でプレイヤーが持っている手札の枚数は5枚だ。
 決闘盤を使って勝負するのはこれが初めてなので地味に緊張している美琴は、少し恥ずかしいが『ドロー』とはっきり言うと決闘盤に固定されている自分のデッキの上からカードを引く。

 美琴 手札 6枚
     場   なし

 上条 手札 5枚
     場   なし

「私は電磁・カタパルスを召喚。守備表示」
 美琴がカードを決闘盤に置くと、ビューンと光の渦が美琴の前に出現し、機械で出来た亀のような生き物が召喚された。この召喚を通常召喚といい、1ターンに一度までプレイヤーはこれを行うことが出来る。ただし、先行を取ったプレイヤーは最初のターンに攻撃ができない。
「カードを1枚伏せる。これで私はターン終了」
 今美琴が伏せたカードは罠(トラップ)カードだ。魔法、罠カードは1ターンに何度でも場に伏せることが出来る。ただし、カードを場に出せるのは自分のターンのみで、各プレイヤーが場に出せるモンスターは5体まで、魔法・罠は合計で5枚までが最大だ。ちなみに『伏せた』状態は発動していることにはならないので、この場合は何も起こらない。
 一応、上条もこの方式での勝負は初めてだ。美琴との勝負というより、自分のモンスターが実体化する事を楽しみにしていたっぽい彼は少しの間を空けて、
「いくぜ、俺のターン、ドロー! 俺はお告げ人―逆アキュラスを召喚。攻撃表示!」

 美琴 手札 4枚 
     場  モンスター 電磁・カタパルス(守備力1800)
         伏せカード 1枚

 上条 手札 5枚
     場  モンスター お告げ人―逆アキュラス(攻撃力1900)
         伏せカード なし

 上条が決闘盤にカードを叩きつけると、光の渦と共に、不気味な、血の付着している包帯を体中に巻きつけた悪魔みたいなモンスターがグェエエエ! と鳴きながら現れた。
 うわー……と上条のモンスターを初めて3Dで見た美琴は眼を細め、
「予想はしてたけど……、実体化したアンタのモンスターは想像以上にグロいわね……。つか、前から思ってたんだけどなんでそういうのが好きなわけ? ゲームでくらい天使とか縁起のいいもの使えないの? だから不幸なんじゃない?」
「う、うるせぇな。せっかくかっこよく出したのに」
 彼は彼で細かな所に気を配っているらしく、美琴と論点がかみ合わない。
「続けるぞ、お告げ人―逆アキュラスで電磁・カタパルスを攻撃!」

 電磁・カタパルス       守備力1800
      vs
 お告げ人―逆アキュラス  攻撃力1900

 攻撃。それはモンスターが相手モンスターや相手プレイヤー自身を攻撃することである。モンスター同士の戦闘では数値の高いほうが勝利し、モンスターとのモンスターとの数値の差分、戦闘に負けた方のプレイヤーはライフポイント減少させる。これとは別に、モンスターがプレイヤー自体を攻撃することを直接攻撃といい、攻撃されたプレイヤーはそのモンスターの攻撃力分のダメージをそのまま減らす。
 上条のモンスターが不気味な動きで美琴のモンスターに近づくと、何かをこ細く囁いた。
 すると瞬間、美琴のモンスターはバリンッ!! とビルのガラスが一斉に割れたかのような音と共に粉々に散り、破壊された。
 お告げ人―逆アキュラスの攻撃力は1900で電磁カタパルの守備力は1800だ。特に何の効果も有していない美琴のモンスターに、破壊を間逃れるすべはない。ただし、美琴のモンスターは守備表示だったため、互いのモンスターの能力値の差分100は美琴のライフから削られない。
 破壊された電磁カタパルスは、破壊されたカード及び使用済みのカードなどを置く『墓地』という所に送られ、特別な蘇生カードがなければ再利用することは出来ない。
「ターンエンドだ」
 いきなり1900のモンスターか、と美琴は内心愚痴る。モンスターにはレベルという概念が存在し、1から4までは何のコストもなく召喚できるが、5から6だとモンスター1体の生贄が、7以上だとモンスター2体の生贄が必要になる。上条のモンスター『逆アキュラス』はレベル4。通常、レベル4のモンスターの攻撃力の平均は1500程度なので、逆アキュラスは低級モンスターの中では最高レベルの攻撃力を持つモンスターだった。
「私のターン」

 美琴 手札 5枚
     場   モンスター なし
         伏せカード 1枚

 上条 手札 5枚
     場   モンスター お告げ人―逆アキュラス(攻撃力1900)
         伏せカード なし

「私は魔法カード『ニクロアウト』を発動。これで私は手札からカードを1枚捨ててデッキからカードを1枚引くことが出来る」
 魔法カード。それにも様々な種類のものが存在するが、美琴が使用したのは通常魔法といわれるものだ。特に発動条件が記載されていなければ、問題なく発動することが出来る。ただし、それは自分のターンに限っての話で、速攻魔法と呼ばれる魔法カードを除けば魔法カードは相手のターンに使用することができない。1ターンに何度でも使用できるのが最大の特徴だ。
 しかし、上条が軽く笑い、
「お告げ人―逆アキュラスの効果。相手がカードを使用した時、発動されたカードと同じ種類のカードを手札から1枚墓地に送ることで、そのカードの発動と効果を無効にする」
 同じカードは3枚までしかデッキに入れられない。が、特別な例として、強力すぎるカードには規制がかかり、2枚しか入れられないカードを準制限カード、1枚しか入れられないカードを制限カード、1枚も入れられないカードを禁止カードと呼ぶ。
 もちろん、攻撃力が1900もある上、無効効果も備えている上条のモンスター『お告げ人―逆アキュラス』は制限カードだ。
 バリン!! と美琴の魔法が不発に終わった。
「なら私はカードを1枚伏せて、『泉の精霊』を守備表示で召喚。これでターンエンド」
 美琴が自分のターンの終了を宣言するより早く、背中に白い翼を生やした十才くらいの可愛らしい女の子がニュパー、とこれまた可愛らしい声と共に出現した。
「俺のターン、ドロー」


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