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「気付かないのはお約束(後編)」(2008/08/15 (金) 17:11:35) の最新版変更点
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**気付かないのはお約束 ◆wivGPSoRoE
■
天井を見上げながら、キュルケはため息をついた。
(だけど、どうしたものかしら?
DIOがあの技を使ってきたら、死んだと気付くのは死んだ後ってことになりそうね……)
どう考えても自分が杖を振るよりも、DIOが自分を殺すほうが速い。
というより、ケンシロウですらまったくもって追いつくことも知覚することもできない相手と、
速さ比べをしても無駄、というべきか。
(何度も使えない技なんだから、使わせてしまえば勝機があるんでしょうけど……。難しいわ)
キュルケは、物憂げに前髪をかきあげた。
窓から差し込む光が、キュルケの燃えるような赤髪を煌かせる。
ふわりと舞った髪があかがね色に輝きながら雪崩落ちるさまは、まるで絵画の一枚を切り取ったようであった。
無論、キュルケは自分のこういう仕草が男達にどういう影響を与えるか、十二分に知っている。
最早意識せずともやってしまう自分に苦笑しつつ、
キュルケは、部屋の隅で瞑目しながら回復に努めているケンシロウをみやった。
(今のが見えていたとしても、ケンにはまったく通じないでしょうけどね……。
まあ、そこが素敵なんだけど)
――いけない。いけない。
キュルケは軽く額を叩いた。
今はこんなことを考えている場合では無い。
(『偏在』が使えれば最高なんでしょうけど、ないものねだりね……。
今から夜になるから、『錬金』でゴーレムでも作ればひょっとしたら目くらましになるかもしれないけど、
これも無い物ねだ――)
――待てよ。
キュルケの頭に閃くものがあった。
DIOの技はあくまで超速度で動くというもの。空間を渡っているのではない。
(『錬金』で周りの床の表面を油に変えておけばどうかしら?)
ギーシュくらい『地』属性に秀でていれば、大掛かりな落とし穴を掘ることも可能なのだが、流石にそれは無理だ。
(でも、高速で動けば視野はせばまる。足元だって多少お留守になっているはずだわ。
上手くいけば転ばせることぐらい、できるかもしれないわね。
そうだわ、ケンのさっき使ってた技と組み合わせることだって……)
ケンシロウの使ったエア・ハンマーに似た技を使い、自分が錬金で周りの床を油に変えておけば……。
そう。別にダメージを与えなくてもいいのだ。
DIOにあの技を使わせて、使える回数を減らしてやることさえできれば、御の字だ。
胸が高鳴るのをキュルケは感じた。
「……休んでいろと言ったはずだが」
キュルケが杖に手を伸ばす気配を感じ取ったケンシロウが、たしなめるように言ってくる。
「ごめんなさい! でも、ちょっとやってみたいことがあるのよ!」
快活な声でキュルケは答えた。
やれることがある、ということは人の心を高揚させる。
それが、惹かれている相手を強敵から守ることができるかもしれないことなら、なおさらだ。
キュルケは床に杖を向けた。
錬金はまごうことなき超初級魔法だが、最近使っていないのも事実。
闘いにおいては、一瞬の遅れが命取りになる。
できるだけ早く、大規模に油の砦を築く必要がある。
(そのためには、慣れておかなくちゃ、ね)
所詮、初歩の魔法であるから精神の消耗度合いも少なく、練習しても問題はない。
ルーンを呟き、杖を振り上げる。
――な!?
キュルケの顔に驚愕の皺が刻まれた。
――もう一度。
何も起こらない。
――魔法が使えなくなった!?
大慌てで、キュルケは『ファイヤーボール』の呪文を唱えた。
どくん、と体の中で力が頭をもたげ、そのまま体の中をかけめぐる。
(よかった……)
呪文を中断し、安堵のあまりキュルケは床にへたりこんでしまう。
「……どうした?」
我に帰ったキュルケは後ろを振り仰いだ。
すぐ側に、いつの間にか側にきていたケンシロウの顔がある。
「ええ……ちょっと……」
安堵する気持ちと困惑をまぜこぜにした感情を胸に、キュルケはケンシロウを見上げた。
■
キュルケの説明を聞き終えたケンシロウの眉が、大きくその角度を変えた。
大抵のことには動じないケンシロウの反応に、キュルケは目を丸くした。
しばしの間があって、
「……すまないが、キュルケ。もう一度その錬金を試してみてくれないか?」
キュルケは首肯した。
眼を閉じ、精神を統一。
先ほどとは違い、トライアングルクラスの魔法を使う繊細さと緻密さでルーンを唱え、体内の魔力の流れを追う。
――ん?
魔力の流れが悪い。
キュルケの眉間に皺の断層が現れた。
――従いなさい。
自分の意志に逆らうとする魔力の流れをねじ伏せ、キュルケは気合と共に杖を振った。
――成功。
額に浮かぶ汗の玉を拭いながら、キュルケはほっとしたような笑みを口の端にのぼらせた。
「油、だな」
「ええ、これが『錬金』よ……。
本当はもっと簡単にできるんだけど……。なんだか今日は、調子が悪いみたい」
ぺロリと舌を出し、キュルケは大息を吐いた。
――疲れた。
たかだか初歩の錬金をつかうために、これほど精神力を削られるとは。
(まったく……。これじゃいつまでたっても回復しないわ)
小さく舌打ちしようとして――
「……お前の調子が悪いのではなく、悪くさせられているのだとしたら、どうする?」
キュルケは舌打ちの動作を中断した。
「どういうこと!? ケン」
詰め寄るキュルケを手で制し、
「あたぁっ!」
ケンシロウは自分の体に指を叩きこんだ。
「ちょ、ちょっと!」
慌てるキュルケを黙殺し、ケンシロウはありとあらゆる部位に指を叩きこんでいく。
「やめてっ!! どうしたっていうのよ!?」
裏返った声で叫びながらキュルケはケンシロウに飛びついた。
「……落ち着け。自棄になったわけでも、自殺するつもりもない。
北斗神拳に伝わる秘孔は七百八十。だが、その全てが人の命を奪うものではない。
人の体を回復させ、病を治す秘孔もある」
「……そうなの」
キュルケはほっと胸を撫で下ろし、そんなキュルケを見てケンシロウは優しく笑った。
「すまない、心配させてしまったようだな」
「そんな……。私こそ早合点しちゃって……」
「だがこれではっきりした――」
驚いて見上げてくるキュルケを見えない瞳で見つめ返し、
「俺の秘孔は何らかの力によって妨害されている。
そしてその妨害の力の源は――ここだ」
ケンシロウは首輪を軽く叩いてみせた。
ケンシロウが秘孔の制限に気付くことができたのは、『秘孔が効かない可能性』に気付いたことが大きい。
この場所に来るまでのように、秘孔が――否。北斗神拳が絶対のものだと考えていたならば、
秘孔の力が制限される可能性について考えもしなかったであろう。
仮に秘孔を突いたときの効力が異なると仮定して、だ。
その理由を、効きにくい人間が存在するからである、と簡単に考えていいのか。
先ほどからケンシロウはそれをずっと考えていたのである。
――何か他に原因があるのではないか?
そんな時、キュルケから『錬金』が、何らかの力で発動できないという話を聞いた。
ケンシロウの頭に閃くものがあった。
念のため、もう一度試してもらったところ、『いつもより調子が悪いが』発動した。
ケンシロウが自分の推論を確信に変えるには十分だった。
そして最後の詰めとして、実際に秘孔の効力を阻害する力が働いているかどうか調べたのである。
今更言うまでも無いが、北斗神拳を極めた者は、体内を巡る気の流れを操作することがを可能である。
当然、体内を気がどのように流れているかは、知り尽くしている。
注意深く妨害する力の源を調べた所、その源流に行き当たり――
その場所こそ、首輪が嵌っている場所だった、というわけである。
「なんてこと……」
ケンシロウの話に、キュルケは顔をしかめた。
「お前の『錬金』の力を、あの爺どもが制限しようという理由は……。言うまでもないな」
そう言ってケンシロウは首輪を指差した。
――首輪の金属を別の金属に変えられ、中身を覗かれることを防ぐため。
キュルケや、その友人達の能力を知っていれば当然の措置であろう。
「そして俺の、おそらくはラオウやジャギ、アミバの秘孔を制限した理由は――」
「『ハンデ』、でしょうね!」
――今から諸君には、殺し合いをしてもらう!
シエスタを殺した老人の顔を思い浮かべながら、嫌悪感を存分に込めてキュルケは吐き捨てた。
「あなたやラオウみたいな強い人間に秘孔まで使わせたら、『殺し合い』にもならずに、
ただの虐殺になっちゃうから……。はっ!! お優しいことだわ!!
私達にも勝てるチャンスがあるから諦めるなとでも言いたいのかしら!?
ご褒美だけでなく、こんな手のこんだことまでするなんて……。
そんなに殺し合いが見たいのかしら? あの糞爺……つくづくいい趣味してるわ!!」
瞳に憎悪の火を燃やしながら、キュルケは杖を握り締めた。
(ハンデ……か)
怒りを滾らせるキュルケとは対照的に、ケンシロウは思考の海に沈んでいた。
(あの爺が、俺達の力をできるだけ互角のものにしようとしているのなら、
あのDIOという男もおそらくは……)
ひょっとすればあの超高速の「技」こそが、DIOの本来の力なのかもしれない。
そうだとすれば、あのDIOという男の操る人形の攻撃が雑だったことにも説明がつく。
あれほどの動きができるなら一瞬で相手を屠ってしまえる。
ゆえに技を磨く必要など、なかったとのだろう。
(だが、解せん……。互角の戦いを望むなら何故、ラオウから記憶を、無想転生を奪った?)
――北斗神拳究極奥義、無想転生。馬鹿な、ケンシロウが身につけているなど……
両眼から走る激痛に混じって聞えたラオウの声。
錯覚かとも思ったが、その後の闘いで、ラオウは夢想転生を使わずにその剛拳を振り回すのみ。
いくらユリアを『殺した』ことで哀しみを知ったとはいえ、ラオウと自分はどちらかが生きている限り戦う宿命。
二人が同時に存在すれば、ラオウか自分のどちらかが倒れる以外に結末は無い。
ケンシロウとラオウが共闘するはずなどないことを、あの爺どもは知っているであろうから、
ラオウの記憶を奪うことにその必然性はないはずなのだが……。
(何故だ?)
ケンシロウは一人、解けない思考の迷宮をさ迷っていた。
■
「……便利ねえ」
蛇口を捻って水を止めながら、キュルケは一人ごちた。
この世界の水道はとても便利だ。
軽く頭を振って、部屋からもってきたタオルで顔を拭く。
冷たい水のおかげで、心で荒れ狂っていた激情がなんとかおさまった気がする。
キュルケは、洗面台からみえる廊下の奥――ケンシロウがいる部屋の方を見やった。
おそらくケンシロウはまだ、物思いにふけっているだろう。
(ケンにも色々あるみたいね……)
それでなくても色々考えなきゃいけないことはあるし……。困ったものだわ)
期せずしてため息が漏れた。
首輪によって、『錬金』が制限されていることは分かった。
(逆に考えれば、錬金で首輪の金属を、錬金でなんとかできるってことなんだけど……)
そのためには、錬金を妨害する力を発しているという首輪を何とかする必要がある。
(堂々巡りね……)
小さく舌打ちして、キュルケは歩を進め始めた。
今でもひょっとすれば何とかできるのかもしれないが、
錬金魔法を制限する力が首輪に込められていたことを考えると、とても自分の首輪で試してみる気にはなれない。
(爆発でもされたらたまらないわ)
首輪の表面を撫でながら、キュルケはもう一度ため息をついた。
(それにしても……。ケンのヒコウを制限する力、私の錬金を制限する力……
ひょっとしたら他にも制限されている『力』があるかもしれない。
よくもまあ、こんな小さい首輪にそれだけの力が込められるものね)
――どうやったら、そんな多種多様の力を首輪に封じ込めることができるのか?
(ケンが言ってたことだから間違いないんでしょうけど……)
キュルケは首を捻った。
――万能すぎはしないか?
キュルケは持った杖に目を落とした。
メイジは杖を媒介として、魔法を発動させる。
(この首輪ってひょっとして……)
キュルケの水面を揺らす疑問の波は、なかなか収まる気配を見せなかった。
■
窓から差し込む光でオレンジ色に染まった廊下を歩きながら、
何の気なしに、キュルケは一つのドアを開け放った。
首を突っ込んで中を覗いてみる。
キュルケの顔に笑みが浮かんだ。
(なるほど……。この建物は、この世界の『学校』なのね)
机や椅子の形は違っていても、黒板と教卓だけは、どこの世界も変わらないとみえる。
(学校の授業なんて退屈なだけだったけど……。
こうなってみると、すごく懐かしく思えてくるるから不思議だわ)
妙ちきりんなものばかり作るコルベール教師や、『風』の系統の自慢ばかりするギトーの顔すら、懐かしく思い出される。
続いて心に浮かんできたのは見慣れた二つの顔。
「信じてるわよ、タバサ……。ルイズもね」
――二人ともきっと無事のはずだ。
祈りにもにた思いを抱えながら、キュルケは一つのドアの前に立った。
ケンシロウのいる部屋は目と鼻の先。最後の寄り道とばかりにドアを開け、中を覗く
「ふぅん?」
興味を惹かれたキュルケは部屋の中に足を踏み入れた。
机や椅子の形が、他の教室とは一線を画していた。
ありていに言えば上等で、それまでの教室よりは遥かに居心地がよさそうである。
無論、にこの教室が『職員室』と呼ばれていることなど、そして先ほどまでいた部屋が『保健室』と呼ばれていることも、
キュルケが知るわけもない。
とその時、キュルケの目が、あるものを捕えた。
「宝……石?」
薄暗い部屋の中で、何かが赤く光っている。
近寄ってよく見てみると、それは台座らしきものに埋め込まれているようだった。
「調度品にしては、芸術性に乏しいわね?」
じろじろと宝石らしきものが埋まったそれを見ながら、キュルケは首をかしげた。
無論、光っているのが留守番電話の赤ランプであり、
キュルケの見ているそれは、宝石を埋め込んだ調度品ではなく電話機であることを
キュルケが知るわけもない。
何の気なしにキュルケは手を伸ばし、赤い宝石に触れた。
台座から取れないか、試してみる。
意図せずしてキュルケの指がボタンを押し込んだ。
<録音は、一件です>
不気味な声が静まりかえった教室に響きわたり、キュルケは思わず後ろに跳びすさった。
震えるキュルケの目の前で、台座から変な音がし、男の声が響き始めた。
「今から話すことを真面目に、かつ冷静に聞いて欲しい。
俺の名は―――すまない、言うことは出来ない。 だが、信じて欲しい――」
【C-4 学校。一日目 夕方】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:カズマのシェルブリット一発分のダメージ有り(痩せ我慢は必要だが、行動制限は無い)全身各所に打撲傷
キング・クリムゾンにより肩に裂傷 両目損失。吐き気はほぼ、おさまりました(気合で我慢できる程度)
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3、本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。
1:放送まで休んで、その後病院に向かって神楽と合流する。
2:アミバを捜索、事と次第によれば殺害。
3:ジャギ・ラオウ・勇次郎他ゲームに乗った参加者を倒す。
4:助けられる人はできるだけ助ける。
5:乗ってない人間に独歩・ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎の情報を伝える。
[備考]
※参戦時期はラオウとの最終戦後です。
※ラオウ・勇次郎・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました 。
※秘孔の制限に気付きました。
※ラオウが無想天性使えないことに気付きました(ラオウの記憶が操作されていると思っています)
【キュルケ@ゼロの使い魔】
[状態]後頭部打撲(治療済) 貧血気味 マントが破られている
魔法に使いすぎによる精神の消耗(回復基調にはある)
[装備]タバサの杖@ゼロの使い魔
[道具]支給品一式
[思考・状況]
基本:学院に三人で帰る、殺し合いには乗ってない人を守る、乗っている人は倒す
1:放送まで休んで、その後病院に向かって神楽と合流する。
2:タバサ、ルイズと合流する。
3:サイトを殺した人物が乗っていた場合容赦はしない。
4:帰る方法を考える。
[備考]
※軽い頭痛。
※ラオウ・勇次郎・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました
※ケンシロウに惹かれています。
<二人の首輪についての考察と知識>
※首輪から出ている力によって秘孔や錬金が制限されていることに気付きました。
ケンシロウは首輪の内部に力を発生させる装置が搭載されていると思っていますが、
キュルケは媒介にすぎない可能性があると思っています。
<二人のDIOの能力について>
※瞬間的に普段の数百倍の速度で動く能力だと思っています(サイボーグ009の加速装置のイメージ)
[[前編>気付かないのはお約束]]
|163:[[二人の女、二人の愛]]|[[投下順>第151話~第200話]]|165:[[ターミネーターゼクロス]]|
|163:[[二人の女、二人の愛]]|[[時系列順>第3回放送までの本編SS]]|165:[[ターミネーターゼクロス]]|
|149:[[大乱戦]]|ケンシロウ|184:[[風前の灯火]]|
|149:[[大乱戦]]|キュルケ|184:[[風前の灯火]]|
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**気付かないのはお約束(後編) ◆wivGPSoRoE
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天井を見上げながら、キュルケはため息をついた。
(だけど、どうしたものかしら?
DIOがあの技を使ってきたら、死んだと気付くのは死んだ後ってことになりそうね……)
どう考えても自分が杖を振るよりも、DIOが自分を殺すほうが速い。
というより、ケンシロウですらまったくもって追いつくことも知覚することもできない相手と、
速さ比べをしても無駄、というべきか。
(何度も使えない技なんだから、使わせてしまえば勝機があるんでしょうけど……。難しいわ)
キュルケは、物憂げに前髪をかきあげた。
窓から差し込む光が、キュルケの燃えるような赤髪を煌かせる。
ふわりと舞った髪があかがね色に輝きながら雪崩落ちるさまは、まるで絵画の一枚を切り取ったようであった。
無論、キュルケは自分のこういう仕草が男達にどういう影響を与えるか、十二分に知っている。
最早意識せずともやってしまう自分に苦笑しつつ、
キュルケは、部屋の隅で瞑目しながら回復に努めているケンシロウをみやった。
(今のが見えていたとしても、ケンにはまったく通じないでしょうけどね……。
まあ、そこが素敵なんだけど)
――いけない。いけない。
キュルケは軽く額を叩いた。
今はこんなことを考えている場合では無い。
(『偏在』が使えれば最高なんでしょうけど、ないものねだりね……。
今から夜になるから、『錬金』でゴーレムでも作ればひょっとしたら目くらましになるかもしれないけど、
これも無い物ねだ――)
――待てよ。
キュルケの頭に閃くものがあった。
DIOの技はあくまで超速度で動くというもの。空間を渡っているのではない。
(『錬金』で周りの床の表面を油に変えておけばどうかしら?)
ギーシュくらい『地』属性に秀でていれば、大掛かりな落とし穴を掘ることも可能なのだが、流石にそれは無理だ。
(でも、高速で動けば視野はせばまる。足元だって多少お留守になっているはずだわ。
上手くいけば転ばせることぐらい、できるかもしれないわね。
そうだわ、ケンのさっき使ってた技と組み合わせることだって……)
ケンシロウの使ったエア・ハンマーに似た技を使い、自分が錬金で周りの床を油に変えておけば……。
そう。別にダメージを与えなくてもいいのだ。
DIOにあの技を使わせて、使える回数を減らしてやることさえできれば、御の字だ。
胸が高鳴るのをキュルケは感じた。
「……休んでいろと言ったはずだが」
キュルケが杖に手を伸ばす気配を感じ取ったケンシロウが、たしなめるように言ってくる。
「ごめんなさい! でも、ちょっとやってみたいことがあるのよ!」
快活な声でキュルケは答えた。
やれることがある、ということは人の心を高揚させる。
それが、惹かれている相手を強敵から守ることができるかもしれないことなら、なおさらだ。
キュルケは床に杖を向けた。
錬金はまごうことなき超初級魔法だが、最近使っていないのも事実。
闘いにおいては、一瞬の遅れが命取りになる。
できるだけ早く、大規模に油の砦を築く必要がある。
(そのためには、慣れておかなくちゃ、ね)
所詮、初歩の魔法であるから精神の消耗度合いも少なく、練習しても問題はない。
ルーンを呟き、杖を振り上げる。
――な!?
キュルケの顔に驚愕の皺が刻まれた。
――もう一度。
何も起こらない。
――魔法が使えなくなった!?
大慌てで、キュルケは『ファイヤーボール』の呪文を唱えた。
どくん、と体の中で力が頭をもたげ、そのまま体の中をかけめぐる。
(よかった……)
呪文を中断し、安堵のあまりキュルケは床にへたりこんでしまう。
「……どうした?」
我に帰ったキュルケは後ろを振り仰いだ。
すぐ側に、いつの間にか側にきていたケンシロウの顔がある。
「ええ……ちょっと……」
安堵する気持ちと困惑をまぜこぜにした感情を胸に、キュルケはケンシロウを見上げた。
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キュルケの説明を聞き終えたケンシロウの眉が、大きくその角度を変えた。
大抵のことには動じないケンシロウの反応に、キュルケは目を丸くした。
しばしの間があって、
「……すまないが、キュルケ。もう一度その錬金を試してみてくれないか?」
キュルケは首肯した。
眼を閉じ、精神を統一。
先ほどとは違い、トライアングルクラスの魔法を使う繊細さと緻密さでルーンを唱え、体内の魔力の流れを追う。
――ん?
魔力の流れが悪い。
キュルケの眉間に皺の断層が現れた。
――従いなさい。
自分の意志に逆らうとする魔力の流れをねじ伏せ、キュルケは気合と共に杖を振った。
――成功。
額に浮かぶ汗の玉を拭いながら、キュルケはほっとしたような笑みを口の端にのぼらせた。
「油、だな」
「ええ、これが『錬金』よ……。
本当はもっと簡単にできるんだけど……。なんだか今日は、調子が悪いみたい」
ぺロリと舌を出し、キュルケは大息を吐いた。
――疲れた。
たかだか初歩の錬金をつかうために、これほど精神力を削られるとは。
(まったく……。これじゃいつまでたっても回復しないわ)
小さく舌打ちしようとして――
「……お前の調子が悪いのではなく、悪くさせられているのだとしたら、どうする?」
キュルケは舌打ちの動作を中断した。
「どういうこと!? ケン」
詰め寄るキュルケを手で制し、
「あたぁっ!」
ケンシロウは自分の体に指を叩きこんだ。
「ちょ、ちょっと!」
慌てるキュルケを黙殺し、ケンシロウはありとあらゆる部位に指を叩きこんでいく。
「やめてっ!! どうしたっていうのよ!?」
裏返った声で叫びながらキュルケはケンシロウに飛びついた。
「……落ち着け。自棄になったわけでも、自殺するつもりもない。
北斗神拳に伝わる秘孔は七百八十。だが、その全てが人の命を奪うものではない。
人の体を回復させ、病を治す秘孔もある」
「……そうなの」
キュルケはほっと胸を撫で下ろし、そんなキュルケを見てケンシロウは優しく笑った。
「すまない、心配させてしまったようだな」
「そんな……。私こそ早合点しちゃって……」
「だがこれではっきりした――」
驚いて見上げてくるキュルケを見えない瞳で見つめ返し、
「俺の秘孔は何らかの力によって妨害されている。
そしてその妨害の力の源は――ここだ」
ケンシロウは首輪を軽く叩いてみせた。
ケンシロウが秘孔の制限に気付くことができたのは、『秘孔が効かない可能性』に気付いたことが大きい。
この場所に来るまでのように、秘孔が――否。北斗神拳が絶対のものだと考えていたならば、
秘孔の力が制限される可能性について考えもしなかったであろう。
仮に秘孔を突いたときの効力が異なると仮定して、だ。
その理由を、効きにくい人間が存在するからである、と簡単に考えていいのか。
先ほどからケンシロウはそれをずっと考えていたのである。
――何か他に原因があるのではないか?
そんな時、キュルケから『錬金』が、何らかの力で発動できないという話を聞いた。
ケンシロウの頭に閃くものがあった。
念のため、もう一度試してもらったところ、『いつもより調子が悪いが』発動した。
ケンシロウが自分の推論を確信に変えるには十分だった。
そして最後の詰めとして、実際に秘孔の効力を阻害する力が働いているかどうか調べたのである。
今更言うまでも無いが、北斗神拳を極めた者は、体内を巡る気の流れを操作することがを可能である。
当然、体内を気がどのように流れているかは、知り尽くしている。
注意深く妨害する力の源を調べた所、その源流に行き当たり――
その場所こそ、首輪が嵌っている場所だった、というわけである。
「なんてこと……」
ケンシロウの話に、キュルケは顔をしかめた。
「お前の『錬金』の力を、あの爺どもが制限しようという理由は……。言うまでもないな」
そう言ってケンシロウは首輪を指差した。
――首輪の金属を別の金属に変えられ、中身を覗かれることを防ぐため。
キュルケや、その友人達の能力を知っていれば当然の措置であろう。
「そして俺の、おそらくはラオウやジャギ、アミバの秘孔を制限した理由は――」
「『ハンデ』、でしょうね!」
――今から諸君には、殺し合いをしてもらう!
シエスタを殺した老人の顔を思い浮かべながら、嫌悪感を存分に込めてキュルケは吐き捨てた。
「あなたやラオウみたいな強い人間に秘孔まで使わせたら、『殺し合い』にもならずに、
ただの虐殺になっちゃうから……。はっ!! お優しいことだわ!!
私達にも勝てるチャンスがあるから諦めるなとでも言いたいのかしら!?
ご褒美だけでなく、こんな手のこんだことまでするなんて……。
そんなに殺し合いが見たいのかしら? あの糞爺……つくづくいい趣味してるわ!!」
瞳に憎悪の火を燃やしながら、キュルケは杖を握り締めた。
(ハンデ……か)
怒りを滾らせるキュルケとは対照的に、ケンシロウは思考の海に沈んでいた。
(あの爺が、俺達の力をできるだけ互角のものにしようとしているのなら、
あのDIOという男もおそらくは……)
ひょっとすればあの超高速の「技」こそが、DIOの本来の力なのかもしれない。
そうだとすれば、あのDIOという男の操る人形の攻撃が雑だったことにも説明がつく。
あれほどの動きができるなら一瞬で相手を屠ってしまえる。
ゆえに技を磨く必要など、なかったとのだろう。
(だが、解せん……。互角の戦いを望むなら何故、ラオウから記憶を、無想転生を奪った?)
――北斗神拳究極奥義、無想転生。馬鹿な、ケンシロウが身につけているなど……
両眼から走る激痛に混じって聞えたラオウの声。
錯覚かとも思ったが、その後の闘いで、ラオウは夢想転生を使わずにその剛拳を振り回すのみ。
いくらユリアを『殺した』ことで哀しみを知ったとはいえ、ラオウと自分はどちらかが生きている限り戦う宿命。
二人が同時に存在すれば、ラオウか自分のどちらかが倒れる以外に結末は無い。
ケンシロウとラオウが共闘するはずなどないことを、あの爺どもは知っているであろうから、
ラオウの記憶を奪うことにその必然性はないはずなのだが……。
(何故だ?)
ケンシロウは一人、解けない思考の迷宮をさ迷っていた。
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「……便利ねえ」
蛇口を捻って水を止めながら、キュルケは一人ごちた。
この世界の水道はとても便利だ。
軽く頭を振って、部屋からもってきたタオルで顔を拭く。
冷たい水のおかげで、心で荒れ狂っていた激情がなんとかおさまった気がする。
キュルケは、洗面台からみえる廊下の奥――ケンシロウがいる部屋の方を見やった。
おそらくケンシロウはまだ、物思いにふけっているだろう。
(ケンにも色々あるみたいね……)
それでなくても色々考えなきゃいけないことはあるし……。困ったものだわ)
期せずしてため息が漏れた。
首輪によって、『錬金』が制限されていることは分かった。
(逆に考えれば、錬金で首輪の金属を、錬金でなんとかできるってことなんだけど……)
そのためには、錬金を妨害する力を発しているという首輪を何とかする必要がある。
(堂々巡りね……)
小さく舌打ちして、キュルケは歩を進め始めた。
今でもひょっとすれば何とかできるのかもしれないが、
錬金魔法を制限する力が首輪に込められていたことを考えると、とても自分の首輪で試してみる気にはなれない。
(爆発でもされたらたまらないわ)
首輪の表面を撫でながら、キュルケはもう一度ため息をついた。
(それにしても……。ケンのヒコウを制限する力、私の錬金を制限する力……
ひょっとしたら他にも制限されている『力』があるかもしれない。
よくもまあ、こんな小さい首輪にそれだけの力が込められるものね)
――どうやったら、そんな多種多様の力を首輪に封じ込めることができるのか?
(ケンが言ってたことだから間違いないんでしょうけど……)
キュルケは首を捻った。
――万能すぎはしないか?
キュルケは持った杖に目を落とした。
メイジは杖を媒介として、魔法を発動させる。
(この首輪ってひょっとして……)
キュルケの水面を揺らす疑問の波は、なかなか収まる気配を見せなかった。
■
窓から差し込む光でオレンジ色に染まった廊下を歩きながら、
何の気なしに、キュルケは一つのドアを開け放った。
首を突っ込んで中を覗いてみる。
キュルケの顔に笑みが浮かんだ。
(なるほど……。この建物は、この世界の『学校』なのね)
机や椅子の形は違っていても、黒板と教卓だけは、どこの世界も変わらないとみえる。
(学校の授業なんて退屈なだけだったけど……。
こうなってみると、すごく懐かしく思えてくるるから不思議だわ)
妙ちきりんなものばかり作るコルベール教師や、『風』の系統の自慢ばかりするギトーの顔すら、懐かしく思い出される。
続いて心に浮かんできたのは見慣れた二つの顔。
「信じてるわよ、タバサ……。ルイズもね」
――二人ともきっと無事のはずだ。
祈りにもにた思いを抱えながら、キュルケは一つのドアの前に立った。
ケンシロウのいる部屋は目と鼻の先。最後の寄り道とばかりにドアを開け、中を覗く
「ふぅん?」
興味を惹かれたキュルケは部屋の中に足を踏み入れた。
机や椅子の形が、他の教室とは一線を画していた。
ありていに言えば上等で、それまでの教室よりは遥かに居心地がよさそうである。
無論、にこの教室が『職員室』と呼ばれていることなど、そして先ほどまでいた部屋が『保健室』と呼ばれていることも、
キュルケが知るわけもない。
とその時、キュルケの目が、あるものを捕えた。
「宝……石?」
薄暗い部屋の中で、何かが赤く光っている。
近寄ってよく見てみると、それは台座らしきものに埋め込まれているようだった。
「調度品にしては、芸術性に乏しいわね?」
じろじろと宝石らしきものが埋まったそれを見ながら、キュルケは首をかしげた。
無論、光っているのが留守番電話の赤ランプであり、
キュルケの見ているそれは、宝石を埋め込んだ調度品ではなく電話機であることを
キュルケが知るわけもない。
何の気なしにキュルケは手を伸ばし、赤い宝石に触れた。
台座から取れないか、試してみる。
意図せずしてキュルケの指がボタンを押し込んだ。
<録音は、一件です>
不気味な声が静まりかえった教室に響きわたり、キュルケは思わず後ろに跳びすさった。
震えるキュルケの目の前で、台座から変な音がし、男の声が響き始めた。
「今から話すことを真面目に、かつ冷静に聞いて欲しい。
俺の名は―――すまない、言うことは出来ない。 だが、信じて欲しい――」
【C-4 学校。一日目 夕方】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:カズマのシェルブリット一発分のダメージ有り(痩せ我慢は必要だが、行動制限は無い)全身各所に打撲傷
キング・クリムゾンにより肩に裂傷 両目損失。吐き気はほぼ、おさまりました(気合で我慢できる程度)
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3、本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。
1:放送まで休んで、その後病院に向かって神楽と合流する。
2:アミバを捜索、事と次第によれば殺害。
3:ジャギ・ラオウ・勇次郎他ゲームに乗った参加者を倒す。
4:助けられる人はできるだけ助ける。
5:乗ってない人間に独歩・ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎の情報を伝える。
[備考]
※参戦時期はラオウとの最終戦後です。
※ラオウ・勇次郎・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました 。
※秘孔の制限に気付きました。
※ラオウが無想天性使えないことに気付きました(ラオウの記憶が操作されていると思っています)
【キュルケ@ゼロの使い魔】
[状態]後頭部打撲(治療済) 貧血気味 マントが破られている
魔法に使いすぎによる精神の消耗(回復基調にはある)
[装備]タバサの杖@ゼロの使い魔
[道具]支給品一式
[思考・状況]
基本:学院に三人で帰る、殺し合いには乗ってない人を守る、乗っている人は倒す
1:放送まで休んで、その後病院に向かって神楽と合流する。
2:タバサ、ルイズと合流する。
3:サイトを殺した人物が乗っていた場合容赦はしない。
4:帰る方法を考える。
[備考]
※軽い頭痛。
※ラオウ・勇次郎・DIO・ケンシロウの全開バトルをその目で見ました
※ケンシロウに惹かれています。
<二人の首輪についての考察と知識>
※首輪から出ている力によって秘孔や錬金が制限されていることに気付きました。
ケンシロウは首輪の内部に力を発生させる装置が搭載されていると思っていますが、
キュルケは媒介にすぎない可能性があると思っています。
<二人のDIOの能力について>
※瞬間的に普段の数百倍の速度で動く能力だと思っています(サイボーグ009の加速装置のイメージ)
[[前編>気付かないのはお約束]]
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|149:[[大乱戦]]|キュルケ|184:[[風前の灯火]]|
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