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『巨星落つ』 - (2008/08/15 (金) 23:28:40) のソース

**『巨星落つ』  ◆ga/ayzh9y.


「さあ……行こうか」 

傷は癒えた。 
完璧とまではいかずとも、これで再び戦うことは出来る。 
アーカードは微笑を浮かべたまま、ゆっくりと起き上がった。 
吸血鬼が求めるは、更なる闘争。 
心臓をくれてやろうと思えるほどの猛者との死闘。 
それこそが望み、それこそが至福。 
アーカードは、その足を人が集まるであろう場所―――駅の方面へと向けた。 
目標は、最寄のS7駅。 
駅ならば、例えそこに人がいなくとも、待っていれば人が来る可能性は高い。 
はたして次は、どの様な兵と戦うことになるだろうか。 
これまで相対した猛者達との再会か、未知なる強豪との出会いか。 
どちらにせよ……期待をせずには、いられなかった。 
アーカードが走り始める。 
既にその身は少女ではなく、本来の彼―――その姿ですら、本当の姿かどうかは分からないが―――へと戻っていた。 
乗り物を失った今、移動をするのには、歩幅が大きい此方の方が便利だからだ。 

「……やはり、此方の方が速いな」 

「悪かねぇな……」 

勇次郎が、左の手で拳を握りながら呟く。 
完全とまではいかないが、大分調子は良くなった……これならば戦闘でも十分に用いられるだろう。 
果たして、この拳を最初に打ち込める相手は誰か。 
ラオウか、ケンシロウか、DIOか。 
駅で出会えたあの男達は、いずれもが世界最強の一角に入れるであろう猛者達。 
刃牙以上の楽しみを、きっと与えてくれるに違いない。 
勇次郎の心は、この上なく高ぶっていた。 
吸血鬼と地上最強の生物。 
比類無き暴力を武器に、他を食らい続けた鬼二人。 
このゲームに集められた者達の中でも、極めて危険といえる両者。 
彼等が求めるは唯一、己を満足させられるだけの闘争。 
そんな二人が、さながら磁石の様に引かれ合うのは……ある意味、必然ともいえた。 

「……ほう」 

駅まで後僅かとなった、その時。 
勇次郎は、近くから放たれているその異様な気配を察知して、歩みを止める。 
これまで勇次郎が感じたことのない、異質極まりないその気。 
勇次郎はゆっくりと振り返り……笑みを浮かべて己を見つめる、アーカードの姿を確認した。 

「勇次郎……確か、そう呼ばれていたな」 
「ああ……貴様は?」 
「アーカード、それが私の名だ」 

アーカードは、勇次郎と出会えた事が嬉しかった。 
ゲーム開始時のあの光景は、彼が強者であるという事を認識させるのには、十分すぎた。 
十分すぎる闘争を与えてくれるに違いない相手であると、そう確信できた。 
しかし……それと同時に、一つだけ気がかりな事があった。 
今の勇次郎は、何かが違うのだ。 
あの広場で最初に見た時と、明らかに違う点が一つある……そう。 

「……貴様もか、勇次郎」 
「あん……?」 
「貴様も……人間をやめたのだな?」 

広場で目にしたときの彼は、紛れも無い人間であった。 
だが……今の勇次郎は、人の身にあらず。 
生命の水を摂取した事により、彼はしろがねの力を手にした。 
現人鬼の様に、かつては人間だった者になってしまっていたのだ。 
アーカードはこの事態に、落胆せずにはいられなかった。 
勇次郎は、人間のままでも自分を打ち倒せた可能性がある存在の一人。 
もしやすれば、心臓をくれてやれるのではないかと思っていた。 
それだけに、期待を裏切られたショックは大きかった。 
しかし……勇次郎はそんな彼を、嘲笑う。 

「どうだっていいんだよそんなこたァ……」 
「何?」 
「人間であるか否か、そんな事は闘争には不要だと言ってんだよ。 
ただ楽しめりゃ、それで十分じゃねぇか」 

人間であるか、人間でないか。 
そんな事は、勇次郎にとっては本当にどうでもいいことだった。 
彼は闘争を楽しめるのであれば、それだけで十分だった。 
その言葉を聞き、アーカードも笑わずにはいられない。 
確かに、彼の言うとおり。 
闘争を楽しめれば……今はそれでいい。 
二人が、揃って大きな笑い声を上げた。 

「クククッククククク……HAHAHAHAHAHAHAHA!!」 
「エフッエフッ……ハハハハハハハハァッ!!」 
「いいだろう……始めるぞ、勇次郎。 
闘争の始まりだ!!」 

アーカードの宣言と共に、二人は同時に飛び出した。 
吸血鬼と地上最強の生物の闘争が、ついに始まったのだ。 
二人は大きく前へと踏み込み、そして右の拳を繰り出す。 

「ぐっ!! 
このパワー……!!」 
「こいつは、面白ぇ……!!」 

ぶつけ合わせた拳から、全身に強烈な痺れが伝わってくる。 
お互い、相手の怪力に驚かされていた。 
勇次郎は、一見細身のアーカードに、まさかこれ程の力があるなどと思ってもみなかった。 
アーカードは、よもや勇次郎が、吸血鬼である自身の力と互角……いや、それ以上とは思ってもみなかった。 
とっさにアーカードは後方へと下がり、間合いを離す。 
その右の拳からは、鮮血が流れ落ちていた。 
力では、若干ながら勇次郎が上回っていたのだ。 

「面白いぞ勇次郎!! 
吸血鬼の持つ怪力を、真正面から打ち砕くというのか!!」 
「吸血鬼だぁ? 
はっ……テメェといいラオウといい、大層な肩書きなこったなぁっ!!」 

勇次郎は更に前へと詰め、左の拳を振り上げる。 
その強烈な一撃の前には、下手な防御は無意味。 
ならば、取るべき道は回避しかない。 
しかし、勇次郎の一撃、それもしろがねの力が加わったそのスピードは、半端なレベルではない。 
並の格闘家ならば、避けられずに直撃をもらうしかないだろうが…… 

「RAAAAAAAAAAA!!」 

第三の目を持つ吸血鬼の動体視力ならば、回避も可能。 
アーカードは素早く身を屈め、勇次郎の一撃を紙一重で避けた。 
そしてその体勢を維持したまま、さながら地を這うかのように、勇次郎へと急速接近。 
勇次郎はそれを見て、本能的に一歩後ろへと下がる。 
その直後、アーカードが右手を手刀の型へと変え……逆袈裟に斬り上げた。 

「ぬっ……!!」 

勇次郎の腰からわき腹にかけて、真一文字の傷が出来上がり、そこから血が噴出す。 
とっさに回避行動を取ったにもかかわらず、この傷。 
もしも下がっていなければ、相当のダメージを受けていたに違いない。 
面白い。 
この男は、大口を叩くだけの実力を秘めている。 
勇次郎はアーカードに対して大きな笑みを浮かべ、お返しとばかりに左手の手刀を振り下ろした。 
天内悠に致命傷を与えた、鉄で作られた錠前でさえも切り落とす鬼の手刀。 
しかしアーカードは、それを前にして引こうとはしない。 
その逆、勇次郎へとさらに突っ込んできたのだ。 
アーカードは振り上げた右手の指を開き、そのまま勇次郎の顔面へと掴みかかりにいった。 
結果、勇次郎の手刀はまともにアーカードの左肩に振り下ろされ、肩の骨がグシャリと音を立てて砕ける。 
しかし……アーカードは、若干怯みこそしたものの、行動そのものを止めはしない。 

「掴まえた」 

アーカードが掴んだのは、顔面ではなく右肩だった。 
手刀を受けた所為でバランスが崩れ、狙いが反れてしまった為である。 
しかし、それでも十分すぎる。 
そのままアーカードは、力任せに勇次郎を押し倒す。 
その衝撃を受け、地面は砕け土砂が舞い上がった。 
アーカードのパワーがどれだけ強烈なものかを、見事に現している光景であった。 
そしてアーカードは、勇次郎の顔面へ目掛けて全力で拳を打ち下ろしにいく……が。 

ガシュッ。 

「ぐぅっ!?」 

勇次郎の取った行動は、アーカードが全く予想だにしていなかった一撃。 
彼は、アーカードの拳が自らに叩き込まれる寸前、自分からその拳へと顔を近づけ……その指を、食い千切ったのである。 
吸血鬼に対して噛み付きを行うという、まさかの蛮行。 
勇次郎は食い千切った指を、アーカードの顔面に吐きつける。 
そして、両手でアーカードの右腕を掴み……全力で後方へと投げ飛ばした。 

「ガハッ……!!」 

強烈な勢いで、アーカードは背中から電柱に叩きつけられる。 
そこへと、素早く起き上がった勇次郎が迫った。 
驚異的なスピードで、勇次郎はアーカードとの間合いを詰める。 
体勢を整える隙を、彼はアーカードに全く与えないようとはしない。 
与えるのは唯一、確実な死のみ。 

「邪アアアアァッッ!!」 

勇次郎が雄叫びを上げ、強烈な一撃を見舞う。 
その拳は、アーカードの顔面を完全に粉砕し、電柱すらも圧し折った。 
鮮血と脳漿が、勇次郎の拳に降りかかる。 
頭部を粉砕され、生きていられる生物などいはしない。 
事実、数刻前に勇次郎は勝の頭部を粉砕し、そして絶命させた。 
だが……アーカードは、その理が通用しない化物。 
その心臓を完全に止めぬ限り、例え頭部を吹き飛ばされようとも死ぬことは無いのだ。 
即座に、アーカードの肉体が再生を始める。 

「まだだぞ、勇次ろっ!?」 

しかし、その次の瞬間だった。 
なんと勇次郎は、アーカードの心臓目掛けて強烈な前蹴りを叩き込んでいたのだ。 
電柱は完全に粉砕され、アーカードは十数メートル先の家屋まで一気に吹っ飛ばされる。 
勇次郎は、アーカードの弱点が心臓である事を知らない。 
だが、恐るべき野生の勘でそれを察知し、そして本能的に攻撃を繰り出したのだ。 
しかしその一撃も、アーカードの心臓を停止させるにはいたらなかった。 
彼はギリギリのところで、右腕で防御していたのである。 
御蔭で腕はぶち折れ、ぶらりと垂れ下がってはいるが、心臓に比べればどうということはない。 

「力みが……足りねぇか……!!」 
「くくっ……クハハハハハハ!!! 
素晴らしい、素晴らしいぞ勇次郎!! 
我を仕留める唯一の方法を、本能的に察知するとはな!!」 
「頭を吹き飛ばされて、それでも死なねぇ。 
仕留めるには、心臓に杭をぶち込むしかない……吸血鬼か。 
まさか、実在してたなんてな……!!」 

アーカードが吸血鬼であるという事実を知り、勇次郎は更に高揚する。 
彼はこれまで、人外の存在との闘いも幾度と無くこなしてきた。 
北極熊を屠り去った事もある。 
軍隊を導入せざるを得ないと判断されたほどの、超規格外のアフリカゾウを屠り去った事だってある。 
地上最強の生物の名に相応しく、彼はこれまでに数多くの獰猛な動物達を屠り去ってきたのだ。 
だが……そんな彼でも、吸血鬼との遭遇は始めてであった。 
人間ならば致命傷である程の傷を受けても平気で闘える、正しく人知を超えた存在。 
食らい甲斐がある、未知の餌。 
是非とも……全力で、食らい尽くしたい。 

「まだまだこの程度で終わってくれるなよ、アーカードォッ!!」 
「当然だ、勇次郎!!」 

肉体を再生させ、アーカードが家屋から飛び出した。 
それに合わせ、勇次郎も地を蹴り間合いを詰める。 
北極熊を葬り去った猛獣の連撃が、次々にアーカードの肉体へと叩き込まれる。 
吸血鬼の怒涛の猛撃が、勇次郎の肉体へと叩き込まれる。 
互いの拳から、脚から、胴体から。 
全身の至る所から出血が起こり、血飛沫が舞い散る。 
しかし、両者共に全く引こうとはしない。 

「HAHAHAHAHAHAHAHAHAHAHA!!!!」 

アーカードは左手で手刀を作り、大きく腕を引く。 
それに合わせるかの如く、勇次郎は大きく上半身を捻る。 
先に繰り出したのは、アーカード。 
一歩前へと踏み出し、真っ直ぐに貫手を繰り出す。 
その貫手は、勇次郎の背へと突き刺さった……しかし。 
ここで、アーカードの表情が変わる。 
これまで二人は、ずっと正面から相対していた。 
それ故に……アーカードは、それをはじめて見る事になったのだ。 
勇次郎の背に浮かぶ……鬼の形相を。 

「鬼の……背中……!!」 
「うおおおおおおお!!」 

直後、勇次郎が急速な勢いで上半身を捻り返した。 
それにより、アーカードの指が背中から強引に引き抜かれる。 
そして……強烈な一撃が、その胴体へと見舞われた。 
アーカードは猛烈な勢いで吹っ飛び、家屋へと逆戻りする羽目となったのだ。 
その一撃は、彼がこれまで受けたどの一撃よりも強かった。 
しかし……心臓以外の部位を狙った所で、トドメを刺す事は不可能である。 
それは、放った勇次郎にも十分分かっていた。 
元々あの一撃は、心臓を狙っての一撃だった。 
それなのに胴体へと打ち込んでしまったのは、背に貫手を受けた影響で、狙いを狂わされたからである。 
勇次郎は、ゆっくりと家屋へと迫っていく。 
そんな彼を見て、アーカードは己の感想を素直に述べた。 

「打突の要と言われている背なの筋肉……その筋肉の構成が、明らかに通常とは異なる。 
言うなれば生まれながらの……天然戦闘形態と言ったところか……!!」 

それは奇しくも、かつて勇次郎と激突した郭海皇と、全く同じ意見であった。 
勇次郎の背中に浮かぶ鬼の形相。 
それを形成する筋肉の構造は、通常の人間のものとは大幅に異なっている。 
そう……勇次郎の肉体は、生まれながらにして闘争用に出来ているといっても、過言ではないのだ。 
闘争の為だけの肉体、なんと素晴らしい事だろうか。 

「クククッ、面白い、面白いぞ勇次郎!! 
いいだろう……貴様には、見せる価値がある!! 
この私の、吸血鬼アーカードの全力を!!」 

アーカードは両手を前方へと突き出し、親指と人差し指で四角形を作る。 
現人鬼葉隠散とキャプテンブラボーを屠り去った、アーカードの最大最強の切り札。 
それが今……発動される。 

「拘束制御術式『クロムウェル』――第3号第2号第1号、開放。 
目前敵能力及び目前敵の完全沈黙までの間能力使用……限定解除開始……!!」 
「っ!!」 

勇次郎は足を止め、即座に家屋から離れた。 
直後、家屋は音を立てて崩壊。 
その内部から、禍々しい気を放つ何かが飛び出してきたのだ。 
蝙蝠、百足、黒犬。 
それは、勇次郎がよく知っている、しかし何かが違う生物の群れ。 
全てが漆黒に包まれ、そして全身に無数の瞳を持っているという、異様な井出達。 
何より、その獰猛さと殺気。 

「これが貴様の全力か!! 
よかろう……さあこい、アーカードォッ!!」 

向かい来る漆黒の群れを前に、勇次郎は勇ましく向かっていく。 
勇次郎にとって、目の前にいるのは何もかもが未知の存在。 
されど彼は恐れず、逆にそれを楽しんでいる。 
恐らくは二度とないであろう、吸血鬼との闘争を。 

「邪ッ!!」 

前方より向かってきた黒犬に、全力で踵を振り下ろし粉砕する。 
黒犬は脳天をかち割られ、地に伏せた。 
しかし、その死体は一瞬にして分解……無数の百足に姿を変化させる。 
その百足は、勇次郎の脚部から齧りつきにかかった。 
それとほぼ同時に、真正面からは大量の蝙蝠が牙をむいて襲い掛かる。 
一瞬にして勇次郎の全身は、漆黒の魔獣によって覆い隠された……が。 

「ヌンッ!!」 

直後、その全ての生物が吹き飛んだ。 
ラオウ戦で見せた様に、全身から闘気を放出したのである。 
闘気の扱いに関しては、勇次郎はまだ未熟。 
ただこうして、闘気を乱雑に解き放つ事しか出来ないが……それでも勇次郎の闘気は、並の格闘家を遥かに凌駕している。 
纏わりつく魔獣達への対処には、十分すぎる威力であった。 
その後、すぐさま勇次郎は、アーカードを狙おうと彼を探すが……その直後だった。 

「RAAAAAAAAAAAAA!!」 
「ぬぅぅっ!?」 

アーカードが出現したのは、勇次郎の背後。 
家屋が崩壊した時、アーカードはすばやく下半身を黒犬へと変化させて、そして勇次郎にも気付かれぬ程の速度で回り込んでいたのだ。 
ここにきて、アーカードのスピードが急激に跳ね上がった事に、勇次郎も驚きを隠せない。 
とっさに振り向き、拳を打ち込もうとするが……それは、最悪のタイミングだった。 
先程、指を食い千切られた事に対する逆襲とでもいうべきか。 
勇次郎の左拳は、丸々黒犬の口の中へと収まった……食われてしまったのだ。 

「豚の様な悲鳴を上げろ……!!」 

黒犬は、その左拳を食い千切ろうとする。 
強烈なパワーで齧り付かれ、勇次郎の怪力を以てしても、引き抜く事は出来ない。 
ここで、アーカードの上半身にも変化が現れる。 
両肩が隆起し、そこから二本ずつ、合計四本の手が出現したのだ。 
その四本の手に、本来の両手を加えた六本の手が、一斉に勇次郎へと襲い掛かる。 
拳を食われ身動きを封じられた勇次郎には、どうにかして拳を解放しない限り、これをかわす術はない。 
ならば、もはや手段を選んではいられない。 
勇次郎はとっさに、左腕へと回転を加え……アーカードを、転倒させた。 

「ヂャッ!!」 
「何っ!?」 

アーカードは、脳天から強く地面に叩きつけられる。 
それによって生じた、一瞬の力の緩み。 
勇次郎はそのチャンスを見逃さず、黒犬の口から腕を引き抜いた。 
その手首にはくっきりと歯型がついており、血が滴り落ちている。 

(野郎……ッ!! 
俺を、技に追い込みやがった……ッ!!) 

勇次郎が放ったのは、合気の一種。 
黒犬から逃れる為、とっさに彼はそれを使ってしまったのだ。 
これまで、相手の力量を試したり、からかう為に技を使った事は何度もある。 
だが……今回は違う。 
本能的に、危険を察知して技を使ってしまった。 
それだけ、追い込まれてしまっていたのだ。 

「成る程成る程、パワーだけではないという訳か。 
技術に関しても一級……素晴らしいぞ、勇次郎!! 
よくぞ、ここまで練り上げたものだ!!」 

アーカードは頭部を再生させながら、更に歓喜する。 
勇次郎には、怪力だけではなく技まで備わっていた。 
闘士としては、これ以上ないレベル。 
闘争の相手として、最高の実力者。 
これだ、これこそが望んでいた闘争だ。 

「さあ来るがいい!! 
その拳を見事、この心臓に突き立ててみせろ!!」 

アーカードの胴体から、更に無数の手が出現。 
全ての手が勇次郎に襲い掛かった。 
勇次郎はそれを驚異的な反射神経で回避し、一気にアーカードとの間合いを詰める。 
だが、その距離が徐々に近づくにつれ、完全な回避は不可能になってきた。 
手は勇次郎の肉体に突き刺さり、その肉をえぐり飛ばす。 
それでも勇次郎は、ダメージを意に介さずただ前へ前へと進む。 
拳を打ち込みながら、蹴りを繰り出しながら、噛み砕きながら。 
徐々に徐々に、アーカードとの間合いを詰めてゆく。 
そしてついに、勇次郎は己のエリアへとアーカードを捉えた。 

「アァァァァカァァァァドォォォォォォッ!!!」 

勇次郎は天高く、両腕を真っ直ぐに突き上げた。 
背中の鬼が、哭き顔を浮かべる。 
これが勇次郎の、最大最強の形態。 
かつて独歩の心臓を停止させた、必殺の拳を繰り出す為のフォーム。 
アーカードはそれを見て、全身から出現させた手の全てを、大きく後方へと引き絞った。 
勇次郎が全身に受けているダメージは、相当なもの。 
残されている体力を考えれば、この一撃は彼にとって最後となるに違いない。 
ならば、喜んで受けてたとう。 
真正面から、己も全てをぶつけるのみだ。 

「邪アアアアァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」 
「RAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」 

二人が雄叫びを上げ、最後の一撃を繰り出した。 
鬼の拳が、アーカードの胸部へと炸裂する。 
肉を断ち骨を砕き、心臓へと真っ直ぐに突き出される。 
無数の手刀が、一斉に勇次郎へと突き刺さる。 
腕、足、胴体……全身の至るところを、刺し貫く。 
その体勢のまま、二人は完全に硬直する。 
吸血鬼アーカード。 
地上最強の生物範馬勇次郎。 
悪鬼同士の戦いに打ち勝ったのは…… 

「見事だ……勇次郎……!!」 
「……貴様こそな。 
見事だったぜ……アーカード」 

アーカードの心臓が爆ぜた。 
勇次郎の拳は、アーカードの心臓に取り付けられていた首輪を見事に破壊、起爆させていたのだ。 
散もブラボーも、ZXもハヤテも、後一歩という所で叶わなかった、アーカードの撃破。 
それを終に、勇次郎は成し遂げたのだ。 
ゆっくりと、その右拳が胴体から引き抜かれる。 
首輪を至近距離で爆発させた影響か、手の皮は焼け剥げ、そこから鮮血が滴り落ちている。 
それに合わせるかのように、勇次郎の肉体に突き刺さっていた無数の手が、塵となり崩れ落ちていく。 
そして、同様にその両足も塵と化し……アーカードは、地面へと崩れ落ちた。 

「……どうだい、気分は?」 
「ああ……悪くない。 
……勇次郎よ、一つだけ聞かせろ……」 
「何だ?」 
「何故、貴様は……人間をやめた……?」 

薄れ行く意識の中。 
アーカードは最大の気がかりを、勇次郎に尋ねた。 
それは……彼が何故、人をやめてしまったのか。 
何故、彼ほどの者が人の身を捨て去ったかであった。 

「ああ……別に、望んでやめたつもりじゃねぇよ」 
「何……だと……?」 
「いつのまにか、気付かねぇうちになっちまってた。 
だが……言った筈だぜ、そんな事はどうでもいいってよ。 
人間だ、人間じゃない……別にどっちだっていい。 
俺は俺だ……オーガ、範馬勇次郎だ」 
「……くく。 
ハハハハハ……そうか……そうか……!!」 

アーカードは勇次郎の言葉を聞き、笑わずにいられなかった。 
そして悟った……勇次郎は、紛れも無く人間であると。 
彼はその強靭な自我で、人間でい続けた。 
自分の様な、化物にその身を堕とさなかった。 
人外の存在となろうとも、それの持つ力に溺れなかった。 
ただただ、それまで同様に、己の力を信じ続け、そして拳を振るっていただけだった。 
勇次郎の魂は、勇次郎という人間であり続けたのだ。 
だからこそ……自分は敗れたのだ。 
範馬勇次郎という名の、人間に。 

「……似ているな……お前と……あいつは……」 
「似ている……?」 
「ああ……村雨良。 
お前の前に、私を追い詰めた……人間だ」 

アーカードは先の戦いで、人に在らざる存在である村雨を、敢えて人間と呼んだ。 
何故彼を、人間として認めたのか……その答えは、勇次郎を人間として認めた理由と同じ。 
村雨は、過去の記憶を求めていた。 
恐らくは、己が人間であった時の……人間としての記憶を。 
彼は人間である己を、求めていた。 
肉体こそ、人に在らざる異形だが……その魂は、人間であろうとしていたのだ。 
人間としての肉体を捨て、そして人間としての心すらも捨てたあの現人鬼散とは違う。 
紛れも無く、勇次郎も村雨も、その魂は人間だ。 

「……勇次郎。 
お前は……まだ、闘争を求め続けるのだな……?」 
「ああ……それが、俺の望みだからな」 
「そうか……ならば……会うがいい…… 
あの、素晴らしき……者達と……」 

DIO、劉鳳、アミバ、服部平次、綾崎ハヤテ。 
自分の前に立ちはだかり、そして戦いを挑んできた戦士達。 

葉隠覚悟、ジョセフ=ジョースター、津村斗貴子、パピヨン。 
血の記憶よりその存在を知った、まだ見ぬ未知の戦士達。 

柊かがみ、三村信史。 
名は知らぬ、しかしスタンドを操り勇敢にも立ち向かってきた戦士達。 

アーカードは、簡単にではあるものの、その一人一人を、ゆっくりと勇次郎へと告げていった。 
彼は、奇妙な友情を感じていた。 
人とは違う肉体を持ち、そして絶対的な暴力を持つ地上最強の生物に。 
己を満足させてくれる相手を求め、己を満足させてくれる闘争を求め続けたオーガに。 
自分と似ている、この範馬勇次郎に。 
だからだろうか……彼を、会わせてみたくなったのだ。 
自分が強く心惹かれた、あの者達と。 
そして、その強き思いを……勇次郎はしかと受け止めた。 

「ああ……約束するぜ。 
そいつらとの、闘争をな」 
「ふっ……先に、地獄で待っていよう。 
奴等が……待っているのであらば……退屈は、しないだろう……」 
「ああ……俺の息子も、恐らくはそこにいる。 
俺が来るまでの間、退屈はさせねぇさ」 
「そうか……さらばだ……いや……また会おう……ゆうじ……ろ……う……」 

アーカードの肉体が、塵となって崩れ落ちていく。 
やがて、そこへ一陣の風が吹き……塵を、彼方へと運んでいった。 
ただただ闘争を望み、そして己の破滅を望んだ吸血鬼アーカード。 
その永きに渡る、永久にも等しいと思われていた生涯に……今、幕が下ろされた。 
勇次郎はしばしの間、ただじっと、風の吹く先を眺めていた。 

「……アーカード。 
最高の餌だったぜ……感謝するぞ、心からな」 

満足のいく戦いだった。 
これまで感じた事の無い充実感が、勇次郎の中にあった。 
勇次郎もまた、アーカードに友情に近いものを感じていたのだ。 
彼にとて、そういった感情はある。 
だからこそ、彼が名を残した猛者達と出会い……そして闘ってみたくなった。 
やがて、風がやんだ時。 
勇次郎はアーカードが残したデイパックをその手に取り、そして歩き始めようとする。 
だが……その瞬間だった。 

ズシン 

勇次郎は、前のめりに地面へと倒れこんでしまった。 
彼が受けたダメージもまた、相当のレベルであった。 
両の拳に、決して軽いとはいえない傷を負い。 
全身の至るところの肉を抉り取られ、そして内臓器官にもダメージは及んでいる。 
しかも今度は、鳴海と闘った時の倍以上の数の臓器を、損傷してしまった。 
その全てが相俟って、勇次郎の肉体には相当のダメージが蓄積されてしまっていた。 
いかに勇次郎といえど、それに堪え切られなかったのだ。 

「ちっ……仕方ねぇな……」 

勇次郎はゆっくりと瞳を閉じ、そして意識を失った。 
はたして、次に彼が目を覚ます時、その目の前には何があるだろうか。 
何も無く、変わらずに彼一人だけなのだろうか。 
それとも、更なる闘争の相手との出会いか…… 


&color(red){【アーカード@HELLSING 死亡確認】}
&color(red){【残り29人】}


【E-4 駅付近/1日目 夜】 
【範馬勇次郎@グラップラー刃牙】 
[状態]気絶中。右手に中度の火傷、左手に大きな噛み傷。 
   全身の至るところの肉を抉られており、幾つかの内臓器官にも損傷あり。大量出血中 
[装備]ライター 
[道具]支給品一式、打ち上げ花火2発、フェイファー ツェリザカ(0/5) 、レミントンM31(2/4) 
   色々と記入された名簿×2、レミントン M31の予備弾22、 お茶葉(残り100g)、スタングレネード×4 
[思考] 基本:闘争を楽しみつつ優勝し主催者を殺す 
1:戦うに値する参加者を捜す 
2:アーカードが名を残した戦士達と、闘争を楽しみたい。 
  ただし、斗貴子に対してのみ微妙な所です。 
3:首輪を外したい 
4:S7駅へ向かいラオウ、DIO、ケンシロウを探す。 
5:未だ見ぬ参加者との闘争に、強い欲求 
[備考] 
※自分の体力とスピードに若干の制限が加えられたことを感じ取りました。 
※ラオウ・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました。 
※生命の水(アクア・ウィタエ)を摂取し、身体能力が向上しています。 
※再生中だった左手は、戦闘が可能なレベルに修復されています。 
※アーカードより、DIO、かがみ、劉鳳、アミバ、服部、三村、ハヤテ、覚悟、ジョセフ、パピヨンの簡単な情報を得ました。 
ただし、三村とかがみの名前は知りません。 
是非とも彼等とは闘ってみたいと感じていますが、既に闘っている斗貴子に関しては微妙な所です。 
※吸血鬼の存在を知りました 


|186:[[オラトリオ メサイア 第二部終章]]|[[投下順>第151話~第200話]]|188:[[夜空ノムコウ]]|
|184:[[風前の灯火]]|[[時系列順>第4回放送までの本編SS]]|188:[[夜空ノムコウ]]|
|181:[[贈り物]]|範馬勇次郎|198:[[われらのとるべき道は平常心で死にゆくことでなく非常心にて生きぬくことである]]|
|174:[[Double-Action ZX-Hayate form]]|&color(red){アーカード}|&color(red){死亡}|


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