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二つの零、二つの魂」(2008/11/17 (月) 19:28:00) の最新版変更点

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**二つの零、二つの魂 ◆TJ9qoWuqvA  鈴虫の音が、薄暗い林に響く。  雑草が猥雑に生え並ぶ、一本の木の下に一人の少女がいた。  背中まで届く桃色のブロンドを後ろに流し、同じ色の整った眉の下には気の強そうな鳶色の瞳があった。  白いブラウスに包まれた小柄の身体に黒いマントを羽織っている。  彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。  異世界の貴族であり、メイジ。普通の世界では魔法使いにあたる。  彼女は薄暗い林の中、憤っていた。 (なによ! 殺し合えだなんて、何様のつもりよ!!)  老人は、自分たちに殺しあえと、確かに言っていた。  貴族である自分に、そしてその使い魔である才人に。  怒りで頭が沸騰するが、シエスタの首が吹き飛ぶ様を思い出し、風船がしぼむように気持ちも萎えていった。 (サイト、シエスタが死んだところを近くで見ていた。やっぱり悲しんでいるかな?)  当然である。二人は親しいのだ。  ルイズが才人のご飯を抜けば、必ず彼女の元へ行き、食事をもらっていた。  悔しいことに、才人がシエスタを押し倒していたこともある。  普段なら腹を立てるような思い出にも、さすがに死人を悪く思えず、感傷的になる。 (なら、早くサイトと合流しなくちゃ。もちろん、ご主人様として使い魔を心配するのが義務だからそうしているだけ! けっして、落ち込んでいるサイトを慰めようとか考えてないんだから!)  心の中でさえ素直になれず、ルイズはそばにあったデイバックを掴むと林を進む。  ふと、杖がないことに気づき、デイバックの中身を確かめる。  食料や地図、名簿などが入っており、他には一枚の紙が入っていた。  紙には数種類の言語が書いてあり、彼女の国の文字もそこに書かれていた。 「なによ? これ? 軍……刀?」  不思議に思いながらも、ルイズが紙を開くと、中から一本の反りの入った刀が現れた。  いきなりの事態に頭が混乱する。他にも似たよう中身がないか探すが、まったく見当たらない。  ため息をつくと、枝を踏む音に振り返る。 「だ……だれ!!?」  震える手で抜き身の刀を構えると、黒い学生服を着た、巌のような身体を持つ男が立っていた。 「待ってくれ! 俺は殺し合いに乗っていない!」 「信用できるわけないじゃない!」  叫び、顔を見つめる。たくましい身体を持つわりに、黒い長髪の下の顔は幼く、ルイズと同じか年下に見えた。  男は無言でデイバックをルイズに向かって投げ捨てた。  ルイズは怪訝な表情を向ける。 「俺の支給品を確認してくれ。決して、殺し合いに乗れるような物じゃないから」  刀を向けたまま、警戒して相手のデイバックを確認する。  中身はルイズの物と同じく食料や地図、名簿が見えた。紙は開いたらしく、一つルイズのデイバックにはない荷物があった。 「なに? これ?」  四角い箱に、彼女の読めない日本語でこう書かれていた。『超光戦士シャンゼリオン DVDBOX』と。  ルイズは暗い林を歩き、先を軍刀を持って歩く、杉村と自己紹介した少年に話しかける。 「ようするに、DVDプレイヤーというのがあれば中身を見れるってこと?」 「ああ。けど中身は期待しない方がいいよ。まあ、七原の奴がいたら喜びそうだけど」 「いったいどんな内容なのよ?」  尋ねるルイズに、杉村は苦笑しか浮かべなかった。  その様子に苛立ち、つい語気が強くなってしまう。 「なによ! そんなに危ない内容なの!?」 「いや、単に正義の味方が変身して悪を倒すって言う、子供向けのヒーロー番組だ。多分……」 「変身ヒーロー? なにそれ?」 「女子が聞いても興味ないと思う。うん」  そういいながら、杉村が照れた様子で頬をかいている。 「それにしても、いきなりプログラムに巻き込まれるなんて、思ってもみなかった」 「プログラム?」  ルイズが怪訝な声を上げると、杉村はそっかと呟き、ルイズの桃色のブロンドに視線を向ける。 「ルイズは外国人だから知らないだろうけど、大東亜共和国にはプログラムなんていうのがある。 全国の中学三年生のクラスから無差別に選んで、殺し合わせるって、最悪な法が。 今回は特例か何か知らないけど、他の学校の人間や大人も混じっている。プログラム自体、なにか変化があったかもしれない」  杉村は奥歯を噛み締め、悔しそうに唸っている。  しかし、頭には疑問が浮かんでいた。 (中学? 意味が分からない。大東亜共和国? どこの田舎の国よ)  ルイズは聞いたことの無い単語に考え込む。その様子を見て杉村は落ち込んでいると勘違いする。 「大丈夫だ! 俺の仲間もいるし、力を合わせれば脱出できる。 三村って俺の仲間がいるんだが、奴は何でもできる。運動も、パソコンも。 このゲームを脱出できる案なんかすぐ浮かぶから、そんなに落ち込まないでくれ」  最初は慌てて話していたが、徐々に冷静になり、仲間と希望を語った。  その黒の瞳と髪に彼女の使い魔を思い出し、杉村が話した仲間の話と相まって、急に胸が切なくなる。 「サイト、逢いたい……」  思わず呟いてしまった言葉に、杉村は呆けた表情でルイズを見つめていた。  だがそれも一瞬、すぐに決意で固めた表情でルイズに向き直す。 「俺が絶対、ルイズとそのサイトって奴を逢わすよ。そこに……」  杉村が何かを思い出すように言葉を一旦区切った。  風が吹きぬけ、二人の長髪を宙に舞わせる。 「そこに、『俺の正義』があるから」  木の葉が舞い、木々が静かにざわめく。  虫の音が、静かさを強調するように鳴り続ける。  余りの反応の無さに照れくさくなったのか、杉村は頭をかく。 「……とある奴の受け売りだけど」 「調子狂うわね。大体サイトと合流するなんて当たり前よ。死ぬ気はまったく無いわ!」 「ああ、その意気だ」  ルイズが元気を取り戻したように見えたのだろう。  杉村は笑顔を浮かべて、歩みを再会する。  前が暗くて見えないので、足元を気をつけるようにと言う彼に、分かっていると強い口調で返した。 □  杉村は暗い夜道を、慎重に歩くルイズの様子を見守る。  小柄な彼女に、最初は想い人の琴弾を思い出していたが、気の強さは自分の幼馴染、千草といい勝負だ。  もしも二人がプログラムに巻き込まれたらと思うと、ゾッとした。  彼女の知り合い、――恋人だろうか?――のサイトという人物も、同じ思いをしているだろう。  二人を無事再会させる事を、改めて誓う。  誰かを殴るのは嫌いだが、ルイズを守るためなら迷わず拳を振るえる気がした。  これが、先程も言った、七原の『そこに正義があるから』なのだろうか?  そんな事を考えていると、さっきまで鳴り響いていた虫の音が聞こえないことに気づいた。  不思議に思うと、異様な気配が自分たちの進む先から感じられた。  少林寺拳法を学んだ杉村は、その異様さに驚く。  街のチンピラに相対したときとは比べ物にならないほどの殺気。  振り向くと、ルイズは顔を青ざめ、身体を震わせていた。 「下がっていてくれ」  そう言い、軍刀を強く握り締める。  杉村は軍刀を扱ったことは無い。だが、痛いほど握り締めなければ、恐怖で体が震えてしまうのだ。  やがて、一人の男の姿が見えた。  黒いコートを着用し、リーゼントの黒髪の下の瞳は黒いサングラスで見えないが、威圧感で溢れていた。 「……ガキか」 「あんたはゲームに乗っているのか?」 「そいつを構えているってなら、分かっているだろ?」  杉村が、一縷の望みをかけた問いかけは最悪の答えとして返ってきた。  目の前の男のみに集中する。こいつはここで倒さねばならない、と本能が告げていた。 「ルイズ、俺が食い止めているから逃げるんだ!」 「何を言っているのよ!」 「いいから行け!!」  雄たけびながら刀を裏返して、峰で殴りつける。  男は無造作に腕で止めた。 「弱いくせに刃向かうか。所詮はか弱き人間だな」  呟きながら、粒子が男から上がるのが見えた。  それも一瞬のこと、粒子の晴れた先には大砲を背負った、金色の人型のトラが顕在していた。 「フン」  トラの怪人が無造作に腕を振るうと、凄まじい力に身体を宙に舞わされ、木に叩きつけられる。  咳き込みながら、まだその場に留まっているルイズに顔を向けた。 「早く……逃げろ!!」 「で、でも……」 「俺を嘘吐きにさせないでくれ! 俺は七原の言葉に誓ったんだ! 君と、才人を再会させると!! だから今は逃げてくれ! 必ず追いつく!!」 「……絶対、生きて切り抜けないさいよ!!」  ルイズの言葉に、ああ、と一言返す。  後ろ髪を引かれる思いだろうルイズが遠ざかるのが気配で分かる。  それを追おうとしている怪人に、軍刀を向けた。 「行かせはしない」 「その弱さで何ができる。世の中は弱肉強食だ。お前も、あの女も俺に殺される」 「そうはさせるか!?」  瞬間、杉村は跳躍し、上段から刀を振り下ろす。  怪人が難なく受け止める。だが杉村はこれを予想していた。  刀を手放し、無手となる。深く、静かな呼吸音とともに、地面を踏み砕き、掌で重い衝撃を怪人の腹に与える。  衝撃で怪人の身体にダメージを与え、身体を浮かせ…… 「ぬるいな」  無かった。  怪人の腰に装着された機関銃が杉村を向き、銃弾を吐き出す。  衝撃が身体中を貫いていく。鉛の重さが加わり、刀が落ちると同時に杉村は崩れ落ちた。  おびただしい量の血が、学生服を赤く染めていく。  怪人はルイズを追おうと自分を踏みつけて歩いていった。 (俺はこのまま死ぬのか? 誰も救えずに……)  無念を抱え、徐々に瞼が閉じていく。  彼の短い人生が閉じようとし、走馬灯が駆け巡る。  ――ホントッ、あんたってガキねっ!!  幼馴染の罵倒が、耳に蘇った。  しかし、不思議に力が沸いてくる。 (そうだ、約束の一つも……食い止めるということもできないなんて、まるで子供じゃないか!)  決意を上乗せして、震える脚を無理矢理立たせる。  怪人の足が止まった。 「立ち上がったところで何もできないだろうに」 「そいつは、やってみなくちゃ分からないだろ?」  掴んだ刀の、刃を怪人に向ける。  杉村は自分の弱点を理解している。それは、相手を殴るときに躊躇してしまうことだ。  だが、今はそうも言っていられない。  相手が怪人であることもあるが、このまま通せばルイズだけではない、自分の仲間の三村や、他の無力な人間を殺していくだろう。 (勝てるとは思っていない。だけど一秒でもここに留めておかないと!)  少しでも犠牲を減らせるならと、刀を横薙ぎに振るう。  軽々と避けられるが、それでも諦めず、数度振るう。 「そろそろ満足しただろう?」  獣の形をした口元を動かし、怪人は再度機関銃を放つ。  杉村の全身を銃弾がズタズタに切り裂き、ぼろきれのように血の池へと再び倒れた。  ジャリ、と怪人が近付いてくる。自分を見下す瞳は醒めていた。  所詮は人間、そう考えているだろうと思うと、腹が立ってしょうがなかった。  だが、怒りだけでは身体は動かない。  冷たい土の感触を頬に受け、視界が暗くなってくる。  ――そこに正義はあるのかっ!!  突然、七原の、口癖のような言葉を思い出す。 (そうだよ、七原。正義はあるから、少しだけ踏ん張ってみるよ)  先程まで脱力して、まったく動かなかった身体が軽い。  身体を跳ね上げ、怪人の左腕に刀を突き刺す。  血が赤いことに意外に思う。  怪人が自分を吹き飛ばし、距離が開いた。 「やせ我慢か。反吐が出るぜ」  背中の大筒がエネルギーを溜めているのが見える。杉村の身体はもう動かない。 「お前を吹き飛ばして、あの女も殺してやる。一足先にあの世で悔しがっていな。ナルシストの偽善者」  怪人は四つんばいになり、反動に備えている。  巨大なエネルギーが身体を焼きながら襲ってくる。 「七原……」  呟きを呑み込み、爆発が木々を吹き飛ばし、轟音を立てて地面を揺るがした。 □  中程度の背丈を鋼の肉体と、白い学生服に包み、短く刈っている髪の下、眼鏡の奥に意志の強い眼差しを持つ少年、葉隠覚悟は、デイバックの前に正座をしていた。  目を瞑り、先程の出来事、少女の死による怒りを治めていたのだ。 (敵を憎んではならぬ。憎むべきは、敵を恐れる己の心)  零式防衛術、それは葉隠一族に伝わる、牙無き人を守る剣。  この殺し合いの中に殺されてしまった哀れな少女のように、牙を持たぬ人はいるだろう。  その善良な人間を、この殺し合いに乗った悪鬼は見逃しはしない。  ならばと、覚悟は瞳を開く。 (俺はこの殺し合いでも、人々を守る剣となろう)  人を守り、この殺し合いより脱出する。  もとより、覚悟はその信念を曲げる気など無かった。  立ち上がり、デイバックを手に取る。  いつも彼の傍にあった、強化外骨格「零」はない。  しかし、「零」は悪に手を貸すような強化外骨格ではないので、他人の手に渡るのは問題ない。  自分も零式防衛術を持つゆえ、武器は要らない。  支給品を確認しているのは、危険な物を破壊する為だ。  紙を一枚取り出す。「滝のライダースーツ」と、一筆書かれていた。  他には特別なものは入っていない。紙を開くと、ライダースーツ一式が具現化された。 「こ、これは……」  現れたのは、黒の上下のライダースーツに、黒のグローブとブーツ、黒のマフラーにヘルメット。  ヘルメットには髑髏の顔が描かれており、見る人間が見れば不気味に感じただろう。  しかし、覚悟はそのスーツに、熱い何かを感じた。  武器になりそうなのは、脚に仕込まれたスタンガンのみ。  強化外骨格とは比べ物にならないほど、貧弱な装備だ。  それでも、覚悟は英霊の宿った強化外骨格に匹敵する「魂」を感じた。  背筋を伸ばし、スーツに向かって敬礼をする。 (このスーツの持ち主、滝という御方。今しばらく、あなたの力を俺に貸してください)  少し時間を置き、ライダースーツを身に纏う。  身体が、大いなる正義に守られているような気がして、覚悟はさらに決意を強くした。  だが、無常にも爆発音が響く。  耳に入ると同時に、覚悟は現場へと勢いよく駆けて行った。  木々を次々と避けていき、やがて爆発の中心地と思わしき場所へとたどり着く。  焼け焦げた跡が百メートルくらい円形で広がっており、折れて半分から五分の一程度の大きさになった木が燃え続けている。  死を顕在したような大地を進むと、下半身が吹き飛ばされ、黒焦げになっている少年を見つける。 「……だ、誰か……きたの……か?」  驚いたことに、まだ生きているらしい。  だが、長くは持たないだろう。 「ああ、安心するんだ。俺は危害を加えるつもりはない」  傍により、優しく声をかける。  その様子に安堵したのか、少年はさらに語り続けた。 「ゲームに、乗って……いない……なら、この先にルイズって……女の子が……怪人に狙われて……いる。 頼む、助けて……やってくれ……」 「承知!!」  覚悟は、少年が指を指す方向へ脚を向ける。  少年を弔うのは、少女を助けてから。悔しいが、そうせざるを得ない。 「待って……くれ。俺の刀……を持ってい……ってくれ」  震える腕で、半ばから折れた刀を覚悟に差し出す。  武器としての機能は落ちている。使い物になるかは微妙だ。  だが、覚悟は感謝を込めて刀を受け取った。 「ありがたく、使わせてもらう」 「……七原、そこに……正義はあった……よ」  それっきり、少年は沈黙した。  敬礼する暇も惜しみ、覚悟は疾風となる。  少年の魂を乗せた軍刀を握りなおす。  戦いは、近かった。 □  タイガーロイドは駆ける。  木々を避け、女の足に追いつくのはたやすい。  風を切り裂き、タイガーロイドは苛立つ。  刀程度に自らの身体が傷ついたのが不思議でならない。  おまけに、銃弾の補充が遅い。いつもなら数秒でに補充が完了するが、いまだに一発も精製できていない。  さらに、背中の大砲の威力が下がっている。一度も使ったことは無かったが、聞いていたスペックを大幅に下回っていた。  バダンの技術者がスペックを間違えるなど、あり得ない。なら考えられることは一つ。  あの老人が細工をしたらしい。 (こざかしい)  ギリッと、歯を噛み鳴らす。  タイガーロイドは最後の一人に興味は無い。  村雨と合流してあの老人を殺し、バダンへと戻りガモン共和国へと向かい直したいのだ。  自分が嫌いなタイプの人間、滝和也に煮え湯を飲ませねばならない。  その次は、仮面ライダーの始末だ。強者が支配する、彼にとっての理想を創るために。  桃色のロングの髪を見つけるが、何の感慨も浮かばない。  強者が弱者を殺すのは当然の摂理。殺人に対しての罪悪感など、とうの昔に捨てた。  冷静に腰の機関銃を、少女に向ける。  自ら放つ、火薬の匂いをトラの鼻が感知した。 □  ルイズが逃げている途中、後ろから爆発音が響いた。  少しだけ振り返り、走るのを再開する。  その瞳には、少しだけ涙が滲んでいた。 (スギムラ、あんた絶対生きて切り抜けなさいって、言ったのに!)  ルイズは杉村の死を分かってしまった。  あの爆発は、自分が逃げてきた場所だ。  トラの獣人の背中に大砲があったことは覚えている。  もう、杉村は助からない。当然の答えだった。  自分の無力さに歯噛みする。 (せめて杖があれば、あの場に留まってスギムラを援護できたのに!)  もっとも、それは願望に過ぎない。  自分はゼロのルイズ。まともなメイジを夢見るほど、メイジとしては出来損ないの落ちこぼれ。  あの場で杖を持っていたとしても、死体がもう一つ増えるだけだ。  それが、余計に悔しかった。  雑草を掻き分ける音に振り返る。  トラの獣人が、腰の筒をこちらに向けている。  火が、筒より発射された。 「キャッ!!」  右足が焼けるように痛む。二つの傷口から、血が流れていた。  トラの獣人がにじり寄る。  ルイズは恐怖で歯がカチカチと鳴った。 「サイト……助けて!」 「助けを求めるか。キサマもあの男と同じだな。他者に助けを求める、弱きものだ」 「スギムラが、助けを求めた……?」  自分を助けるため、身体を張った杉村が命乞いをしたなど信じられず、つい問いかけてしまう。 「あの男は最後に呟いたのは、七原とか言う名前だ」  その言葉に、ルイズは思い出す。  正義を口癖に持つ、杉村の親友。つまり、杉村は最後まで自分の正義を貫こうとしたのだ。  トラの獣人の瞳には、絶対零度の瞳があった。  杉村の死を軽んじる獣人に怒りが沸いてくる。 「…………ざけないでよ」 「ん?」 「ふざけないでよって、言ってんのよ!!」  怒声が、暗い林で獣人に向けられた。  元気を取り戻したルイズに、トラの獣人は不機嫌な表情を見せている。 「スギムラが助けを求めた? ふざけないでよ!! あいつはね、平民だけどサイト並みに勇気があって、わたしを守るって事を最後まで貫いただけなんだから! あんたみたいな化け物に、そんなスギムラを蔑ませなんかさせないっ!!」 「なら、どうするんだ?」 「わたしがあんたを倒す! スギムラを馬鹿にしたこと、百回謝らせてやるんだから!!」  ルイズは木に手をかけ、身体を無理矢理立たせる。  ひたすらにトラの獣人を睨み続けた。 「わたしは伝説の使い魔ガンダールヴの主人にして『ゼロのルイズ』!! この二つ名にかけて、メイジとして、貴族としてあんたの悪行を許さない!!」  本来なら不名誉で、自らが口にもしたくないその二つ名をかけて立ち上がる。  このトラの獣人は、杉村を馬鹿にした。  たとえ一緒に行動した時間は短くても、助けてもらったのは確かだ。  だから、彼の行為が無駄でない事を示すため、最後までこいつに恐怖をしないと決めた。  抵抗して、弱者である自分が刃向かってみせる。 (スギムラ。わたしにも、正義はあったよ)  ルイズは死を覚悟している。  一矢も報いれないことに、歯噛みをするが、せめて心だけは負けないよう、瞳はトラの獣人から逸らさない。  無言で、不機嫌な瞳を向けたトラの獣人が、背中の大砲を向けた。  エネルギーが収束されていく。見覚えの無い光だが、どうなるかは簡単に想像できた。 (サイト、元の世界に戻せなくて、ゴメンね)  自分の使い魔……いや、想い人に心の中で謝り、死の光を待つ。  暗い林道が照らされ、草一本すらも視認できるくらい明るくなる。  身体に痛みが走っても、目を瞑らないと気合を入れた。  その時―――― 「零式積極重爆蹴!!」  二つの零が、交差した。 □  トラの怪人は、大砲の充填を中断し、木に叩きつけられていく。  その様子を確かめ、覚悟は少女に顔を向けた。 「無事か?」  優しい声色で、髑髏の模様が施されたヘルメットのバイザーを上げた覚悟は、桃色の髪の少女に話しかけた。 「その刀……」  ルイズであろう少女は、自らの右手にある折れた刀を見つめている。 「少年から、君を守るように頼まれた」 「じゃあ、スギムラは……」 「殉死した」 「殉死って……なにを信じてスギムラは死んだって言うのよ!」 「己が男に殉じたのだ!」  ルイズは、涙をためた瞳を自分に向けた。  杉村という少年の魂を込めた刀を、覚悟が敵に構える。 「その魂、俺が絶やさん。だから、安心してくれ」  簡潔に言うと、その場を離れトラの怪人の前に立つ。  トラの怪人は苛立ちの表情を浮かべた。 「滝のライダースーツ……その言葉……お前も滝や仮面ライダーと同類か」 「志を同じくする、同志だ!!」 「チッ、その甘さ、本当に反吐が出る。お前たちは、偽善者のナルシストだ。 世の中を生き抜くのは強者のみでいいんだよ!」 「その認識、宣戦布告と判断する!」  言い放ち、覚悟はヘルメットのバイザーを下げる。  髑髏の瞳の部分の、二つの穴からまっすぐに正義と信念を込めた瞳をトラの怪人に向けた。  覚悟は、その体躯に滝の魂を込める。 「当方に迎撃の用意あり!!」  続けて、刀を傍に突き刺し、零式防衛術の構えをとる。  刀から、杉村の魂を拳に込める。  二つの魂を込め、覚悟は雄雄しく叫ぶ。 「覚悟完了!!!」 【杉村弘樹@BATTLE ROYALE:死亡確認】 【残り59人】 【H-3、林道/1日目・深夜】 【葉隠覚悟@覚悟のススメ】 [状態]:健康 [装備]:滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS。折れた軍刀@現実。 [道具]:支給品一式。 [思考] 基本:牙無き人の剣となる。 1:目の前の悪鬼を倒す。 2:ルイズを守り、杉村を弔う。 【H-3、林道/1日目・深夜】 【三影英介@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:左腕に刺し傷。腰の機関銃弾数中消費。背中の大砲(2/3) [装備]:なし。 [道具]:支給品一式。未確認支給品1~3個。 [思考] 基本:村雨以外は皆殺し。 1:目の前の偽善者を殺す。 2:村雨と合流、このゲームから脱出する。 ※三影は制限により、弾の精製が極端に遅くなっています。  弾数が尽きた状態から、完全補充まで数時間かかります。 【H-3、林道/1日目・深夜】 【ルイズ@ゼロの使い魔】 [状態]:右足に銃創。中程度疲労。杉村の死によりショック状態。 [装備]:なし。 [道具]:支給品一式。超光戦士シャンゼリオン DVDBOX@ハヤテのごとく? [思考] 1:目の前の戦いを見守る。 2:スギムラを弔いたい。 3:サイトと合流。 |004:[[無題]]|[[投下順>第000話~第050話]]|006:[[殺人鬼の日々の過ごし方inロワイアル]]| |004:[[無題]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|006:[[殺人鬼の日々の過ごし方inロワイアル]]| |000:[[オープニング]]|葉隠覚悟|030:[[A forbidden battlefield]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|三影英介|030:[[A forbidden battlefield]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|ルイズ|030:[[A forbidden battlefield]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|&color(red){杉村弘樹}|&color(red){死亡}| ----
**二つの零、二つの魂 ◆TJ9qoWuqvA  鈴虫の音が、薄暗い林に響く。  雑草が猥雑に生え並ぶ、一本の木の下に一人の少女がいた。  背中まで届く桃色のブロンドを後ろに流し、同じ色の整った眉の下には気の強そうな鳶色の瞳があった。  白いブラウスに包まれた小柄の身体に黒いマントを羽織っている。  彼女の名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。  異世界の貴族であり、メイジ。普通の世界では魔法使いにあたる。  彼女は薄暗い林の中、憤っていた。 (なによ! 殺し合えだなんて、何様のつもりよ!!)  老人は、自分たちに殺しあえと、確かに言っていた。  貴族である自分に、そしてその使い魔である才人に。  怒りで頭が沸騰するが、シエスタの首が吹き飛ぶ様を思い出し、風船がしぼむように気持ちも萎えていった。 (サイト、シエスタが死んだところを近くで見ていた。やっぱり悲しんでいるかな?)  当然である。二人は親しいのだ。  ルイズが才人のご飯を抜けば、必ず彼女の元へ行き、食事をもらっていた。  悔しいことに、才人がシエスタを押し倒していたこともある。  普段なら腹を立てるような思い出にも、さすがに死人を悪く思えず、感傷的になる。 (なら、早くサイトと合流しなくちゃ。もちろん、ご主人様として使い魔を心配するのが義務だからそうしているだけ! けっして、落ち込んでいるサイトを慰めようとか考えてないんだから!)  心の中でさえ素直になれず、ルイズはそばにあったデイバックを掴むと林を進む。  ふと、杖がないことに気づき、デイバックの中身を確かめる。  食料や地図、名簿などが入っており、他には一枚の紙が入っていた。  紙には数種類の言語が書いてあり、彼女の国の文字もそこに書かれていた。 「なによ? これ? 軍……刀?」  不思議に思いながらも、ルイズが紙を開くと、中から一本の反りの入った刀が現れた。  いきなりの事態に頭が混乱する。他にも似たよう中身がないか探すが、まったく見当たらない。  ため息をつくと、枝を踏む音に振り返る。 「だ……だれ!!?」  震える手で抜き身の刀を構えると、黒い学生服を着た、巌のような身体を持つ男が立っていた。 「待ってくれ! 俺は殺し合いに乗っていない!」 「信用できるわけないじゃない!」  叫び、顔を見つめる。たくましい身体を持つわりに、黒い長髪の下の顔は幼く、ルイズと同じか年下に見えた。  男は無言でデイバックをルイズに向かって投げ捨てた。  ルイズは怪訝な表情を向ける。 「俺の支給品を確認してくれ。決して、殺し合いに乗れるような物じゃないから」  刀を向けたまま、警戒して相手のデイバックを確認する。  中身はルイズの物と同じく食料や地図、名簿が見えた。紙は開いたらしく、一つルイズのデイバックにはない荷物があった。 「なに? これ?」  四角い箱に、彼女の読めない日本語でこう書かれていた。『超光戦士シャンゼリオン DVDBOX』と。  ルイズは暗い林を歩き、先を軍刀を持って歩く、杉村と自己紹介した少年に話しかける。 「ようするに、DVDプレイヤーというのがあれば中身を見れるってこと?」 「ああ。けど中身は期待しない方がいいよ。まあ、七原の奴がいたら喜びそうだけど」 「いったいどんな内容なのよ?」  尋ねるルイズに、杉村は苦笑しか浮かべなかった。  その様子に苛立ち、つい語気が強くなってしまう。 「なによ! そんなに危ない内容なの!?」 「いや、単に正義の味方が変身して悪を倒すって言う、子供向けのヒーロー番組だ。多分……」 「変身ヒーロー? なにそれ?」 「女子が聞いても興味ないと思う。うん」  そういいながら、杉村が照れた様子で頬をかいている。 「それにしても、いきなりプログラムに巻き込まれるなんて、思ってもみなかった」 「プログラム?」  ルイズが怪訝な声を上げると、杉村はそっかと呟き、ルイズの桃色のブロンドに視線を向ける。 「ルイズは外国人だから知らないだろうけど、大東亜共和国にはプログラムなんていうのがある。 全国の中学三年生のクラスから無差別に選んで、殺し合わせるって、最悪な法が。 今回は特例か何か知らないけど、他の学校の人間や大人も混じっている。プログラム自体、なにか変化があったかもしれない」  杉村は奥歯を噛み締め、悔しそうに唸っている。  しかし、頭には疑問が浮かんでいた。 (中学? 意味が分からない。大東亜共和国? どこの田舎の国よ)  ルイズは聞いたことの無い単語に考え込む。その様子を見て杉村は落ち込んでいると勘違いする。 「大丈夫だ! 俺の仲間もいるし、力を合わせれば脱出できる。 三村って俺の仲間がいるんだが、奴は何でもできる。運動も、パソコンも。 このゲームを脱出できる案なんかすぐ浮かぶから、そんなに落ち込まないでくれ」  最初は慌てて話していたが、徐々に冷静になり、仲間と希望を語った。  その黒の瞳と髪に彼女の使い魔を思い出し、杉村が話した仲間の話と相まって、急に胸が切なくなる。 「サイト、逢いたい……」  思わず呟いてしまった言葉に、杉村は呆けた表情でルイズを見つめていた。  だがそれも一瞬、すぐに決意で固めた表情でルイズに向き直す。 「俺が絶対、ルイズとそのサイトって奴を逢わすよ。そこに……」  杉村が何かを思い出すように言葉を一旦区切った。  風が吹きぬけ、二人の長髪を宙に舞わせる。 「そこに、『俺の正義』があるから」  木の葉が舞い、木々が静かにざわめく。  虫の音が、静かさを強調するように鳴り続ける。  余りの反応の無さに照れくさくなったのか、杉村は頭をかく。 「……とある奴の受け売りだけど」 「調子狂うわね。大体サイトと合流するなんて当たり前よ。死ぬ気はまったく無いわ!」 「ああ、その意気だ」  ルイズが元気を取り戻したように見えたのだろう。  杉村は笑顔を浮かべて、歩みを再会する。  前が暗くて見えないので、足元を気をつけるようにと言う彼に、分かっていると強い口調で返した。 □  杉村は暗い夜道を、慎重に歩くルイズの様子を見守る。  小柄な彼女に、最初は想い人の琴弾を思い出していたが、気の強さは自分の幼馴染、千草といい勝負だ。  もしも二人がプログラムに巻き込まれたらと思うと、ゾッとした。  彼女の知り合い、――恋人だろうか?――のサイトという人物も、同じ思いをしているだろう。  二人を無事再会させる事を、改めて誓う。  誰かを殴るのは嫌いだが、ルイズを守るためなら迷わず拳を振るえる気がした。  これが、先程も言った、七原の『そこに正義があるから』なのだろうか?  そんな事を考えていると、さっきまで鳴り響いていた虫の音が聞こえないことに気づいた。  不思議に思うと、異様な気配が自分たちの進む先から感じられた。  少林寺拳法を学んだ杉村は、その異様さに驚く。  街のチンピラに相対したときとは比べ物にならないほどの殺気。  振り向くと、ルイズは顔を青ざめ、身体を震わせていた。 「下がっていてくれ」  そう言い、軍刀を強く握り締める。  杉村は軍刀を扱ったことは無い。だが、痛いほど握り締めなければ、恐怖で体が震えてしまうのだ。  やがて、一人の男の姿が見えた。  黒いコートを着用し、リーゼントの黒髪の下の瞳は黒いサングラスで見えないが、威圧感で溢れていた。 「……ガキか」 「あんたはゲームに乗っているのか?」 「そいつを構えているってなら、分かっているだろ?」  杉村が、一縷の望みをかけた問いかけは最悪の答えとして返ってきた。  目の前の男のみに集中する。こいつはここで倒さねばならない、と本能が告げていた。 「ルイズ、俺が食い止めているから逃げるんだ!」 「何を言っているのよ!」 「いいから行け!!」  雄たけびながら刀を裏返して、峰で殴りつける。  男は無造作に腕で止めた。 「弱いくせに刃向かうか。所詮はか弱き人間だな」  呟きながら、粒子が男から上がるのが見えた。  それも一瞬のこと、粒子の晴れた先には大砲を背負った、金色の人型のトラが顕在していた。 「フン」  トラの怪人が無造作に腕を振るうと、凄まじい力に身体を宙に舞わされ、木に叩きつけられる。  咳き込みながら、まだその場に留まっているルイズに顔を向けた。 「早く……逃げろ!!」 「で、でも……」 「俺を嘘吐きにさせないでくれ! 俺は七原の言葉に誓ったんだ! 君と、才人を再会させると!! だから今は逃げてくれ! 必ず追いつく!!」 「……絶対、生きて切り抜けないさいよ!!」  ルイズの言葉に、ああ、と一言返す。  後ろ髪を引かれる思いだろうルイズが遠ざかるのが気配で分かる。  それを追おうとしている怪人に、軍刀を向けた。 「行かせはしない」 「その弱さで何ができる。世の中は弱肉強食だ。お前も、あの女も俺に殺される」 「そうはさせるか!?」  瞬間、杉村は跳躍し、上段から刀を振り下ろす。  怪人が難なく受け止める。だが杉村はこれを予想していた。  刀を手放し、無手となる。深く、静かな呼吸音とともに、地面を踏み砕き、掌で重い衝撃を怪人の腹に与える。  衝撃で怪人の身体にダメージを与え、身体を浮かせ…… 「ぬるいな」  無かった。  怪人の腰に装着された機関銃が杉村を向き、銃弾を吐き出す。  衝撃が身体中を貫いていく。鉛の重さが加わり、刀が落ちると同時に杉村は崩れ落ちた。  おびただしい量の血が、学生服を赤く染めていく。  怪人はルイズを追おうと自分を踏みつけて歩いていった。 (俺はこのまま死ぬのか? 誰も救えずに……)  無念を抱え、徐々に瞼が閉じていく。  彼の短い人生が閉じようとし、走馬灯が駆け巡る。  ――ホントッ、あんたってガキねっ!!  幼馴染の罵倒が、耳に蘇った。  しかし、不思議に力が沸いてくる。 (そうだ、約束の一つも……食い止めるということもできないなんて、まるで子供じゃないか!)  決意を上乗せして、震える脚を無理矢理立たせる。  怪人の足が止まった。 「立ち上がったところで何もできないだろうに」 「そいつは、やってみなくちゃ分からないだろ?」  掴んだ刀の、刃を怪人に向ける。  杉村は自分の弱点を理解している。それは、相手を殴るときに躊躇してしまうことだ。  だが、今はそうも言っていられない。  相手が怪人であることもあるが、このまま通せばルイズだけではない、自分の仲間の三村や、他の無力な人間を殺していくだろう。 (勝てるとは思っていない。だけど一秒でもここに留めておかないと!)  少しでも犠牲を減らせるならと、刀を横薙ぎに振るう。  軽々と避けられるが、それでも諦めず、数度振るう。 「そろそろ満足しただろう?」  獣の形をした口元を動かし、怪人は再度機関銃を放つ。  杉村の全身を銃弾がズタズタに切り裂き、ぼろきれのように血の池へと再び倒れた。  ジャリ、と怪人が近付いてくる。自分を見下す瞳は醒めていた。  所詮は人間、そう考えているだろうと思うと、腹が立ってしょうがなかった。  だが、怒りだけでは身体は動かない。  冷たい土の感触を頬に受け、視界が暗くなってくる。  ――そこに正義はあるのかっ!!  突然、七原の、口癖のような言葉を思い出す。 (そうだよ、七原。正義はあるから、少しだけ踏ん張ってみるよ)  先程まで脱力して、まったく動かなかった身体が軽い。  身体を跳ね上げ、怪人の左腕に刀を突き刺す。  血が赤いことに意外に思う。  怪人が自分を吹き飛ばし、距離が開いた。 「やせ我慢か。反吐が出るぜ」  背中の大筒がエネルギーを溜めているのが見える。杉村の身体はもう動かない。 「お前を吹き飛ばして、あの女も殺してやる。一足先にあの世で悔しがっていな。ナルシストの偽善者」  怪人は四つんばいになり、反動に備えている。  巨大なエネルギーが身体を焼きながら襲ってくる。 「七原……」  呟きを呑み込み、爆発が木々を吹き飛ばし、轟音を立てて地面を揺るがした。 □  中程度の背丈を鋼の肉体と、白い学生服に包み、短く刈っている髪の下、眼鏡の奥に意志の強い眼差しを持つ少年、葉隠覚悟は、デイバックの前に正座をしていた。  目を瞑り、先程の出来事、少女の死による怒りを治めていたのだ。 (敵を憎んではならぬ。憎むべきは、敵を恐れる己の心)  零式防衛術、それは葉隠一族に伝わる、牙無き人を守る剣。  この殺し合いの中に殺されてしまった哀れな少女のように、牙を持たぬ人はいるだろう。  その善良な人間を、この殺し合いに乗った悪鬼は見逃しはしない。  ならばと、覚悟は瞳を開く。 (俺はこの殺し合いでも、人々を守る剣となろう)  人を守り、この殺し合いより脱出する。  もとより、覚悟はその信念を曲げる気など無かった。  立ち上がり、デイバックを手に取る。  いつも彼の傍にあった、強化外骨格「零」はない。  しかし、「零」は悪に手を貸すような強化外骨格ではないので、他人の手に渡るのは問題ない。  自分も零式防衛術を持つゆえ、武器は要らない。  支給品を確認しているのは、危険な物を破壊する為だ。  紙を一枚取り出す。「滝のライダースーツ」と、一筆書かれていた。  他には特別なものは入っていない。紙を開くと、ライダースーツ一式が具現化された。 「こ、これは……」  現れたのは、黒の上下のライダースーツに、黒のグローブとブーツ、黒のマフラーにヘルメット。  ヘルメットには髑髏の顔が描かれており、見る人間が見れば不気味に感じただろう。  しかし、覚悟はそのスーツに、熱い何かを感じた。  武器になりそうなのは、脚に仕込まれたスタンガンのみ。  強化外骨格とは比べ物にならないほど、貧弱な装備だ。  それでも、覚悟は英霊の宿った強化外骨格に匹敵する「魂」を感じた。  背筋を伸ばし、スーツに向かって敬礼をする。 (このスーツの持ち主、滝という御方。今しばらく、あなたの力を俺に貸してください)  少し時間を置き、ライダースーツを身に纏う。  身体が、大いなる正義に守られているような気がして、覚悟はさらに決意を強くした。  だが、無常にも爆発音が響く。  耳に入ると同時に、覚悟は現場へと勢いよく駆けて行った。  木々を次々と避けていき、やがて爆発の中心地と思わしき場所へとたどり着く。  焼け焦げた跡が百メートルくらい円形で広がっており、折れて半分から五分の一程度の大きさになった木が燃え続けている。  死を顕在したような大地を進むと、下半身が吹き飛ばされ、黒焦げになっている少年を見つける。 「……だ、誰か……きたの……か?」  驚いたことに、まだ生きているらしい。  だが、長くは持たないだろう。 「ああ、安心するんだ。俺は危害を加えるつもりはない」  傍により、優しく声をかける。  その様子に安堵したのか、少年はさらに語り続けた。 「ゲームに、乗って……いない……なら、この先にルイズって……女の子が……怪人に狙われて……いる。 頼む、助けて……やってくれ……」 「承知!!」  覚悟は、少年が指を指す方向へ脚を向ける。  少年を弔うのは、少女を助けてから。悔しいが、そうせざるを得ない。 「待って……くれ。俺の刀……を持ってい……ってくれ」  震える腕で、半ばから折れた刀を覚悟に差し出す。  武器としての機能は落ちている。使い物になるかは微妙だ。  だが、覚悟は感謝を込めて刀を受け取った。 「ありがたく、使わせてもらう」 「……七原、そこに……正義はあった……よ」  それっきり、少年は沈黙した。  敬礼する暇も惜しみ、覚悟は疾風となる。  少年の魂を乗せた軍刀を握りなおす。  戦いは、近かった。 □  タイガーロイドは駆ける。  木々を避け、女の足に追いつくのはたやすい。  風を切り裂き、タイガーロイドは苛立つ。  刀程度に自らの身体が傷ついたのが不思議でならない。  おまけに、銃弾の補充が遅い。いつもなら数秒でに補充が完了するが、いまだに一発も精製できていない。  さらに、背中の大砲の威力が下がっている。一度も使ったことは無かったが、聞いていたスペックを大幅に下回っていた。  バダンの技術者がスペックを間違えるなど、あり得ない。なら考えられることは一つ。  あの老人が細工をしたらしい。 (こざかしい)  ギリッと、歯を噛み鳴らす。  タイガーロイドは最後の一人に興味は無い。  村雨と合流してあの老人を殺し、バダンへと戻りガモン共和国へと向かい直したいのだ。  自分が嫌いなタイプの人間、滝和也に煮え湯を飲ませねばならない。  その次は、仮面ライダーの始末だ。強者が支配する、彼にとっての理想を創るために。  桃色のロングの髪を見つけるが、何の感慨も浮かばない。  強者が弱者を殺すのは当然の摂理。殺人に対しての罪悪感など、とうの昔に捨てた。  冷静に腰の機関銃を、少女に向ける。  自ら放つ、火薬の匂いをトラの鼻が感知した。 □  ルイズが逃げている途中、後ろから爆発音が響いた。  少しだけ振り返り、走るのを再開する。  その瞳には、少しだけ涙が滲んでいた。 (スギムラ、あんた絶対生きて切り抜けなさいって、言ったのに!)  ルイズは杉村の死を分かってしまった。  あの爆発は、自分が逃げてきた場所だ。  トラの獣人の背中に大砲があったことは覚えている。  もう、杉村は助からない。当然の答えだった。  自分の無力さに歯噛みする。 (せめて杖があれば、あの場に留まってスギムラを援護できたのに!)  もっとも、それは願望に過ぎない。  自分はゼロのルイズ。まともなメイジを夢見るほど、メイジとしては出来損ないの落ちこぼれ。  あの場で杖を持っていたとしても、死体がもう一つ増えるだけだ。  それが、余計に悔しかった。  雑草を掻き分ける音に振り返る。  トラの獣人が、腰の筒をこちらに向けている。  火が、筒より発射された。 「キャッ!!」  右足が焼けるように痛む。二つの傷口から、血が流れていた。  トラの獣人がにじり寄る。  ルイズは恐怖で歯がカチカチと鳴った。 「サイト……助けて!」 「助けを求めるか。キサマもあの男と同じだな。他者に助けを求める、弱きものだ」 「スギムラが、助けを求めた……?」  自分を助けるため、身体を張った杉村が命乞いをしたなど信じられず、つい問いかけてしまう。 「あの男は最後に呟いたのは、七原とか言う名前だ」  その言葉に、ルイズは思い出す。  正義を口癖に持つ、杉村の親友。つまり、杉村は最後まで自分の正義を貫こうとしたのだ。  トラの獣人の瞳には、絶対零度の瞳があった。  杉村の死を軽んじる獣人に怒りが沸いてくる。 「…………ざけないでよ」 「ん?」 「ふざけないでよって、言ってんのよ!!」  怒声が、暗い林で獣人に向けられた。  元気を取り戻したルイズに、トラの獣人は不機嫌な表情を見せている。 「スギムラが助けを求めた? ふざけないでよ!! あいつはね、平民だけどサイト並みに勇気があって、わたしを守るって事を最後まで貫いただけなんだから! あんたみたいな化け物に、そんなスギムラを蔑ませなんかさせないっ!!」 「なら、どうするんだ?」 「わたしがあんたを倒す! スギムラを馬鹿にしたこと、百回謝らせてやるんだから!!」  ルイズは木に手をかけ、身体を無理矢理立たせる。  ひたすらにトラの獣人を睨み続けた。 「わたしは伝説の使い魔ガンダールヴの主人にして『ゼロのルイズ』!! この二つ名にかけて、メイジとして、貴族としてあんたの悪行を許さない!!」  本来なら不名誉で、自らが口にもしたくないその二つ名をかけて立ち上がる。  このトラの獣人は、杉村を馬鹿にした。  たとえ一緒に行動した時間は短くても、助けてもらったのは確かだ。  だから、彼の行為が無駄でない事を示すため、最後までこいつに恐怖をしないと決めた。  抵抗して、弱者である自分が刃向かってみせる。 (スギムラ。わたしにも、正義はあったよ)  ルイズは死を覚悟している。  一矢も報いれないことに、歯噛みをするが、せめて心だけは負けないよう、瞳はトラの獣人から逸らさない。  無言で、不機嫌な瞳を向けたトラの獣人が、背中の大砲を向けた。  エネルギーが収束されていく。見覚えの無い光だが、どうなるかは簡単に想像できた。 (サイト、元の世界に戻せなくて、ゴメンね)  自分の使い魔……いや、想い人に心の中で謝り、死の光を待つ。  暗い林道が照らされ、草一本すらも視認できるくらい明るくなる。  身体に痛みが走っても、目を瞑らないと気合を入れた。  その時―――― 「零式積極重爆蹴!!」  二つの零が、交差した。 □  トラの怪人は、大砲の充填を中断し、木に叩きつけられていく。  その様子を確かめ、覚悟は少女に顔を向けた。 「無事か?」  優しい声色で、髑髏の模様が施されたヘルメットのバイザーを上げた覚悟は、桃色の髪の少女に話しかけた。 「その刀……」  ルイズであろう少女は、自らの右手にある折れた刀を見つめている。 「少年から、君を守るように頼まれた」 「じゃあ、スギムラは……」 「殉死した」 「殉死って……なにを信じてスギムラは死んだって言うのよ!」 「己が男に殉じたのだ!」  ルイズは、涙をためた瞳を自分に向けた。  杉村という少年の魂を込めた刀を、覚悟が敵に構える。 「その魂、俺が絶やさん。だから、安心してくれ」  簡潔に言うと、その場を離れトラの怪人の前に立つ。  トラの怪人は苛立ちの表情を浮かべた。 「滝のライダースーツ……その言葉……お前も滝や仮面ライダーと同類か」 「志を同じくする、同志だ!!」 「チッ、その甘さ、本当に反吐が出る。お前たちは、偽善者のナルシストだ。 世の中を生き抜くのは強者のみでいいんだよ!」 「その認識、宣戦布告と判断する!」  言い放ち、覚悟はヘルメットのバイザーを下げる。  髑髏の瞳の部分の、二つの穴からまっすぐに正義と信念を込めた瞳をトラの怪人に向けた。  覚悟は、その体躯に滝の魂を込める。 「当方に迎撃の用意あり!!」  続けて、刀を傍に突き刺し、零式防衛術の構えをとる。  刀から、杉村の魂を拳に込める。  二つの魂を込め、覚悟は雄雄しく叫ぶ。 「覚悟完了!!!」 &color(red){【杉村弘樹@BATTLE ROYALE:死亡確認】} &color(red){【残り59人】} 【H-3、林道/1日目・深夜】 【葉隠覚悟@覚悟のススメ】 [状態]:健康 [装備]:滝のライダースーツ@仮面ライダーSPIRITS。折れた軍刀@現実。 [道具]:支給品一式。 [思考] 基本:牙無き人の剣となる。 1:目の前の悪鬼を倒す。 2:ルイズを守り、杉村を弔う。 【H-3、林道/1日目・深夜】 【三影英介@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]:左腕に刺し傷。腰の機関銃弾数中消費。背中の大砲(2/3) [装備]:なし。 [道具]:支給品一式。未確認支給品1~3個。 [思考] 基本:村雨以外は皆殺し。 1:目の前の偽善者を殺す。 2:村雨と合流、このゲームから脱出する。 ※三影は制限により、弾の精製が極端に遅くなっています。  弾数が尽きた状態から、完全補充まで数時間かかります。 【H-3、林道/1日目・深夜】 【ルイズ@ゼロの使い魔】 [状態]:右足に銃創。中程度疲労。杉村の死によりショック状態。 [装備]:なし。 [道具]:支給品一式。超光戦士シャンゼリオン DVDBOX@ハヤテのごとく? [思考] 1:目の前の戦いを見守る。 2:スギムラを弔いたい。 3:サイトと合流。 |004:[[無題]]|[[投下順>第000話~第050話]]|006:[[殺人鬼の日々の過ごし方inロワイアル]]| |004:[[無題]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|006:[[殺人鬼の日々の過ごし方inロワイアル]]| |000:[[オープニング]]|葉隠覚悟|030:[[A forbidden battlefield]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|三影英介|030:[[A forbidden battlefield]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|ルイズ|030:[[A forbidden battlefield]]| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|&color(red){杉村弘樹}|&color(red){死亡}| ----

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