とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫 上条さんと美琴のいちゃいちゃSS > 恋する美琴の恋愛事情 > Part07


恋する二人の恋愛事情


「それでお二人は晴れて恋人同士になれたってことですよね?」

 御坂美琴は親友の佐天涙子とオープンカフェのラウンジで放課後のひと時を過ごしていた。雲ひとつない晴天の下、涼やかに感じる程度の風が心地よく吹き抜けて行く。
 その日、佐天涙子は美琴に友人の初春飾莉や白井黒子ではなく自分一人だけ呼び出された事におおよその検討は付けていた。そして、実際に目的のカフェで美琴から予想通りの結末を聞いたときに「おめでとう」の言葉と同時に出た台詞がこれだった。

「うん、それがね……」

 しかし、佐天の予想とは異なり、美琴の顔には少し苦笑が浮かんでいた。

「当麻の事が好きな女の子って私以外にもいるわけでしょ……それでも私を選んでくれたんだけどね……でも、やっぱりそう言った人たちに申し訳ないというか、少なくとも自分に好意を向けてくれた人は無碍にできないから頭を下げてくるって彼がね……」

 既に会話の中身にお惚気が入っていますが気が付いているんでしょうか?と佐天は心の中で呟きながらも表情には出さないように我慢する。

「へえ、でも、凄いですね。自分の彼女は御坂さん一人だってちゃんと伝えるわけでしょ。格好良いな」
「うん。本当はね、私も一緒に謝るって言ったんだけど、『これは俺の責任だから』って言ってね」

 まるで自分が褒められたかのように真っ赤な顔でモジモジする美琴に『やっぱかわええのぉ』と佐天は思う。ああ、もう、こんな御坂さんだったら私が欲しかった!と、少しばかりの嫉妬を感じても仕方なかろう。

「しかし、御坂さんに好きな人が出来た事は気付いてましたけど、ここまで想わせるなんて、どれだけ凄い人なんですか……」

 実際、美琴が手作りクッキーを作りたいと佐天に相談した時から、その存在に気がついてはいたが、天下のレベル5第3位をメロメロにする男性ということで、佐天の想像の中の上条当麻はとんでもなく凄い英雄像が出来上がりつつあった。

「ふふ、と言っても彼は無能力者(レベル0)なんだけどね」
「え!?」

 美琴の言葉に佐天のイメージ内の英雄像が瓦解していく。え?レベル5のお相手がレベル0!?

「だ、だって、御坂さんが挑んで一度も勝てなかった相手なんですよね?」
「そうよ。勝ったのは今回の1回きり。それ以外は全く手も足も出なかったわ」

 既に当麻との勝負の勝敗に拘りが無くなったせいか、美琴は敗北の歴史も楽しげに語る。まあ、好きになった男の凄さを自慢したいという乙女心も働いた結果ではあるのだが。

「レベル5がレベル0に手も足も出ないって、おかしいじゃないですか!?」

 未だ能力については多少のこだわりがある佐天にとって、その事実は受け入れがたい物があった。

「そうね。確かにおかしいわね。学園都市において能力値の差が強さの優劣じゃないって」

 そんな佐天にむけて美琴は優しい笑みを向ける。それは過去の呪縛から解き放たれたものだけが見せる事の出来る笑みかもしれなかった。

「でもね、今ならわかる。どうして私がアイツに勝てなかったのかって」

 佐天は美琴から視線をそらす事が出来なかった。次に話す事が話の核心であり、恐らく自分に伝えたい事だとわかったから。

「アイツ、当麻はね、決して自分の為に戦わない。でも、自分の夢の為には戦うの」
「……どういうことですか?」
「佐天さん達と知り合って少し経った頃の事かな。私ね、ある事件に巻き込まれてどうしようもない状態だったの。発端は私が招いた事だってわかってるから、解決するには私が死ぬしかないって思ったほどに」

 美琴がそんな事件に巻き込まれていた事を知らない佐天は、その告白に驚きを禁じ得なかった。

「あ、もちろん。私はここにいるから死ぬ事は無かったんだけど。そんなときに私の前に現れたのが彼だった……」

 瞳を閉じれば今でも思いだせるあの鉄橋の上での出来事。死ぬつもりだった自分に、それでは誰も救われないと語りかけてくる当麻。そして、自分の電撃を打ち消す事も、避ける事もせずただ受け止める当麻。

「彼はね、私が死んでも誰も感謝しない。そして、私自身が救われないって。だから、私の代わりに自分が戦うって、何ひとつ失う事なく皆で笑って帰る事が自分の夢だから戦うって……本当にバカでしょ」

 佐天が見た美琴の顔には嬉しそうな、悲しそうな、そして怒ってそうなそんな複雑な表情が浮かんでいた。

「相手は私でも万に一つも勝ち目のない相手なのに、そんな相手に立ち向かうなんて、絶対無理だと思った。でもね、何故か止められなかった。恐らく心のどこかでこの人なら勝てるんじゃないかって思ってしまったのかもしれない。だって、彼が……ヒーローに見えたんだもの」

 そして、美琴の表情は迷いの無い笑顔に変わる。それは信じている者にしか見せられないような極上の笑みだった。

「と言っても、そう簡単なものじゃなかったんだけどね。相手が相手だったから。それでも彼は何度も立ち上がって、そして、最後に勝ったわ。学園都市最強のレベル5第1位"一方通行(アクセラレーター)"に」

 美琴の口からシレっととんでもない言葉が出てきたことに佐天はまたしても驚く。学園都市7人の超能力者―レベル5―の第3位だけでなく、第1位まで……

「あ、そういえば噂で聞いたことがあります。レベル5第1位が無能力者に負けたって……あれ、本当だったんですか!?」

 その言葉に美琴は苦笑を浮かべながら「一応それは噂ってことにしておいてね。アイツ、注目されたりするの嫌みたいだから」と念を押しておく。
 しかし、と佐天は思う。どんな手を使ったのか知らないが、レベル0がレベル5に勝つなんて、奇跡に近い出来事だ。それをやってのける美琴の彼氏って……正直イメージは出来なかった。

「まあ、その後もアイツは色々あったみたいで、誰かの為に戦い続けてたみたい……」

 そう、その時偶然美琴は当麻が記憶喪失である事を知り、さらに絶対能力進化(レベル6シフト)実験阻止のような誰かを守るための戦いが続いていた事を知った。その時になって初めて美琴は上条当麻に恋をしている事を知り、彼と共にありたいと心から強く願うようになった。

「そして、その時になって初めてわかったの。アイツの強さは腕力や能力なんてものじゃない、アイツの強さは心の強さなんだって。アイツは自分を取り巻く人々の笑顔を守るためなら、絶対に負けないんだって」

 その言葉には力があった。その言葉には真実があった。だから、佐天にはその言葉は苦しくもあった。同じ無能力者でありながら自分がどれだけ挫折し、他人を呪っただろうと。しかし、美琴の言葉は止まらない。

「でもね、そう思えるようになったのは、佐天さんのおかげでもあるのよ」
「え?」

 美琴の言葉に驚く佐天。自分が美琴に何が出来たというのか。少なくとも思い当たる節は無い。

「だって、佐天さんは私を叱咤してくれたじゃない、私が一人で突っ走ろうとした時に。乱雑開放(ポルターガイスト)事件でも、今回の件でもね」
「あ、あれは……だって……」

 美琴の言葉に戸惑いを隠せない佐天。そう、単にあれは自分以外を信じようとしない美琴の力になりたくて、自分を見てほしくて言った事。そんな風に言われる事じゃない。

「ううん。あれは黒子や初春さんでは出来ない事だと思うの。佐天さんだから、心の強さを持つ貴女だから私の心に響いた言葉なの」
「み…さか…さん」

 佐天の瞳が涙にぬれる。自分のあこがれの人からそんな風に言われるとは思いもしなかった。自分のやってきた事に毎回迷いはあった。それでも、美琴のその言葉で救われた気がした。

「だから佐天さん、貴女にお礼を言わせてね」

 美琴は微笑みを浮かべ佐天涙子に心からの感謝の言葉を告げる。

「ありがとう、貴女のおかげで私は幸せになれました」
「はいっ!」

 そして、佐天もまた御坂美琴に心からの微笑みを浮かべるのだった。


      ********


「へえ、そんな事があったんだ」

 もう日も暮れかかり、真っ赤な夕焼けぞらに世界が赤く染められた時間。いつもの公園で美琴は上条当麻と肩を並べて歩いていた。

「うん。佐天さんには色々相談に乗ってもらってたから、どうしても話しておきたくて」

 二人の距離は以前とほぼ変わらない。ただ、前後だったものが横に並んでいるだけ。それでも進歩だと美琴には素直に思えた。

「それとね、佐天さんにあった後にあの子たちにも会ってきた」
「うん?」

 佐天涙子と別れた後、カエル顔の医者のいる病院に寄り御坂美琴そっくりの顔をした妹達(シスターズ)に会ってきた。その理由は簡単である、絶対能力進化実験阻止により助けられた彼女達の中には10032号のように上条当麻に恋心を抱いた者たちがいたからだ。

「当麻だって気付いていたんでしょ?あの子がアンタに好意を持っていたってこと」
「……ああ、御坂妹な」

 実際気付いていたかどうかと言われると、実は全く気が付いていなかった。ただ、今回の美琴との事であれはそういうことだったのかと思いついただけだ。鈍感フラグメーカーの面目躍如である。

「当麻があの人たちに謝りに行くっていうなら、私もあの子達に謝るべきだと思ったから……」

 しかし、病院にいたのは10032号のみであったが、「大丈夫です。ミサカネットワークによりお姉さまの伝言は即座に全てのミサカに伝わりますので、安心して何でもおっしゃってください、とミサカは何か嫌な予感がしますと心の不安を隠しながら返答します」と言ってくれたので、10032号に代表して謝る事にした。まあ、妹達の中でもっとも当麻に対する恋心が顕著だったのは10032号なので好都合と言えば好都合だったのだが……

「ゴメン!」そう切り出した美琴は事の顛末を話し、当麻と恋人になった事を告げた。その時の10032号の表情を美琴は忘れる事が出来ないだろう。もし、当麻に選ばれなかったらその表情を浮かべていたのは自分なのだから。
 それでも「おめでとうございます、お姉さま。お姉さまが幸せが私達、クローン体である妹達の幸せです。とミサカは胸の内の痛みを誤魔化しながらお姉さまをお祝いします」と言ってくれた。それだけで涙があふれそうだった。……もっとも、その後に「ですが、お姉さま方が破局した際には、次の恋人候補は私が立候補します。とミサカは心の内を暴露します」という台詞がなければ、本当に泣けていただろうに、全てが台無しである。

「それでもやっぱりあの子達に祝えてもらったのは本当に嬉しかったわ」
「そうか、良かったな、美琴」

 そう言って美琴の頭をなでる当麻。優しさよりも力強さを感じるような不器用ななで方であったが、その掌から当麻の優しさと温かさを感じ、美琴は心地よさを感じていた。

「それより、そっちはどうだったのよ」

 美琴はなでられながらも上目遣いに当麻に尋ねる。もちろん、例の彼女達に当麻が謝った件についてだ。詮索はしたくないが、それでも自分のせいなのだから、どうであったかは知りたいのが本心。

「ん、ああ。ちゃんと美琴と彼女になったって言ったらわかってくれたよ」

 そのとき吹寄は「そうか。ならばその彼女をしっかりと守って、手放したりしないように」と言ってくれたし、姫神は「うん。わかった。幸せになってね」と言ってくれた。二人とも目には涙が浮かんでいたが、それでもそんな風に言ってくれる事が嬉しかったし、男としてきちんと謝るべきだと思い、深く頭を下げた。
 ただ……姫神も吹寄も「「もし、駄目になったら真っ先に言って。待てる間は待ってるから」」とこちらでも同じような事を言わなければすべて解決だったのだが、流石にそれは美琴に言えなかった。

「そっか。私達認めてもらえたんだね」
「そうだな」

 もうなでる行為は止まっているが、頭上の手のの温もりを感じながら美琴は嬉しそうに微笑む。

「もう怖いものなんてないんだね」
「そうだな」
「ね、当麻」
「ん?」
「手を繋いでもいい?」
「あ、ああ、いいぞ。ほら」

 当麻はその提案に顔を真っ赤にしながら美琴の頭上にあった右手を差し出す。これまで、超能力や魔術と言った超常的な力を打ち消してきた右手であったが、これが縁で美琴とは知り合えたのだ。手を繋ぐなら右手であるべきだと当麻には思えた。

「うん!」

 美琴は差しだされた手に自分の手を差し出し、指と指を絡める所謂"恋人繋ぎ"をする。

「ね、当麻」
「なんだよ?」
「なんでもない」
「おいおい」
「当麻……」
「ん?」
「呼んでみただけよ」
「……美琴」
「なあに?」
「あー!幸せだぞ!!」
「……うん!!」

 二人の歩く道に明かりがともる。それは未来を示す幸福の道しるべ。二人の行く末に幸多き事を暗示するかのような光の道。 これから先、二人が恋人として歩むには障害が沢山あるのだが、今はこの幸せを噛み締めていたかった。
 だから、恋する二人の恋愛事情はこれにてひとまず幕が降りる。そして次の幕が上がった時、二人の前に試練が訪れるかもしれない。しかし、二人ならば、お互いを信頼し、愛し合う、恋する二人ならば再び幸せが降り注ぐだろう。
 決してそれは奇跡ではない。それは必然。

 ただ今は二人の幸せを祈って――