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**3話 《偽典・八戸のぶなが物語3》 八戸少年の質問に、はたして※選手は曖昧な笑みを浮かべたまま何も答えなかった。 ※選手は八戸少年が促す前に病室に入り、ベッド脇に置かれたパイプ椅子に腰をおろした。 八戸少年はしかたなくベッドに座り、※選手に向き直った。 「のぶなが君は手術を嫌がってるそうだね?失敗が怖いのかい?」 ※選手はおもむろに八戸少年に言った。 八戸少年はうなずいた。失敗したら死んでしまうかも知れない。 それが怖くない人間がいるわけないじゃないか。 そうした気持ちを八戸少年は正直に※選手に打ち明けた。 ※選手は黙って八戸少年の言葉を聞いていた。彼はスポーツ選手らしく、 多くの言葉を費やして八戸少年を説得しようなどとはしなかった。 「失敗を恐れていては何もできないぞ、のぶなが君」 ※選手はそう言った後、普段テレビの前では決して見せない悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「よし。僕が挑戦することの素晴らしさを君に見せよう。八戸のぶなが君。 今日のナイターで、僕は全打席ホームランを打ってみせる。君のために」 八戸少年は目を丸くした。 「そんなこと、できるわけないよ」 「はたしてそうかな?やって見なくちゃわからないぞ。…だから僕と賭けをしよう。のぶなが君」 「賭け…?」 「もしも、僕が全打席ホームランを打つことに成功したら、君は素直に手術を受けるんだ。いいね」 バカげてる、と八戸少年は思った。気がつくと彼は「いいよ」と口にしていた。 自分の生死にかかわる大手術と、そんな夢物語を同等に扱おうとする ※選手の態度に、腹立たしさを感じていた。 ※選手が病室に滞在していたのはほんの5分ほどだった。 後は八戸少年の学校生活や家庭でのことを少し話しただけで、 ※選手は「練習があるから」と帰っていった。 その晩、八戸少年は携帯用のテレビを病室に持ち込み、じっとナイターを見守った。 母親は※選手から事情を聞いていたのかもしれない。 面会に来た彼女はテレビを見つめる八戸少年のかたわらにいたが、 真剣な息子に対して何も問い質さなかった。 …そしてその晩、プロ野球史に残る大記録が樹立された。5打席連続バックスクリーンという…
**3話 《偽典・八戸のぶなが物語3》 八戸少年の質問に、はたして※選手は曖昧な笑みを浮かべたまま何も答えなかった。 ※選手は八戸少年が促す前に病室に入り、ベッド脇に置かれたパイプ椅子に腰をおろした。 八戸少年はしかたなくベッドに座り、※選手に向き直った。 「のぶなが君は手術を嫌がってるそうだね?失敗が怖いのかい?」 ※選手はおもむろに八戸少年に言った。 八戸少年はうなずいた。失敗したら死んでしまうかも知れない。 それが怖くない人間がいるわけないじゃないか。 そうした気持ちを八戸少年は正直に※選手に打ち明けた。 ※選手は黙って八戸少年の言葉を聞いていた。彼はスポーツ選手らしく、 多くの言葉を費やして八戸少年を説得しようなどとはしなかった。 「失敗を恐れていては何もできないぞ、のぶなが君」 ※選手はそう言った後、普段テレビの前では決して見せない悪戯っぽい笑みを浮かべた。 「よし。僕が挑戦することの素晴らしさを君に見せよう。八戸のぶなが君。 今日のナイターで、僕は全打席ホームランを打ってみせる。君のために」 八戸少年は目を丸くした。 「そんなこと、できるわけないよ」 「はたしてそうかな?やって見なくちゃわからないぞ。…だから僕と賭けをしよう。のぶなが君」 「賭け…?」 「もしも、僕が全打席ホームランを打つことに成功したら、君は素直に手術を受けるんだ。いいね」 バカげてる、と八戸少年は思った。気がつくと彼は「いいよ」と口にしていた。 自分の生死にかかわる大手術と、そんな夢物語を同等に扱おうとする ※選手の態度に、腹立たしさを感じていた。 ※選手が病室に滞在していたのはほんの5分ほどだった。 後は八戸少年の学校生活や家庭でのことを少し話しただけで、 ※選手は「練習があるから」と帰っていった。 その晩、八戸少年は携帯用のテレビを病室に持ち込み、じっとナイターを見守った。 母親は※選手から事情を聞いていたのかもしれない。 面会に来た彼女はテレビを見つめる八戸少年のかたわらにいたが、 真剣な息子に対して何も問い質さなかった。 …そしてその晩、プロ野球史に残る大記録が樹立された。5打席連続バックスクリーンという…

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