とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

03章

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第三章 お嬢様だってそんな事くらい知ってますのよ Electro_Maria


「それじゃあ私は学校に行って手続きしてくるのです。一家全員揃ってるからってあんまり遊んじゃだめですよ?」
「…………………、……そのセリフはいまいち納得できませんが、わかりました……。それじゃあ俺たちは常盤台の方の説明にも行かないといけないんで……よろしくお願いします」
 小萌と上条たちは各々の目的のため別々の方向に進み始めた。
 再び人々の眼目に晒されることになった上条たちだったが、比較的先ほどよりかは気楽でいる。なぜならばラッシュの時間帯はもう過ぎているし、何よりギリギリ知人に会うような時間帯ではない。たまに指差されるが三人は気にしていない。
 どうやら美琴の話いわく、寮監と言う人が寮のほうで待っているとのことで、目的地は常盤台の校舎ではなく美琴が衣食住している寮の方だ。確かに美栄がいるこの状況で知り合いがたくさんいる学校に行くのは、新手の羞恥プレイか何かだろう。
 そして当たり前だが、『今の二人』にそんな性癖は存在しない。
「あのー御坂さん?寮監ってどんな人?」
 晴れて美琴の終身奴隷になった上条は恐る恐る尋ねてみる。こんな終身だろうと派遣だろうとバッサバサ首にしていくご時世に一生雇ってくれるなんて本当に有難いですねコンチキショーと心底思う。
「ん~~~?なんていって欲しい?」
 逆にさっきからえらくご機嫌なご主人様。ルンルンルンーとか珍しく鼻歌をうたっている。そこまではいいのだがさっきからやけに独り言が多い。たまに「ふふ…これでこのバカは一生私の…」とかいいながらしばしば涎をたらしている。それを指摘すると、「う、うそ!ていうかアンタ人の顔じろじろ見てんじゃないわよバカ!!」とか理不尽に恩を仇で返してくださるのだ。じゃあお前のだらしのない顔はどうしろと?と思うが、それはもう自己管理してもらうしかない。
「う~ん……や、やさしい人だったらいいかな……なーんて」
「言っとくけどめちゃくちゃ怖いわよ」
「……」
 上条は歩いている足以外、体を堅くする。
 美琴はわざと緊張させるような言い方をしている節があるのでさらにタチが悪い。
「……ふ、不幸だ……」
「……ふふふ」
 上条は美琴が幸せそうに笑っているのに気づいていない。
 正直に言ってしまえば美琴は、この状況が嬉しくてたまらないのだ。
 年が変わり上条を巡るライバルがどんどん増えて、内心あせっていた。けれど自分の気持ちになかなか素直になれなくて、それで二月にある、とあるイベントで自分の気持ちを全部、上条に告白しようと計画していた。一月下旬の美琴といえばそれはそれはひどいものだった。
 ある時は階段から『にょわわあ!』とか悲鳴をあげ滑り落ちるは、ある時は箸と間違えてシャーペンでご飯を食べ『今日のニンジン、なんかゴリゴリしてんなー』とか言いだしたり、またある時は授業中にもかかわらず『おらー!私はできる女だ!!待ってろクソバカ!!!むうううん!!』とか言いながら机をガンガン揺らしまくる始末だったのである。
美琴のことをお姉さま、御坂様と慕うものは『大丈夫かしら……』と気を遣ってか、ビタミン剤だの栄養ドリンクだの挙句『超強力!スーパーマブシZ!!倦怠期中の彼女もイチコロだぜ!』とか怪しげなロゴが入っているのまで美琴の机や下駄箱に入れていたのである(誰がケンタッキーじゃ誰が)。
「………………ふふ」
 上条を想う女からみれば目当ての男を手に入れて、ほくそえむ嫌味な女に見えるかもしれない。
 それでも自然と幸せな気持ちはどんどん心の奥から溢れ出てくるのだ。
 この感情は留まることを知らず、美琴の心を絶えず幸福で満たしていく。地球は丸いと言う絶対不変の原理のように強固で、太陽が星々を照らすように温かに。
 ……と、この手順で上条の言うところのだらしのない顔が出来上がるわけだ。
 そんなこんなで上条たちはいつの間にか常盤台の寮の前についていた。

2 9:00

「はぁ…………ついに来ちまったか…………」
「そうね…。ま、安心しなさいよ。さっきは怖いって言ったけど根は優しい人よ。きっと私たちが困っていたら助けになってくれるわ。」
「…………、じゃあいきますか」
「パパ!ママ!これおわったらユウエンチだからね!!わすれないでよ!」
 上条は高級そうなドアに手を掛け、先に二人を中に促した。
 ―――今日は2/2だ。
 そして本来上条たちがデートするのは2/15なのだ。何事もなければ、結局美琴が自分の気持ちに素直になれず、不完全燃焼でそのデートは幕を閉じることになるのだが、美栄が過去を変えたので2/15のデートは消失し、代わりに何でもなかった2/2に美栄を含めた三人で遊園地にデートに行くことになった。
 しかし上条も美琴も2/2の指す意味をしらない。いや、正確には美琴は知っているはずだが、色々ありすっかり忘れている。

 実は……

 2/2は常盤台の入学試験、いわゆる特色科で生徒たちはその日学校がない。

 ギィーと扉を開け3人が中に入った瞬間、4人の少女たちがこちらを凝視していた。ここに来てようやく学校が休みだったことを思い出した美琴は顔を青くし、すぐさま寮の外に出ようとする。
 しかしそう思った時にはもう『3人の少女たち』は完全に上条たちを包囲した。
「「「御坂様!?そこの殿方と御坂様似の少女は一体!?!?」」」
 お嬢様の気品はどこへやら、『3人の少女』は好きなアイドルを取り囲むファンのごとく、熱気に満ちた様子で質問してくる。
 言い寄ってくる少女たちは美琴とそれほど深い関係ではない。と言うか知らない。それに少女らは上条のことも今日初めてみるだろう。だったら『まだ誤魔化すこともできるんじゃね?』とか『どのくらいの電撃なら死なない程度に気絶するかなぁー?』とか普通ならそう考えるだろうが、しかし美琴はそうは考えていない。いや、考えられない。逆に美琴の顔はますます青ざめていく。美琴はあらゆる思考をストップし、ただ呆然と何かを見ている。
 視線の延長線上に存在するのは、その少女たちの後ろにいる『4人目の少女』だ。
「お姉様!?」
 美琴がよく知る顔がひとつあった。よく知ってると言うか最高レベルで知り合いだ。さらに言ってしまえば、ルームメイトだ。そしてこれに上書きセーブができるのなら、自分のことをお姉様と、最も強烈に求めてくる変態さんでもある。
 要するに――――

 白井黒子――――――――それが彼女の名前だ。

「……あは、はは…」
(…お…終わった…私の人生終わった…いや始まる…これからずっと子持ちのレベル5と言われる人生が…)
 いままでは不良どもに自分の名前を告げると『御坂美琴って…あの常盤台の超電磁砲!?』とか『あの最強無敵の電撃姫!?』とか言われていた美琴だが、それが今日からは『御坂美琴って…あの子持ちの!?』やら『愛のためならどんなことも厭わないあの中学生奥さん!?ヒュー!』とか言われることになるのだ。これが嘆かずにいられるか。
 もし美琴にまだ体力があったら二人を引きずりまわしてでも、この場を去ろうとしただろう。しかし昨日の今日で美琴の体力は限界だった。さらに追い討ちを掛けるのが、『料理がうまい奥さんと見て欲しい』と上条と美栄の朝食を作るために犠牲にした睡眠時間だ。美琴は4時間も十分に寝れていない。美琴は柄にもなくその場にしゃがみこみ、…うぇ…グスン…としゃっくりをし始めた。
 しかし乱心している白井はそんなことお構いなしにオラオラー!とどんどん質問してくる。
「お姉様!!黙ってないで何とか言ってくださいですの!昨日急に出て行ったと思ったら、それっきり帰ってこなく、あまつさえ何ですかこのお二人は!?……まさか……そ、そこの馬の骨と一夜の過ちをー!?」
 今の白井は止まるところを知らぬ暴走マシーンのようだ。さっきまであんなに熱気に満ちていた三人の少女は白井のそれにどん引きし、いつも通りの静かなお嬢様に逆戻りしている。しかし、同じく白井の凶悪な面にビビッてしまって上条を盾にしている美栄の何気ない一言で、白井も清楚な顔に通りの『静かなお嬢様』になった。
 ―――――――――いや『静かなお嬢様』になったどころか
「ママ……この人なんかこわい」

チ――――――――――――――――ン(ヒョロヒョロ~)

 死人に口なし。さっきまでマシンガンのごとく連射されていた言葉の弾幕はピタリと弾切れになった。そして銃口から煙が上がるように白井の口からは白い何かがヒョロヒョロ~と力なく上へ上へと昇っていった。
 どうやら白井は天国さえも行き来できるテレポーターになったらしい。……片道のみだが。

3 9:20

 美琴の言う寮監と言う人はすぐに見つかった。
 上条は、自分の嫁候補が急にしゃがみこんで泣き出したり、テレポート女が、オイお前それはお嬢さまとしてまずいだろ!?と思うくらい清々しく地面に顔をつけ気絶していたりしているのを見て唖然としていた。
 仕方ないので、嫁候補こと御坂美琴は自分が回収し、テレポート女こと白井黒子は他の少女たちに任せることにした。上条に引きずられている(最初はお姫様抱っこをしようと思ったんだ……by上条)美琴は途中『電撃聖母……エレクトロマリア……レベル6……あはは……』とか悲しんでいるのか喜んでいるんだかよくわからない表情でブツブツ呟いていた。まさかここに来て美琴が中二病患者だと発覚するとは……、と上条は再三再四唖然とするばかりだ。
 そして気配もなく現れた『規則、制裁、恐怖』と三拍子そろった寮監らしい20代後半くらいのメガネのお姉さんは、上条が美琴を引きずってその周りを美栄がくるくる回っているいる異様な光景に大して驚きもせず、『……個室を用意してある。用意ができたらすぐに来るように』とだけ言い残して自分だけさっさと先に行ってしまった。正直上条は『同じ部屋行くなら一緒に運んでよー!ねー!?』って感じなのだが、怖くて言えなかった。
(……というか健全なる男子高校生に歩行不可能な女の子を預けておくのは、女子中学の寮監としてはどうなのでしょうか……)
 とにかく、やっとの思いで指定された部屋にたどり着いた。
 先に行って待っていた寮監はすでに足を組んでパイプ椅子に座っており、目だけで上条を中へ促した。確かにこれは美琴に怖いと唸らせるのも道理だ。めッちゃ怖い……。
「おじゃましますー!」
「……し、失礼します……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
 しばしの沈黙。
 ――――――――先に口を開いたのは上条だった。
「…あのーう、お初にお目にかかります~。秋の色もすっかり剥け落ち、まだまだ肌寒い日々がつづ」
「それで、欠席したい理由と言うのは?」
「………………(ダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラダラ)」
(なにこの人めっちゃ怖っ!慈悲のカケラも所持してませんことよ!?)
「御坂。喋ることくらい出来るだろう?椅子があるんだ。座ってわけを話せ」
 美琴はやっと落ち着きを取り戻したのか、素直に『……はい』と返事をし、なんとか自分で椅子に座った。椅子は寮監のも含め全部で三つしかないので、美栄は美琴の膝の上、上条は普通に椅子に腰掛ける。
 なんというか三者面談のようだ。
 まるで成績の悪いわが子をあれこれ言われる前のような空気が漂っている。
「それで御坂。休みたい理由とは何だ?と言うかなんだこの二人は?」
「……はい……えぇとなんといいますか……えぇとその……」
 この状態の美琴がうまく説明できるとは思えない。下手をすると『未来から~』と言う件を省略して『子供が……出来ちゃったんです……』とか言い出しそうなのでここは正気の自分が説明をするべきだろう、と上条は寮監と言われる女性に話しかける。
「そのー御坂さん?ここは上条さんに任せてくれたほうが手早く済むような気がするのですが?」
「……ああ、そうね……そうしてくれると助かるわ……あはは……」
 美琴は夫に捨てられ、借金は押し付けられ、息子からは『早く飯作れよ』と言われる40代後半の妻のような顔をしていた。口からはさっきの白井と同じくヒョロヒョロ~と何かが剥け続けている。
「ママげんきないね……私がナデナデしてあげるー!ナデナデ~」
「………は?マ、ママ!?」
 さっきまで鉄の仮面を被っていた寮監はようやく人間らしさを現わした。案外この寮監は普通に女性らしく振舞えば、そこらの芸能人と同じくらいには美人として認識されるにちがいない。
「あのですね……落ち着いて聞いてください……実はですね……」
 上条はこの話のエキスパートだ。だってもう3回目の説明なんだから。もしオリンピックにこの種目があったら堂々の一位を取れると思う。
 見事30分以内でこの任務、果たしてみせよう。

4 9:50

「なるほど……、では今御坂に乗っかっているその子が……」
「はい。上条美栄です」
「ん……にわかには信じられんが、御坂と君の様子から察するに本当のことなのだろう……」
 学園都市に親と言う存在は本当に少ない。寮監の口調は、美琴に母親を思い出させるような表情だった。「こらこら~」というフレーズがあれば、それはより強固なものになるだろう。
「それに……」
「?」
「お前に似て、なかなか可愛らしい顔をしているじゃないか」
「~~~~~~~~~~っ!!」
「そう赤くなるな。お前らしくないぞ。……それにしてもお前を見ていると昔の私を思い出すよ……」
 と言うと寮監は逆三角形のめがねをはずす。この30分の説明で寮監の鉄仮面は完全にキャストオフされているので、もうどこにでもいるやさしいお姉さんだ。
「……え?」
 美琴は思わずそう口にしたが、それは言葉の意味よりもいつもと違う態度に驚いている、という意味合いが強い。
「いやなに、私もお前くらいの頃好きな男子がいてな。話をしたのは指を数える程度しかないが、それでも好きだった。結局取られてしまったがな」
「……、」
「だからお前は取られるんじゃないぞ?幸せというのは案外簡単に壊れるものだからな。それにお前は元々上条君のことがす」
「あ~いいです!!言わないでください!!」
「んん?御坂、どうしたんだ?」
「な、なんでもないわよ!このバカ!」
「えっへへ!パパあいされてるねー!」
「んあ?なにが?」
 寮監と美栄は、上条と美琴を子犬がじゃれ合っているのを見るような目で温かく見つめている。何も気づいてないのは上条だけだ。
「ともあれ事情は把握した。私に出来ることがあればなんでも協力しよう。……お前には借りもあるしな。うまく誤魔化しておこう」
「……まぁ、もうあまり意味のないことですけどね……」
「ん?何かいったか?」
「……いえ、別に……」
(もう黒子とか何人かにはバレっちゃてるし…)
「ならいいが。それじゃあお前たちはその子と遊びにいってやれ。色々あっただろうから疲れていると思うが、娘の遊びに付き合うのも親の仕事だ」
「(……そんなにストレートにいわれると上条さん的には突っ込みを入れるタイミングがわからないのですが……)ええと、わかりました」
「それじゃあ私は午後の試験の監督役だし行くとする。くれぐれも気をつけるように」
「……はい……色々迷惑を掛けます。いつもごめんなさい……」
 寮監はなんのためらいもなく立ち上がり、潔くカッカッカッと甲高い音を鳴らしながらとっとと行ってしまった。
「いやーおっかなかった……」
「はぁ?どこが?あんなのまだマシな方よ。つうかアンタ、途中からお綺麗ですね、とかお若いですねとか媚ばっか言いやがってコンニャロー……」
「それよりパパもママもはやくユウエンチ!」
「はいはい、わかりましたよ」
 もはやパパとママといわれても何の抵抗もなく受け入れている二人だった。


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