とある魔術の禁書目録 自作ss保管庫

Part02

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とある超電磁砲の卒業式(番外編)


 温かい風、青い海、殺風景な自然の景色。そして、別室から聞こえる楽しそうな鼻歌。
 大波乱だった卒業式から一週間、あの場は白井が用意した閃光弾によって波乱が広がる前に脱出。その後、妹達(シスターズ)の活躍により、どこからか持ってきた学園都市の最新の小型旅客機(超音速旅客機は使用中であったため、奪取不可だったらしい)で、学園都市を脱出。しかも徹底してか、学園都市の超能力者、御坂美琴の名前が知られている可能性があった海外ではなく、沖縄にある地図に載っていない名前のない小さな島にほとぼりが冷めるまで隠居することとなった。
 と、いっても上条が聞いたのはあくまで大雑把な説明だけだ。それら細かいことについては、複雑でとても面倒なことになっているのだろう。この件で動いた妹達や白井、その他上条の知らない人物たちは、今度はこの件の鎮圧に向けて動いている。なにせ、メディアや政府の前での発言だ。そう簡単には終わらない。
 それに学園都市の上層部の方での動きも気になるところだ。下手をすれば、二人は追放され、最悪学園都市からの能力者たちに追われる身だってありうる。このような状況下では二人は静かにしているのが一番の手助けであった。
 それを思い出していると、上条はふとしたことを思い出した。
「そういえばアイツ、『命を狙われても、当麻と一緒なら構わない』なんて言ってたな」
 まったくと上条は苦笑いして、窓からの景色を見た。
 それほどまでに美琴の決意は固かったのだろう。上条はそれに関しては一切口を挟む立場ではいられなかったので、何も言えなかった。だが本心はとても嬉しい。でも、好きになった美琴を傷つけるのはやはり忍びなかった。
「もしそうなったら…アイツを」
 上条は自分の右手を見て、握りこぶしを作った。誰かを守るために使う能力、幻想殺し(イマジンブレイカー)をもしかしたら使うのかもしれない。そう考えると自分の命に代えてもやるしかないと決断するしかなくなるのだろう。多分、そうなれば美琴は……、とそこで考えを打ち消した。
 この右手はどんな異能も打ち消す能力がある。魔術だろうが科学だろうが神の奇跡だろうが、打ち消すことが出来るはずだ。だが同時に神の加護や運命の赤い糸すら打ち消しているのではないかとも、今はイギリスに戻ってしまっているシスターは言っていた。
 だからもしも、戦うことになって結果として負けたら、神の加護も赤い糸の奇跡もこの右手に打ち消されてしまう結果ではないだろうか、と今度は別の考えを思いついた。
「何を考えてるんだ俺は」
 上条は自分の両頬を叩いて、目を覚まさせる。少しばかり考えが散ったようなので、別のことを考えてみた。

 上条と美琴がここに来て、そろそろ一週間。すっかりと住み慣れてしまった小屋は、美鈴が買い取ったものだと聞かされている。が、この島の中では一番新しいものであるようなので、買い取ったと言うよりも建てたに近いイメージがあった。もっとも、中は古めかしい小さな小屋であったが。
 ここではパソコンや携帯電話が普及していなければ、テレビもない。情報は全てラジオだけらしく、来た当初は意外と不便に思えた。
 しかも生活面ではスーパーもなければ、本屋も飲食店すらない。それらは全て船で一時間かかる、別の島に行かなければないそうだ。これが一番不便であったので、買い物は何日分かをしっかり計算していかないと無駄になったり、足りなくなったりと一人生活をする上条ですら、いつも以上に入念にメモを取っていく必要があったほどだ。
 だがそれらを除けば、ここはある意味天国なのかもしれない。学園都市とは比べ物にならないほど静かで、景色も綺麗。事件もおきなければ能力を使う必要もほとんどない。あと個人的には勉強しなくてもいい、という考えもあったが帰ってからが地獄なのでこれは省いた。
 そして最後に、一番重要なこと。それは二人の関係だった。
 ここは老夫婦や田舎者の人間で構成された島だ。ゆえに世間では常識であることも、少しばかり抜けていたりする。それが海外ではなくこの島を選んだ理由でもある。しかし、ここには若者は何人かだが存在する。その若者が、学園都市の超能力者(レベル5)である御坂美琴を知らないとは限らない。
 学園都市は毎年行う大きな行事のたびにテレビ中継や『外』の人間の侵入を許している。そして、そのたびに注目されるのは、やはり頂点クラスの超能力者たち、つまり美琴であるわけだ。
 ひとたび彼女が自分は御坂美琴と言えば、常識的な若者ならば有名人と会うのと同じである。そうなればその人から噂となり、噂は周りに広がっていき隠居の意味もなくなる。そのため、御坂美琴という名前を隠さなければならなかった。そのために行ったのは、
「上条夫婦……と」
 つまり今の美琴は"御坂"ではなく"上条"。この島では上条美琴として生活しているのだ。
 そして、正規の夫婦生活ではないものの一週間近く、なんだかんだで文句はあったがこの生活がとても楽しく、仮初の幻想にするには惜しい生活のように思えてきた。だがそれもあと明日までの話であることを、上条はまだ知らない。

 学園都市のような高層ビルばかりたつ光景とは裏腹に、ここの光景は自然の緑と青い海しかない。来た当初は、比べてみると寂しいものであったが、もう一週間も経つとこの光景にも慣れてしまい、むしろこれぐらいでちょうどいいとすら考えてしまう。
 上条は小屋の窓辺から外を見ながら、そんなことを考える。すっかりと住み慣れちまったなと苦笑いしながら、真っ暗な外の光景を見ながら、ここに住むこともいいかもと、まんざらでもないことを思っていた。だが自分と美琴はまだ学生だ。結婚するにも様々な問題もあるが、学生同士である二人はまだ勉学の課程を全て終えていない。そんな二人はまだ結婚するのはまだ早い。
 しかし、ここは違う。ここでは学生も左右されなければ結婚も左右されない夢のような場所。といっても、それは仮初の幻想であるため、それもそろそろ終わる。でも、上条はこの幻想を酷く気に入ってしまっていた。自分の右手には幻想を殺す能力が宿っているはずのに。
 そんな自分に自嘲しながら、上条はよっと息をするのと同じような気軽さで立ち上がると、部屋を抜けて、ある場所に向かう。
 廊下を歩き、居間の隣にあるのは台所。そこには楽しそうに鼻歌を歌いながら、夕食を作る少女がいた。年は上条よりも年下、部屋着の短パンに半そでTシャツの上にエプロンをつけ、顔は幼さがまだ残るがはとても可愛らしい。いつも髪留めを止めている短髪は今日に限っては何もつけていない。
「あ、あなた」
「だ、だからそれはやめろ! 今日は俺と美琴だけだろう」
「えーいいじゃない。やってみたことだったしー」
「そんな可愛らしい顔しても騙されないぞ。それにもう言っただろうが」
 頬を少し膨らませ怒っているぞと主張するが、上条はそれを無視して、美琴が作っているものを見た。
「おっ。これはなんですか?」
「なんで敬語なのよ。それは鰤よ、ぶ・り。町の漁師さんからもらったやつよ。ほら、今日当麻も行ったでしょ?」
「ああ、これが鰤か。上条さんは初めて見ましたよ」
 何言ってるのよと美琴は笑うと、綺麗にカットされている鰤を醤油とミリンが混ざられたボロボロの鍋の中に入れる。そんな鍋にと上条は思ったが、食器は少ないので文句は言っていられない。それに美味しければ文句はないので、特に何も言わなかった。
「照り焼きにするんだけど、本場となるとなかなか請ってるわね。まあ簡単にそろうスーパーと比べたら、ここの人はしっかりしてるわ」
「でもこの島じゃ仕方ないだろう。食材を分けてくれるだけでありがたいんだしな」
「へー当麻もそんなこというんだ」
「誰かさんとの生活はすっかり慣れちまったからな。しかも本格的な"夫婦生活"だったら余計に…って、どうした?」
「あ……そ、そうよね」
 美琴は赤くなりながら、歯切れ悪く答えた。嬉し恥ずかしいとはこのことなんだろうな、と思いながら上条を見ると本人はよくわかっていない。美琴は何も気づいていない上条を見て、ため息をつきたくなったがもうなれたことだったのでやめた。

「それにしても上条美琴って、なんだか、な……」
「い、いきなり何よ!? み、御坂の方がいいの?」
 そうじゃなくてだな、と今度は上条が歯切れ悪そうに言う。そして、わずかだが顔が赤くなっていることに自分で気づくと、言うのが一気に恥ずかしくなった。
「そうじゃ……なくて、だな」
 ここまで言ったら言わなければならないのはわかるが、言うのが少し恥ずかしい。でも、気になって首をかしげる美琴が甘えるような目でこっちを見ている。さりげなく、言うことを促しているようだった。
 うっ、と思いながら上条はそっぽ向く。面と向かっていえないことであったので、今は恥ずかしさを防ぎながら言う最高の手段であった。そして、重かった口を開けて、美琴に言った。
「す、数年後には……籍も入れてるから……その、御坂じゃなくなってるかな……って…だな」
「………………………」
「お、俺が言いたいのはだな………う、嬉しいというか……その、不幸じゃなくなる…というかだな…その」
「………………………」
「け、結婚後みたいで…その……し、幸せな家庭を先行で体験できる……というかだな………って、美琴?」
「………………………」
「え……っと……」
 念のために右手で美琴の手を握っておき、おいと肩を叩いてみる。すると、美琴は糸が切れた人形のようにばたりとこちらから倒れてきた。それを受け止め、上条はもう一度おいと肩を叩いた。
「………………ふにゃー」
「俺も苦労が無駄だった。不幸だ」
 美琴を抱きながら、上条はため息をついて肩を落とした。結局、自分の頑張りは気絶した美琴には聞いてもらえなかった。

 台所の火を確認し終え、上条は気絶してしまった美琴を背負って隣の居間に移動した。
 二人には大きすぎる居間は、美琴を寝かせるには十分な余裕があった。だが右手を離せないので、片手で寝かせるのはなかなか難しい。ゆっくり降ろしたのはいいものを、右手が制限されていたので左手でゆっくりと身体を倒してやり、最後に頭の後ろを押さえながら頭を床につけてやった。
 ふぅと一息ついて、上条も尻餅をつくと途端に緊張からの疲れが精神に襲い掛かってきた。
(よく頑張った! よく理性を保った、俺)
 自分で自分を褒めながら、上条はぼろい天井を見上げて心を落ち着かせた。背負った時のやわらかい感触や髪のいい香りは、理性を破壊する悪い毒だ。決して嫌なものではなく、むしろ嬉しいものではあるが、やはり男としてはそんな毒にあたりっぱなしになるのは色々と複雑であった。
「とはいったものの、一線越えちまったし……って、何思い出してるんだ、馬鹿!!!」
 落ち着いてきたところで、上条は何日か前の夜に、一線を越えてしまった出来事を思い出してしまった。
 ふとしたことでやってしまった大人の遊び。不純異性行為に一発で引っかかることをやってしまったあの夜の出来事。今思い出すと、自分はものすごいことを何年も早く行ってしまったのだなと複雑な心境であった。
 上条自身はそれに後悔はないが、それでも世間の目はやはり気になった。美琴の純血を奪い、誰かさんの仲間入りとはいかないまでも、誰かさんにロリ容疑をかけれられてもおかしくないことを上条と美琴はやってしまったのだ。
(はぁー不幸ではないが、色々と複雑な心境です)
 誰に語るでもなく、上条は顔を赤くしながら自分の心境に心の底でため息をついた。

「……あれ?」
「!!!! おおおおおおおおはようみことさん!!!!」
 そんなコンディション最悪状況で美琴は目を覚ました。咄嗟に上条は右手を引っ込めると、視線を逸らしながら起きた美琴に挨拶した。された美琴はとりあえず、おはようと言うと、何があったかを思い出し始める。
「えっと、確か台所にアンタが来てそれで…………ッ!!!!」
 そして思い出すと、一気に顔を真っ赤にして、両手で顔を隠しながら上条に背中を向けた。もっとも、これは上条にも好都合であったが、起きてから上条の顔を見ていない美琴はそんなことも知らない。
 美琴も上条も、お互いに恥ずかしいことを思い出して、しばらく真っ赤になって動かない。落ち着きのある小動物のように待機する様は、初々しさが全開に溢れている。もちろん、そんなことも知らない二人は、これをどう妥協すればいいのかも、頭に回っていなかった。
(どうするんだよ!! あの時のことを思い出したら、あいつの顔見れねえ。と言うよりも、なんで今更見れねえんだよ!)
(あ、アイツに結婚のこと言われちゃった。それって、もう結婚前提ってことでしょう? で、でも鈍いからアイツのことだから…も、もしかしたら………でも、鈍くても結婚のことは意識するだろうし……ああ、なんなんのよ!)
 お互いパニックになりながら、どうすればいいのかわからずにいた。皮肉なのはお互いに考えていることは別のことであったが。
(どうするよ、俺! このままでは色々とおかしな方向に行きそうだし……こ、こうなったらいつもみたいに謝れば)
(け、結婚する…とは言ってたけど……でも……えっと……ああ! もう、こうなったらこう言うしかないじゃない!)
 そして、お互いに共通の結論をつけると、勢いよく後ろを向いてお互いに向き合うと、二人は同じ言葉を同時に言った。
「ごめん!!」
「ごめん!!」
 息が合った声は綺麗に一つになり、下げた頭もほとんど同時の位置に下がっている。以心伝心でもしてるのかと思うぐらい、鏡に映し出されたようにお互いはお互いの行動を真似ていた。
「……あれ?」
「……あれ?」
 さらにはおかしいと気づく声も、顔を上げるタイミングと顔の位置すらも綺麗にあっていた。本当に鏡のように動いている二人は、この現状をよく理解できずにいた。
「えっと……どういうことでせうか?」
「わ、私にもよくわからないわよ。アンタにはわからないの?」
「わかっていたら聞きませんと、上条さんは混乱しながらお答えします。ということは美琴さんもわからないのですね」
「え、うん。私にもわからないわ」
「………………」
「………………」

 また何があったかわからずしばらく放心する二人。
 上条も美琴も一体何に謝られて自分は何をしたのかわからない状況であった。だが積極的な美琴は、この状況下で先陣を切ってさきに説明を始めた。
「私は……その、結婚を前提に付き合ってると知らなくて……それでさっき言われて気づいたから。い、今まで気づかなくて…ごめん」
「……………あー」
 話の内容が飛躍しているようだが、考えてみればそうだなと気づいた上条は、赤くなりながら言葉を濁す。美鈴にもう婚約オーケーの返事ももらっていたし、ここで生活するにも上条夫妻というのも慣れてしまった。それに、上条は美琴と結婚するのはまったく持ってお願いしますと自分でも結婚する気でいる。
 それらは全てのここの生活で生活した上での結果であった。それにお互い相思相愛かつ将来を認め合うもの同士だったので、結婚には何の疑問を持っていなかった。
 それでも面と向かって言われると鈍感な上条でも、言葉は理解できるし恥ずかしいとも嬉しいとも感じられる。もちろん、美琴も同じ気持ちだった。
「えっと…あ、あってるわよね?」
「そのだな。怒らないでくれよ美琴。上条さんは今、美琴に言われてそのお付き合いでいきましょうと、改めました」
「~~~~~~~あああああああああああああんたは!!!!!」
「はい。上条さんはまったくそんなことを考えておりませんでした、はい」
 上条は素直に美琴の考えを否定したが、言われて結婚前提での付き合いで行こうと結論付けた。当然、それまで無自覚だったので美琴に言われるまでまったく気づかなかったのだが。

 一方の美琴は、考えがまったく違っていたことで自分が自爆したことがとても恥ずかしなり、両手を覆って半分泣いた。このとき、初めて恥ずかしさで泣いた美琴である。
「うぅ~~~~~~~ばぁかぁー!」
「そんな可愛らしい声で言われましても困るんですが、いかがせよと姫」
「それぐらい考えなさいよ、馬鹿!!!」
 穴があったら、なんてものではない。この恥ずかしい悲劇の部分の記憶を失いたいと思うほどに、美琴は恥ずかしかったのだ。
(あ~~~ばかばかばか! 私の馬鹿! アイツも馬鹿だけど私も馬鹿!!)
 告白をするのを失敗した時とは別の自己嫌悪をして、美琴は今度は頭を両手で抱えて落ち込んだ。
(えっと………落ち込んでる、んだよな? こういった場合は………)
 様々な変化をする美琴を見ながら、この後どうすればいいのか悩んだ。両手で顔を覆うわ、頭を抱えて小さくなるわ、忙しい変わり方をする相手にいかがせよと、誰かに助けを求めたいが残念ながらここでは誰にも求められない。
 どうしたものか、と勉強をする時以上に考えながら腕を組んでうーんと唸る。美琴はそんな上条に気づかず、自己嫌悪に自己嫌悪と掛け算をするようにドンドンおかしな方向へと落ちていく。
(うーん、落ち込んでいる女の子の慰め方……と言ったら、これ……しかない、よな?)
 上条は立ち上がると、小さくなっている美琴のそばによる。そしてぎゅっと、
「あっ…………え?」
 美琴の身体を思いっきり抱きしめた。
「えっと、泣いてる女の子を抱きしめるってのはマンガの王道的展開と言いますか、上条さんはマンガ通といいますか…」
「あ、あの………えっと、その」
「美琴さん、これではダメ、でせうか?」
 上条は恥ずかしさを堪えながら、小さな声で訊いた。本当はこうやっている上条が一番ドキドキと緊張しているのだが、美琴はそんなことにも気づかず、この状況をどうすればと考え始める。
 普通ならば、抱きしめ返す部分であるが混乱した思考はそんな普通の返答を求めていなかった。逆にもっと過激で、嬉しい方法を探す方向へと考えを進め…そして、小さな声で言う。
「…………す」
「へ? なんだって?」
「だから、そのままキスしなさいよ、馬鹿」
 赤くなりながら美琴は言う。もちろん、言われた上条はさらに真っ赤になったのだった。

「んっ……ちゅっ」
「んん………こ、これで、満足ですか姫」
 こくんと小さく頷く。上条はそうですかと緊張しながらも答え、抱きしめた腕を離そうとした。が、今度は上条が抱きしめられた。
「えええええええっと!? み、美琴!?」
「うるさい。いいから黙って、抱き返しなさいよ、馬鹿」
 そう言われては従うしかない上条は、もう一度美琴の身体を抱きしめた。お互いに真っ赤なまま 心臓の音を肌で聞きあいながらしばらくぼっと時間に身をゆだねた。
「………………………」
 一分。
「………………………」
 二分。
「………………………」
 三分。
「………………………」
 三分十五秒。
「えっと………い、いいですか?」
「ダメ。話すならこのまま」
 美琴は抱きしめあう感覚を気に入ってしまったらしく、離れるのを嫌がったようだ。でも上条は本当は美琴と同じ。だが年頃の男であるため、長い時間抱き合うのにはさまざまな問題もあったのだ。
 例えば、さきほど上条が謝ったわけ、など。
「その……ごめん」
「なんで謝られなければいけないのよ?」
「えっとですね……さっき謝ったけど、なんというかもう一度謝った方がいいと思ったから」
「そういえば、当麻はなんで私に謝ったの?」
 それを言われ、上条は焦りと自己嫌悪に陥った。
(さすが上条さん! 自分で自分の地雷を踏むとは、いい雰囲気でも不幸にはなるんですねちくしょう!!!)

 誰かに言うように上条は自分の不幸を呪いながら、乾いた笑いと恐怖の汗を流す。少なくとも、これから言うことは自分の命が本当に危ない発言であることぐらいは、嫌でもわかっていた。回避できるものなら回避したいが、自分だけ言わないのは不公平といわれるし、何より絶対に聞き出そうとする。
(なあインデックス。俺、どうすればいいんだ!)
 数分後に転がっていそうな自分の屍を想像し、上条は今はいない修道服の同居人に助けを求めるが、来るわけはなかった。というよりは、助けに来たところで、別の惨劇になることを思い出し、上条は不幸な自分と不幸にした神様(ばか)に殺意を覚えた。だが、それで解決するほど楽な未来は存在しなかった。
「い、言わないと、ダメ……はいわかりましたいいますいいますからポケットからコインをとりだすのはやめてください!!!!」
 結局、言っても言わなくても自分には地獄しか待っていない。
 上条は潔く諦めをつけて、さようなら人生と思いながら、謝罪した意味を説明し始める。
「実を言いますと、先日の激しかった深夜の件を思い出しまして」
「感電死? それとも超電磁砲を撃たれて死ぬ? あ、砂鉄剣というで斬殺するって手もあるわね?」
「いやです! 死にたくありません! お許しを! 美琴様!!!」
 抱擁を解き、上条は命だけは、と何度も何度も頭を下げる。
 男にはプライドはあるが、命が危険になるとみんなこうなる。上条は誰かに教えるように、自分の思うと果たしてその土下座は今までに何回やったかを数えてしまいそうになったが、鬱になりそうなのでやめた。
 一方の美琴は、今日一番の赤みを帯びた顔で上条を睨む。のだが、それが上条には可愛く映ってしまうのを美琴はわかっていない。
(可愛い! 怒ってるのはわかるんですけど、可愛いんですけど!!! はっ! これが萌えなのか?! って、全力で現実逃避している場合じゃないよな!!!)
 また混乱した思考が余計なことを考え始めた。上条は頭を振ってそれらの思考を打ち消しながら、美琴への土下座を再会する。もう謝っても許されないことであるとわかっていても、上条には許しを請うしか出来なかった。そして許す相手である美琴は死刑囚に罰を与えるだけだ。
「当麻は知らないだろうけど、すっごく痛かったし恥ずかしかったんだから!! わかってるの!!」
「と、言われましても……」
「ええ、わかってるわよ! どうせアンタは、当麻は一人で私を虐めて楽しんでたからわからないだろうけど、女の身にもなってみてよね!!」
「あの……それはさすがに…」
「確かに、嬉しかったし最後は意外とよかったけど、それでも…………その……」
「えっと…………………あれ?」
「あ、アンタが優しくしてくれるなら……いつでも……というか……喜んでくれるなら……というか」
「あれ? …………あれ、こんな話だっけ?」

 話がおかしな方向へと脱線していることに安心をしたが、今度は別の予感を感じた。言うなれば、危ない爆弾を渡されるような危険な香りである。
「その、さ……私でも良かったの?」
「良かった…といいますと?」
「夜の、初めての相手が、私でも……」
「むしろ、ありがとうございます」
 上条は今度はお礼の意を込めて謝る時のように何回もではなく、深々と一回土下座をした。
「そっか……良かった。てっきり、私じゃ満足できないって思ってた」
「そんなわけあるかよ! 俺を満足させられるのは美琴しかいねえよ!」
「え……?」
「あ………」
 不安そうな表情をしていたので、上条はつい本音を話してしまった。
 本音を話してしまったことに気づいた上条は恥ずかしさでと、本音を言われた美琴は嬉しさで、また赤くなると今度は俯いた。だが話の内容の影響もあり、お互いに顔を見ることも出来なければ、身体すら見ることも出来なかった。
 俯いたまま上条は、背を向けると美琴から少しだけ離れた。自分の理性が少しずつであるが、深夜の方向へと走って言ってるように感じたからだ。それに気づいた美琴だが、何も言わず上条と同じように背を向けて離れると、重かった口を少しだけ開いた。
「今のって……」
「ん…?」
「今の話って……本当?」
「……あ、ああ」
「……………そう」
「………………………」
「………………………」
 しばらく沈黙。
 外に聞こえる虫の声と波の音、微弱な温かい風と心地の良い夜の涼しさ。しかし、自然という名の感触を感じる余裕は二人にはない。今二人を支配しているのは、緊張と恥ずかしさ、嬉しさと大人染みた感性だ。
 上条と美琴は支配された感情の渦の中で、自分の理性だけを保っている。本能が理性を食い殺す可能性もあるにはあったが、それにはまだ一歩足らない微妙なラインであったため、おかしな行動は起こさない。だが逆に、何をすればいいのかわからずじまいの状況下であった。
 そして、沈黙が続いて五分。時間のおかげで上条の精神は、だいぶ落ち着いてきを見せ始めた。一方の美琴も、上条ほどではないが落ち着きが見られてきた。
 そこからさらに、三分経つと二人はほとんど同時にため息をつき、その場から立ち上がった。
「飯出来たら呼んでくれ」
「うん、わかった」
 そういって、二人は別々の場所から部屋を出た。
 今は顔を見ることなんて出来なかった。それは相手側にも十分わかっていた。
 そして、その翌日には上条当麻と上条美琴のとある一週間は、幕を閉じることとなる。しかしこの一週間で二人の関係はより親密になり、結婚を誓い合った両者の愛はさらに育まれていくことになるのであった。


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