風邪ひき美琴のお見舞い事情
「……ごめんね、黒子」
御坂美琴はベッドの上で横になったまま、少し赤い顔をルームメイトである白井黒子に向け、謝罪の言葉を口にする。
「何をおっしゃいますやら。私、白井黒子はお姉さまの唯一無二のパートナーですのよ。こういう時こそ頼って頂かないと、パートナー失格になってしまいますですわ」
そう言って、美琴のベッドの傍に立つ白井黒子は、美琴の額に当てていたぬるくなったタオルを水に浸し、水分を絞り取ると再度額に置き直す。
状況的に既に理解しているとは思うが、学園都市7人のレベル5が第3位『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴は現在風邪をひき、床に伏せていた。
状況的に既に理解しているとは思うが、学園都市7人のレベル5が第3位『超電磁砲(レールガン)』御坂美琴は現在風邪をひき、床に伏せていた。
『うー、なんでこんな事に……』
美琴は自分の現状に不服を感じ、思い返してみたが、どう考えてもあの日無理したのがいけなかったようだった。
☆
それは2日前の事、いつものように美琴はいつもの公園で上条当麻とばったり出くわした。
まあ、本当は30分以上待ちぼうけをした末でのことなので、”ばったり”というには無理があるのだが、それでも美琴曰く”ばったり”出会ったと言う事になっている。
まあ、本当は30分以上待ちぼうけをした末でのことなので、”ばったり”というには無理があるのだが、それでも美琴曰く”ばったり”出会ったと言う事になっている。
「……それで、毎日こうして出会っているわけですが、流石に上条さんも同じ台詞しか出てきませんの事よ――あぁ、不幸だ……」
当麻はそういって自分のツンツンした無造作ヘアーの頭を掻く。
「アンタが私の相手しないのが悪いんでしょうが!!」
手加減しているとはいえ一般人なら大怪我になりそうな高圧電流を美琴は当麻に向けて発生させる。
それに対し、当麻は右手を電流に向けて防御の姿勢を取る。
それに対し、当麻は右手を電流に向けて防御の姿勢を取る。
パリンッ!電流が当麻の右手に触れた瞬間、嘘のように跡形もなく消え去る。
「チッ!」
美琴は舌打ちするが、毎度のことなのでもう驚きはない。
「なあ、御坂。もういい加減止めようぜ。こんな事繰り返したって仕方ない事だろ」
「うるさいっ!アンタは勝ち続けてるから良いんだろうけど、私はまだアンタに勝ったことないんだから、私が勝つまで勝負し続けなさいよ!!」
「うるさいっ!アンタは勝ち続けてるから良いんだろうけど、私はまだアンタに勝ったことないんだから、私が勝つまで勝負し続けなさいよ!!」
顔を真っ赤にして叫ぶ美琴に対して、当麻は既に呆れ顔になっている。
こうして、美琴は当麻と毎日顔を合わせるたびに勝負を吹っかけているが、勝敗的にいえば美琴の全戦全敗(本当はとある一件で一度は当麻に勝っているのだが、当麻自身が攻撃も防御も行わず、美琴の攻撃を受けるだけの状態であったため、美琴的にこの勝負は無かった事になっている)である。なので、冷静に考えれば何度やっても同じ事になるのはわかってはいるのだが、美琴にとってこれは既に勝敗ではなく、単に上条当麻と会うための口実になっていた。
こうして、美琴は当麻と毎日顔を合わせるたびに勝負を吹っかけているが、勝敗的にいえば美琴の全戦全敗(本当はとある一件で一度は当麻に勝っているのだが、当麻自身が攻撃も防御も行わず、美琴の攻撃を受けるだけの状態であったため、美琴的にこの勝負は無かった事になっている)である。なので、冷静に考えれば何度やっても同じ事になるのはわかってはいるのだが、美琴にとってこれは既に勝敗ではなく、単に上条当麻と会うための口実になっていた。
「いや、御坂。勝負は良いけど。今日みたいな雨の日にまでって実際どうよ?」
当麻は傘を少しずらし、雨が降りしきる黒雲の覆う空を見上げる。
「う、うるさいわね。雨だろうが雪だろうが、私達の勝負に関係ないでしょ!さあ、勝負よ!勝負!」
「はあ、不幸だ」
「はあ、不幸だ」
本日何度目かになる台詞を溜息とともに吐き出し、当麻はゆっくりと身構える。
「いいぜ。そんなに俺と戦いたいって言うならその望み叶えてやるよ。でもな、この雨がお前に味方するって思っているなら、まずはそのふざけた幻想をぶち殺してやるぜ」
「やっとその気になったわね」
「やっとその気になったわね」
上条当麻が構えに入った瞬間、美琴の背に冷たい汗が流れおちる。
今まで何度となく戦ってきたが、いつものらりくらりかわすだけで、本気で相手されてなかったのだから、構えをするという事で相手の本気度を察知し、緊張が全身をめぐっている事を美琴は感じていた。
今まで何度となく戦ってきたが、いつものらりくらりかわすだけで、本気で相手されてなかったのだから、構えをするという事で相手の本気度を察知し、緊張が全身をめぐっている事を美琴は感じていた。
『さあ、来なさい。今度こそ勝ってやるんだから』
美琴は当麻の行動を一瞬たりとも見逃さないように視線を向ける。
公園に緊張が走る。そして、当麻の右手がゆっくりと持ちあがり
公園に緊張が走る。そして、当麻の右手がゆっくりと持ちあがり
「あー、あんなところに等身大ゲコ太人形が!!」
「え?どこ?どこにゲコ太が!?」
「え?どこ?どこにゲコ太が!?」
当麻の指さす方向につい顔を向けてしまう。
もちろん、その視線の先にゲコ太どころか人形などある訳がなく。再び視線を元に戻したところ、その先にも上条当麻の姿は無かった。
もちろん、その視線の先にゲコ太どころか人形などある訳がなく。再び視線を元に戻したところ、その先にも上条当麻の姿は無かった。
「え?なに!?」
一瞬の思考の停止の後、公園の出口に目を向けるとそこには走って逃げる当麻の姿があった。
「あ、あんにゃろめー!!待てや、ゴラァ!!」
それを確認すると、とてもお嬢様学校である常盤台中学在籍とは思えない台詞を口に出しながら、美琴は当麻を追跡し始める。
こうして雨の中を朝まで当麻を追いかけていれば、風邪の一つや二つひいて当然と言えば当然の結果であった。
こうして雨の中を朝まで当麻を追いかけていれば、風邪の一つや二つひいて当然と言えば当然の結果であった。
☆
黒子は美琴の差しだした体温計を見る。体温計が表示する数値は37度2分、風邪の症状としてはかなり落ち着いてきたようだった。むしろ、先ほどまで美琴が咥えていたその体温計を持っている黒子の方が落ち着きが無くなり、体温が上昇しているようにも思えたが、気の性と言う事にしておこう。
「昨日に比べると熱は下がったとは言え、まだ無理してはいけませんの。まだ今日一日は安静にしておく事。良いですわね?お姉さま」
体調が戻ったことですぐにでも動き出そうとする美琴に対し、何とか平静を取り戻した黒子は釘をさすかのように厳しく言い詰める。
実際、黒子がいなければ美琴は直ぐにでも動いていただろう。どうしても行きたいところがあったのだから。しかし、それでまたぶり返しては折角看病してくれた黒子に申し訳ないので
実際、黒子がいなければ美琴は直ぐにでも動いていただろう。どうしても行きたいところがあったのだから。しかし、それでまたぶり返しては折角看病してくれた黒子に申し訳ないので
「……わかったわよ。今日”も”おとなしくしておくわよ」
と少しだけ頬を膨らませて、拗ねたように返答をする。
その態度は普段の美琴からは考えられないような幼稚な態度だったのだが、黒子はただ「そうして頂けますと、ありがたいですの」とだけ返答した。もっとも心の中では『ウハァッ!お姉さまの子供のような態度!普段見られないだけあってプレミアものですわ!!この表情写真に撮って、いえいえ、360度全方位からの動画撮影をしなくてはいけませんのに、あー、もうどうしてこういう時に限って撮影機材をメンテナンスに出してしまったのでしょう!?口惜しい、神様を呪いたくなりますの!!』などとどす黒い感情が渦巻いていた事はここだけの秘密だ。
その態度は普段の美琴からは考えられないような幼稚な態度だったのだが、黒子はただ「そうして頂けますと、ありがたいですの」とだけ返答した。もっとも心の中では『ウハァッ!お姉さまの子供のような態度!普段見られないだけあってプレミアものですわ!!この表情写真に撮って、いえいえ、360度全方位からの動画撮影をしなくてはいけませんのに、あー、もうどうしてこういう時に限って撮影機材をメンテナンスに出してしまったのでしょう!?口惜しい、神様を呪いたくなりますの!!』などとどす黒い感情が渦巻いていた事はここだけの秘密だ。
『あーあ、これで2日も会えなかったな……折角、このところ毎日顔を会わせることが出来てたのに』
もちろん、誰の事とは言わないが、胸の内で大きな溜息をつく。その時だった
――コンコン
美琴の耳に部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「はいですの」
黒子が扉に向かうために席を立つ。
『だれか見舞いにでも来てくれたのかな……もしかして、アイツ?そ、そんな訳ないよね……でも、アイツだったら嬉しいな』
などと少し顔を赤らめながら、期待するあたりまだまだ少女の域を出られない美琴だった。
しかし、現実は
しかし、現実は
「御坂、身体の具合はどうだ?」
女子寮の寮長が部屋に入ってきただけだった。
「ええ、もう大丈夫です。ご心配をおかけしました。明日には復帰できると思います」
まあ、そううまくいかないとは思いつつも、やはり期待していた分多少の落胆はあった。決して表情には出さないが。
「どうやらそのようだな。何故風邪をひいたのかの原因は後日聞くとして、お見舞いだ」
そう言って美琴に紙袋を手渡す。
「あ、ありがとうございます」
「あらあら、わざわざ有難うございますですの」
「あらあら、わざわざ有難うございますですの」
美琴は受取った紙袋の中身を確認すると、市販の栄養ドリンクが数本と桃の缶詰が2個入っていた。
いくら寮監が男勝りとはいえ、流石にこの取り合わせは男前過ぎないだろうか。と、首をかしげていると
いくら寮監が男勝りとはいえ、流石にこの取り合わせは男前過ぎないだろうか。と、首をかしげていると
「勘違いするな、御坂。それは私からのお見舞いではない。先ほど寮の前でウロウロしていた少年がいてな。訳を聞いてみると、御坂を昨日見掛けなかったことから風邪をひいたんではないかと思ってお見舞いを持ってきたのだが、どうすれば良いか迷っていた。とのことでな、私が代わりに受け取っただけのことだ」
え?それって……
「りょ、寮監様、もしやその男性とは……」
「ああ、高校生くらいの髪がツンツンとしていた独特なヘアスタイルの少年だったぞ。御坂、その少年との関係も後日改めて聞くが、とにかく今日はゆっくり休め」
「ああ、高校生くらいの髪がツンツンとしていた独特なヘアスタイルの少年だったぞ。御坂、その少年との関係も後日改めて聞くが、とにかく今日はゆっくり休め」
そう言って寮監は部屋を後にした。
黒子は美琴に背を向け、扉に向かい固まったままになった。そして、部屋に流れる沈黙。
しかし、それを打ち破ったのもやはり黒子だった。
黒子は美琴に背を向け、扉に向かい固まったままになった。そして、部屋に流れる沈黙。
しかし、それを打ち破ったのもやはり黒子だった。
「お、お姉さま……そのような見舞いの品はお姉さまにふさわしくございません。ですから、こちらにお渡しいただギョォ!!」
ゆっくりとギギギというまるで錆びついたような擬音と共に振り向いた黒子が見たのは、ベッドの上で紙袋を抱えたまままるで天上の楽園を見たかのような幸せそうな微笑みを浮かべた美琴の姿だった。
「お、お姉さま!!何故黒子の看病では見せた事の無いような極上の笑みを浮かべておられるのですか!?
あんの類人猿、今度会ったら体中串刺しにして学園内を引廻しにして差し上げますわ!!ですから、お姉さま、現実に戻ってきて下さいませ!黒子を見て下さいですのー!!」
あんの類人猿、今度会ったら体中串刺しにして学園内を引廻しにして差し上げますわ!!ですから、お姉さま、現実に戻ってきて下さいませ!黒子を見て下さいですのー!!」
しかし、寮内に響き渡る黒子の絶叫は美琴の耳には届かなかった。もちろん、寮監の耳には届き、その日黒子はかつてないお仕置きを受けたのは言うまでもない。
なお、余談であるが、紙袋を抱えたまま眠った美琴はよほど良い夢を見たのか、朝からにやけっぱなしで、公園で2日ぶりに会った当麻に対して顔を真っ赤にしたまま、視線を合わせる事が無かったという。
Fin