とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

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匿名ユーザー

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第3部 第12話 第三章(2)


9月19日(土) 午前5時

9月も終わりが近いのに、残暑がぶり返し、日の出前なのにむせかえるように
熱気が路面から遠赤外線を放射し、湿気もあり27度という気温以上に蒸し暑さ
を感じる。

日の出前だが、東側に薄明が大地を縁取り雲ひとつない晴天が季節外れの
猛暑を予感させる。風紀委員が日射病で倒れるわけにはいかないので、今日は
能力を使い、赤外線を多少操作し私と当麻の体感温度を下げる。
(まあある意味能力の無駄使いだけど、今日はしょうがないわね)

(この時期に何人日射病で倒れるかしらね・・)
確実な天気予報をもとに、各学校への注意喚起や、給水施設の確保など
万全な対策を実施してはいるが、各校の名誉を競うを大会の性格上、無理しない
と言っても無理をする生徒はいるだろうし、相当数の患者は覚悟しなければ
ならないだろう。

それにしても祭事は裏方に回らないと見えないものは確かにある。

180万の学生の合同運動会、通常警備はアンチスキルが主体とは言え、外部勢力
魔術や、反AI、反科学主義のテロリスト達の横行にはどうしても、風紀委員組織犯罪
対策部という名前の、ある程度合法化された新暗部が対処するわけで、その長である
私にはイベント成功の重責がのしかかる。

私はいつもように当麻と手をつなぎながら、ゆっくりと薄明の街を歩く。

「正直面倒くさいわね」
「え?」

「誰が、何をするか全部分かっている、だけど事前に手出しできない」
「なんかね・・治安機関の責任者という地位に限界を感じるのよね」

「へえ?」

「結局は火消にすぎない」
「目の前の危機だけ表面的に取り繕ったところで、この学園都市そのものの
害悪を抜本的に直すことはできない」

「そうか・・でもさ」
「あれを使って・・窓のない・・」

「当麻・・それは今は言わないで。アンダーラインを無効化しても、誰が聞いて
いるかわからないわ」」
「悪い・・」

「まあ、ゆっくりしましょ」
(でも・・今は幸せよね
私は今やっと手にいれた幸運を反芻し、穏やかな、当麻との平穏な日常
をかみしめる。

レベル5になって以来、毎日が実験、研究の連続で、兵器開発に追われた
日常。

いつもと同じ、多忙な私にとってささやかな朝の散歩のひと時という安らぎ、
だが、私は、その安息に満足しきっていたかもしれない。

多忙にかまけて自分の周りがいかに危機に溢れているかを忘れていたのもしれない。
少し感覚が鈍くなっていたかもしれない。正直奢っていたかもしれない。

これだけ、敵が多くいつもハリネズミのように研ぎ澄ましていたはずの、私の
危機管理能力が、自分が構築したAI捜査支援システムというブラックボックスに
摩滅し、皮膚感覚で感じるべき危機を感じる力を失っていたかもしれない。

だが、現実は常に残酷で、予想を超える。
たったひとつの情報が、平穏な日常を終わらせてしまうことだったあるのだから。
(こんな時間に・・初春さんからメール?)

私は携帯のメール着信に能力で気がつき、直接脳へ信号を送る
暗号の電気信号を、テキスト情報へ変換し、確認する。
内容が内容なので画面を通さず、返信文を脳内で作成し、送信者へ暗号文章を送信する。

(なんてこと・・)
(完璧だったはずなのに・・?なぜ)

だが・・・現実は現実
私は意識を不都合な真実へ切り替え、脳を高速で回転させ
危機対応モードに切り替える。1回エンジンがかかれば後は早かった。
(初春さんをせめても仕方ない、私が任した以上私が責任を負わなきゃない)

「当麻、緊急事態よ、すぐに風紀委員本部へ行きましょう」
「え?」
「説明は後急いで」
「オイ・・どうした」
「ちょっと急ぐから・・右手で私を触んないでよ」

「え・」
私は、久々に当麻を抱え上げ、磁力で高速移動を開始する。たった1分ちょっと
だが、それが長く感じられる。

ビルの合間を磁力でレールを作り、自分を亜音速で飛ばす。

冷静に考えれば、1分や2分遅れたくらいで何も事態は変わりようがない、
普段の、自分の怜悧な頭脳があればそんなことをわからないはずがない。

だが、血が上ってしまった私は、もう止まらない。
最短距離をほとんどビルにぶつかりそうになりながら飛ばし続ける。

こんなに鼓動が乱れるのはいつ以来だろう、生体電気を操り感情や、筋肉を
完全に制御できるはずなのに震えが止まらない。

呼吸は乱れ、思考がまとまらない

後悔と、自分の思慮の浅さに、自分を責めたくなる。
自分は甘かった。信じてはいけないものを信じてしまった。


(私は、なんという間違いをしでかしたんだ・・)
どんどん思考がマイナス方向へ誘導され、ここ3週間の様々な意思決定を
秒単位で振り返る。
(どこで・・なんで間違った・・)
それがわかるくらいなら、間違うわけなどないのだ。
気がつかないから、間違う。これも冷静な時なら気がついただろう。

私は屋上からエレベータを使うのももどかしく、非常階段を高速で駆け下る
入室に必要な複数の生体認証と18桁のパスワード入力を強引に能力で突破
する。

余りの高速移動にグロッキーになった当麻をソファに寝かし、異変に
気がつき駆け付けた初春さんに私は声をかける。

初春さんが、私の鬼気せまる表情に、事態の緊急性を再認識したのか
いつもより固い表情で声をかける。気のせいかその声には震えが混じって
いる。

「み・・御坂さん・・大丈夫ですか・・?」
「大丈夫なわけ・・」
ここまで言って、私は初春さんが何におびえていたのかにようやく気がつく
髪の毛からあふれ出す放電が作り出す、プラズマ火球におびえていたのだと。
私は、放電を抑え込み、話を続ける
「初春さん 御免・・てんぱっていた」
「いえ・・」
「で・・状況はどうなの?」
「み・・御坂さんに連絡した時点から特に進展はありません」

放電こそ収めたものの初春さんのおびえは止まらない、圧倒的な能力の片鱗を
見せつけられ、声に怒りが混じっている。雲の上の存在でかつ上司が怒髪天を
つく状況で冷静にいられるはずもない。
(これじゃ・・単なる上司のパワハラだわ。)
(御坂美琴・・落ち着かなきゃだめよ・・アンタの判断に数千人風紀委員そして
大覇星祭の運命かかっている)

「初春さん・・ごめんなさい。ちょっと一息つくわ・・」

私は、冷蔵庫から、500MLのPETのミルクティー2本を取り出し、初春さんに1本渡す。

「飲みましょう」

マイナス思考に打ちのめされていた私は冷静さを取り戻し、初春さんは落ち着きを
取り戻す。
「本当にありがとう。システムの改竄に気がついてくれて」
「いえでも、私のミスで御坂さんにご迷惑をかけてすいません」
「いいのよ・・初春さんの維持しているシステムへハッキングするなんて
誰も想定できないし、そのことは気にする必要はないわ」
「いいんですか・・?」

「起きてしまったことを悩むより、今は対策を立てる方が先」
「警備計画自体は・・変更しないわ」
「もう数千人のアンチスキルと風紀委員の予定をいまさら変更できない」

「ええ、御坂さんのおっしゃるとおりだと思います」

「それに・・」
私には見当がついていた。こんなことができる人間、こんなことをしそうな人間
私は、初春さんにある科学者の居場所を調査させる。
木原唯一、学園都市統括理事会の先端技術関係の責任者。
アレイスターの腹心中の腹心の一人。
私のライバルにして、私を何度も殺そうとした女

それにしても、懲りないやつね・・
(結局・・殺さない私が悪いでしょうね。・・それとも・・これも闇を浄化するのに
必要なプロセスなのかしら)
「システムが改竄された時点で、やつはまだ拘置所にいた」
「頼むわよ」

私は、意識を取り戻した当麻に声をかける
「ごめん説明するわ」

 ・・・・・・・・・・・・
「そうか」
「結局・・私の譲歩も、当麻の説教も効き目はなかったようね」
現時点で、木原一族との決定的な対立をさけ、保釈した私が誤った
それだけのことだろう

私は、エアコンが効いた執務室で、当麻と会話を交わす。
レンジでチンした冷凍おにぎりをおにぎりで腹を膨らます。

「まあ、腹が減っては・なんとかというし まずは腹ごしらえをしましょう」
「ああそうだな」

「しかし美琴がテンパるなんて珍しいな」
「そりゃ・・当てにしていた、自分が自信満々で設計したシステムが、改竄されて
いたなんてショックよ」

当麻が溜息を吐く

「木原唯一か反省しねえ厄介なやつだな・・」
「まあアイツらしいかな。諦めが悪いとこが」
「そうか・・でどうする?」

「後3時間でけりをつけなきゃないのが面倒くさいわね」
「アイツは私の立場に打撃を与えられればそれでいいはず」
「なるほど・・攻める方が守る立場より楽というわけだ・」
「私が失敗すれば相当立場がなくなる」
「受け身ではまけるわ」
「確かにそうだな」
私は、大きく息を吐き、自分なりの結論を婚約者につげる
「simple is best うだうだ悩んでもしょうがない、根を断ちましょ」
「それにそろそろ木原唯一の居場所も解るころでしょ」

「御坂さん・木原唯一容疑者の居場所が判明しました」
私は、大凡その場所が予想ついた。
そして初春飾利は、予想通りの場所を私に告げる。
「窓のないビルです」

「初春さんありがとう、でシステムの再計算にはどのくらいかかりそう?」

「トラップと改竄部分の解析が終わりましたので、大凡3時間くらいかと」
「ありがとう」

「美琴、殺すなよ」
「風紀委員が殺人するわけにはいかないでしょ」
「でも心を折らなきゃね・・」

結局は、彼女の自分だけの現実をまずは叩きのめすしかないのだろう。
曲がりなりにも学園都市の軍事部門を掌握した木原の敏腕研究者、狂った
学園都市を象徴する人物、木原唯一はそうしてやっと止めることができる。

  当麻は悪人さえも殺すことができない私の性格を危惧したのだろうか
  私に決意を促す。
「どうする?」
「当麻、己の信ずるところに従い行動すべし・・じゃないの?」
「原点に返るか・・そうだな」
「アイツにはアイツなりの正義がある。どんなゆがんでいても、独りよがりでも
ね。それを真正面からぶつかって叩きのめすしかないわ」
「ああそうだな、元美琴の上司で今はライバルだろう」
「ええそう・・だからこそ全力で叩きのめさなければ失礼というものよ」

「じゃ・・いきましょ」
「窓のないビルへ」
「それは・・ふふ・・まあみてなさい」
私と当麻は、初春飾利にシステムの復旧をたくし、すべてにケリをつけに
窓のないビルへ向かう。
 ・・・・・・
6時ちょうど 窓のないビル

俺と美琴は、空間そのもの座標を交換する方法で久しぶりにテレポートを
行い1秒未満で窓のないビルのアレイスターの水槽のあるはずの空間に到達
する。
テレポート以外に侵入できず、核兵器でも破壊できない、学園都市の独裁者の
居城

だが、そこにあるべきものがないことに俺は驚愕する。
(水槽がない?)
粉々に砕けた、水槽の残骸らしきものが散乱し、血のようなものが床にしみついている。
まさか・・木原唯一が殺したのか?統括理事長を

俺は戦慄を隠せない。科学者を手のひらに転がし、学園都市で完全な独裁
を行い、エイワスという最強の守護神と、脳幹先生というAAAを操る科学の
法皇が簡単に死ぬのか?

美琴はある程度予想していたのだろうか。さほど驚いていなかった。
そしておもむろに木原唯一に話かける。木原唯一はテレポートに使った案内人
結標を従えている。

「まさか・・自滅してくれるとはねえ」
虚勢なのか余裕なのか木原唯一は高笑いを始める
「言ってくれるじゃねえか・・テメエは内心喜んでいるんだろう」

美琴は乾いた口調で話しを続ける
「エイワスがいる限り、理事長は死なないわよ」
「貴方の手持ちの札では両方を抹殺するのは不可能よ」

「は・・そんなことはテメエに言われるまでもない」
木原唯一は、笑っているのか怒っているのか、微妙な表情を作り、私に対峙する。
「なあ御坂美琴、上条当麻・・手を組まねえか」
「テメエが魔神を成仏させ、上条が最後の生き残り僧正を殺した、法の書は
テメエが解析し、完全版のAAAは完成した。アレイスターもそのプランも
もういらねえんだよ 木原にも学園都市にもな」

美琴は、表情を消し、いつもより乾いた声で応答する。
「犯罪者と組む手はないわ」

木原唯一は、冷笑するように私に話かける。
「はあ・・綺麗ごとだな・・テメエは人格破たん者揃いのレベル5の中で
いつも手をよごさず、表を歩き、いつも賞賛だけを浴び続ける」

「テメエのような、世の中は善意で成り立つなんて思っている小娘なんて反吐が出る」

「そうかもね」
「でもさ・・それて嫉妬じゃないの?私に対する」

「何?」
美琴は、エンジンがかかってきたのかマシンガンのように悪態攻撃
を始める。基本は善人の美琴だが、どこで学んだのか正論だが、どぎつい
悪口はとどまるところをしらない。
「結局・・泥水へ自分から進んで飛び込んだだけじゃないの?」
「アンタはようするに脳幹先生の劣化コピーにしかすぎないわ」

それまで薄ら笑いを浮かべていた木原唯一の表情が怒りに変わる。
自分が今まで必死に守っていた脳幹の一の弟子という立場を否定されたことが
悔しかったのだろうか?

「糞 いいたいことだけ言いやがって」
「テメエの善人面もテメエの甘ったるい理想論も全部が気にくわねえ」

それまで冷笑を浮かべていた美琴の表情が、憐憫に変わるのを俺は見逃さない
そろそろこのマシンガントークもおしまいだ。
「ええ、でもアンタのやり方ではアンタが救われないわ」
「私は貴方の過去の功績を考慮して何度も手を差し伸べた」
「だけど・・アンタは結局私の手を取らなかったわ」

「それは、きれいごとでなくアンタの自業自得じゃないの?」
「ケ・・上から目線だな・・」

「もういいわ さっさとケリをつけましょう」
まさに瞬間だった俺が気がついたときにはすべてが終わっていた。

結標がコルクを転移させようとするが、演算を終える前に、鈍器で殴られた
ように、昏倒する。木原唯一の演算銃器は発射前に暴発して砕け散る。
そのすきに美琴が、右手を伸ばし、引っ張る動作を行う。
木原唯一から金属製のもろもろの装備一式が回収される。それが、電撃見るも
無残に黒焦げに原型をとどめずに破壊される。

木原唯一は、脳内の生体電気をいじられたのか。激痛に頭を痛め始める。
美琴はさらに昏倒した結標を、磁力かなんかの力に引っ張りの前に倒れこませる。

この間わずか1秒に満たない、その秒にも満たない時間のうちに、実質レベル5と
最強の学者が無力化される。
(勝負にすらならねえな・・)

美琴は、唯一への見えない攻撃を終え、俺に簡単な依頼をする。
「当麻、右手で結標の頭を撫でて」
「ああわかった」

それまで洗脳されしいたけのような目をしていた結標が呆然自失の状態で
意識を取り戻す

「やっぱり洗脳されていたのね」
「当麻、コイツの目的・計画が判明したから、ちょっと現場へ行くわ」

「え?」
木原唯一が意外そうな顔をする。
「テメエは心理とか精神系じゃねえだろう?なんで記憶が読めるんだ」

「さあね、教える義務はないわ」
「でも・・エクステリアの制御は貴方でなくもできるんじゃないの?」
  木原唯一が唖然とした顔を見せる。
  「いつのまに・・」
  「さあね。しゃべっている5分の中でじゃないの?」  
  美琴は、俺に申し訳なさそうな顔で、肩を寄せ謝罪する。
  「本当にごめんなさい、私のミスで当麻に迷惑をかける」

  「じゃ・・木原唯一を頼むわ」
  「美琴も油断するんじゃねえぞ」
 俺は、木原唯一の顔を見据え、美琴を見送る。
 切り離す力ではなく、繋ぐ力で事態を収拾する。

続く










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