haunted夢枕 その28~44

214 :haunted夢枕 その28 ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:24:34 ID:UzVkgDXq  
「好き……大好きぃぃィィッ―――」
魂の焦げそうなほどの叫びを撒き散らしながら、愛理は恍惚の中で気を失った。


膣の中で精を放たれる感覚。
播磨に何度そうされても、愛理はいつだってその熱に痺れるほどの快感を覚えてしまう。

白い快楽のなかで、愛理は漂っていた。
愛する男に敏感な部分を突かれて、中に熱い迸りを受けて。
愛理の全身の細胞がいまだに幸福な悲鳴をあげている。
薄暗い月明かりだけの播磨の部屋のベッドの中で、愛理は身体の内側にあふれる溶けそうなほどの熱と、
肌に感じる暖かい体温に恍惚としていた。

愛理が気を失っていたのはほんの数十秒だったらしい。
体の中心に広がるのは播磨の熱い体液の温度で、中に出された精液が愛理の粘膜と溶け合っている。
裸で大好きな男と抱き合いながら、そのほとばしりを体の一番奥で受けるという幸福。
そんな愛理のズキズキと熱く震えている子宮が全身に幸福感を伝えてくる。


とく、とく、という心臓の鼓動の音が愛理の肋骨の中で響いている。
播磨は荒く呼吸をしながら、愛理の体の上に崩れるように倒れ込む。
ぎゅう、と潰されながらも愛理は播磨の汗で塗れた体の感触がキライではない。
播磨は愛理の体の横に寝転がると、半ば無意識のうちにその金髪を胸の中に抱え込んだ。
アルコールの回りきった播磨は、射精の心地よい疲れの中で眠りに落ちていった。
やたら寝つきのいいこの不良は、わずか十秒数で規則正しい寝息をたてはじめる。
くー、かー、という寝息を耳にしながら愛理は胸の奥の柔らかい何かが
温かくなっていくのを感じていた。

「……だいすき」
とっとと寝入ってしまった恋人の耳にそう囁きながら、その胸の上下動に頬を寄せているうちに
いつしか愛理もまどろみに包まれていった。






鳥の鳴く音。
スズメが窓の外で鳴いている。
愛理は目を覚ました。

愛理の頬が暖かい肌に触れている。
このお嬢さまはその暖かさを心地よく感じている。
胸いっぱいに吸い込む匂い。男の汗の匂いがする。
その匂いを愛理は好きだった。
能天気なバカの肌の匂い。
お日様の匂い。
太陽を浴びた、動物の毛皮みたいな匂い。

薄目を開ける。
優しい、バカな大男の胸板が愛理の眼前に広がっている。
傷だらけのそこに愛理は頬を埋めながら、暖かいまどろみの中で愛理は次第に意識を覚醒させていく。

 

215 :haunted夢枕 その29 ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:25:13 ID:UzVkgDXq  
――ここ…どこ?
愛理は寝ぼけた頭で考える。
顔のすぐ前にあるのは、肌色の胸板。
傷だらけの、筋肉質の男の胸。
愛理はそれに頬擦りをしながらゆっくりと覚醒していった。
――そっか。昨日……コイツとして……って!

――刑部先生が、隣の部屋で寝てるのに!
――え、えっち、しちゃってた!

昨晩自分が言ってしまった言葉を思い出し、顔から火が出そうなくらい恥ずかしくなる。
酔っていたせいで「大好き」「愛してる」だのといったとんでもない恥ずかしいセリフを
ポンポン言っていたような気がする。
それはウソではない。
真実、沢近愛理という少女は播磨拳児のことを愛している。
不器用で、それでいて愚直なまでにまっすぐなこの粗暴なバカのことを誰よりも好きで好きで
たまらないでいる。
しかし、それとこれとは別なのである。
口に出してハッキリそう言ってしまうのはどうしても恥ずかしい。

だから愛理はこっそりと播磨のベッドを抜け出す。
恥ずかしすぎて、播磨と顔を合わせられない。顔を見られる自身がない。

愛理は脱ぎ散らかした制服を素早く身につけながらリビングに向かう。
――どうしよう。このまま帰っちゃったほうがいいかな?
携帯でナカムラを呼ぼうかと逡巡する愛理だったが、思い直した。
――刑部センセイに挨拶しないで出てっちゃうのは、やっぱり感じ悪いわよね?
――でも、なんて言ったらいいのかしら?

そんな悩みを抱えた愛理に、ガラ、とドアの開く音が聞こえてきた。
寝室から出てくる頭を抱えた美女。だるそうに額を押さえながらだらしない下着姿で
リビングのテーブルにふらふらと歩いてくる絃子だった。

「ああ、おはよう沢近クン……ゆうべはよく眠れたかい?」
二日酔いなのか、ぼうっとした表情のままソファに投げやりに座る弦子。

絃子のその言葉は挨拶だけだったようだ。
「すまないが……コーヒーを淹れてもらえるかな?」
「ハイ」
「粉はそう、棚の上、そうその上だよ」

 

216 :haunted夢枕 その30 ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:27:01 ID:UzVkgDXq  
 シュンシュンとお湯が沸く音が部屋に響く。
唐突に絃子は愛理に言った。
「拳児君は……君のことが、好きなんだな」
その言葉に突かれるように息を呑んでしまう愛理。
ゆうべのことを思い出しながら一人頬を染めてしまう。
「……」
愛理にはなにも言えなかった。
播磨のことを大切に思っている刑部センセイが、そんな播磨の想いを認めてくれている。
自分との仲を認めてくれている。
それは嬉しい、なによりも嬉しいことだった。
愛理の胸の奥でゆっくりと花が咲くように、幸福感が広がってくる。

沈黙を破って 絃子は口を開いた。
「沢近クン……拳児君のことを、頼む」
「……はい」
そんな熱い情感のこもった声に、弦子は満足したのか二日酔いのつらさに歪む顔に
かすかな微笑を浮かばせる。それは一抹の寂しさと、わずかな嬉しさが同居しているような
微笑みだった。

「おはよう、拳児君」
「お、おはよ」
「おう、お…はよう」
空気を読む能力のない播磨はそんな中にリビングに現れる。


なんだか赤い顔をしてるお嬢をヘンだな、と思いつつその顔も可愛いと思ってしまう播磨は
「どうしたお嬢?熱でもあんのか?」
と掌を愛理の額に無造作にあてがう。
途端にとろん、とした瞳になる愛理の額の熱さ。肌の肌理の滑らかさ。
ちっこくて、でもそれでもいろいろ肉の多いとこもあるこの少女のそんなか弱さに
播磨は胸の奥を感じさせてしまう。
「あれ。ちょっと熱いか……お嬢、大丈夫か?」
「うん……なんでもない。平気」
巣立っていく雛鳥を見つめる母鳥の心境で、絃子はそんな二人を見つめていた。



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218 :haunted夢枕 その31 まだ続く ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:39:34 ID:UzVkgDXq  
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「……アンタはどこでも寝られるのね」
播磨は目を覚ました。
暗い、何か動いているモノの中。播磨はそんなところで目覚めた。
目を開けるとすぐに、切れ長の薄い色の瞳が呆れたように播磨を覗き込んでいる。
そのお嬢さまの背景で何か光が流れている。
その光で目の前のお嬢さまが照らされ、なんつーかやっぱり美人だ。播磨はそう思った。
「んあ? ……あれ?」
「何寝ぼけてんのよ」
目の前で呆れた顔をしてみせている金髪の完璧お嬢さま、沢近愛理がそう言い放つ。
言ってるセリフは厳しいが、その口調はどこか柔らかい。

播磨が居るのは車の中のようだ。むかし一度だけ乗ったことのあるでっかいリムジンの中。
播磨はなぜ今自分がリムジンの中にいるのかを思い出した。





高校卒業後、播磨がアパートで一人暮らしを始め、漫画家のアシスタントをしながら
投稿応募や持ちこみを続けてはや六ヶ月。一人暮らし、といいつつすっかり通い妻状態の愛理が
あれこれと世話を焼いてくれているので実はそれほど苦労はしてない。甲斐甲斐しく料理を
作ってくれたり、部屋の掃除をしてくれたり、通販で炬燵を買ってくれたりする愛理に
播磨は感謝するほかはない。

そして年も押し詰まり、師走も半ばを過ぎた頃。
いつものように播磨のアパートに合鍵を使って押し入ってきたお嬢さまは高らかに言い放った。
「ヒゲ! パーティーに行くわよ!」

『談講社・ジンマガ春秋賞』の応募作のネームを切りながらうつらうつらとしていた播磨は
驚いて椅子から転げ落ちてしまった。
徹夜続きの日々を送っていたせいか、愛理のセリフがよく理解できない。

「コレ、ポストに入ってたの」
それは談講社からの封書で、『談講社クリスマスパーティーのお知らせ』と書いてあるのが読める。
っていうか勝手に開けて読んでいる愛理。
なんでもどっかの大きなホテルでクリスマスイブの日に談講社は関係者を大勢招いて
盛大なパーティをやるらしい。
そしてそんな招待状の下には
『正装でおいでください』
の文字がしっかりと太い字で記されている。

「……正装なんて持ってネエっての」
「じゃあ、ナカムラのを貸してあげるわ!」
「え?」
「私もドレスを選ばなくちゃいけないわね……アレと、あれで行こうかしら……サイズがあわないけど…」
「あ?」
「…ヒゲ、前日はちゃんと寝とくのよ!? なんてったってパーティなんですからね!
昼過ぎには迎えに来るから!」
そんなノリノリの愛理に引っ張られて播磨はあまり行く気がしてなかったクリスマスパーティなんかに
参加させられているわけである。
そんなわけで、播磨は愛理とともにナカムラの運転するリムジンの後部座席に乗っている訳だったりする。

 

219 :haunted夢枕 その32  ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:40:25 ID:UzVkgDXq  
「夢? 夢か……夢、見てた」
「…どんな夢?」
興味ないようなフリをしつつも愛理はしっかりソレを聞いてくる。
播磨は寝ぼけ眼をこすりながら、どんな夢だったか思い出そうとする。

――あの夢……お嬢がやけに素直で…なんだか……スゲー、可愛かったな……
さっきまで見ていた夢。
腕の中で、涙ながらに自分のことを好きだ、と切なげに囁いてくる愛理の姿が脳裏によみがえってくる。
――アレ? 夢?
――夢ってより…

播磨はその光景をホントに見たような気がしてきた。
優しくて、可愛くて、素直なお嬢の顔を本当にみたことがあるような気がする。

思い悩んでいた播磨は愛理に尋ねた。
「……なあお嬢、俺はずっと夢だと思ってたんだけどよ」
「……」
「オメエ、今年の春、俺が引っ越すのを決めた晩ウチに泊まってったじゃねえか。
そんとき俺の部屋に夜這いに来なかったか?」
「!!!」
「だろ? 酔っ払ってみた夢だと思ってたけど、今さっき思い出した」
「な、な、ナニ、ナニ言ってんのよ!」
「オメエ、あんとき『好き』だとか言って甘えてきたじゃねえか。俺はすげー可愛いと
思ってたんだが、アレって夢じゃなかったんだな」

「そ、そ、そんなわけないじゃない!」
必死にソレを否定しようとする愛理だが、顔を真っ赤にしながら言っていてはまったく説得力がない。

愛理はその晩のことをしっかり覚えているし、そもそも播磨に「可愛い」だなんて面と向かって言われては
このお嬢さまは平常心を保つことなんかできっこない。

興奮と当惑と緊張とで赤くなりながらあわあわ言っている愛理に、声が掛かった。
「お嬢さま」
いつの間にか開いていた運転席との仕切り越しに、ナカムラが慇懃に言う。
「間もなく会場のホテルでございます」

タキシードで正装した播磨と、イブニングドレス姿の愛理。
体だけは十分に逞しい播磨は、ナカムラからの借り物のタキシードをしっかり着こなしてしまえている。
厚い胸板はシャツの上からでも判る。太い首や長身も、その衣装には以外にちゃんと似合っている。

一方愛理のイブニングドレスは両肩出しのストラップレスで、光沢のある真っ白な生地でもって
愛理の体を包んでいる。大きく開いた胸元の縁は白いファーで飾られ、その内側の柔らかそうな
ふくよかな乳房をより魅力的に見せている。
スカートは細く膝下まで続いている。サイドに空いた深いスリットはその隙間から
愛理のストッキングに包まれた健康的なふとももを魅惑的に覗かせているという、可憐でありながら
健康的な肢体の魅力を存分に発揮しているそのイブニングドレスはこのお嬢さまがいつか播磨に
見せようと思ってたくらい気に入っているものだった。
胸がきつくなったのであつらえ直したのを試着してみた愛理は、その姿をいつか播磨に
見て貰いたい、と思っていた。だからそんなときに播磨のところにパーティーの招待状が
届いたのはまさに渡りに船、というわけだった。

 

220 :haunted夢枕 その33  ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:40:59 ID:UzVkgDXq  
 愛理は緩んでいた播磨の蝶ネクタイを締め直し、形を整える。
播磨の襟に手を伸ばす愛理の胸元が播磨の視界には飛び込んでくる。
愛理の柔らかそうな――というか実際柔らかいのだが――たわわな乳房が、仕立ての良い
オートクチュールのドレスのなかに窮屈そうに収まっている。
ストラップレスのイブニングドレスの大きく開いた胸元からぷっくりとこぼれそうな乳房は、
その二つの小山の間に深い谷間を刻んでおり、その真っ白な乳肌は内側の薄い静脈すら透けて
見えそうなほどの透明感と柔らかそうな色をしていて健康的な男性ならばその曲面に
目を奪われて当然だ。播磨ももちろん例外ではない。

だから播磨には、なんだか大きく開いた愛理のドレスの胸元が気になってくる。

「お嬢。その……胸、出しすぎてねえか?」
「そう? コレくらいフツーよ?」

愛理のドレスのストラップレスのネックラインは深く胸元にまで切れ込んでいる。
播磨はこの少女を抱き締めるときにはいつも、腰の細さに驚きと感動を禁じえない。
そんなくびれたバストからウエストのラインににぴったりとフィットしたイブニングドレスは
光沢のある純白の絹作りの仕立てで、肘の上まであるサテンのロンググローブの白と胸元を飾る
ファーの毛も含めて、まるで純白の天使のようだった。すくなくとも播磨にはそう見える。
梳かれて高くまとめられた金髪の中に光るティアラや真っ白な首筋に光るキレイな石はたぶんダイヤモンド。
耳飾りに揺れるのも白い石で、いったいいくらするのか播磨には想像も付かないくらいだ。
完全武装なお嬢さまver.の沢近愛理がそこにいた。

その姿は「どっかの国のお姫様だ」と言われたら信じてしまいそうなほどのキレイさで、
播磨は数年来の恋人の姿に今更ながら目を奪われてしまう。

走るリムジンの窓から入ってくるクリスマスの街のイルミネーションが愛理の色白な肌を
ほのかに照らされている。瞳の輝きと、唇に塗られたグロスの光沢。深い胸の谷間が
強調されるようなドレスを着ている愛理に近寄られると、播磨は目のやり場に困ってしまう。


「マイッタな……」
播磨の小さな呟きにも、このお嬢さまは反応してしまう。
愛理の一喜一憂はすべて播磨が原因なのだが、この野暮天にはそう言うことが
あまり気づけていない。
「なによ……アンタ、私のこと……誰かに…紹介するの、ヤなの?」
切なげな表情でそう言う愛理に、慌てて播磨は答える。
「んなわけねーだろ」
播磨は播磨で、愛理のこの表情に弱い。
長いまつげを伏せて、曇った悲しい目の色でいる愛理を見ると播磨はつらくなる。
このお嬢さまにこんな顔をさせるようなヤツはぶん殴ってやろうと思う。この場合は自分だが。

ウィイイイ、と音を立てて運転席との仕切りが閉まる。

 

221 :haunted夢枕 その34  ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:41:43 ID:UzVkgDXq  
 ウィイイイ、と音を立てて運転席との仕切りが閉まる。

どこか恥ずかしそうに、播磨は言った。
「その……オメエ、目立つだろ。だから……他のヤツにあんま見せると……アレだからよ」
「アレって?」
「アレって……その、アレだ」
「アレじゃわかんないわよ!」

「アレってのは……その、誰かに、取られちまうんじゃねえかと思ってよ」
顔を赤くしながら、視線を愛理から逸らしつつ播磨は吐き捨てる。

いつも「愛してるって言いなさいよ」と迫っても「そんな恥ずかしいこと言えるか」
とにべもなくはねつける播磨が、珍しくこんな愛の言葉を口にしてくれていることに愛理は感激した。
愛の言葉と言えるのかどうか微妙な台詞だったが、普段の播磨を知っている愛理にとっては
それは平常心を保つことができないほどの甘い甘い愛の言葉だった。

播磨のその言葉はお嬢さまの体を切なく痺れさせる。


「……」
言葉は要らなかった。
大きく見開かれた星目がちな愛理の瞳は、播磨の視線を吸い寄せて離さない。
愛理は長いまつげを伏せながら、磁石に引き寄せられるようにその顔を播磨に近づけていく。

ふんわりとした、いつもの幸福な感触が播磨の唇を包む。
ぷりんとしたお嬢さまの唇粘膜が、播磨のそれの上で弾けるように蕩けた。

唇が触れるたびに、お嬢さまの胸の奥は切ない悲鳴を上げる。
粘膜の押し付け合いは、愛理の内側を嬉しい痛みでさいなんでいく。



その柔らかさに、そのしっとりとした触覚に、播磨はいつものように背筋を駆け上ってくるような
快感を覚えてしまう。
顎に感じるお嬢さまの白くて細い指も。
頬に吹きかかる、興奮した金髪の美少女の鼻息も。
全ては播磨を興奮させ、それと同時に安心させていた。
それはこの、自分にとっての凶悪で可愛らしい天使が自分のことを想ってくれているという証拠だから。

ついばむように唇を動かし播磨の口を堪能する愛理。
内側に秘められた熱を伝えるようにその唇は播磨をむさぼる。
唇だけでは足りないのか、愛理は播磨の頬にキスをする。
鼻の先に唇を触れさせる。
閉じた瞼の上に唇を落とす。
愛理はもっといろいろしたいのだが、パーティー会場のホテルまで近いので
もうそれ以上のことはできない。

 

222 :haunted夢枕 その35  ◆F57im1gMT.  2007/07/23(月) 03:44:42 ID:UzVkgDXq  
 愛理はもっといろいろしたいのだが、パーティー会場のホテルまで近いので
もうそれ以上のことはできない。
だから熱い溜息を一つ吐くと、愛理は
「……ばかね」
とだけ言った。

唇を離した愛理はそれしか言わない。
キラキラとクリスマスの街の灯りを映し出している愛理のその目が、雄弁に播磨に何かを語る。

鈍感で鈍くて女心がちっとも判っていない、掛け値なしの朴念仁であるところの播磨にすら
その瞳に込められた気持ちは読み取ることができた。
その瞳の色は、不思議に播磨の心を落ち着かせる。
胸の中を暖かくしてくれる。
その目を見ていると、世界中が色めきだす。


ウィイイイ、という音とともに仕切りが開く。
「お嬢さま、これをどうぞ」
ナカムラが運転席から後ろ向きでウェットティッシュの筒を手渡してくる。
この執事のオッサンは一体何者なんだろう、と思いつつ播磨は顔中を愛理にウェットティッシュで
拭かれている。
そして播磨の顔面から口紅が残らず消え、愛理が唇を塗りなおし終わった頃、名門ホテルの絢爛たる
エントランスにナカムラの運転するリムジンは横付けした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

ほい
今日はここまでー
なんつーか、奇妙なほうに話が転がってきたけどそれはそれでw
つい人気投票の発表の回を読み返してたら妄想が溢れてきて書いた。
お嬢がかわいく蕩ければどんなネタでもよかった。
とんでもないことを書きだしたと今では反省なんかしてない。

あと二回くらいで完結する予定なんだぜ(←そして俺の見通しは当たったためしがないwww
感想クレイ

 

352 :haunted夢枕 その36  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:35:07 ID:wHOhs63M  
 お嬢と播磨の乗ったリムジンはホテルの豪華なエントランスに横付けしている。

ドアを開けようとする播磨を愛理が制する。
「アンタ自分で出てどーすんのよ」
「あ?」
「こーいうのはドアマンが開けるものなの」
「そーなのか」
「そうなの」
全くの庶民であるところの播磨はそういう風習がまるでわかっていない。
リムジンから出れば出たで慇懃なホテルのボーイやら赤じゅうたんなんてのにも思わず気後れしてしまう。

「ヒゲ、シャキっとしなさいよ」
「…おう」
「背筋伸ばしなさい」
「お、おう」
それでもシャンデリアや金ぴかの装飾やら制服のドアマンやら見たことも無いような雰囲気に
なんとなく臆してしまいそうになる播磨。

そんな播磨の腕を取ると、羽織ったコートのファーも凛々しく愛理は自信満々に歩く。
男だったら誰でも目を奪われてしまうような、そんな美少女はいるだけでその場の空気を変えてしまう。
ホテルのロビーにたくさんいる、パーティーのために着飾った女性たちの中でも一人だけ別の存在みたいに
播磨には見える。
愛理の白い首筋にふわふわの金髪の流れが垂れている。
透き通るような肌の白さとドレスのシルクの純白の光沢。
肌白。純白。金色。
そんなものが播磨の目には映ってしまう。

まだ少し緊張している播磨に、金色の美少女はその顔を見上げながらこんなことを言う。
「ヒゲ。アンタって、こんな美人を連れてるんだから、たいした男なのよ?
胸張って行けばどうってことないわ」
そう言って愛理は播磨のタキシードの袖にサテン地のロンググローブをつけた細い腕を絡ませる。
羽織ったコートの胸元から覗く白い胸が播磨の視線をひきつけてしまう。
上から見るとすげー深いな、谷間。
播磨がそんなことを考えてしまってると愛理は言った。
「ナニ欲情してんのよ」
そう言いながらも、愛理は嬉しそうな笑みを浮かべている。
ごく親しい人間にしか見せない、あきれ半分、からかい半分といった微笑み。
その微笑は播磨の緊張を解いていく。
「さ、行くわよ」





「ちょっとヒゲ、あの子たち何なの?」
さっきまで全くの平然で威風堂々、それこそパーティーなんか生まれたときから呼吸するみたいに
当たり前に列席してますが何か?といった風の愛理が突然不安げに尋ねてきた。
愛理の視線の先にはこの場にはいかにも不釣合いな風景があった。
色とりどりの水着をつけた女の子たち。
それもそれぞれタイプの違った美少女でみんなおっぱいもでかい。
健康な男だったら鼻の下を伸ばして然るべき光景がそこにあった。
播磨はちらとそれを眺めて答えた。
「ああ、ミス・ジンマガとかいうグラビアアイドルだろ」
正確に言うとそれは微妙に間違っているのだが、播磨はあまり気にしていないようだ。
週刊少年ジンマガの読者投票で選ばれた、巻頭カラーグラビアを飾る五人の女の子たちだった。

説明された愛理は納得しつつもその美少女たちを眺めている。
細い腰に、たっぷりした胸。
自分の胸や体もそれには劣らないとは思うが、愛理はその美少女たちの可愛らしい声や
男たちの視線を惹きつけてやまない笑顔なんかに気を取られてしまう。

 

353 :haunted夢枕 その37  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:35:48 ID:wHOhs63M  
 だからつい愛理は聞いてしまった。
「……ね、ねえ…ヒゲ、アンタ……あの中だったらどの子が好み?」
ミス・ジンマガの女の子たちには目もくれず、会場のどこかにいる担当編集の三井を探している
播磨はそんな愛理の問いに、どーでもいいというような口調で答えた。
「あぁ? んなのに興味ねえっつの。俺は女はお嬢だけで十分なんだからな」

愛理の耳から瞬時に音が消失した。
パーティーの喧騒は消え、播磨のその言葉だけが愛理の脳内に何度も何度もエコーする。
「興味ねえ」
「お嬢だけで十分」
「女はお嬢だけで十分」

その言葉。その何気ない言葉が、愛理の身体の芯を優しく撫でるように刺激していった。
そのセリフはお嬢さまの身体の芯に染み込んで、愛理の官能を揺さぶる。

――泣きそう。
――コイツを好きになって、よかった

愛理はそれだけで胸の奥が熱く震えてきてしまう。
とくん、とくん、と心臓が苦しくて甘くて切ない鼓動を刻んでいるのがわかる。

感動で動けない愛理は、播磨が担当編集三井と話しているのをぼんやりと遠くから見ている。

「あー、播磨君来てたんだ? どう? 次のネームは進んでる?」
「あ、ハイ。その、一応は」
「いやいや、こないだのヤングジン別冊のヤツ、結構評判悪くなかったよ。
次もアンケートの結果良かったらジンマガ本誌に読み切りでもどうかなって話も出てるんだよー。
…って、あれ? 播磨君飲んでないの? 水割りでいいよね?」

未成年だということを全く無視してジンマガ編集部員三井は飲み物を取りに行ってしまった。

歩けるようになった愛理は、播磨に歩み寄ると尋ねた。
「ねえ、今の人編集の人なの?」
「ああ。担当になってくれてる三井サンだ」
「ふーん。なんかいい人っぽいじゃない」
「そーか?」
そんなやりとりをしていると、水割りを手に戻ってきたジンマガ編集部員三井がどういうわけだか
播磨の袖を引いて、会場の片隅まで引っ張っていく。
三井は播磨に言った。
「…播磨君!」
「何すか」
「ダメだって! モデルさんに手ェ出しちゃ」
「は?」
「いや、そのね。判る。判るよ播磨君。美人さんがいっぱい居て嬉しいのは判る。
でもね、播磨君! 君はまだ若いんだからこういうところでエラいさんに目をつけられるような――」
三井の言葉を遮るように、愛理は播磨の腕を抱き締めると、「外向きのお嬢さまスマイル(播磨・評)」で
ジンマガ編集部員三井に対して微笑みかけつつ、言った。
「始めまして。私、沢近愛理と申します。拳児がいつもお世話になってます」
完璧なお嬢さまが、完璧なスマイルを浮かべながら、完璧なお辞儀をした。
「え? ええ? ケンジって?」
愛理と播磨の顔を交互に見比べる三井。

「その……一応、俺のコレっす」
播磨は握りこぶしの甲を三井にかざすと、恥ずかしそうに小指だけを伸ばしてみせた。

「コレ」呼ばわりでも、愛理にはそれは堪らなく嬉しいことだった。
この頭が悪くて朴念仁で優しさの欠片も無い気の利かない凶悪な目つきのバカな恋人が、自分のことを
認めてくれている、というのは愛理にとって幸福以外のなにものでもなかった。
純粋な幸福感に包まれた愛理は、頬を緩ませて恋人の腕にしっかりと抱きついた。

 

354 :haunted夢枕 その38  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:36:57 ID:wHOhs63M  
「え? え? 播磨君? そのコ、モデルさんじゃなくて!? 播磨君のカノジョなの? 」
その困惑気味な編集部員に、愛理の想い人は照れながら答えている。
「えと、まあ、そんなとこッス」
煮え切らないが、播磨なりに必死な答えに愛理は満足を覚えてしまう。
「う…ふ」
足からふわふわという播磨の腕に捉まっていないと、立っていられない。

愛理は播磨の腕に胸の膨らみをぎゅうっと押し付けている。
たわわでふっくらしたドレスの胸元が播磨の腕に潰され、見るものにその柔らかさを
想像させてしまう。

独身で一人身の編集部員三井が心理的に泣きながらどこかに退散したあとで、
愛理は播磨にくっつきながら言った。
「……『コレ』?」
その頬はほのかに赤く染まり、きれいな鳶色の瞳で播磨を見上げてきている。
コレ呼ばわりは不本意だったが、愛理にとってうれしいことには違いない。
でもそれを言ってしまうとただでさえぶっきらぼうなこの男は図に乗るに違いない。
だから嬉しがったりできない愛理だった。

「……悪かったな」
いつも見てるのに、突然そんな表情をされると播磨はなぜだかドキドキしてきてしまう。
目の前の恋人のそんな態度に、播磨は落ち着かない気分になる。
「…いいわ、別に」
「なんて呼べばいいんだよ?」
彼女。恋人。愛理の中では呼んで欲しい呼び方はいくらでもあった。
でもそんな風に素直に呼んでくれちゃったら、なんだかそれは播磨じゃないような気がして
愛理は言葉を濁すことしかできない。
「別に…アンタの好きなように呼べばいいじゃない」
照れてるような、嬉しそうなそんな表情でそんなことを言われたら播磨にはどうしようもない。

播磨は思わずこの美少女を小脇に抱きかかえてどこかベッドのあるところまで
連れて行ってしまいたくなるような、そんな気分になるほかない。

――どうしろっていうんだ?
そんな播磨の声を吹き飛ばすかのように、突然背後からけたたましい声が降ってきた。


「あら、ケンちゃん? ケンちゃんじゃない! 来てたのね」


「あ、センセイ! チワッス」
反射的に最敬礼をしてしまう播磨。
見るからに派手な感じの女性が手を振りながら近づいてくる。
キツイ化粧に原色のドレス。
でもそれが決して似合ってないわけではないほどの派手な顔立ちの30代の美女が
手を振って播磨に近づいてくる。

その美女は、播磨の側の愛理に目ざとく気づくと軽く会釈をする。
「貴方、確か――」
「…先日は電話で失礼しました」
基本的に頭の回転の速いこのお嬢さまは、この美女が播磨がアシを勤めている京極というマンガ家で、
一度だけ電話で話したことがある女性だということに気づいた。
「……ケンちゃんの噂の彼女さんね?」
「…はい」

 

355 :haunted夢枕 その39  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:37:44 ID:wHOhs63M  
 女性マンガ家京極の後ろから若い女の子たちが現れた。いずれも京極のアシスタントで播磨の
先輩でもある。
「ナニよケンちゃん! 気の強い暴力女だって言ってたじゃない! こんな可愛いカノジョを捕まえといて!」
アシAは怒ったように播磨に詰め寄る。
「……ヤンキーだって言ってた」
無表情で無口っぽいアシBが播磨を冷たく睨みながら非難している。
「こんばんわ。ケンちゃんの彼女さんなの? ケンちゃんたらやるぅー」
遊び人風のアシC子が面白そうに言う。


播磨がときどきアシスタントをしている「京極センセイ」のところの他の人はみんな男ばっかりだ、
という説明をされていた愛理は播磨のタキシードの背中をつねり上げつつ、テーブルの陰でハイヒールで
播磨の足の甲をグリグリと踏みにじりながら小声で「どういうことかあとで説明してもらうわよ」と
囁きかけながら京極にお辞儀をしていた。


「はじめまして。沢近愛理と申します。うちの拳児がいつもお世話になっております」
すっかり奥さん気取りなそんな挨拶も堂に入ったもので。

「愛理ちゃんてお姫さまみたい」
「かーわーいーいー」
「ね、ね、ケンちゃん、こんな可愛いコ、どこで捕まえてきたの?」
愛理は誉められること自体はキライではないが、どういうわけか他の女の子が
やたら播磨に触ったり馴れ馴れしくしていることについてはどうしてもイラつきを抑えられない。

愛理が播磨に非難の口を開こうとした瞬間、ジンマガ編集部員三井が二人の間に割り込んできた。
「あー、いたいたぁッ!」
息を切らせている三井。
「ねえ、沢近さんてもしかしてフランス語はできたりする?」
金髪のコだったら外国語はなんでもできると思っている短絡っぷりが播磨の担当にはお似合いというか
なんというか。
「ええ。日常会話程度ならそこそこは」
しかしそつのないお嬢さまでもある沢近愛理という美少女は、これまた完璧なお嬢さまスマイルで
三井の無理難題に応えてしまっている。

「助かった―――! 今からA国の駐日大使のあいさつがあるんだけど、手違いでフランス語の通訳が
来てなくて! 沢近さん、大変申し訳ないんだけど、通訳お願いできる?」








そんなわけで、パーティの宴もたけなわのステージの上には金髪の美少女と某国の駐日大使のオッサンが
並んでいたりするわけである。

「――以上のようなたいへんに喜ばしい理由から、談講社さまとのお付き合いをわれらA国民は
等しく歓迎するものであります」

パーティーのさなかの来賓挨拶なんかはこの海千山千のマンガ業界人がご静聴なんかするわけがない。
スピーチが始まっても会場はそんなものそっちのけで騒いでいた。
しかし次第に会場が静まりだし、ステージの上に視線を注ぐ客が増えていった。
酔っ払いながらバカ笑いをしていた漫画家や編集者や業界ゴロたちも、その澄んだ声と
ライトを浴びて輝いている金色の美少女に視線を奪われていた。
大使の言葉を逐一懸命に訳しながら、にこやかに微笑む日英ハーフの美少女。
その輝くような美少女は、いまやすっかり会場中の注目を集めていた。

 

356 :haunted夢枕 その40  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:38:27 ID:wHOhs63M  
 まるで砂時計みたいに腰がくびれている真っ白い光沢のある肩出しのドレス。
その上のほうのふっくらと膨らんだ柔らかそうなバストの裾野は、やはり真っ白いファーがいい感じに
隠している。
白い首筋に光るネックレスと、金髪の中に輝くティアラの白い宝石はステージ上のスポットライトを
浴びてまぶしく光っている。
その宝石の光に負けないくらいの端正でありつつも可愛らしい顔は、美女を見慣れてるはずの
出版業界の人間どもの目をひきつけてやまない。


「あのコ、良くない?」「どこの事務所のコ?」「どっかと契約してんのかな?」
囁きあっているのは芸能プロダクション関係者か。

「おっぱいでっかいなあ」「金髪のコが主人公ってどうよ? ハーフ萌えー」
「むちむち巨乳サイコー」
と囁きあっているのはたぶんエロマンガ家ども。

ともあれA国大使のスピーチよりよっぽど会場の視線を集めているのは、そこいらのモデルなんかよりも
はるかに美人で、グラビアアイドルなみの肢体を可憐なドレスに包んでしまっているお嬢さまなわけだったりする。




「やっぱ、あのコ可愛いよねー」
と京極のアシA子が言った。
「ホント。ケンちゃんには吊り合わないんじゃない?」
とこれはアシB子。播磨に気がある。

しかし先輩アシのおねーさんどもの言うことなんか聞いちゃいない播磨。
ただ、壇上のキレイなお姫さま然とした愛理に視線を奪われている。
金髪に映える光輪のキューティクル。
真っ白な頬の中のキスしたくなるようなつややかな唇。
胸元から覗く、雪白の肌のたわわなふくらみ。

会場の誰よりも、その姿を食い入るように注視している。

あんなお姫さま然とした美少女が自分と何度も、何百回も「あんなこと」をしていただなんて
今更ながら播磨には夢のように思えてくる。
胸元から覗いている白いおっぱいの裾野がふっくらと膨らんでいる。
会場の男ども全員が、触りたい、揉みたい、吸いたいと思っているそんなステキな
バストを播磨はガン見してしまう。



「以上をもちまして、A国民を代表してご挨拶するところであります。……ご静聴ありがとうございました」

A国大使の会釈に続いて通訳役の愛理が深々とお辞儀をする。
金髪のキューティクルが舞台照明のスポットライトを浴びてキラキラと輝いている。
その光が播磨になにかを決意させた。





 

357 :haunted夢枕 その41  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:39:26 ID:wHOhs63M  
 パーティーもお開きになり、似合ってない真面目な顔をしている播磨は
上機嫌なお嬢さまをエスコートしながらクロークに向かう。

コートを預けたクロークには長い列ができている。
その列に並びながら、愛理は楽しそうな声で播磨に言ってくる。
「ねえ、コレ何だとおもう?」
愛理はそう言うと、播磨に何枚ものカードを掌でトランプのように広げて見せた。
それは何枚もの名刺だった。
「なんだそりゃ」
「さっきね、いろんな芸能事務所にスカウトされちゃったの。モデルになりませんかとか、
アイドルになってみない?とか、来年のミス・ジンマガは君だ!とか……」

A国大使のスピーチも無事通訳し終えた愛理に群がってくるのは業界ゴロたち。
モデル事務所のマネージャーからTV局のプロデューサーまで、海千山千の山師たちが
競うように愛理に声をかけてくるのも当然のことだった。


「いっそのこと、デヴューしちゃおうかしら?」

そう言うと愛理は悪戯っぽい表情で播磨の顔を見上げる。
そういうのを嫌がる、ということを愛理は知っている。

モデルだの、アイドルだの、愛理はそんなものになんかなりたいと思ったことはなかった。
愛理がなりたいのは、この頭の悪くて目つきも悪い、そんな想い人のステディな関係の恋人だった。
図らずもそれが叶ってしまった今は、もっと播磨と深い関係になりたいと思っている。
この先もずっと一緒にいられるような、そんな関係。
うまくイメージできないけれど、朝起きたら自分の隣にコイツがいて、一緒に朝ごはんを食べて、
帰ってきたらコイツがいる。家で待っているとコイツが帰ってくる。
いつも一緒。帰るところがいつでも一緒な、そんな関係を愛理は夢見ていた。



そんな夢見る美少女に対して、いつになく真剣な顔で播磨は答えた。
「お嬢は美人だよな」
ポカンとする愛理。

クソ真面目な表情の播磨は続ける。
「あン中にいる誰よりも、どのモデルやアイドルなんかよりも、ずっともっと美人だった」

――え? コイツは何言おうとしてるの?
美人、と言われて瞬時に胸が高鳴ってしまう。
播磨はそんな頬を染めた愛理に、爆弾発言を投下する。
「だから、なりゃあイイんじゃねえか?」

「なっ!? だ、だって、ヒゲって前に――」
困惑する愛理に、播磨は続ける。
「俺はオメエに相応しい男になりてえ。
取られるとか、取られないとか、そういう嫉妬してるようなちっぽけな男じゃダメなんだ。
お嬢がアイドルやらモデルになったって、惚れられるような男になんなきゃイケねえんだ」

予期しない播磨の言葉に、愛理は黙って聞き入っている。

「お嬢は、俺のことを『たいした男だ』って言ったよな?
だったら、俺はホントにたいした男にならなきゃいけねえ」

 

358 :haunted夢枕 その42  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:41:04 ID:wHOhs63M  
 混乱と、そしてその後からやってくる言葉にならない感情。
――かわいいって、美人だって言ってくれた。
――そして、そんな自分のために、変わろうとしてくれてる。
愛理は、そんな播磨のことを心底つくづく大好きだ、と思った。
胸の中がジンと熱くなった。
瞳が勝手に潤みだし、播磨にすがり付いてないとまっすぐに立てない。
播磨の肘にすがりつく。

「あ? 酔ったのかお嬢?」
やっぱり空気が読めてない播磨はそんな言葉を発する。
でも、その播磨の声の響きにすら愛理は幸福感をより深めてしまっている。
播磨のシャツの胸元を掴んだ掌に感じる播磨の体温だけで、愛理は体の内側に
湧き出てくるじわりという暖かい至福に浸ることができた。

――好き。好き。大好き。
――甘い言葉を言ってくれなくても。
――好きだとか愛してるとかいう言葉をくれなくても。
愛理は、体中でこの男を愛したいという欲望が体の内側に充満してくるのを感じていた。
今すぐにでも、この人に抱き締められたい。
愛理の身体の芯がぐつぐつと沸騰しているようだった。

リムジンの車内に入ったらすぐさま抱きついて、キスをして、体温を感じて、コイツの味を
唇で、舌で味わいたい。
愛理は腰の裏に熱を感じながら、どうやって今晩播磨と一緒にいようか考えていた。
――コイツはバカだから。クリスマスイブだから一緒にいよう、なんてことは考えてないはず。
――とっとと「じゃあな。おやすみ」とか言ってアパートの部屋に帰っちゃうはず。
全然ちっともロマンティックじゃない思い人のことを愛理はよく理解している。

コイツのアパートに上がりこもうか、それとも屋敷にヒゲを招きいれようか思い悩む愛理。

――そうだ!
愛理は妙案を思いついた。ナカムラに「車の調子がおかしいようです」とか言わせて、
播磨を強制的に屋敷に泊まらせてしまえばいい。
そうすれば、コイツはウチに泊まっていってくれるだろう。
そうしたら、播磨を泊めた客間に忍び込めばいい。
――そんなんじゃなくて!
――忍び込むなんてまだるっこしすぎ! コイツを客間に案内するフリをして押し倒しちゃえば!
発情しきっているお嬢さまはキュンキュンと甘く震える胸を播磨の腕に押し付けながら、
今晩どうやってこの馬鹿で粗暴で優しい恋人と愛し合おうかとそれだけを考えていた。


場所もわきまえずに発情しているお嬢さまに、突然丁寧な言葉が掛けられた。
「沢近様でいらっしゃいますでしょうか?」
慇懃なホテルマンが、会釈をしながら愛理と播磨に話しかけてくる。

「は、はい、そうですけど」
あわてて取り繕いながら答える愛理。

「ナカムラ様とおっしゃる方からご伝言をお預かりしています」
封筒を差し出された。
それを開けると、手紙が入っていた。

 

359 :haunted夢枕 その43  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:45:20 ID:wHOhs63M  
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

『 愛理お嬢さま
たいへん申し訳ございませんが、この寒さの所為か車が故障してしまいました。
明朝9時にはお迎えに上がりますので、どうか今晩はこのホテルにご投宿願います。

追伸:クリスマスイブということもあり、最上階のスイートしか空きがないとのことです。
心苦しくはありますが、どうか播磨様とご一緒にお泊まり下さいませ』


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


封筒の中には、ご親切にもスイートルームのカードキーまで入っていた。
このお嬢さまの要求を前もって察知しているあたり、やはり執事ナカムラは有能どころではない。

「……ヒ、ヒゲ?」
上ずっている声で、愛理は播磨に小声でささやく。
「何だ?」
「ナ、ナカムラがね………車が、故障したって…」
「あん? じゃあタクシーかなんかで――って、金あったかな…って、財布持ってねえ! 車ン中だ!」

慌てる播磨に、愛理は震える声で懇願する。

「あ、あの…あのね、…ナカムラが……このホテルに部屋、取ってくれてるから……一緒に……泊まって……」
金色の震えているお嬢さまがそんないじらしいことを言ってるのに、この朴念仁はわかってない。
「え? いいのか? 悪ぃな。こんな高そうなホテルなのに」

播磨の腕にすがりついたままの愛理が、エレベーターボーイにカードキーを手渡すと
直通の展望エレベーターに案内された。

「お待ちしておりました沢近様。お部屋へご案内します」
展望エレベーターが上昇を始める。
愛理は地に足が着かないような思いで、播磨の燕尾服のジャケットに縋り付いていた。

――こんなに人を好きになったのは初めて。
――こんなに、身も心も捧げてしまいたくなったのは、はじめて。

ほの紅い顔をしながらズキズキと甘い痛みを感じる胸で、愛理は思っていた。
ドレスの内側の肉体をジュクジュクと熱くさせながら、播磨の手のひらの感触を
待ち望む。
愛理は自分の腰の熱を感じながら、播磨の身体の臭いを深々と胸に吸い込む。
播磨の顔を見上げる。
エレベーターの窓ごしの夜景に照らされた播磨の顔が愛理の目に映る。
――キスしたい。
――今すぐ、ぎゅってされたい。……もっと、されたい……

発情したお嬢さまはそれだけを思っていた。




エレベーターのドアが開くと、そこはスイートルームのエントランスだった。
「ありがとう。荷物はないし、案内もいいわ」
『もし付いてきやがったら呪い殺す』というような視線で微笑みながら
愛理はエレベーターボーイをメデューサに睨まれた哀れな犠牲者のように固まらせる。

「――ど、どうぞ、ごゆっくり」
そう口にできた点だけで、このスイートルーム専属エレベーターボーイはプロだと言えただろう。

 

360 :haunted夢枕 その44  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:46:42 ID:wHOhs63M  
 一フロアまるまるのスイートなんてのは播磨の想像にはない。
キョロキョロしながら愛理に尋ねている。
「お? なあお嬢。部屋ってどこ――」
しかし播磨の声は愛理の唇で遮られる。
播磨の首筋に腕を廻したお嬢さまが、その唇を奪っていた。

「なっ――」
あまり公共の場所で女といちゃつくのはカッコ悪いことだ、なんていう古風な男性感の持ち主の
播磨はそれに抗おうとする。

「…こんな、とこ……でっ」
言葉を発する暇もない。
再び金髪のお嬢さまの唇が、播磨の口をふさいでいた。


プレジデンシャル、と名の付いたスイートルームのエントランスにはこれまた豪勢な
本革張りのソファが置かれていた。
愛理は播磨の胸元にぶら下がるように抱きつくと、ベッドルームに行くのすらもどかしいのか、
その大きなソファに播磨に抱きついたまま倒れこんだ。
「バ、バカッ! こんなとこで、誰か来――」
播磨は愛理の唇で言葉を封じられる。
唇を割って舌が播磨の口内に入り込んできる。
播磨の舌に愛しげに激しく絡みつき、じゅううう、と音を立てて唾液が吸引される。

「誰も、来ないわ。 ここ、一フロア、貸しきり、だから」
うまく呂律の回らない愛理は、押し倒した播磨の身体の上から
熱に浮かされたような瞳で恋人の目を見つめる。
その瞳が嬉しそうに歪むと、再び播磨にキスが降ってくる。

「ヒゲ………ヒゲぇっ……ケンジ……」
よほど感極まったときにしか呼ばない、その呼び名。
愛理は播磨の名を呼びながら、涙ぐみながら何度も何度もキスの雨を降らせる。

その熱に浮かされたような顔と、目の色に播磨は魅入られる。
だから播磨は押し倒されたまま、金色の愛しい少女がキスしてくるのに任せていた。

サテン地のロンググローブが播磨の頬を這う。
蝶ネクタイを解き、震える指で播磨のシャツのボタンを外していく。

むき出しになった筋肉質の播磨の胸に愛理は口付ける。
愛しい男の胸にキスの雨を降らせながら、愛理はショーツの中が熱く蕩けてきているのを感じる。
唇で逞しい胸の筋肉を感じるだけで愛理は感極まっていく。
傷だらけの肌に口付けをするだけで、切なくて甘くて大切な想いが胸の中からあふれ出てくるのがわかる。
その甘い甘い波動は、愛理を素直な女の子に変えていってしまう。


播磨は戸惑いながらも興奮してしまっていた。
薄く淹れた紅茶の色の愛理の瞳が、うっすらと涙を湛えたまま播磨の顔を見上げてくる。
何かに酔ったようなそんな目は、播磨の胸をジリジリと焼き焦がすように熱くさせていく。

お嬢さまの発情したような上気した表情は、播磨の心の琴線に触れてしまう。下半身に血が集まりだす。
充血してよりふっくらした赤い唇が播磨の傷だらけの胸に優しく触れていく。
言葉にできないような感覚が胸の中に広がってくる。
このお嬢さまが感じている愛しさみたいなものが、播磨にはわかってしまう。
どんな想いでキスしているのか。どう思って自分の胸に口付けしてくれているのか。
肌に触れた唇から、播磨は愛理の心がわかるような気がした。

 

361 :hauntedカレーの中の人  ◆F57im1gMT.  2007/08/19(日) 06:49:44 ID:wHOhs63M  
今日はここまでー

まあ京極なんてキャラは原作には出てこないわけだが
http://www.geocities.jp/seki_ken44/051102_1.html

なんかオリキャラ使うのはアレだけど
メインに絡めない脇だったら年に一回だけは使っていいってばっちゃが言ってた。

まあそんなわけで、続きのラスト投下もなるべく早くできるよう頑張る。
感想クレー

 

最終更新:2007年12月09日 12:02