とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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2年後の1年間



―――プロローグ

学園都市、人口230万人その8割は学生である。
そんな中一人の少女がいた。
超能力者、学園都市に7人しかいないレベル5の第3位、御坂美琴だ。
ある日美琴は不良に絡まれていた。それを助けようと一人の少年がやってきた。
それが二人の出会いであった。

最初はただの『お節介で馬鹿な奴』くらいでしか見ていなかった。
しかし、とある事件をきっかけにその思いは少しずつ変化していく。
10月のある事件で『恋』という今までになかった感情が芽生える。

2年後
とある少年と同じ高校に入学する。
もちろん先生には反対されたが、それでも美琴を止めることはできない。
とある目的を果たすために…


4月―――始業式&入学式

今日はとある高校の始業式、そして入学式だ。
新しく入学した1年生達が前の席で座っている。
今は校長の話だった。

「うっだー、だりぃ…何がすぐ終わるだよ、あれこれ30分以上話してるじゃねぇか!」
げんなりしながら上条は校長を睨みつける。
すると後ろから土御門の声が聞こえた。
「なぁカミやん、今年は常盤台から数名来てるって噂だぜい?それであのハゲは張り切ってるんだと思うにゃー」
マジかよ!?、と驚きを隠せない上条。
常盤台、生徒全員がレベル3以上という実力派エリート校だ。
そのお嬢様たちがこんなごく一般な高校に来ることなんて考えられないのだ。
(ううう…なんか寒気がする。常盤台…まさかな、流石にそれはないな)
一人で勝手にうなずく。
「どうしたんだにゃーカミやん?話長すぎてどこか逝っちゃったかにゃー?」
なんでもねぇよ、と答え、ぼんやりとありがたい話を聞いた。

始業式が終わったので、あとは帰るだけだ。
靴に履き替え校庭に出る。
1年生のせいか辺りは何やらにぎやかだった。
「………。!!…!」
後ろから何か声が聞こえたが、入学当初だからはしゃいでるんだろと適当に考える。

「なんか青春してるなぁ」
とよそ見しながら歩いたら少女にぶつかる。
きゃっ、と可愛らしい声を上げ尻もちをつく。
「あ、ごめん大丈夫か?」
上条が手を差し伸べ、その少女は上条の手を掴み立ち上がる。
「ありがとうございます」
頭を下げ走り去っていく。
上条も校門を出ようとした辺りでバチッ!という大きな音が聞こえた。
「うわっ!?何だ、何だ、何ですか!?」
辺りを見渡すと一人の少女が立っていた。いや、一人しかいない。どうやら全員避難したようだ。
(さっきのって電撃だよな…ってまさか!?)
今日土御門に言われたことを思い出した。『常盤台の生徒が数人、入学する』と。
ここまで破壊力がある電撃を出せるのは一人しかいない。
御坂美琴
だ。目の前の少女はまぎれもなく我が高校の制服を着た御坂美琴だった。

「アンタって奴は…」
何やら物凄い殺気と怒りに満ちている。
「朝、声かけたのに無視するし、さっきも無視したわ…」
「み、御坂サン?ナニイッテルンデスカ?上条さんには何の覚えも―――」
あった。確かに朝誰かに声をかけられた。
『3年スタートと同時に遅刻ですか、俺!?』
とかなりやばかった為、周りの声なんて耳に入らなかった。

「アンタに入学すること教えたかったし、アンタと一緒に学校行きたかったのに!
それなのにアンタは…見知らぬ女の子と…この天然女たらしがああ!!!」
物凄い勢いで電撃の槍を乱射する。なにやらスル―された怒りだけではなく、今さっきの少女に少し嫉妬しているらしい。
当然上条は電撃を打ち消すことしか頭になかったので分からない。
「うおっ!?あぶねぇ!とりあえず逃げる!あと御坂!入学おめでとううう―――」
「えっ!?あ、ありがとう。って逃げるなコラァァ!!!」
その後上条が一日中逃げ回ったのは言うまでもない。


6月―――1年D組 教室内

教室は賑やかで生徒たちの会話が聞こえる。
その中美琴はクラスの女子と会話していた。
「早く恋したいな…」
ある少女が呟いた。すると隣の女子も頷く。
(やっぱりみんな高校生になると真剣に考えるようになるのね…)と適当に考える。
「御坂さんって好きな人っているんですか?」
小柄な他人行儀の少女が尋ねる。
「え、私?いない…かな」
目が泳いでいて非常に怪しい、しかしそれ以上追及されなかった。

「私は好きな人いるよ…?」
周りの女子がその黒髪の少女に質問する。
「どんな人?」「同級生?」「年上?」「名前は?」
みんなかなりのハイテンションになっている。
恋愛なんてそんなものだろう。
しかし、美琴はそのことにあまり興味を示さなかった。
今は自分のことで頭がいっぱいだった。
黒髪の少女は答える。
「えっと…年上の3年生…」
『3年生』そのワードに引っかかりを覚える。
(まさかね…流石にそれは考えすぎよ。うん、それはない)
とりあえず落ち着き、少女の言葉に耳を傾ける。


「上条さんっていう人なんだけど…」

的中だった。ここだけは違ってほしかった。
しかし上条がモテるのも事実だ。前にバレンタインのチョコを見してもらった時、
あまりにも数が多くて絶句した。

「どうして好きになったの?」
とある少女が尋ねる。
「入学して間もないころに道端で不良に絡まれたの。そんな中、赤の他人の私を助けてくれたの…」
上条はよく見知らぬ人を助け、その後いい関係になりフラグを建てるという伝説がある。
もちろん美琴もその一人なのだが。

「「おおおお」」
歓声が上がる。
「今度告白しようと思うんだ…」
衝撃的な一言が聞こえた。下手すれば先を越される可能性もある。
また一人美琴のライバルが増えた。あの馬鹿…、とみんなに聞こえないように呟く。


7月中旬  放課後

美琴は体育館の近くをなんとなく歩いていた。
すると目の前に同級生の黒髪の少女とツンツン頭の少年――上条当麻が立っていた。
二人に見つからないように物陰に隠れて様子をうかがう。要するに盗み聞きだ。


「上条先輩、付き合ってください」

はっきりと聞こえた。付き合ってくださいと…。告白だった。
もしこの告白が通れば?考えるだけで辛くなる。
しかし、その少女が断られても自分は平然としていられるのだろうか?
友達がフラれたのに、同情もしないで喜べるだろうか?
それは人として、恋する乙女として最低だ。
そんな複雑な気持ちになった。すると上条が、


「ごめん、俺、お前と付き合えない」
振ったのだ。申し訳なさそうな顔をして。
「ど、どうしてですか…?」
「俺、         」
美琴は上条の言葉を聞きとれなかった。いや、聞きたくなかった。怖かったのだ。
その少女は失礼しました、と礼儀よく頭を下げて泣き顔で走り去っていく。

誰もいなくなった体育館裏、美琴一人がポツリとそこに立っていた。
あの少女は振られた。もしかしたら上条には好きな人がいるのかもしれない。
(私も、もし告白したらあんな風に…)
前向きの発想をしようとしても、ネガティブになってしまう。
(本当に目的果たせるのかな、私)
深くため息をつき、その場を去る。

帰り道をトボトボ歩いていたら後ろから声をかけられた。
「おっす御坂、今から帰りか?」
ビクッ!と肩が大きく揺れる。
「え!?、あ、ええ!?」
よりによってこのタイミングで話しかけられるとは思ってもなかった。
神様は私にどうしろというのだ。
「???どうしたんだお前?」
「な、何でもないわよ…、それでアンタは何の用?」
「え、別に用はないって言うか…何だ?んーじゃぁ一緒に帰らないか?」
頭を掻きながら空に飛んでる気球を眺めていた。
「別にいいけど…」
(なんか今日の御坂元気ないよな…)
なにやら考え事をしているのか、上の空だった。
「どうしたんだ、お前元気ないけど…。悩み事とかあるなら俺に言えよ?」
美琴が悩んでいるのは上条のこと…即ち『恋』だ。
「何でもない…」
「そうか…?なに―――」
「何でもないって言ってるでしょ!…あ、ごめん。今は一人にさせて」
今まで見たことのない辛そうな顔をしていた。
これ以上追及するのは美琴を傷つけてしまう、そう思った頃には美琴はもういなかった。
「…」

美琴は走って寮に戻っていた。

「はぁ…またアイツに当たっちゃった…」
なんだか憂鬱になってきた。明日からまた頑張れるのかと不安になる。
すると美琴のケータイが小刻みに揺れる。
確認すると上条からメールが着ていた。

『何にもないって言われても心配するのが俺だからな。まぁ何だ一人で抱え込むなよ。
お前は一人じゃないんだし、俺がついてる。(何だこれ書いてて恥ずかしいぞ)
あと一言言わせてくれ。元気出せよ』

たったこれだけなのに、何故か元気が湧いてくる。
たった一言であっても心にしみる。
この感じは何だろう。

「何よあの馬鹿…これじゃまるで私…」
自然と涙が溢れてくる。
「ただの泣き虫じゃない・・・!」
奥歯を噛み締め、拳を握り締める。
またあの少年に勇気をもらった気がした。
大きな勇気を・・・


10月

毎年恒例、大覇星祭が終わり一端覧祭に向けての準備期間に入った。
授業は午前で終わり午後から準備に入る。
3年生は高校最後の思い出作りとしてがんばっている。もちろんあの少年も。
そんな中、美琴は時間をやりくりしていた。

前日の夜、上条に電話をした。
『あのさ、明日の午後何処か遊びに行かない?』
いわゆるデートの誘いだ。もちろん上条は気付いていないだろうが。
『え?準備とかあるから無理なんじゃね?』
『大丈夫よ、時間をやりくりすれば一緒に遊ぶ時間くらい…駄目?』
電話越しだが美琴がどんな顔をしているか想像できた。
『まぁ時間があればな、早く終わるように努力する。じゃぁ校門で待っててくれ』

テキパキと仕事をこなしていき、どうにか時間を作れた。
とりあえず約束の校門で待機していた。
数十分くらい待っただろうか、上条が来る様子はない。
すると、メールが着てた。
『ちょっと時間かかるから先に帰って公園に待っててくれ』
待ち合わせの変更だった。
上条が約束を忘れてないということだけ確認できて一安心だった。

寮に帰り、私服に着替える。
常盤台と違い、制服じゃなくてもいいので美琴としてはありがたかった。
(久々にアイツと遊べる…今日は買い物とかいろいろ付き合ってもらおうかな…)
期待に胸を膨らませて公園へと向かった。

公園に着き、自動販売機でジュースを買い、ベンチに座る。
目をつぶって上条が来るのを待っていた。
足音が聞こえたので目を開けると数人の男に囲まれていた。
「お譲ちゃん俺たちと何処か行かない?」
「…」
美琴は上条と約束した。『何もしてこない限り電撃は使うな』と、被害を最小限に収めるためだろう。
だから相手から何かしてこない限り美琴は手を出せない。
その間に何を言われようが耐えるしかないのだ。
(早く来てよ…)
あの少年が来るのを待っていた。美琴を助けてくれるヒーローを…


「はぁはぁ…やべぇ遅れた…」
学校から公園まで走ってきたのだ。
「美琴はどこだ…?」
息切れしながら辺りを見る。
ベンチを囲むように数人の男が立っていた。
怪しい…、と思いベンチに近づく。
すると一人の少女…美琴がベンチでナンパされていた。
こいつも結構巻き込まれやすいよな…、と思いながら美琴に向かって走る。

「いやーすみません。俺の彼女がお世話になりました―」
前にもこんな展開あったような…、と思い出す。
(遅いわよこの…でもよかった、ちゃんと来てくれて)
安堵しうっすらと笑みを浮かべる。
「行くぞ、御坂」
上条が手を伸ばす。その手を掴み、人ごみへと逃げる。

あれから人が多い地下街に来た。ここなら安心だろう。
「なんというか…お前も良く巻き込まれるよな…」
「失礼ね、別に私は誘ってるわけでもなく、ごく普通に待ってただけよ」
なにか気に障ったのかそっぽを向く。
(誘ってるわけない、ねぇ…)
美琴を見るが、タンクトップに上着(カーディガン)を羽織っている。
活発的な少女のイメージなのだが、結構肌が露出している気がする。
もちろん美琴はそのことには気づいてない。
「お前そんな格好で寒くないのか?」
「別に寒いってわけじゃ…。あと似合ってる…かな?」
何やら上目遣いでこっちを見つめている。
(はぁ…この展開は慣れたけどよ…道行く人の視線が美琴に止まるって、少し刺激強いんじゃね?)
とりあえず適当に返事をする。
「似合ってると思うけど…あとその格好は刺激が強すぎ―――」
最後まで言おうとしたが、電撃が飛んできた。
「はぁはぁ…これ以上変なこと言ったらただじゃおかないわよ…」
何やら羞恥と軽い殺気を感じる。これ以上何か言うと間違いなく殺れる。
「は、はい!気をつけます総監!」
「じゃぁ行くわよ」
少し不機嫌になっていた。いつものことなのだが。


行先はゲームセンターのようだった。
この時間帯だと学生たちで溢れ混雑している。
「御坂、何やるんだ?」
「特に・・・まぁついたら考えるわ」
無計画かよ、とつっこむ。
「ここよ、ここ」
とりあえず中に入る。やはり中は学生たちで溢れていた。
しかもカップルが多かった。何故か気まずくなる2人。
「金下ろせばよかったな・・・ん?」
上条の視線が壁に貼ってあるポスターに止まる。
『本日まで!カップルイベント―――カップルだとワンコインで2回ゲームが遊べます!詳しくは近くの店員に聞いてください』
分かりやすく言えば100円でUFOキャッチャーが2回できるということだ。
首を90度回転させ、美琴の肩に手を置く。
「え??な、な…」
突然のことに体がカチコチに硬直する。
(ど、どうしたのコイツ…急に真剣な顔になって…、まさか……キ、キス!?)
顔が爆発したように一気に赤く染まる。
(ま、待って…まだ心の準備が…)
目を瞑りキスが来るのを待つ。
「どうしたんだお前…顔赤いぞ。まぁいいや…御坂―――」

「御坂、俺の彼女になってくれ!」

美琴の中で時間が止まる。
(え、それってこ、告白!?アイツが?私に…?)
「あの、御坂?やっぱり駄目だよな、はぁ…」
残念そうな顔をして深くため息をする。

「だ、駄目じゃない、いいわよ彼女になってあげる…でもちゃんと……」
何か言おうとしたが言葉が詰まる。
(ああ…恥ずかしすぎて言えない…私の意気地なし…)
「ありがとな御坂!よし店員つかまえるぞ」
「え?ちょっと、待ってよ、待ってってば!」
上条が店員を捕まえる。
「あのポスター見たんですけど…」
「あぁ、カップルイベントですね。ちょっとついてきてください」
店員の後についていく。 美琴は何のことかわからないので上条に問う。
「ねぇ、何なの今の?」
「そういえば説明してなかったな。イベントやってんだよ。カップルだと得するんだとさ。
それでお前が俺の恋人役になってもらったってワケ」

え…、今コイツ何て言った?
(恋人…役? じゃぁさっきの告白って……嘘…だったの?)
「???どうしたんだお前…」
触れてしまった。上条は乙女心で最も触れてはいけないことに触れてしまった。
今の美琴の乙女心はズタボロだ。
「アンタって奴は…乙女心をもてあそんでおいて…」
今の感情は、ほんの少しの悲しみと怒りしかない。
バチバチと電撃がはじける音が聞こえる。
「み、御坂…ここで電撃はヤバイって!色々壊れちゃいますって!」
なにやら叫んでいるが今の美琴には聞こえない。
狙うは上条当麻。…それ以外どうなってもいいと思えた。
「しねええええええええええ!!!」
光速で電撃の槍が放たれた。
しかし上条は反射的に右手を振りかざす。
電撃を防ぎ、美琴に向かって走る。
「しぬ、マジでしぬ!…ってか御坂行くぞ!!」
美琴の頭に右手を当て、抱くような形でゲームセンターを出る。
(な、何?抱きつかれてる…?アイツに抱きつかれて…る―――)
そこで美琴の意識は落ちた。

あれから上条は地下街を出て、結局あの公園に戻ってきた。
美琴は気を失いベンチで寝ている。

「はぁ…不幸だ。店内でビリビリだわ、美琴は気を失うし…」
とりあえずベンチに座り空を見上げる。
「雨とか降らないよな…てか美琴は大丈夫なのか?」
美琴を覗くように顔を近づける。

美琴の意識が徐々に戻ってくる。
(ん…あれ私どうしたんだろう…)
目を開く。視線の先には上条当麻がいた。
(え!?顔が近…近い…ってえぇ!?)
起き上がろうとしたら、上条のデコと美琴のデコがぶつかる。
「「痛ッ!?」」

「アンタは…寝てる私になにするつもりだったのよ!」
「な、何もしねぇよ!てかお前の電撃しゃれにならないから―――」
再び電撃が飛んできた。
「あれはアンタが悪いんでしょうが!乙女心を…」
「おい、御坂―――」
胸の中から何かの感情がこみ上げてくる。
出してはいけないと分かっているが、もう抑えることができない。
「私は…彼女になってくれ、って言ってくれて嬉しかった…。好きな人に告白されたと思って
嬉しかった…。私は―――」

「アンタ、上条当麻のことが好きなのよ!」

数秒間沈黙が訪れる。ついに言ってしまった。
(やばい…言ってしまった…。もう後には引けないわよね…でもこの日が来るのをずっと待ってた、
この学校に来た目的を、コイツに告白するという目的を果たせたし…)

美琴がこの高校を選んだのはもちろん、上条と同じ高校だからということもあるのだが、
美琴には目的があった。告白するという目的が。初めて好きになった人に告白するという大きな目的が。
しかし、この目的は1年で果たさないといけない。上条が卒業するまでに告白しないといけないのだ。
その目的も達成できたわけだが問題は上条の返事だ。

「ごめん…」
美琴の体から嫌な汗が出る。この『ごめん』は果たしてどういう意味なのか。
怖い。やはり怖い。結果を聞かずに今から走って逃げだしたい。
しかし、もう決心した。ここから逃げない。何があろうが…


「御坂、ごめん。あのさ…この返事、3月…卒業式まで待ってくれないか?」

「え?」
フラれてわけではない、要するに保留だった。
ただ上条の中には少し迷いがある。
「だからさ、卒業式には答えを出すし、その間はしっかり考えておく。それまでは普通に接してくれ」
この前とは違った。すぐ振るわけでもない。ちゃんと考えてくれる。
今後の関係を崩さないためにも…コイツはやさしすぎる、と思った。
小さくため息を吐く。
「わかった。でもしょうもない答えだしたら承知しないわよ!」
と言って走り去る。
「承知しないか…。上等だ、この野郎」

笑みを浮かべ、寮に向かって歩いていく。
上条はこの少女の笑顔を守りたいと思った。
昔味わったことのある、懐かしい感覚だった。


2月―――(バレンタイン編)

美琴ver

美琴はとりあえず世話になっているクラスの女子にチョコを配り終え、
席に着きぼーっと、窓越しの空を眺める。
するとクラスの女子が尋ねてきた。
「美琴は男子にチョコあげないの?」
美琴があげると喜ぶのに、と付け足す。

美琴は成績優秀、スポーツ万能、人付き合いもうまく、男女関係なく、まさにあこがれの的だった。
そんな美琴から毎年チョコを貰う男性はどんなに幸せなのだろうか…。

「いや、だって義理貰っても嬉しくないでしょ」
「義理?美琴はこのクラスに本命いないんだ~じゃ本命は年上???」
不気味な笑みを浮かべ何やらメモしている。
この少女はクラスのあらゆる人から好きな人および好きなタイプを聞きだしている。
もちろん美琴が上条と一緒に帰っているところも目撃された。一応マークされてるらしい。
「ち、違うって本命なんていないわよ!変な想像膨らませないでほしいわね…」
プイと目線をそらす。
(怒った美琴も可愛い…)口に出そうとするも飲み込む。

(まったく黒子のせいで変な耐性ついたわ…)
ため息をし、再び窓越しの空を眺める。
(アイツ、どうしてるかな…)
ぼんやり考え、短い昼休みを過ごした。


上条ver(本編)

上条は美琴と同じ景色を眺めながらつぶやく。
「はぁ…チョコほしいな…」
すると両肩あたりにスクリューパンチが飛んできた。
「いってぇ!!?何するんだよ!」
「カミやんが言うと何かムカツクぜい。毎年数十個貰ってるくせに…」
「ほんまやで。カミやんそれ僕たちに挑戦状送りつけるようなもんやで?何が不幸やねん」
「うっせー土御門、てか青髪!てめぇクラス違うだろ!いつからいたんだよ!!」
ぎゃぁぎゃぁ騒ぎ、仕舞いにはボカスカ殴り合いが始まる。
数分後チャイムが鳴り、第一ラウンドが終了した。

あれから昼休憩に入る。上条はすでにクラスの半分の女子からチョコを貰っていた。
『上条君いつも不幸だからこれ食べて元気出してね』 『不幸だから』『不幸(以下略。
など不幸に同情してチョコをくれた(らしい)。
貰うのは嬉しいのだが時々、男子からにらまれている。この幸せモノが…と。
(ううう…耐えるんだ上条当麻!!こんなの毎年恒例じゃねぇか!)
頭を抱え込みながらうなだれる。
気付けば上条の目の前に一人の少女が立っていた。
「ん?どうしたんだ?」
あまり見たことのない顔だなと思う。多分後輩か別のクラスの娘だろうか。
「あ、あの……チョコ作ったのでよかったらどうぞ!」
頭を下げラッピングしてあるチョコを上条に渡す。
「あ、ありがとう」
その少女は頬を染め走り去る。誰だったんだろうな、とぼんやり考えていた。
上条は無自覚に人を助けたりするので知らぬ間にフラグが立っていることがよくある。
そんな幸せ者の上条を一人の少女が睨んでいた。

背丈165cmくらいの茶髪の美少女…美琴だ。
なにか言いたそうな眼をしてこっちを睨んでいる。
気になったので廊下に出て美琴に話しかける。
「どうしたんだ御坂?不機嫌そうな顔して…」
「何でもない…」
「本当か?なにか言いたそうだけど…」
「あぁ、もう!うるさいうるさいうるさい!!!放課後用があるから校門に待ってて!」
と言い走り去る。なんだったんだ…、と思った。教室に戻ろうとすると後ろに物凄い殺気を感じる。
「カミやん~まだ懲りてないのかにゃー?」
「罪人には裁きが必要みたいやなぁ…」
黒い笑みを浮かべ肩を鳴らす。
「ふ、不幸だぁ!!」
いつも通り叫び、廊下を全力疾走する。第2ラウンドスタート…。


放課後

まだ上条狩りは続いていた。
「お前らしつこいぞ!てか人数増えてるし!」
青髪達と同意見の男子(主に3年)が上条を追いかけまわしている。
「カミやん、いい加減諦めるにゃー」
「諦めたらそこで人生が終了しますからね!!」
靴を履き替え校門まで走り抜ける。
校門の前で美琴が落ち着かない様子で待っていた。
「うおおお!御坂、待たせてすまん!急だがちょっとついてこい!」
美琴の手を握る。
「え、え?ちょっと……どういうこと!?」
「訳は後で話すから!今はとりあえず逃げるぞ!」
校門を出て道をジグザグに駆け抜ける。
「「おのれぇ!上条!また見せつけやがってええ!!!」」
およそ10人の生徒が追いかける。

路地裏に来て美琴が追いかけてくる人からの殺意を感じ取ったのか、
「アンタなにか追いかけられるようなことしたわけ!?」
呆れたような口調で尋ねる。
「何もしてませんことよ!?アイツ等はただの妬みと嫉妬だけです、ハイ!」
帰ってきた回答にも呆れる。
「はぁ?待って、それって前にも同じような理由で追いかけられなかった?」
「そうだったような…?はぁ…毎年不幸だ…」
ため息をつき後ろを振り向く、最初より人数は減ってきている。
「めんどくさいわね…もうアイツ等焼いていい??」
昔と違い許可なくやらなくなった辺り大人になったな、と上条は実感する。
「いや、約束しただろ、害にならない限りは手を出さないって…」
そんなやり取りをしているときに、後ろから能力で作った槍を飛んでくる。

「うぉ!?あぶねぇ!」
右手をかざし打ち消す。幸いスピードはそんなになく見てからでも十分消せるほどだった。
当たらないことにイラついたのか今度は乱射してきた。
(能力者には便利だけど限界があるだろ…!)
幻想殺しは右手のみに働く力なので限度がある。自分の能力の性能に歯噛みする。
すると、消し損なった流れ弾が美琴の頭上に向かって飛んでくるのが見えた。
美琴は不意打ちに驚くも、電撃で打ち消そうとするが、
「御坂、あぶねぇ!」
美琴を突き飛ばし、右手をかざす。

「はぁはぁ…御坂大丈夫か!?」
「大丈夫、ありがとう……。……あー!もうムカついた!アイツ等、私たちに手を出したから焼くわよ!」
何かに火がついたようだ。もう美琴を止められないだろう。
「わ、わかった。あのさ御坂…こんなこと言うのも何だけどよ、最低限手加減しろよ?」
「分かったわよ…。アンタ等、さっきから私の邪魔してんじゃないわよ!!!」
バチバチィ!と電撃を放ち、上条の手を握り走り去る。
大丈夫かなぁ…、と少々心配する上条であったが、本人が『手加減したから』と言ってるので
美琴を信じることにする。

それから走り続け、公園で一休みすることにした。
ベンチに座り、ぐったりしてる上条だったが本来の目的を思い出す。
「そういえば御坂、用ってなんだ?」
「えっと…まぁここでいいか。アンタ、ちょっと目瞑って」
普段はあまり見せない、真剣みが伝わってくる。
「え、なんで?」
「いいから、早く!」
とりあえず言われたとおりに目を瞑る。
(なんか女の子に目を瞑ってとか言われたらなにか不穏な響きが…)
勝手に知恵熱を出し、うううと唸る。

その様子を見て呆れたようにため息をする。
「もう開けていいわよ」
目をゆっくりと開く。
すると目の前にはラッピングされた箱(チョコ)を持った美琴がいた。
「これ…アンタにあげる」
頬を赤く染め目線を逸らす。恥ずかしいのだろうか、と適当に考える。
「えっと、なんだ……、ありがとな御坂」
「ど、どういたしまして」
嬉しい。喜んでもらえてすごく嬉しい。
好きな人に喜んでもらえることはここまで気持ちが良くなるものなのか、と感動する。

「あの…」
「ん?」
「卒業式…返事待ってるから…絶対忘れないでよ」
「あぁ、ちゃんと覚えてるし、俺なりにちゃんと答えを考えてる。だから―――」

もう少し待ってくれ、と言い美琴の頭を撫でる。

(期待しちゃ駄目だってわかってるけど…)
もっと上条に甘えたい。もっと満たされたい。ずっとそばにいたい。
そんな欲望が体中を駆け巡る。
我慢したくないし、自分のすべてを上条にぶつけたいと思った。

「え?」
美琴が抱きついていた。
顔が胸板辺りに密着してあり、表情がよく見えない。
「お、おい御坂…」
「ごめん、もう少しこのままでいさせて…」
「……。勝手にしろ」
下手くそな笑みを浮かべ、優しく包み込むように抱きしめる。

ずっとこのままでいたい。しかし時間は止まらない。
あと何分、あと何秒このままでいられるのか。

(やだ、ずっとこのままで―――)

自分の心を読んだように上条が、
「御坂、お前が落ち着くまで―――」
「え?」
「落ち着くまでこのままでいいし、落ち着いたら離していいって言ったんだよ。
お前がすっきりすれば、こっちも後味悪くないし」
「……な、なによこの馬鹿…。わ…私は別にそんなんじゃ…」
否定しようとするも声に力が籠らない。
「じゃぁ、なんで泣いてるんだよ。お前がそんな顔するのが一番辛いんだっつーの」
美琴も今自分が泣いていることに気づいた。
止めようと思うも涙が溢れてきて止まりそうになかった。
だがこの涙は『辛い』『悲しい』という感情ではなく、ただのうれし泣きだった。
上条の優しさに心を打たれたのだ。
「うれし泣きよ…この馬鹿…!」
美琴は泣きながら幸せそうな笑みを浮かべていた。
照れ隠しに,上条の胸を駄々っ子のように叩く。
「はぁ…何というか不幸だよな」


3月―――卒業式

上条はクラスの打ち上げに誘われた。
しかし、美琴との約束があり、遅れることになった。

今はいつもの公園…記憶を失った上条が初めて美琴と出会った場所にいる。
すでに美琴は心の準備ができている。
「私はアンタのことが好き。この思いは変わらない。それでアンタは?」

上条は一旦深呼吸をし、呼吸を整え、美琴を見つめる。

「御坂―――」


「俺…御坂のことが好きだ」
「俺、お前がそばにいてくれるだけで何でもできると思えた。お前じゃないと駄目なんだよ、だから―――」

「俺と付き合ってくれ!」
深く頭を下げる。しばらくの間沈黙が続く。
上条が頭をあげ、美琴を見ると唇が小刻みにブルブル震えていた。そんな口から声が漏れる。

「良いに決まってるじゃない…何考えてるのよ。私は、ずっと待ってたのよ…。
私もアンタじゃなきゃ駄目なの。アンタじゃなきゃ何の意味もないのよ…」

「御坂…」
上条がとった行動は単純だった。 美琴にキスをし、ギュッと抱きしめた。
美琴は今何をされたか理解するまで数十秒はかかった。

「御坂、ごめんな。ずっとお前の気持ちに気づいてあげれなくて…ごめんな」
「ううん…いいの。だから、そんな顔しないでよ…」
再び唇を重ねる。
「ん…あ…」
「ん…!?(み、御坂…?舌が…)」
美琴が舌を入れ、上条の舌と絡み合い、美琴の唾液が上条の唾液に混ざる。
お互い頬を染め目を瞑る
美琴はこのままずっとキスしていたいと思っていた。
(キスはいいけど…これ以上はまずい、理性が…)
上条は若さゆえの過ちを犯す前に、唇を離す。
すると美琴は赤く染まっている頬を少し膨らませて不満そうな顔をしていた。
「み、御坂…いきなり舌とか…」
流石の上条も頬が赤く染まっていた。
「だ、だって…当麻辛そうだったし、私の気持ちを行動で伝えようと思って…」
何か今大胆な発言をしたようだが、それよりも今名前で呼ばれなかったか、と考える。

「当麻?…今名前で呼んだか?」
一瞬にして美琴の顔が真っ赤に染まる。
「よ、呼んでない、呼んでない!気のせいだってば!」
「そうか?何か残念だな」
「御坂、もう一回確認取るけどいいか?」

「え?」

「馬鹿で、不幸で、変な問題に巻き込まれて入院したりもする。
下手すればお前も巻き込んでしまうし、迷惑かけるかもしれない」

「そんな俺だけど…付き合ってくれるか?」


「当たり前じゃない、こっちは覚悟決めてるんだから…。ただし―――」
呼吸を整え腹から声を出す。
「浮気したら絶対許さないんだから!覚悟しておきなさいよ!」
黒い笑みを浮かべている。これは危険だと察知した。
しかし上条は冷静に、
「浮気は絶対しない、絶対だ。お前を泣かせるようなことはしない。
お前の幻想は俺が守るって決めたんだからな」
上条にも覚悟はあった。上条は自分の信念は曲げない。
脅しをした自分が馬鹿みたいだ。
コイツならすべてを任せれる、ずっと一緒にいれる、そう思えた。

「……馬鹿」
笑みを浮かべ、上条にキスをする。
コイツとこれから一緒に歩んでいこう、という誓いのキスだった。




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