とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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上条さん家!



おい、聞いてくれよ!
何をだい?
俺、見ちまったんだよ。
何をだよ?
この間さ…、すっげえ喧嘩があったんだよ!
へぇ…どこで?
そこの河原でよ。
ほぉー、それは昼間かい?
いいや、あれはー夕飯時だな…もう辺りは暗くなり始めてたなぁ―――――

「――…あーいたいた、あそこ!…止めて止めて!」
 とある一人の少女が、ポツリと呟いた。
双眼鏡を覗き込んで、何かを探していたらしい。
探し物を発見し、即座に前にいる少年に声を掛ける。
「……はいはい、まったく、人使いの荒い…」
 そう言って、とある一人の少年は自転車をこぐのを止める。
止まったと同時に少女は立ち乗りを止め、ピョンッと地面に降り立った。
「何か言った?」
 少女は振り向いて、少年を睨み付ける。
「いえ、ナンデモゴザイマセン」
 と少年はかぶりを振った。
「そ、ならいいけど…」
 少女はそれ以上は何も言わず、双眼鏡を少年に手渡す――『見ろ』と言う事らしい。
「どう思う?」
「どう思うって…うーん、上空に大きな雷雲が集まりつつある、ね…」
 少女に聞かれて、正直な意見を述べる。
「………はぁ、やっぱ見間違いじゃなかったかぁ」
「うん、見間違いじゃないね…あれは」

 否定したい気持ちは、分からないでもない。

「ねぇ、今月に入って何回目だっけ?」
 ふと思い出したように、少女は少年に尋ねた。
「えーっと…たしか、5回目じゃない?」
 記憶を辿りながら、指を折って数えていく…うん、5回だと少年は答えた。
「じゃあ…そのうち停電の被害が出たのは?」
「…今月はまだ無いと思う」
「はぁ…それじゃあ…あれは何?」
「……あー、変電所だね」
 少女の指差す方角を見れば、そこにあるのは変電所。
この後起こる事を考えれば、停電は免れないなと少年は思った。
「ったく…何してんだろうね、『あの人達』は…」
 やれやれといった様子の少女に、少年はやや呆れたように答える。
「『あの人達』って仮にも僕らの両親だよ…そういう言い方はよくないと思うけど?」
「だからこそよ、っつーかアンタだって…『仮』にもなんて、それだって失礼じゃない?」
「…それもそうだね」
「…でしょ?」
 互いに言っていることに大差はない、それよりも問題は…。
「で、姉さんどうするの?」
「どうするって…うぅ~…止めないとダメだよ、…ね?」
 少年に姉さんと呼ばれた少女は、頭を抱えて唸った。
「まぁ…そりゃ、ね、止めないと…僕らが怒られる、始末書付きで」
 観念するしかないよ姉さん、と少年は告げた。
「じゃ、弟よ。アンタに任せたわ」
 と、姉がとんでもないことを言ってきた為、弟と呼ばれた少年は、必死に抗議する。
「ちょっ、そりゃないよ!この間だってっ…それに今日は絶対危険だろっ!」
「私だって、今日だけは絶対にイヤ!電撃ならともかくよ?…雷なんて避けれるかっ!」
「それは僕も同じだろ!…父さんならともかくさっ!」

 例えるなら地雷があると分かっている地帯に、目隠しをして進むようなもの。それはとても危険な行為だ、というか死ぬ。
だがしかし、2人の父親に至っては――地雷があると知らずに、目隠しで進んで無事に済んでしまう――そういう稀有な存在である。
とはいえ、このまま手をこまねいていたら確実にやってくる未来。それは何とかして防がなければならない。

 危険でもやるしかないのだ。

少年は問題を早急に解決するために、姉に提案する事にした。
「姉さん…僕より1分早く生まれたんだし、ここは年功序列ってことでどうかな?」
 要するに先に生まれた姉こそ、ここぞという時は長女の勤めを果たすべき――両親を止めに行けという提案だ。
「年齢は変わらないじゃない。いい?…ここは男を見せるところよ!」
 そもそも、か弱い乙女に何をさせる気?と少女は言い切った。
どこがか弱いんだよ、と少年は思った。思ったが口にはしない。
その代わり、提案の上に別の条件を付け加え、姉に伝える。
「……じゃあ、僕のことをこれからは『兄さん』って呼んでくれるならさ…」
 止めに行ってもいいよ、と弟である少年は言う。
そうきたかと、姉である少女はしばらく沈黙し…答えた。
「むぅ……そこは譲れないわ」

 となると話は平行線だ。
じゃあ、どうすんの?どうすんだよ?と2人の姉弟は互いに睨み合う。

「「……………、」」
 
 その時、ゴロゴロと嫌な音が聞こえてきた。
「って、あまり時間はなさそうね」
「そうだね…」

 2人は雷雲を見やり、ここは妥協する事にした。

「「じゃ、今回は2人で…」」
 どちらが止めに行くかなどど、考えている時間はなさそうだし、これで話は終わりだ。
決まったら決まったで、早速行動を開始する。腕章をしっかり止めて、周辺に人がいないかだけチェックする。

 人がいた。
あちゃーと少女は額に手をやって呟いた。

「野次馬か…面倒ね」
「まぁまぁ…ここにいられたら危ないし、それにそれが僕らの務めだろ?」
 腕章を姉に見せながら少年は告げた。
「…まーそうよね…しゃーないか、しゃーないよね」

 喧嘩やちょっとしたイベントがあると、野次馬というのが必ず現れる。
本当に面倒だ。厄介なことに今回は、ガラの悪そうな連中が、近くで見物ときたもんだ。

 少女は大きな声で告げた。
「風紀委員です、この場は危険ですから、建物の中か、なるべく高いものがある所に移動していただけますか?」

 この手の連中は姉に任せるのがよいため、少年は黙って成り行きを見守る。

「あァ?これからいいとこだってのによォ…誰だよ、通報したヤツはァ?!」
 おそらくこの群れのリーダなのだろう。声を張り上げて、周りに尋ねる。全員が首を横に振った。
「何かの間違いじゃねえの?ハハー、風紀委員さんよォ!」
 それを見て、リーダの男は一笑する。
「…別に通報で来たワケじゃないですから」
「はァ?通報じゃなけりゃ…」
 
 訝しげに眉をひそめる男の質問に答える必要も、構っている時間もない。

「ああ、もう…いいから、さっさとここから移動しなさい!下手したら死ぬわよ?」
「はァ?何言ってんだ?死ぬって…たかだか能力者の喧嘩で…そんな大げさだろ?」
 
 よもや自分たちのいる場所にまで被害が及ぶかもなどと、思いもしないから、そういう口が叩けるのだと少女は思う。

「はぁ…いい?あそこで喧…んー、まぁ喧嘩でいいか。喧嘩しているのは、今もなおその名を轟かせる――超能力者、『超電磁砲』なのよ?」
 流石に、こう言えばわかるだろう。案の定、男は驚いた顔をして口を開いた。
「『レ、超電磁砲』だって……?!じ、じゃあ、対等に戦ってるあのツンツン野郎は一体? 」
「……さぁてね、それより分かったでしょ?こっちは時間が無いのよ」
 喋るつもりも、大体話すことなど無い。さっさと動いてくれる?と男に向って少女は告げる。

「それなら…なおのこと見ねェとな…」
「はぁ?!今の話…聞いてたでしょ?」

 こいつバカなのかと一瞬思う…、がそれもその後の発言でどうでも良くなった。

「だってよォ、こんな面白い喧嘩、なかなか見れねえだろ?」
「…あーえっと、見世物じゃないんですから…」

 物分りの悪いの男は嫌いだ。仕方ない…言っても分からない連中には――と、少女は拳を硬く握りしめる。

「それによォ、電撃だっけか?それを喰らってもあの野郎は、平気そうだぜ?っつーことはよ…」
「……なに?」
「『超電磁砲』も大したことなッ…」

 聞き捨てなら無い発言に。
少女は、もう少し我慢するつもりだったが、考えるより先に手が出てしまっていた。

「ぐぼぅ?!」
 と男は言い終わる前に、地面に倒れた。
一人様子を見ていた少年は、ああやってしまったかと、姉と周りの連中を見やる。

「て、てめェ!」
「何しやがる!」

 姉は、一撃で仕留めたのだろう。その事でかえって周りが騒ぎ出す。
加勢すべきだろうか一瞬迷う…でもかえって邪魔になるかもしれない。
それにたぶん、すぐに片付くだろうと少年は考える。

 何故なら…そんじょそこらの可憐な少女とはワケが違う。

「あ、ごめんなさい、うっかり手が…ちょろっと滑ったわー」
 何てことは無い、ただ手が滑っただけと――少女は、しれっと告げた。
その発言に、リーダーを失った連中は、今にも飛び掛りそうな勢いだ。
「そうそう、始める前に言っておくけど、私…嫌いな事が3つあるのよね――」
 と言い終わる前に、1人の男が飛び掛かった。
最初に出たくて堪らない雰囲気を出していた男を、もちろん見過ごしているはずも無く、結果はもちろん。
「は?何言ってやがる、てめェから始めたっーーん?ーーッぐは?!」
 振りかぶった男の拳は、少女には届かない。
半身をずらし難なく避け、足をかける。その腕を掴み、そして逆にその力を利用し地面へと叩きつける。
「――まず1つ目は、人の話を聞かない事…」
 姉の流れるような動作に、さすがだなと少年は感心する。
「この野郎!!」
「ヤロウじゃないわよ…!」
 と続けざまに向ってきた相手に、腰を深く落として、突き出す――正拳突き。ズドンと一発、一撃必殺。
「がはぁッ!」
「…2つ目、人の話を聞いても分かろうとしないバカね」 
 それは嫌いなことじゃねーと突っ込みながら、地面に頭から突っ込む2人目の男。

 中学生ぐらいに見える少女からは想像もできないだろう。
――その破壊力、その動き、その外見に油断して――
少女の周りを囲っていた連中は、じりじりと後ずさり始める。

「最後に、3つ目…『この場にいた事』を、…全員悔やめ」
 凄んで、みんなブチのめすよ、この野郎と――少女は笑顔で告げた。

 それも嫌いなことじゃねえーと全員が思ったが突っ込めない。

「「「ひぃいいー!!!」」」

 やられたのを除いて、生き残ってる連中は、慌てて散り散りに逃げ出していく。

 逃げ出した連中を見送った少女は、
「何だ、全然じゃん、あーあ、どっかに骨のあるヤツいないかなー」
 これじゃあ、準備運動にもなりもしないとぼやいた。
「そりゃ、まぁ…姉さん強すぎだから…ま、なかなかいないと思うよ、姉さんに敵う人」
 姉の発言に、少年は思わず突っ込んだ。
「そ、そう?別に、ちょっと趣味が空手ってだけでさー何でそう思うの?」
「何でって、その上に護身術やら合気道やら、姉さんは格闘マニアだから…」
「か、格闘マニアじゃない!か、身体を動かすのが好きなだけよ!」
「へーへ、そうですか…」
「なによ…その言い方」
 と姉弟は互いに睨み合う。
するとまた上空の方でゴロゴロと音が響いてくる。
「え、いや別に……ってまずいよ!」
 音を聞いてハッとし、別の意味で2人は顔を見合わせた。
「あ、ほんとだ!…こうしてる場合じゃなかったわね」
 慌てて駆け出そうとして、少年は気付いた。
「っと、姉さん、こいつらどうすんの?」
「こいつらって?」
「姉さんが昏倒させちゃった方々って言えばいいの?」
「…転がしとけばいいんじゃない?」
 ほら、寝転がってるし雷が万が一落ちたとしても、高さは無いから
当たらないでしょう?と少女は無責任な発言をして、足早に両親の元へと行こうとする。

 まぁ、そっか。余計な時間を食ったし、急ぐ気持ちも分かるから、いいか放っておけば。

「どっちにしても始末書もんだね…」
 
 結局、あの連中は放置して、現場に向かう事にした姉弟。
よく知る叫び声と、怒号が聞こえ、そろそろ目的地が近いことを2人に知らせる。 
そんな緊張というのか、ある意味慣れた空気の中で、少年は姉に話し掛けた。

「う…いいじゃない!っつーかこれで雷落ちたらもっと増えるし…それだけは勘弁だわ」
「たしかに…はぁー」
「はぁーこんなことするために風紀委員になったんじゃないんだけどなー」

 いよいよ突入間近。2人は、同時にため息をついた。
こちらから目視で、確認できるほど近づいてはいるけれども
両親は互いの事しか目に入っておらず、全く自分たちに気付いてないようだ。

「…しょーがないだろ、僕らの両親は有名すぎて、そのせいと言えばいいのか、そのお蔭と言うのか、停電の件は任されてるんだし」
「いやよ!私達は、夫婦喧嘩につき合わされてるだけなのよ?!いい加減にしてもらわないと!」
「…まぁ…だからしょーがないって…」
 僕はもう諦めてるよと、少年は姉に告げる。
「しょーがなくない!」
 納得できるものかと、少女は弟に返した。 

 停電による被害は、色んなところに及ぶ。
それもあり、なるべく変電所等が近い場所で喧嘩はしないと約束をしたのにも拘らず、この有様だ。
聞くところによれば、喧嘩がヒートアップすると追いかけっこが始まり、そうしているうちに、気付けば昔から
の慣れた道を辿るそうだ――こちらかすれば何処かへと行方をくらますその度に追いかける羽目に合う。

 その場所は様々。
今回は、河原には違いないが、変電所がそう遠くない場所にある。
両親は気付いているだろうか…?いや、おそらく気付いてないだろう。
今月は是非とも無しで達成したい。始末書は書きたくない。その思いで姉弟は一致団結し、この場にいるのだ。

「ところでさ、今回の夫婦喧嘩の原因は何だと思う?」
 そう言えばと、少年は姉に尋ねてみる。
「おそらくまたフラグ立てちゃったんじゃない?女の人の」
 いつものパターンじゃない?と少女は弟に答える。
「えぇーそれで雷までいきますー?」
 いつものパターンにしては、雷なんて怒りMAXじゃありませんか?と少年は当然の疑問を、姉に投げかけた。
「性質が悪かったとか…父さんが宥めるのに失敗したとか?んーあとは積もりに積もった何かとか…」
 弟の言う事も一理あると、少女は思考を巡らせ、思いついた可能性をいくつか挙げる。
「じゃ、僕は宥めるのに失敗に一票」
「あ、ずるーい、私もそれにしようと思ったのにな…」
「早い者勝ちー」
 勝ち誇ったように、告げる弟。
「じゃあ私はそれ以外に一票」
 それならばと、少女は選択を広げて答えた。
「あのー…それって卑怯じゃないですか?」
「べっつにー、そういうことだから!合ってたほうが、新しくできたクレープ屋で、クレープ奢るでOK?」
「なんだか、麻美ねえの方が有利だよな、それってさ」
「なにがよー眞琴ちゃん!」
「ちゃん付けはやめぃ!」
「いいじゃんよー弟のくせにー生意気ー」
「1分しか違わないだろ!それに大体、そのクレープ屋のクレープが目的じゃないだろ?そうだろ?姉さんっ!」
「…そ、そんなことは」
「知ってるぞー!オープン記念の期間中に付いてくるピヨ太が目当てなんだろー!」
「う、ううううるさい!うるさいうるさーーい!」

 ついうっかりいつもの調子、ぎゃいぎゃい騒いで近づいたら、
そんな2人に気付いたのか、母親である彼女は、旦那に当てる雷演算一歩手間で踏みとどまった。


「あら、アンタたち何してんの?」
 きょとんと一言、言い放つ。

「「……それはこっちのセリフ!」」
 


(終)


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