720 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/30(月) 02:08:41 ID:osVluZtv
絃子SS

………拳児君は今日も帰って来なかった。
彼は時おり家を開ける。それはバイトであったり、バイクに乗っての遠乗りだったり、あるいは喧嘩の挙げ句に警察に拘置されたりだ。
…今夜も帰って来ない。理由は知らない…。
心配はしなかった。私は彼が死なない限り心配しない様にしている。
彼もまた現代の必須アイテムである携帯電話を持っている。
まあ、私の名義で買い与えた物なので正解には彼の所有物ではない。
…私は私の名義である点を利用して、彼の行動をモニターしている。
電池が無くならない限り、連絡がない場合にチェックしてるからだ。
…まもなく日付がかわる。どうやら今夜も帰って来ない案配だ。
生きているのは分かっている。だから、心配はしていない。
…しかし、私の本心は彼を案じている。だが私は認めない。
認めれば…認めてしまえば、彼を意識してしまうからだった。
拳児君は従弟。そして同居人、後見人として見守る存在。…故に干渉は控えて、意識しないよう振る舞っていた。
(そうでなければ耐えられそうにない…)

彼はある少女に恋をしていた。相手は同級生…正解には彼女を追って同じ高校を受験した結果…である。
しかし、恐らく彼の恋は実らない。
何故なら、彼女は別の男の子に夢中であるからだ。
洞察力の賜物、と言うより同じ女なのだ。恋に恋する乙女は盲目的にしか生きない事を知っている。
…雑念ながら拳児君に勝ち目はなかったが。

私の内心に変化が生じたのはその頃である。…いや、本当はもっと前から彼を意識していた。私にとって格好の弟分…が、異性として見てしまったのは、中学生も終わりの頃だ。
その頃に恋心が芽生えた。当然それなりに性欲も湧く。
(その時から自慰の相手が拳児君だった)

当時、私は痩せっぽっちの男の子の様だった。それが急に女の身体になり、自身の変化に心が追い付かないでいた。クラスの中のたち位置もあり、同学年の男子には魅力を感じる事がなく、私の目線は私を仰ぎ見る拳児君にいってしまった。
そして私の妄想に彼が存在する事になり、私の私を慰める指は彼の指となった。
(…拳ちゃん…好き…。拳ちゃんも好きだって言ってたよね)…はるか過去の情景…『おれイトコが好きだ!』『わかった。じゃケンちゃんを好きになってあげる!』
(他愛のない約束…それが全ての始まりだったんだ)

…日付がかわっていた。今日はもう帰って来ないだろう。

続く

722 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/30(月) 02:59:06 ID:osVluZtv
>>720の続き

私は寝る前の洗顔に向かった。…洗面所の鏡にひとりの女が映っている。
(馬鹿な女だ。…拳児君は私を意識していないじゃないか)
鏡の向こうの女が睨みつけている。負けじと私も彼女を睨んでいた。
(待っていても王子様は来ないだぞ)
(なら、彼を奪えと?)
私は鏡に映る女に問う。
(お前がかつて自慰に耽った手管はなんだ? お前は女の身体を使って拳児君を誘惑してたじゃないか)
(昔は昔だ。今は違う…)
(…ならなぜ他の男を欲しがらない?)
(………)
鏡の向こうの女が、その手を胸に当てていた。いや乳房をまさぐり、乳首に刺激を与えていたのだ。
(欲しいと思う気持ちは変わってないんだろ? …なら…)
(拳児君は塚本が好きで…)
(分かっているクセに! あの天然ちゃんは拳児君を見ちゃいない!)
乳首に痛みが走る。だが、直ぐに快感へと代わった。
鏡に映る女は睨む目付きはそのままに、激しく胸をまさぐっていた。
(好きなんだろ? 欲しいんだろ? …ごまかして何かが解決するのか)
(…ごまかしてなんか…いない)
(拳児君が欲しいんだろう? あのコに犯されたいくせに!
あのコを自分のオトコにしたいって願ってるくせに!)
(私は拳児君…拳ちゃんの幸せ……)
(じゃあ、どうしてワザと隙を作った? 彼がいる横で着替えたりした?
シャワーはいつ浴びている?
彼の匂いに陶酔したのは何故だ!?)
(…!!)

意識がフラッシュバックする。
…私は確かに隙を見せた。
拳児君がリビングでくつろぐ横でブラウスのボタンを外した。あるいは彼が居るときにシャワーを浴びてみせた。一度は彼がトイレに入っている時にだ。
ワザと酔って介抱された事もある。
…そして…
…そして彼の洗濯物の匂いを嗅ぎ、彼のオトコの匂いに昂然とした事もあった。
それらは事実であるが、事実の一端でしかない。
同居している以上、生活サイクルは重なるものだし、見知った身内でもある。いちいち下着位でどうこう思わなかった。
だが、確かに…好奇心もあったのだ。
…知らず隙すらみせたのだった。

(…私は…)
煩悶する間にも乳房を揉みしだき、ショーツの中…叢の奥に指を差し込んでいた。
…鏡の向こうの女は惚けた笑みを浮かべ、身体を悶えさせていた。
「拳児君…拳児君…拳児君…」何時しか私は拳児君の名を呼びながら自慰に夢中となっていた。
私は喜んで拳児に抱かれる妄想に浸った。

続く。

723 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/30(月) 04:29:26 ID:osVluZtv
>>722の続き

私は男性経験がない。
…正解に言えば…2度機会があったのだが、どうして決心がつかずに中断させたのだった。
かといって同性愛者でもない。高校時代からの後輩である笹倉 葉子とは多少の関係(本格的なセックスではなく、キスしたり愛撫しあう位)はあったが、結局のところ処女のままであった。…性欲が希薄でもない。
…だから…燃え立つ情欲になぶられ、自慰に耽っていたのだ。始めはまだ衝動的であっても理性があった。
しかし3度目となると、最早ケダモノ同然である。
気がついた時には洗面所が大変な状態になっていた。
…翌朝、職場に向かう事がとても辛かったのは事実である。

自己嫌悪と睡眠不足の為、私は不機嫌な表情のままであった。(馬鹿だな…まぁ仕方ないとは言え、頑張りすぎた…)
職員室で不機嫌な顔でいるのも教員としては問題なので、体調不良と言い訳して保健室に向かった。
保険医は朗らかな人気のある中年の女性である。しかし、この女医さんは近々退職されると言う話がある。
午前中はHR以外の持ちがなく、たっぷりと睡眠不足を解消できた。
…この日、放課後の部活の指導もそこそこに帰宅とした。

…洗面所には未だに女の匂いが漂っていた。
自己嫌悪がぶり返す。だが同時に、この匂いこそが自分の決意の証明であったのだ。
「…決めたよ…拳児君」
鏡に映るのは決意した自分。昨夜は逃避から自慰にふけた女がいた。
一瞥を送り、自室に入る。
裸になり化粧を改め、勢いで購入した淫靡系の下着をつける。(拳児君が見れば何と思うのかな?)
「だけどね…お姉ちゃんは後悔したくないよ…」

…拳児君の部屋に入った。普段から換気はうるさく言っているので男臭くはない。
しかし、間違いなく拳児君の匂いがあった。
(…拳児君…今からココで)
私は彼のベッドへ潜りこんだ。…さすがに男の子だった。濃密ではないが拳児君の体臭が染み付いていた。
(今から私の匂いをつけてあげる。…今から私ので汚してあげるからね)

私の胸は激しく高鳴った。彼の匂いに思考が鈍り、思うがままに昨夜の続きを始めた。
私は思っているよりいやらしい身体をしている様だ。
散々と発散させた筈の色欲は、なお衰える事なくはなかった。
階下でバイクの音が響いて来た。誰のか自問すら必要ない。…拳児君のだ。
(拳児君…)
私は期待に震えていた。間もなく彼が帰って来るのだ。
(拳ちゃん…お姉ちゃんを…)
続く

724 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/30(月) 05:27:17 ID:osVluZtv
>>723の続き

「うぉっ! …なななんだよ絃子!?」
拳児君は驚いていた。見事な動揺ぶりに満足する。
…いや満足するのはここからだった。今から始まるのだ。
いつの間にか下着が外れており、私は全裸であった。
ベッドから身をお越し彼の前に向かいあった。
「…お帰り。拳児君」
「…なんだよ、何の冗談だよ絃子? ってか早く服を着ろ!」必死で目を反らす拳児君。
(駄目だよ…ちゃんと見て。私を見て!)
「お俺ぁちょっと出てくる!」回れ右で部屋から逃げようとする拳児君に抱きついた。
「…拳児君…。約束覚えてるかい?」
「? 約束…なななんだよ? 絃子なんか変だよ。なんかあったんか!?」
(このコは何時もこんなのだ。強がって、格好つけて…そのくせ動揺しすぎるんだよね。だけど…それがキミだよ)
彼に回した腕に力を込めた。これで彼は振りほどけない。
私は知っているのだ。彼は女性に力づくでどうこうしない。
「おい絃子っ!?」
「駄目…離さない。拳児君…約束だよ? 忘れた?」
「何だよ? 何なんだよ?」
声が裏がえっている。
彼の動揺は愉快であるが、そろそろ私を見て欲しかった。
「拳ちゃん、約束したよね…恋人になるって。だから…お姉ちゃん約束守るよ?」
「!?」
一瞬の隙をついて前に回り扉を塞いだ。

「…拳ちゃん。お姉ちゃんを好きにして。…お姉ちゃんを犯してもイイんだよ?」
やっと言えた。やっと思いの丈を伝える事が出来た。
…もっと早く言えば良かったのだ。逃げていた自分が恥ずかしかった。
だけど、もう過去の事だ。

…私はこれから拳ちゃんにかしずく。拳ちゃんのオンナになるのだ。
拳ちゃんもきっと喜んでくれるだろう。

固まった彼に抱きつく。厚い胸と体臭に彼の存在を強く感じた。
(…鼓動が早い。私のだろうか 拳ちゃんのだろうか?)
全身を強く押し付ける。お腹に何かが当たっていた。
…彼の腰の中心からだった。そう彼のモノが感じとれたのだ。…喜びが子宮から脳髄へとかけ上る。
「拳ちゃん…好きだよ」
「絃子…これは…その…!」
彼の唇を塞ぐ。一度舌で彼の唇を濡らし、僅かに開いたその中へ侵入した。
抵抗は少なく、彼の舌と重なりあう。
キスすら初めてなんだろうか、私に合わせられない。
…だけど構わない。今から始めて行けば良いのだから。
…彼の手をとり私の胸に導く。おずおずだった動きが、力強くなった事に私は幸せを認識したのだった。

終わり

725 名前:名無しさん@ピンキー[sage] 投稿日:2008/06/30(月) 05:58:11 ID:osVluZtv
以上です。
これのプロットに先日のヤツが続きました。
で、絃子ルートに分岐高野ルートとかあって、個別エンドとバッドエンドが(設定上)あります。
でやはり設定上ですが、トゥルーハッピーエンドとトゥルーバッドエンドがあったりします。まあ、このシリーズはこれにて打ち止めです。
オフィシャル上にある絃子の恋心とか、高野のミステリーとか、妹さんの想いとか自分なりに妄想した結論です。二次創作である以上、色々問題があるでしょうが…まあ勝手にやりました。反省すべき点は多々ありますが、全く後悔はありません。

最後に補記として、播磨の不具はほとんど解消されます。
義足や義手はSFの世界ほどではありませんが、かなり発展しています。
同様に妹さんにしても、義眼は間もなく実用化されます。
ストーリー上、ふたりには酷い目に合わせましたが、決して差別的な表現を示したい訳ではなかった事を改めて書いておきます。


絃子×播磨
高野×播磨
妹さん×播磨とのカップリングを書けたので、たいへん満足いたしました。
良くも悪くも作品を投下しましてご迷惑おかけしました。


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最終更新:2009年05月25日 20:44