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愛すべき日々」(2014/05/27 (火) 21:15:46) の最新版変更点

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**愛すべき日々 ◆1qmjaShGfE それは微かな振動。 今にも消え入りそうな、そんな音。 ずっと待ち望んでいたそれを、しかしヒナギクはどうしても信じられず、すぐ側に居る村雨に聞いて確かめる。 「ねえ……今、動いた……わよね」 心臓マッサージを担当していた村雨は、ヒナギクと全く同じ顔をしていた。 「お前も……そう、感じた、のか」 独歩が二人の肩を掴みながら、横になるかがみの顔を覗き込む。 「お、顔に赤みが戻ってきてやがる。やったじゃねえか二人共」 そう言って、ぽんと二人の肩を同時に叩く。 四つんばいになりながらかがみに人工呼吸を行っていたヒナギクは、上体を起こすと地面に座り込んでしまう。 独歩に倣って心臓マッサージを行っていた村雨も、ヒナギク同様に腰を落とし、両手を後ろに回して地面に付く。 「やった……やったぞ」 村雨の心の底から沸き起こる感情、随分と長い事こんな想いとは無縁だった気がする。 「うん、うん」 ヒナギクの顔に、歓喜が満ち溢れていく。 村雨は勢い良く上体を起こし、ヒナギクの方に乗り出す。 「やった! やったんだ!」 ヒナギクも身を乗り出して村雨の両手を掴む。 「出来た! 私にも出来たわ!」 ずっと奪う側だった男。 ずっと奪われるだけだった少女。 二人は救われてくれた大切な命に、ありったけの感謝を込めながら歓声を上げた。 「嫌よ!」 ヒナギクの怒声が室内に響く。 独歩と村雨の二人はそんなヒナギクを困った顔で見ている。 「なあ嬢ちゃん。別に俺が何かするって訳じゃねえのはわかるだろ、だから聞き分けてくれや」 「絶対に嫌! 私はかがみが目覚めるまでここを一歩だって動かないわよ!」 かがみが息を吹き返した後、すぐ近くの雑居ビルに彼女を運び込む三人。 テナントの一つに簡易のベッドが設えてあったのを見つけ、そこにまだ意識の戻らないかがみを寝かしつけた。 ようやく一息つけた所で、独歩が二人に提案したのだ。 「この子は俺が見てるから、二人で医療品見つけてきてくれねえか」と。 村雨はその提案を快く了承するが、ヒナギクはかがみの側から決して離れようとしなかった。 ならば村雨が一人で行けばいい。 そう村雨は思ったのだが、何故か独歩はヒナギクと村雨の二人で行くという事に拘った為、遂にヒナギクが怒ったという次第だ。 村雨が自分の思いつきを口にしようとすると、独歩はそれを遮って村雨を部屋の外へと連れ出した。 部屋の外、ヒナギクに聞こえない場所まで行くと、独歩は頭皮を掻きながら村雨に言う。 「参ったな。なあ兄ちゃん、何とかヒナギクって子をあそこから引き剥がす事出来ねえもんかね」 村雨には独歩の考えがわからない。 「何故そんな事を?」 苦々しい顔で、独歩は村雨の顔を覗き込む。 「わかんねえか? かがみって子が目を覚ましたら一番最初にする事……」 一時は心停止状態にまで陥ったのだ。 記憶障害や身体障害の可能性は十二分にありうる。 そしてそれ以上に確実な事が一つ。 だが、独歩はため息を一つついて、その考えを口にするのを止めた。 どんな場合であろうと、すぐにかがみが意識を取り戻す事はあるまいと思い直したからだ。 ならしばらくは時間が…… 「嫌ああああああああっ!!」 突然女性の叫び声が轟く。それはヒナギクとかがみの居る部屋から聞こえてきた。 何事かと駆け出す村雨。 独歩は再度、今度は深くため息をついた。 「ま、目を覚ましゃそーなるわな」 「わ、私の手が……手がっ!?」 恐慌状態に陥り、暴れまわるかがみ。 ヒナギクはそんなかがみの体を必死に押さえる。 「落ち着いてかがみ! 今から説明するから……」 「何よコレ! 一体何なの!? 何で私……手が……手が……嫌、こんなの嫌ああああああっ!!」 ドアを開けて駆け込んでくる村雨と独歩。 かがみの恐慌する様に衝撃を受ける村雨の後ろから、独歩は大声で怒鳴りつける。 「やかましい!」 自らの肉体のみを頼りとし、空手の道では彼こそが第一人者と万人が認めるまでに上り詰めた男の一喝。 一瞬で部屋中から騒音が消え去る。 「村雨、ヒナギクの嬢ちゃんを隣の部屋に連れてけ。一緒になって騒がれちゃたまらねえ」 一種の錯乱状態である。 ヒナギクはかがみに対してどうすれば良いのかわからない。 かがみもかがみで一体何がどうなっているのかわからない。 そして村雨も、何故彼女達が混乱しているのかわからない。 そんな中でどうすべきかを力強く明示する独歩の言葉。 又、ヒナギクと村雨にとってはかがみを救う手段を、誰よりも早く、冷静に判断した独歩の言葉でもある。 その理由を問う事すらせず、村雨もヒナギクも独歩の指示に従ったのだった。 二人が部屋を出るなり、独歩はベッドの側にある椅子に腰掛ける。 「さて、かがみ。お前さんジグマールと戦った時の事ぁ覚えてるかい?」 かがみの真っ白になってしまった頭の中が、少しづつ整理されていく。 「あ、うん。……そうよ。ヒナギクが飛び込んで来て……それで……」 「ジグマールがアンタの腕を斬りおとしたと。思い出したか?」 独歩の言葉を聞くなり、背筋の凍るようなあの感覚を思い出す。 信じられない。もうこの腕は元には戻らないの? 「文句なり、恨み言なり言いたいってんなら直接ジグマールにでも言いな。それ以外は筋違いだぜ」 「そんなっ! ……そんな言い方って……わ、私だって好きでこんな……」 左腕が失われた。 恐ろしい、この先どうなるのか、どんな事になってしまうのか、まるで想像がつかない。 恐くて堪らない。何で私がこんな目に遭わなくてはならないの。 揶揄するように独歩は言った。 「こんな事になるぐらいだったら、死んだ方がマシ……ってか?」 怒鳴りつけるように肯定してやろうとして、辛うじて踏み止まった。 死ぬ。死んだ。この単語からすぐに連想出来る名前が頭に浮かんだから。 『つかさ、みゆき、灰原さん、桂さん、ハヤテ君……』 特にハヤテはその死を直接目にする事になった。 人が死ぬ。それがどういう事なのか。 止まらない血、深く抉られた傷、蒼白を通り越して土気色の表情、痛そうなんてものじゃない。 包帯の巻かれた自分の左腕を見下ろす。 全然違う。こんなんじゃ死んだりなんてするはずない。 急に恥ずかしくなってきた。 これ以上に痛くて、恐い思いをしたはずのハヤテは、最後のその瞬間まで一言もそんな事は言わなかったというのに。 ただ、大切な人を案じ続け、最後の時を迎えたというのに。 残った右手を強く握り締める。 「こ……こんなの……」 恐い、嘘ついてる。物凄く恐くて堪らない。けど…… 「こんなの、全然……どうって事無い……わよっ!」 言った。言ってしまった。もう引っ込みなんてつかない。 どんなに恐くても、そんな事無いって顔しなきゃならなくなった。 髪の毛が絶望的に薄いおじさんは、少し驚いた顔をしていた。 「ほお、なんでえ、まだ強がる根性残ってたか」 「強がってなんかないわよ! ほ、本当に全然、どうって事無いんだからっ!」 おじさんは何が楽しいのか、愉快そうに笑っている。ちょっと悔しい。 「笑わないでよ! バカ!」 なのでその顔目掛けて枕をぶん投げてやった。 敬老精神なんて言葉このおじさんにはもったいない。ふん、いい気味よ。 こいつは見誤った。流石にここまで生き残るだけあってタフな嬢ちゃんだ。 もう少し時間は居るだろうが、この調子なら自力で乗り越えていけそうだ。 女の身ながら、ウチの門下生に見習わせてえぐらいの良い根性してやがる。 となると残る問題はあの二人だな。 村雨は、まあ男だし自力で何とかしやがれ。 んでヒナギクの嬢ちゃんだが、ありゃマズイな。 かがみみてえにうまくは行かねえ……だろうなぁ。 いやコイツもこんなにうまく行くたあ思って無かったんだけどよ。 そんな事を考えていると、かがみが声をかけてきた。 「ねえおじさん、結局あの後どうなったの?」 ははっ、先にそいつが気になるか。 普通順番違うだろ、何より先にその腕が元に戻るかどうか訊ねるもんなんじゃねえのか? 全くもってイカした嬢ちゃんだ。克己の嫁に来てくんねえかな。 「いいぜ、あの後だな……」 やっぱ駄目だ。こんな良い女、克己にゃもったいねえや。 村雨は引きずるようにしてヒナギクを隣の部屋へと連れて行った。 そこはまだテナントが入っていないのか、がらんとした何も無い部屋で、村雨が明かりを付けると、申し訳程度のオレンジの光が部屋を包む。 幸い、あれ以上かがみの悲鳴が聞こえてくる事は無い。 独歩がうまくやってくれているのだろう。 かがみ蘇生の時といい、頼りになりっぱなしで申し訳なくなる。 「ねえ、かがみ……大丈夫だと思う?」 ヒナギクが虚ろな目でそんな事を尋ねてきた。 「かがみには独歩がついている。それよりお前の方がよっぽどヒドイぞ」 「え?」 やはり気付いて無かったようだ。 「顔中真っ青だ。それに震えが止まらんのだろう」 蘇生に成功した時のあの喜びに満ち溢れた表情なぞ欠片も残っていない。 膝が震え、自分の力ではとても歩けそうにない程だ。 「私なんてどうでもいいの。それより、かがみの腕……元通りになる?」 「…………」 返事などしようがない。 「ねえ! 元通りになるわよね! ねえってば!」 頼むからそんなにがなるな。そうだ、俺があの時ジグマールの手を読みきってさえいれば、あんな事には…… 「……私が、私があんな事しなければかがみは……」 驚いて顔をあげる。ヒナギクも俺と同じ事を考えている? 彼女の顔は完全に色を失い、混濁した瞳にはうっすらと涙を湛えている。 「つかさの時だってそうよ……私が、私さえもっと動けていれば……あんな事になんて……」 「それは違うぞヒナギク!」 自らを追い詰めて行く彼女を見ていられずに、その両肩を掴む。 「何が違うのよ! あのかがみが、あんなに強い彼女があんなにも動揺して……当たり前よ、腕が無くなったのよ? それで普通にしていられるわけないじゃない!」 「落ち着けヒナギク!」 「うるさいっ!」 力任せに村雨を振り払うヒナギク。 その手が偶然村雨の頬に当たる。 「あ……」 村雨はさして気にならなかったが、彼女は目に見えて落ち込んでしまう。 「また、やっちゃった……ごめんなさい村雨さん」 ハヤテが倒れ、ナギが亡くなった時と同じように動揺して、他人に当り散らす自らを恥じているのだろう。 それ以上言葉を発する事無く、俯き、床を見つめるヒナギク。 村雨も彼女にかける言葉が見つからない。 彼も又、同じ疑念を自らに問うている真っ最中で、それに答えを出せずに居るのだから。 随分長い間そのままで居る二人。 ヒナギクが僅かに残った他人を配慮する余裕を使い、村雨に声をかける。 「ごめん村雨さん、少し、一人にして……」 この言葉に抗う術を、今の村雨は何一つ持ち合わせていなかった。 一通り聞き終えると、かがみはベッドから半身を起こし、僅かに考え込んだ後、独歩の表情を伺うように上目遣いで問いかける。 「ねえ、もしかして……ヒナギクや村雨さん、気にしてるかな」 桂、そう呼ぶのに少し抵抗があったので、しれっと名前で呼んでみたのだが、案外違和感が無い。 「間違いねえな。どっちも責任感ありそうだしよ、特にヒナギクの嬢ちゃん何かはありゃヤベェわ」 「そうよねぇ。まずったな~、ああもう! 何だって私はこんなに弱いのよ! 頭に来るわ!」 独歩はそんなかがみを微笑ましそうに見ている。 「いや~、若いねぇ嬢ちゃん」 「……人が真面目にヘコんでるってのに、そんなやる気の無さそうな顔するのってあんまりじゃない?」 「…………」 どうやらかがみには微笑ましく見守る独歩の顔が、適当な愛想笑い浮かべているようにしか見えないらしい。 あまりといえばあまりな言葉に、逆に独歩が少しヘコんでしまうが、かがみは気付いてないのか自分の考えに耽る。 そこに、ノックの音と共に村雨が戻って来た。 まだ考えはまとまっていないので、つい慌ててしまうかがみ。 「わっ、わわっ。ちょ、ちょっと待って村雨さん」 「す、すまん。取り込み中だったか?」 驚いて部屋を出ようとする村雨。 そんな様を見て更に慌てるかがみ。 「へ? あ、違う違う! そうじゃなくって……えっと、その……」 こほんと咳払い一つ。 かがみの行動が全くわからない村雨は、首をかしげてそれを見ている。 「村雨さん、助けてくれて、ありがとう」 まずはこの一言。絶対にこれは言わなきゃならない言葉だった。 そしてこれを言ってから色々とフォローの言葉を繋げようと勢い込むが、村雨の様子が変なので言葉を止める。 「村雨さん?」 村雨は俯き加減のままなので、その表情は見えない。 良く見るとその両肩が小刻みに震えている。 「えっと……むらさめ……さん?」 くるっとこちらに背を向け、上を向く村雨。 「かがみ、調子はどうだ?」 何か声がくぐもって聞こえるけど、これは突っ込まない方が良いんだろうなと思ったかがみは、元気良く聞こえるように声を張り上げた。 あんな所見せちゃったんだ、きっと心配してるから、そんなの全然平気だよって、そう、伝わるように。 「うん! もう大丈夫よ!」 村雨の体がびくっと跳ねる。 少しの間、言葉を発せずに居た村雨が、擦れた声で口を開く。 「独歩、貴方は何でも出来るんだな」 鼻を鳴らす独歩。 「馬鹿言え、俺は何もしちゃいねえよ。この嬢ちゃんが凄ぇだけだ」 「……そう、だな。本当に素晴らしい人だと、俺も思う」 いきなりのこのお言葉。 下手な告白よりも照れるんですが。いや、告白なんてされた事ありませんが。 「ちょ! ちょっと村雨さんいきなり何言い出すんですか!」 ああ、ほらおじさんが調子に乗った顔してる。 「う~ん、この年になって愛の告白見る事になるたあなぁ。まあいいさ、これも縁だ。仲人は俺っちが引き受けてやるよ」 「おじさん!」 背を向けている村雨さんは、多分今笑っているんだと思う。 「それこそ馬鹿な話だ独歩。こんなに素晴らしい彼女に、俺何かが釣り合うはずないじゃないか」 ぬあ、何という切り替えしをしてくれますか村雨さん。 「だからそれはもういいっつーの! 照れるんだから勘弁してくださいよ!」 したり顔で頷くおじさん。おじさん、顔がタチ悪そうに笑ってるわよ。 「ほうほう、村雨には敬語で俺にゃ無しか。まあ年頃の娘だしな、そのぐらい受け入れる度量は俺にもあらぁ」 「さっきの自分の言動を振り返って下さい! ああもう! 何だってこんな事になってるのよ!」 やっと、村雨さんが振り返ってくれた。ほら、思ってた通り、背丈に似合わない可愛い顔で笑ってる。 「そうだな、今こうして笑っていられるのは、間違いなくかがみの人柄のおかげだ。ありがとう」 ……だーれーかー、この人なんとかしてー。 独歩、村雨(←コイツは天然)によるかがみんいじりも一段落すると、かがみは真顔で二人に提案する。 「とにかく、ヒナギクを何とかしなくちゃならないわ」 男二人もそれには同意する。 「ただ、彼女人一倍責任感強そうだし、下手な慰めや発破とかは逆効果な気がするのよ……」 それしか思いつかなかった村雨は、唸りながら考え込んでしまう。 独歩は真顔で自らの考えを述べてみる。 「……いっそ、よってたかってくすぐって、無理矢理笑わせちまうってのはどうだ?」 かがみと村雨に同時に睨まれ、すごすごと引き下がる独歩。 かがみは、こんな風にふざけてくれる独歩に随分と救われている。そんな気がした。 「でも、笑うってのは大事だと思う。ただそれだけで、色々と違ってくるんじゃないかなって、私は思う」 そしてかがみには、切り札、リーサルウェポンとも言うべき、一つのネタがあった。 「これなら、確実に笑ってくれると思う話はあるのよ。ただ、急にそんな話になっても、ちょっと流れが変かなってだから……」 無茶を承知で、かがみは村雨に問いかける。 「村雨さん、何か笑える話……無い?」 いきなりとんでもない事言い出されて、つんのめりそうになるぐらい驚く村雨。 「俺がか!? いや、そういう話なら独歩の方が適任な気が……」 「だっておじさん顔恐いし」 さらっとヒドイことを言うかがみ。 「それに、どうせなら格好良い人にそうしてもらった方が良いと思うのよ。ヒナギクも女の子だしね」 そしてトドメも忘れないかがみさん。 「……そりゃアレかい? かっこ悪くて人相も悪い俺っちはどんな面白い話してもダメって事かい?」 「女の子はデリケートなのよ」 かがみは、仕返しが出来て大層ご満悦な模様。 在り得ない無茶振りをされた村雨は、しかし、それがヒナギクの為になるのならと真剣な表情でネタを考え始める。 その様を見て、かがみと独歩は同時に思った。 『この調子じゃ絶対無理かも……』 『この調子じゃ絶対無理だろ……』 結局、ネタは三人で考える事になった。 独歩は時々かがみの様子を見ていたが、ベッドに座る彼女からは病人の気配を感じる事が出来なかった。 確かに核金という道具はある。それは今も継続して使用中だが、それにしても回復が早すぎる。 心停止していたのはついさっきだ。 その期間の長さから脳障害すら考えていたというのに、まるでそんな事無かったかのようなこの元気はどうだ。 彼女の生きようとする意志に、体が応えていると言わんばかりではないか。 どんなに強い意志があろうと、人は死ぬ。 ならば彼女の回復には意思以外に何かがあるという事だろうか。 彼女の身にまとう衣装を見て、不意に突拍子も無い発想が思いつく。 『神様のご加護があるってんじゃないだろうな』 バカバカしい、巫女服着ただけで神のご加護がもらえるというのなら、正月は日本中加護だらけになる。 そんな考えを振り払い、真面目に考えてみるも、独歩にその答えを導き出す事は出来なかった。 「とりあえず、あんまりに露骨なお笑いはダメよね」 視線を泳がせる独歩。別に目を逸らしているのではなく、何かアイディアの元になるものはないかと室内を探しているのだ。 「自然な会話の中で、ふっと笑みを溢すような……そんな話がベストだな。駄洒落系はどうだ?」 「それ露骨すぎない?」 「いや、村雨がやるってんなら、こいつは天然で通せるだろ。当人気付いてないが駄洒落になってるって……そんな感じだ」 独歩の言葉にかがみは嬉しそうに頷く。 「うんうん、それならいいかも。となると後はネタよね……かがみ、鏡は基本として、後は……」 何やら相談しながらその内容を独歩が紙に記してゆく。 正直、聞くに堪えない。そんな駄洒落が次々と出されていく中、村雨はぽつりと呟いた。 「……なあ、俺達何やってんだろうな?」 すぐさまかがみにどやされる。 「それは言うな! ……というかお願いです、正気に戻るような事言わないでください。やってるこっちがやるせなくなってくるから……」 練習する事十三回。 馬鹿げているとは思いつつも真剣に取り組んだ村雨は、かがみ独歩プロデュースのネタ本を完全に暗記し終えていた。 恐ろしく緊張する。 このネタ本には、かがみと独歩のヒナギクが元気になって欲しいという願いが込められているのだ。 それらを村雨は一身に背負い、何としてでもヒナギクを笑わせてやらなければならない。 ヒナギクの居る部屋の前で深呼吸。 強張った顔では、決してヒナギクは笑ってはくれないだろう。 意を決してドアを叩く。 「居るかヒナギク? 入るぞ」 さっき出ていった時と寸分違わぬ部屋。 薄オレンジの明かりが、時折点滅しながら室内を照らす。 この部屋に居る。それを知っていなければ見落としてしまったかもしれない。 そんな薄暗い部屋の隅に、ヒナギクは座り込んでいた。 この部屋の殺風景な広さが、彼女の孤独を更に際立たせているようだった。 胸が苦しくなる。 こんな所に一人残してすまなかった。 今、俺が側に行ってやる。 「ヒナギク……」 俺があの二人にどれだけ救われたか。 お前にも、同じ悩みを抱えるお前にも伝えてやりたい。 あんなにも心優しい二人が、俺達を心配してくれてたんだ。 「今、かがみと話をして来た」 かがみという単語が出ると、僅かにだけ反応してくれた。 「隣、座るぞ」 返事を待たずに隣に座る。だらしなく片足を伸ばし、片膝を曲げた楽な姿勢だ。 「俺を見るなり、かがみ何て言ったと思う?」 やはり返事は無い。それでも構わない。聞いてさえくれていれば。 「ありがとう、と。助けてくれて、ありがとうと言ってくれた……俺はあの一言で不覚にも泣き出しそうになった」 今、ヒナギクはどんな顔をしているだろう。 「あの一言で、俺は何処まででも戦い抜ける。そんな言葉だった」 不意に左手に何かが触れる。 そちらを見ると、ヒナギクは村雨の手の上に自らの手を添えながら、信じられないといった顔で首を横に振っていた。 何度も何度もそうしていた。 「……だって、かがみあんなになって……それなのに……」 俺は今どんな顔をしているだろう。 この子を安心させられる。かがみのような、独歩のような顔が出来ているだろうか。 「ほんの少しの間だ。ヒナギクとここで話をして、戻ったらもうかがみだった。強くて優しいかがみだった」 添えられた手を引きながら立ち上がる。 「かがみが待ってる。行こうヒナギク」 手を引かれるままに立ち上がるヒナギク。しかしその表情は晴れない。 「俺を、独歩を、そしてかがみを信じろ」 泣き笑いのような、そんな複雑な顔で、それでもヒナギクは村雨に付いてきてくれた。 かがみの寝る部屋の前。 そこで村雨はもう一度訊ねる。 「かがみが待ってる。行けるな」 随分と間が空いた。 村雨は答えを急かすような事はせずにじっと待つ。 彼女の中でどんな葛藤があるのか、手に取るようにわかる村雨はただじっと待っていればよかったのだ。 きっと、彼女は…… 「…………うん」 ほらな。心根のまっすぐなこの子だから、絶対にこう言ってくれると思っていたんだ。 ドアを開け、部屋に入っていくヒナギク。 「あ、ヒナギク! あのね、まず最初に言いたい事が……」 そうそう、この瞬間がとんでもなく恐ろしいんだ。 「……ありがとう、助けてくれて」 それで引っ張っておいてこれだ。こっちの心臓が止まるかと思ったぞ。 「かがみっ!」 そう叫び、駆け寄る音が響いてくる。 「ごめんね、ごめんね、ごめんねかがみ……」 そこまで聞いた所で静かに扉を閉める。 俺の役目はここまでだ。 かがみ、やはり伝えたい想いがあるのなら、君が直接彼女に伝えた方がいい。 きっと、その方がいいと俺は思う。 二人っきりにしてやろうと部屋の前を離れ、廊下を歩くとその先に独歩が待っていた。 「よう、うまくいったかい?」 この男には、何でも見透かされていそうだ。 「ああ、後はかがみに任せるさ。独歩は行かなくていいのか?」 両手を広げる独歩。 「ぶさいくで悪党面の俺の出る幕は無いとさ」 本当に、この男は人を笑わせるのがうまい。 「何だ、拗ねているのか?」 「うるせえ」 大人なのか子供なのかまるでわからない。 ふと、思い出した事があって村雨は独歩に問う。 「そういえば、随分と零を見ていないが、あいつはどうした?」 「あ」 すぐにビルの外へと駆け出す村雨と独歩。 零は、かがみを寝かせていた場所のすぐ側に、ちょこんと所在無く佇んでいた。 『……思い出してくれたのならそれで良い』 そうぽつりと呟いた零は、ほんの少しだけ寂しそうだった。 ハヤテ、お前には申し訳ないと思っている。 俺は今すぐにもそちらに行って、お前に詫びなければならないのに。 こんな俺にも、守りたいと思う人達が出来てしまったんだ。 なあハヤテ。そんなに待たせるつもりは無いが、後少しだけ。 彼女達が平和な世界に戻るまで、ほんの少しだけ、待っていてはくれないか。 きっと俺がこうして今ここに居るのは。 その為だと思うから。 「でね、そこでバス停のベンチに座ったら、そこにこなたが来たのよ」 ベッドから上半身だけを起こした状態で、ベッドのすぐ側にある椅子に座るヒナギクにかがみは話しかける。 「友達のこなたさんよね」 「そうそう、まあどうしようもない奴なんだけどね。それでそいつがまた下らない話ばかりしてくるの。夢の中でまでお前何してんだと」 最初の頃に比べれば、ヒナギクの表情も幾分か柔らかくなってきたと思う。 それでもまだだ。まだこんなものじゃ足りない。 「色々と話したなぁ。そんな事してたら、遂に待ってたバスが来たのよ。これ乗っていけばいいのかなって」 「うんうん。それで?」 「こなたは先に乗ってたから、じゃあ私もって思ったら、急にさ……その……」 「ん?」 妙に話しづらそうにしているかがみを見て、ヒナギクは不思議そうに問い返してくる。 えいくそ、いいわよ。言ってやるわよ。 「その時急に……」 「は? ごめん、かがみんもっぺん言って?」 バス乗り込み口から怪訝そうにそう問い返すこなた。 コイツ、絶対わかってて言ってるんだ。相変わらずムカツク。 「……だから、ちょっと……その、お腹が……痛いかなって……だから」 「お腹?」 あー! もう! 結局最後まで言わせる気か! デリカシーの無さは変わらんなコイツは! 「ちょっとおトイレ行ってくるって言ってるの!」 全く、このぐらい察しなさいよ。 えっと、おトイレは……あれ? トイレ何処かに無かったっけ? ってあれ? バスは? こなたは何処? あれ? ヒナギクは流石に二の句が告げない模様。 「いやね、後から考えるとお腹っていうより、ちょっとその上だったかなぁなんて思うんだけど。ほら、何せ夢だからそういう細かい所まで気付かないって言うか……」 ほけーっとした顔でこちらを見ているヒナギク。 「独歩さんに聞いたけど、私危なかったんでしょ? そうやって考えるとあのバスってつまりアレだったのかなぁなんて思ったりして……」 右手でベッドをどんと叩く。 「大体なんでこなたなのよ。普通こういう時ってもっとこうかっこいい男の人とか、そういう流れじゃない。何だってアイツはいつもいつもいつもいつも……」 あれ? ヒナギク俯いちゃった。 もしかして……私外した? 思いっきり外しましたー!? ゆっくりと、顔をあげたヒナギクは、ようやく、本当ようやく。 可愛い顔立ちに似合いの、最高の笑顔を見せてくれました。 ええ、このためなら恥も外聞もどうでもいいわよ。 どうせ私はトイレで帰ってきた女よ! うっさい、文句あるか! バスの中、もう何度目になるか、思い出し笑いをするこなた。 「普通さ、あそこで『おトイレ行ってくる』は無いよねぇ。もう駄目、笑いすぎてこっちのお腹が破裂しそう」 同乗しているつかさもいまだに笑いを堪える事が出来ずにいる。 「お姉ちゃん面白すぎ。もう色んなものどっかに飛んでっちゃいそうなぐらいおかしかったよ」 「最後までかがみんは予想の斜め上を決めてくれたねぇ。グッジョブかがみん!」 「心配し甲斐が無いっていうか、どっか違うのがお姉ちゃんらしいって言うか」 もう見えなくなってかなり経つが、かがみが居た方に向かって振り向く二人。 「じゃあねお姉ちゃん。向こうに帰ってもその調子で元気でね」 「かっがみーん! 冥土の土産は確かに受け取ったよー! やっぱかがみんは最高だー!」 【D-2 南部 2日目 黎明】 【愚地独歩@グラップラー刃牙】 [状態]:体にいくつかの銃創、頭部に小程度のダメージ、左肩に大きな裂傷 [装備]:キツめのスーツ、イングラムM10(9ミリパラベラム弾32/32) [道具]:なし [思考・状況] 基本:闘うことより他の参加者 (女、子供、弱者) を守ることを優先する 1:ヒナギク、かがみ、村雨と情報交換する。 2:ジグマールを見付け出し倒す。 3:学校へ行き、アカギと合流。鳴海の事を伝える。 4:ゲームに乗っていない参加者に、勇次郎の事を知らせ、勇次郎はどんな手段をもってでも倒す。 5:その他、アミバ・ラオウ・ジグマール・平次(名前は知らない)、危険/ゲームに乗っていると思われる人物に注意。 6:乗っていない人間に、ケンシロウ及び上記の人間の情報を伝える。 7:可能なら、光成と会って話をしたい。 8:可能ならばエレオノールを説得する。 9:手に入れた首輪は、パピヨンか首輪解析の出来そうな相手に渡す。 [備考] ※パピヨン・勝・こなた・鳴海と情報交換をしました。 ※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています。 ※こなたとおおまかな情報交換をしました。 ※独歩の支給品にあった携帯電話からアミバの方に着信履歴が残りました。 【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】 [状態] 顔と手に軽い火傷と軽い裂傷。右頬に赤みあり。 [装備] バルキリースカート@武装錬金 [道具] 支給品一式。ボウガンの矢17@北斗の拳 [思考・状況] 基本:BADANを倒す。 1:村雨、かがみと共にS7駅で覚悟と合流する。その後、首輪、BADAN、強化外骨格について考察する。 2:ラオウ、斗貴子に復讐する。(但し、仲間との連携を重視) [備考] ※参戦時期はサンデーコミックス9巻の最終話からです ※桂ヒナギクのデイパック(不明支給品1~3品)は【H-4 林】のどこかに落ちています ※核鉄に治癒効果があることは覚悟から聞きました ※バルキリースカートが扱えるようになりました。しかし精密かつ高速な動きは出来ません。  空中から地上に叩きつける戦い方をするつもりですが、足にかなりの負担がかかります。 【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]全身に無数の打撲。 [装備]十字手裏剣(0/2)、衝撃集中爆弾 (0/2) 、マイクロチェーン(2/2) 核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金 核鉄(モーターギア)@武装錬金 [道具]地図、時計、コンパス 454カスール カスタムオート(0/7)@HELLSING、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)、ニードルナイフ(15本)@北斗の拳 女装服     音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾、ベレッタM92(弾丸数8/15) [思考] 基本:BADANを潰す! 1:ハヤテの遺志を継ぎ、BADANに反抗する参加者を守る 2:かがみ、ヒナギクの安全の確保後、ラオウを倒しに行く。 3:ヒナギク、かがみと共にS7駅で覚悟と合流する。 4:ジョセフ、劉鳳に謝罪。場合によっては断罪されても文句はない。 5:パピヨンとの合流。 [備考] ※傷は全て現在進行形で再生中です ※参戦時期は原作4巻からです。 ※村雨静(幽体)はいません。 ※連続でシンクロができない状態です。 ※再生時間はいつも(原作4巻)の倍程度時間がかかります。 ※D-1、D-2の境界付近に列車が地上と地下に出入りするトンネルがあるのを確認しました。 ※また、零の探知範囲は制限により数百メートルです。 ※零はパピヨンを危険人物と認識しました。 ※零は解体のため、首輪を解析したいと考えています。 ※記憶を取り戻しました 【柊かがみ@らき☆すた】 [状態]:全身に強度の打撲、左腕欠損(止血済み)、休息により(?)それなりに回復 [装備]:巫女服 [道具]: [思考・状況] 基本:BADANを倒す 1:みんな元気になれっ……もちろん自分も 2:村雨、かがみと共にS8駅で覚悟と合流する。その後、首輪、BADAN、強化外骨格について考察する。 3:仲間と共にジョセフと合流。 4:さっき見た首輪の異変について、考えてみる。 5:神社の中にある、もう一つの社殿が気になる。 6:ジョセフが心配。 7:こなたと合流する。 8:つかさとハヤテ、ナギの死にショック(大分収まり、行動には支障なし) 【三人の備考】 ※一通りの情報交換は終えています ※神社、寺のどちらかに強化外骨格があるかもしれないと考えています。 ※主催者の目的に関する考察 主催者の目的は、 ①殺し合いで何らかの「経験」をした魂の収集、 ②最強の人間の選発、 の両方が目的。 強化外骨格は魂を一時的に保管しておくために用意された。 強化外骨格が零や霞と同じ作りならば、魂を込めても機能しない。 ※3人の首輪に関する考察及び知識 首輪には発信機と盗聴器が取り付けられている。 首2には、魔法などでも解除できないように仕掛けがなされている ※3人の強化外骨格に関する考察。 霊を呼ぶには『場』が必要。 よって神社か寺に強化外骨格が隠されているのではないかと推論 ※BADANに関する情報を得ました。 【BADANに関する考察及び知識】 このゲームの主催者はBADANである。 BADANが『暗闇大使』という男を使って、参加者を積極的に殺し合わせるべく動いている可能性が高い。 BADANの科学は並行世界一ィィィ(失われた右手の復活。時間操作。改造人間。etc) 主催者は脅威の技術を用いてある人物にとって”都合がイイ”状態に仕立てあげている可能性がある だが、人物によっては”どーでもイイ”状態で参戦させられている可能性がある。 ホログラムでカモフラージュされた雷雲をエリア外にある。放電している。  1.以上のことから、零は雷雲の向こうにバダンの本拠地があると考えています。  2.雷雲から放たれている稲妻は迎撃装置の一種だと判断。くぐり抜けるにはかなりのスピードを要すると判断しています。 ※雷雲については、仮面ライダーSPIRITS10巻参照。 ※かがみの主催者に対する見解。 ①主催者は腕を完璧に再生する程度の医療技術を持っている ②主催者は時を越える"何か"を持っている ③主催者は①・②の技術を用いてある人物にとって"都合がイイ"状態に仕立てあげている可能性がある ④だが、人物によっては"どーでもイイ"状態で参戦させられている可能性がある。 ※首輪の「ステルス機能」および「制限機能」の麻痺について かがみがやった手順でやれば、誰でも同じことができます。 ただし、かがみよりも「自己を清める」ことに時間を費やす必要があります。 清め方の程度で、機能の麻痺する時間は増減します。 神社の手水ではなく、他の手段や道具でも同じことが、それ以上のことも可能かもしれません。 ※ステルス機能について 漫画版BRで川田が外したような首輪の表面を、承太郎のスタープラチナですら、 解除へのとっかかりが見つからないような表面に 偽装してしまう機能のことです。 ステルス機能によって、首輪の凹凸、ゲームの最中にできた傷などが隠蔽されています。 ※S1駅にハヤテのジョセフに対する書置きが残っています。 ※ボウガン@北斗の拳と強化外骨格「零」(カバン状態)@覚悟のススメとクルーザー(全体に焦げ有り)はD-2 南部の路上に置いてあります。 |225:[[こころはタマゴ]]|[[投下順>第201話~第250話]]|227:[[鬼が来たりて笛を吹く]]| |225:[[こころはタマゴ]]|[[時系列順>第5回放送までの本編SS]]|227:[[鬼が来たりて笛を吹く]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|ケンシロウ|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|才賀エレオノール|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|ケンシロウ|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|才賀エレオノール|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| ----
**愛すべき日々 ◆1qmjaShGfE それは微かな振動。 今にも消え入りそうな、そんな音。 ずっと待ち望んでいたそれを、しかしヒナギクはどうしても信じられず、すぐ側に居る村雨に聞いて確かめる。 「ねえ……今、動いた……わよね」 心臓マッサージを担当していた村雨は、ヒナギクと全く同じ顔をしていた。 「お前も……そう、感じた、のか」 独歩が二人の肩を掴みながら、横になるかがみの顔を覗き込む。 「お、顔に赤みが戻ってきてやがる。やったじゃねえか二人共」 そう言って、ぽんと二人の肩を同時に叩く。 四つんばいになりながらかがみに人工呼吸を行っていたヒナギクは、上体を起こすと地面に座り込んでしまう。 独歩に倣って心臓マッサージを行っていた村雨も、ヒナギク同様に腰を落とし、両手を後ろに回して地面に付く。 「やった……やったぞ」 村雨の心の底から沸き起こる感情、随分と長い事こんな想いとは無縁だった気がする。 「うん、うん」 ヒナギクの顔に、歓喜が満ち溢れていく。 村雨は勢い良く上体を起こし、ヒナギクの方に乗り出す。 「やった! やったんだ!」 ヒナギクも身を乗り出して村雨の両手を掴む。 「出来た! 私にも出来たわ!」 ずっと奪う側だった男。 ずっと奪われるだけだった少女。 二人は救われてくれた大切な命に、ありったけの感謝を込めながら歓声を上げた。 「嫌よ!」 ヒナギクの怒声が室内に響く。 独歩と村雨の二人はそんなヒナギクを困った顔で見ている。 「なあ嬢ちゃん。別に俺が何かするって訳じゃねえのはわかるだろ、だから聞き分けてくれや」 「絶対に嫌! 私はかがみが目覚めるまでここを一歩だって動かないわよ!」 かがみが息を吹き返した後、すぐ近くの雑居ビルに彼女を運び込む三人。 テナントの一つに簡易のベッドが設えてあったのを見つけ、そこにまだ意識の戻らないかがみを寝かしつけた。 ようやく一息つけた所で、独歩が二人に提案したのだ。 「この子は俺が見てるから、二人で医療品見つけてきてくれねえか」と。 村雨はその提案を快く了承するが、ヒナギクはかがみの側から決して離れようとしなかった。 ならば村雨が一人で行けばいい。 そう村雨は思ったのだが、何故か独歩はヒナギクと村雨の二人で行くという事に拘った為、遂にヒナギクが怒ったという次第だ。 村雨が自分の思いつきを口にしようとすると、独歩はそれを遮って村雨を部屋の外へと連れ出した。 部屋の外、ヒナギクに聞こえない場所まで行くと、独歩は頭皮を掻きながら村雨に言う。 「参ったな。なあ兄ちゃん、何とかヒナギクって子をあそこから引き剥がす事出来ねえもんかね」 村雨には独歩の考えがわからない。 「何故そんな事を?」 苦々しい顔で、独歩は村雨の顔を覗き込む。 「わかんねえか? かがみって子が目を覚ましたら一番最初にする事……」 一時は心停止状態にまで陥ったのだ。 記憶障害や身体障害の可能性は十二分にありうる。 そしてそれ以上に確実な事が一つ。 だが、独歩はため息を一つついて、その考えを口にするのを止めた。 どんな場合であろうと、すぐにかがみが意識を取り戻す事はあるまいと思い直したからだ。 ならしばらくは時間が…… 「嫌ああああああああっ!!」 突然女性の叫び声が轟く。それはヒナギクとかがみの居る部屋から聞こえてきた。 何事かと駆け出す村雨。 独歩は再度、今度は深くため息をついた。 「ま、目を覚ましゃそーなるわな」 「わ、私の手が……手がっ!?」 恐慌状態に陥り、暴れまわるかがみ。 ヒナギクはそんなかがみの体を必死に押さえる。 「落ち着いてかがみ! 今から説明するから……」 「何よコレ! 一体何なの!? 何で私……手が……手が……嫌、こんなの嫌ああああああっ!!」 ドアを開けて駆け込んでくる村雨と独歩。 かがみの恐慌する様に衝撃を受ける村雨の後ろから、独歩は大声で怒鳴りつける。 「やかましい!」 自らの肉体のみを頼りとし、空手の道では彼こそが第一人者と万人が認めるまでに上り詰めた男の一喝。 一瞬で部屋中から騒音が消え去る。 「村雨、ヒナギクの嬢ちゃんを隣の部屋に連れてけ。一緒になって騒がれちゃたまらねえ」 一種の錯乱状態である。 ヒナギクはかがみに対してどうすれば良いのかわからない。 かがみもかがみで一体何がどうなっているのかわからない。 そして村雨も、何故彼女達が混乱しているのかわからない。 そんな中でどうすべきかを力強く明示する独歩の言葉。 又、ヒナギクと村雨にとってはかがみを救う手段を、誰よりも早く、冷静に判断した独歩の言葉でもある。 その理由を問う事すらせず、村雨もヒナギクも独歩の指示に従ったのだった。 二人が部屋を出るなり、独歩はベッドの側にある椅子に腰掛ける。 「さて、かがみ。お前さんジグマールと戦った時の事ぁ覚えてるかい?」 かがみの真っ白になってしまった頭の中が、少しづつ整理されていく。 「あ、うん。……そうよ。ヒナギクが飛び込んで来て……それで……」 「ジグマールがアンタの腕を斬りおとしたと。思い出したか?」 独歩の言葉を聞くなり、背筋の凍るようなあの感覚を思い出す。 信じられない。もうこの腕は元には戻らないの? 「文句なり、恨み言なり言いたいってんなら直接ジグマールにでも言いな。それ以外は筋違いだぜ」 「そんなっ! ……そんな言い方って……わ、私だって好きでこんな……」 左腕が失われた。 恐ろしい、この先どうなるのか、どんな事になってしまうのか、まるで想像がつかない。 恐くて堪らない。何で私がこんな目に遭わなくてはならないの。 揶揄するように独歩は言った。 「こんな事になるぐらいだったら、死んだ方がマシ……ってか?」 怒鳴りつけるように肯定してやろうとして、辛うじて踏み止まった。 死ぬ。死んだ。この単語からすぐに連想出来る名前が頭に浮かんだから。 『つかさ、みゆき、灰原さん、桂さん、ハヤテ君……』 特にハヤテはその死を直接目にする事になった。 人が死ぬ。それがどういう事なのか。 止まらない血、深く抉られた傷、蒼白を通り越して土気色の表情、痛そうなんてものじゃない。 包帯の巻かれた自分の左腕を見下ろす。 全然違う。こんなんじゃ死んだりなんてするはずない。 急に恥ずかしくなってきた。 これ以上に痛くて、恐い思いをしたはずのハヤテは、最後のその瞬間まで一言もそんな事は言わなかったというのに。 ただ、大切な人を案じ続け、最後の時を迎えたというのに。 残った右手を強く握り締める。 「こ……こんなの……」 恐い、嘘ついてる。物凄く恐くて堪らない。けど…… 「こんなの、全然……どうって事無い……わよっ!」 言った。言ってしまった。もう引っ込みなんてつかない。 どんなに恐くても、そんな事無いって顔しなきゃならなくなった。 髪の毛が絶望的に薄いおじさんは、少し驚いた顔をしていた。 「ほお、なんでえ、まだ強がる根性残ってたか」 「強がってなんかないわよ! ほ、本当に全然、どうって事無いんだからっ!」 おじさんは何が楽しいのか、愉快そうに笑っている。ちょっと悔しい。 「笑わないでよ! バカ!」 なのでその顔目掛けて枕をぶん投げてやった。 敬老精神なんて言葉このおじさんにはもったいない。ふん、いい気味よ。 こいつは見誤った。流石にここまで生き残るだけあってタフな嬢ちゃんだ。 もう少し時間は居るだろうが、この調子なら自力で乗り越えていけそうだ。 女の身ながら、ウチの門下生に見習わせてえぐらいの良い根性してやがる。 となると残る問題はあの二人だな。 村雨は、まあ男だし自力で何とかしやがれ。 んでヒナギクの嬢ちゃんだが、ありゃマズイな。 かがみみてえにうまくは行かねえ……だろうなぁ。 いやコイツもこんなにうまく行くたあ思って無かったんだけどよ。 そんな事を考えていると、かがみが声をかけてきた。 「ねえおじさん、結局あの後どうなったの?」 ははっ、先にそいつが気になるか。 普通順番違うだろ、何より先にその腕が元に戻るかどうか訊ねるもんなんじゃねえのか? 全くもってイカした嬢ちゃんだ。克己の嫁に来てくんねえかな。 「いいぜ、あの後だな……」 やっぱ駄目だ。こんな良い女、克己にゃもったいねえや。 村雨は引きずるようにしてヒナギクを隣の部屋へと連れて行った。 そこはまだテナントが入っていないのか、がらんとした何も無い部屋で、村雨が明かりを付けると、申し訳程度のオレンジの光が部屋を包む。 幸い、あれ以上かがみの悲鳴が聞こえてくる事は無い。 独歩がうまくやってくれているのだろう。 かがみ蘇生の時といい、頼りになりっぱなしで申し訳なくなる。 「ねえ、かがみ……大丈夫だと思う?」 ヒナギクが虚ろな目でそんな事を尋ねてきた。 「かがみには独歩がついている。それよりお前の方がよっぽどヒドイぞ」 「え?」 やはり気付いて無かったようだ。 「顔中真っ青だ。それに震えが止まらんのだろう」 蘇生に成功した時のあの喜びに満ち溢れた表情なぞ欠片も残っていない。 膝が震え、自分の力ではとても歩けそうにない程だ。 「私なんてどうでもいいの。それより、かがみの腕……元通りになる?」 「…………」 返事などしようがない。 「ねえ! 元通りになるわよね! ねえってば!」 頼むからそんなにがなるな。そうだ、俺があの時ジグマールの手を読みきってさえいれば、あんな事には…… 「……私が、私があんな事しなければかがみは……」 驚いて顔をあげる。ヒナギクも俺と同じ事を考えている? 彼女の顔は完全に色を失い、混濁した瞳にはうっすらと涙を湛えている。 「つかさの時だってそうよ……私が、私さえもっと動けていれば……あんな事になんて……」 「それは違うぞヒナギク!」 自らを追い詰めて行く彼女を見ていられずに、その両肩を掴む。 「何が違うのよ! あのかがみが、あんなに強い彼女があんなにも動揺して……当たり前よ、腕が無くなったのよ? それで普通にしていられるわけないじゃない!」 「落ち着けヒナギク!」 「うるさいっ!」 力任せに村雨を振り払うヒナギク。 その手が偶然村雨の頬に当たる。 「あ……」 村雨はさして気にならなかったが、彼女は目に見えて落ち込んでしまう。 「また、やっちゃった……ごめんなさい村雨さん」 ハヤテが倒れ、ナギが亡くなった時と同じように動揺して、他人に当り散らす自らを恥じているのだろう。 それ以上言葉を発する事無く、俯き、床を見つめるヒナギク。 村雨も彼女にかける言葉が見つからない。 彼も又、同じ疑念を自らに問うている真っ最中で、それに答えを出せずに居るのだから。 随分長い間そのままで居る二人。 ヒナギクが僅かに残った他人を配慮する余裕を使い、村雨に声をかける。 「ごめん村雨さん、少し、一人にして……」 この言葉に抗う術を、今の村雨は何一つ持ち合わせていなかった。 一通り聞き終えると、かがみはベッドから半身を起こし、僅かに考え込んだ後、独歩の表情を伺うように上目遣いで問いかける。 「ねえ、もしかして……ヒナギクや村雨さん、気にしてるかな」 桂、そう呼ぶのに少し抵抗があったので、しれっと名前で呼んでみたのだが、案外違和感が無い。 「間違いねえな。どっちも責任感ありそうだしよ、特にヒナギクの嬢ちゃん何かはありゃヤベェわ」 「そうよねぇ。まずったな~、ああもう! 何だって私はこんなに弱いのよ! 頭に来るわ!」 独歩はそんなかがみを微笑ましそうに見ている。 「いや~、若いねぇ嬢ちゃん」 「……人が真面目にヘコんでるってのに、そんなやる気の無さそうな顔するのってあんまりじゃない?」 「…………」 どうやらかがみには微笑ましく見守る独歩の顔が、適当な愛想笑い浮かべているようにしか見えないらしい。 あまりといえばあまりな言葉に、逆に独歩が少しヘコんでしまうが、かがみは気付いてないのか自分の考えに耽る。 そこに、ノックの音と共に村雨が戻って来た。 まだ考えはまとまっていないので、つい慌ててしまうかがみ。 「わっ、わわっ。ちょ、ちょっと待って村雨さん」 「す、すまん。取り込み中だったか?」 驚いて部屋を出ようとする村雨。 そんな様を見て更に慌てるかがみ。 「へ? あ、違う違う! そうじゃなくって……えっと、その……」 こほんと咳払い一つ。 かがみの行動が全くわからない村雨は、首をかしげてそれを見ている。 「村雨さん、助けてくれて、ありがとう」 まずはこの一言。絶対にこれは言わなきゃならない言葉だった。 そしてこれを言ってから色々とフォローの言葉を繋げようと勢い込むが、村雨の様子が変なので言葉を止める。 「村雨さん?」 村雨は俯き加減のままなので、その表情は見えない。 良く見るとその両肩が小刻みに震えている。 「えっと……むらさめ……さん?」 くるっとこちらに背を向け、上を向く村雨。 「かがみ、調子はどうだ?」 何か声がくぐもって聞こえるけど、これは突っ込まない方が良いんだろうなと思ったかがみは、元気良く聞こえるように声を張り上げた。 あんな所見せちゃったんだ、きっと心配してるから、そんなの全然平気だよって、そう、伝わるように。 「うん! もう大丈夫よ!」 村雨の体がびくっと跳ねる。 少しの間、言葉を発せずに居た村雨が、擦れた声で口を開く。 「独歩、貴方は何でも出来るんだな」 鼻を鳴らす独歩。 「馬鹿言え、俺は何もしちゃいねえよ。この嬢ちゃんが凄ぇだけだ」 「……そう、だな。本当に素晴らしい人だと、俺も思う」 いきなりのこのお言葉。 下手な告白よりも照れるんですが。いや、告白なんてされた事ありませんが。 「ちょ! ちょっと村雨さんいきなり何言い出すんですか!」 ああ、ほらおじさんが調子に乗った顔してる。 「う~ん、この年になって愛の告白見る事になるたあなぁ。まあいいさ、これも縁だ。仲人は俺っちが引き受けてやるよ」 「おじさん!」 背を向けている村雨さんは、多分今笑っているんだと思う。 「それこそ馬鹿な話だ独歩。こんなに素晴らしい彼女に、俺何かが釣り合うはずないじゃないか」 ぬあ、何という切り替えしをしてくれますか村雨さん。 「だからそれはもういいっつーの! 照れるんだから勘弁してくださいよ!」 したり顔で頷くおじさん。おじさん、顔がタチ悪そうに笑ってるわよ。 「ほうほう、村雨には敬語で俺にゃ無しか。まあ年頃の娘だしな、そのぐらい受け入れる度量は俺にもあらぁ」 「さっきの自分の言動を振り返って下さい! ああもう! 何だってこんな事になってるのよ!」 やっと、村雨さんが振り返ってくれた。ほら、思ってた通り、背丈に似合わない可愛い顔で笑ってる。 「そうだな、今こうして笑っていられるのは、間違いなくかがみの人柄のおかげだ。ありがとう」 ……だーれーかー、この人なんとかしてー。 独歩、村雨(←コイツは天然)によるかがみんいじりも一段落すると、かがみは真顔で二人に提案する。 「とにかく、ヒナギクを何とかしなくちゃならないわ」 男二人もそれには同意する。 「ただ、彼女人一倍責任感強そうだし、下手な慰めや発破とかは逆効果な気がするのよ……」 それしか思いつかなかった村雨は、唸りながら考え込んでしまう。 独歩は真顔で自らの考えを述べてみる。 「……いっそ、よってたかってくすぐって、無理矢理笑わせちまうってのはどうだ?」 かがみと村雨に同時に睨まれ、すごすごと引き下がる独歩。 かがみは、こんな風にふざけてくれる独歩に随分と救われている。そんな気がした。 「でも、笑うってのは大事だと思う。ただそれだけで、色々と違ってくるんじゃないかなって、私は思う」 そしてかがみには、切り札、リーサルウェポンとも言うべき、一つのネタがあった。 「これなら、確実に笑ってくれると思う話はあるのよ。ただ、急にそんな話になっても、ちょっと流れが変かなってだから……」 無茶を承知で、かがみは村雨に問いかける。 「村雨さん、何か笑える話……無い?」 いきなりとんでもない事言い出されて、つんのめりそうになるぐらい驚く村雨。 「俺がか!? いや、そういう話なら独歩の方が適任な気が……」 「だっておじさん顔恐いし」 さらっとヒドイことを言うかがみ。 「それに、どうせなら格好良い人にそうしてもらった方が良いと思うのよ。ヒナギクも女の子だしね」 そしてトドメも忘れないかがみさん。 「……そりゃアレかい? かっこ悪くて人相も悪い俺っちはどんな面白い話してもダメって事かい?」 「女の子はデリケートなのよ」 かがみは、仕返しが出来て大層ご満悦な模様。 在り得ない無茶振りをされた村雨は、しかし、それがヒナギクの為になるのならと真剣な表情でネタを考え始める。 その様を見て、かがみと独歩は同時に思った。 『この調子じゃ絶対無理かも……』 『この調子じゃ絶対無理だろ……』 結局、ネタは三人で考える事になった。 独歩は時々かがみの様子を見ていたが、ベッドに座る彼女からは病人の気配を感じる事が出来なかった。 確かに核金という道具はある。それは今も継続して使用中だが、それにしても回復が早すぎる。 心停止していたのはついさっきだ。 その期間の長さから脳障害すら考えていたというのに、まるでそんな事無かったかのようなこの元気はどうだ。 彼女の生きようとする意志に、体が応えていると言わんばかりではないか。 どんなに強い意志があろうと、人は死ぬ。 ならば彼女の回復には意思以外に何かがあるという事だろうか。 彼女の身にまとう衣装を見て、不意に突拍子も無い発想が思いつく。 『神様のご加護があるってんじゃないだろうな』 バカバカしい、巫女服着ただけで神のご加護がもらえるというのなら、正月は日本中加護だらけになる。 そんな考えを振り払い、真面目に考えてみるも、独歩にその答えを導き出す事は出来なかった。 「とりあえず、あんまりに露骨なお笑いはダメよね」 視線を泳がせる独歩。別に目を逸らしているのではなく、何かアイディアの元になるものはないかと室内を探しているのだ。 「自然な会話の中で、ふっと笑みを溢すような……そんな話がベストだな。駄洒落系はどうだ?」 「それ露骨すぎない?」 「いや、村雨がやるってんなら、こいつは天然で通せるだろ。当人気付いてないが駄洒落になってるって……そんな感じだ」 独歩の言葉にかがみは嬉しそうに頷く。 「うんうん、それならいいかも。となると後はネタよね……かがみ、鏡は基本として、後は……」 何やら相談しながらその内容を独歩が紙に記してゆく。 正直、聞くに堪えない。そんな駄洒落が次々と出されていく中、村雨はぽつりと呟いた。 「……なあ、俺達何やってんだろうな?」 すぐさまかがみにどやされる。 「それは言うな! ……というかお願いです、正気に戻るような事言わないでください。やってるこっちがやるせなくなってくるから……」 練習する事十三回。 馬鹿げているとは思いつつも真剣に取り組んだ村雨は、かがみ独歩プロデュースのネタ本を完全に暗記し終えていた。 恐ろしく緊張する。 このネタ本には、かがみと独歩のヒナギクが元気になって欲しいという願いが込められているのだ。 それらを村雨は一身に背負い、何としてでもヒナギクを笑わせてやらなければならない。 ヒナギクの居る部屋の前で深呼吸。 強張った顔では、決してヒナギクは笑ってはくれないだろう。 意を決してドアを叩く。 「居るかヒナギク? 入るぞ」 さっき出ていった時と寸分違わぬ部屋。 薄オレンジの明かりが、時折点滅しながら室内を照らす。 この部屋に居る。それを知っていなければ見落としてしまったかもしれない。 そんな薄暗い部屋の隅に、ヒナギクは座り込んでいた。 この部屋の殺風景な広さが、彼女の孤独を更に際立たせているようだった。 胸が苦しくなる。 こんな所に一人残してすまなかった。 今、俺が側に行ってやる。 「ヒナギク……」 俺があの二人にどれだけ救われたか。 お前にも、同じ悩みを抱えるお前にも伝えてやりたい。 あんなにも心優しい二人が、俺達を心配してくれてたんだ。 「今、かがみと話をして来た」 かがみという単語が出ると、僅かにだけ反応してくれた。 「隣、座るぞ」 返事を待たずに隣に座る。だらしなく片足を伸ばし、片膝を曲げた楽な姿勢だ。 「俺を見るなり、かがみ何て言ったと思う?」 やはり返事は無い。それでも構わない。聞いてさえくれていれば。 「ありがとう、と。助けてくれて、ありがとうと言ってくれた……俺はあの一言で不覚にも泣き出しそうになった」 今、ヒナギクはどんな顔をしているだろう。 「あの一言で、俺は何処まででも戦い抜ける。そんな言葉だった」 不意に左手に何かが触れる。 そちらを見ると、ヒナギクは村雨の手の上に自らの手を添えながら、信じられないといった顔で首を横に振っていた。 何度も何度もそうしていた。 「……だって、かがみあんなになって……それなのに……」 俺は今どんな顔をしているだろう。 この子を安心させられる。かがみのような、独歩のような顔が出来ているだろうか。 「ほんの少しの間だ。ヒナギクとここで話をして、戻ったらもうかがみだった。強くて優しいかがみだった」 添えられた手を引きながら立ち上がる。 「かがみが待ってる。行こうヒナギク」 手を引かれるままに立ち上がるヒナギク。しかしその表情は晴れない。 「俺を、独歩を、そしてかがみを信じろ」 泣き笑いのような、そんな複雑な顔で、それでもヒナギクは村雨に付いてきてくれた。 かがみの寝る部屋の前。 そこで村雨はもう一度訊ねる。 「かがみが待ってる。行けるな」 随分と間が空いた。 村雨は答えを急かすような事はせずにじっと待つ。 彼女の中でどんな葛藤があるのか、手に取るようにわかる村雨はただじっと待っていればよかったのだ。 きっと、彼女は…… 「…………うん」 ほらな。心根のまっすぐなこの子だから、絶対にこう言ってくれると思っていたんだ。 ドアを開け、部屋に入っていくヒナギク。 「あ、ヒナギク! あのね、まず最初に言いたい事が……」 そうそう、この瞬間がとんでもなく恐ろしいんだ。 「……ありがとう、助けてくれて」 それで引っ張っておいてこれだ。こっちの心臓が止まるかと思ったぞ。 「かがみっ!」 そう叫び、駆け寄る音が響いてくる。 「ごめんね、ごめんね、ごめんねかがみ……」 そこまで聞いた所で静かに扉を閉める。 俺の役目はここまでだ。 かがみ、やはり伝えたい想いがあるのなら、君が直接彼女に伝えた方がいい。 きっと、その方がいいと俺は思う。 二人っきりにしてやろうと部屋の前を離れ、廊下を歩くとその先に独歩が待っていた。 「よう、うまくいったかい?」 この男には、何でも見透かされていそうだ。 「ああ、後はかがみに任せるさ。独歩は行かなくていいのか?」 両手を広げる独歩。 「ぶさいくで悪党面の俺の出る幕は無いとさ」 本当に、この男は人を笑わせるのがうまい。 「何だ、拗ねているのか?」 「うるせえ」 大人なのか子供なのかまるでわからない。 ふと、思い出した事があって村雨は独歩に問う。 「そういえば、随分と零を見ていないが、あいつはどうした?」 「あ」 すぐにビルの外へと駆け出す村雨と独歩。 零は、かがみを寝かせていた場所のすぐ側に、ちょこんと所在無く佇んでいた。 『……思い出してくれたのならそれで良い』 そうぽつりと呟いた零は、ほんの少しだけ寂しそうだった。 ハヤテ、お前には申し訳ないと思っている。 俺は今すぐにもそちらに行って、お前に詫びなければならないのに。 こんな俺にも、守りたいと思う人達が出来てしまったんだ。 なあハヤテ。そんなに待たせるつもりは無いが、後少しだけ。 彼女達が平和な世界に戻るまで、ほんの少しだけ、待っていてはくれないか。 きっと俺がこうして今ここに居るのは。 その為だと思うから。 「でね、そこでバス停のベンチに座ったら、そこにこなたが来たのよ」 ベッドから上半身だけを起こした状態で、ベッドのすぐ側にある椅子に座るヒナギクにかがみは話しかける。 「友達のこなたさんよね」 「そうそう、まあどうしようもない奴なんだけどね。それでそいつがまた下らない話ばかりしてくるの。夢の中でまでお前何してんだと」 最初の頃に比べれば、ヒナギクの表情も幾分か柔らかくなってきたと思う。 それでもまだだ。まだこんなものじゃ足りない。 「色々と話したなぁ。そんな事してたら、遂に待ってたバスが来たのよ。これ乗っていけばいいのかなって」 「うんうん。それで?」 「こなたは先に乗ってたから、じゃあ私もって思ったら、急にさ……その……」 「ん?」 妙に話しづらそうにしているかがみを見て、ヒナギクは不思議そうに問い返してくる。 えいくそ、いいわよ。言ってやるわよ。 「その時急に……」 「は? ごめん、かがみんもっぺん言って?」 バス乗り込み口から怪訝そうにそう問い返すこなた。 コイツ、絶対わかってて言ってるんだ。相変わらずムカツク。 「……だから、ちょっと……その、お腹が……痛いかなって……だから」 「お腹?」 あー! もう! 結局最後まで言わせる気か! デリカシーの無さは変わらんなコイツは! 「ちょっとおトイレ行ってくるって言ってるの!」 全く、このぐらい察しなさいよ。 えっと、おトイレは……あれ? トイレ何処かに無かったっけ? ってあれ? バスは? こなたは何処? あれ? ヒナギクは流石に二の句が告げない模様。 「いやね、後から考えるとお腹っていうより、ちょっとその上だったかなぁなんて思うんだけど。ほら、何せ夢だからそういう細かい所まで気付かないって言うか……」 ほけーっとした顔でこちらを見ているヒナギク。 「独歩さんに聞いたけど、私危なかったんでしょ? そうやって考えるとあのバスってつまりアレだったのかなぁなんて思ったりして……」 右手でベッドをどんと叩く。 「大体なんでこなたなのよ。普通こういう時ってもっとこうかっこいい男の人とか、そういう流れじゃない。何だってアイツはいつもいつもいつもいつも……」 あれ? ヒナギク俯いちゃった。 もしかして……私外した? 思いっきり外しましたー!? ゆっくりと、顔をあげたヒナギクは、ようやく、本当ようやく。 可愛い顔立ちに似合いの、最高の笑顔を見せてくれました。 ええ、このためなら恥も外聞もどうでもいいわよ。 どうせ私はトイレで帰ってきた女よ! うっさい、文句あるか! バスの中、もう何度目になるか、思い出し笑いをするこなた。 「普通さ、あそこで『おトイレ行ってくる』は無いよねぇ。もう駄目、笑いすぎてこっちのお腹が破裂しそう」 同乗しているつかさもいまだに笑いを堪える事が出来ずにいる。 「お姉ちゃん面白すぎ。もう色んなものどっかに飛んでっちゃいそうなぐらいおかしかったよ」 「最後までかがみんは予想の斜め上を決めてくれたねぇ。グッジョブかがみん!」 「心配し甲斐が無いっていうか、どっか違うのがお姉ちゃんらしいって言うか」 もう見えなくなってかなり経つが、かがみが居た方に向かって振り向く二人。 「じゃあねお姉ちゃん。向こうに帰ってもその調子で元気でね」 「かっがみーん! 冥土の土産は確かに受け取ったよー! やっぱかがみんは最高だー!」 【D-2 南部 2日目 黎明】 【愚地独歩@グラップラー刃牙】 [状態]:体にいくつかの銃創、頭部に小程度のダメージ、左肩に大きな裂傷 [装備]:キツめのスーツ、イングラムM10(9ミリパラベラム弾32/32) [道具]:なし [思考・状況] 基本:闘うことより他の参加者 (女、子供、弱者) を守ることを優先する 1:ヒナギク、かがみ、村雨と情報交換する。 2:ジグマールを見付け出し倒す。 3:学校へ行き、アカギと合流。鳴海の事を伝える。 4:ゲームに乗っていない参加者に、勇次郎の事を知らせ、勇次郎はどんな手段をもってでも倒す。 5:その他、アミバ・ラオウ・ジグマール・平次(名前は知らない)、危険/ゲームに乗っていると思われる人物に注意。 6:乗っていない人間に、ケンシロウ及び上記の人間の情報を伝える。 7:可能なら、光成と会って話をしたい。 8:可能ならばエレオノールを説得する。 9:手に入れた首輪は、パピヨンか首輪解析の出来そうな相手に渡す。 [備考] ※パピヨン・勝・こなた・鳴海と情報交換をしました。 ※刃牙、光成の変貌に疑問を感じています。 ※こなたとおおまかな情報交換をしました。 ※独歩の支給品にあった携帯電話からアミバの方に着信履歴が残りました。 【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】 [状態] 顔と手に軽い火傷と軽い裂傷。右頬に赤みあり。 [装備] バルキリースカート@武装錬金 [道具] 支給品一式。ボウガンの矢17@北斗の拳 [思考・状況] 基本:BADANを倒す。 1:村雨、かがみと共にS7駅で覚悟と合流する。その後、首輪、BADAN、強化外骨格について考察する。 2:ラオウ、斗貴子に復讐する。(但し、仲間との連携を重視) [備考] ※参戦時期はサンデーコミックス9巻の最終話からです ※桂ヒナギクのデイパック(不明支給品1~3品)は【H-4 林】のどこかに落ちています ※核鉄に治癒効果があることは覚悟から聞きました ※バルキリースカートが扱えるようになりました。しかし精密かつ高速な動きは出来ません。  空中から地上に叩きつける戦い方をするつもりですが、足にかなりの負担がかかります。 【村雨良@仮面ライダーSPIRITS】 [状態]全身に無数の打撲。 [装備]十字手裏剣(0/2)、衝撃集中爆弾 (0/2) 、マイクロチェーン(2/2) 核鉄(ピーキーガリバー)@武装錬金 核鉄(モーターギア)@武装錬金 [道具]地図、時計、コンパス 454カスール カスタムオート(0/7)@HELLSING、13mm爆裂鉄鋼弾(35発)、ニードルナイフ(15本)@北斗の拳 女装服     音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾、ベレッタM92(弾丸数8/15) [思考] 基本:BADANを潰す! 1:ハヤテの遺志を継ぎ、BADANに反抗する参加者を守る 2:かがみ、ヒナギクの安全の確保後、ラオウを倒しに行く。 3:ヒナギク、かがみと共にS7駅で覚悟と合流する。 4:ジョセフ、劉鳳に謝罪。場合によっては断罪されても文句はない。 5:パピヨンとの合流。 [備考] ※傷は全て現在進行形で再生中です ※参戦時期は原作4巻からです。 ※村雨静(幽体)はいません。 ※連続でシンクロができない状態です。 ※再生時間はいつも(原作4巻)の倍程度時間がかかります。 ※D-1、D-2の境界付近に列車が地上と地下に出入りするトンネルがあるのを確認しました。 ※また、零の探知範囲は制限により数百メートルです。 ※零はパピヨンを危険人物と認識しました。 ※零は解体のため、首輪を解析したいと考えています。 ※記憶を取り戻しました 【柊かがみ@らき☆すた】 [状態]:全身に強度の打撲、左腕欠損(止血済み)、休息により(?)それなりに回復 [装備]:巫女服 [道具]: [思考・状況] 基本:BADANを倒す 1:みんな元気になれっ……もちろん自分も 2:村雨、かがみと共にS8駅で覚悟と合流する。その後、首輪、BADAN、強化外骨格について考察する。 3:仲間と共にジョセフと合流。 4:さっき見た首輪の異変について、考えてみる。 5:神社の中にある、もう一つの社殿が気になる。 6:ジョセフが心配。 7:こなたと合流する。 8:つかさとハヤテ、ナギの死にショック(大分収まり、行動には支障なし) 【三人の備考】 ※一通りの情報交換は終えています ※神社、寺のどちらかに強化外骨格があるかもしれないと考えています。 ※主催者の目的に関する考察 主催者の目的は、 ①殺し合いで何らかの「経験」をした魂の収集、 ②最強の人間の選発、 の両方が目的。 強化外骨格は魂を一時的に保管しておくために用意された。 強化外骨格が零や霞と同じ作りならば、魂を込めても機能しない。 ※3人の首輪に関する考察及び知識 首輪には発信機と盗聴器が取り付けられている。 首2には、魔法などでも解除できないように仕掛けがなされている ※3人の強化外骨格に関する考察。 霊を呼ぶには『場』が必要。 よって神社か寺に強化外骨格が隠されているのではないかと推論 ※BADANに関する情報を得ました。 【BADANに関する考察及び知識】 このゲームの主催者はBADANである。 BADANが『暗闇大使』という男を使って、参加者を積極的に殺し合わせるべく動いている可能性が高い。 BADANの科学は並行世界一ィィィ(失われた右手の復活。時間操作。改造人間。etc) 主催者は脅威の技術を用いてある人物にとって”都合がイイ”状態に仕立てあげている可能性がある だが、人物によっては”どーでもイイ”状態で参戦させられている可能性がある。 ホログラムでカモフラージュされた雷雲をエリア外にある。放電している。  1.以上のことから、零は雷雲の向こうにバダンの本拠地があると考えています。  2.雷雲から放たれている稲妻は迎撃装置の一種だと判断。くぐり抜けるにはかなりのスピードを要すると判断しています。 ※雷雲については、仮面ライダーSPIRITS10巻参照。 ※かがみの主催者に対する見解。 ①主催者は腕を完璧に再生する程度の医療技術を持っている ②主催者は時を越える"何か"を持っている ③主催者は①・②の技術を用いてある人物にとって"都合がイイ"状態に仕立てあげている可能性がある ④だが、人物によっては"どーでもイイ"状態で参戦させられている可能性がある。 ※首輪の「ステルス機能」および「制限機能」の麻痺について かがみがやった手順でやれば、誰でも同じことができます。 ただし、かがみよりも「自己を清める」ことに時間を費やす必要があります。 清め方の程度で、機能の麻痺する時間は増減します。 神社の手水ではなく、他の手段や道具でも同じことが、それ以上のことも可能かもしれません。 ※ステルス機能について 漫画版BRで川田が外したような首輪の表面を、承太郎のスタープラチナですら、 解除へのとっかかりが見つからないような表面に 偽装してしまう機能のことです。 ステルス機能によって、首輪の凹凸、ゲームの最中にできた傷などが隠蔽されています。 ※S1駅にハヤテのジョセフに対する書置きが残っています。 ※ボウガン@北斗の拳と強化外骨格「零」(カバン状態)@覚悟のススメとクルーザー(全体に焦げ有り)はD-2 南部の路上に置いてあります。 |225:[[こころはタマゴ]]|[[投下順>第201話~第250話]]|227:[[鬼が来たりて笛を吹く]]| |225:[[こころはタマゴ]]|[[時系列順>第5回放送までの本編SS]]|227:[[鬼が来たりて笛を吹く]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|愚地独歩|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|村雨良|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|桂ヒナギク|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| |223:[[深い傷を抱いて、繰り返そう 悲劇が待ってたとしても……!]]|柊かがみ|229:[[心を縛るものを ひきちぎればすべてが始まる]]| ----

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