とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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学園都市統括理事会




第04話 御坂美琴(1)


2020年 5月1日(金)午後4時 

統括理事会定例記者会見場

もう記者会見など慣れ切ったものだが、会見場へ到着し、最初の一口目を語りだすまでの
5分がやけに長く感じる。
マスコミからはいつも堂々とされてますとか、さすが上席は違いますね・・とか
言われるが、正直やらずに済ますことができるなら、全部突っ込みなしの
YOU TUBEで済ましたいのが本音だ。

素顔を知る当麻はよく知っているが、素顔の私は不器用な、かつ照れ屋な女でこんな
場所は昔はできるだけ忌避していた。3人の最高幹部の中では相対的にマスコミ受け
するのは私だろうという消極的な理由で3年前から実施しているだけで、記者会見
などしなくすむならやりたくはないのだ。

私は手を握りしめながら、ハッカアメを舐め、一気に噛み砕く。

8Kハイビジョンは、発汗や法令線、鼻毛の一本一本など残酷なまでにその人間の
表情を映し出すので、AIMジャマの感知限度ぎりぎりで生体電流を微調整し、発汗や
震えを強制的に止める。

少しの落ち度でも見つけて面白おかしく掻き立てる奴らに弱みを見せるわけ
にはいかない以上、あらゆる方法を駆使して、冷静沈着な上条・・・
今日からは復姓して御坂美琴を演じ切らなくてはならない。

会議室を埋める報道陣、カメラの放列、突き出されたマスコミ各社のマイク。
肉食獣のように、科学世界の法王庁とまで揶揄される学園都市統括理事会を代表する
私の一挙一頭足を監視し、揚げ足を取ろうと待ち構えている、そんな報道陣に対して、
気おくれするのはしょうがないだろう?

表面上はやれ、科学の世界の天使だの、AIプリンセスだの、リケジョの星だの
大物芸能人のように持ち上げるマスコミも、なんかあったら引き釣りおろして
やろうという悪意を内心に抱えていることを隠そうともしない。

持ち上げて、瑕疵を見つけて叩きのめすのはマスコミの常套手段だ。
昔、都知事選挙で最初は高齢の大物マスコミ人を持ち上げ、その後スキャンダルで叩き落とし
たの有名な話だ。そうゆう手合いの思惑にのるわけにはいかないわね・・私はいつも
用心はしている。

欧米では女性大統領や首相などニュースにすらならず、あの男尊女卑で
有名な韓国ですらとっくに女性大統領が誕生したのに、いまだに女性政治家
を色物扱いする世界の趨勢から取り残されたガラパゴスのような極東の島国
のマスコミでは、年若い学園都市の実質的な代表者への視線は決して好意的
なものだけではない。ぶしつけな記者のセクハラまがいの視線、スカートの色
だの、ハイヒールのブランドだの旦那との夫婦関係だの、まるで芸能人のように
本質に関係のないことで特集記事を書く。

まあ東京のマスコミで、上条美琴の記事がでればまず部数が確保できるなんて評判が
あること自体は悪くはない。日本国民のアンケートで10年後の日本国の首相にしたい
候補第一位も悪くわない。

すべては有名税、学園都市のおぞましい過去を覆い隠すための広告塔という観点なら
まあ大とはいわないが成功と言えるだろう。

継続的に、保護者を信用させ一定数の子供を確保するという目的のための笑顔を振り
まき、アレイスターの負の遺産のせいで一時は悪の巣窟とさえ言われた学園都市の
イメージを再建したんだからファインプレーだろうと自負はする。

アレイスターとその側近だった木原唯一の暴虐が、暴露され一時は地の底まで落ちた
学園都市の評判を回復させるのは並大抵の努力では済まなかった。
学園都市は結局は子を愛する親の信頼なしには成り立たない。それをだまし、ごまかし
もてあそんだ、アレイスターの負の遺産は今も私の手足を見えない拘束具のように
締め付ける。

それを「木原」の抵抗を、ハッキングや秘密預金の暴露といった半ば脅迫じみた手法で
叩き潰し、強引に「開かれた学園都市」を掲げ、信頼回復に努めなければ、今の
隆盛はないだろう。と自負する。フィンテックやA1の波も幸いし、軍事に偏った
学園都市技術をだいぶ民生重視へ転換できたのもこの「開かれた学園都市」路線の
おかげだろうと多少の自負はある。

だが正直、学園都市の主流である「木原」にあまり情報公開は、歓迎されていない。


私が半ば強引に推進する「開かれた学園都市」路線は、学園都市の存立基盤である
「学問の自由」にとって相矛盾する要素がある。学園都市は、「木原」が閉ざされた
学園都市の中で好き勝手に人体実験できたからその先端性を維持できたことは
否定できない。
それを開いてしまえば、学園都市なんて・・維持不可能だぞと。

それは一理はある。だが、もうそんな選択肢はない。と私は断言する。
そもそも大事な子供を預けた親の信頼を失った学園都市に、もはや好き
勝手に人体実験する自由などあるわけない。クローンやサイボーグで
悪辣な実験を行った、少なくとも学園都市以外では正当化されない
実験を行った過去は消えない。

だから「開かれた学園都市」以外の道はない。と私は思っている。
(面倒くさいけどね・・時間だ・・さあそろそろ始めるか。)

 ・・・・・

PM 4:55
「以上で、VRを利用した、仮想空間上での遊園地の世界展開の話は終わります」
「では終わりに、私個人の報告を致します。私学園都市上席統括理事上条美琴は
 先週の記者会見でお伝えした通り、本日から対外文書での呼称を旧姓の御坂美琴
 へ復姓させていただきます。なお戸籍及び住民基本台帳では、法律が施行される
 10月1日に復姓の手続を実施します。」
「では各社様から質問を受け付けますどうぞ」

「THKの有働です。上席は今度復姓されますが、配偶者の理解はいかがですか?」
「配偶者である上条当麻及び娘の上条麻琴とはよく話し合いを行い、その意義と
 意図はしっかりと共有し、賛同を得ています」

「東経の斉藤です。上席は総理の男女共同参画社会の理念に賛意を示す一環として
 今回復姓されるわけですが、日本という国家があるいは社会が、現状男女共同参画
 社会という観点でどうゆうフェーズであると認識されていますか?」
「まず私は、日本国の国政に対して、発言する立場でないことを申し上げますが、
 先週の会見でも説明しました通り、企業ことに大企業の役員や、国会議員の女性の
 比率などの数字で見る限り、欧米はおろか、近隣諸国と比較しても著しく立ち
 遅れているのは事実だと認識はしております」

「国民新聞の五代です。上席は実質的には学園都市の最高指導者だと
 目されています。その上席から見て、日本の現状の男女間格差の問題は本質は
 何かと思われますか?」
「最高指導者扱いされるのは光栄ですが、まだ現状は上が一人います。それは
 ともかく、外部から見て法律の問題というより意識の問題だと思われますので
 割当制などのより強制的な方法を検討されたらよいのではと思いますが、
 それには結果の平等か、機会の平等かどちらに重きを置くかという
 コンセンサスなしには進展しないと思います。」

まあ、このへんは良心的な話で何時間でも議論してもいい。

だが、このへんになるとどうだろう?質問者の意図を疑う。
「夕刊ゲンダイの小林ですが、いままでおしどり夫婦で知られた、
 上席ご夫妻ですが、一部で離婚の危機だとか、上条当麻氏の
 不倫疑惑の指摘もありますがどうですか?」
私は多少の皮肉を込めて言い放つ。
「上条当麻が聞いたら私へ土下座するでしょうね。本当なら。ですが実際は違います。
 上条は女性へ偽りのない無私の精神を持っており、困った女性を見ればかならず
 手を差し伸ばします。私は上条当麻のすべてを肯定し、そのすべてを愛しています」
我ながらくさいセリフを吐くが、事実だから大げさに主張する。
「ではほかに質問もなければ、これで終わります。」

ようやく終わった。たかだか1時間だがものすごく長く感じる。

まるで離婚を前提としての報道。公人には基本プライバシーの保護は
及ばないという話だが、事実にもとづかない報道は、どうなんだろう。
とはいえ訴訟を起こしたところで、労力のわりに対した成果がないのは
数々の判例が示すとおりなのでやる気もない。

難しいのは、マスコミは憲法で保証された「表現の自由」という錦の御旗を
掲げていることだ。
これに対して逆らうのは「開かれた学園都市」を掲げる私の政策上困難極まりない。

表向き「開かれた学園都市」を掲げている以上、聞かれたことは答える必要がある。
私は木原をマスコミを使い掣肘している。だからマスコミは立場上は味方に
つけ、利用する必要はある。

まあいい。夫婦別姓という餌は蒔いた。あとはそれをうまくコントロール
するだけだ。
さあ、上条美琴よさようなら。今日から御坂美琴よ。


私は原点へ戻り、頂点を目指す。

 ・・・・・・・・
自宅 19時
「当麻ただいま」
「おかえり美琴」

「ああ・・まったくたかが小都市国家の副首相でなんでこんなにプライバシーを
 根掘り葉掘り聞くんだかね。おおげさよね。たかだか私という記号を変えるだけ
 なのに」
「まあ・・いいじゃないの。美琴はいつも言っているよな。学園都市の負の遺産は
 自分が中和すると。愛らしい美琴がアレイスターの解毒剤になっているならいいん
 じゃなねえの」
「愛らしいか・もうだいぶ年もとったけど。そろそろフレッシュな人材へ広報担当
 を変えようかしらね。」

「はあ?これだからお姫様は。まだ30だろう?新生学園都市で美琴くらい
 その価値感を 自分の言葉で語れるヤツはいないだろう」
「ありがとう。でもね。正直な話世代交代は必要かなと思っている。でももう少し
 頑張ろうか迷っている」
「美琴・・ひょっとして理事長になりたいのか?」
「ふふ・・さすがね。わかる?ええなりたいわよ。ハンモックナンバーの呪縛を
 打ち破ってね。」

「はあ・・美琴。鈴科だって別に、お前が理事長になることに反対しないだろう」
「当麻・・それは違うわよ。私と一方通行だけの関係では済まないのよ。」
「それは木原唯一の残党の妨害か?」
「それだけでないのよ。」
「え?だけど・・今の学園都市でお前に逆らえるやつなんているのか?」
「当麻・・・今までに17回あるわよ」
「え?」
「上条美琴暗殺未遂」
「そんなにあるのか・・・」
俺は、にこにこいつも笑っている美琴が、その裏で暗殺計画を
握りつぶしている現実に打ちのめされる。

「まあそれが不都合な真実てやつよ。私には魔術も
 窓のないビルも暗部もない。 自分の勇気と予算と
 ハッキングと、AI開発能力と、アンタだけが頼りよ」 
「だから・・・もう一度力を貸して。魔神さえ、
 嫉妬したアンタの右腕の力を」
「なるほど・・そうゆうわけか。」
「え?」
「分かった。腑に落ちたよ。水臭いじゃないか。
 美琴・・もう一度新婚に戻って やり直そう。」
「お前は死ぬ気でやり抜くつもりなんだろう。
 昔と同じように、誰にも頼らず 木原を、この学園都市の悪弊を
 ぶち壊すつもりだろう。御坂美琴に戻って」

美琴は、声を失い当麻の顔を見つめた。
普段は鈍感なはずの配偶者の意外なほど
鋭いまなざしに動揺を隠しきれない。
「え・・それはその」
美琴は目にうっすら涙を浮かべる。
「美琴は・・隠し事は昔から得意じゃないよな。いや・・俺がわかるだけか・・
 学校でも、戦場でも、理事会でも俺以外の誰にも悩みを隠しとおすよな。
 いやそれが美琴なりの責任感なのは理解するけど、少しは俺を頼ってくれよ」
「ごめん・・なさい。でも当麻だけには気がついてほしくなかった。」
「ふふ・・美琴は可愛いな。本当。賢いところも、気丈なとこも、でも本当は
 弱いとこも。俺は地獄の底までついてゆくよ」

美琴は零れ落ちる涙を吹き、鼻声になりながら、
微笑みを浮かべるという器用な表情
を浮かべ、元の自信に満ちた顔を取り戻す。
「やっぱり当麻は強いのね。惚れ直したわ。
 じゃ・・昔を思い出して少し
 楽しいことしようか?」
美琴は車のキーをバッグから取り出し、ドライブをせがむ。
「ああ・・じゃ・・新宿でもいくか?」
「ふふ・・楽しみね。じゃ・・昔よく行った夜景の綺麗な
         フレンチレストランでもいこうかしら?」
覚悟が決まったのか吹っ切れたのか溢れんばかりの
笑みを浮かべ美琴は腕を
組んでくる。美琴は、腹が座れば、
死ぬことも失敗することも恐れない。
「じゃ・・今日は精一杯甘えさせて」
美琴は昔のように、真っ赤に表情を換え、
普段のツンツン凛々しいモードをひっこめ、愛らしい乙女モードを全快に、
手をつなぐ。
「こんな美琴さんの表情を暴露されたら美琴ファンに殺されそうです」
「馬鹿・・逆でしょ。元世界一の旗男。私こそアンタの元ファンに殺されそうだわ」
「はあ・・今思えば高校生のころはモテていたんですね。美琴が伴侶になって初めて
 気が付きました。」
「なに・・私を伴侶にしたことを悔やんでいるの?」
美琴はそれまでのデレデレモードをいっぺんさせ、俺の左手を馬鹿力で握りつぶそうとする。
「当麻・・私この前、能力なしでスチール机たたき割ったけど、その威力試してみる?」
美琴の馬鹿力を知っている俺は、すぐに土下座モードに移行する。
が、・・美琴はすぐに正気を取り戻す。

「ごめん。。当麻・・ちょっと私どうかしてた。最近、木原反主流派と冷戦状態で気
が立っていたわ 本当ごめんなさい。」
俺には詳細はわからないが、全世界に点在する協力機関内部に存在する
木原残党と美琴の間で消耗戦を繰り返しているらしい。
もっとも木原主流派自体は美琴に忠誠を誓っているらしいので詳細は見えないが。
「じゃ・・気を取り直していこう」
1分前激怒した表情はまったく見せず、また元のデレデレモードにさっさと戻した
美琴は、俺の右手に自分の右手を絡ませ恋人モードへシフトチェンジをする。
「ふふ・・じゃ。。いこう自動走行モードで新宿までね」
「たまには、俺に運転させろよ」
「それは、自動運転推進派の私の立場上まずいかな・・でもまあいいや。
 交通法規を守って安全運転でね」
「俺がAIに負けるわけないだろう?」
「ふふ・・当麻、私が開発した第4世代は、F1でぶっちぎりの1位なのよ・・勝てる?」

美琴は溢れんばかりの笑顔で俺を挑発する。そうだよな・・結局俺が美琴を選んだ理由は
この溢れんばかりの生気と自信に満ちたお嬢さまを守りたいと思ったからだった。
俺は、美琴のやっていることの詳細は分からない。
だがこの自動走行車も含め、美琴が開発責任者である学園都市のAIプロジェクトが
世界を変容させつつあることは分かる。だから・・今の学園都市は美琴なしには
なりたたないこと以上、いや・・そんなのはお題目だ。美琴は元の名まえに戻って
まで俺と娘を守り、自分ですべて終わらせようとしている。

俺は心の中で美琴へ聞こえないようにつぶやく。
そんなに俺が頼りないのか?
美琴・・お前が俺が頼りないと思っているならそんな幻想は俺がぶち壊す。
世界中のどんな力を使ってもお前をくそたれな世界から救ってやる。


続く











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