とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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風邪の美琴と看病の上条



 インデックスは小萌先生のアパートで行われている焼肉パーティーを姫神秋沙と楽しむ中、一人男子寮の自分の部屋に取り残された上条当麻は、一人寂しくご飯と具なし味噌汁だけの寂しい夕食をとっていた。
 本当なら味噌汁の具とおかずが欲しい場面であるが、今月分の残金と相談した結果、来月分の奨学金をもらえるまで間はそんな贅沢は夢そのものであった。
「今月が終わるまで一週間を切ったとはいえ、ご飯と味噌汁だけじゃインデックスの腹は満たされねえよな。となると、また小萌先生のとこに預かってもらうか…」
 そうする以外インデックスの空腹を満たす方法がない。帰ってきたらそのことをインデックスに伝えないとなと思いながら、上条は少ない夕食を出来る限り味わって食べていた。
 その時、上条の夕食の時間を邪魔するかのようにインターフォンの音が鳴った。
「こんな夜遅くに誰だ?」
 心当たりがあるとすれば、隣の土御門兄妹か魔術関係者ぐらいである。ちなみによくある宅配便なんてものは、貧乏学生の上条には無縁のものである。
 予想を立てていても仕方ないしさっさと出るかと立ち上がり、はいはい今で出まーすとインターフォンを鳴らした相手に聞こえるようにわざと大きな声で返事をして玄関へと向かった。
 そして、ドアを開けてみるとそこにいたのは予想外の人物だった。
「み、みさか……姉? それとも妹?」
「姉よ…姉」
 そう言ってやってきたのは、上条の部屋を知るはずがない御坂姉の方。つまり御坂美琴であった。
 これには不幸と驚きの日々をほぼ毎日経験している上条ですら驚きを隠せず、え!? とつい声を上げてしまった。
「お前にここの場所を教えた覚えがねえぞ」
「知ってる。だから……調べて、ごほごほ」
「大丈夫か? それに顔も赤いし、風邪か?」
 いつもなら違うわよという場面であるが、今回は事情があったので違った。美琴はぅんと小さく頷いて、つらそうな声で風邪よと言った。
「やっぱ風邪…って! なんで風邪引いてるのに俺のところに来るんだ!?」
「そう…それよ」
「いやそう、それよと返されても………なあ御坂、一体これはどう言うことでせうか?」
「風邪だから…アンタのところに来たのよ」
「………はい?」
 さきほどから見えないことばかり言う美琴に、一体何があって俺のところに来たんだと上条は思うしかなかった。
「はぁ~。それで白井がいるから俺のところに来たと」
「そうよ。さっきからそうい、ごほごほ」
 とりあえず病人を外に出しっぱなしにするのも悪かったので、部屋に招きいれた上条はここまで来たことの経緯を美琴の口から説明してもらった。
 なんでも、寮にいると白井が看病と言って弱っている美琴を狙っていつも以上に過剰なスキンシップをしかけてきて寮のベットではろくに休むことも出来ない。それで避難のためにここにやってきたというのがここへ来て経緯なようだ。
「あ、おいおい。風邪引いてるんなら、寝てろって。ほら、ベット使っていいから」
「え……? あ、うん………あり、がと」
 理由はどうあれ、ここまでやってきた病人を自分の都合で返すことなどできない。ましてや、自分を頼ってきたのなら尚更である。
 ここではインデックスのこともあるのだが、それはとりあえず今は置いておくとし、今すべきことは病人である美琴をインデックスが使っているベットに寝かせるのが先であった。
「こ、これって…アンタの、ベット…よね?」
「あ、ああ。それが、どうかしたか?」
「ううん。ちょっと…確認よ」
 平然に答えた上条であるが、内心ではインデックスのことがばれたかとドキッとした瞬間であった。だが美琴はそれに納得したのか、あいつのベットと言いながらゆっくりと寝転がった。
「そういえば夕飯は食ったか?」
「い、いちおう…たべた…けど」
 と言うが、言った後にぐ~となったお決まりのお腹の音は隠せなかった。
 美琴は不意に鳴った自分のお腹の音に真っ赤になり自分のお腹を押さえて違うわよと上条に言うが、さすがの上条も今の音でお腹が空いていたことぐらい理解できた。
「はぁ~しゃーねえな。お粥、作ってやる」
「だ、だからお腹…」
「腹鳴らしてるやつが何言ってるんだ。ほれ、病人なら素直に休んでろ」
 上条は幻想殺しを持つ右手で美琴の頭を撫でてやる。落ち着いて待ってろという意味で撫でたのだが、美琴には別の意味になってしまったらしく、
「ふにゃー」
「あ……寝ちまった」
 落ち着く以上に寝てしまったらしい。だがどちらにせよ落ち着きはしたので、上条は右手を美琴から引っ込めようとゆっくりと離す。が、
「うおおぉぉぉぉぉ!!!! 風邪だと漏電するのかよ!!??」
 しかし寝ているのと同時に漏電までしていた。
 上条は予想外の出来事だったので、大慌てで美琴の身体のどこかに触れて漏電を防いだ。そのおかげか、布団が少しこげたぐらいで周りへの被害はほぼ皆無であった。
「ったく。厄介ことしやがるな、こいつ。これじゃあ起きるまで触りっぱなしじゃねえかよ」
 これが起きていれば手のうちようはあるが、寝ているのなら起きるまで右手で触れているしか漏電の防ぎようがない。それまでお粥を作るどころか、食べている途中の夕食にも手をつけることが出来ない。
 上条は食べ途中の夕食を見ながら、後で温めるかとすでに冷め切っているであろうご飯と味噌汁を見てため息をついた。
 そして夕食へ向けていた視線を美琴へ戻すと、慌てて触れた右手が美琴の胸と首の間辺りにおいてあったことに気づいた。
「……………勘違い…されるよな?」
 漏電していたから仕方なくなんて言っても、この手の位置だと別のことを勘違いされてもおかしくない。だからと言って離すとその隙にビリっと来る可能性がある。
 上条はこれをどうしようか少し考え、とりあえず勘違いされない場所に手を動かすべきだろうと今の位置から少しずつ肩へと右手をずらしていく。
 この光景を美琴だけではなく、ちょうど帰ってくるかもしれない居候のインデックスに見られたりしたらどうなるか。上条はありうるかもしれない不幸を考えながら、見られた時の結末に怯えつつゆっくりと右手を動かしていく。
 時折、んん…と小さな声をあげたりするたびに、ばれたと思いドキッとしてしまう場面が何度かあったが、なんとか右手は美琴の方に移動させることが出来た。
「はぁ~。これだけで精神が削られた……不幸だ」
 見られ方によっては襲おうとしたように見られたかもしれないが、幸運にも目撃者はいなかった。それでも上条は自分がそうしてしまったかのような錯覚に陥ってしまい、自然に罪悪感を感じてしまった。
「謝っても意味ねえし………仕方ねえ。適当にじゃなくてちゃんと面倒を見てやるか」
 元々そうする気であったが、確認をするために上条は自分にそう言い聞かせた。
「出来たぞ。御坂の口にあうかはわからねえけど食えなくはないはずだと思うぞ」
「うん……ありがとう」
 あれから上条は起きるまでの間、ずっと美琴の肩に右手を置いていた。
 時間にしては十分足らずのことであったが、インデックスがいつ帰ってくるかわからない現状に怯えていた上条からすれば、その間は十分ではなく一時間以上もの時間が流れたかのように感じられてしまうほど、追い詰められていた。
 結局、美琴が起きる間は何もなく、美琴が目を覚ましても特に何もなかったのが救いであったが、自分で自分にプレッシャーをかけ続けてしまったことには自業自得、不幸としか言うしかなかった。
 それから上条は起きた美琴の額に水で濡らしたタオルをかけてやり、お粥が出来るまで待ってろと言って台所で残り少ないお米を美琴のお粥分に使った。
 これでさらに貧乏な夕食をしばらく続けることになってしまうが、考えるとネガティブになって心配させてしまうのでなるべく考えないようして、上条は出来たお粥を食べやすいように茶碗に移す。
 それとスプーンと冷たい水も一緒に持っていってあげて、水は零すかもしれないので机の上において茶碗とスプーンは美琴に渡した。
「具があったほうがいいと思ったけど、今は何もなくてな」
「う、ん…気に、しないで」
 美琴は自分の額に置かれたタオルを枕の横に置き、渡された茶碗を受け取りながら小さな声で言った。
 やっぱり鼻声だから喉が痛いのか。上条は鼻声で話す美琴の声を聞いてそう思った。
「食べれるか? 無理だったら、食わせてやるけど」
「~~~!!!?? ら、らいひょうぶ! た、たべれる!!」
 慌てながら言うと美琴は一気に食べようとがっつくが、お粥はまだできたてほやほやだ。そんな状態のお粥をがっつこうにも熱くて食べれるわけもなく、一口入れただけで熱さにやられ悶えてしまった。
 上条はお粥と一緒に持ってきた水を渡すと、美琴は一気に水を飲み熱さを水の冷たさで打ち消した。
「はぁ…はぁ…熱かった」
「ったく。そんながっつかなくても取らねえって。ほれ、貸してみ」
 美琴のがっつきに呆れながら上条は美琴の持っている茶碗とスプーンを奪うと、食べさせてやるよと言って一口分すくってふーふーと冷ました。
「え……? あ、……ええ!!??」
「? 別にこれぐらいのこと、おかしいことじゃねえだろう。食べさせてもらうぐらい経験あるだろ?」
「あ、あるけどさ~それとこれとは色々違うわよ」
「はぁ~。がっついたやつが言うことかよ。文句は後でいくらでも聞いてやるから、今は黙って俺を頼れ。それに今のお前は病人なんだし、頼ってここに来たんだろ? なら素直に頼れよ」
 上条はそう言ってスプーンを美琴の口元へ近づける。
 それで観念したらしく、美琴は小さくあーんと口を開けて上条に食べさせて欲しいと態度で頼ったことを示した。
 上条は冷まさしたお粥を美琴の口に運んでやると、美琴はあむと冷ましたお粥を美味しそうに食べた。
「あまり作らないから自信ないけど、一応食べれるか?」
「うん。お世辞抜きで、美味しい、わよ」
「そりゃあよかった。てっきり不味いとか言われるかと思った」
 お嬢様の口に合うんだなと上条は自分の腕前が美琴に通じることに安堵しながら、ふーふーと次の分を冷ます。それをほれと言って美琴の口元に運ぶと、今度も素直に冷ましたお粥を食べた。
 その様はプライドが高く感情の変化が激しい普段の美琴とは違って、小さな一人の女の子が風邪を引いているだけのただただ普通の様であった。
「いつもこれぐらいおしとやかで素直だったら、上条さんもこんな苦労しないのにな」
 何かあるたびにビリビリしてくる御坂が、つもこれだとな~と、上条は理想的な美琴像を想像しながら小さくため息をつくと、
「うるさいわね………………素直に関しては、私が一番わかってるわよ」
 俯きながら美琴は小さく呟くのだった。
 少しの間寝て、作ったお粥を食べ、部屋の引き出しにあったカエル顔の医師オススメの風邪薬を飲ませた。
 それだけで美琴はいつもの調子に元気を取り戻したように見える。もっとも、まだ咳をしたり声は鼻声であるが、体調は来た時よりも確実によくはなっていた。
 寮だと白井のおかげでゆっくり休むことが出来なかったと言うのだから、ここに来て体調がよくなったのならよかったことなのだなと、他人事のように上条は思った。
 そうして時間が流れ………そろそろ帰らないといけない時間帯になっていた。
「御坂、泊めてやりたいのはやまやまだけど、上条さんにも出来ない都合がありまして」
 美琴はここにインデックスが居候で住んでいることを知らない。そのインデックスは焼肉パーティーを終え、そろそろ帰って来てもおかしくなかった。
 看病に夢中になってそのことをすっかり忘れていた上条は、時計のチラチラ見ながら美琴のそのように説明をすると、わかってるわよと美琴も上条の見ている時計をチラッと見て言った。
「元々泊めてもらうために来たわけじゃないわよ。それに帰らないと寮監に怒られるし、黒子にも迷惑をかけるわ」
「そうか。だったら送っててやるよ。それぐらいは俺にも出来るからな」
「え…!!?? じゃ、じゃあ……おねがい…しよう、かしら」
 美琴は上条の顔色を伺いながら、小さな声で言った。
 それに上条はそうと決まればすぐに行くかと言って、インデックスが帰ってこない今の内に美琴を返そうと焦りながらマフラーを取った。
「迷惑、かけたわよね? ごめんなさい」
「え…? あ、いや……謝られても…」
 いきなり謝られてしまい、どういえばいいか困った上条。しかし困らされたのは美琴の計画だったらしく、
「クスクス。ごめんごめん。今のは度が過ぎただけだからそんな申し訳なさそうな顔しないの」
 そんな顔してたか俺? と上条は思ったが、生憎その場には鏡がなかったのでどんな顔をしていたかは美琴の言った言葉で判断するしかなかった。
「それよりも送ってくれるんでしょ? だったら早く行きましょう」
「え…? あ、ああ」
 来た時からずっと態度がおかしいが、ここに来てそんな冗談を言って笑うなんていつもの御坂らしくないなと、上条はいつもと違う美琴にドキドキしながら思った。
 変…というよりも、今日の美琴の態度は一つ一つが可愛いかった。それにいつもより素直だった気もしたし、あれやこれと文句も何も言わなかった。
(御坂っていつもはあんなだけど、こいつもまだ中学二年の女の子なんだな)
 美琴の看病をそう振り返りながら、上条はまだ本調子ではない美琴の手を握ってベットから身体を起こしてやった。
 そして、床に両足をつけ勢い良く立ち上がったのと同時に、
「ただいまー! とうま!!」
 食の白い悪魔が帰ってきてしまった。その声を聞いた瞬間、上条は終わったと無意識に呟いた。
「今日も美味しいご飯を、って短髪!!??」
「短髪じゃないわよ! 私の名前は御坂美琴よ! ってなんでここにアンタがいるのよ!!!」
「短髪は短髪なんだよ! それよりもなんで短髪がここにいるのか気になるんだよ!!」
「だからそれは私の台詞よ! 聞いてなかったようだからもう一度言うけどなんでアンタがここにいるのよ!!! というか今、ただいまって」
「そうだよ。私の家はここなんだよ」
 インデックスがそう言った瞬間、上条は思った。結局、どんなことをしても最後はこんな不幸な運命しかないんだな、と。
 その後、インデックスと美琴に酷い目に合わされる結末をたどった不幸な上条であった。


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