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677 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/27(金) 00:00:26 ID:WV7eHyk6
(絃子…絃子ォォォーッ!!)現実的でない状況が続いていた。突然絃子に縛りつけられた日から、献身…凌辱…暴力が日常となったあの時から、俺は狂った世界に捕らわれていた。
だが、このまま朽ちていくのも、どこか納得していたのだ。
…ずっと考えていた…途切れがちな意識の中で、俺は絃子を追い込んだ原因を考えていた。…何かが纏まりかけていたのだが、今まで答えが見つからなかった。だが…だがしかし、目の前の地獄に…俺のクソみたいな頭は怒りに爆発してしまった!
「絃子…てめぇ何てコトしやがるんだ!」
高野に暴力をふるい、今、妹さんの両目を潰されたのだ。俺は吠えた。妹さんが自由にしてくれた左手に、彼女が使っていたカッターナイフを握った。
「拳児君。どうして怒るんだい? 私が居ながら、彼女達を引き釣りこんで浮気するからじゃないか。…そりゃあ君は人気者だよ? だけど、私達の家で浮気はよくない!」
絃子は妹さんの両眼に指を突っ込んだまま口を開いた。
正常じゃない。正常じゃないが現実はこうだった。
妹さんは恐怖に固まったまま、絃子に抗う事なく喘いでいた。俺は絃子を睨み付けながら、右手を捕らえてるワイヤーに刃を突き刺した。…だがカッターごときでは簡単にはいかない。
何度も何度も力が入らない左手で叩きこむ。
絃子はとりあえず興味を妹さんに向けていて、彼女を高野にぶつけた。そのまま何度も蹴りつける。
こういうのはチャンスとは呼ばない。しかし妹さんが高野を助けなかった様に、今やらなくてはならないのは自由の確保だった。
決して自由になったからと言って、すなわち解決とはならない。だが俺が縛られている状況だけでは解決すらならない。
カッターの刃はすぐ砕ける。だけど諦める訳にはいかない。
何度も何度も何度も叩きつけた。何度も何度も何度も何度も叩きつけるしかなかった。
…信じられない痛みも、跳んだ刃の破片で傷ついても、血が噴き出しても俺は諦めない。この時の俺はワイヤーを叩き切るひとつのハンマーだった。
…絃子の矛先が俺に向けられ、何時の間にか手にした包丁が俺の足に突き立てられたのと、俺がワイヤーの戒めから解かれたのは同時だった。
(目の前が暗い…そっか血が足りないもんな…。だがな播磨 拳児とあろう者が、そんな事で引くわけにはいかねぇんだよ)指が動かない。腕が上がらない。足が言う事をきかない…だから何だ!?
俺はもう一度吠えた。

681 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/27(金) 00:52:01 ID:d0RHZesP

俺は残った気力で絃子に視線を合わせる。
この場に至っても彼女は上機嫌と怒りの混ざった奇妙な笑顔を浮かべていた。それは俺も同じな筈だった。自由になれた喜びと絃子に対する怒り。俺は久しぶりにただひとつの暴力装置に戻った。
「絃子…。何でかって聞かなぇよ? 俺の事はどうだっていい。…だかな、妹さんに手ぇ出したのは許さねぇぜ?」
体は全く自由に動かなかったが、どうにか腕の力で向きを変えた。足に刺さった刃物がさらに食い込んだが、気にする必要すら認めない。
(俺は女に手を出した事なかったが…もう関係ねぇな)
気力と体力を振り絞って膝立ての姿勢になる。ようやく俺達は対等に向かいあえたのだ。
「…拳児君…拳児君」絃子が涙を浮かべて口を開いた。
「ずっと好きだったんだよ? …君が弟分だった昔から…ずっと…」
絃子から怒りが立ち消え、素直な視線が俺を捕らえていた。
「君が私の後を追いかけてたよね? 君が慕ってくれてたよね? …嬉しかったんだよ? 迷惑じゃなかった」
彼女の言葉に、俺の怒りがフリーズした。
(…おねいちゃん!)(いとこ姉ちゃん!)(おい絃子!)(…絃子…さん)(…絃子)(絃子)俺は愕然とした。
(そうだ…俺は絃子を見上げていたんだ。…俺は絃子が好きだったんだ…。だが…あれは子供の感情で…)
初めは仲の良い姉弟だった。身近な異性でもあったし、頼れる…安心できる人だったのだ。
本当の異性、恋愛感情としては彼女は身近すぎて想像すら出来なかった。
(だから昔キスされた時、冗談かと思ったんだよな)
キスの思い出。自分にとっては恥ずかしいだけの思い出。だけど彼女にとっては違った…。
目の前に立つ鬼女…絃子は静かに泣いていた。そこに居たのは自分を、自分だけを見つめていた女性だったのだ。
(だが俺は勝手に居候して、何時も天満ちゃん天満ちゃんと言って騒いで、挙げ句 妹さんを連れ込んでいた…)
馬鹿か俺…。
「馬鹿だったんだな俺は…」
先ほどまでの怒りは消えていた。理不尽に怒っていた感情は、全く理不尽そのものだった。
…絃子が泣いていた。いや泣かしたのは俺だった事に気づいた。…俺が泣かしたのだ。俺が原因だったんだ。(俺が馬鹿やっていたんだ。それを彼女に迷惑かけてたのに気づかずにいた)めまいがして、俺はベッドから崩れ落ちた。
「ッ! 拳児君?」
素早く絃子が抱きついてきた。目の前がどんどん暗くなる。
…絃子…。

682 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/27(金) 01:44:16 ID:d0RHZesP

…絃子が泣いている。…頭が回らない…。…なんで泣くんだ?(あ ヤベ、少しとんでた?)落ちて頭が横になったせいか、少し意識が戻った。
見上げれば絃子が泣きじゃくっていた。
(そっか、俺はいつも絃子を見上げていたんだ…)
「…なあ絃子」口を開くのも疲れたが、どうにか喋れる。
「…その…俺が馬鹿だったんだな…。ゴメン…絃子」
「…絃子さんだろ…」
彼女は小さく怒る。たとえ小さくとも、俺を抱きしめて文句をつけるのは変わらなかった。
(そうだ! 妹さんと高野は?)
絃子に抱きしめられて視界が悪かったが、どうにか頭を巡らせる。
…誰かの足が視界に入った。
制服の靴下…が見える。…俺は視点を上に上げた。
(…高野)俺達の頭上に高野の姿が入った。
(良かった無事なんだ)
だが、高野の手には彼女が愛用するサバイバルナイフが握られていたのだ!

少しの間、私は意識を失っていた。軽い脳震盪の様だった。
少しだけ気分が悪かったが、事態は切迫している。
私は全身に異常ないか確かめ、体を起こす。
まず視界に写ったのは八雲の身体。自分にのし掛かるようにしている。
(生きて…いる。失神しているだけ?)
しかし、彼女の顔面には想像すら出来ない事になっていた。
(りょ…両目が…つぶされ…ている!?)
彼女の両目から血と体液が滴っていた。僅かに見える眼孔が抉られたのも確認出来たのだ。
(刑部先生そこまで! だけどまだ死んでいない)私はそっと彼女を押し退ける。そしてその向こうには…。(先生に播磨君?)
状況は把握しきれなかったが、播磨君がベッドから落ちていて、先生が抱えこんでいる事がわかった。
(いけない! このままじゃあ、播磨君が殺される!)
この状況からでは最悪の事が予測できた。
(播磨君が殺され、八雲も…私も…)あまり想像したくない未来予想図が思い描いたが、ここで死ぬわけにはいかなかった。私はもう一度、身体の異常がないことを確認し、そっと起き上がった。
私の懐にはサバイバルナイフ入っている。そっと取りだし、刑部先生の背後に回った。
(…私は…)
先生に対し、今まで感じなかった怒りが湧いてくる。
…私はナイフを振り上げた。
…初めて犯す禁忌に体が震える事もなかった。むしろ当然の行為…
…私は…

「殺すなっ!」突然叫び声が響いた!

683 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/27(金) 02:47:50 ID:d0RHZesP

「んで、お前はどうしたい?」播磨君は足元の転がった男を示した。
どうするもこうするも無い。私はコイツに殺意をいだいていても死なすまでの覚悟は無かったのだ。
「もうこれで十分よ。これ以降は悪さをしないでしょうから」「ふん。…ま お前が決めたんなら俺ぁ構わないぜ」
「ありがと播磨君…」
(…そう、どんなに恨んでも…殺すのは出来ない)
…在りし日の光景が広がった。私は私の復讐を果たすべく策略を巡らし、一人の男を追い詰めた。
そして、暴力を行使させる道具…播磨君を使い。ようやく復讐を遂げたのだった。
「復讐っていや、殺すのもアリだろ? 俺に命じたら…やってやるよ」
「いいの…、その…貴方も私も汚れている。だけど…やっぱり…こんな事で小物を殺すなんて割りに合わないわね」
「ふん…」
そう、殺す必要なんて無い…。
「殺すなっ!!」
それは播磨君の叫び声だった。怒りと哀しみに満ちた叫び。その鋭さに私の手は止まった。
「…もう終わった。俺が馬鹿だったんだ。…いやそれよか先に救急車だ! 妹さんが大変なんだよ!」
彼も重体なのに、切迫しているのは八雲の事らしい。
(彼らしいな…だけど確かに八雲の事が)
私は刑部先生のふるえている肩に一瞥を与え、どこかに跳んだ携帯を探した。

播磨君と八雲は助かった。
共に痛ましさすら生ぬるい重症ではあったが(播磨君は手術のさいに心肺停止状態となったが無事生還した)一命はとり止めたのだった。
だが…
…だが八雲は両の眼球が破壊されたのだ、失明は免れ無かったのだ。
そして…播磨君は指のほとんどを失い、両足を切断するに至った。…内臓の幾つかにダメージを負ったものの、元来の体力のよさもあり回復に向かっていた。
私は脳震盪を起こしたが、後遺症もない。…皮肉な事に刑部先生は全く無傷だった。
…その刑部先生は私の通報により駆けつけた警察に逮捕された。虚脱した表情であったが真っ直ぐな姿勢をくずす事なく、パトカーに乗り込んだ。
おそらく罪は問われないと思う。心身耗弱が認められるだろうからだ。
(不条理だ。それが認められれば、播磨君と八雲はどうなる? 誰が責任をとるのだと言うの?)
しかし反面、播磨君は正しかったと思う。確かに殺人は良くない。
…私は播磨君に2度助けられた。…今度は私が助ける番だ。
(…だけど私に何が出来るんだろう?)答えは見出だせなかったが、何かできる筈だった。

685 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/27(金) 03:31:48 ID:d0RHZesP

ずいぶんとボンヤリしてた。
見上げる光景はどうも病室らしい。
全身が痛いのはわかるが、麻酔でも効いているのか現実感がなかった。それに、あちこち繋がれているのか全く動かない。
…頭が働かない…。

「…………」
誰かの声で目が覚めた。
見上げたそこには高野が覗きこんでいた。
「播磨君…わかる?」
彼女はいつも変わらない無表情だった。…いや僅かに眉をひそめている。
どうも心配している様に見えた。
「…高野か。…よう元気か?」「馬鹿」
よく見れば無表情の中にも表情がある。今は苦笑に見えた。
「高野よぉ…迷惑かけたな」
そうだ。高野には迷惑をかけたのだ。(…? そうだ! 妹さんは?)
起き上がろうとしたが、彼女が押し留めた。
「今は安静にして。私は大丈夫だし、八雲も…彼女も命に別状はないから」
「おい!」
嘘だ。俺は見た…妹さんが…。高野はうなずいた。
「今は寝ている…。その規則が色々煩かったけど、君の隣に運んでもらったの」
(…?)僅かに首が動いた。なんとか視線を横に向けると、確かに隣のベッドには妹さんの姿が見えた。
高野が恥ずかしそうに口を開いた。
「君達は…まぁ…愛しあった二人だから、どうにか一緒に出来ないか? って押したのよ。…で、何とか納得してもらったワケ」
「おい高野? 何だよそれ…確かに妹さんは…その、何だな…世話になったが、別に…」
彼女の説明なら俺と妹さんはカップルだが…。(いやいや妹さんに失礼だろうが!)
俺の動揺を何と見たのか、高野のはニヤリと笑って見せた。
「大丈夫。八雲も同じ気持ちだと思うよ」
反論しようと口を開こうとしたが、高野の指がそれを止めた。「!」
次の瞬間、彼女の顔がアップぬり、俺の唇を防ぎやがった!
「な…ななな何すんだ!?」
「なんか、ね。…そう言えば、播磨君とキスするの初めてだよね」
(? …あ確かにコイツとキスって初めてだ)自分の初めてのセックス相手は高野だったのに、キスするのが初めてだった事に気づいた。
「…何てコトすんだよ?」
「フフッ…。馬鹿だよね私達。…あのね播磨君。私は君が…」「聞きたくない!」
「うるさい。ちゃんと聞いて。…私は君が好きじゃない」
(なんだよ、紛らわしいな!)「だけど君から離れない」
「はあっ!?」もう一度彼女が俺の口を塞ぐ。「まあ、後は八雲が起きてからね」
俺の頭は真っ白になった…。

686 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/27(金) 05:36:13 ID:d0RHZesP

「…高野…済まねぇが、もうお前の手伝いは出来ない…出来なくなったな」
「ええ。でもね、もういいの…君がさ、あの時『殺すな!』って言ったでしょ? …あれで何かわかった気がする…だから、もういいの」
高野のふっ切れた微笑は俺の中に染み込んだ。いつの間にか消灯時間となり、彼女は帰宅した。
俺は隣の妹さんの寝息を聞きながら暗い天井を眺めていた。
(そう、あの時俺は叫んだ)
暴力も殺人もたいして違いはない。高野の手を汚したくなかったのも理由があるが、何よりも絃子を死なせたくはなかったからだった。
(絃子を追い詰めたのは俺だ…罰を受けるのが俺じゃなきゃいけねえんだよ!!)
…どうにか右手は動いてくれた。それをかざしてみる。右手の指は人差し指と中指、親指が残っていた。
(それに妹さんの事だってある。
…俺がこれから先、何をしてあげれるのか分からねぇ)
…指を屈伸させる。痛みが広がるが自分の罪だった。俺は黙って受け止めていた。
(だがよ…何が出来るんだ?)もう一度妹さんを見た。麻酔が効いているのだろう。俺が目を覚ましてからは眠ったままだった。
意識はとうに戻っているらしい。だが余程の恐怖の為に恐慌状態が続いていたので精神安定剤と痛みの為の麻酔を与えられていた。
「…妹さん…済まねぇ」
つい口に出してしまった。
「播磨さん?」なんと妹さんを起こしてしまった。
「お おう妹さん…起こしちゃったな、済まねぇ…あ いや、それどころじゃないよな!
…済まない。
俺が馬鹿野郎だから、妹さんや高野に迷惑をかけた。
…それに、妹さん。あんたには…本当に申し訳ない。すまない。…許してくれなくてもいい。俺が出来る事ならなんだってやって償う!」
「…播磨さん? …そんな風に言わないで下さい。その、私だって…もっと早く気づけば」
「妹さん!」
俺は彼女を遮った。
「妹さん。元々原因は俺だよ。俺が絃子の事を…絃子に甘えてなけゃ、こんな事にはならなかった。
絃子だけじゃねえ。妹さんに甘えて、妙さんに甘えて、周防に世話になって、お嬢に迷惑かけて…
…どんなけ迷惑かけてきたんだよ!」
自然と涙が出ていた。喋りながら、俺は自分の情けなさに呆れた。
…いや、絶望せざるおえなかった。
何も知らずに甘えて、喧嘩して、バイク飛ばして、漫画に逃げて…何処までも愚かな自分に絶望した。
「…俺は…」
俺は最低だ…。

696 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/28(土) 01:42:28 ID:z43ThM9r

視力を失ってから1週間が過ぎた。
痛みは無くなったが、あの体験からくる恐怖は私の魂にヤスリをかけている。(見えないから余計に怯える…)何もかもが怖く、何もかもから逃げたかった。
喪失感から逃れてたかったし、孤独に…1人になりたくなかった。…だけど、私の側には播磨さんが居てくれていた。
この人が居てくれなかったら、私は私でいられない。
泣きわめきたい瞬間でも、播磨さんの存在が理性を守ってくれていた。
…そう。あの人特有の存在感を体感できた…。
私の眼球は修復出来ない状態になっていたが、眼底にある受光器と呼ばれる器官(これが眼球のレンズを通して、脳内に映像を映しだす…と簡単に説明された)は無事だった事もあり、光の明暗は感じとる事も出来た。
不思議な感覚を認識したのは先日の事…。
…モノクロの薄明かりの世界。それが私の視界…。その視界に光る物体(白抜きかな?)が存在している。
それは私の回りにいる人数分あったのだ。
…オーラと言えば良いかも知れない。またそれらはその人固有の形があり、色が見えた。
(播磨さんは固いイメージにチカチカと光が弾けている。
高野先輩は細長く、柔らかな発散…こんな感じ…)
それは光のダンスにも見えた。
「…ね 八雲? …八雲どうかした?」
高野先輩が話しかけていた。
私はボンヤリしていた様で、先輩と播磨さんの会話を聞いていなかった。
「…あ あの済みません。…聞いてませんでした」
恥ずかしさに頬が熱くなる。
先輩と播磨さんの方から笑うイメージの暖かい色が流れてきた。
「八雲。も一度言うからね? …あなたと播磨君は同居しなさいって言ったの」
「………はい???」
多分、私の頭の上には疑問符が回ったいるに違いがない。
「おい高野よぉ…いくら何でもマズイだろうが」
播磨さんから、困惑っぽい光がグルグル回っている。
…少し楽しい気分になる。
播磨さんは正直だから、いろんな光や色が慌ててダンスをしている。
「確かに行く所がなくなった。だけどよ! そんなんど~とでも成るって!」(…播磨さん)そうだった。あの人の居場所はなくなったんだ…。
「播磨君? 言ってはいけないんだけど、君のこれからはどうするの? また学校に潜りこんだり、どこかの工務店に厄介になるの?」
「…そ そりゃあ…」
高野先輩の意図を理解した。
これから先の播磨さんの生活。私の生活。
(そうか…)

699 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/28(土) 03:05:56 ID:z43ThM9r

曇天が広がっていた。
久しぶりに帰えった自宅には拳児君の姿がなかった。
(あのガキ達に拐われたに違いない)
私は共にきた招かざる客人達…警察官達を咎めた。
だが警官達は誘拐された拳児君の事には触れず、何故か私の事ばかりを尋ねてくる。
(私は何度も何度も拳児君を拐った生徒の事を教えたのに!)…彼らは私を犯罪者の様に扱った。
(…それならそれで、考えがある…)
私はキッチンに向かい、連中の視線が離れた瞬間を見張らかって、使っていなかったガスの元栓を捻った。
ライターは戸棚にある…。私は公僕達を出し抜く機会を計っていた。


「播磨さん…。その…責任感は置いといて下さい。
…先輩の言った事、それが一番だと…」
高野が売店に出向き、替わりに妹さんが側にきていた。
目を覆う包帯が痛ましかったんが、それでも妹さんは変わりない態度でいてくれた。
…妹さんには欠点らしい欠点はない。だが余り上手く説明出来ないのか、喋り方はたどたどしい。
いや、勿論そんな事はどうだっていい。
(…問題なのは俺なんかが同居してどうするよ?
確かに、行くあてもない実家から追い出された高校生がどうにかなる訳じゃない。…それはわかってる!)
しかし妹さんと高野から受けた恩はわすれてはならない。どうやっても償うつもりだ。
身体の痛みの辛さよりも無策な自分の馬鹿さ加減が辛かった。
『責任とりたいなら、八雲と一緒になりなさい』と高野が告げた。
『指が不自由になったってペンは持てるわ。
義足や車椅子で動く事だってできる』
『それに八雲だって天満が居ない間大変なのよ? …私だっていっぱい手伝っあげる。
…だったら二人まとめて生活したら合理的よ』なんとも強引な話だった。
だから…迷う。俺に…そんな価値があるって言うのか?

不意に視線を感じた。あぁいや意識だな…。
妹さんが俺を見上げていた。
「…妹さん…」言葉が見つからなかった。
(………綺麗だな)同情じゃなかった。
確かに綺麗な娘さんだとは知っていたが、今まで感じた事ない思いが芽生えた。
「…あのよ…い妹さん…」


(上手く言えないな…)
私はあまり人と会話出来ない。同性なら、姉さんとならまだマシだ。
…だけど、男の人は苦手だった。そんな中で播磨さんは特別な人だったのだ。(播磨さん…)私は思いをぶつけなくちゃいけない。
とても綺麗で強い先輩がいる。負けたくない…。

700 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/28(土) 04:24:52 ID:z43ThM9r
(二人は食事規制なかったよね?)
高野は病院の中にある売店でデザートを物色していた。
『本日正午前、矢神町………にてガス爆発があり…』
売店のテレビから昼のニュースが流れていたが、それを彼女は聞いていなかった。


八雲は播磨のだす気配…オーラを見ていた。
(…播磨さん…なに…このイメージ?)
それは好意を感じさせる淡い光だった。
と同時に光の下の方から紅に染まる色がゆらゆらと瞬いているのにも気づく。(……あ)
…唐突に思い当たった。
それは…

(ヤベ! 妹さんに見とれてしまった!)
俺は思いもよらず彼女の『女』を連想してしまった。
雰囲気もある。だが、散々なぶられ続けてられた監禁生活の影響か、自分の中にある『男』が反応してしまったのだった。
…幸か不幸か男性機能に問題は無く。かつ女性不信ともならなかった為、ベッドに腰をおろしていた八雲に春情を覚えていたのだ。
そして、この病室は二人部屋。彼らの貸し切りである。扉は開かれていたが、カーテンが遮っているのみである。
「い…いいい妹さん…」
(何か話題はないのか!?)
「い妹…妹さん…(なんか言え!)…妹さん。妹さんが欲しい!」
(……あれ?)

播磨さんが動揺している。…それに…ちょっと…私を意識してくれている。
以前より多くの男性より好意(よりも欲望)の意識を散々と浴びせられてきたのだ。
だが、目の前の男は違った。
(だけど一度だけ…)
一度だけ、この男からの好意を感じた事があった。
(あの時は…一瞬だった)
今は微かではあったが、疑いのない色欲のイメージが彼から感じとらえた。
(播磨さん)

しかし、不快感はなかった。
高野の話の事もあったし、何より自分の中にも彼を求める気分もあったからだった。

(…妹さん…俺…)
意識を反らそうとしても、いやむしろ、彼女の唇に視線がいった。
「妹さん!」
何かが弾けてしまった。
訳のわからない初めての激情に、思わず彼女を抱きしめた。
…間違いなく視線があった。
雑念も驚愕も何もかもが混沌となり、その気分のまま唇を重ねたのだった。


(あらら…)
私はオカルト系を信じていない。だが病室から出てる異様な雰囲気は自分の定説を覆すには十分だった。
「溶けちゃっても仕方ないよね♪」
…アイスが溶けるのは時間じゃない。雰囲気に決まっているんだ。
…自然と笑みがこぼれた。