とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part62

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匿名ユーザー

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まま


ドアが乱暴に開け放たれた。
ゆっくり、ふらつきながら、
傷だらけの男は、歩みを進める。

家の中は悲惨な状態だった。
日々を彩っていた花は、粉々になった花瓶とともに床に散らばり、
妻が愛した絵画は刃物でズタズタにされている。
何時間も店を回って選んだ数々の食器は、1つ残らず床に叩きつけられていて、
妻が娘のために作ったヌイグルミは1つとして無事じゃない。




そんなことは些事だ。




『あ、お~かえり~』

食卓に、変わり果てた妻がいた。
床に酒瓶が10以上転がっている。
全て彼女が飲んだ酒だろうか?

『あでー? だーりんが3人もいるよー?』

『おい』

『あ!! わたひのためにニンポー習って増えてくへたんら!! だーりんでハーレムー!!』

『おい!!』

嘗て優しく彼女を抱いた手で、
男は妻の肩を掴み、無理矢理立たせた。

『どうなってるんだ!!』

『あらぁ、もう、激しいにゃあ』

『あの娘は!!』

『わかってんにょにいわせるにょ? どえしゅなんらからゃ』

『あの娘はどうしたんだ!!!』

『あはははははははははははははははは!!』

何度も、何度も、
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も
彼女の肩を揺らす。

ふと、笑い声が止まり、
妻の表情が、死人の様に変わり、
たった一筋の雫が目からこぼれ、

彼女は

一言、

呟いた。

『あの@、&ん#ゃった…』

システム復旧率
99%


「はい、はい!! すぐ代わります!!」

月明かり降り注ぐ神奈川のとある駅、
上条の携帯で美琴が誰かと電話している。
彼は携帯の音に反応できていない。

一端覧祭が終わった後だった。
美琴たちより先に家につき、ようやく担任から何度も留守電が入っていたことに気づいた。

『か、上条ちゃん!! 大変です!!』

上条詩菜がパラグライダーで事故にあったとの報告だった。



心が、停止した。




以降、まったく記憶がない。
そういえば、玄関のドアが開いた音が聞こえた。
あと、必死の形相で走り回り、電話をかけ続けている美琴が、視界の端に何度か映っている。
神奈川まで来れたのは、きっと彼女のおかげなのだろう。

その彼女が制服の袖を引っ張り、携帯を自分に差し出している。
美琴の表情が、あまりにも現状に沿わない気がした。
ゆっくり、もしもし? と携帯に告げる。







『もしもし? 当麻さん? 詩菜です!!』

急に視界がクリアになった。

「へ? え!!? か、母さん!!?」

『当麻さん、今どこですか?』

「ど、どこって……み、美琴、ここどこ?」

「詩菜さんが搬送された病院の最寄り駅よ」

「わかった。もしもし? 今近くまで来てる」

『あらあら、やっぱり間に合いませんでしたか。心配かけてごめんなさい。私は骨折程度ですんでます』

命に別状はない。

力が抜け道端に座り込む。
詳しい話は後程。とりあえずゆっくり来るように言われた。

「よ、よかったぁ」

上条はようやく息をつく。

「あ、あれ?」

今更になって体が震え出した。
ダメだ、止まる気配がない。

「大丈夫だから!!」

「ぱぱ!!」

まるで、あの北欧の時のように、力強いぬくもりに包まれる。
違いは、美琴の片手にもう1人いることだろう。
少しずつ、息が整っていく。
溢れていた汗が引いていく。
ゆっくり、ゆっくり震えがおさまっていく。

「……ありがとう、もう大丈夫だ」

5分ほどして、ようやく立ち上がった2人。
再び歩き始めた上条は、少しずつ現状を、感情を、整理しはじめた。
まず最初にやらなければならないことに、ようやく気づく。

「美琴、本当に助かった。ありがとな」

「……気にしないで」

スッ…

ん?

(今、目を反らされた???)

ずーん、という音を背負い、
顔は笑いつつも目で泣く上条。
たまたまだ!!たまたま!! と小さく叫ぶ声を聞く余裕が、今の美琴にはない。

(ここにいる資格は、わたしにはないのに……)

昨日、いつものように上条を追いかけているとき、
仲良く談笑する上条とオティヌスを見つけた。
なぜか隠れる自分に驚きながら、
腕に抱いたインデックスに静かにするよう伝える。



そして、上条の「愛してる」との言葉を聞いた。



パニックになった。
悲しみより先に「どうしよう?」という疑問が出てきた。
それほど上条と共にいることが普通になっていた。
混乱する頭で、必死に考えて、考えて考えて、ようやく答えがでた。

(わたし……もう、一緒に、いちゃ、ダメなんだ……)

はらはらと、ほほを何かがつたった。
どこをどう歩いたかわからない。
気付いたら、ホテルにいた。
恐らく、防衛本能で上条の元に帰らなかったのだろう。
今上条を見たら、自分がどうなるかわからない。

(このまま、距離を置こう…)

彼の隣に別の人物が立ち、彼が笑顔でいるのを見たくない。
2度と会えない。

突然、耳に音が入ってきた。

「まぁま!! どしゃたの!!? だーじょぶ?? ぱぁぱ、メッ!?」

「い、いん、でっくす……」

今にも泣きそうな、
不安に押し潰されそうな娘がいた。
この子に、罪はない。


自分には責任がある。
ままと呼ばれた責任がある。
この子の問題が一区切りつくまで、自分じゃない誰かを母と呼ぶまで、上条に完全に拒絶されるまで、
それまでは、この子の母でありたい。
「頼りになる仲間」でいい。彼の隣に立っていたい。

あまりにも短い利用時間に、ホテルのカウンターで苦笑された後、美琴は覚悟を決めて上条の元に向かった。

しかし、彼の顔を見た時、覚悟もなにもかもを一端忘れた。
尋常ではない。
放心しきった上条から、携帯を奪い取った。

『へ? え? だ、誰なんで「いいから!! なにがあったか話して!!!」

状況を聞いた後の動きは、凄かったと自分でも思う。
病院の場所を調べ、移動手段、外に出る手続き、最低限の荷物の準備を全て同時に行った。

現在、足下を見つつ歩く美琴は思う。

(当麻を支えるのは、オティヌスじゃなくちゃいけないのに。なにをしているのよわたしは!!)

しかし、勝手に体が動いたのだから仕方ない。

「おい、美琴?」

「あっ、えっと、なに?」

「入るぞ?」

いつの間にか病室の前だった。
美琴が気付いたのを確認して、上条は中に入る。
ドアの向こうにはベッドに座った上条詩菜と、彼女と談笑するスーツ姿の男。安心した表情の上条刀夜だ。

「お、来たか、当麻」

「当麻さん、すみません、心配させてしまって……」

患者衣を着ている詩菜。
固定された両足が痛々しい。

「いや、命があってなによりだよ」

「ごめんなさい……美琴さんも来てくださったんですね」

「あ、い、いえ…」

「最初は意識もなくて、連絡が遅れたそうだ。安心しろ、頭部にも異常ないらしい」

実際に元気な様子を見て、緊張が一気に解けた。

「当麻、美琴さん、一端うちに行こう。明日、なにか用事はあるかい?」

幸い、明日は一端覧祭の振替休日。
1泊して、明朝また病院に見舞った。
ここで別行動がとれない自分に、美琴はさらに憂鬱になる。
しかし、上条は気づかない。

翌日、病室に入ってそれぞれ用意された椅子に座った。
ドタバタとこちらに来た2人は制服姿だ。
話を聞くと、刀夜も自分たちが来た直前に着いたらしい。
詩菜は、短期間での入院で済むそうだ。

しばらく談笑するなか、刀夜の視線は捉えた。
詩菜が、美琴を見つめている。

「……母さん、散歩に行ってくるよ」

近くをぐるっと、と付け加える刀夜。

「いってらっしゃい」

「気をつけろよー」

「なにいってるんだ当麻、お前も来るんだ」

「は?」

気付けば、当麻が有無をいわさず引きずられていった。
慌てて追いかけようとする美琴を引き留めたのは、他でもない、詩菜だった。
一方、病院を出た刀夜は空を見上げる。
そんな父を見て、息子は不満そうに問いかけた。

「おい、父さん、どこいくんだよ?」

「さて、どこにいこうか?」

妙に、青空が透き通っている。

窓は、揺れ動く雲を写す。
青と白のキャンパスを瞳に写し、彼の母親は、ゆっくりと口を動かした。

「……大覇星祭のとき、年末にお会いしようと、約束したかと思います」

美琴も、その時のことを思い出す。
自分と上条が付き合っているとホラを吹いた美鈴の言葉に、詩菜の表情が崩れていた。
今と、同じように。

「本当は、年末にアナタにお話ししようと……いえ、年末までに覚悟を決めようと、考えていました」

インデックスは、お昼寝の時間だ。
美琴の腕の中で、スヤスヤと眠っている。

「でも今回の件で、人間、明日が約束されたものではないと、痛感しました」

窓を写していた瞳が動き、不安に押し潰されそうな自分を写す。

「……アナタにだけは、聞いてほしいんです。あの子の、過去を」










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