とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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ふくびきアンバランス




*「ここは ふくびきじょです。
  ふくびきを いたしますか?」
と、言われた事がある人は多いだろう。

福引き。
それは一般的に、くじ引きをして景品を取りあう遊戯の事を言う。
科学技術が30年弱も進んでいる学園都市でも、そういったアナログな催しがない訳ではない。
よって、ここ第7学区の商店街で、
福引き券を握り締めて仁王立ちしているツンツン頭の高校生がいても、何の問題もないのだ。

(この2枚に全てを賭ける!)

と、気合を入れているこの少年、名を上条当麻と言う。
上条は1000円のお買い物すると1枚貰えるという福引き券を得る為に、
2000円分も食材のまとめ買いをしたのだ。
「もっと買えよ」と言いたくもなるだろう。しかし、彼の経済状況では無駄使いが許されていない。
しかも、不自然なまでに安すぎる【かなりわけありな】激安食材だけで2000円分なので、
使った金額に対しては中々の大量だ。
そういった訳で、彼としては2枚分がいっぱいいっぱいだ。涙が出そうである。

上条は新井式回転抽選器【ガラガラのヤツ】のハンドルを左手でギュッと握り、
ありったけの念を送り込みながら、ぐるりと回す。

(出ろよ~…出ろよ~………ポケットティッシュ!!!)

念を送り込んだわりには、欲しい物がやけにちゃちい。
それもそのはず。実は彼、とてつもない不幸体質なのだ。
こういう時は、ほぼ100%の確率でハズレるのである。
(例外的に、以前イタリア旅行のペアチケットを当てた事はあるが、
 最終的にはとてつもなく不幸な目にあったので、彼の中ではノーカン扱いらしい)
だからどうせハズレるのなら、せめて生活必需品【つかえるモノ】が欲しいと思っているのである。
だが、万が一……いや、億が一にも大当たりする可能性がなくはないので、
僅かな望みを賭けて、幻想殺しの宿っていない左手でくじを回しているのだ。涙が出そうである。

コロン…コロン…と二つの玉が抽選器から転がり出る。
やはり白玉【ハズレ】だ。だが想定内なので、さほどショックはない……と思っていたのだが、

「はい、残念だったね」

と、福引き所のオヤジが手渡してきたものは、

「………これは……何なのでせうか…?」

カエルの缶バッジ2個であった。
二匹のカエルのうち一匹は、リボンなんぞをつけている。が、そんな事はどうでもいい。

実はこの福引き、ハズレにも3種類ある。
白はガチャポンの缶バッジ。今さっき上条が当てた物だ。
黒はうまい棒2本。コーンポタージュ味とめんたい味に人気が集中しているようだ。
そして赤が上条のお目当て、ポケットティッシュだった。
ティッシュが駄目なら、せめて食える物【うまいぼう】が欲しかったが、
よりにもよって、一番毒にも薬にもならない物が当たってしまった。涙が出そうである。

「ふ……不幸だ…………」

がっくりと肩を落とし、寮へと帰ろうとする。
するとその時、「カランコロンカラーン」というベルの音が鳴り響いた。
そしてさっきのオヤジが、

「おめでとうございまーす!! 3等の商品券10万円分でーす!! 運がいいねお嬢ちゃん」

と、周りにも聞こえるように大声でアピールしている。
どうやら上条の次に回した人が、よりにもよって商品券10万円分という、
ある意味一番欲しかった景品を当てやがったらしい。
上条は溜息をつき、「どこのどちらさんだよ。そんなラッキーガールは」と福引き所の方を振り向く。
するとそこには―――――



*「ここは ふくびきじょです。
  ふくびきを いたしますか?」
と、言われた事がある人は多いだろう。

福引き。
それは一般的に、くじ引きをして景品を取りあう遊戯の事を言う。
科学技術が30年弱も進んでいる学園都市でも、そういったアナログな催しがない訳ではない。
よって、ここ第7学区の商店街で、
福引き券を握り締めて仁王立ちしている常盤台のお嬢様がいても……いや、若干不自然である。

(この10枚に全てを賭ける!)

と、気合を入れているこの少女、名を御坂美琴と言う。
美琴は1000円のお買い物すると1枚貰えるという福引き券を得る為に、
10000円分もお買い物をしたのだ。
先程の少年と比較すると、貧富の差に泣きたくなってくる。
では何故そのお嬢様がこんな庶民的な場所【ふくびきじょ】にいるのか。
実は情報元は、佐天からのメールだったのだ。

最近美琴は、佐天にある悩みを相談していた。
(佐天に相談した理由は、初春だと風紀委員で忙しいのに余計な負担をかけてしまうからである。
 ちなみに白井には端から相談するつもりはなかったらしい。というか白井に相談できない内容なのだ)
プライバシー保護の為に詳しい内容は公開する事ができないので、
件名だけで二人のメールのやり取りを想像して欲しい。

『突然ですが……』
『Re:突然ですが……』
『Re:Re:突然ですが……』
『いえいえ! 全然平気ですよ!』
『相談に乗って欲しい事があるの』
『Re:相談に乗って欲しい事があるの』
『Re:Re:相談に乗って欲しい事があるの』
『Re:Re:Re:相談に乗って欲しい事があるの』
『あの馬鹿』
『それってもしかして!?』
『いやいやいやいや!!!』
『へぇ~? 御坂さんの「友達」ねぇ~?』
『「友!達!」の恋愛相談』
『Re:「友!達!」の恋愛相談』
『Re:Re:「友!達!」の恋愛相談』
『あれ? それって御坂さんの事じゃないんですよね?(・∀・)ニヤニヤ』
『ごめん間違えた!』

等々。
大体どのような内容なのかは分かってもらえたと思う。
だが別に、美琴は『友達の』恋愛相談だけをメールしていた訳ではない。
女性というのは、どうでもいいような事でもメールを楽しめる生き物である。
そんな中に、今回の福引き所に関する内容のメールが佐天から届いたのだ。

『 そういえば
  ―――――――――――
  近くの商店街で福引きやってんの知ってます?
  そこで御坂さんのお好きなカエルのキャラクターの景品がありましたよ 』

このメールを貰った翌日、つまりは現在。
美琴は福引き券10枚を手に、まんまと福引き所【ここ】にいる。

しかし、いくら自分の趣味の物であっても、たかだか景品の缶バッジに一万円もつぎ込むだろうか。
例えコインロッカー代わりにホテル一室借りるお嬢様であったとしてもだ。
美琴も福引き所に来たはいいが、果たしてゲコ太の缶バッジに1000円以上使うのは、
中学生としてどうだろうと、過去の過ち(超電磁砲4巻参照)から反省していた。
しかし、福引き所に並んでいたハズレのそれを見た時、全てが吹っ飛んだのだ。
実はここに並んでいる缶バッジ、もう生産が中止されているシロモノだった。
福引き所のオヤジは知らずに仕入れた物なのだろうが、美琴【コレクター】の目利きは確かである。
なので彼女は、躊躇いなく一万使ったのだ。これぞコレクター魂。

ハズレ玉の確率はおよそ85%。その内の白を引く率は1/3なので約28.3%
だが美琴は、ゲコ太とピョン子の2種類を取るつもりである。ゆえに白玉を2回引かなければならない。
その場合は約9.4%となる。あまり高い確率とはいえない。
だが彼女は福引き券を10枚持っているのだ。確率も10倍である。
つまり、およそ94%の確率でゲットできる計算となる。

(大丈夫。よほどの事がない限り、どっちも手に入れられるわ!
 待っててね、ゲコ太にピョン子。私が必ず救ってあげる!!)

という訳で、美琴は2匹のカエルを救うべく、
能力【イカサマ】の通用しないアナログな抽選器のハンドルを回す。
その結果―――――



上条が振り向くと、道のど真ん中に「orz」の形で落ち込んでいる美琴がそこにいた。
周りの人の迷惑になるので止めて頂きたい。
どうやら商品券を当てたのは美琴らしいのだが、どういう訳か負のオーラで満ちている。

実は彼女、10回やっても白玉が出なかったのだ。
ハズレる【あたる】確率が高いといっても、それはあくまでも可能性の話だ。確実な未来ではない。
内訳は赤が5回、黒が3回、5等の青が一回、3等の緑が一回である。
つまり、ポケットティッシュ5個、うまい棒6本、3000円分のお菓子の詰め合わせ(5等の景品)、
そして10万円分の商品券が当たったのである。
要するに、カエルの缶バッジ【おめあてのモノ】は手に入らなかったのだ。

だが、そんな事情があるなど露程も思っていない上条は、
「何をそんなに凹む事があるのでせう?」と美琴に話しかける。

「えっと……お前何やってんの? 周りから注目されてっから、とりあえず立とうぜ」

聞きなれた声がしてきたので、美琴はそのまま顔を上げた。

「あぁ…アンタか……」

言いながら弱々しく立ち上がる。明らかに元気がない。

「何でそんなにどんよりムード? 商品券当たったんだろ? 羨ましいなチクショウ」
「…商品券? あー…そんなのも貰ったわね……
 ははっ…こんなのが欲しかった訳じゃないんだけどね……」
「…? 一等の『フランス旅行3泊5日』でも狙ってたのか?」
「…まぁ…ランク的にはそんな所ね……」

どこをどうしたらフランス旅行と100円の缶バッジがランク的に釣り合うというのか。

美琴は心の中で大きく溜息をつき、この商品券全部買い物に使って、
今度は100枚の福引き券を手に福引き【リベンジ】してやろうか、と思っていた。

その時である。
美琴がふと見ると、上条が握っている『ソレ』が目に入ってきた。
瞬間、間髪いれずに上条に詰め寄った。

「ちょちょちょアンタ!!! ここここれ何!!?」
「えっ…何って、お前もやったろ福引き。それのハズr」
「ちょうだい!!!!!」

勢いあり過ぎて前のめりである。上条も引き気味で、若干後ずさる。

「あ…あぁ…別にいいけど……俺には必要ないモンだし……
 あっ、でも美琴【そっち】の景品と交換してくれると助かるかな。ポケットティッシュとか」
「あ、うん! あげるあげる! これ全部あげるから、それちょうだい!」
「わーありがとー…って、全部ぅぅぅぅぅ!!!?」

全部…という事は勿論、10万円分の商品券もである。

「いやいやいやいや受け取れねーよ!!! そんなん不平等条約じゃねーか!!!」
「私がいいっつってんだからいいのよ!!!」
「いや…でもですよ!? それは余りに……」

上条としては願ってもない申し出だが、さすがに気が引ける。
お互いが同等の価値でないと、物々交換と言うのは成立しない……という訳ではないが、
今回の場合は、ちょっと格差があり過ぎる。
だが缶バッジが手に入る以上、美琴にとっては商品券など持っていても邪魔なシロモノだ。
格差があるというのなら、そもそも上条と美琴の生活水準そのものに格差があるのだ。

「いるの!? いらないの!? いらなきゃ捨てるけど!」
「捨てるとな!? なんちゅうMOTTAINAI事を!! 貰うよ!! 欲しいよ!!」
「じゃ…じゃあ!」
「あぁ、やるよ。缶バッジ【コレ】。二つともな」
「きゃっほう!!!」

その場で小躍りを始める美琴。どんだけ欲しかったのか。

だがやはり上条は腑に落ちない気分である。自分の方に利益がありすぎる。
ティッシュ【しょうもうひん】に、うまい棒含むお菓子詰め合わせ【インデックスのおやつ】。
それに10万円の商品券【1かげつぶんのしょくひ】。
これだけ貰っているのに、自分からは缶バッジ【ガラクタ】2個である。
なので上条は、少しでも対等な条件にするべく、こんな事を言ってきた。

「なぁ美琴。やっぱちょっと悪いからさ、俺にやって欲しい事とかあったら言ってくれ。
 出来る範囲でなら、何でも言う事聞いてやるよ」
「きゃっほ………………………へ?」

ん? 今何でもするって言ったよね?



「ななな何でもって!!? 何でもって何よ!!! アア、アンタ私に何させようってのよ!!!
 何してもらおうってのよ!!! 何して欲しいってのよこのスケベ!!!!!」
「スケベとな!?」

上条からの唐突な一言に、美琴も自分ではよく分からない事を言っている。
「何でも言う事を聞く」で何故「スケベ」になるのか、そこん所を小一時間程問い詰めたいものである。
そもそも命令する側は美琴の方だ。「スケベ」な事になるかどうかは、美琴のさじ加減なのだが。

「いや、まぁ…スケベは置いとこう。
 さすがにこのままじゃ、上条さんの気持ちが治まらない訳ですよ。何か申し訳なくて。
 つっても他に交換できる物なんてないしな。
 だからせめて、美琴がして欲しい事があれば何でもやろうかな、と。
 大した事は出来ないかも知れないけど、それでも美琴の気の済むように使ってくれていいから」
「つ、つつ、使う!!? アンタを!!? ナ、ナ、ナ、ナニしてもいいの!!? 本当に!!?」
「何してもいいよ。本当に」

「ナニ」と「何」では、その意味合いが若干異なる気がするのだが。

「何でも」と言うと、いつぞやの罰ゲームを思い出すが、
あの時の美琴は、自分の心に芽生えた正体不明の感情が何なのか、まだ解ってはいなかった。
だが今は違う。目の前の男【かみじょう】に対する気持ちを、今はハッキリと理解している。
しかしだからこそ、何を上条に要求するべきか悩む所である。

(もも、もし私が『こんな事』を命令したら!?
 い、いくらコイツでも私の気持ちに気付いちゃうわよね!!
 じゃじゃ、じゃあもし『そんな事』を命令したら!?
 いやいやいやいや無理無理無理無理!!! 私の方がもたない!!!
 なななななら!!! いっそ、『あんな事』を命令しちゃったりなんかしちゃったら!!?
 ……………ふにゃー)

もはや美琴は、自分の想像の中で漏電+気絶が出来るようになっていた。「ふにゃー」の達人である。
『どんな事』を考えたのか、そこん所を小一時間程問い詰めたいものである。

「……美琴?」
「でででででも私にはまだそういうのは早いんじゃないかしら!!?
 ももも、勿論興味がない訳じゃないし―――」
「美琴ー? 何独り言をブツブツ仰ってるのでせうか?」
「アアアアアンタがどうしてもって言うな……………ハッ!!! 私は今まで何を!!?」
「あっ、帰ってきたか」

想像【ゆめ】の世界から無事生還したようだ。

「…んで、どうするか決めたか?
 まぁ、俺の勝手な申し出だし、俺なんかにしてもらう事が無いってんなら無理強いはしないけど」
「まま待って!! 考えるから!! 今速攻で考えるから!!」
「……あんだけ長考しといて、まだ考えてなかったのかよ。さっきの時間何だったんだよ」
「う、うう、うっさいわね!!!」

美琴は色々考え付いたのだが、どれも結果的にボツである。
理由は…まぁ……察してやってほしい。

美琴はそのまま3分間真剣に考える。

「……いや、無いなら無いで別にいいんだぞ? 無理に考えなくても」
「ちょっと黙ってて!」
「………はい…」

美琴はそのまま5分間真剣に考える。

「美琴ちゃーん? もういいかなー?」
「ちょっと黙ってて!」
「………はい…」

美琴はそのまま7分間真剣に考える。

「まだかよ!!!」
「……………よし、決まった」
「やっとかよ!!! で!? 俺は何をすればいいのでせう!?」

15分も待たされ、上条はちょっとイライラしているようだ。
だがこれだけの時間考えたという事は、美琴もそれなりの事を要求するつもりだろう。

美琴は上条に「して欲しい事」を口に出した。



「じゃじゃじゃじゃじゃあ!!!!!」
「おう」
「ま、まままま毎晩私にメールする事!!!!!」
「おう……………おう? メール?」

上条としては拍子抜けな内容である。

「えっ……なに、そんなんでいいのか?」
「そ、そそそその代わり!!! 毎晩欠かさずだからねっ!!?」
「いや…いいけど………あっ、でも、どんな事メールすりゃいいんだ?」
「何でもいいの! その日あった事でも、ちょっとした愚痴でも、意味のないメールでも!!!」
「わ、分かったよ。いや、何でそんな事をさせたいのかは分かんないけど、とりあえず了解。
 じゃあ今日から必ずメール送る。本当に内容は何でもいいんだな?」
「いい、いい!! もう何でもいい!!」
「そっか…? まぁ、美琴がいいんなら俺はいいけど……」

やはり上条は腑に落ちないが、どの道自分が出来る事などそんな所だろうと一応納得する。

こうして二人は、ホクホクなままお互いの寮へと帰っていった。
上条は大量のお土産と10万円分の商品券【ボーナス】。
美琴はお目当ての缶バッジと上条との約束【メール】。

そしてこの日から、美琴の日課に『夜のメールチェック』が追加された。
美琴は毎晩ニヤニヤするようになり、ルームメイトの白井は毎夜枕を涙で濡らすようになったという。





さて、うすうす気付いている者もいると思うがこれで終わりではない。
覚えているだろうか。そもそも何故、美琴が福引き所にやってきたのかを。
そう、彼女は佐天に『友達の』恋愛相談をしていたのだ。
そしてそれは今でも続いている。上条と毎晩メールをするようになった『今』でもだ。

ある日、美琴はいつものように恋愛相談のメールを佐天に送った…つもりであった。
内容は勿論、「あの馬鹿」についてだ。
想いの丈がこれでもかと言うくらい赤裸々に綴られたそのメール。
他の人に…特に「あの馬鹿」本人にだけは、絶対に見せてはいけないモノである。
だがしかし、美琴にはもう一つ日課がある事はご存知だろう。
そう、上条とのメールである。

さあ、ここで先程の「つもりであった」なのだが、
要するに美琴は間違って送ってしまったのだ。
「あの馬鹿」について書かれた恋愛相談のメールを、「上条」に。
それがどういう意味か、想像するのは容易いだろう。
美琴がそれに気付くのは、上条からの「お返事」があってからであった。

その後二人がどうなったのか、それを言うのは野暮になるので、ここらで止めておこうと思う。









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