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ω

693 :ω (1)  2007/10/17(水) 00:02:02 ID:AWPiK9qR  
                       ※注)今週号#246のネタバレを含んでいます。
まだ読まれていない方はお気をつけを。




「この……×××!! いつまでもウダウダやってんじゃないわよ!!」

多少のアクシデントはありながらも和気藹々と進行していた歩行祭、いったい誰がこ
の惨劇を予想できただろうか。ウジウジと立ち悩む播磨の背後から、愛理は股間を狙
って蹴り上げる。

「……あ、が……が……」

言葉にならない声を漏らす播磨。
否、出せるはずもないのだ。ただでさえ男にとっては致命的な急所だというのに、そ
こを一切の躊躇もなく狙い打たれたのだから。愛理の渾身の金的蹴りは、あれほど無
敵を誇っていた超猿・播磨すら一撃のもとに地へと沈めてしまった。

「はんっ! いい気味よ」
「な、何で……俺がこんな目に……」

冷たい言葉を浴びせられながら播磨は膝から崩れ落ちる。額を地面に擦り付け、左
手で股間を押さえて痛みを堪えつつ。尻を高々と上げたその姿勢は、まるで土下座そ
のものだ。

「ったく、何でってこっちの方が聞きたいわよ。ホンット、あんたらは何がしたいんだか」

吐き捨て、愛理はもう用事はないとばかりに背を向けた。
しかし、彼女が播磨の具合を気にしているのだと知る者は、この場にどれくらい居る
のだろう。薄っすらと後悔の色を浮かべ、チラチラと振り返り安否を気遣っているその
様子は、とても加害者には見えてくれない。

「……沢近先輩も、何がしたかったんだろう……」

苦悶を浮かべる播磨はともかく、近くで始終を見ていた八雲は当然愛理の態度に気
づいていた。播磨か八雲のどちらかから声を掛けられるのを待っていることも。
ただ、八雲としては播磨の容態が気がかりで話しかける余裕もないし、彼と手錠で
繋がれている状態では愛理に近寄ることすら出来そうにない。互いを隔てる壁は、透
明な割にどこまでも厚いまま。
そう。壁が厚いがゆえに、八雲たちは愛理を放置して話を進める。進めるしかない。

「……あ、あの……大丈夫ですか……?」
「い、妹さんか……。す、すまねえが後ろからケツを……ケツを叩いてくれねぇか」

気遣わしげに問う八雲に、何とか声を絞り出して答える播磨。ただの気休めにしか
ならないが、金的を受けた際には一般的に行われる対処法である。
だが、それを女性にやらせるのはどうだろうか。ウブな少女にはやや難しい注文だ
ろう。衆人環視の中で“性”を無理やり意識させられる行為など、羞恥プレイに等しい。
八雲が躊躇うのも当然の話だ。

「……え……あ、あの……」
「このままじゃ、アレが使い物にならなくなっちまうっ! は、早く……」

畳み掛ける播磨だが、ワラをも掴みたい彼からすれば、八雲の葛藤などどうでも良
かった。脂汗がアゴから伝い落ち、言い様のない吐き気に襲われ、他人を気にかける
余力などない。一刻も早く処置してもらわねば命すら危ういと播磨は信じているし、実
際、それだけの苦痛を感じてもいる。

 

694 :ω (2)  2007/10/17(水) 00:02:37 ID:AWPiK9qR  

「……わ、判りました」

真摯な感情は言葉にせずとも伝わるもの。
間近で見ていた八雲は播磨の心情を察し、ごくりと小さく喉を鳴らした。無論、覚悟
を決めるためだ。

「うぉぉぉぉ……! い、妹さん、早く……!」
「え、えっと」

頬を赤らめ、周囲を見渡し、その後に突き上げられている播磨の尻を平手でポンと
ひと叩き。しかし、迷いながらだったためか衝撃は軽く、播磨は気づいてすらいない。
だから今度はやりすぎかと思うくらい強めに叩く八雲だったが――

「あの……少しは楽になりましたか?」
「くっ……駄目だ……妹さんの力じゃ弱すぎて、あんまし効果がねぇ……」

愛理の蹴りがあまりに強力すぎた。相殺するには、いったいどれほどの力を反対方
向から加えねばならないのか。
少なくとも八雲は、全力で叩いたところで結果が変わらないことを理解していた。彼
女は非力なわけではないが、播磨と手錠で繋がれていて満足に動けないし、ブレーキ
の壊れた状態の愛理と比べる方が無茶というものだ。

「……どうすれば……」

助力を願おうとも、みな遠巻きに眺めているだけ近づいてこようとしない。当の愛理
とて背中を向けたまま知らないフリ。天満は事態を良く判っていないようだし、力のあ
りそうな美琴とて両手でバツを作っていて手伝う気がないと来る。
しかし。
播磨にだけは最初から答えが見えていたらしい。

「踏んでくれ」
「え?」
「尻を思い切り踏んでくれ! 人間の脚力は腕力の三倍はあるって言われてるしな」
「…………」

言葉を失う八雲だが、それも仕方のないことだった。倒錯の世界へいざなうその行
為は、今度こそ人前でやっていい行為ではない。事実、環視している女子生徒たちは
小声でヒソヒソと何かを語り合っているし。

「は、播磨さん……? もっと別の方法は……」

難易度が格段に上がってしまったことを憂い、勇気を振り絞って提案する八雲。
だが、切羽詰った現状が迷うことを許してくれなかった。播磨の流す脂汗は刻一刻と
量を増し、奇声も漏らし、今にも昏倒しそうになっているのだから。

「くぉぉぉおおお……が、我慢できねぇ……」
「わ、判りました。い、行きます」

自身の体面と播磨の体の心配を比べたら、後者を採るのは八雲にとって自明と言
える。
そして播磨の背後に陣取り、控えめに足を振り上げ――

「え……えい」
「おお……」

 

695 :ω (3)  2007/10/17(水) 00:03:11 ID:AWPiK9qR  

トスッと踏まれた瞬間、播磨は安楽の息を吐いた。
しかし一瞬だけだ。それで全快するくらいなら、手で叩いただけでも十分に効果があ
っただろうから。
播磨は頬を地面にへばりつけたまま、続けざまに注文を口にする。

「だがまだ足りねぇ。妹さん……もっと強く!」
「こ、こうですか……?」
「もっと!」
「こうですか」
「もっと激しく!」
「こうですか!?」
「うぉぉぉぉぉおおお、キタキタァァァァァァァアアア!!」
「こう! こうですか!」

徐々に強くなっていく八雲の蹴り。播磨に期待されては応えないわけには行くまい。
一撃一撃を入れるたびに、八雲の中から何かが吹っ切れていった。
最後にはストンピングしているも同然となり、普通なら八雲が播磨を虐待しているよ
うにしか見えないだろう。しかし、二人の表情を見ればきっと別の感想を浮かべたは
ずだ。播磨の力になっていることに喜ぶ八雲は頬を朱に染め、播磨は播磨で尻に伝
わる痛みを喜んで受け入れているとあっては、周囲からすれば女王様と下僕にしか映
ってくれない。

「気持ち、いい、ですか、播磨、さん!」
「いい、いいぜ! 妹さん、もっと力の限りに踏みつけて――」

と、そんな時だった。
不意に播磨の視界に陰が射したのは。

「手伝ってあげるわ」

ぶぎゅる、と愉快な音を立て踏まれたのは、なぜか播磨の顔。そしてその足の主は、
八雲ではなく愛理。
彼女は、地面と靴の裏で播磨の頭をサンドイッチにしたまま話しかける。

「……あんたら、なに卑猥なことやってんのよ」
「お、お嬢! てめぇ、何しやがる!」
「はっ! そんなに踏んで欲しけりゃ、私が思う存分踏んでやるわよ! ほら! ほら!
気持ちいい? 気持ちいいって言いなさい!」
「頭を踏んでどうする! いったい俺に何の恨みが……!」

一片の容赦もない愛理のストンピングが言葉と共に播磨に降り注ぐが、彼に出来る
ことと言えば、せいぜい口の中で呪詛を唱えることくらいか。逃げようにも、股間の痛
みが激しすぎて身動きが取れないのだ。
もちろん愛理もそこを理解しているからこそ、遠慮なく踏みつける。

「恨み? 何のこと? あんたが踏んでくれって言うから、私はしょうがなく踏んでやっ
てるんじゃない」

あくまで頼まれたからと愛理は言い張るのだが。
虐待をされることに感謝しろというのだから無茶な話だ。しかし、文句を言うものは
誰もいない。外野は顔を赤くして見物しているだけだし、八雲すらどうしたらよいのか
判らずオロオロするばかりであった。
そして肝心の播磨は――

「ちっ! それより妹さん! つ、続きを……!」
「あ、はい」

 

696 :ω (4)  2007/10/17(水) 00:03:47 ID:AWPiK9qR  

もうこの際、愛理のことなどどうでも良いらしい。どれだけ頭にダメージを受けようが、
股間の痛みに比べれば微々たるものでしかなかった。とりあえず暴虐の限りを尽くす
女王は放置し、治療に専念する必要がある。
ただ、無視という行為こそが愛理の心を苛立たせることに播磨は気づいておくべき
だった。八雲は愛理の機嫌が次第に悪くなることを察していたが、二人の先輩のどち
らに追従するかといえば、当然播磨の方。怪我人を放置しておくわけにも行かず、八
雲は彼の言葉に従うしかない。

「……え、えいっ!」

愛理の睥睨から逃げるように。八雲は播磨を踏圧することに没頭する。

「遠慮はいらねぇ! もっと! もっとだ!」
「えいっ! えいっ!」
「そっちがその気なら、私もトコトンやってやろうじゃない! ほらほら、鳴きなさい!」

対抗心を燃やしてより強く踏みつける愛理と、その恐怖から播磨の看護により没頭
していく八雲。互いの行為に互いが刺激され、螺旋のようにどこまでもエスカレートし、
激しくなっていく。
もう三人には周囲の目など気にならない。気にしている余裕なんてない。
晴れた青空の下、ただひたすらに声を上げ続けるのだった。

「もっと俺を踏んでくれぇぇぇぇぇぇ!!」
「えいっ! えいっ! えいっ!」
「このマゾヒゲッ!! 死ね!! 死んでしまえぇぇぇぇぇぇ!!」




「な、なあ……あいつらは何をやってるんだ……?」
美琴の疑問――それは場にいる皆の総意でもあった。
間違ってもここはSMプレイの館ではない。爽やかな春の空気の中、愛着あるこの
街を気の知れた仲間たちと散策しようという、健全な催し物のはずだ。なのに播磨の
周辺だけピンク色の爛れた空気が漂っているのはどういうわけか。
ただ、美琴に返事をする者は誰一人としていない。
誰もがこの光景を忘れたがっていた。あるいは、あまりに世界が違いすぎて現実とし
て受け入れられない。

「……歩行祭の続きでもやっとくか」
「……そうね」

今日の出来事は決して後の世に語られることはないだろう。それもまた、場にいる皆
の総意であった。