『haunted カレー』その110~114

4haunted カレー その110 ◆F57im1gMT.:sage :2007/02/12(月) 03:27:01 (p)ID:+b1kodsu(6)
スクランスレ@エロパロ板 14話目
(p)http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1163660138/n930
の続きー
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「で、アイツとはどうなってんだ?」
興味津々、という表情の美琴が尋ねてくる。
「……ど、どうって、何のことよ?」
焦っているのを必死に隠しながら愛理はとぼけている。

今は昼休み。ここは中庭の芝生の上。
仲良く車座になって一緒にお弁当を食べている四人――晶、美琴、天満と愛理――
の間で、美琴が爆弾を投下した。






四時間目が終わった直後。
たまには一緒に弁当食おうぜ、と愛理を誘った美琴が播磨に一言断りを入れる。
「おい播磨、今日はちょっと愛理借りてっていいか?」
と。
「――ちょっと! 美琴! なんでコイツに断り入れ「あ、ハイ」」
喚く愛理の声に重なりつつ、びっくりするくらい素直に播磨は答える。
う゛ー、というようなうなり声をたてながら、愛理はバッグの中から
弁当の包みを一つ取り出すと、播磨の机にガン、と叩きつけるように置いた。
そして晶に向かって愛理は吐き捨てるように尋ねる。
「いいわよ。どこ行く?」
何が恥ずかしいのか、ほのかに顔色を赤くしながら愛理は一刻も早く
この場を離れたいように晶をせかす。
愛理が播磨と毎日一緒に弁当を食べてるのはクラス中の全員が周知のこと
なのにも関わらず、このお嬢さまにとってはあえて言及されるのはなんだか
照れくさいらしい。



そんなこんなで、中庭で仲良くお弁当を食べながら愛理は美琴の爆弾発言を
受けてしまうわけだった。




「何のこと、じゃないよ。播磨君と愛理はどんな関係になってるのかな?」
晶がいつものクールな表情のまま、低い声で訊いてきた。
「な、なんでもないわよ……か、カンケイなんて、べつに、なにも…」
タコさんに切ったウインナを箸でつまんだまま愛理は口ごもる。
照れているのか、愛理の頬はこころもち血色がよくなっているようだ。

そんな愛理に、晶が新たな爆弾を投げ込んだ。
「そう。じゃあ私が播磨君を狙っても何の問題もないわけだ」
「――っ!! ナ、なに言ってんのよ晶!?」
タコさんウインナをぽろりとこぼしながら愛理が食って掛かる。
「播磨君は、あれでなかなか人気が高いしね。校内男子ランキングの
赤丸急上昇株なんだよ。知ってた?」
なぜか片手にランキングメモの書かれた手帳を手にして晶は言った。

5haunted カレー その111 ◆F57im1gMT.:sage :2007/02/12(月) 03:28:08 (p)ID:+b1kodsu(6)
 美琴の快活な声が混乱する愛理に追い討ちをかける。
「そっかー。実はあたしも播磨のこと結構イイと思ってたんだよな。アイツガタイはすげーし」
「み、美琴!?」
「私も私もー! 播磨君て、実はけっこうカッコいいよねー」
横に結んだ髪をぴこぴこ言わせながら無邪気に天満が言う。
「て、天満まで?!」
玩具を取り上げられた幼児みたいな表情の愛理はパニックに襲われている。

「早速デートに誘おうかな」
「いや、あたしが誘うんだってば」
「私もー! 播磨君とプロレス見に行くんだー」
三人の声に戸惑いを隠せない愛理は、顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「だ、だめよっ!!!!」
箸を持つ手が震えるくらい、強く叫ぶ。
昼休みの中庭には人が少ないが、それでも遠くにいる何人かの目を惹いてしまうくらい
大きな声が響く。そしてそんなことにも気づかないくらい、愛理は真剣に叫んでいる。

「どうして? 愛理は播磨君とは何の関係もないんでしょう?」
晶が普段どおりのクールな表情で言う。
「播磨がフリーなら、別にいいだろ?」
美琴のかすかに面白がるような口調にも、愛理は気がつかない。
「だよねー。播磨君ホントカッコいいかもだよ!」
天満が本気で言っているのかどうか、パニックに陥っている愛理は判別がつかない。

「ダメ! ダメなの! あ、アイツは私のだからっ!……あ、アイツは……ヒゲは……
わ、私が好きなんだからッ!!!」

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6haunted カレー その112 ◆F57im1gMT.:sage :2007/02/12(月) 03:29:02 (p)ID:+b1kodsu(6)
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愛理が中庭で絶叫しているその頃。
播磨は屋上で一人弁当を食おうとしていた。
なんとなく、一人で教室で食うのもなんだなと思い、普段通りに屋上に来てしまったのは
習性なのか何なのか。

弁当の蓋を開けると、そこにはいつも通りの色とりどりのおかずが詰まっている。
基本的に出されたものは何でも美味しく食べる、という動物である播磨には好き嫌いはない。
好き嫌いはないが、ずっと毎日お嬢さまの作ってくれる弁当を食べているうち
「これ美味ぇな」と言った料理や、ガツガツむさぼるように食べたおかずなんかが
どういうわけか弁当に入ってくる確率が高くなってしまっている。
結果的に、播磨好みのおかずが播磨好みの味付けでたっぷり入っている、という
お弁当が毎日出来上がってるわけだが、今日はなんだか少し雰囲気が違う。

――なんか、ヘンだな
箸を動かしながら播磨はそんなことを考える。
ハンバーグも豚の生姜焼きも、美味いことは美味いのだが、何かが違う。
タコさんに切られたウインナも、なんとなく食べていて違和感がある。
――味がヘンなのか?
愛理の作ってくれる弁当は、最初の頃からは見違えるように上手になっていた。
すこし前に「オメエんちのコックさんとかに手伝ってもらってんのか?」と聞いたら
目を三角にして「今はもう私一人で作ってるのよ!」と逆切れされた。以前は
手伝ってもらっていたらしい。
まあ、とにかくそのコックさんの作ったのにも引けを取らないくらい、愛理の
お弁当作りの腕は上達していたわけである。さすがは万能型のお嬢さまだ。

そのはずなのに、なぜか今日はおかしい。

――同じ味……みてえだけどな?

あまり舌の鋭敏ではない播磨だが、その味はいつもと同じような気がする。
それなのに、なんだか食べていてもいつもの弁当とは違う気がするのだ。
首をひねりながら、播磨はもそもそとおかずとご飯を交互に口に運ぶ。
――静かだな
播磨はつくづくそう感じる。

いつもはなにかとやかましい金髪のお嬢さまが
「もっと味わって食べなさい」とか
「なんでアンタは丸飲みすんの?」とか
「美味しいとか美味しくないとか、感想くらい言いなさいよ」とか
そんな風に横でギャーギャーわめいてるのを聞き流しながら弁当を食ってた。

――ひょっとして静かなとこで食うと味が違うのか?

そんなわけはない。
頭の悪い播磨にはそれがなぜなのかが判らない。

……今はまだ。



気の強い、それでいて芯が弱いところもある沢近愛理という女の子。
そんなお嬢さまと一緒に食べるということが味の違いを生じさせている、
ということ――好きな女の子と一緒にご飯を食べると美味しい、ということに
播磨が気づくのはもうしばらく時間が必要だった。


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7haunted カレー その113 ◆F57im1gMT.:sage :2007/02/12(月) 03:29:47 (p)ID:+b1kodsu(6)
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そんな播磨のはるか下、中庭では――

「愛理が一方的に好きなだけじゃ、ね。
播磨君の気持ちが愛理に向いてるんじゃなきゃ、別に播磨君を
誘っちゃいけない理由にはならないよね?」
クールな晶の声が愛理をさらに追い詰めていく。

――ダメ。ダメ。アイツは、ダメなの!
愛理はその気持ちだけが一杯になる。
イヤだった。大切な、やっと手に入れた男を失うことに愛理は耐えられない。
あの大きな手で撫でられたり、太い腕で抱きしめられなくなってしまうのは
到底耐えられることではなかった。
そしてその焦りが、愛理に普段では考えられないようなことを口にさせた。

「あ、アイツは……私に、キ、キスしてくれたわよ……」
「キスだけ?」
もし愛理がもうすこし冷静だったら、その晶の声には面白がるような
雰囲気が含まれているのに気づいただろう。でも恋に狂っているお嬢さまには
そんなものに気づく余裕なんてありはしない。
「あ、アイツ……は……ぎゅってしてくれて、……キ、キスだけじゃなくて……
……わ、私の初めてを貰ってくれたんだから! き、昨日だって、その……
アイツの家で、い、いっぱい……え、えっち、し、したんだから!
だから、ダメなの!」
愛理はそのブラウンの瞳にうっすらと涙すら浮かべている。
頬を染めながら、耳たぶまで赤くしながら、愛理は必死に叫ぶ。
「あ、アイツは……私ので、わ、わたし……私は……アイツのモノなんだから……
だから、ダメなのっ!!」
こぼれる涙を止められずに、愛理はそう叫ぶ。

顔を真っ赤に染めた愛理は顔を上げ、涙で歪む親友たちの顔を見た。


そこにいたのは目をキラキラさせてる天満とニヤニヤしている美琴。
そしてほのかな笑みを浮かべている晶だった。

「え?」

「愛理。やっと言えたね」
普段あまり感情を見せない晶が、嬉しそうに言う。
「だよなー! 黙ってるなんて水臭えって」
美琴はと言うと、面白がるような、おっさん臭い笑いを浮かべながらニヤニヤしている。
「愛理ちゃん、やっぱ播磨君とラブラブなんだねー! うらやましいよっ!」
興味津々、という顔と「それからそれから?」というような目で見つめてきている天満。

「…だ……だ……騙したのねっ!?」
三人が共謀して愛理に恥ずかしい告白をさせた、ということに
やっとこのお嬢さまは気づいた。
さっきとは別の意味で顔を赤くしている愛理。
羞恥と怒りで顔はもう真っ赤だ。

「愛理は意地っ張りだから」
と涼しい顔で晶。
「素直にならないお前が悪い」
人の悪い笑いを浮かべながら美琴が言う。
「だよねー。ねえ、愛理ちゃん。なんで隠してたの?」
小首を傾げながら無邪気に尋ねてくる天満を見ていると、
なんだか愛理は怒る気すら失せてしまう。

8haunted カレー その114 ◆F57im1gMT.:sage :2007/02/12(月) 03:30:42 (p)ID:+b1kodsu(6)
「だ、だって……恥ずかしいもの……」
まだ赤くした顔を背けながら、ぽそりとつぶやく。
どんな顔をしたらいいのかわからない。

「愛理。応援するよ」
「ああ。このお嬢さまが、こんなに好きになった奴なんだもんな」
「えへへー。愛理ちゃんと播磨君、お似合いだよっ!」
親友が祝福してくれているのも、なんだか嬉しくて恥ずかしくて、
愛理は顔をまっすぐに見れない。

「で」
と天満。うつむいた愛理の下から顔を覗き込んでくる。
「ねえ、初めてのときはどうだったの? やっぱ痛かった?」
好奇心で輝く瞳をまっすぐに向けてくる。
「そ、そんなには……」
「アイツはなんて言ってんだ?『愛してる』とか言ってくれんのか?」
「ノ、ノーコメントよ!」
「えっちって今まで何回くらいしたの?」
「…ひっ、秘密!」
「じゃあ昨日は?」
「…………ご、五回…六回?くらい?」
「ひゃー」「やるなー」「……絶倫だね」
「ね、ね、最初のときってどっちから……そうなったの?」
「そんな聞き方じゃわかんねーだろ。…どっちが先に手ぇ出したんだ?」
「愛理が抱いてって頼んだんだよね」
「ち、違うわよ! アイツの部屋に行ったらいきなり抱きついてきて、それで――」
「抱かれる気満々だったってことだね」「愛理ちゃん、やるぅー」「大胆だな」
「だからなんでそうなるのよ!―――」
冷やかされつつ、からかわれながら、祝福される。
愛理はそんな親友たちに囲まれながら、自分の頬が緩んでしまうのがわかった。
怒りたいのに、なぜだか嬉しい気持ちが邪魔をして、顔が勝手に笑ってしまう。
幸せってこういうものなのかな、と愛理はなんとなくぼんやりとそう思った。

「愛理。そういえばこんなものがあるんだけど」
そう言うと、晶は愛理の眼前に携帯をかざす。
その画面には一台の走っているバイクが写っている。
目つきの悪い不良がまたがっているアメリカンバイク。
そして、その後部座席にはうっとりとした顔の金髪のお嬢さまが両手で不良に抱きついている。
ヘルメットから流れる金色の髪と、幸せそうな笑みを浮かべた顔が印象的なそのお嬢さまは、
まぎれもなく沢近愛理という少女だった。
「愛理、すごくいい顔してるよ」
優しい笑みを浮かべながら、晶がそう言った。
なんだか、嬉しくて。
そう言ってもらえるのが嬉しくて。
自分がこんな表情ができるのが、嬉しくて。
「……うん」
愛理は頬を緩ませたまま、そうつぶやいた。












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9haunted カレーの中の人 ◆F57im1gMT.:sage :2007/02/12(月) 03:42:08 (p)ID:+b1kodsu(6)










以上です。長々とお付き合いくださりありがとうございます。
読み返してみるとその1を投下したのが半年以上前。
それにしても時間掛かりすぎだろw

五月雨のように投下される連載状態の文章を読んで楽しんでくれてた人、ホントにありがとう。
いきなり110レス*60行以上のSS(つかすでにShortじゃない気が)書けと言われても
たぶん僕には書けません。読んで面白いと言ってくれる人たちが「萌えた」とか「甘甘でサイコー」
とか褒めてくれたからきっと最後まで書ききれたのだと思います。

書き始めの頃は粗筋もぼんやりとしか考えてなかったのが
感想を貰ってるうちにだんだん明確な形に育ってきたのが書いてて面白かったです。


#あ、そうそう。播磨の弁当の好き嫌いの件についてはSS内で若干矛盾があるものの
#連載をやってればそう言うこともたまにあるよってアラキヒロヒコ先生も言ってたので
#みんな気にすんな!ていうか見逃して!


ま、きっと原作でもコレくらいあまーーい終わり方をするものと信じつつまたね。
次はおにぎりで会いましょう。(いつになるかはわかんないよゴメン)

 

最終更新:2008年01月06日 05:03