とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part65

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ただいま


ブザーが鳴り響く。
暗闇の中、カエルに似た顔をした医師は窓の外を眺めた。
外に広がるのもまた漆黒の闇。
開け放たれた窓からは、すっかり冷たくなった風が入り込んできた。
あの問題児はここから出ていったらしい。

「まったく、困った患者だね」

ふぅ、とため息を吐き、振り返る。

「君の用事は、彼に関する話かい?」

病室の入り口に佇むのは赤子を抱いた1人の少女。
御坂美琴だ。

「聞きたいことがあるの」

記憶の中にノイズが走る。
埋め込まれた思い出、生きているのがやっとの状態の自分。
いや、あの男の前に、その人物は歩み寄った。

『ひどい傷だね?』

あの男の目は、もう見えていない。
だが、彼にもその声に聞き覚えがあった。

『大丈夫だ。治してみせるよ。僕は、医者だからね?』



夜の町を少年は駆け回っていた。
目的地はない。
だが、何者かに埋め込まれたであろうこの記憶が、
「あの男」の記憶だとしたら、
病院に留まるのは愚策だ。
幸いにも外傷が無かったためか、服は変えられていない。

「はぁ、はぁ…」

誰かの断片的な記憶がなんども自分が「あの男」なのだと訴える。

(アイツらが言っていたことに整合性なんてない!!)

しかし、でも、
心が叫ぶのだ。

自分の正体は……。

路地裏の壁を殴って走り出した。
制服の黒が、そのまま影に飲み込まれそうだった。
立ち止まった瞬間に、なにかを認めてしまうような気がした。

「……くそっ」

その時、
聞き覚えのある声が聞こえた。

(……ステイルと、神裂か!!)

笑みを浮かべ向かう。
だが、

「いったい、どこに行ったのでしょう!!?」

「魔術を消す流れから、この辺りには違いないはずだ!!」

(アイツらが、探しているのは……オレ?)

歩みが、止まる。

(……なんで?)

頭をめぐるは、最後の戦い。

『お前は、そんな下らない計画のために、あの子を犠牲にするというのか!!』

『貴様だけは、許してやるものか!! 何度もあの子を手にかけたこの手で、欠片も残さず焼き付くしてやる!!』

あの時、間違いなく自分は彼らの隣に立っていた。


だが、今はどうだ??



一歩、一歩、後ろに下がり、
そのまま少年は背中を向け走り出した。
ステイル達は気付かない。

「早く見つけて対策を立てないと、世界中の組織が上条当麻の命を狙うようになってしまいます!!」

「まったく、手間をかけさせる!!」

その状況を高みから見下ろすものがいた。

風車の上にたたずむは、
髪をお団子にまとめ、
所々ほつれたセーターを纏い、
あちこち裂けたストッキングをはき、
ミニスカートと白衣をはためかせる少女。

彼らの整った顔が醜く歪んだ。

「おうおう、いい塩梅だ!!」「だなぁ、『上条当麻』にない行動パターンだ」「困りましたね、まだ彼は諦めきれていないようです」「しかし、そろそろアレイスター君への義理は果たしたろう。脳幹、そろそろ私は実験を行いたい」

さらに、歪む。

「上条当麻でもアレイスターでもない今の彼になら、あらゆる可能性が眠っているはずだよ」

恍惚の表情。
それが冷静な顔に変わるのに、さして時間はかからなかった。

「私を含め、油断をするのは木原の悪い癖だな」「私が言えたたちではないが、過去の経験に学ばないのは、感心しないな」

自分の言葉に少女の顔が疑問で彩られた瞬間、
音のない何かが少女を襲った。
薄れゆく少女の意識が捉えたのは、
粉々に砕けるスマートフォン、
血しぶきを放ちながらブーメランのように飛ぶ自分の腕、
そして、

「さてさて、想定通りの結果でありしな」

風車の羽で見え隠れする、
魔女の、笑み。

ローラ=スチュアートは、
落ち行く少女にもう視線を向けることはない。
彼女が目に捉えていたのは、ツンツン頭の平凡な少年だ。

「なぜ行ってはいけないのですか!!」

豪華絢爛な部屋。
円卓を叩いたのは、英国が誇る騎士団長。
向かいに座るのは、この国の長。
先ほど騎士団長が部屋に入ったとき、着物を着て天城越えを熱唱していた女王陛下だ。
もちろんソッコー止めさせた。

「我々騎士派は清教派の抑止力であるべきです!!」

先ほどまでののんきな気配は皆無。
ピンッと張りつめた緊張感に包まれている。

「あの男が倒れ、世界のバランスは大きく狂っています。そんなときにあの女狐が単身学園都市に向かった。科学側への宣戦布告と受け取られてもおかしくない!!」

今にも飛び出しそうな騎士団長の前で、あくまで女王は冷静だった。

「お前の言うことは半分正しい。清教派を抑制するのは騎士派の役目だ」

「だったら!!「だが」!!?」

「あの女は清教派という枠組みが消えようが、イギリスという枠組みが消えようが生き残る」

息を飲む騎士団長に、静かに女王は答えた。

「お前もイギリスも殺すわけにはいかん。ヤツも加減くらいわかっているはずだ。ここは耐えろ」

女王は敢えて続きを口にしない。

(我らがヤツにとって不要になっていなければの話だが……)

一度、彼は息をひそめる。
そして、再び友を背にして走り去った。

「いたかっ!!?第一位!!」

「…………クソッ」

「いないか…ちくしょう、上条の野郎どこ行きやがったんだ?」









「すまない。守秘義務だ。患者のためにも君の聞きたいことを教えることはできないんだね?」

暗闇の病室の中、 黒幕の一角に対するは、たった一人の中学生の少女。
いや、少女と赤子だ。

「まま?」

疑問を持ち、ちょいちょいと服を引っ張るインデックスに、そっと美琴は微笑みかけ、すぐに真剣な表情で視線を正面に向ける。

「じゃあ、否定はしないのね」

機器の明かりだけが室内を照らす。
もちろん互いの輪郭くらいしかわからない。
医師の重い口が動いた。

「あぁ、あの日、あの場所で、あの子が木原幻生から受けた創傷を治療したのは私だ」

そう、とだけ返事が帰ってきた。
さらに小さく「あう、んちゃ」と赤子の声も聞こえる。

数秒しかなかったが、医師には長い時が過ぎたように感じられていた。
あの男は逆に時間を短く感じていたなと、ふと思った。
そして、

「当麻を助けてくれてありがとう!!」

予想以上の展開に拍子抜けした。
目の前では御坂美琴が深々と頭を下げている。
呆気に取られている間に、
「ありゃとー!!」という元気な声も聞こえた。

「……どういうことだい?」

少女が頭を上げた。
暗闇で視界が利かない中、医師にはわかった。
彼女は、笑っている。

「疑問点は多いけど、答えてくれそうにないし、でもその時当麻を助けてくれたのも、今まで助けてくれたのも事実だし、患者のためとも言ってるわけだし」

いまのところ疑問はあっても、憎むことはないかな、と少女はいった。
医師には、ただただ彼女が眩しかった。

「……そうか、全部話せなくて、すまないね?」

美琴だからこそ気づいた。
医師の白衣からごくごく小さなブザー音が鳴っている。
電撃使いの最高峰ゆえに、
機器のごく微量な電磁波を感知した。
と、いうわけではない。

「また、あの子は危険な目にあっているようだ。頼む、彼を生きた状態でここまでつれてきて欲しい」

女の勘だ。
美琴は、医師の言葉が言い終わる前に、
窓から空へ飛び立った。















2、3度バウンドした。
地面を転がる少年に、いつもの覇気は見られない。
そんな彼に、冷笑を向ける人物が一人。

「おやおや、無様なありさまでありけりな。かつて見せていた余裕はどこにいきけり?」

闇の中で笑うのは、
英国屈指の魔女。

鉄橋にいるはずなのに、波の音ひとつしない。
橋から落ちればそのまま黒い景色に混ざりそうだ。

「まさか、自分で自分を殺すとは、さすがに予想外にけり。インデックスを預かるといいし時も、半信半疑でありし。まったく、名演技でありしよ」


ほめてやりなん。
そういって、ローラは右手を振る。
少年に飛来したのは、巨大な炎の塊。
ステイルたちならすぐに気づいたはずだ。
その炎は幻想殺しでは消せない。
ローラの魔術はキリスト教、仏教、イスラム教、ヒンドゥー教、アステカ、ブードゥー、エジプト、ケルト、ギリシャ、北欧、中国、日本神道、陰陽道にとどまらない、ありとあらゆる分野の炎の魔術を掛け合わせたものだ。
魔神が1つを極めた「質」の最強なら、ローラが使う魔術は数えきれない「量」の最強。

あわてて、幻想殺しで防ぐ。
もちろん処理しきれずに、弾き飛ばされた。

「いや、違う」

ローラの、かわいいとも表現すべき唇が動く。
少年は、言葉の刃を聞きながら空を舞う。

「いまの貴様は、反らすことを覚えていたはず。避けることもできたはず」

ローラが2歩あるく間に2回バウンドする。
骨にヒビが入ったな、と他人ごとのように感じた。

「お前、もしや」

少年の虚ろな瞳はすぐ先の闇を見つめる。

「自分が生きるべきか死ぬべきか、わからないのではないのか?」

少年の意識は過去にあった。

最大の敵と対峙する自分。
敵に捕らわれ泣き叫ぶ少女。
そして、
自分の背中を託した、敵意を相手に向ける……

だが、もしかしたら、自分こそが…………

(……イン、デックス………)

口から、血の味がした

(………………み、こと………………)









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