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**嫌なこった ◆33iayeGo/Y 「武器武器武器……武器武器ブッキー……はぁー、はぁー、はぁーん」 軽快でリズミカルなベースが何処からか聞こえてきそうだ。 すっかり意気消沈したセラスは、溜息の三連譜と共にその暗いムードを作り上げている。 「そりゃーアタシも吸血鬼ですけどねー、武器無しで三日間殺し合いから生き残れなんて無理ですよーって。  第一こんな場所で武器も無しにマスター級の筋肉ムキムキに襲われたら幾らなんでも……ねぇ。  四方向に攻撃できれば良いけどそんな魔剣みたいな物があればなぁ……ああ武器ないかなぁ……」 とにかく武器武器武器、戦うための手段である。 一息で長い愚痴を言い切って、もう一回大きな溜息をつく。 しかし、そこまで落ち込んでからようやく一つの可能性に気がつく。 足を止め、デイパックの中を穿り返し先程の三枚の紙を見つける。 流石に殺し合いをしろと言っているのに武器を配らない訳がない。 しかしこのデイパックの中には全く武器が見当たらない、怪しいのはこの三枚の「折りたたまれた」紙である。 多少危険だがこいつを開いてみるしかない。 「……何が出てくるんだろ、これ」 この時のミスは一つ、彼女は支給品の内容が書かれた面を裏にしていたこと。 確かに小さな文字だったが最初に見つけたときにどうして気が付かなかったのか。 まぁ武器がなくて紙が三枚入っているだけなら誰でも混乱するだろう。 そんなときに紙に書いてある小さな文字を見つけ出してくださいというのはそれはもうウォーリーを探すようなものである。 それはともかく、彼女は手早く紙を開いてしまったのだ。 中から出て来たのは一機のDVDプレーヤー。 しかも、それは再生された状態で出てきたため。 セラスの視神経には一人のムキムキのマッチョの黒人が数人の前で踊っている映像が映りこんで来たのだ。 『足を上げて! 少しでもいい!』 『ブンブン! 飛行機の構えで!』 『喉が渇いたら直ぐに水分を補給するんだ! 少し休んでまた始めればいい!』 「なんじゃこりゃあああああああああああああ!!」 紙から出てきたDVDプレーヤー、二万九千八百円。 紙がソレに姿を変えてセラスが投げ捨てるまでに掛かった時間、十八秒。 この殺し合いの中での十八秒、プライスレス。 セラスの精神をどんどんと蝕んでいく一連の出来事。 普通の人間なら発狂しかけているはずだが、そこで発狂せず踏ん張っている所がさすがと言ったところか。 二枚目の紙を鷲掴みにした時にようやく表紙の文字に気がつく。 【たこ ※生物です】 もうここまで来ると何かのコントだと思いたくなる。 自分に支給されたアイテムが一つは妙な映像を垂れ流す機械。 そして次は生きた(正確にはまだ生きていないかもしれないが)タコである。 変な映像を垂れ流しながら、タコを振り回して戦う美少女吸血婦警セラス・ヴィクトリア! このバトルロワイアルの戦場に華麗に舞い降り!正義を貫き悪を討つ! 「オドレナメとんのかワレエエええええ!!」 もう彼女の精神は最早直径数ミリほどしか残っていない。 最早彼女が人間だとか吸血鬼であるだとかそういう次元の問題ではない。 どんな生物でもこんな状況なら発狂しかけるだろう。 それをギリギリで保っている彼女は生物を超え始めているのかもしれない。 八つ当たりのようにタコと書かれた紙を何度も引き裂いてそこらへんに投げ捨てる。 数秒後、バラバラになったタコが地面に落ちるのだがそれを見ている余裕は既になかった。 武器武器武器武器と念仏のように唱えながら三枚目の紙をぶっきらぼうに取り出す。 その顔は正に執念の塊で、人魂の三つや四つぐらい周りに浮いていてもおかしくないぐらいである。 もし意志を持つ武器だとかそういうファンタスティックな物が出てきていたら自ら名乗りをあげていたかもしれない。 「僕の身体を使って戦うんだ!」的な展開である、起こりえる訳がないが。 その紙には、「スティッキー・フィンガーズのDISC」と書かれていた。 開くと自分の頭ぐらいの大きさの円盤が姿を現した。 残った紙を流し読みすると、このDISCを頭に入れるとスタンドといわれる能力が使えるらしい。 普通なら疑って掛かるべきだが、怪しい映像に生タコの紙のコンボを喰らった今のセラスに疑うという思考をすることすら難しい。 もうストレスの塊でしかない頭に、勢い良くDISCを突っ込んだ。 特に身体に変化が起こったわけではないが、何かしらの違和感を感じる。 残った説明書の紙を読んでみる、どうやら使用者の思考道理に動くらしい。 しかもこのスタンドはジッパーをつける事ができるらしい。 自分の腕にジッパーをつけて射程を延ばしたり、支給品を殴って裂け目を作ることもできるらしい。 しかし首からすこし下あたりからはジッパーが付かないらしく、首輪解除には使えない。 また地面にジッパーを作ることも出来なくなっているらしい、つまり本来は地面に潜れるということなのだろうか? そして何処に作るにしても一回のジッパー作成にはすこし体力を消費するらしい、連発は危険と書いてある。 そんな事はどうでもいい、物は試しである。近くの木にジッパーを付けるつもりで、スティッキー・フィンガーズで勢い良く殴った。 普通の人間が発散する量の数倍のストレスと共に。 結果、木に一本のジッパーが出来。それを回して見ると見事に上と下と分かれたのである。 そこから少し離れた場所に向かって自分の腕を伸ばして木を殴ることにも成功した。 これは当たりかもしれない、銃が引けなかったのは残念だが当面はこのスタンド能力とやらで何とかやっていけるだろう。 素早く腕を戻し、手を握り締めてみる。神経どころか骨や肉まであの時離れていたのに。 感覚だけはしっかりと残っていた、切り離した後でも細かい指の動きなども出来た、不思議な事が起こるものだ。 だが、そんな不思議なことに驚く彼女の溜まりに溜まったイライラも収まりきらない中、そいつは現れた。 「こんばんわ、お嬢さん。少し宜しいかな?」 渋い声に振り返れば、そこには長髪の四十ぐらいの中年が立っていた。 武装もしておらず、警戒心もあまりないようだが一つだけ引っ掛かる事があった。 彼が何時の間にそこに居たのかと言う事である。 その男は、さっきまで自分がいた少し後ろに立っていたのだ。 気配が消せるのかなんだか分からないが、とりあえずある程度の使い手であるようだ 「はぁ、いいですケド。貴方誰ですか?」 スティッキー・フィンガーズのギリギリ射程の距離まで後ろに下がりたいところだが。 不信感を与えてしまうかもしれないと考え、危険だがその場に留まり話しを続けた。 「ああ、申し訳なかったね。私の名はHOLY部隊隊長マーティン・ジグマール。  この星を……いや時系列を越え全宇宙の支配者となる男だ!」 もう勘弁してくださいと大声で叫びたくなった。謝るからどっかいってくれというのが本心だった。 全宇宙を支配だなんて小学生みたいな夢見がちの発言をさらりと言いのけるこの男は何者なのか。 とりあえず分かる事は警戒を解いてはいけないということだけである。 「……すいません、意味が分からないんでスけど」 「ハハハッ、お子様には少し難しい話をしてしまったようだな」 お子様扱いされ、すこしカチンと来たがそこは必死に堪える。 ジグマールの出方をただひたすら伺うしかない。 「つまりだ、全宇宙を支配する能力を持つこの私がここですべき事は一つだ。  この空間から生きて脱出し、全宇宙を支配する。  つまりだ、この空間で生き残るべき人間は私一人ということだ、分かってくれるかな?」 話が飛躍してるって言うレベルじゃない、もう宇宙だとか亜空間だとか並行世界ですとかいうそういうレベル。 もう何がどうなっているのか、今を受け止めるのも大変なのでこの男についてセラス・ヴィクトリアは考えるのをやめた。 「しかし、一つだけチャンスをあげよう」 ジグマールの顔が歪む、顎に手を置きじっとセラスを見つめている。 「私の仲間になり、共に戦ってくれるというのならば少し考えてもいいぞ」 「……つまり、手を組んで一緒に殺してまわれって事?」 ジグマールの顔にゆっくりに笑みが浮かぶ。 しかし、考えるまでも無い、最初からセラスの答えは決まっている。 「私の仲間になれ!」 ジグマールがこちらを指差して言う。 「ノーだ!」 拳を握り締め言い返す。 「YESと言え!」 少しジグマールの声が荒くなる。 「絶対にノゥ!!」 その声と同時にセラスは跳ねた。 考える事は一つ、ジグマールのその顔に己の鉄拳を打ち込むために。 しかし、さっきまでそこにいたはずのジグマールは。 セラスの拳が届くと同時に、その場所から姿を消していた。 ありのまま、今起こったことをもう一度考え直す。 自分はジグマールを殴ろうと思って飛び跳ねていたら、何時の間にか消えていた。 何を言っているのか、何をされたのかも分からないが。 魔族の末裔の力ですとか亡き恋人の思いだとかそういう次元じゃない。 かといって支給品でパワーアップしましたとか常人には成し遂げられない修行の賜物ですとかそういう話でも無い。 もっとも理不尽な何かの片鱗を味わったような気分だ。 「フフフ、いい心がけだ。益々仲間にしたくなって来たぞ」 素早く振り向くと、後ろで何時の間にか腕を組んで笑っている。 そしてもう一度指を突きつけて、今度はゆっくりと言った。 「今一度君に質問しよう。  私の能力が、空間を操れるとしたら、どうする?  どんな攻撃も、避けられるとしたら、どうする?  何処に逃げても追いかけてくるとしたら、どうする?  人間ワープが可能な私を君は、どうする?  どうする? どうする? どうする?  君ならどうする?」 どうやらさっきの能力は人間ワープという物らしい。 空間を操りどんな攻撃も避けられる……それぐらいで諦める事はない。 もっとゴイスな能力だとかそういうのとも今まで戦ってきた、ビビってる場合でもない。 「それでも! 戦う!」 もう一度勢い良く跳ねる、ジグマールから数メートル離れた場所で拳を突き出すし――。 その拳が、とてつもない初速を纏い砲弾の如く放たれた。 ジグマールに一瞬、焦りの色が見える。が、それが届くまでには既に姿は消えていた。 「だから無理だと言って――」 「そこかァァ!!」 人間ワープを使い、セラスの背後に立ち攻撃を仕掛けるつもりだったジグマールはそのセラスの超反応に再び驚愕した。 左の手がジグマールのワープ先に既に現れていたのだ。 ワープ先を読まれていた?いや違う、セラスの勘がジグマールの位置を探っていたのだ。 それと、ジグマール自身も気が付き始めているが、人間ワープの効力がどうも薄れているのだ。精々一~二メートル先が限界である。 スティッキー・フィンガーズの射程内に入ってしまい、パンチを喰らい後ろへと吹き飛んだ。 「ふふふ……その眼、敵対を止めぬ眼……。  ならば体裁を取り繕う必要はないな……  威厳を得る為に変えていた……この顔でいる必要もない!!!  そうだ……これが本当の私ッ!」 ジグマールの体から徐々に光が放たれる、そしてその光の中からジグマールが姿を現し……。 高貴なオーラを纏い、セラスの目前へと出てきたのだ。 「……び、美形だー!!」 思わず叫んでしまった、いや叫ばなければいけない気がした。 光から姿を現したのは中年の男性ではなく、今をときめくいわゆるイケメンの19歳ほどの美麗の青年。 その姿を見た瞬間、頭の中に美形という文字しか浮かばず、気が付けば叫んでいた。 「さぁ、侵攻と攻撃を開始しよう! 自覚と覚悟はいいかね!?」 その言葉と同時にジグマールの姿が視界から掻き消える。 先程はまぐれのような物で一撃を当てる事が出来たが次はそうは行かない。 ジグマールの姿が現れるのを待ち、一瞬の間に腕を切り離し拳を当てる。 エアガンすらない今。自分にできる事は、只それだけ。 ジグマールの姿が比較的近くに現れる、姿を認知し腕を振りかぶる。 腕を突き出し、ジッパーを取り付け奥へと飛ばす。 だが、その拳は当たらない。 「ゆるゆるだっ!!」 衝撃波のような物をぶつけられ、足で堪えるも一メートルほど後ろへ動かされる。 胃の中身だとかがこみ上げて来そうになるが、適当にそこらへんに吐き捨てる。 どうやら厄介な相手に絡まれてしまったようだ。 逃げてもこの能力であっというまに追いつかれる、今この場でできる限り足掻くしかない。 それに数度とジッパーをつける能力を乱用したからか、少しだけ息が上がり始めている。 持久戦に持ち込まれれば勝ち目はない、だから後少しでケリを付ける。 「おぉうりゃあああああ!!」 大きく振りかぶり、腕を突き出す。 腕が伸びていくも、やはりその腕は当たらず。 「だから無理だって!!」 再び背後へ回られ衝撃波のような物を叩き込まれる。 流石に二度目は堪えることも出来ず、大きく吹き飛び地面を転げまわる。 転げ終わった後に、少し大きめの血の塊を吐く。 血液を吐いたときの独特の嫌な感覚がセラスを襲うが、ひるんでいる場合ではない。 しかし、勝ち目は本当にないのか? ふと、ここを通っていた誰かが助けてくれるかもしれない。 しかしそれは本当に運の領域、それに縋る事は出来ない。 では、この状況を打破する何かを思いつくか? あの人間ワープにはこの能力には太刀打ちできない。せめて銃でも、この射程がもう少しだけ延びればいいのだが。 現実は非情にも彼女に重く圧し掛かる。 だか、彼女は諦めない。 殺し合いに乗るのはゴメンだ、誰かが殺されるのもゴメンだ。 だから殺すつもりがある奴なら倒さなければならない。 無論、それが死ぬことになったとしても。 何度目かの右の拳を突き出す。 そして戦車の砲弾の如く放たれるそれも、ジグマールの顔には当たらない。 「そろそろ決着をつけさせて貰おうお嬢さん!」 その声と同時に、衝撃波が放たれる。 声のするほうに左の拳を延ばすが、届かない。一メートルほど吹き飛ばされ、踏ん張るものの血を吐いた。 しかし、セラスは笑っていた。嬉しくてたまらなかったのだ。 そのムカツく顔面に拳を当てられる事が、胸の底からスカッとするような気分が分かる。 セラスは、足をバネにし、飛び上がる瞬間に己の胴体にジッパーをつけたのだ。 加速をつけた胴体はある程度先まで飛び、その先で戻ってきた右の拳を突き出す。 胴体の加速に加え、突き出した時の速さも吸い込んだ拳がジグマールを襲う。 衝撃波を放ち、戦いつづければ勝てるという優越感に浸っていたジグマールの頬を殴りぬける。 大きく吹き飛ばされ、地面を転がり何度もバウンドする。 投げ出されたセラスの上半身も勢い良く地面へと落ちる。 「婦警、ナメないでよね」 笑いながら、少しだけ勝ち誇って言う。 切り離された下半身が歩き、上半身の元へと向かう。 そして上半身と下半身をくっつけ、両の腕も回収する。 視界の向こうでジグマールが起き上がるのが分かる。 「大したお嬢さんだ……使うまいと考えていたが、これを使うしかないようだ!」 起き上がってきたジグマールが、一枚の紙を手にしセラスの視界から消える。 支給品を使っていない……となると何かしら支給品を使ってくるはずなのだ。 セラスは全神経を集中させ、ジグマールが何時現れてもいいように対応する。 ジグマールは、セラスの視界の上の方にに現れた。 その手に一枚の紙を、握って。 「ハハハ! 戦車だッ!! 押し潰されるがいい!」 その紙が勢い良く開かれると、一台の大きな戦車に姿を変えた。 その戦車はゆっくりと降って来る。しかし、セラスは動じない。 むしろ、再び笑っていた。一度だけでなく二度も、その顔面に拳を打ち付けられるのが本当に嬉しかった。 左の拳で殴り、戦車にジッパーを取り付ける。 右の拳が戦車の中を通り抜け、反対側にもジッパーを取り付ける。 降って来る戦車に合わせ、己の体を空間へと向ける。 するすると戦車の中を通り抜け、ジグマールの目の前にセラスの顔が現れる。 歯を大きく見せセラスは、笑った。 色んな意味での、奇跡のご対面。 「ハロー、小便は済ませたか?  神様にお祈りは?  誰も来ない空間でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」 右の拳でジグマールの胸倉を掴み、どこかで聞いたようなセリフを吐き不敵に笑う。 そして左の拳で……ッ!! 「うらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらああああああっっ!!」 殴った、何度も何度も何度も殴って殴って殴って殴りぬけた。 「ひげェッ――――――!!」 美形が跡形もなく崩れ去り、蒼いアザやたんこぶを顔じゅうに作り血を垂れ流している。 前歯も数本折れたのだろう、何か喋っているが何と言っているのか分からない。 しかし、まだジグマールは生きている、止めを刺さなければならない。 そうして吹き飛んだジグマールの元へと向かうため、戦車から抜け出して歩き始めた。 しかし、どうも手に力が入らず足元もふらついている。ジッパーの連発でどうやら体力を使いすぎたようだ。 例えセラスの体力が並みの人間より多くあるとは言っても数が多すぎた。気を失う前に早く止めを刺さなければならない、が。 無常にも、彼女にはまだまだ試練が襲い掛かる。 微かに見える視界の先で、ジグマールが何か大砲のような物を構えているのだ。 「フフフ……やばり人づいのじはいしゃだるわだしにでんもみかたぢてぐれでいるようだ!!」 そして、砲身から一つの砲弾が放たれる。自分の拳のような速度で向かってくる。 もしあの砲弾が当たれば、砲弾の爆発に加え後ろの戦車を巻き込めば大きな爆発が起こる。 逃げても間に合わない、ならば。 「お前も道連れだああああ!!」 体力を振り絞り、スティッキー・フィンガーズで腕を伸ばす。 既に気を失いかけていたジグマールの胸倉を掴み、こちらへと引き寄せる。 「おおおおおおおおおお!!」 砲弾が当たる前に、全身の筋肉に力をこめひたすらジグマールの身体を引っ張る。 そして、セラスの右当たりににジグマールが来たとき。 鼓膜が破れ、全身を焼かれ、骨が砕け、ぶっきらぼうに投げ捨てれられたように転がる自分の体が分かった。 どんどんと意識が遠のいて行くのが分かる。 それでも、彼女は笑っていた。少しでも殺人が起こる可能性が減らせたのだから。 それだけで、満足だったのかもしれない。 そして、セラスヴィクトリアは考えるのをやめた。 正義の海の中で、彼女は永遠に眠り続けるのだ。 &color(red){【セラス・ヴィクトリア@HELLSING 死亡確認】} &color(red){【残り54人】} 「ギャ……ラン=ドゥ?」 セラスが駆逐した筈の悪は、生きていた。 傷だらけの奇妙な男に全身を包まれる形で、しぶとくも生きていたのだ。 「ヨォゥ、マーティン・ジグマールゥ。苦戦してるみたいじゃないカァ~」 「うわあ……ああ、ギャラン=ドゥ皆が……皆が僕をイジ、いじめるよッ」 ゴツゴツとした鎧に包まれたような男(?)に縋り付き、ジグマールは大粒の涙をボロボロと零す。 その男はジグマールの頭をなでながら、優しく言い放った。 「そうかい、マーティン・ジグマール。悲しいナァ……。  この場所では全員がお前の敵だ、だが考えてみろ。  さっきの女みたいにゲームに乗らない奴だっている、そこでだジグマールゥ」 顎に手を置き、ニヤリと笑ってジグマールを指差す。 「そいつらに匿ってもらうんだよ、あのジジイに逆らうフリをして人数が減ってきた辺りでそいつ等を殺してまわればいい。  全員を相手するのは大変だからナァ……」 男の話の要所要所でジグマールは頷く。その姿を見て男も納得したように笑う。 「それじゃあ、頑張れよォゥ。俺はちょっとこのキズの所為で引っ込むがお前に力があればまた助けてやれるからなァ」 そう言って、男は瞬時に跡形も残さずその場から消えた。 「頑張るよギャラン=ドゥ。  そして……この全宇宙を支配して見せる!」 強く拳を握り締めたジグマール、ゆっくりと起き上がりその足を進める。 しかし、その意思も空しくジグマールの身体は数秒後、崩れるように力なく倒れた。 セラスから少し離れた場所で、ゆっくりと意識を天空へとあずけていった。 頑張れよ、マーティン・ジグマール。 俺の野望のために、お前はまだまだ生きてもらわなくちゃイケナイんだからな。 【E-5 北西部/1日目/早朝】 【マーティン・ジグマール@スクライド】 [状態]:全身ボコボコ、歩くのがやっとの重傷、美形状態、極度の疲労、気絶 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本:生き延びて全宇宙の支配者になる。 1:誰かに匿ってもらう。(美貌が使えそうなら使う) [備考] ※人間ワープにけっこうな制限(1~2mほどしか動けない)が掛かっています。   連続ワープは可能ですが、疲労はどんどんと累乗されていきます。   (例、二連続ワープをすれば四回分の疲労、参連続は九回分の疲労) ※ギャラン=ドゥに関しては次の書き手さんにお任せします。当分は出てこれないと思います。 ※戦車(ティーガー(P)駆逐戦車)は爆発に巻き込まれました、操縦等は不可能だと思われますが。部品は何かに使えるかもしれません。 ※また、ジグマールのデイパックは爆発に巻き込まれ、殆ど原形を留めていないままどこかへ飛散しました。   未確認支給品(0~1)も無事ではないと思われます。 ※破壊の杖@ゼロの使い魔(残弾なし)はE-5の戦車の近くに放置されています。 ※スティッキー・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険は爆発によりどこかへ飛んでいきました。   原形は留めているかもしれませんが、回収できるかどうかは不明です。 ※DVDプレーヤーは爆発には巻き込まれませんでしたが、投げ捨てられた為修理しないと使えないと思われます。 ※タコの死体がE-5のどこかにあります。 ※セラスのデイパックは爆発に巻き込まれたためどこかへ飛散しました。回収は難しいと思われます。 ※早朝当たりにE-5を中心に大きな爆発音がしました。   周囲1~2マスの人間は聞こえているかもしれません。 |034:[[変態!!俺?]]|[[投下順>第000話~第050話]]|036:[[The Great Deceiver (邦題:偉大な詐欺師)]]| |055:[[ピンクの髪のペッタンコ娘、そしてマダオ]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|040:[[零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん]]| |019:[[月光下]]|&color(red){セラス・ヴィクトリア}|&color(red){死亡}| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|マーティン・ジグマール|040:[[零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん]]| ----
**嫌なこった ◆33iayeGo/Y 「武器武器武器……武器武器ブッキー……はぁー、はぁー、はぁーん」 軽快でリズミカルなベースが何処からか聞こえてきそうだ。 すっかり意気消沈したセラスは、溜息の三連譜と共にその暗いムードを作り上げている。 「そりゃーアタシも吸血鬼ですけどねー、武器無しで三日間殺し合いから生き残れなんて無理ですよーって。  第一こんな場所で武器も無しにマスター級の筋肉ムキムキに襲われたら幾らなんでも……ねぇ。  四方向に攻撃できれば良いけどそんな魔剣みたいな物があればなぁ……ああ武器ないかなぁ……」 とにかく武器武器武器、戦うための手段である。 一息で長い愚痴を言い切って、もう一回大きな溜息をつく。 しかし、そこまで落ち込んでからようやく一つの可能性に気がつく。 足を止め、デイパックの中を穿り返し先程の三枚の紙を見つける。 流石に殺し合いをしろと言っているのに武器を配らない訳がない。 しかしこのデイパックの中には全く武器が見当たらない、怪しいのはこの三枚の「折りたたまれた」紙である。 多少危険だがこいつを開いてみるしかない。 「……何が出てくるんだろ、これ」 この時のミスは一つ、彼女は支給品の内容が書かれた面を裏にしていたこと。 確かに小さな文字だったが最初に見つけたときにどうして気が付かなかったのか。 まぁ武器がなくて紙が三枚入っているだけなら誰でも混乱するだろう。 そんなときに紙に書いてある小さな文字を見つけ出してくださいというのはそれはもうウォーリーを探すようなものである。 それはともかく、彼女は手早く紙を開いてしまったのだ。 中から出て来たのは一機のDVDプレーヤー。 しかも、それは再生された状態で出てきたため。 セラスの視神経には一人のムキムキのマッチョの黒人が数人の前で踊っている映像が映りこんで来たのだ。 『足を上げて! 少しでもいい!』 『ブンブン! 飛行機の構えで!』 『喉が渇いたら直ぐに水分を補給するんだ! 少し休んでまた始めればいい!』 「なんじゃこりゃあああああああああああああ!!」 紙から出てきたDVDプレーヤー、二万九千八百円。 紙がソレに姿を変えてセラスが投げ捨てるまでに掛かった時間、十八秒。 この殺し合いの中での十八秒、プライスレス。 セラスの精神をどんどんと蝕んでいく一連の出来事。 普通の人間なら発狂しかけているはずだが、そこで発狂せず踏ん張っている所がさすがと言ったところか。 二枚目の紙を鷲掴みにした時にようやく表紙の文字に気がつく。 【たこ ※生物です】 もうここまで来ると何かのコントだと思いたくなる。 自分に支給されたアイテムが一つは妙な映像を垂れ流す機械。 そして次は生きた(正確にはまだ生きていないかもしれないが)タコである。 変な映像を垂れ流しながら、タコを振り回して戦う美少女吸血婦警セラス・ヴィクトリア! このバトルロワイアルの戦場に華麗に舞い降り!正義を貫き悪を討つ! 「オドレナメとんのかワレエエええええ!!」 もう彼女の精神は最早直径数ミリほどしか残っていない。 最早彼女が人間だとか吸血鬼であるだとかそういう次元の問題ではない。 どんな生物でもこんな状況なら発狂しかけるだろう。 それをギリギリで保っている彼女は生物を超え始めているのかもしれない。 八つ当たりのようにタコと書かれた紙を何度も引き裂いてそこらへんに投げ捨てる。 数秒後、バラバラになったタコが地面に落ちるのだがそれを見ている余裕は既になかった。 武器武器武器武器と念仏のように唱えながら三枚目の紙をぶっきらぼうに取り出す。 その顔は正に執念の塊で、人魂の三つや四つぐらい周りに浮いていてもおかしくないぐらいである。 もし意志を持つ武器だとかそういうファンタスティックな物が出てきていたら自ら名乗りをあげていたかもしれない。 「僕の身体を使って戦うんだ!」的な展開である、起こりえる訳がないが。 その紙には、「スティッキー・フィンガーズのDISC」と書かれていた。 開くと自分の頭ぐらいの大きさの円盤が姿を現した。 残った紙を流し読みすると、このDISCを頭に入れるとスタンドといわれる能力が使えるらしい。 普通なら疑って掛かるべきだが、怪しい映像に生タコの紙のコンボを喰らった今のセラスに疑うという思考をすることすら難しい。 もうストレスの塊でしかない頭に、勢い良くDISCを突っ込んだ。 特に身体に変化が起こったわけではないが、何かしらの違和感を感じる。 残った説明書の紙を読んでみる、どうやら使用者の思考道理に動くらしい。 しかもこのスタンドはジッパーをつける事ができるらしい。 自分の腕にジッパーをつけて射程を延ばしたり、支給品を殴って裂け目を作ることもできるらしい。 しかし首からすこし下あたりからはジッパーが付かないらしく、首輪解除には使えない。 また地面にジッパーを作ることも出来なくなっているらしい、つまり本来は地面に潜れるということなのだろうか? そして何処に作るにしても一回のジッパー作成にはすこし体力を消費するらしい、連発は危険と書いてある。 そんな事はどうでもいい、物は試しである。近くの木にジッパーを付けるつもりで、スティッキー・フィンガーズで勢い良く殴った。 普通の人間が発散する量の数倍のストレスと共に。 結果、木に一本のジッパーが出来。それを回して見ると見事に上と下と分かれたのである。 そこから少し離れた場所に向かって自分の腕を伸ばして木を殴ることにも成功した。 これは当たりかもしれない、銃が引けなかったのは残念だが当面はこのスタンド能力とやらで何とかやっていけるだろう。 素早く腕を戻し、手を握り締めてみる。神経どころか骨や肉まであの時離れていたのに。 感覚だけはしっかりと残っていた、切り離した後でも細かい指の動きなども出来た、不思議な事が起こるものだ。 だが、そんな不思議なことに驚く彼女の溜まりに溜まったイライラも収まりきらない中、そいつは現れた。 「こんばんわ、お嬢さん。少し宜しいかな?」 渋い声に振り返れば、そこには長髪の四十ぐらいの中年が立っていた。 武装もしておらず、警戒心もあまりないようだが一つだけ引っ掛かる事があった。 彼が何時の間にそこに居たのかと言う事である。 その男は、さっきまで自分がいた少し後ろに立っていたのだ。 気配が消せるのかなんだか分からないが、とりあえずある程度の使い手であるようだ 「はぁ、いいですケド。貴方誰ですか?」 スティッキー・フィンガーズのギリギリ射程の距離まで後ろに下がりたいところだが。 不信感を与えてしまうかもしれないと考え、危険だがその場に留まり話しを続けた。 「ああ、申し訳なかったね。私の名はHOLY部隊隊長マーティン・ジグマール。  この星を……いや時系列を越え全宇宙の支配者となる男だ!」 もう勘弁してくださいと大声で叫びたくなった。謝るからどっかいってくれというのが本心だった。 全宇宙を支配だなんて小学生みたいな夢見がちの発言をさらりと言いのけるこの男は何者なのか。 とりあえず分かる事は警戒を解いてはいけないということだけである。 「……すいません、意味が分からないんでスけど」 「ハハハッ、お子様には少し難しい話をしてしまったようだな」 お子様扱いされ、すこしカチンと来たがそこは必死に堪える。 ジグマールの出方をただひたすら伺うしかない。 「つまりだ、全宇宙を支配する能力を持つこの私がここですべき事は一つだ。  この空間から生きて脱出し、全宇宙を支配する。  つまりだ、この空間で生き残るべき人間は私一人ということだ、分かってくれるかな?」 話が飛躍してるって言うレベルじゃない、もう宇宙だとか亜空間だとか並行世界ですとかいうそういうレベル。 もう何がどうなっているのか、今を受け止めるのも大変なのでこの男についてセラス・ヴィクトリアは考えるのをやめた。 「しかし、一つだけチャンスをあげよう」 ジグマールの顔が歪む、顎に手を置きじっとセラスを見つめている。 「私の仲間になり、共に戦ってくれるというのならば少し考えてもいいぞ」 「……つまり、手を組んで一緒に殺してまわれって事?」 ジグマールの顔にゆっくりに笑みが浮かぶ。 しかし、考えるまでも無い、最初からセラスの答えは決まっている。 「私の仲間になれ!」 ジグマールがこちらを指差して言う。 「ノーだ!」 拳を握り締め言い返す。 「YESと言え!」 少しジグマールの声が荒くなる。 「絶対にノゥ!!」 その声と同時にセラスは跳ねた。 考える事は一つ、ジグマールのその顔に己の鉄拳を打ち込むために。 しかし、さっきまでそこにいたはずのジグマールは。 セラスの拳が届くと同時に、その場所から姿を消していた。 ありのまま、今起こったことをもう一度考え直す。 自分はジグマールを殴ろうと思って飛び跳ねていたら、何時の間にか消えていた。 何を言っているのか、何をされたのかも分からないが。 魔族の末裔の力ですとか亡き恋人の思いだとかそういう次元じゃない。 かといって支給品でパワーアップしましたとか常人には成し遂げられない修行の賜物ですとかそういう話でも無い。 もっとも理不尽な何かの片鱗を味わったような気分だ。 「フフフ、いい心がけだ。益々仲間にしたくなって来たぞ」 素早く振り向くと、後ろで何時の間にか腕を組んで笑っている。 そしてもう一度指を突きつけて、今度はゆっくりと言った。 「今一度君に質問しよう。  私の能力が、空間を操れるとしたら、どうする?  どんな攻撃も、避けられるとしたら、どうする?  何処に逃げても追いかけてくるとしたら、どうする?  人間ワープが可能な私を君は、どうする?  どうする? どうする? どうする?  君ならどうする?」 どうやらさっきの能力は人間ワープという物らしい。 空間を操りどんな攻撃も避けられる……それぐらいで諦める事はない。 もっとゴイスな能力だとかそういうのとも今まで戦ってきた、ビビってる場合でもない。 「それでも! 戦う!」 もう一度勢い良く跳ねる、ジグマールから数メートル離れた場所で拳を突き出すし――。 その拳が、とてつもない初速を纏い砲弾の如く放たれた。 ジグマールに一瞬、焦りの色が見える。が、それが届くまでには既に姿は消えていた。 「だから無理だと言って――」 「そこかァァ!!」 人間ワープを使い、セラスの背後に立ち攻撃を仕掛けるつもりだったジグマールはそのセラスの超反応に再び驚愕した。 左の手がジグマールのワープ先に既に現れていたのだ。 ワープ先を読まれていた?いや違う、セラスの勘がジグマールの位置を探っていたのだ。 それと、ジグマール自身も気が付き始めているが、人間ワープの効力がどうも薄れているのだ。精々一~二メートル先が限界である。 スティッキー・フィンガーズの射程内に入ってしまい、パンチを喰らい後ろへと吹き飛んだ。 「ふふふ……その眼、敵対を止めぬ眼……。  ならば体裁を取り繕う必要はないな……  威厳を得る為に変えていた……この顔でいる必要もない!!!  そうだ……これが本当の私ッ!」 ジグマールの体から徐々に光が放たれる、そしてその光の中からジグマールが姿を現し……。 高貴なオーラを纏い、セラスの目前へと出てきたのだ。 「……び、美形だー!!」 思わず叫んでしまった、いや叫ばなければいけない気がした。 光から姿を現したのは中年の男性ではなく、今をときめくいわゆるイケメンの19歳ほどの美麗の青年。 その姿を見た瞬間、頭の中に美形という文字しか浮かばず、気が付けば叫んでいた。 「さぁ、侵攻と攻撃を開始しよう! 自覚と覚悟はいいかね!?」 その言葉と同時にジグマールの姿が視界から掻き消える。 先程はまぐれのような物で一撃を当てる事が出来たが次はそうは行かない。 ジグマールの姿が現れるのを待ち、一瞬の間に腕を切り離し拳を当てる。 エアガンすらない今。自分にできる事は、只それだけ。 ジグマールの姿が比較的近くに現れる、姿を認知し腕を振りかぶる。 腕を突き出し、ジッパーを取り付け奥へと飛ばす。 だが、その拳は当たらない。 「ゆるゆるだっ!!」 衝撃波のような物をぶつけられ、足で堪えるも一メートルほど後ろへ動かされる。 胃の中身だとかがこみ上げて来そうになるが、適当にそこらへんに吐き捨てる。 どうやら厄介な相手に絡まれてしまったようだ。 逃げてもこの能力であっというまに追いつかれる、今この場でできる限り足掻くしかない。 それに数度とジッパーをつける能力を乱用したからか、少しだけ息が上がり始めている。 持久戦に持ち込まれれば勝ち目はない、だから後少しでケリを付ける。 「おぉうりゃあああああ!!」 大きく振りかぶり、腕を突き出す。 腕が伸びていくも、やはりその腕は当たらず。 「だから無理だって!!」 再び背後へ回られ衝撃波のような物を叩き込まれる。 流石に二度目は堪えることも出来ず、大きく吹き飛び地面を転げまわる。 転げ終わった後に、少し大きめの血の塊を吐く。 血液を吐いたときの独特の嫌な感覚がセラスを襲うが、ひるんでいる場合ではない。 しかし、勝ち目は本当にないのか? ふと、ここを通っていた誰かが助けてくれるかもしれない。 しかしそれは本当に運の領域、それに縋る事は出来ない。 では、この状況を打破する何かを思いつくか? あの人間ワープにはこの能力には太刀打ちできない。せめて銃でも、この射程がもう少しだけ延びればいいのだが。 現実は非情にも彼女に重く圧し掛かる。 だか、彼女は諦めない。 殺し合いに乗るのはゴメンだ、誰かが殺されるのもゴメンだ。 だから殺すつもりがある奴なら倒さなければならない。 無論、それが死ぬことになったとしても。 何度目かの右の拳を突き出す。 そして戦車の砲弾の如く放たれるそれも、ジグマールの顔には当たらない。 「そろそろ決着をつけさせて貰おうお嬢さん!」 その声と同時に、衝撃波が放たれる。 声のするほうに左の拳を延ばすが、届かない。一メートルほど吹き飛ばされ、踏ん張るものの血を吐いた。 しかし、セラスは笑っていた。嬉しくてたまらなかったのだ。 そのムカツく顔面に拳を当てられる事が、胸の底からスカッとするような気分が分かる。 セラスは、足をバネにし、飛び上がる瞬間に己の胴体にジッパーをつけたのだ。 加速をつけた胴体はある程度先まで飛び、その先で戻ってきた右の拳を突き出す。 胴体の加速に加え、突き出した時の速さも吸い込んだ拳がジグマールを襲う。 衝撃波を放ち、戦いつづければ勝てるという優越感に浸っていたジグマールの頬を殴りぬける。 大きく吹き飛ばされ、地面を転がり何度もバウンドする。 投げ出されたセラスの上半身も勢い良く地面へと落ちる。 「婦警、ナメないでよね」 笑いながら、少しだけ勝ち誇って言う。 切り離された下半身が歩き、上半身の元へと向かう。 そして上半身と下半身をくっつけ、両の腕も回収する。 視界の向こうでジグマールが起き上がるのが分かる。 「大したお嬢さんだ……使うまいと考えていたが、これを使うしかないようだ!」 起き上がってきたジグマールが、一枚の紙を手にしセラスの視界から消える。 支給品を使っていない……となると何かしら支給品を使ってくるはずなのだ。 セラスは全神経を集中させ、ジグマールが何時現れてもいいように対応する。 ジグマールは、セラスの視界の上の方にに現れた。 その手に一枚の紙を、握って。 「ハハハ! 戦車だッ!! 押し潰されるがいい!」 その紙が勢い良く開かれると、一台の大きな戦車に姿を変えた。 その戦車はゆっくりと降って来る。しかし、セラスは動じない。 むしろ、再び笑っていた。一度だけでなく二度も、その顔面に拳を打ち付けられるのが本当に嬉しかった。 左の拳で殴り、戦車にジッパーを取り付ける。 右の拳が戦車の中を通り抜け、反対側にもジッパーを取り付ける。 降って来る戦車に合わせ、己の体を空間へと向ける。 するすると戦車の中を通り抜け、ジグマールの目の前にセラスの顔が現れる。 歯を大きく見せセラスは、笑った。 色んな意味での、奇跡のご対面。 「ハロー、小便は済ませたか?  神様にお祈りは?  誰も来ない空間でガタガタ震えて命乞いをする準備はOK?」 右の拳でジグマールの胸倉を掴み、どこかで聞いたようなセリフを吐き不敵に笑う。 そして左の拳で……ッ!! 「うらうらうらうらうらうらうらうらうらうらうらああああああっっ!!」 殴った、何度も何度も何度も殴って殴って殴って殴りぬけた。 「ひげェッ――――――!!」 美形が跡形もなく崩れ去り、蒼いアザやたんこぶを顔じゅうに作り血を垂れ流している。 前歯も数本折れたのだろう、何か喋っているが何と言っているのか分からない。 しかし、まだジグマールは生きている、止めを刺さなければならない。 そうして吹き飛んだジグマールの元へと向かうため、戦車から抜け出して歩き始めた。 しかし、どうも手に力が入らず足元もふらついている。ジッパーの連発でどうやら体力を使いすぎたようだ。 例えセラスの体力が並みの人間より多くあるとは言っても数が多すぎた。気を失う前に早く止めを刺さなければならない、が。 無常にも、彼女にはまだまだ試練が襲い掛かる。 微かに見える視界の先で、ジグマールが何か大砲のような物を構えているのだ。 「フフフ……やばり人づいのじはいしゃだるわだしにでんもみかたぢてぐれでいるようだ!!」 そして、砲身から一つの砲弾が放たれる。自分の拳のような速度で向かってくる。 もしあの砲弾が当たれば、砲弾の爆発に加え後ろの戦車を巻き込めば大きな爆発が起こる。 逃げても間に合わない、ならば。 「お前も道連れだああああ!!」 体力を振り絞り、スティッキー・フィンガーズで腕を伸ばす。 既に気を失いかけていたジグマールの胸倉を掴み、こちらへと引き寄せる。 「おおおおおおおおおお!!」 砲弾が当たる前に、全身の筋肉に力をこめひたすらジグマールの身体を引っ張る。 そして、セラスの右当たりににジグマールが来たとき。 鼓膜が破れ、全身を焼かれ、骨が砕け、ぶっきらぼうに投げ捨てれられたように転がる自分の体が分かった。 どんどんと意識が遠のいて行くのが分かる。 それでも、彼女は笑っていた。少しでも殺人が起こる可能性が減らせたのだから。 それだけで、満足だったのかもしれない。 そして、セラスヴィクトリアは考えるのをやめた。 正義の海の中で、彼女は永遠に眠り続けるのだ。 &color(red){【セラス・ヴィクトリア@HELLSING 死亡確認】} &color(red){【残り54人】} 「ギャ……ラン=ドゥ?」 セラスが駆逐した筈の悪は、生きていた。 傷だらけの奇妙な男に全身を包まれる形で、しぶとくも生きていたのだ。 「ヨォゥ、マーティン・ジグマールゥ。苦戦してるみたいじゃないカァ~」 「うわあ……ああ、ギャラン=ドゥ皆が……皆が僕をイジ、いじめるよッ」 ゴツゴツとした鎧に包まれたような男(?)に縋り付き、ジグマールは大粒の涙をボロボロと零す。 その男はジグマールの頭をなでながら、優しく言い放った。 「そうかい、マーティン・ジグマール。悲しいナァ……。  この場所では全員がお前の敵だ、だが考えてみろ。  さっきの女みたいにゲームに乗らない奴だっている、そこでだジグマールゥ」 顎に手を置き、ニヤリと笑ってジグマールを指差す。 「そいつらに匿ってもらうんだよ、あのジジイに逆らうフリをして人数が減ってきた辺りでそいつ等を殺してまわればいい。  全員を相手するのは大変だからナァ……」 男の話の要所要所でジグマールは頷く。その姿を見て男も納得したように笑う。 「それじゃあ、頑張れよォゥ。俺はちょっとこのキズの所為で引っ込むがお前に力があればまた助けてやれるからなァ」 そう言って、男は瞬時に跡形も残さずその場から消えた。 「頑張るよギャラン=ドゥ。  そして……この全宇宙を支配して見せる!」 強く拳を握り締めたジグマール、ゆっくりと起き上がりその足を進める。 しかし、その意思も空しくジグマールの身体は数秒後、崩れるように力なく倒れた。 セラスから少し離れた場所で、ゆっくりと意識を天空へとあずけていった。 頑張れよ、マーティン・ジグマール。 俺の野望のために、お前はまだまだ生きてもらわなくちゃイケナイんだからな。 【E-5 北西部/1日目/早朝】 【マーティン・ジグマール@スクライド】 [状態]:全身ボコボコ、歩くのがやっとの重傷、美形状態、極度の疲労、気絶 [装備]:なし [道具]:なし [思考・状況] 基本:生き延びて全宇宙の支配者になる。 1:誰かに匿ってもらう。(美貌が使えそうなら使う) [備考] ※人間ワープにけっこうな制限(1~2mほどしか動けない)が掛かっています。   連続ワープは可能ですが、疲労はどんどんと累乗されていきます。   (例、二連続ワープをすれば四回分の疲労、参連続は九回分の疲労) ※ギャラン=ドゥに関しては次の書き手さんにお任せします。当分は出てこれないと思います。 ※戦車(ティーガー(P)駆逐戦車)は爆発に巻き込まれました、操縦等は不可能だと思われますが。部品は何かに使えるかもしれません。 ※また、ジグマールのデイパックは爆発に巻き込まれ、殆ど原形を留めていないままどこかへ飛散しました。   未確認支給品(0~1)も無事ではないと思われます。 ※破壊の杖@ゼロの使い魔(残弾なし)はE-5の戦車の近くに放置されています。 ※スティッキー・フィンガーズのDISC@ジョジョの奇妙な冒険は爆発によりどこかへ飛んでいきました。   原形は留めているかもしれませんが、回収できるかどうかは不明です。 ※DVDプレーヤーは爆発には巻き込まれませんでしたが、投げ捨てられた為修理しないと使えないと思われます。 ※タコの死体がE-5のどこかにあります。 ※セラスのデイパックは爆発に巻き込まれたためどこかへ飛散しました。回収は難しいと思われます。 ※早朝当たりにE-5を中心に大きな爆発音がしました。   周囲1~2マスの人間は聞こえているかもしれません。 |034:[[変態!!俺?]]|[[投下順>第000話~第050話]]|036:[[The Great Deceiver (邦題:偉大な詐欺師)]]| |055:[[ピンクの髪のペッタンコ娘、そしてマダオ]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|040:[[零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん]]| |019:[[月光下]]|&color(red){セラス・ヴィクトリア}|&color(red){死亡}| |&COLOR(#CCCC33){初登場}|マーティン・ジグマール|040:[[零式防衛術外伝 すごいよ!!散さん]]| ----

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