とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part67

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匿名ユーザー

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ただいま


彼女は一瞬、後方の少年に意識を向け、
再び敵に視線を向ける。
正面に立つ魔女が、少し目を細めた。

刹那、手すりからいくつものトゲが美琴の心臓を目掛けて伸びた。
少年が彼女の名を呼ぶが、一歩遅い。



既に彼女は磁力を活用して空を舞っている。
柱に降り立った美琴は冷や汗を流した。
吐き気さえ感じるプレッシャー。
脳裏にちらつくは紫の法衣。

だが、

「美……こと…………にげ、てく……れ…………」

誰だろうと退けない。

少年の元に飛んだ美琴。

「ごめん、インデックスをお願い!!」

インデックスを上条に押し付け、再び最強に挑む。

「まま!!」

「やめろ!! 美琴!! オレたちじゃ勝てないんだ!!」

家族の叫びを背に、
美琴は紫電を走らせる。

しかし、

「"神鳴り"なぞ、魔術業界ではあまりにありきたりでありしよ。まさか、ゼウスレベルあるわけでもなかりせば……」

電撃は霧散。
いや、一度散った電撃は再びローラの右手に集まり、さらに強大な威力となって美琴に襲いかかった。

紙一重でかわす美琴。
そこからはローラの怒濤の攻撃であった。
火が、水が、土が、風が、鉄が、音が、光が、闇が、草が、氷が、
美琴の命を奪おうと殺到する。
電撃を纏い、放ち、美琴は正確に全てをいなす。
縦横無尽に舞う美琴の表情は、

焦り。

(こ、このままじゃ…………)

詰め将棋。
計算し尽くされた全ての攻撃。
美琴は、さながら逃げ惑う王将。

必死に打開策を練る美琴の耳に、
魔女の囁きが届いた。

「理解できかねしよ」

頬に傷ができた。
数センチずれていたら失明していただろう。

「なぜ、お前はその男を庇いしか?」

怪訝な顔をする美琴。
しかし、後方の少年は目を見開いた。

「ま、待ってくれ!!」

作られた、静寂があった。

「絶対能力者計画」

美琴の顔が固まる。
今、彼女が見ているのは過去。
妹達と赤、狂気と白。

「あなたの人生を狂わせたあの実験。主導した男こそ、この街の指導者…………」

人間。
アレイスター:クロウリー。

「やめろ!! やめてくれ!!」

少年の絶叫を聞き、
赤子も不安な表情を浮かべる。
しかし、魔女の弾劾は終わらない。

「例えば……」

美琴の耳から、ローラの声以外が消えた。

「あの男が死んでいなかったら? あの男の計画が終わっていなかったら? いまのこの状況もあの男の計算どおりなら?」

魔女は少年の心を殺す。

「その少年があの男のクローンであり、次の器だとしても、お前はその少年を庇いしか?」

少年の世界が壊れた。

少年の世界が壊れた。

目の前が見えなくなる。
息も途絶えた。
温度も感じない。
音は霧散した。

遠くで、美琴が「当麻が、あの男の、クローン…………」と呟いているのが聞こえた。

失ってはじめて気づく。
あの幸福世界で生を諦めたのは、
なにも世界の全てが救われていたからではない。
彼の帰る場所が、そこに存在しなかったからだ。

現在、
彼は少女2人の敵になってしまった。
もし、オティヌスが最初に見せた、上条当麻が世界の敵となった世界で、この少女が現れていたら。
少年はもっと早くに生を諦めていただろう。

少年が、御坂美琴とインデックスの敵と明かされたいま、
この世界から、少年の居場所が消えた。

そう、思っていたのだ。

「違う」

雲が、動いた。

「アイツは、上条当麻よ」

ちらほらと、夜空に星が浮かぶ。

御坂美琴は、ローラを正面に見据え、
一歩も退かず、臆することなく言い切った。
さらに、ローラに背を向ける。
カツンカツンと、てんぽよくローファーが鳴った。

上条の目の前には、美琴の顔。
この表情は、何度か見たことがある。
どこだったかは思い出せない。
上条は思考とは別に、口が勝手に動いていた。

「悪い…………アイツが、言っていることは…………おそらく、間違いない…………だから」

ここまでいっても、美琴の視線は外れない。
苦しさが、爆発した。

「上条当麻なんかいなかったんだよ!! 上条刀夜と詩菜に息子なんていない!! いたのはある少女の絶望を生んだ、極悪人の クローンだけなんだ!!」

あの男の計画がまだ終わっていないなら、
その計画に自分が組み込まれているなら、
自分のせいで美琴やインデックスに害が及ぶ可能性があるなら、

どうかここで死なせてくれ。

「なら、いいなさい」

小さな声だった。

耳に入った音に少年が戸惑った瞬間、目の前の美琴が消えた。
違う。
いつのまにか飛来した鉄の塊に吹き飛ばされていた。

「美琴っ!!」

慌てて視線で追うが、美琴は無傷だった。
磁力でも使ったのだろう。

「そこまでいうなら、言ってみなさいよ!!!!」

空中の美琴は紫電を放ち、
再び襲い来る猛威に対抗しながら、

叫ぶ。

「そこまで言うなら、あの娘たちにお前たちは御坂美琴のクローンでしかないって、言えるもんなら言ってみなさい!!!!」

少年の肩が震えた。
なにもできず、攻撃を懸命に防ぐ美琴の背をただ視線で追う。

「あの女【ヒト】に、世界中で犠牲になった人のために死んで詫びろと言ってみなさい!!」

二人の脳裏には、隻眼の少女の後ろ姿が浮かんでいる。
美琴はようやく橋に降り立った。

「いってみなさいよ」

少年は、まだ、動けない。

「その子に、お前はオレの子供なんかじゃないって、言えるもんなら言ってみなさいよ!!!!」

ようやく少年に、
その赤子の声が届いた。

「うっ……ぐしゅっ…………ぱぁぱぁ、だーじょぶ?」

恐怖に震えながらも、その赤子は必死に少年を救おうとする。

「イン……デックス……」

少年の様子を視界の端にいれつつ、
魔女、ローラ=スチュアートはさらに熾烈な攻撃を繰り出す。

「さて、よくここまで耐えしよ」

鉄橋の中心には、一人の少女。
すり傷だらけ、息も絶え絶えな御坂美琴だ。
彼女の目はいまだ鋭く光り、敵を捉えたまま逃さない。
ヤツもまた余裕な表情を崩さず、鉄橋の中央にそびえ立つ。

「でも、そろそろチェックメイトにするとせし」

さらに遥か後方の大地がめくれる。
地面から伸びるは巨大な土の腕。
美琴の口が乾いた。
魔女は、残忍に微笑む。

「電気タイプには土タイプ。ジャパンが生みし固定観念に則ってみにけらんよ」

激流のように土の腕が美琴に襲いかかった。
が、

(…………ほぅ)

衝突の直前でピタリと止まった。

(土中の金属を使って止めた、では足りない…………鉄橋丸ごとを磁石にしたか)

歯を食い縛る美琴。
その耳に魔女の嘲笑が届く。

「ざぁ~んねん☆ 別に1つだけなんて言った覚えはなしにつき」

目を見開く美琴の右斜め後方。
土の腕が壁となってとなって美琴に突進する。
美琴は目をつぶった。

その後、
なすすべもなく美琴は吹き飛ぶ。
含まれた息は全て吐き出され、
骨は悲鳴をあげながら粉々になり、
内臓がいくつか潰れる。










はずだった。

衝突の直前。
腕は軌道を変えた。
磁力で止められていた腕の半分以上をえぐる形で、ローラの方に進む。

「ほぅ?」

ローラは魔力を解く。
腕が魔力を失い、粉々に砕けた。





しかし、この世には慣性の法則が存在する。

止まんねぇ。

「え? あれ?……ちょ、まっ、とうっ!!」

橋の手摺りまでジャンプ!!
ローラがさっきまでいた場所を、土砂が駆け抜けた。
代償にデコを手摺にぶつける。
ごーん、なんてギャグっぽかったらよかったが、ゴッ、というマジな音だった。
痛い、涙が出ちゃう。

「だって、女の子でありけりもの!!」

デコをさすりながら再び正面を見る。
そして、ニヤリと笑った。

ようやく美琴は瞳を開ける。
そこには

「ありがとな、美琴」

いつも追いかけていた背中があった。

「たしかにオレはあの男のクローンなのかもしれない。記憶をなくす前は美琴の人生を狂わせた大罪人だったのかもしれない。でもなぁ……」

上条は叫ぶ

「オレは上条刀夜と上条詩菜のバカ息子だ!! そしてインデックスの父親だ!!オレはアレイスターなんかじゃない。オレの名前は上条当麻だ!!」

立ち上がった魔女の視線を受けても怯まない。
そして、少年の横に少女が並んだ。
上条当麻は御坂美琴と一瞬視線を交え、宣言する。

「もしオレにアイツの計画を助けた過去があるなら、オレは一生をかけて償わなきゃならねぇ。だが、頭を下げるのはテメェなんかじゃねぇ!!」

夜空を埋め尽くす星空を背に、

「ぱぁぱ!! まぁま!! いーめ、めっ!!」

「この戦場から、生きて帰るわよ!!」

「なにがなんでも戻ってやる!! オレ達の家に!!」

ようやく、家族が揃った。

ローラは冷たい目を向ける。
挫けるどころか、再び立ち上がった敵を見つめ、
















魔女は、内心暗く笑った。









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