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6話


《偽典・八戸のぶなが物語6》

全国優勝を果たしてから数日後。
八戸少年は自宅の食卓に着き、テレビにかぶりついていた。
四年に一度の祭典、野球のワールドカップであるWBCが開催され、
日本チームは順調に勝ち進み、あと一勝で世界一という所まで駒を進めていた。
そして八戸少年が固唾を飲んで見守るモニターの中では、
今まさに日本VSアメリカの決勝戦が中継されていたのである。
すでに試合は九回裏まで進み、スコアは3-2。2アウト満塁。
そしてバッターボックスには、全日本チームの首砲である※選手の姿があった。
「打つよ!※選手は絶対打つよ!僕との約束だって守ってくれたんだ!絶対打つに決まってる!!」
自分でも気付かぬうちにギュッと両の拳を握り締めて、八戸少年は言った。
それは誰かに向けての言葉というよりは、自分自身に言い聞かせるための台詞だった。
「ええ、そうね。あの人はきっと打つわ」
いつもはただ野球の試合を見守るだけで、決して感想を漏らすことのない八戸の母が静かにそう言った。
八戸少年は驚いて振り向いた。
その瞬間--
カキーンッッッ!!!
鮮やかな打球音と悲鳴にも似た大歓声がスピーカーから聞こえてきた。
慌てて八戸のぶながはテレビへ視線を戻した。
--※選手の放った打球は、鮮やかなアーチを描き、
しかし残念ながらポールの外側を通ってスタンドに吸い込まれていった。
「ファールかよ…」
がっかり半分、歴史的瞬間を見逃さずに済んだ安心半分で八戸少年は呟いた。
もちろん彼は※選手がホームランを打つことを微塵も疑っていなかった。
一球目の大ファールでアメリカチームのピッチャーは明らかに動揺していた。
キャッチャーのサインに何度も神経質なまでに首を振り、だがやがて諦めたように頷いた。
アメリカチームのピッチャーが振りかぶる。
渾身の一球が彼の手から放たれて--
その剛速球は、※選手のヘルメットに直撃した。
八戸のぶながは--そして母も姉も--小さく悲鳴をあげた。
アンパイヤがデッドボールとピッチャーの危険球による退場を宣告する。
日本チームの同点のランナーがホームインする。
しかし八戸のぶなが少年の目は、倒れたまま動かない※選手と、
その傍らに落ちた無残に一部が砕けたヘルメットに釘付けになっていた…