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11話


《偽典・八戸のぶなが物語11》

八戸のぶながの放ったボールは気持ち良くととのえ老臣のミットに吸い込まれていった。
バシンッ!!と、ととのえの手元から気持ちの良い音が響いた。
「むう…」とととのえ老臣が唸った。
「すみませんでした」
と八戸は、投球を終えるとすぐにキャップを取って深々と頭を下げた。
「そしてありがとうございました。先輩の言う通りでした。俺はどっかで、自分が野球をやっている意味を見失っていました。…いや、野球をプレーすることを目的じゃなく、いつのまにか手段にしてしまっていました」
頭を下げたまま八戸はそう言った。
「…でも、ととのえ先輩の一撃で、言葉で、ようやく大切なことを思い出せました。……お願いします、ととのえ先輩。俺はもう二度とこの気持ちを忘れたりはしません。だから、これからも俺の球を--」
「何の話をしてるのかわからんな」
八戸の言葉を遮り、ごく普通の口調でととのえ老臣が言った。
やはり許してはもらえないのか。そう思い、顔をあげた八戸に向かって、ととのえ老臣はミットの中のボールを投げ返した。
驚いてボールをキャッチした八戸に、ととのえ老臣は少し笑って言った。
「私は歳のせいか少々忘れっぽいのだ。昨日の夕食も思い出せないほどだ。それよりも早く次の球を投げて来い。よもや一球で練習を切り上げるつもりではあるまい?」


…この後(のち)、ととのえ老臣こと成田氏長と八戸のぶながはNHコンビとして高校野球界に一大旋風を巻き起こすことになる。
ととのえ老臣が通称なりきり打法と呼ばれる様々な過去の大打者のフォームを真似る技術でホームランを量産すれば、八戸のぶながはジャイロボールでスコアボードに0の大群を書き連ねていった。
ととのえ老臣とコンビを組んだ二年間、八戸たちは練習、公式試合を問わず勝ち続け、春、夏連覇の偉業も成遂げた。

やがてととのえ老臣は一足先にドラフトで千葉ロッテマリーンズに指名され、プロ入りを果たして。
そしてととのえが去った三年時の夏。
八戸は新たにうんぴというあだ名の一年生とコンビを組んだが、甲子園の準決勝で思わぬ不覚を取り、三年連続甲子園制覇の夢を絶たれるのである。
スコアはわずかに0-1。決勝点はうんぴによるエラーだった。
こうして八戸のぶなが最後の夏は終った--