とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫 上条さんと美琴のいちゃいちゃSS > 恋する美琴の恋愛事情 > Part04


修羅場美琴の告白事情


「不幸だ……」

 いつものようにお決まりの台詞を呟きながら、上条当麻は己が立場を呪うしかなかった。

「トウマ、トウマ。色んなオカズが沢山あるんだよ!これほど豪華なお弁当は初めてなんだよ!!」

 隣に座るインデックスはそんな当麻の心情に気付くことなく目の前のお弁当に心奪われはしゃいでいる。
 そう、目の前には和洋中幾種もの色とりどりのオカズが入ったお弁当が拡げられていた。

「日本人なら和の心。誰かの為にお弁当を作ったのは初めて。上条君、食べてくれる?」
「医食同源。中華には食事にも健康に気を配るという非常にありがたい心構えがある。上条当麻、心して食べるように」
「べ、別にアンタの為に作ったわけじゃないけど、せっかく作ったのに食べないともったいないでしょ。アンタもボーっとしてないで食べなさいよ」

 そして、上条当麻の目の前にはまるで『私の弁当を食べないとわかってるわよね?』とでも言いたげな視線で睨みつけてくる3人の美少女がいた。
 一人一人がそれぞれの美しさを持つ美少女であり、それぞれが確固たる意志を持った瞳で当麻を睨みつける。
「おかしい」と、当麻は首を傾げるしかなかった。昨日まで3人が3人とも嬉しそうにしていたはずだ。それなのに、どうして自分はまるで釜茹でされる直前の石川五右衛門のような気持ちにならなければいけないのか、当麻には全くもって理解不能だった。

「どうしてこうなった……」

 白洲に座る罪人の如くその身体を委縮させながら、当麻はここに至る過程を思い出していた。


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「……遊園地?」

 御坂美琴は上条当麻の台詞に意外そうな表情で聞き直した。

「そ、今度新しく出来た室内型遊園設備への招待状ですよ」

 そう言って自慢気に2枚のチケットを見せつける。確かにチケットには今度新しく開園する室内型遊園地の招待券と書いてあった。

 いつものように学校の帰りに本来の通学路からは遠回りして、いつもの公園で上条当麻と会っていた美琴だったが、「そういえば」と当麻が取りだしてきたのがこのチケットだった。

「で、それを誰と行くのよ?」

 自慢気に見せつけるそれを見ながらなんとなく不機嫌になる美琴。2枚のチケットのうち1枚は当麻が使用するとしてもう一枚の行方が気になる。まあどうせあのちびっこシスターなんだろうと予想が付いてしまうだけにどす黒い感情が表面化しそうになってしまう。

「ん、そんなの御坂に決まってるだろ」

 しかし、予想外の台詞に美琴の心拍数が跳ね上がる。

「いやあ、小萌先生からこのチケットを貰った時はどうしようかと思いましたが、普段お世話になっている人へのお返しをしなさいと言われて、やっぱ御坂にも渡さないとなと思ったわけですよ」
「へ、へえ……」

 なにか重要な事を言ったような気がしたが、すでに美琴の心拍数は跳ね上がり、血圧は上昇、まともな思考は働いていない。

「御坂を誘うなら白井とかも誘うべきなんだろうが、枚数的に御坂一人になっちまうのは申し訳なかったけどな」
「う、ううん!大丈夫よ!黒子の事なら問題ないから!!あの子はうん。全然まったく関係ないから!!」

 もし白井黒子が聞いていたらショックのあまり卒倒するような台詞を吐くあたり美琴のテンパリ具合が尋常ではないのが見て取れる。当麻は当麻でいつもの如く超鈍感ぶりを発揮し、美琴が喜んでくれていると思い込み話を続ける。(まあ、実際、大喜びはしているのだが)

「それなら良いんだけどな。そういうわけで、次の日曜に行くからあけておいてくれよ」
「う、うん!絶対にあけるから!!予定なんか入れない!!」

 折角の初デートなのだから、例え予定があってもキャンセルする。完全に美琴の心は舞い上がっていた。

「ふう、これで上条さんも一安心ですよ。皆楽しんでくれれば本当にチケットを配った甲斐があるというものですよ」

 と、これまた意味深な発言を繰り返すのだが、やはり舞い上がった美琴の心はもう何も聞いていなかった。

 そして、寮に帰っても喜びを隠せない美琴は黒子の前で当麻とのデート予定を激白(もちろん黒子用のチケットなどなく、二人っきりのデートである事も全て)。黒子がその場で真っ白に燃え尽きていたが、それさえも気にならない程に美琴は舞い上がりっぱなしだった。

「ふふん~♪何を着て行こうかな~」

 などと制服着用義務さえ忘れている美琴の姿を見て、燃え尽きた黒子の灰はさらに風に吹き飛ばされていくのであった。可哀想に……

 しかし、当日になって浮かれた美琴の心は急転直下し、地獄の底へと叩きつけられる事になる。何故なら……

「トウマ、秋沙は判るとしても、なんで短髪がここにいるのかな?それにまた別の女性も……」
「上条君、どういうことなの?」
「上条当麻、どういうことか説明してもらえるか?」

 待ち合わせした遊園地の入り口前で美琴が見たのは、上条当麻の姿だけでなく、白い修道服を着た少女、前に公園で見掛けた日本人形のような黒髪の少女、さらに大覇星祭で当麻の前で倒れた巨乳の少女達の姿だった。

「え?いや、だから、普段からお世話になっている人たちへの感謝の気持ちだって言ったじゃないですか」

 自分のやった事の重大さが全く理解できていない当麻はあっさりとそう答えたが、その瞬間、吹寄のヘッドバッドが当麻の脳天へと、姫神のアッパーがみぞおちへと突き刺さり、とどめに美琴の電撃が全身に落ちる。

「な、なんで……不幸だ……」

 パタリと崩れ落ちる当麻。もちろん、いつもの口癖は忘れなかった。

「自業自得なんだよ、トウマ。そして、まだ私の罰が残っている事を忘れないでよね」

 そして、その言葉通り、数秒後意識を取り戻した上条はインデックスに頭から噛みつかれることとなった。まさに自業自得……


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「ところでその制服、常盤台中学のものよね?なんで貴方みたいなお嬢様学校の子があんなバカと知り合いなの?」

 前を歩く巨乳の少女が美琴に話しかけてきた。

『確か、吹寄制理さんだったっけ?』

 見た目からかなり気の強そうな顔をし、当麻が好みそうなほど巨大な胸をした少女を見ながら、それはズルイな……などと美琴は心の中で溜息をつく。
 結局、あれから解散するわけにもいかず、お互い自己紹介の後、5人で遊園地に入ったものの、気まずい空気は払拭されず沈黙がその場を支配していた。しかし、もともと吹寄制理と姫神秋沙の二人は同級生、しかも友達同士という事もあり、すぐに二人は会話を始めるのだが、どうしても年下であり、学校すら違う美琴にとってとても居づらいものであった。

「大丈夫よ。別に貴方が悪いわけではないから。どちらかと言えば乙女心を理解せずにこういう事をするあのバカに責任があるんだから、気にしないで」
「は、はあ……」

 とはいえ、気易く当麻の事を「あのバカ」と呼んでいることが美琴にはなんとなく気に入らなかったりもする。

「彼は私と私の妹の命を救ってくれた命の恩人だから。全身全霊を賭けて私たちを守ってくれた人だから」

 と、特別な関係である事を示すような言い方をしてしまう。

「ふうん」

 しかし、吹寄はさほど気にする様子もない。まるで「そんなことは判っている」とでも言っているように美琴には感じてしまう。

「やっぱ、あのバカ無茶やってたのか」と悔しがるような呟きが吹寄の口から聞こえた。

「確か、御坂美琴さんよね」

 今度はもう一人の黒髪の少女から話しかけられる。

「え、ええ」

 一応返事はしたが、その少女-姫神秋沙は何かを考えるかのようにしばらく無言が続く。そして、数秒の後、彼女の口からは核心をつく台詞が美琴に向けて放たれる。

「上条君は目の前に苦しんでいる人がいたら助けずにはいられない人。私だってその一人。だから、それが特別にならない事は知っている」
 そう、上条当麻と言う人間はそういう人間だ。それは美琴も理解している。
 だからと言って、それを認めてしまえば、自分の存在さえも消えてしまうような不安感を感じてしまうのも事実だ。だから、いままで見て見ぬふりをしてきたのだ。彼の傍にいるインデックスという少女も同じく救われた側であろうという事実ですらも。

「まあ待て姫神。彼女はまだ中学生だ。自分の感情に戸惑いを覚えても仕方のない年齢だ。そう責めるものではない」

 恐らく吹寄も悪気があったわけではない。そんなことは美琴も理解している。しかし、美琴にはどうにも我慢できなかった。当麻が高校生で自分が中学生であるという現実。この年の差のせいで美琴が当麻にまともに相手してもらえてないことを理解しているから、第三者にその現実を突きつけられた事に無性に腹が立った。

「そんな事!わかってるわよ!!でも、自分の気持ちに嘘なんかない!!私は本当に!!」

 しかし、美琴はそこで言葉を止めてしまう。ここから先はこの場で言うべきではないのだと、判ってるから。
 そして、それは他の二人にも理解できてしまったのだろう。最初に謝ってきたのは吹寄だった。

「すまない。その事を責めたつもりではなかったのだ。君に不快な思いをさせたのであったならば謝ろう。申し訳なかった」

 そして、姫神もそれに続く。

「ごめんなさい。私も焦ってしまって、貴方を傷つけてしまった。本当にごめんなさい」

 そんな二人の態度に美琴は自分を恥じることになってしまう。これが中学生の自分との違い。学園都市最強の7人のレベル5の第3位と言われても、結局自分は単なる子供なんだと痛感させられてしまう。

「おいおい、何があった?」

 そして、このタイミングで当麻が割り込んでくる。

「吹寄、姫神、何があったんだ?御坂もなんでそんな表情してるんだ?」

 そう、こいつはこういう奴だ。普段は全く自分たちの事を気にも留めないのに、苦しんだり、悲しんだりすると直ぐに来てくれる。それが有難くもあり、辛くもあった。

「上条、申し訳ないが、そこのシスターとちょっと先に行ってお弁当を食べれるような場所を確保しててくれないか。私達はちょっと話し合う必要があるようなのでな」
「ゴメン、上条君。私も吹寄さんと同じ。先に行っててくれないかな。すぐに追いつくから」

 二人の真剣な表情に当麻は困ったような顔をしたが、「御坂もそれでいいのか?」と尋ね、頷くのを確認すると「わかった」と言って、その場を離れて行った。
 インデックスだけは「なんで私を入れてくれないかは聞かないけど、シスターは迷える子羊には優しいんだよ」と、わかったようなわからないような言葉を残して去って行った。

「さて、では少しばかり本音で話をしようか」

 吹寄のその台詞に美琴は力強く頷いた。


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 そして、20分後、3人はお互いにすっきりした表情で当麻達のもとにやってきた。
 心配していたようなことにはなっておらず一安心した当麻だったが、しかし、お弁当を広げた瞬間今度は当麻が困ることになった。

「ええと、どれから食べればいいでしょうか。上条さんは非常に迷います」

 と、嫌な汗を大量に掻きながら、当麻は箸を持ったまま固まってしまう。
 美琴の作った洋食も、姫神の作った和食も、吹寄の作った中華も、どれもが非常に美味しそうでどれから食べようか迷ってしまうのも事実なのだが、それ以上に”誰の”お弁当から手をつけるのか、それが問題になってしまっていた。

「上条当麻。まさか私の作ったものが食べられないというのではないだろうな?」

 と吹寄が氷の瞳で睨みつけているかと思えば、

「上条君は和食が似合うと思う。是非食べるべき」

 と姫神が真剣な瞳で見つめてくるし、

「ど、どれから食べても構わないけど、折角私が作ったんだから、ちゃんと食べなさいよ」

 と真っ赤な顔で上目遣いに睨んでくる。

『3人とももしかして上条さんを苛める相談でもしてたんでしょうか?なんでこんなに心臓に悪いんでしょう?』

 当麻はまるで蛇に睨まれた蛙の如く動けずにいた。

「トウマは、やっぱりトウマなんだよ。というか、トウマが食べないんだったら私が全部食べちゃって良いのかな」

 などと相変わらず食欲魔人の如くな台詞を口にする。KYって言葉知ってますか?

「ええい!悩んでいても仕方ない!ここはこうすればいいんだ!!」

 もう形振り構っていられないと判断し、完全に吹っ切れた当麻はあろうことかそれぞれの弁当から一品ずつを抜き取り一度に口の中に放り込んだ。

「バカなのか上条当麻!そんな事をすれば味も何も分からなくなるだろ!!」
「やりやがった、この野郎」
「あ、アンタってば本気でバカなの!?」

 と、三者三様の反応を示すが、「美味い!美味いぞ、これ!!今まで食べた事の無い美味さだ!!」と当麻が涙を流して喜ぶと、3人とも顔を真っ赤にして、

「あ、当たり前だ。そのために作ったのだから」
「喜んでもらえたなら、嬉しい」
「ば、バカ。そんなに大喜びすんな」

 恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうな顔をする。
 逆にそれに対し機嫌が悪くなったのが一人。インデックスである。
 インデックスは自分で調理などしないから同じ土俵には立てないが、蚊帳の外にいる現状に納得がいかなかった。だから、インデックスが取る手は一つしかなかった。

「トウマばっかりずるいんだよ!私も食べるんだよ!!」

 と、当麻の先手を取りお弁当を食べつくす蹂躙作戦に打って出たのだった。
 そして、自分たちの食べる分が無くなる事に慌てた、美琴、吹寄、姫神もお弁当争奪戦に参加。こうして賑やかな昼食は瞬く間に過ぎて行った。


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「ねぇ、楽しかった?」

 夕陽の差しこむゴンドラの中で、美琴は目の前に座る当麻に楽しそうに話しかける。

「そうだな。たまにはこういうのも悪くないよな」

 当麻はそんな美琴を見て、やはり嬉しそうに答えた。
 昼食の後、それぞれの希望するアトラクションを巡る事になり、吹寄の希望するジェットコースター、姫神の希望するお化け屋敷、インデックスの希望する屋台めぐりをそれぞれの希望者と当麻のツーショットで回る事になった。そして、最後が美琴の希望した観覧者だった。
 これも希望者と当麻のツーショットで乗る事になり、今ゴンドラの中は美琴と当麻の二人しかいない。残りの3人は気を利かせて別のゴンドラに乗っている。

「なあ、3人で何を話してたんだ?」

 当麻は気になっていた事を美琴に尋ねた。
 実は他の二人にも同じことを尋ねようと思ったのだが、何故か口にする事が出来なかった。だから、美琴に聞くことにしたのだが、何故美琴には聞く事が出来たのか、当麻自身気が付いていない。

「大したことじゃないよ。ただ、自分たちの気持ちに向き合えてるかどうかの確認」

 そう言って、それ以上の事は話そうとはしなかった。
 そして、沈黙に支配されたゴンドラが丁度頂上に差し掛かった時、再び美琴は口を開く。

「ねえ」

 ゴンドラに差し込む夕日が背後から美琴を光輝かせる。
 それはまるで妖精のような美しさだと当麻は素直に感じる事が出来た。

「私がアンタの事好きだって言ったら信じる?」

 そして、その言葉は魔法のように二人だけの時間を示す時計を止めることになった。