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**集結 ◆1qmjaShGfE 社の中で対峙する赤木シゲルと服部平次。 赤木はナイフを手に持ち、対する服部は無手のままだ。 微笑を浮かべながら服部への間合いを一歩、また一歩と詰める赤木。 その行為に赤木の意思を感じた服部は、唾を吐き捨てると懐に持っていた核金を手に取り叫ぶ。 「武装錬金!」 ソードサムライXの武装錬金は剣道を嗜む服部には、ありがたい武器である。 しかし、その核金は服部の声に応えてはくれない。 首輪を外した事で、核金の能力が失われているのだ。 服部にはそれに驚く間も与えてはもらえなかった。 赤木の素人とは思えぬ踏み込みであっという間に懐に入り込まれる。 まっすぐ服部の心臓を狙った赤木のナイフは、即座に核金を諦めた服部の左手に手首を捕まれる事で、胸前数ミリの所で停止していた。 「……ちょっとは躊躇とかしたらどうや。可愛げの無いやっちゃ」 「そんな間抜けが生き残れると思うか」 「そういう善人は生き残る価値があんねん!」 叫びながら上体を捻りつつ赤木に蹴りを放つ。 同時に動いていた赤木の蹴りと絡まり合い、双方体勢を崩す。 しかしやはり武器を持っている方が有利である。赤木が体勢を崩しながらも真横にナイフを凪ぐと、服部の胸部を覆うシャツがまっすぐに切り裂かれる。 皮一枚、と肉が少々。服部の被害はそんな所だ。 荒事慣れしていない者なら、これだけで戦意喪失しそうなものだが、当然服部平次を止めるのにその程度では役不足だ。 とはいえ、無手ではいかにもこちらが分が悪い。 核金が反応しない理由に既に思い当たる節のある服部は、核金には固執していなかった。 同じ理由で支給品の武具全てが疑わしく感じられたが、赤木がナイフを使用している事から、とある一つの武器はおそらく使用可能と考える。 問題はそれが入ったバッグの落ちている場所まで行って、暢気にそれを取り出すなんて真似を赤木が許してくれそうに無い点だ。 赤木の立ち回りからはこれといった格闘技の動きを見出す事は出来ない。 しかし、シャープな踏み込みとナイフの振るい方から察するに場慣れはしているようだ。 こちらは剣道有段者である、武器が無かろうとおいそれと素人に遅れをとるような事は無いが、この底知れぬ男が相手となるとそんな自信も消えてしまいそうだ。 服部はほんの一瞬悩んだ後、直接聞いてみる事にした。 「ちょっとタンマや。俺の武器バッグの中なんやけど取ってきてええか?」 赤木は鼻腔から息を漏らすように軽く笑うと、快く承諾する。 「ククク……好きにしろ」 「さよかっ!」 赤木の承諾を得るなり、一歩の助走で服部は大きく宙へと飛びあがる。 たったそれだけの助走距離で一メートル近く飛びあがった服部は、狙う目標、赤木の頭部目掛けて必殺の飛び蹴りを見舞う。 頭部への重い打撃は対象の動きを鈍らせる。 それはナイフを急所に刺された時のような致命的な隙となろう。 もちろんそんな大技をいきなりもらう程赤木も弱くはない。問題は、この一撃をどう捌くかである。 これにナイフで同時反撃を試みるのは愚策。 せいぜい相手の足をどちらか片方使用不能にするぐらいしか出来ず、相手の飛び蹴りを体の何処かにもらう事になる。 ならば、大きく身をかわして着地の隙を狙うか。 おそらくこれが最善であろう。着地の状態を予想し、服部から死角となるような位置に移動しておけば万全の体勢で次へと繋げる事が出来る。 服部のそれへの対処案があったとしても、体勢の不利さは覆ようもない。 しかし、赤木はそんな妥当な案に乗らなかった。 まっすぐ服部に向かって一足飛びに飛び込む。 否、正確には飛びあがった服部の真下に滑り込むように低い姿勢で駆け込んだのだ。 同時に逆手にもったナイフを体を大きく捻りながら服部へと突き上げる。 これをやっては赤木の体勢も大きく崩れる事になるが、ここで狙う服部の胴への一撃がなされればそんな事を考える必要も無くなる。 赤木の動きを見るなり、服部が空中で無理矢理向きを変えにかかる。 左足の踵を赤木に向けて大きく振る。 これは赤木への打撃というよりは、防御の為に振ったというべきだろう。 服部の顔の位置からだと、赤木の動きは見えないはずだから、ただ赤木が避ける為だけに前へと飛び込んだ訳ではないと読んだ故の動きだ。 もちろん赤木が振り上げた腕の位置も見えておらず、分の悪いギャンブルである。 ただ、実は赤木からも服部の位置が正確に見えてはいなかったのだ。 前へと踏み込んだのだし、何より下を向いた状態から上向き側へ体を捻り、それに乗せて腕を振るいでもしない限りナイフが刺さる程の力は生み出せない。 二人は交錯し、赤木は前へと突っ込んだ勢いで滑るように、服部は空中で無理に前に回転したため顔面から地面へと落ちつつ、ごろごろ転がりながら立ち上がる。 腿の辺りから血を流しつつ、服部は赤木を睨む。 赤木は赤木で狙い通り、服部の鞄のすぐ側で立ち上がって服部に再度対峙する。 これがこの会場に参戦していた数多の猛者達相手ならば、どちらもこの交錯で命を落としていただろう。 しかし赤木は服部を刺し殺す事は出来ず、服部も赤木を蹴り飛ばす事すら出来ずにいる。 『くっそこの顎、嫌な事嫌な事ばっかしてきよる……』 服部が考える最も勘弁してほしい選択肢をさらっと選んで来る。 そしてこちらの選択肢を狭めるような動きを常に忘れないのだ。 村雨や覚悟のような圧倒的な強さではないが、やる事なす事が一々いやらしくこちらの考えに絡み付いてくる。 服部の考える最も勘弁して欲しい選択肢。 これは一応可能性の一つとして頭の中に入ってはいた。極めて薄い可能性ではあったが。 説明はしていないので、確かに気付かない可能性はある。だが少し、そうほんの少し考えればわかる事だ。 そんな真似をあの………… 「何処だ服部いいいいいい!!」 社の最深部、首輪の制限のせいでまともに身動きも取れなくなるような場所。 そこに、ジョセフ・ジョースターが乱入してくる。 閉めておいた扉を両手で力強く叩き開け。 よっぽど辛いのだろう、顔中から脂汗を流している。 にもかかわらず第一声から服部を気遣う言葉、それほど心配だったのだ。 そんなジョセフに、服部平次が真っ先に思った言葉はこれだ。 『こんのドアホオオオオオオオオオオオ!!』 一瞬で赤木とアイコンタクト。 この小憎らしい男は決して愚か者ではない。 ならば事態の重大さを理解してくれるかと思い期待を込めてそちらを見たが、彼もすぐに察してくれる。 赤木が手に持ったナイフを服部に向けて放り投げる。 目の前の床に落ちたそれを拾い上げた服部は、赤木にナイフの刃を持ちながら柄を突き出す形で返す。 休戦は成立。同時に二人は動き出す。 「へ? 何だよお前ら……」 赤木は右、服部は左、それぞれジョセフの脇を掴んだまま猛烈な勢いでダッシュ。 「ちょっと待て! 何だよ! 何なんだっての!」 二人に引きずられながらジョセフが何やらほざいているが、返事はしない。少しでも迷いの種は残しておくべきだ。 あっという間に社を飛び出し、外のお手水のある場所へと。 何も言わずともわかってくれた赤木と共に、息ぴったりのコンビネーションでそのお手水の中へとジョセフの頭部を叩き込む。 ジョセフからの文句が聞こえてくる前に、服部はかがみより教わった祝詞を唱え、同時に赤木がジョセフの首輪解除作業に入る。 BADAN首輪解除コンテスト筆頭優勝候補として名乗り出たくなるぐらいの速度で、あっという間に首輪が外された。 同時にジョセフが赤木を突き飛ばしながらお手水の中から体を起こす。 「てめえらどういうつもりだ!」 ジョセフは激怒している。当然だろう。 だが、怒りたいのはこっちだ。 「やかましい! いいからさっさと行くで!」 ジョセフの怒りを宥めようともせず服部は駆け出す。赤木もそれに続く。 「お、おい待てって! 何だよ! 何がどうなってんのか説明しろって!」 身体能力はこの三人の中で最も高いジョセフもすぐに追いついてきた。 走りながら服部は、ムカムカする頭を冷やしつつ説明する。 「あのな、もう首輪の反応も無い、既に死んだはずの奴の名をあの状況で呼んだら、BADANの奴等どう思う? 首輪自力で外したんちゃうと考えんか?」 前後の状況から服部が首輪の反応を失った、つまり死んだ時ジョセフも側にいたはず。 ならば、極稀な例外を除きジョセフは服部死亡を知っているはずなのである。 そのジョセフが服部の名を呼びそれを探し回る。錯乱して奇行に走ったと取る事も出来るかもしれないが、普通は別の受け取り方をする。 首輪の安全面に関して危機感を少しでも持っている人間ならば、首輪解除の可能性を当然考えるはずだ。 そして…… 「そんでな、BADANの連中に俺等が首輪解除の手段持ってるてバレたらどないなる?」 「あん? ……そりゃ、おめぇ……」 赤木が並走しながらすぐに答える。 「この殺し合いが成り立たなくなる……なら、全てをご破算にしてもおかしくはない。自衛の意味でもな……」 そこまで言われてようやく気付いたようだ。 「あー、そりゃーあれだお前、つまりだな、えっと…………ごめんなさい? これでいい?」 「いいわけあるかああああああああああああ!!」 やっぱり全て冷静なままで話をするのは不可能な服部であった。 監視カメラの映像は幹部である者の特別のコードを用いれば自室の端末にて確認が出来る。 これは映像に限らず音声もだが、基本的にはあまり推奨出来ないといわれている。 セキュリティ上の問題、そう言う科学者達の言葉を理解していないわけではないが、つい利便性を優先させてしまう。 セキュリティ永遠の課題であろうそれに、葉隠四郎も打ち勝つ事は出来なかった。 モニターに強化外骨格『凄』の姿が映し出される。 機能美の極地、崇高で偉大なその姿は見ているだけで四郎に安堵感を与えてくれ…… 「………………………………キズ?」 全身が凍りつく。 苦労に苦労を重ねて作り上げた傑作に、傷がついている。 慌ててカメラを操作して室内を映し出すと、室内に一箇所、明らかに外部からのものと思われる破損箇所が見つかった。 外から飛び込んできた『何か』が凄に傷をつけたと思われる。 衝撃のあまり身動きが取れなくなるも、すぐにより重大な事実に気が付く。 焦りに焦った表情で部屋を飛び出す四郎。 凄は四郎の功績である。これあるからこそ新参者であるはずの四郎が重用されているのだ。 そんな凄があっさり破損するようなシロモノだったとわかった日にはどうなるというのか。 原因を追究する必要がある。それも他の者には内密に、大至急だ。 盗聴室に居る奴等ならばこの周辺で起こった出来事を知っているだろう。 四郎は大慌てで室内を後にする。 後ほんの数秒、それだけの差で四郎は服部と赤木の姿を確認し損ねた。 ジョセフが来なかったら間違いなく見つかっていただろう。 正に値千金なジョセフの突入であったのだが、不幸な事にジョセフも服部も赤木も、葉隠四郎ですらそれを知りえなかった。 服部の望む僅かなタイムラグ、それはその必要性を作り出したジョセフ自身の手によってもたらされていた。 「赤木! ジョジョ! 待ち合わせ場所は既に禁止区域や! 学校に行った連中はおそらくそのまま学校で待機しとるやろ! そっちに向かうで!」 走りながら行く先を説明する服部、ついでにバッグからメモを取り出し何やら書き込んでいる。 ジョセフは器用なもんだと感心しながら訊ねる。 「よう、独歩はどうすんだよ」 独歩の向かった先は11時から禁止エリアとなる。 バッグの探索だけならさして時間もかからないだろうから、とうにその場は離れているだろうが集合場所が禁止区域となっている以上そこで選択を迫られているはず。 「多分ぎりぎりまで集合場所で待って、その後で移動したと思う。移動先は、村雨達と他に約束したとかでなければ、人数も多いし学校行ったやろな」 三人は走る、ひたすらに。 既に手遅れの可能性もある。 これだけの大仕掛けである。これを全てご破算にするのは幾つかの段取りが要るだろう。 間違っても盗聴器をチェックしている人間がいきなり爆破を決定出来るはずもない。 最高責任者に確認を取り、判断を仰ぐという流れはBADANとて同じのはず。 そしてその最高責任者の判断もそう簡単には降りないはず。 何度もチェックし、内容を吟味した上で判断を下すはず。 必ず猶予の時間はある。それを信じて服部は走る。 隣を走る顎男が一切文句を言わないのがせめてもの救いだ。 この男も服部と同じように判断したからこそ、殺し合いから一転して協力してくれているのだろうから。 仮にも戦闘中であったのだ。いつ隙を付かれるかわかったものではない現状にありながら、平然とそうしてくれているこの男。 BADAN打倒を考えているのなら、何よりも優先してこう動くべきだろう。 そういう服部からの無言のメッセージをあっさりと受け取って確実にこなす。 一言も発せずにジョセフの首輪解除に動く所などは、内心感嘆の息を漏らしたものだ。 この男とのこうした言葉によらぬやりとり自体は嫌いではない。 服部はほんの少しだけ工藤新一を思い出して、すぐにそれを考えるのを止めた。 ――三戦(サンチン)。  攻撃防御の両面に優れ、何よりバランスのよさが特徴の構え。  独歩は弟子に自ら伝授するほど、その構えを得意とする。  外部からの衝撃に強い体勢で、バットで殴りつけさせて体の鍛え方を誇示する時にも使われる類のもの。 そんな空手の極意のような構えは、どうやら当人にしか通用しないものらしい。 マンションの壁に斜めに突っ込んでボンネットから煙を噴いている車を前に、独歩はそんな事を考えていた。 人の居ない街並みを自由気ままに走り回る。 これは思いのほか楽しい作業であり、また途中別の事を色々考えていた結果でもあった。 そんなこんなで徒歩にて例の場所へと戻ったのだが、やはりまだ誰も戻ってはきていない。 リミットまではまだ少し時間がある。 ならばと考えた独歩はホテルの中へと入っていき、フロントで鍵を手に入れ勝手に部屋へと入り込む。 「そういやあいつら、ここ来て風呂とか入ったのかね?」 自分は二度目になるシャワータイムと洒落込むつもりの独歩はそんな事を呟いた。              _(こ^)、_             〃、__ノノ、__,ヽ               {.っ>  <っト、             (⌒i  (千于`ー┴'─────┐          (O人  `ー|                |            /⌒ヽ(^う 見せられ.      |            `ァー─イ    ないよ!   |            /  (0::|__________|              /\____/           /   /  ⌒ヽ       ___/  / ̄ ̄`)  ノ      (__r___ノ     (.__つ 「ふう、さっぱりしたぜ」 洗面所で無精ひげも剃り、汚れた衣服をホテルの外で見つけたカジュアルショップから持ってきた物に着替える。 どこかの元全裸さんとは違い、あっさりと着替えも見つかる辺り、日頃の行いに差でもあるのだろう。 紅を引く覚悟ではないが、やはり大勝負の前となればこういった所にも気を遣うべきだ。 戦場に赴く前の時間を幾たびも経験している独歩ならではの準備である。 これは他の若い者達にはそうそう出来ない余裕というものだろう。 ひとっ風呂浴びたはいいが、やはりまだ誰も戻る様子は無い。 ならば、神社か学校かに向かうべきか。 人数比から考えるに、とりあえず学校にでも行こうか。 独歩の考えはその程度であった。 この自然な思考が幸いし、彼は一つの危機を回避する事となる。 定時放送が終わった後、首輪盗聴作業室ではBADAN監視員十六名程、欠伸を堪えながら盗聴を行っていた。 放送室にても盗聴は可能だが、そのすぐ隣の部屋にも盗聴施設を整えており、常時の監視はここにて行っている。 元々は別目的で用意された部屋なのだろう。 ごてごてしい機械の山とは別に、仮眠用のパイプベッドがかなり無理矢理な形で数台置かれている。 彼等は改造人間ではない。 皆拉致されてきた人間であり、BADANに従うのなら命は助けてやるとの言葉に一も二もなく飛びついたのだ。 暗闇大使率いるBADAN改造人間の恐ろしさは彼等が一番良く知っている。 が、いい加減付き合いも長くなってくるとどう対処すればいいのかもわかってくる。 幹部候補改造人間やエリートコマンドロイドの顔(というか形)を覚えておき、彼等にだけ注意すれば後は人形と一緒だ。 決められた内容に逆らわなければ大抵の事は好きにやれる。 だからこそチャットを用いた麻雀などという物まで存在するのだ。 福利厚生だの賃金だのを無視すれば、食事も悪くは無いしそれなりの職場環境だ。 などと人権という概念にさして思い入れの無い、他者より自分を優先する者達は考えていた。 何にせよ、死ぬよりかは遙かにマシなのである。 良きにつけ悪きにつけ、人間とは慣れる生き物なのだ。 不意に盗聴室の扉が開く。 そこから顔を出してきたのは、いわゆる要注意人物、幹部候補の三人であった。 軽薄そうな若い男の外見を持つジゴクロイド、妖艶な美女姿のカマキロイド、杖をついた老人カニロイドの三人。 気分屋でこちらの事など虫けら以下としか思っていない無法者達。 いつも三人揃って行動している事と、暗闇大使を父と呼ぶ事から『暗闇三兄妹』などという捻りも何も無いネーミングで呼ばれている。 ドロンジョ、トンズラ、ボヤッキーの三バカでも通じるが、これは間違っても当人達を前に口には出来ない事だ。 にやにやとしまりのない顔で通称ボヤッキーことジゴクロイドが、盗聴用ヘッドホンを耳に当てていた者からヘッドホンをひったくる。 十六人は誰一人欠ける事なく、彼等が入室すると同時に立ち上がって礼をしているというのに、完全に無視である。 「ようよう、何か面白い事起こってねえのかよ?」 ここでバカ正直にそのまんまを口にすると、ボヤッキーの逆鱗に触れる事になる。 監視員A君は慎重に言葉を選んだ。 「はいっ。先ほど優勝候補の二人が死亡しましたが、葉隠覚悟、村雨良、愚地独歩、ジョセフ・ジョースター、エレオノールといった猛者達は健在であります。それ以外ではこれといって目立った事はありません」 ここで間違っても積極的に殺し合いを行う者は全て死亡しました、などと言ってはいけない。 暗闇大使考案の今作戦を少しでも否定するような言葉はNGなのだ。既にそれにより犠牲になった者も居る。 「そうかい、問題無いのはいい事だけどよ。少しは俺達の手を煩わせるような事も起きてもらわねぇと暇でしょうがねえよ」 そんな事アンタに報告したら、こっちの命が危ないだろ。 といった言葉を飲み込んで男は無言で頭を下げる。 そこで、意を決したように一人の監視員が前へと出た。 「一つ、気になる事がありまして……その、報告するような事ではないのですが、よろしければお耳に入れておきたいと思うのですが……」 残る十五人がぎょっとした顔で彼、監視員Bを見る。 ジゴクロイドは驚きつつも、彼の言葉に興味を持ったようだ。 「へぇ、何だよ。言ってみな」 緊張しきった面持ちで監視員Bは口を開く。 「実は服部平次なのですが、少々言動に不自然な点がありまして……」 カマキロイドも気になるのか口を挟んでくる。 「不自然て何がよ?」 「はい、彼の会話に不自然さはないのですが、彼と会話を交わす相手の言葉が……少々ちぐはぐな印象を受けるのです。  話題の振り方が会話の流れに沿っていなかったり、突然会話が途切れたりと……」 彼の言いたい事がわからないらしく、ジゴクロイドはイライラしたような顔になる。 それだけで、残る十五人は心の中で監視員B君の冥福を祈り始める。 「つまり、彼等はこちらの盗聴に気付いているのでは……と。それでもただ殺し合いをするだけならば問題はありません。  ですが、そこで敢えて盗聴を誤魔化すとしたら、それは脱出や逆襲を考えての事ではないでしょうか」 ジゴクロイドの代わりにカマキロイドがつまらなそうに答える。 「だから首輪があるんじゃない」 「はい、ですから問題無いとは思うのですが……特にここ数時間はそれが顕著になってきているので、少し気になったのです」 ジゴクロイドは既にその話題から興味を失っていた。 話の途中で別の監視員に面白い事あったかどうか訊ねている。 しかしカマキロイドは僅かに興を惹かれた様子。 「ふぅん、確かに首輪の霊的防御抜いた奴が居るって話は聞いたけど」 これには監視員Bも驚いた。そういった事は彼等には知らされていないのだ。 もちろん首輪の構造も知らないのだが、何やら参加者達が首輪解除に近づいているという事だけはわかる。 「で、では……」 「それでもどうせ外には出られないわよ。ここに来るのはもっと無理だし……ねぇ、でもちょっと気になるわね」 カマキロイドは監視員Bに首輪を外した可能性のある死者を挙げるよう命じる。 「現状ですと疑わしいと思える者もおりません。いずれも前後の展開を聞く限りにおいてはですが」 小さく頷くカマキロイド。 「なら今後そういう者が出たのなら……」 そこでカマキロイドは言葉をとめて、各人の生存確認モニターを見やる。 軽い警告音と共に、地図上に示されていた首輪を示す光点が一つ、消えてなくなった。 無様な話だが、この光点が消える瞬間、誰一人として盗聴に集中していたものは居なかったのだ。 光の消えた当事者であるエレオノール、そしてすぐ側に居たはずの村雨良、柊かがみの分の盗聴担当者は同僚の無茶と、自分がとばっちりを食うか否かという事のみ考えていた。 つまる所、カマキロイドは彼等から充分な話を聞けなかったのだ。 担当者達は自分に非がある事を認めれば命が無い。当然全力で誤魔化しにかかる。 曰く「問題ありませんでした」である。 村雨達の演技をそれが如何に違和感の無いものであったかと力説する。 しかし、既に疑惑を口にしてしまっている監視員Bは引っ込みがつかない。 「エレオノールが殺し合いに? バカな、あの状況で人質を取ったとはいえ村雨良に挑むなど考えられません」 そう反論するも口から泡を飛ばして主張する皆を納得させる材料も持ち合わせていなかった。 そこでジゴクロイドが面倒くさそうに言う。 「じゃあ見てくりゃいいだろ」 あっさりとそう言うジゴクロイドを、バカにしたような目で見下すカマキロイド。 「そもそも、それが許されてればこんな暇してるはずないじゃない」 「そりゃそーだけどよ……ってそうだよ、あいつらが首輪外したんなら関係ねえじゃねえか。そうなりゃもう殺し合いもクソもねえんだし、俺達参加したってよくねえか?」 「誰が首輪外したって?」 「エレオノールとかいう奴だよ、お前ら今そんな事言ってたろ」 自分に都合の良い事だけは良く聞こえるらしい。 しかも首輪解除の事を、他人が言うのは癇に障るが自分が言うのは構わないという素敵思考の持ち主だ。 あまりのバカさ加減にあきれ果てるカマキロイドだが、すぐに思い直して監視員Bに命じる。 「貴方、今までの録音データから貴方がそう判断するに足る内容を拾えるかしら?」 どうやら彼女もジゴクロイドの発想に付き合う事に決めたらしい。それっぽい言質が取れれば暗闇大使にも申し開きが出来るという算段だ。 そしてこの部屋に入って一言も発していないカニロイドはというと、 「…………」 仮眠用ベッド一つを占領して完全に熟睡していた。 服部平次の推理能力は、日常の行動における様々な優位性を確保してくれる。 洞察力に優れた彼は、当然事件の推理以外においてもこれを発揮するからだ。 同様に赤木シゲルもまた、その高い知性によって日常生活における様々な利便性を得ていた。 普通ならば気付けない部分、予想出来ない部分を考慮に入れて行動する二人は、この合流を考えるといった状況においても他者とは比較にならない正確な推察を得ていた。 「多分この道やろ」 「……ああ」 そう考える理由すら説明しない。 交わした会話は数える程だが、服部は驚く程赤木との意思疎通に慣れてきていた。 彼の思想が理解出来ているわけではない。そもそもそんな話を服部は赤木としていない。 だが、目的に対しての選択がブレない。 もしブレがあったなら、それは服部の考える赤木の目的が実際のそれとブレているからだ、と考えられる程赤木の知性を服部は評価していた。 人と人との関係としては最悪といっていいはずの殺し合いまで行った赤木との共同作業。 実は服部にとっては賭け以外の何物でもなかった。 もし赤木が服部殺害に固執していたら? 服部自身がそう考えていると赤木が疑っていたのなら? 双方深い疑心暗鬼に捉われていた事だろう。 それを回避しえたのは、赤木の知性と他者への恐怖を押さえ込む自制心故である。 服部が無用な疑いを持たぬよう、あらぬ疑いをかけられるような行為を意図的に避けていると、そう見えるように行動する赤木。 そしてそんな真似をした所で、決して絶対確実に信用を得られるなどと欠片も信じて居ない所などは見事の一言である。 愚地独歩は禁止区域である集合場所にギリギリまで留まり、そこから学校へと移動する。 そんな予想から独歩の現在位置を推測した二人は、ちょうどそれとぶつかるよう移動しており、その遭遇予想地点はほんの少し先であった。 二人は同時に、もう一人の同行者に対して発言する。 「ジョジョ! 独歩はんを見つけても俺に任せてお前は黙ってるんやで!」 「……お前はしばらく口を閉じてろ」 注意するタイミングまで一緒だった模様。 盗聴室に緊迫した空気が流れる。 先ほどエレオノール死亡を報告したばかりだというのに、今度は服部平次の死亡が確認されたのだ。 その瞬間をカマキロイドも監視員Bも聞いていたが、確かに問題は無い。 しかし、疑ってかかっている二人からはそれすら偽装ではないのかという疑念が晴れない。 「……どう、思います?」 「難しいね、これだけじゃ言い訳にはならないよ」 そして決定的な出来事が起きる。 『おっせぇなァー、服部のやつ……』 ジョセフ・ジョースターのこの発言。 顔を見合わせるカマキロイドと監視員B。 直後、村雨良から驚くべき内容の言葉が漏れ聞こえてきた。 『ッ! ジュドオオオオオオオオオオオオオッ!!』 これには他の監視員をからかって遊んでいたジゴクロイドも仰天してこちらを振り向く。 「何だぁ!?」 そこで首輪からの通信が完全に途絶える。 辛うじて存在の発信はなされているも、音声はまるで聞こえて来なくなる。 苛立たしげに盗聴用コンソールを叩くカマキロイド。 「何だってんだい! 大首領だって? 何だってここで出てこれるってのよ!」 大慌てで盗聴設備の確認を行うも、異常は無し。 原因は会場内で何らかのジャミングにも似た行為が行われているせいと思われる。 現に存在を示す光点も、薄くか細い点滅となってしまっている。 「復活……なされたのです……か?」 信じられないといった顔で監視員Bは言葉を漏らすも、カマキロイドは怒鳴るように否定する。 「バカ言うんじゃないよ! そんな簡単に復活出来てたらこっちはこんなに苦労してないわよ!」 監視員Bを除く十五人は大慌てで復旧に務めるも、何ら効果を挙げられずにいる。 いい加減カマキロイドやジゴクロイドの我慢も限界に近づいてきた頃、ようやく盗聴が復活する。 するなりいきなり死亡したはずのエレオノールの声が聞こえてくる。 完全に状況から置いてきぼりになる十五人の監視員とジゴクロイドと、自らそうあろうとしたカニロイド。彼はまだ寝ていた。 監視員Bは鋭い視線のまま確信を言葉にする。 「彼等は首輪解除の手段を得ています。これ以上の作戦遂行は困難と考えます。暗闇大使様に至急報告しなければ」 暗闇大使と通信を繋ぐべく回線を開くが、ホットラインと呼んでも差し支え無いはずのその回線は何故か繋がらなくなっていた。 俄かに室外が騒々しくなる。 監視員Bは外に飛び出すと走り回っているコマンドロイドのコマンダーの一人を捕まえる。 「何事ですか!」 たかが人間ごときにこんな生意気な態度を取られる言われは無い。 そう考え、怒鳴りつけてやろうと思ったが、何と彼の後ろにはカマキロイドが居るではないか。 彼に答えるのは不愉快だが、カマキロイドに答えるのであれば、まあ納得は出来ると思い直す。 「カマキロイド様、侵入者です。迎撃に出たコマンドロイドが数体、既に破壊されております」 驚く暇も無い、今度は室内から首を出した監視員の一人が大声で叫ぶ。 「カマキロイド様! 連中堂々と首輪外すとか言ってます! どうしましょう! 爆破しますか!?」 次から次へと起こる不足の事態に、苛立ちを隠そうともせず怒鳴り返す。 「暗闇大使への連絡はまだ取れないの!?」 監視員曰く、どうも侵入者が通信網の一部を爆破した影響らしい。 だとしたら判断を仰ぐのはもう間に合わない。 この企み『バトルロワイアル』の終了を決められるのは、全ての責任者である暗闇大使のみ。 カマキロイドが迷うのも無理は無い。 そして何より、最後の最後には自分で皆殺しにしてやればいい、そう考えている為、彼女は首輪爆破の決断を下せずに居た。 迷っている間に学校組、葉隠覚悟、村雨良、柊かがみ、桂ヒナギクの光点が消滅。もちろんこれが死亡の合図だなどと、誰も考えてはいなかった。 次いで、ジョセフ・ジョースターから服部平次の生存と思しき発言が再度漏らされた後、ジョセフ・ジョースターの光点も消える。 「………完全に後手に回ったわね」 例え制限が無かろうと暗闇の子である自分が破れるなぞありえない。 しかし、小生意気なこいつらが暗闇の企みを破壊しようとするのをただ見ているというのも腹の立つ話だ。 ジゴクロイドが嬉々とした顔でカマキロイドを誘う。 「おい行くぞ! 侵入者だってよ! クハハ! こうでなくっちゃなあ! おらお前もとっとと起きろ!」 カニロイドの寝ているベッドを蹴飛ばしながら今にも駆け出しそうなジゴクロイドを、カマキロイドは首を横に振って止める。 「馬鹿ねえ、そんなものよりもっと面白いのと遊べるようになったんじゃない」 カマキロイドは暗闇大使考案の今作戦終了を確信した。 つまり、実験動物ではなく明快な敵として扱っても良い、暗闇のおもちゃから自分達のおもちゃとなった参加者達。 各世界の強者達から選りすぐられた英傑、侵入者などよりよっぽど愉快な相手ではないか。 監視員Bにカマキロイドは命じる。 「調整中の私達のバイク、今すぐ持ってこさせてちょうだい。改造に出してもう結構経つからいい加減出来上がってるはずよ。  それと私達が向こうに行ってる間、貴方がこちらの状況を逐一報告なさい」 この言葉が示す事実。 監視員Bを専属として扱うというカマキロイドの意思の現れである。 歓喜に震える監視員Bはガッツポーズを内心で決め、元気良く返答する。 「はっ! おいっ、工作室に行ってすぐに二台をお持ちしろ。それと通信機の用意、戦闘の差し障りにならない改造人間専用の奴だぞ」 既にここの誰より一段上である。 当然の権利として彼等を配下として扱いながら、自らの幸運を神に感謝する。 このまま功績を挙げれば、もしかしたら自由意志改造人間への改造も叶うかもしれない。 言いたい文句を堪えながら指示に従う監視員達。既に彼等の仕事は無くなっていたので問題は無かった。 雷雲突破はこちら側からもそれなりの準備を要する。 瞬間移動にも似た魔法陣を使用すればあっという間だが、あれには暗闇大使の許可が居る。 その暗闇大使と連絡が取れない以上使う事も出来ず、ならば雷雲を時速600キロ超で突破しなければならない。 それすら可能なジゴクロイド、カマキロイド、カニロイド専用装備であるバイクは、 ジゴクロイドの我儘により両手離しでも簡単に操作出来、バックまで可能というおおよそバイクなぞと呼べないような代物に改造を施されてる真っ最中だったのだ。 盗聴室周りの城内通信設備が不通の今、人が走って各所に連絡するしかない。それは時間のかかる事だ。 本来待たされるのを嫌うはずのカマキロイドは、同じ性癖のはずのジゴクロイドと上機嫌に相談しながら時を待つ。 よっぽど動ける理由が出来たのが嬉しかったようだ。カニロイドは我関せずとばかりにベッドから動こうともしなかったが。 「ゼクロスは俺がぶっ殺す。文句は言わせねえぞ」 「いいわよ、私はあの覚悟とかいうのもらうから」 「ふざけろ、あれも俺のだ。お前にゃジジイやるからそれで満足しやがれ」 「はっ、どうせアンタじゃ力任せに塵にして終わりでしょう。そんなつまらない殺し方なんて全然ダメよ、外連がわかってないわ。せっかく女の子達も居るんだしもっと盛り上げてあげないと」 二人の相談を横目に指示を出していた監視員Bは、三人の更なるお気に入りを目指し、新たな提案を申し出る。 「奴等の下に赴くのでしたら、いわゆる宣戦布告、というのをなさってはいかがでしょうか? これがお前達の運命だと知らしめる為に」 こういった話題に彼が入ってくるのが意外だったのか、二人は少し驚きながらちらと振り向く。 監視員Bは自信満々の顔で後ろ手にモニターを指差す。 「ジゴクロイド様もあまりお気に召さないようですし、未だ首輪がついてる最後の一人、奴等が共に範馬勇次郎やラオウと戦った仲間である愚地独歩の首、今すぐ吹き飛ばしてやりませんか?」 ジゴクロイドはぱんぱんと大きく手を叩く。 「うははっ! そいつはいいや! ジジイの首なんざどうでもいいから景気良く吹っ飛ばしてやれよ!」 カマキロイドも悦に入った表情でうんうんと頷いている。 「いいわねぇ、そういう発想大好きよ私」 予想以上の好反応に監視員Bは再度内心ガッツポーズ、俺伝説始ったな、などと絶好調であった。 では早速とばかりに、まだ寝ているカニロイドを置いて三人は隣の放送室に移動すると、 監視員Bはそこにあるコンソールのボタンを押さんと、ゆっくりと腕を振り上げる。 [[中編>集結(中編)]] ----
**集結 ◆1qmjaShGfE 社の中で対峙する赤木シゲルと服部平次。 赤木はナイフを手に持ち、対する服部は無手のままだ。 微笑を浮かべながら服部への間合いを一歩、また一歩と詰める赤木。 その行為に赤木の意思を感じた服部は、唾を吐き捨てると懐に持っていた核金を手に取り叫ぶ。 「武装錬金!」 ソードサムライXの武装錬金は剣道を嗜む服部には、ありがたい武器である。 しかし、その核金は服部の声に応えてはくれない。 首輪を外した事で、核金の能力が失われているのだ。 服部にはそれに驚く間も与えてはもらえなかった。 赤木の素人とは思えぬ踏み込みであっという間に懐に入り込まれる。 まっすぐ服部の心臓を狙った赤木のナイフは、即座に核金を諦めた服部の左手に手首を捕まれる事で、胸前数ミリの所で停止していた。 「……ちょっとは躊躇とかしたらどうや。可愛げの無いやっちゃ」 「そんな間抜けが生き残れると思うか」 「そういう善人は生き残る価値があんねん!」 叫びながら上体を捻りつつ赤木に蹴りを放つ。 同時に動いていた赤木の蹴りと絡まり合い、双方体勢を崩す。 しかしやはり武器を持っている方が有利である。赤木が体勢を崩しながらも真横にナイフを凪ぐと、服部の胸部を覆うシャツがまっすぐに切り裂かれる。 皮一枚、と肉が少々。服部の被害はそんな所だ。 荒事慣れしていない者なら、これだけで戦意喪失しそうなものだが、当然服部平次を止めるのにその程度では役不足だ。 とはいえ、無手ではいかにもこちらが分が悪い。 核金が反応しない理由に既に思い当たる節のある服部は、核金には固執していなかった。 同じ理由で支給品の武具全てが疑わしく感じられたが、赤木がナイフを使用している事から、とある一つの武器はおそらく使用可能と考える。 問題はそれが入ったバッグの落ちている場所まで行って、暢気にそれを取り出すなんて真似を赤木が許してくれそうに無い点だ。 赤木の立ち回りからはこれといった格闘技の動きを見出す事は出来ない。 しかし、シャープな踏み込みとナイフの振るい方から察するに場慣れはしているようだ。 こちらは剣道有段者である、武器が無かろうとおいそれと素人に遅れをとるような事は無いが、この底知れぬ男が相手となるとそんな自信も消えてしまいそうだ。 服部はほんの一瞬悩んだ後、直接聞いてみる事にした。 「ちょっとタンマや。俺の武器バッグの中なんやけど取ってきてええか?」 赤木は鼻腔から息を漏らすように軽く笑うと、快く承諾する。 「ククク……好きにしろ」 「さよかっ!」 赤木の承諾を得るなり、一歩の助走で服部は大きく宙へと飛びあがる。 たったそれだけの助走距離で一メートル近く飛びあがった服部は、狙う目標、赤木の頭部目掛けて必殺の飛び蹴りを見舞う。 頭部への重い打撃は対象の動きを鈍らせる。 それはナイフを急所に刺された時のような致命的な隙となろう。 もちろんそんな大技をいきなりもらう程赤木も弱くはない。問題は、この一撃をどう捌くかである。 これにナイフで同時反撃を試みるのは愚策。 せいぜい相手の足をどちらか片方使用不能にするぐらいしか出来ず、相手の飛び蹴りを体の何処かにもらう事になる。 ならば、大きく身をかわして着地の隙を狙うか。 おそらくこれが最善であろう。着地の状態を予想し、服部から死角となるような位置に移動しておけば万全の体勢で次へと繋げる事が出来る。 服部のそれへの対処案があったとしても、体勢の不利さは覆ようもない。 しかし、赤木はそんな妥当な案に乗らなかった。 まっすぐ服部に向かって一足飛びに飛び込む。 否、正確には飛びあがった服部の真下に滑り込むように低い姿勢で駆け込んだのだ。 同時に逆手にもったナイフを体を大きく捻りながら服部へと突き上げる。 これをやっては赤木の体勢も大きく崩れる事になるが、ここで狙う服部の胴への一撃がなされればそんな事を考える必要も無くなる。 赤木の動きを見るなり、服部が空中で無理矢理向きを変えにかかる。 左足の踵を赤木に向けて大きく振る。 これは赤木への打撃というよりは、防御の為に振ったというべきだろう。 服部の顔の位置からだと、赤木の動きは見えないはずだから、ただ赤木が避ける為だけに前へと飛び込んだ訳ではないと読んだ故の動きだ。 もちろん赤木が振り上げた腕の位置も見えておらず、分の悪いギャンブルである。 ただ、実は赤木からも服部の位置が正確に見えてはいなかったのだ。 前へと踏み込んだのだし、何より下を向いた状態から上向き側へ体を捻り、それに乗せて腕を振るいでもしない限りナイフが刺さる程の力は生み出せない。 二人は交錯し、赤木は前へと突っ込んだ勢いで滑るように、服部は空中で無理に前に回転したため顔面から地面へと落ちつつ、ごろごろ転がりながら立ち上がる。 腿の辺りから血を流しつつ、服部は赤木を睨む。 赤木は赤木で狙い通り、服部の鞄のすぐ側で立ち上がって服部に再度対峙する。 これがこの会場に参戦していた数多の猛者達相手ならば、どちらもこの交錯で命を落としていただろう。 しかし赤木は服部を刺し殺す事は出来ず、服部も赤木を蹴り飛ばす事すら出来ずにいる。 『くっそこの顎、嫌な事嫌な事ばっかしてきよる……』 服部が考える最も勘弁してほしい選択肢をさらっと選んで来る。 そしてこちらの選択肢を狭めるような動きを常に忘れないのだ。 村雨や覚悟のような圧倒的な強さではないが、やる事なす事が一々いやらしくこちらの考えに絡み付いてくる。 服部の考える最も勘弁して欲しい選択肢。 これは一応可能性の一つとして頭の中に入ってはいた。極めて薄い可能性ではあったが。 説明はしていないので、確かに気付かない可能性はある。だが少し、そうほんの少し考えればわかる事だ。 そんな真似をあの………… 「何処だ服部いいいいいい!!」 社の最深部、首輪の制限のせいでまともに身動きも取れなくなるような場所。 そこに、ジョセフ・ジョースターが乱入してくる。 閉めておいた扉を両手で力強く叩き開け。 よっぽど辛いのだろう、顔中から脂汗を流している。 にもかかわらず第一声から服部を気遣う言葉、それほど心配だったのだ。 そんなジョセフに、服部平次が真っ先に思った言葉はこれだ。 『こんのドアホオオオオオオオオオオオ!!』 一瞬で赤木とアイコンタクト。 この小憎らしい男は決して愚か者ではない。 ならば事態の重大さを理解してくれるかと思い期待を込めてそちらを見たが、彼もすぐに察してくれる。 赤木が手に持ったナイフを服部に向けて放り投げる。 目の前の床に落ちたそれを拾い上げた服部は、赤木にナイフの刃を持ちながら柄を突き出す形で返す。 休戦は成立。同時に二人は動き出す。 「へ? 何だよお前ら……」 赤木は右、服部は左、それぞれジョセフの脇を掴んだまま猛烈な勢いでダッシュ。 「ちょっと待て! 何だよ! 何なんだっての!」 二人に引きずられながらジョセフが何やらほざいているが、返事はしない。少しでも迷いの種は残しておくべきだ。 あっという間に社を飛び出し、外のお手水のある場所へと。 何も言わずともわかってくれた赤木と共に、息ぴったりのコンビネーションでそのお手水の中へとジョセフの頭部を叩き込む。 ジョセフからの文句が聞こえてくる前に、服部はかがみより教わった祝詞を唱え、同時に赤木がジョセフの首輪解除作業に入る。 BADAN首輪解除コンテスト筆頭優勝候補として名乗り出たくなるぐらいの速度で、あっという間に首輪が外された。 同時にジョセフが赤木を突き飛ばしながらお手水の中から体を起こす。 「てめえらどういうつもりだ!」 ジョセフは激怒している。当然だろう。 だが、怒りたいのはこっちだ。 「やかましい! いいからさっさと行くで!」 ジョセフの怒りを宥めようともせず服部は駆け出す。赤木もそれに続く。 「お、おい待てって! 何だよ! 何がどうなってんのか説明しろって!」 身体能力はこの三人の中で最も高いジョセフもすぐに追いついてきた。 走りながら服部は、ムカムカする頭を冷やしつつ説明する。 「あのな、もう首輪の反応も無い、既に死んだはずの奴の名をあの状況で呼んだら、BADANの奴等どう思う? 首輪自力で外したんちゃうと考えんか?」 前後の状況から服部が首輪の反応を失った、つまり死んだ時ジョセフも側にいたはず。 ならば、極稀な例外を除きジョセフは服部死亡を知っているはずなのである。 そのジョセフが服部の名を呼びそれを探し回る。錯乱して奇行に走ったと取る事も出来るかもしれないが、普通は別の受け取り方をする。 首輪の安全面に関して危機感を少しでも持っている人間ならば、首輪解除の可能性を当然考えるはずだ。 そして…… 「そんでな、BADANの連中に俺等が首輪解除の手段持ってるてバレたらどないなる?」 「あん? ……そりゃ、おめぇ……」 赤木が並走しながらすぐに答える。 「この殺し合いが成り立たなくなる……なら、全てをご破算にしてもおかしくはない。自衛の意味でもな……」 そこまで言われてようやく気付いたようだ。 「あー、そりゃーあれだお前、つまりだな、えっと…………ごめんなさい? これでいい?」 「いいわけあるかああああああああああああ!!」 やっぱり全て冷静なままで話をするのは不可能な服部であった。 監視カメラの映像は幹部である者の特別のコードを用いれば自室の端末にて確認が出来る。 これは映像に限らず音声もだが、基本的にはあまり推奨出来ないといわれている。 セキュリティ上の問題、そう言う科学者達の言葉を理解していないわけではないが、つい利便性を優先させてしまう。 セキュリティ永遠の課題であろうそれに、葉隠四郎も打ち勝つ事は出来なかった。 モニターに強化外骨格『凄』の姿が映し出される。 機能美の極地、崇高で偉大なその姿は見ているだけで四郎に安堵感を与えてくれ…… 「………………………………キズ?」 全身が凍りつく。 苦労に苦労を重ねて作り上げた傑作に、傷がついている。 慌ててカメラを操作して室内を映し出すと、室内に一箇所、明らかに外部からのものと思われる破損箇所が見つかった。 外から飛び込んできた『何か』が凄に傷をつけたと思われる。 衝撃のあまり身動きが取れなくなるも、すぐにより重大な事実に気が付く。 焦りに焦った表情で部屋を飛び出す四郎。 凄は四郎の功績である。これあるからこそ新参者であるはずの四郎が重用されているのだ。 そんな凄があっさり破損するようなシロモノだったとわかった日にはどうなるというのか。 原因を追究する必要がある。それも他の者には内密に、大至急だ。 盗聴室に居る奴等ならばこの周辺で起こった出来事を知っているだろう。 四郎は大慌てで室内を後にする。 後ほんの数秒、それだけの差で四郎は服部と赤木の姿を確認し損ねた。 ジョセフが来なかったら間違いなく見つかっていただろう。 正に値千金なジョセフの突入であったのだが、不幸な事にジョセフも服部も赤木も、葉隠四郎ですらそれを知りえなかった。 服部の望む僅かなタイムラグ、それはその必要性を作り出したジョセフ自身の手によってもたらされていた。 「赤木! ジョジョ! 待ち合わせ場所は既に禁止区域や! 学校に行った連中はおそらくそのまま学校で待機しとるやろ! そっちに向かうで!」 走りながら行く先を説明する服部、ついでにバッグからメモを取り出し何やら書き込んでいる。 ジョセフは器用なもんだと感心しながら訊ねる。 「よう、独歩はどうすんだよ」 独歩の向かった先は11時から禁止エリアとなる。 バッグの探索だけならさして時間もかからないだろうから、とうにその場は離れているだろうが集合場所が禁止区域となっている以上そこで選択を迫られているはず。 「多分ぎりぎりまで集合場所で待って、その後で移動したと思う。移動先は、村雨達と他に約束したとかでなければ、人数も多いし学校行ったやろな」 三人は走る、ひたすらに。 既に手遅れの可能性もある。 これだけの大仕掛けである。これを全てご破算にするのは幾つかの段取りが要るだろう。 間違っても盗聴器をチェックしている人間がいきなり爆破を決定出来るはずもない。 最高責任者に確認を取り、判断を仰ぐという流れはBADANとて同じのはず。 そしてその最高責任者の判断もそう簡単には降りないはず。 何度もチェックし、内容を吟味した上で判断を下すはず。 必ず猶予の時間はある。それを信じて服部は走る。 隣を走る顎男が一切文句を言わないのがせめてもの救いだ。 この男も服部と同じように判断したからこそ、殺し合いから一転して協力してくれているのだろうから。 仮にも戦闘中であったのだ。いつ隙を付かれるかわかったものではない現状にありながら、平然とそうしてくれているこの男。 BADAN打倒を考えているのなら、何よりも優先してこう動くべきだろう。 そういう服部からの無言のメッセージをあっさりと受け取って確実にこなす。 一言も発せずにジョセフの首輪解除に動く所などは、内心感嘆の息を漏らしたものだ。 この男とのこうした言葉によらぬやりとり自体は嫌いではない。 服部はほんの少しだけ工藤新一を思い出して、すぐにそれを考えるのを止めた。 ――三戦(サンチン)。  攻撃防御の両面に優れ、何よりバランスのよさが特徴の構え。  独歩は弟子に自ら伝授するほど、その構えを得意とする。  外部からの衝撃に強い体勢で、バットで殴りつけさせて体の鍛え方を誇示する時にも使われる類のもの。 そんな空手の極意のような構えは、どうやら当人にしか通用しないものらしい。 マンションの壁に斜めに突っ込んでボンネットから煙を噴いている車を前に、独歩はそんな事を考えていた。 人の居ない街並みを自由気ままに走り回る。 これは思いのほか楽しい作業であり、また途中別の事を色々考えていた結果でもあった。 そんなこんなで徒歩にて例の場所へと戻ったのだが、やはりまだ誰も戻ってはきていない。 リミットまではまだ少し時間がある。 ならばと考えた独歩はホテルの中へと入っていき、フロントで鍵を手に入れ勝手に部屋へと入り込む。 「そういやあいつら、ここ来て風呂とか入ったのかね?」 自分は二度目になるシャワータイムと洒落込むつもりの独歩はそんな事を呟いた。 #aa(){             _(こ^)、_             〃、__ノノ、__,ヽ               {.っ>  <っト、             (⌒i  (千于`ー┴'─────┐          (O人  `ー|                |            /⌒ヽ(^う 見せられ.      |            `ァー─イ    ないよ!   |            /  (0::|__________|              /\____/           /   /  ⌒ヽ       ___/  / ̄ ̄`)  ノ      (__r___ノ     (.__つ} 「ふう、さっぱりしたぜ」 洗面所で無精ひげも剃り、汚れた衣服をホテルの外で見つけたカジュアルショップから持ってきた物に着替える。 どこかの元全裸さんとは違い、あっさりと着替えも見つかる辺り、日頃の行いに差でもあるのだろう。 紅を引く覚悟ではないが、やはり大勝負の前となればこういった所にも気を遣うべきだ。 戦場に赴く前の時間を幾たびも経験している独歩ならではの準備である。 これは他の若い者達にはそうそう出来ない余裕というものだろう。 ひとっ風呂浴びたはいいが、やはりまだ誰も戻る様子は無い。 ならば、神社か学校かに向かうべきか。 人数比から考えるに、とりあえず学校にでも行こうか。 独歩の考えはその程度であった。 この自然な思考が幸いし、彼は一つの危機を回避する事となる。 定時放送が終わった後、首輪盗聴作業室ではBADAN監視員十六名程、欠伸を堪えながら盗聴を行っていた。 放送室にても盗聴は可能だが、そのすぐ隣の部屋にも盗聴施設を整えており、常時の監視はここにて行っている。 元々は別目的で用意された部屋なのだろう。 ごてごてしい機械の山とは別に、仮眠用のパイプベッドがかなり無理矢理な形で数台置かれている。 彼等は改造人間ではない。 皆拉致されてきた人間であり、BADANに従うのなら命は助けてやるとの言葉に一も二もなく飛びついたのだ。 暗闇大使率いるBADAN改造人間の恐ろしさは彼等が一番良く知っている。 が、いい加減付き合いも長くなってくるとどう対処すればいいのかもわかってくる。 幹部候補改造人間やエリートコマンドロイドの顔(というか形)を覚えておき、彼等にだけ注意すれば後は人形と一緒だ。 決められた内容に逆らわなければ大抵の事は好きにやれる。 だからこそチャットを用いた麻雀などという物まで存在するのだ。 福利厚生だの賃金だのを無視すれば、食事も悪くは無いしそれなりの職場環境だ。 などと人権という概念にさして思い入れの無い、他者より自分を優先する者達は考えていた。 何にせよ、死ぬよりかは遙かにマシなのである。 良きにつけ悪きにつけ、人間とは慣れる生き物なのだ。 不意に盗聴室の扉が開く。 そこから顔を出してきたのは、いわゆる要注意人物、幹部候補の三人であった。 軽薄そうな若い男の外見を持つジゴクロイド、妖艶な美女姿のカマキロイド、杖をついた老人カニロイドの三人。 気分屋でこちらの事など虫けら以下としか思っていない無法者達。 いつも三人揃って行動している事と、暗闇大使を父と呼ぶ事から『暗闇三兄妹』などという捻りも何も無いネーミングで呼ばれている。 ドロンジョ、トンズラ、ボヤッキーの三バカでも通じるが、これは間違っても当人達を前に口には出来ない事だ。 にやにやとしまりのない顔で通称ボヤッキーことジゴクロイドが、盗聴用ヘッドホンを耳に当てていた者からヘッドホンをひったくる。 十六人は誰一人欠ける事なく、彼等が入室すると同時に立ち上がって礼をしているというのに、完全に無視である。 「ようよう、何か面白い事起こってねえのかよ?」 ここでバカ正直にそのまんまを口にすると、ボヤッキーの逆鱗に触れる事になる。 監視員A君は慎重に言葉を選んだ。 「はいっ。先ほど優勝候補の二人が死亡しましたが、葉隠覚悟、村雨良、愚地独歩、ジョセフ・ジョースター、エレオノールといった猛者達は健在であります。それ以外ではこれといって目立った事はありません」 ここで間違っても積極的に殺し合いを行う者は全て死亡しました、などと言ってはいけない。 暗闇大使考案の今作戦を少しでも否定するような言葉はNGなのだ。既にそれにより犠牲になった者も居る。 「そうかい、問題無いのはいい事だけどよ。少しは俺達の手を煩わせるような事も起きてもらわねぇと暇でしょうがねえよ」 そんな事アンタに報告したら、こっちの命が危ないだろ。 といった言葉を飲み込んで男は無言で頭を下げる。 そこで、意を決したように一人の監視員が前へと出た。 「一つ、気になる事がありまして……その、報告するような事ではないのですが、よろしければお耳に入れておきたいと思うのですが……」 残る十五人がぎょっとした顔で彼、監視員Bを見る。 ジゴクロイドは驚きつつも、彼の言葉に興味を持ったようだ。 「へぇ、何だよ。言ってみな」 緊張しきった面持ちで監視員Bは口を開く。 「実は服部平次なのですが、少々言動に不自然な点がありまして……」 カマキロイドも気になるのか口を挟んでくる。 「不自然て何がよ?」 「はい、彼の会話に不自然さはないのですが、彼と会話を交わす相手の言葉が……少々ちぐはぐな印象を受けるのです。  話題の振り方が会話の流れに沿っていなかったり、突然会話が途切れたりと……」 彼の言いたい事がわからないらしく、ジゴクロイドはイライラしたような顔になる。 それだけで、残る十五人は心の中で監視員B君の冥福を祈り始める。 「つまり、彼等はこちらの盗聴に気付いているのでは……と。それでもただ殺し合いをするだけならば問題はありません。  ですが、そこで敢えて盗聴を誤魔化すとしたら、それは脱出や逆襲を考えての事ではないでしょうか」 ジゴクロイドの代わりにカマキロイドがつまらなそうに答える。 「だから首輪があるんじゃない」 「はい、ですから問題無いとは思うのですが……特にここ数時間はそれが顕著になってきているので、少し気になったのです」 ジゴクロイドは既にその話題から興味を失っていた。 話の途中で別の監視員に面白い事あったかどうか訊ねている。 しかしカマキロイドは僅かに興を惹かれた様子。 「ふぅん、確かに首輪の霊的防御抜いた奴が居るって話は聞いたけど」 これには監視員Bも驚いた。そういった事は彼等には知らされていないのだ。 もちろん首輪の構造も知らないのだが、何やら参加者達が首輪解除に近づいているという事だけはわかる。 「で、では……」 「それでもどうせ外には出られないわよ。ここに来るのはもっと無理だし……ねぇ、でもちょっと気になるわね」 カマキロイドは監視員Bに首輪を外した可能性のある死者を挙げるよう命じる。 「現状ですと疑わしいと思える者もおりません。いずれも前後の展開を聞く限りにおいてはですが」 小さく頷くカマキロイド。 「なら今後そういう者が出たのなら……」 そこでカマキロイドは言葉をとめて、各人の生存確認モニターを見やる。 軽い警告音と共に、地図上に示されていた首輪を示す光点が一つ、消えてなくなった。 無様な話だが、この光点が消える瞬間、誰一人として盗聴に集中していたものは居なかったのだ。 光の消えた当事者であるエレオノール、そしてすぐ側に居たはずの村雨良、柊かがみの分の盗聴担当者は同僚の無茶と、自分がとばっちりを食うか否かという事のみ考えていた。 つまる所、カマキロイドは彼等から充分な話を聞けなかったのだ。 担当者達は自分に非がある事を認めれば命が無い。当然全力で誤魔化しにかかる。 曰く「問題ありませんでした」である。 村雨達の演技をそれが如何に違和感の無いものであったかと力説する。 しかし、既に疑惑を口にしてしまっている監視員Bは引っ込みがつかない。 「エレオノールが殺し合いに? バカな、あの状況で人質を取ったとはいえ村雨良に挑むなど考えられません」 そう反論するも口から泡を飛ばして主張する皆を納得させる材料も持ち合わせていなかった。 そこでジゴクロイドが面倒くさそうに言う。 「じゃあ見てくりゃいいだろ」 あっさりとそう言うジゴクロイドを、バカにしたような目で見下すカマキロイド。 「そもそも、それが許されてればこんな暇してるはずないじゃない」 「そりゃそーだけどよ……ってそうだよ、あいつらが首輪外したんなら関係ねえじゃねえか。そうなりゃもう殺し合いもクソもねえんだし、俺達参加したってよくねえか?」 「誰が首輪外したって?」 「エレオノールとかいう奴だよ、お前ら今そんな事言ってたろ」 自分に都合の良い事だけは良く聞こえるらしい。 しかも首輪解除の事を、他人が言うのは癇に障るが自分が言うのは構わないという素敵思考の持ち主だ。 あまりのバカさ加減にあきれ果てるカマキロイドだが、すぐに思い直して監視員Bに命じる。 「貴方、今までの録音データから貴方がそう判断するに足る内容を拾えるかしら?」 どうやら彼女もジゴクロイドの発想に付き合う事に決めたらしい。それっぽい言質が取れれば暗闇大使にも申し開きが出来るという算段だ。 そしてこの部屋に入って一言も発していないカニロイドはというと、 「…………」 仮眠用ベッド一つを占領して完全に熟睡していた。 服部平次の推理能力は、日常の行動における様々な優位性を確保してくれる。 洞察力に優れた彼は、当然事件の推理以外においてもこれを発揮するからだ。 同様に赤木シゲルもまた、その高い知性によって日常生活における様々な利便性を得ていた。 普通ならば気付けない部分、予想出来ない部分を考慮に入れて行動する二人は、この合流を考えるといった状況においても他者とは比較にならない正確な推察を得ていた。 「多分この道やろ」 「……ああ」 そう考える理由すら説明しない。 交わした会話は数える程だが、服部は驚く程赤木との意思疎通に慣れてきていた。 彼の思想が理解出来ているわけではない。そもそもそんな話を服部は赤木としていない。 だが、目的に対しての選択がブレない。 もしブレがあったなら、それは服部の考える赤木の目的が実際のそれとブレているからだ、と考えられる程赤木の知性を服部は評価していた。 人と人との関係としては最悪といっていいはずの殺し合いまで行った赤木との共同作業。 実は服部にとっては賭け以外の何物でもなかった。 もし赤木が服部殺害に固執していたら? 服部自身がそう考えていると赤木が疑っていたのなら? 双方深い疑心暗鬼に捉われていた事だろう。 それを回避しえたのは、赤木の知性と他者への恐怖を押さえ込む自制心故である。 服部が無用な疑いを持たぬよう、あらぬ疑いをかけられるような行為を意図的に避けていると、そう見えるように行動する赤木。 そしてそんな真似をした所で、決して絶対確実に信用を得られるなどと欠片も信じて居ない所などは見事の一言である。 愚地独歩は禁止区域である集合場所にギリギリまで留まり、そこから学校へと移動する。 そんな予想から独歩の現在位置を推測した二人は、ちょうどそれとぶつかるよう移動しており、その遭遇予想地点はほんの少し先であった。 二人は同時に、もう一人の同行者に対して発言する。 「ジョジョ! 独歩はんを見つけても俺に任せてお前は黙ってるんやで!」 「……お前はしばらく口を閉じてろ」 注意するタイミングまで一緒だった模様。 盗聴室に緊迫した空気が流れる。 先ほどエレオノール死亡を報告したばかりだというのに、今度は服部平次の死亡が確認されたのだ。 その瞬間をカマキロイドも監視員Bも聞いていたが、確かに問題は無い。 しかし、疑ってかかっている二人からはそれすら偽装ではないのかという疑念が晴れない。 「……どう、思います?」 「難しいね、これだけじゃ言い訳にはならないよ」 そして決定的な出来事が起きる。 『おっせぇなァー、服部のやつ……』 ジョセフ・ジョースターのこの発言。 顔を見合わせるカマキロイドと監視員B。 直後、村雨良から驚くべき内容の言葉が漏れ聞こえてきた。 『ッ! ジュドオオオオオオオオオオオオオッ!!』 これには他の監視員をからかって遊んでいたジゴクロイドも仰天してこちらを振り向く。 「何だぁ!?」 そこで首輪からの通信が完全に途絶える。 辛うじて存在の発信はなされているも、音声はまるで聞こえて来なくなる。 苛立たしげに盗聴用コンソールを叩くカマキロイド。 「何だってんだい! 大首領だって? 何だってここで出てこれるってのよ!」 大慌てで盗聴設備の確認を行うも、異常は無し。 原因は会場内で何らかのジャミングにも似た行為が行われているせいと思われる。 現に存在を示す光点も、薄くか細い点滅となってしまっている。 「復活……なされたのです……か?」 信じられないといった顔で監視員Bは言葉を漏らすも、カマキロイドは怒鳴るように否定する。 「バカ言うんじゃないよ! そんな簡単に復活出来てたらこっちはこんなに苦労してないわよ!」 監視員Bを除く十五人は大慌てで復旧に務めるも、何ら効果を挙げられずにいる。 いい加減カマキロイドやジゴクロイドの我慢も限界に近づいてきた頃、ようやく盗聴が復活する。 するなりいきなり死亡したはずのエレオノールの声が聞こえてくる。 完全に状況から置いてきぼりになる十五人の監視員とジゴクロイドと、自らそうあろうとしたカニロイド。彼はまだ寝ていた。 監視員Bは鋭い視線のまま確信を言葉にする。 「彼等は首輪解除の手段を得ています。これ以上の作戦遂行は困難と考えます。暗闇大使様に至急報告しなければ」 暗闇大使と通信を繋ぐべく回線を開くが、ホットラインと呼んでも差し支え無いはずのその回線は何故か繋がらなくなっていた。 俄かに室外が騒々しくなる。 監視員Bは外に飛び出すと走り回っているコマンドロイドのコマンダーの一人を捕まえる。 「何事ですか!」 たかが人間ごときにこんな生意気な態度を取られる言われは無い。 そう考え、怒鳴りつけてやろうと思ったが、何と彼の後ろにはカマキロイドが居るではないか。 彼に答えるのは不愉快だが、カマキロイドに答えるのであれば、まあ納得は出来ると思い直す。 「カマキロイド様、侵入者です。迎撃に出たコマンドロイドが数体、既に破壊されております」 驚く暇も無い、今度は室内から首を出した監視員の一人が大声で叫ぶ。 「カマキロイド様! 連中堂々と首輪外すとか言ってます! どうしましょう! 爆破しますか!?」 次から次へと起こる不足の事態に、苛立ちを隠そうともせず怒鳴り返す。 「暗闇大使への連絡はまだ取れないの!?」 監視員曰く、どうも侵入者が通信網の一部を爆破した影響らしい。 だとしたら判断を仰ぐのはもう間に合わない。 この企み『バトルロワイアル』の終了を決められるのは、全ての責任者である暗闇大使のみ。 カマキロイドが迷うのも無理は無い。 そして何より、最後の最後には自分で皆殺しにしてやればいい、そう考えている為、彼女は首輪爆破の決断を下せずに居た。 迷っている間に学校組、葉隠覚悟、村雨良、柊かがみ、桂ヒナギクの光点が消滅。もちろんこれが死亡の合図だなどと、誰も考えてはいなかった。 次いで、ジョセフ・ジョースターから服部平次の生存と思しき発言が再度漏らされた後、ジョセフ・ジョースターの光点も消える。 「………完全に後手に回ったわね」 例え制限が無かろうと暗闇の子である自分が破れるなぞありえない。 しかし、小生意気なこいつらが暗闇の企みを破壊しようとするのをただ見ているというのも腹の立つ話だ。 ジゴクロイドが嬉々とした顔でカマキロイドを誘う。 「おい行くぞ! 侵入者だってよ! クハハ! こうでなくっちゃなあ! おらお前もとっとと起きろ!」 カニロイドの寝ているベッドを蹴飛ばしながら今にも駆け出しそうなジゴクロイドを、カマキロイドは首を横に振って止める。 「馬鹿ねえ、そんなものよりもっと面白いのと遊べるようになったんじゃない」 カマキロイドは暗闇大使考案の今作戦終了を確信した。 つまり、実験動物ではなく明快な敵として扱っても良い、暗闇のおもちゃから自分達のおもちゃとなった参加者達。 各世界の強者達から選りすぐられた英傑、侵入者などよりよっぽど愉快な相手ではないか。 監視員Bにカマキロイドは命じる。 「調整中の私達のバイク、今すぐ持ってこさせてちょうだい。改造に出してもう結構経つからいい加減出来上がってるはずよ。  それと私達が向こうに行ってる間、貴方がこちらの状況を逐一報告なさい」 この言葉が示す事実。 監視員Bを専属として扱うというカマキロイドの意思の現れである。 歓喜に震える監視員Bはガッツポーズを内心で決め、元気良く返答する。 「はっ! おいっ、工作室に行ってすぐに二台をお持ちしろ。それと通信機の用意、戦闘の差し障りにならない改造人間専用の奴だぞ」 既にここの誰より一段上である。 当然の権利として彼等を配下として扱いながら、自らの幸運を神に感謝する。 このまま功績を挙げれば、もしかしたら自由意志改造人間への改造も叶うかもしれない。 言いたい文句を堪えながら指示に従う監視員達。既に彼等の仕事は無くなっていたので問題は無かった。 雷雲突破はこちら側からもそれなりの準備を要する。 瞬間移動にも似た魔法陣を使用すればあっという間だが、あれには暗闇大使の許可が居る。 その暗闇大使と連絡が取れない以上使う事も出来ず、ならば雷雲を時速600キロ超で突破しなければならない。 それすら可能なジゴクロイド、カマキロイド、カニロイド専用装備であるバイクは、 ジゴクロイドの我儘により両手離しでも簡単に操作出来、バックまで可能というおおよそバイクなぞと呼べないような代物に改造を施されてる真っ最中だったのだ。 盗聴室周りの城内通信設備が不通の今、人が走って各所に連絡するしかない。それは時間のかかる事だ。 本来待たされるのを嫌うはずのカマキロイドは、同じ性癖のはずのジゴクロイドと上機嫌に相談しながら時を待つ。 よっぽど動ける理由が出来たのが嬉しかったようだ。カニロイドは我関せずとばかりにベッドから動こうともしなかったが。 「ゼクロスは俺がぶっ殺す。文句は言わせねえぞ」 「いいわよ、私はあの覚悟とかいうのもらうから」 「ふざけろ、あれも俺のだ。お前にゃジジイやるからそれで満足しやがれ」 「はっ、どうせアンタじゃ力任せに塵にして終わりでしょう。そんなつまらない殺し方なんて全然ダメよ、外連がわかってないわ。せっかく女の子達も居るんだしもっと盛り上げてあげないと」 二人の相談を横目に指示を出していた監視員Bは、三人の更なるお気に入りを目指し、新たな提案を申し出る。 「奴等の下に赴くのでしたら、いわゆる宣戦布告、というのをなさってはいかがでしょうか? これがお前達の運命だと知らしめる為に」 こういった話題に彼が入ってくるのが意外だったのか、二人は少し驚きながらちらと振り向く。 監視員Bは自信満々の顔で後ろ手にモニターを指差す。 「ジゴクロイド様もあまりお気に召さないようですし、未だ首輪がついてる最後の一人、奴等が共に範馬勇次郎やラオウと戦った仲間である愚地独歩の首、今すぐ吹き飛ばしてやりませんか?」 ジゴクロイドはぱんぱんと大きく手を叩く。 「うははっ! そいつはいいや! ジジイの首なんざどうでもいいから景気良く吹っ飛ばしてやれよ!」 カマキロイドも悦に入った表情でうんうんと頷いている。 「いいわねぇ、そういう発想大好きよ私」 予想以上の好反応に監視員Bは再度内心ガッツポーズ、俺伝説始ったな、などと絶好調であった。 では早速とばかりに、まだ寝ているカニロイドを置いて三人は隣の放送室に移動すると、 監視員Bはそこにあるコンソールのボタンを押さんと、ゆっくりと腕を振り上げる。 [[中編>集結(中編)]] ----

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