とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part70

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匿名ユーザー

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ただいま


美琴はポケットの中にそれを見つけた。
自分と彼の縁を繋いだままにしておきたくて、
ハワイで手に入れて浮かれていたのに、
勇気が無く、渡せていなくて、
いつもポケットにしのばせていた、それ。
自分の能力で仕上げた貴金属。

思考の暇などなかった。

美琴の周囲に、この世ならざる物質が産み出される。
それは、手放したはずの力。
それは、禁忌の手段。

美琴の影が徐々に悪魔に近づき、

「うわああああああああああああああ!!」

2つのリングは閃光となり、ローラの心臓を射抜く。


さらに光は進み、学園都市の外れ、
風力発電のプロペラに記されたルーンを破壊し、ようやく、
消えた。

光が産んだ爆音が、少しして学園都市中に響き渡る。

まさにその時、炎剣が浜面の首を飛ばすか銃弾がステイルの眉間に穴を開けようとするところだった。

まさにその時、反射のタイミングに合わせて刀が引かれるか、ベクトル操作で血流が逆流するところだった。

光と音に気づいた4人の口は、無意識にあの少年の名を発する。
ここにきて、ようやく互いが敵でないことに気づいた。

「ゴホッゴホッ……かはっ、がっ!!」

閉ざされていた喉に空気が通る。
かすれていた視界に色が戻っていく。
まず、視界に入ったのは、倒れて動けなくなったローラ。

そして、視線を移し、上条は絶句した。

「ぁぁぁああああああ!! ぅぁぁぁぁぁぁあああああ!!」

美琴が泣いていた。
それだけではない。
顔を除いた全身が、黒い何かに包まれている。
禍々しさを覚えるそれは、
大覇星祭のとき、美琴を覆っていたそれに近い。

「美琴っ!!」

立ちあがり、駆けつけようとする、

が、

「来ないで!!」

上条の前を幾万もの雷が阻む。
一瞬怯んだ上条の耳に入るは、
血を吐きながら、赤い涙を流しながら漏れる殺人者の懺悔。

「こ、ろし、ちゃった……ごめん、なさい……。ころ、しちゃった、もうこの力は使わないと約束したのに…………」

数多の紫電が鉄橋を駆け抜ける。

「どう、しよう…………。こんな汚れた、手じゃ、アンタの隣に立てない!! 当麻と一緒にいられない!!」

一際大きな電流が流れた。

「こんな手じゃ、インデックスに触れられない!!」

舞い踊る雷光は、まるで雄叫びをあげる龍。

鉄橋の上は、一歩でも踏み間違えたら稲妻により絶命する、神の処刑場と化していた。
まさに地獄とも呼べる場で、美琴の絶叫を聞いた上条は、笑っていた。
笑っていたのだ。
柔らかく、温かく。
ゆっくりと、近づいた。

「!!!?…………だ、め…………来ないで!!」

紫電が走るが、当たらない。
何度も、上条に向かって雷撃が飛ぶ。
しかし、全てが逸れる。

「……あぁ……」

ここにきて、ようやく美琴は上条が何かをした訳ではないと悟った。

「お前が、本気でオレを傷つけるわけないだろ?」

周囲の景色は電撃の雨で見えないぐらいだが、
上条には1つも届かない。

「頼むよ、そんなこと言わないでくれ。お前以外に、誰がインデックスを泣き止ますんだよ?」

少しずつ顔を黒に浸食されながら、
美琴はそれでも頭を振る。
しかし、上条は受け入れない。

「お前が隣にいないのは、オレもイヤだ。そんなことになったら、上条さん、泣いちゃいますよ」

いつのまにか上条は美琴の前に立っていた。
そのまま美琴を抱き締める。
黒い異物にヒビが入り、
ピシピシと音をたてて崩れはじめた。

「お願いだ、オレ達から離れないでくれ」

しかし、

「だ、め…………こんな、人殺しのわたしに、当麻達の横に立つ資格なんて無い!!」

さらに、美琴は声をあげようとした、
しかし、上条はそれをさせない。

彼女の口を己のそれで塞いだのだ。

長い時間がたった。
いや、もしかしたら一瞬の出来事だったのかもしれない。
ゆっくりと2人の顔が離れる。

「オレの横に美琴がいるのに、理由なんていらない。オレの横に立つのに、資格なんていらない」

美琴は、ふさがれていた息を必死に吸う。
表情は、戸惑ったままだ。

「もし、美琴がオレの横にいるのを否定するヤツがいたら、オレはそいつをぶっ飛ばす」

ようやく、美琴の目から、透明な液体が流れはじめた。

「もし、美琴やインデックスの命を狙って、オレと2人が一緒にいられなくするヤツがいて、そいつがそれを諦めないなら…………」

上条は笑う。

「きっと、オレはそいつを許せない。何がなんでも絶対に許さない。絶対だ」

上条は美琴に制服の上着を着せた。
美琴は当然の疑問を持つ。
違う、確信が得られないのだ。

「な、んで…………」

力が足りない。
知識が足りない。
経験が足りない。
約束も守れない。
かろうじて保っていた穢れていない手も、今日血で染まった。

自分は彼の隣に立つに、相応しくない。

そう思っていた。
しかし、上条はその幻想を粉砕する。

「お前のことを、愛してるんだ」

目を見開く美琴に上条は再び唇を落とす。
先程のような、息が詰まるほどの力強くはない。
なだめるような、泣く子をあやすような、心の温もりを伝えるような口付けだ。

上条は、再びゆっくりと距離を置く。

「お前が超能力者だろうが魔術師だろうが、人殺しだろうが聖女だろうが、天使だろうが悪魔だろうが関係ない」

視線はピクリとも動かず、美琴の瞳孔を捕らえて放さない。

「お前じゃなきゃ、ダメなんだ」

ようやく、美琴の表情が戻った。
そして感情が爆発する。

その時だった。

「その言、確かに聞きしよ」

戦慄。
慌てて上条は美琴を背に匿う。
歯が震える。
口が渇く。

そんな、そんな……。

「あら、あれしきで倒される訳なきにしよ、ラスボスは復活してなんぼのもんでありしな」

糸で引き上げられた人形のように、
ローラは再び立ち上がる。
傷ひとつ無い。
表情は全く変化の無い余裕。

汗が頬を伝い、
再び上条は拳を握った。
しかし、

「まぁ待ちにしよ、上条当麻。もう疲れたし、私は帰ることにせしよ」

提案されたのは、制止。
もちろん、警戒は解けない。

「あらら、まぁ当然でありしか」

じわり、と後退する上条。
しかし、無駄だった。

「だが、もう目的がなきよ」

彼女には、本当に敵意がない。

「あの言葉を、絶対にアレイスターは口にしない」

ようやく、波の音と風の音が聞こえはじめた。
少しずつ、上条達の警戒が解かれる。
ローラは、友人と話すかのように軽やかだ。

「当初は禁書目録をアレイスターにむざむざ渡してしまったと、焦りに焦っていたにしが、どうもこちらの見当はずれでありしな」

まるで先ほどまでの戦闘がなかったかのように、ここは平和だ。

「上条当麻とあの男がイコールでないならば、お前達には感謝こそあれ、敵対する道理はない」

学園都市にいるはずなのに、
星々の光が目映い。

「魔術業界には、私からいっておきし。これからも、インデックスのこと、頼みしよー」

瞬きしたときには、
ローラの姿は消えていた。
力が、視界が、ゆっくりと消えていく。
緊張が解かれた。

すでに、上条達に、意識を保つ体力は残っていなかった。

目が覚めたときに視界に入ったのは、
とっくに見慣れてしまった天上。
上条は瞬きする。
ゆっくり、明るくなる室内。
どうやら窓からの明り。
夜明けだ。

「目を覚ましたようだね?」

窓の方に視線を向ける。
立っていたのは、あの医者。
さらにその奥にはベッドが1つ。
横たわるのは…………。

「!!! 美こt……っ!!」

「動いたらいけないよ。普通なら全治4ヵ月だ」

上条がドタバタしたことで、美琴も目を覚ました。
同様に視線を隣に向け、
当麻、と叫ぼうとして痛みに顔を歪める。
んでもって、まったく同じセリフを医者は言うのだった。

「ほんとうに騒がしい患者さん達だね?」

悶絶する2人をしばらく見つめた後、医者は患者に問いかけた。

「何か、質問はあるかい?」

少しずつ明るくなる病室の中に、静寂が広がる。
医師にとってははあらゆる覚悟を込めた問いだった。
しかし、

「あのー、入院費、まけてもらえませんかね?」

少年は、困ったように笑う。
医者は丸い目を何回か瞬きさせた。
相変わらず意表をつかれる。
頭をかく上条を見て、医師は目を細めた。

「うん、免除しよう。君達なら大歓迎だね」

ぜひまた来てくれと言う医者に、アンタは言っちゃダメだろと2人してツッコむ。
医師は無視して出口に向かった。
そして、告げる。

「さて、上条くん、面会だ」

ドアが開かれた。
そこには、今まさにこの部屋にたどり着いた、上条詩菜と上条刀夜。
刀夜が押す車イスに座る詩菜。
彼女は暗い表情をしていたが、
ベッドの上の上条を見て、目を見開く。

「……!! 当麻さん!!!」

彼女は立ち上がり、上条に駆け寄った。
足はまだ治っていない。
相当な激痛だったはずだが、それを感じる余裕が詩菜にない。

「大丈夫なんですか当麻さん!!? 」

焦り、しかしそっと肩を掴み、子に問いかける母親。
医師が「普通は全治4ヵ月だが、彼らの体力なら2週間で退院できるね」と説明する。
しかし、詩菜の表情から不安は消えない。
苦笑し、本人から伝える。

「大丈夫だって、母さん。オレが丈夫なの知ってるだろ?」

ようやく、安心した表情になる母。
上条が安堵した瞬間だった。

「なにバカなこといってるんです!!!!」

激怒。
あの詩菜が感情を表したのだ。
驚き、目をキツく閉じる上条。
だが、予想外の衝撃は続く。
目を開いた。
体を包む、温もりを感じて。

「バカなことを、言わないで、ください。…………知らせを聞いて、どれ程私達が心配したと思っているんですか……」

無事で、よかった。
その言葉は、嗚咽に近かった。
何が起こったのか、理解するのに少し時間を要した上条。
すぐ変化が現れた。
涙。
最初は、何故泣いているのかもわからなかった。
いや、わかる必要などなかったのかもしれない。

「……ごめん、なざぃ…………ごめ゛ん、なざゃぃぃ…………」

上条は、顔をくしゃくしゃに歪めて泣いた。
むせび泣く親子の包容を見て、
ようやく美琴は心から笑みを浮かべた。
ベッドの奥にある窓から、
日光は降り注ぎ、病室を光で満たした。

ガタコンッ、と自販機の音がなる。
飛行船が今日の天気予報を映し出す空に、日が少しずつ昇っていく。

「ようやく来にけりか。遅きにつきよ」

飲み物を取り出しながら笑いかけるローラ。
視線の先に立つのは土御門である。
すさまじい表情の土御門だが、ローラの余裕は崩れない。
ほほ笑みを浮かべたまま、ゴクリと喉に飲み物を流し込む。

「……っまっずい!! なんでありけるのこれ!!? イチゴってストロベリーではなきにしか!!? うえっ、ぐふぅ、は、吐き気が…………」

七転八倒である。
が、土御門には関係ない。

「なにが目的だったんだ?」

「何って…………喉を潤そうとしにしよ~」

「……今回の件、お前はどこまで関与してるんだ?」

「私も情報に踊らされた身でありしよ。もう少しで超電磁砲に殺されるところであったりし」

「貴様の『上条当麻はアレイスターでない』という発表は線引きだ」

「わざわざここまで来て、骨折り損のくたびれ儲けどころの騒ぎじゃなきたれよ」

「上条はアレイスターだといえば、否定する連中と敵対することになる。要はお前の一言で、世界は上条当麻の敵と味方に2分されたんだ」

「そんな、大袈裟でありし~」

「お前は何を企んでる?」

「世界平和。そんなことより、後始末で手いっぱいなところ悪けれども、飛行機の手配をはやくしてくれなけれんか?」

あの超速旅客機は勘弁してほしきによ。
と、続ける黒幕。
チッ、と舌打ちしつつ、
土御門は病院へ足を進めた。
余裕の表情で手を振る最大主教。
彼の姿はもちろん足音まできえたとき、飛行船が日光を遮って影になった。
突然、飲み物の缶が地面を転がる。

「ガハッ、ゴホッガハッ」

地面が、瞬く間に染まる。
いや、彼女の服も内側から赤く滲んでいった。

「まったく、あそこまでお膳立てせねばあれを放てぬとは、仕方のないこと」

鉄の味を噛み締めた。
一人では立てず、自販機に手を添える。
それでも、彼女の笑みは崩れない。

「さて、こちらの準備は整いたりよ……」

ほんとうに楽しそうに笑うのだった。

「…………パーパ」

飛行船が動き、影がなくなる。
公園には、地面のシミも人影も存在していない。
ただ、飲みかけの缶が転がるだけだった。

刀夜と詩菜は、知らせを受けて飛んできたそうで、
まだ泊まるところの手配すらされていなかったという。
刀夜は一旦ホテルを探しに部屋を出た。
詩菜も、安堵したからか足が痛みだし、別の部屋に移動。
一度検査して様子を見ることになった。

そんなとき、
息つく暇なく、次の来客だ。
ドアがノックされ、彼女達が入ってきた。

彼女は、真剣な表情で待っていた。
必死に、その小さな体で不安と戦っていた。
そして、ようやく会えたのだ。

「「インデックス」」

白井に抱きついていた彼女は、
目を見開き、視線を動かす。
そこには、包帯だらけの両親がいた。
クリクリとした瞳が、揺れた。
そして、決壊。

「まぁま゛っ!! ぱぁぱぁ゛~!!」

泣きながら宙に浮き、
必死に母のもとに向かう。
美琴が広げた両手のなかに飛び込むと、
両親を呼び、泣き続ける。

上条は、体を軋めながら立ち上がった。
全身を走る痛みに顔を歪めるも、
笑みを浮かべて2人のもとに向かう。
一瞬、美琴と視線を交わした。
彼女は再びインデックスに視線を落とす。
母の隣に父は座り、娘の頭を撫で、
両親は、どちらともなく囁いた。


「「ただいま、インデックス」」










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