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拳(終章)」(2023/11/15 (水) 22:10:41) の最新版変更点

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**拳(終章) ◆1qmjaShGfE JUDOの拳がパピヨンを捉えようとした時、覚悟は危うくパピヨンとの約定を忘れ、飛び込んでしまう所だった。 パピヨンに対し一切の攻撃を行わずただ避け続けるだけだったJUDOは、最初のその一撃のみで、パピヨンをあっさりと倒してしまった。 それでも、まだ動く事は出来ない。 組んだ腕が震える。力は温存せねばならぬとわかっていても、腕に篭る力を止める事は出来ない。 「……零、状況を報告してくれ」 『サザンクロスのエネルギー化46%。我々の方もまだまだ予定数値には時間がかかる』 「乙作戦への移行を。これ以上は隠し切れぬ」 『了解した。……覚悟、堪えろよ』 二度も同じ失敗をするものか。そう覚悟の表情が語っていた。 JUDOは調整を終えると、ふと周囲の風景に変化が生じている事に気付く。 少し夢中になりすぎていたのか、今までそれに気づけなかった。 霊体に近い存在であった以前とは異なり、今は五感にて外界の情報を得なければならない為、 もっと視覚や聴覚に意識を配っていなければならないな、と他人事のように考える。 サザンクロスの巨体が、その半ばまで光の粒子と化し渦を巻いている。 緑や青色の輝きは、サザンクロス全体を覆いつくし、まるでこの世のものとも思えぬ幻想的な一枚絵を描く。 「あれは……一体何の真似だ?」 JUDOの問いかけに覚悟は答えぬ。 口を開けば、それがきっかけで怒りが噴出してしまうかもしれない。 それでも口にせずにはいられなかった。 「あの光こそが、我等の怒りだ」 「何いいいい!! やっぱ甲作戦じゃあかんかったか!」 『変換に時間がかかりすぎた! やはり同時進行で行く! 服部君、精製と誘導は君にやってもらう事になる! よろしく頼むぞ!』 「やるしかないんやろが! 俺科学者でも何でも無いんに、こないにややこしい機械操作させよってからに……」 伊藤博士と通信をしながら、エネルギー物質変換装置のコンソールを確認する。 服部は簡単なレクチャーのみで、これを操らなければならない。 当初のプランでは、サザンクロス全ての変換を終え、操作室が吹っ飛ぶ寸前、一気に送り出す手はずだったのだが、そんな時間の余裕は無いと前線の覚悟は判断したのだ。 コンソール上にある入出力計と変換効率を示す数値を確認後、変換後の流出先座標を再入力する。 「げー! 何やこれ! 伊藤博士! 何か赤いランプついてぎゃーぎゃー喚き出しよった!」 『それでいいんだ! そもそも規定されてる使用法を逸脱してるやり方なんだから!』 「そーいう事は先に言えやああああああ!!」 服部の操作に従い、サザンクロスを覆っていたエネルギーの渦がその方向を定め流れ出す。 それは天を流れる天の川のように煌き、美しき大河を思わせるが、より近づいてこれを見るとその姿を180度変える。 荒れ狂う大海原のように波打ち、その先にある全てを飲み込む濁流はうねり、蛇行しながら目指す目標に襲い掛かる。 その先にあるのは一人の人間。 三千の英霊を宿しし鎧を纏う、人類最強の戦士、葉隠覚悟。 その胸の内ではパピヨンより託されし、狂気の核鉄が黒き力を解き放つ。 黒の核鉄。 それを体に取り込みし者、周囲全ての生命エネルギーを強制的に吸収してしまうヴィクター化を引き起こす。 光の奔流はそんな覚悟を包み込み、押し流さんと試みるも適わず、比するには余りに小さすぎる存在であるはずの覚悟に吸い込まれていく。 『ぐっ……おっ……この量は……』 「堪えろ零! まだまだこの程度ではないぞ!」 エネルギー物質変換装置を基点に、物質はサザンクロス、エネルギーの送り先はヴィクター化した葉隠覚悟、 そして変換後のエネルギーを生命エネルギーにする事で、覚悟とのパイプを繋ぐ。 これが天才パピヨンの組み上げたプラン。 膨大なエネルギーを誇る大首領JUDOに対抗するべく、この場で用意しうる最大のエネルギーを集め、それらを攻撃エネルギーに変換する能力を、と考えたパピヨンが打った手であった。 エネルギー物質変換装置のキャパシティもサザンクロス程の質量に耐えうるかわからない。 何より覚悟と零がヴィクター化したとしても、これだけのエネルギーを支え、更に攻撃を行うなどという真似が出来うるものか。 全てがぶっつけ本番。 成功率一割未満の理由はこれであった。 何とかと紙一重と言われても仕方が無いこのプランを、伊藤博士も服部も受け入れた。 相手は神様、こっちも紙一重を越えてやるぐらいでないと釣り合わないと言って。 さしものJUDOもこれだけの大足掻きを見せられるとは思いもよらず、呆気に取られたままエネルギーの流れを見送っている。 体の限界を全く考慮に入れていないエネルギーの奔流をその身に受け続ける覚悟は、拳を握って前へと進む。 「さあ、次は俺が相手だJUDO!」 踏み込む覚悟が真正面から拳を振るう。 それだけならば簡単にかわせる、そう思うかも知れないが、受けた方はそう簡単にはいかない。 目線、踏み込みの位置、振るうタイミング、信じられぬ間合いから伸びてくる拳。 全てが超一流の拳を、かわせる者など一握りなのだ。 それでもJUDOは圧倒的に勝る反応速度と体速度にて腕を上げてこれを受ける。 エネルギーの塊であるJUDOは、体組織もその力にて強化している。 これを破壊する事は、地上の何人たりとも適わず。 JUDOは片足を後ろに引き、覚悟の拳を受け止めきる。 後ろ足を支える大地が割れ砕け、足首までを地面に埋め込む。 「おおおおおおおおおっ!!」 覚悟は吼え叫びながら拳を振り抜かんと全身の力を振り絞る。 両の足首から膝を伝い腰を通し、胴の捻りに加え肩を入れ、肘を突き出し拳を振り切る。 限界を超えんとする体を支えるのは、必勝の信念のみ。 JUDOはまだこの体での全力の出し方を知らぬ。 それでも、これほどの力を向けられ黙っている事など出来ない。 「フ、フハハハハハハッ!!」 パピヨンとの調整で得たゼクロスのボディへの理解を一時捨て去る。 覚悟の拳を受けし右腕はそのままに、体内を荒れ狂うエネルギーの赴くまま左腕を振り上げて覚悟を殴り飛ばした。 額でそれを受けた覚悟は、衝撃の余り意識を失いかける。 『覚悟! 着地だ!』 零の声に呼び戻され、自らが宙を舞っている事に気付くと、空中で体勢を立て直して足から綺麗に着地する。 見ると、JUDOの左腕が肘の先から消滅していた。 「カクゴ、だったか……いいぞ、こうでなくては我が復活の宴に相応しくはないっ!」 その部位に一瞥をくれただけで、腕が再生する。 今度はこちらの番とばかりにJUDOが覚悟に襲い掛かる。 エネルギーの流れ、輝きは今も継続して覚悟に降り注ぎ続けるも、恐れる風もなくJUDOは飛び込む。 お返しとばかりに、JUDOもまたまっすぐに覚悟へと拳を振るう。 如何に速度が速かろうと、覚悟の因果にそれのみで立ち向かう事など出来はしない。 肩をかすめるように外されるJUDOの拳と、交錯しながら放たれた覚悟の拳。 外れたはずのJUDOの拳は、その衝撃のみが飛びぬけて行き、大地を大きく抉り取った後、背後にあったビルを粉々に砕く。 方や覚悟の拳は、JUDOの突進を完全な形でカウンター出来たにも関わらず、JUDOは微動だにせず。 むしろ拳を支える覚悟の両足が大地を滑り、大きく後退する事となる。 かつてない難敵、覚悟はJUDOをそう認める。 同時に湧き上がる衝動、それに素直に従った覚悟は、笑い言った。 「村雨よ、これ程の剛の者。お主も戦いたかろうがこれもめぐり合わせよ。この男、JUDOは俺が倒す!」 服部は伊藤博士から戦況を確認しながら作業を続ける。 「覚悟の奴ようやっとるやん! こっちは後一分もかからん! 伊藤博士! そっちはどや!」 『こちらは既に完了している! 先に消えるのはこちらになりそうだから言っておくぞ!』 「おう遺言か! 聞いたるから言ってくれや!」 『最期の最後で、君達と共に戦えて本当に良かった! ありがとう、私は……』 通信機からの雑音に紛れ、伊藤博士の最期の言葉は聞けなかった。 服部は、通信機を投げ捨てる。 「最後だけちゃう。アンタはずっと、俺達と一緒に戦っとったで」 モニターに全ての作業が完了した旨を伝えるメッセージが表示される。 もう通信も繋がらないだろう。 部屋の外壁を光の粒子が覆い、服部の全てはここで終わる。 それでも服部は、今までの何かを振り返る事に僅かな時間を費やすことなく、未来への願いを込めて叫ぶ。 この声は、アイツに届くと信じて。 「やったれや覚悟おおおお!! JUDOだろうと神様だろうと俺達に勝てる奴なんざ居やしないんやああああああ!!」 サザンクロスが完全に消滅し、光の潮流はうねり、踊りまわりながら円を形作る。 一所に固まり、それによって勢いを付けた流れは、無数の濁流と変化し、覚悟へと一斉に降り注いだ。 この量はさしものJUDOも無視出来ず、覚悟から大きく離れ、距離を取る。 まるで龍の群が一斉に覚悟へと襲い掛かったかのような錯覚に捉われる。 その全てを、覚悟は一欠けらすら漏らさんとばかりにその身に引き受ける。 零が今やっていることはたった一つだけ。 絶大なエネルギーに耐え切れず弾け飛ばんとする覚悟の体を外側から全力で押さえつけるのみ。 『か、覚悟! い、意識は残っているか!?』 「無論! 我が身は牙持たぬ人の剣なり! その一心あれば例え五体砕けようとも問題など無い!」 零にはわかっている。 ぶちぶちと音を立てて千切れているのは、覚悟の皮膚であり、筋肉であると。 しゅーしゅーと気が抜ける音は、覚悟の体細胞が消滅していく音であると。 体液は沸騰し、強化外骨格の隙間から蒸発し、宙へと消えていく。 「ふはははは、零よ! やはりこれほどの戦い、俺一人で満喫するにはちと惜しいぞ!」 自らが消えていく、そんな中でもなお笑うが葉隠覚悟よ。 『何かをする気か!?』 「然り! 見ていろ零!」 覚悟は右の拳を高々と掲げる。 「此方を流離う英霊達よ! これより我大首領JUDOに一撃を加えん! 我こそはと思わん者はこの拳に集え!!」 粉々に砕けたはずの強化外骨格「凄」の欠片達が即座に応える。 無数の青白き魂が飛び出し、覚悟の拳へ馳せ参じる。 彼ら一人一人はまるで違う想いを持っている。 国籍も性別もその望む事も何もかもが違う魂達。 今回集められた魂だけではない、それ以外にも無数の魂が込められている「凄」から放たれた彼ら。 しかし、たった一つ、皆に共通する想いがある。 『あいつを力いっぱい殴らせろ!』 その一心のみでまとまった、脆い、余りにも脆すぎる絆。 しかし、その想いの強さが絆の脆さを凌駕する。 主義も主張も用を成さぬ、ただ、一重に、あいつをぶん殴ってやりたいだけだ! 覚悟の拳は輝きを増し、一つの意思に纏め上げられる。 強化外骨格の魂の座としての機能は、ここに来て新たな使用法を確立したのだ。 「はははははっ! そうか! 皆も奴を殴りたいか!」 振り上げた拳を降ろし、目の前で力強く握り締める。 「俺もだ! だから俺に任せろ! 孤拳一撃! ぶち決めるぜ!!」 赤木シゲルは静かに死を待ちながら、戦いの趨勢を見守っていた。 その隣に、柊かがみが腰をかける。 少し驚いた顔でそちらを見た後、赤木は嫌味の無い笑みで迎える。 「えへへ、ごめん。死んじゃった」 照れくさそうにそういうかがみを、責めるつもりは赤木にはない。 体を持って生きているように見えるかがみが、自身を死んだと表している事にも何も言わなかった。 「クククッ……そういう事もある。気にするな」 かがみも二人の戦いに目を向ける。 「ねえ、どっちが勝つと思う?」 「俺は一番最初に賭け終えている……勝つのは俺達さ」 「でも今の私の目から見ても、難しいと思うのよ……信じてるけど」 赤木は、今度は明らかに人を喰った顔で、含むように笑い出す。 「クックックックック……それでも、だ。俺の仕掛けは後二つ、残っている……」 呆れた顔でかがみは赤木に問う。 「本当、最後まで良くわかんない人よね……ねえ、一つ聞いていい?」 「何だ?」 「何で最後の支給品、使ってないの?」 赤木の手元に残った支給品の紙は、後一枚、手付かずで残っていた。 かがみがどうやってその内容を知ったのかわからないが、赤木は、そういうものだとあっさり受け入れる。 「こいつか?」 懐にしまっていた最後に一枚。そこには『水の魔法薬』と書かれており、その効果は怪我の治癒であった。 これを使って怪我を治し、かがみに言ったようにサザンクロスにある乗り物を奪えば、もしかしたら脱出する事も出来たかもしれない。 しかし、赤木はそうしなかった。 「服部と顔合わす機会があれば……と思ったんだが、いいさ、あいつももう生きてはいまい……」 かがみの見ている前でその紙をびりびりに破く。 「他人の命を賭けておいて、自分は傍観じゃ筋が通らない……だろ」 「案外律儀なのね」 「……さあ、もう行け。今度は、あいつらの元へ……」 仕掛けの為に、アカギは死力を振り絞って立ち上がる。 バランスを保ち、倒れたりしないように、例え、この体から俺の魂が抜け出そうとも…… 全身に満ちたエネルギーは、その余波だけで周囲の空間を歪ませる。 漏れ出す輝きは青白く、付近一帯を染め上げている。 「JUDO! これより我が最後の一撃を放たん! 見事受けきってみせよ! さすれば貴様の勝ちだ!」 高らかと宣言する覚悟、既に体の大半を失いながら、強化外骨格の中で、覚悟は、覚悟のままで存在していた。 「ハハハハハハハハッ!! こんなにも、こんなにも愉快な時は我が生涯にも無かった! お前は! お前達は素晴らしいぞ!」 JUDOの心に、新たな波紋が加わる。 その波は、ほんの僅か、そうJUDOの全エネルギーから比すればほんの1%程度だったが、心の中の異物を放置する事も出来ぬ。 「お前はムラサメか……ふん、どうせツクヨミが又何か……」 「JUDO、俺はお前の1%にすぎない。だが同時にお前自身でもある。その俺が命ずる……」 「愚かな……残る99%が否定するだけだ」 「俺の技を使え! 俺の最も強力な技を! それにより、今のお前に出し得る最大の攻撃が可能となる!」 村雨の提案は、それが本心からの物である事は、同化していたJUDOにも理解出来た。 「……何を?」 「覚悟の最大最後の攻撃を! お前は適当な技で迎え撃つ気か!」 そこに企みがある事も同時に知れる。 だが、それでも、JUDOは村雨の挑発を真っ向から受け止める以外術を知らなかった。 何より、それはJUDO自身の望みにも適った行為だ。 あそこで立ったままこちらを見ているアカギにも、我の最大の力を見せ付けたいと思っていた所だ。 「ハハハハハハハハッ!! 良かろう! 貴様の技! ゼクロス穿孔キックをこのJUDOの力で用いてやろう! 言っておくが貴様のそれなぞ比べ物にならんぞ!」 「当然だ! そうでなくばわざわざ俺が戻った意味が無いだろう! タイミングと技の使用は俺に任せろ!」 満を持して攻撃に移らんとする覚悟の既に失われたはずの耳に、かがみの声が響く。 「覚悟君、村雨さんの想いに……応えてあげて」 村雨がやろうとしている事、それを理解した覚悟は全身が震えるのを止める事が出来なくなる。 「ふ、ふははははははっ! やはり来たか村雨よ! お主もこのままでは済ませられんか! そうだろうとも! このような大戦! 二度とはお目にはかかれぬぞ!」 両足を肩幅から少し広めに構え、右足を大きく後ろに引く事で半身になる。 全ての魂はこの腕に、これ以上無い晴れ舞台。 ここで外すは男に非ず! 「来いJUDO!! 当方に迎撃の用意あり!」 JUDOもまた膝を落とし、両腕を大きく広げ構える。 「このJUDOを前に良くぞ吼えた! 行くぞカクゴ!」 大きくその両腕を振るうと、JUDOを中心に空気の渦が発生する。 それはあっと言う間に勢いを増し、渦から竜巻へ、そして真空の刃を伴う死の音速竜巻へと変化する。 竜巻の中心に居るのはJUDOと覚悟の二人。 しかしこれを放っているJUDOはともかく、覚悟はその疾風の刃に身動きが取れなくなる。 尚も強力になっていく嵐は、距離が開く毎にその効果範囲を増し、街並みを破壊し、更に奥にあった殺し合いの会場全てを巻き込み吹き飛ばす。 後方に吹き荒れる暴風は、しかし前方のそれと威力においては比較にならない。 その暴風ですら建物全てを消し飛ばす威力を持つのだ。 遙かに近しい距離にあり、最中にて舞い上がる事を堪える覚悟にかかる重圧はいかほどの物であろうか。 それでも、覚悟は動かない。 まるでその位置にしか存在しえぬがごとく、不動の体勢でひたすらに待ち続ける。 『覚悟! 最早我等も意識を保つ事能わず! されど戦士の誇りに賭け最後のその瞬間までお前を守ってみせようぞ!』 「頼むぞ零! お主のような戦士達と共に戦場を駆けれた事! 例え死すとも俺は忘れん!」 遂にJUDOが動く。 両足に込めたあらん限りの力で、大地を力強く蹴り出し、全ての力をこの一撃に込めんが為に。 この技は村雨でなくば間が計れない。 そのほんの一瞬、村雨はJUDOの意識の表層に飛び出す。 「行くぞ覚悟!」 その言葉の響きに、村雨の強い魂を感じた覚悟もまた、胸を張って返礼する。 「来い村雨! 覚悟……完了っ!!」 何と安心出来る、頼もしい言葉だろう。 この男ならば、一度見ただけの、しかもその後に改良を加え、完璧に仕上げたこの技すら、 見事打ち破ってくれるに違いない! 「これが俺の最高だ! ゼクロス穿孔キーーーーーーーーーック!!」 村雨ならば、あの時の欠点を必ず克服してくる。 そう信じタイミングを合わせていた。 流麗にして華麗な技の繋ぎ、全ての力を一点に集中していくその様の何と見事な事か。 最早村雨は未熟な戦士などにあらず。 一流の中の一流。 だからこそ、これこそが最強の一撃であると確信出来る。 単体で放ちうる最強の技、村雨の穿孔キックに対し、相手の攻撃力が高ければ高い程威力を増す覚悟の因果で迎え撃つ。 考えうる最大の破壊力を生み出すこれこそが、知恵を絞り策を組み上げた知恵者達の努力に応える戦士の一撃。 「そしてこれが俺達の最高だ! 因果あああああああああああああ!!」 JUDOは疲れた体を横たえ、満足気に目を閉じる。 その隣に座り、頬杖をつきながら見下ろしているのは柊かがみだ。 「……ツクヨミか?」 「今は柊かがみ。同じだけどね」 「ふん、人の意思を残したまま同化したか……面倒な事をする」 柊かがみはその身を神に捧げる事で神格を得、ツクヨミと同化する事で意識を保つ事が出来ていたのだ。 ツクヨミの能力もまた引き継いでいるかがみだからこそ、次元の牢獄もあっさりと開く事が出来た。 薄目を開けてツクヨミの姿を確認する。 ゼクロスに似たあの姿ではなく、元の人間の姿そのままになっている。 「あまり見目良くはない。元に戻せ」 「……いきなり感じ悪いわね、貴方」 友好的とは程遠い会話をかわすも、かがみは赤木に頼まれていた言葉を紡ぐ。 「で、どうだった?」 その話は、自身もしたかったせいだろう。見た目に文句をつけながらも、すぐに乗ってくる。 「ああ、素晴らしい時を過ごせた……これからもまた、このような時間が過ごせるかと思うと胸が高鳴る。ははっ、まるで人のようだ」 「そっ。良かったわね」 まだまだ話足りぬと、感動を言葉に変え続ける。 「我をも滅ぼし得ると思えた時、そこには確かに恐怖があった。そしてそれを乗り越えた時、  今まで想像だにしなかった程の喜びがあった……これは何物にも変えがたい。  アカギは宣言したとおり、素晴らしい時を我に与えてくれたぞ。ああいう人間も居るものなのだな……」 「じゃあさ、今貴方は人間が要らないなんて思う?」 「思わぬ。そのような暴挙、我が許しはしない」 赤木の最後の策。 例えJUDOを倒せずとも、JUDOとの共存が出来ればいい。それをJUDOに認めさせられれば、倒す必要すら無くなる。 それこそが、赤木の考えた最後の策だった。 倒せればそれで良し、例え倒せずともそこまで持っていければまた良い。 赤木シゲル人生最後のギャンブルは、そんな二段構えであったのだ。 「私も最後の爆発抑えるのに、随分力使っちゃったし……まあ貴方に比べればマシだけど」 「頼んだ覚えは無い」 「ええ、そうでしょうとも。でもね、もう一つだけね、貴方に用があるのよ」 「何?」 かがみは立ち上がって肩を鳴らす。 「これついさっき気付いたんだけどね」 神様や赤木さんには悪い事するなーとも思うが、もう止まらない。 「私まだ……」 恨みつらみは何時までも引っ張るものではない、そう思っても、やっぱり我慢出来そうにない。 「貴方を一発も殴ってないのよっ!!」 神様同士が殴りあったらどうなるかですって? そんなの両方共がエネルギー浪費するだけの話よ。 どっちが殴ろうと単純にエネルギーがぶつかりあうだけの話。 だから私みたいな下手くそが殴っても一緒なのっ。 いずれも計測すら困難な程のエネルギーを持つ両者が、その全てを叩き付け合った一撃。 ぶつかり合う二つのエネルギーは相互に反発し合い、ぶつかり合って瞬間的に放出される。 いわゆる、爆発と言われる現象だ。 あっと言う間に周囲全てを巻き込み、BADANが用意した会場全てを、そしてそれらが乗っていたテーブルマウンテンを丸々一つ消滅させる。 その時の光は、遠く北米ですら観測出来る程の強力な輝きで、周囲の生態系すら壊しかねないと危惧されている。 周りを人の住まぬジャングルで覆われていた事が幸いした。 人的被害はほとんどなく、たまたまそちらに目をやっていた幾人かが輝きに目をやられた程度だ。 元々調査していたおかげか、すぐにその異常に対応する事が出来たスピリッツは、滝を隊長とする調査隊を編成。 即座に現地に飛ぶが、テーブルマウンテンであった物が、巨大なクレーターに変化しているさまは、上から見ると最早唖然とするしかない。 これじゃ何も残っていないだろうと思うも、調査隊は調査がお仕事。 隊員達を引き連れ、緑一つ無い荒地と化した大地を進む。 ここが爆発の中心部、そう思われる場所で遂に発見があった。 部下達が止めるのも聞かず、滝は駆け寄る。 「お、おいお嬢ちゃん! あんた無事なのか!? 怪我はないか!」 へぇ、いきなり私の心配してくれるんだ。普通怪しむ方が先じゃない? 「ええ、大丈夫よ。貴方は?」 時間は残り少ない。あいつめ~、へろへろかと思ったら結構力残してたんじゃない。 「俺はスピリッツの滝だ。その、あんたは……」 もう後少しで消える事になる。あいつも消してやったけど、こっちももうほとんど出涸らし状態よ。 「はい、これ」 巫女服の懐から一枚のディスクを取り出し、彼に渡す。良い人みたいだし、きっとこれの意味わかってくれると思う。 「おい、これは……なあ、一体ここで何があったかあんたにはわかるか?」 本当に時間が無い。とりあえず結果だけ伝えて消える事にしよう。 私は、胸をそらして片手を突き出し、彼に向かってピースサインをしてやった。 「私達が、勝ったのよ」       漫画キャラバトルロワイアル       完 next仮面ライダーギーツepisode 0 ここからがハイライト ----
**拳(終章) ◆1qmjaShGfE JUDOの拳がパピヨンを捉えようとした時、覚悟は危うくパピヨンとの約定を忘れ、飛び込んでしまう所だった。 パピヨンに対し一切の攻撃を行わずただ避け続けるだけだったJUDOは、最初のその一撃のみで、パピヨンをあっさりと倒してしまった。 それでも、まだ動く事は出来ない。 組んだ腕が震える。力は温存せねばならぬとわかっていても、腕に篭る力を止める事は出来ない。 「……零、状況を報告してくれ」 『サザンクロスのエネルギー化46%。我々の方もまだまだ予定数値には時間がかかる』 「乙作戦への移行を。これ以上は隠し切れぬ」 『了解した。……覚悟、堪えろよ』 二度も同じ失敗をするものか。そう覚悟の表情が語っていた。 JUDOは調整を終えると、ふと周囲の風景に変化が生じている事に気付く。 少し夢中になりすぎていたのか、今までそれに気づけなかった。 霊体に近い存在であった以前とは異なり、今は五感にて外界の情報を得なければならない為、 もっと視覚や聴覚に意識を配っていなければならないな、と他人事のように考える。 サザンクロスの巨体が、その半ばまで光の粒子と化し渦を巻いている。 緑や青色の輝きは、サザンクロス全体を覆いつくし、まるでこの世のものとも思えぬ幻想的な一枚絵を描く。 「あれは……一体何の真似だ?」 JUDOの問いかけに覚悟は答えぬ。 口を開けば、それがきっかけで怒りが噴出してしまうかもしれない。 それでも口にせずにはいられなかった。 「あの光こそが、我等の怒りだ」 「何いいいい!! やっぱ甲作戦じゃあかんかったか!」 『変換に時間がかかりすぎた! やはり同時進行で行く! 服部君、精製と誘導は君にやってもらう事になる! よろしく頼むぞ!』 「やるしかないんやろが! 俺科学者でも何でも無いんに、こないにややこしい機械操作させよってからに……」 伊藤博士と通信をしながら、エネルギー物質変換装置のコンソールを確認する。 服部は簡単なレクチャーのみで、これを操らなければならない。 当初のプランでは、サザンクロス全ての変換を終え、操作室が吹っ飛ぶ寸前、一気に送り出す手はずだったのだが、そんな時間の余裕は無いと前線の覚悟は判断したのだ。 コンソール上にある入出力計と変換効率を示す数値を確認後、変換後の流出先座標を再入力する。 「げー! 何やこれ! 伊藤博士! 何か赤いランプついてぎゃーぎゃー喚き出しよった!」 『それでいいんだ! そもそも規定されてる使用法を逸脱してるやり方なんだから!』 「そーいう事は先に言えやああああああ!!」 服部の操作に従い、サザンクロスを覆っていたエネルギーの渦がその方向を定め流れ出す。 それは天を流れる天の川のように煌き、美しき大河を思わせるが、より近づいてこれを見るとその姿を180度変える。 荒れ狂う大海原のように波打ち、その先にある全てを飲み込む濁流はうねり、蛇行しながら目指す目標に襲い掛かる。 その先にあるのは一人の人間。 三千の英霊を宿しし鎧を纏う、人類最強の戦士、葉隠覚悟。 その胸の内ではパピヨンより託されし、狂気の核鉄が黒き力を解き放つ。 黒の核鉄。 それを体に取り込みし者、周囲全ての生命エネルギーを強制的に吸収してしまうヴィクター化を引き起こす。 光の奔流はそんな覚悟を包み込み、押し流さんと試みるも適わず、比するには余りに小さすぎる存在であるはずの覚悟に吸い込まれていく。 『ぐっ……おっ……この量は……』 「堪えろ零! まだまだこの程度ではないぞ!」 エネルギー物質変換装置を基点に、物質はサザンクロス、エネルギーの送り先はヴィクター化した葉隠覚悟、 そして変換後のエネルギーを生命エネルギーにする事で、覚悟とのパイプを繋ぐ。 これが天才パピヨンの組み上げたプラン。 膨大なエネルギーを誇る大首領JUDOに対抗するべく、この場で用意しうる最大のエネルギーを集め、それらを攻撃エネルギーに変換する能力を、と考えたパピヨンが打った手であった。 エネルギー物質変換装置のキャパシティもサザンクロス程の質量に耐えうるかわからない。 何より覚悟と零がヴィクター化したとしても、これだけのエネルギーを支え、更に攻撃を行うなどという真似が出来うるものか。 全てがぶっつけ本番。 成功率一割未満の理由はこれであった。 何とかと紙一重と言われても仕方が無いこのプランを、伊藤博士も服部も受け入れた。 相手は神様、こっちも紙一重を越えてやるぐらいでないと釣り合わないと言って。 さしものJUDOもこれだけの大足掻きを見せられるとは思いもよらず、呆気に取られたままエネルギーの流れを見送っている。 体の限界を全く考慮に入れていないエネルギーの奔流をその身に受け続ける覚悟は、拳を握って前へと進む。 「さあ、次は俺が相手だJUDO!」 踏み込む覚悟が真正面から拳を振るう。 それだけならば簡単にかわせる、そう思うかも知れないが、受けた方はそう簡単にはいかない。 目線、踏み込みの位置、振るうタイミング、信じられぬ間合いから伸びてくる拳。 全てが超一流の拳を、かわせる者など一握りなのだ。 それでもJUDOは圧倒的に勝る反応速度と体速度にて腕を上げてこれを受ける。 エネルギーの塊であるJUDOは、体組織もその力にて強化している。 これを破壊する事は、地上の何人たりとも適わず。 JUDOは片足を後ろに引き、覚悟の拳を受け止めきる。 後ろ足を支える大地が割れ砕け、足首までを地面に埋め込む。 「おおおおおおおおおっ!!」 覚悟は吼え叫びながら拳を振り抜かんと全身の力を振り絞る。 両の足首から膝を伝い腰を通し、胴の捻りに加え肩を入れ、肘を突き出し拳を振り切る。 限界を超えんとする体を支えるのは、必勝の信念のみ。 JUDOはまだこの体での全力の出し方を知らぬ。 それでも、これほどの力を向けられ黙っている事など出来ない。 「フ、フハハハハハハッ!!」 パピヨンとの調整で得たゼクロスのボディへの理解を一時捨て去る。 覚悟の拳を受けし右腕はそのままに、体内を荒れ狂うエネルギーの赴くまま左腕を振り上げて覚悟を殴り飛ばした。 額でそれを受けた覚悟は、衝撃の余り意識を失いかける。 『覚悟! 着地だ!』 零の声に呼び戻され、自らが宙を舞っている事に気付くと、空中で体勢を立て直して足から綺麗に着地する。 見ると、JUDOの左腕が肘の先から消滅していた。 「カクゴ、だったか……いいぞ、こうでなくては我が復活の宴に相応しくはないっ!」 その部位に一瞥をくれただけで、腕が再生する。 今度はこちらの番とばかりにJUDOが覚悟に襲い掛かる。 エネルギーの流れ、輝きは今も継続して覚悟に降り注ぎ続けるも、恐れる風もなくJUDOは飛び込む。 お返しとばかりに、JUDOもまたまっすぐに覚悟へと拳を振るう。 如何に速度が速かろうと、覚悟の因果にそれのみで立ち向かう事など出来はしない。 肩をかすめるように外されるJUDOの拳と、交錯しながら放たれた覚悟の拳。 外れたはずのJUDOの拳は、その衝撃のみが飛びぬけて行き、大地を大きく抉り取った後、背後にあったビルを粉々に砕く。 方や覚悟の拳は、JUDOの突進を完全な形でカウンター出来たにも関わらず、JUDOは微動だにせず。 むしろ拳を支える覚悟の両足が大地を滑り、大きく後退する事となる。 かつてない難敵、覚悟はJUDOをそう認める。 同時に湧き上がる衝動、それに素直に従った覚悟は、笑い言った。 「村雨よ、これ程の剛の者。お主も戦いたかろうがこれもめぐり合わせよ。この男、JUDOは俺が倒す!」 服部は伊藤博士から戦況を確認しながら作業を続ける。 「覚悟の奴ようやっとるやん! こっちは後一分もかからん! 伊藤博士! そっちはどや!」 『こちらは既に完了している! 先に消えるのはこちらになりそうだから言っておくぞ!』 「おう遺言か! 聞いたるから言ってくれや!」 『最期の最後で、君達と共に戦えて本当に良かった! ありがとう、私は……』 通信機からの雑音に紛れ、伊藤博士の最期の言葉は聞けなかった。 服部は、通信機を投げ捨てる。 「最後だけちゃう。アンタはずっと、俺達と一緒に戦っとったで」 モニターに全ての作業が完了した旨を伝えるメッセージが表示される。 もう通信も繋がらないだろう。 部屋の外壁を光の粒子が覆い、服部の全てはここで終わる。 それでも服部は、今までの何かを振り返る事に僅かな時間を費やすことなく、未来への願いを込めて叫ぶ。 この声は、アイツに届くと信じて。 「やったれや覚悟おおおお!! JUDOだろうと神様だろうと俺達に勝てる奴なんざ居やしないんやああああああ!!」 サザンクロスが完全に消滅し、光の潮流はうねり、踊りまわりながら円を形作る。 一所に固まり、それによって勢いを付けた流れは、無数の濁流と変化し、覚悟へと一斉に降り注いだ。 この量はさしものJUDOも無視出来ず、覚悟から大きく離れ、距離を取る。 まるで龍の群が一斉に覚悟へと襲い掛かったかのような錯覚に捉われる。 その全てを、覚悟は一欠けらすら漏らさんとばかりにその身に引き受ける。 零が今やっていることはたった一つだけ。 絶大なエネルギーに耐え切れず弾け飛ばんとする覚悟の体を外側から全力で押さえつけるのみ。 『か、覚悟! い、意識は残っているか!?』 「無論! 我が身は牙持たぬ人の剣なり! その一心あれば例え五体砕けようとも問題など無い!」 零にはわかっている。 ぶちぶちと音を立てて千切れているのは、覚悟の皮膚であり、筋肉であると。 しゅーしゅーと気が抜ける音は、覚悟の体細胞が消滅していく音であると。 体液は沸騰し、強化外骨格の隙間から蒸発し、宙へと消えていく。 「ふはははは、零よ! やはりこれほどの戦い、俺一人で満喫するにはちと惜しいぞ!」 自らが消えていく、そんな中でもなお笑うが葉隠覚悟よ。 『何かをする気か!?』 「然り! 見ていろ零!」 覚悟は右の拳を高々と掲げる。 「此方を流離う英霊達よ! これより我大首領JUDOに一撃を加えん! 我こそはと思わん者はこの拳に集え!!」 粉々に砕けたはずの強化外骨格「凄」の欠片達が即座に応える。 無数の青白き魂が飛び出し、覚悟の拳へ馳せ参じる。 彼ら一人一人はまるで違う想いを持っている。 国籍も性別もその望む事も何もかもが違う魂達。 今回集められた魂だけではない、それ以外にも無数の魂が込められている「凄」から放たれた彼ら。 しかし、たった一つ、皆に共通する想いがある。 『あいつを力いっぱい殴らせろ!』 その一心のみでまとまった、脆い、余りにも脆すぎる絆。 しかし、その想いの強さが絆の脆さを凌駕する。 主義も主張も用を成さぬ、ただ、一重に、あいつをぶん殴ってやりたいだけだ! 覚悟の拳は輝きを増し、一つの意思に纏め上げられる。 強化外骨格の魂の座としての機能は、ここに来て新たな使用法を確立したのだ。 「はははははっ! そうか! 皆も奴を殴りたいか!」 振り上げた拳を降ろし、目の前で力強く握り締める。 「俺もだ! だから俺に任せろ! 孤拳一撃! ぶち決めるぜ!!」 赤木シゲルは静かに死を待ちながら、戦いの趨勢を見守っていた。 その隣に、柊かがみが腰をかける。 少し驚いた顔でそちらを見た後、赤木は嫌味の無い笑みで迎える。 「えへへ、ごめん。死んじゃった」 照れくさそうにそういうかがみを、責めるつもりは赤木にはない。 体を持って生きているように見えるかがみが、自身を死んだと表している事にも何も言わなかった。 「クククッ……そういう事もある。気にするな」 かがみも二人の戦いに目を向ける。 「ねえ、どっちが勝つと思う?」 「俺は一番最初に賭け終えている……勝つのは俺達さ」 「でも今の私の目から見ても、難しいと思うのよ……信じてるけど」 赤木は、今度は明らかに人を喰った顔で、含むように笑い出す。 「クックックックック……それでも、だ。俺の仕掛けは後二つ、残っている……」 呆れた顔でかがみは赤木に問う。 「本当、最後まで良くわかんない人よね……ねえ、一つ聞いていい?」 「何だ?」 「何で最後の支給品、使ってないの?」 赤木の手元に残った支給品の紙は、後一枚、手付かずで残っていた。 かがみがどうやってその内容を知ったのかわからないが、赤木は、そういうものだとあっさり受け入れる。 「こいつか?」 懐にしまっていた最後に一枚。そこには『水の魔法薬』と書かれており、その効果は怪我の治癒であった。 これを使って怪我を治し、かがみに言ったようにサザンクロスにある乗り物を奪えば、もしかしたら脱出する事も出来たかもしれない。 しかし、赤木はそうしなかった。 「服部と顔合わす機会があれば……と思ったんだが、いいさ、あいつももう生きてはいまい……」 かがみの見ている前でその紙をびりびりに破く。 「他人の命を賭けておいて、自分は傍観じゃ筋が通らない……だろ」 「案外律儀なのね」 「……さあ、もう行け。今度は、あいつらの元へ……」 仕掛けの為に、アカギは死力を振り絞って立ち上がる。 バランスを保ち、倒れたりしないように、例え、この体から俺の魂が抜け出そうとも…… 全身に満ちたエネルギーは、その余波だけで周囲の空間を歪ませる。 漏れ出す輝きは青白く、付近一帯を染め上げている。 「JUDO! これより我が最後の一撃を放たん! 見事受けきってみせよ! さすれば貴様の勝ちだ!」 高らかと宣言する覚悟、既に体の大半を失いながら、強化外骨格の中で、覚悟は、覚悟のままで存在していた。 「ハハハハハハハハッ!! こんなにも、こんなにも愉快な時は我が生涯にも無かった! お前は! お前達は素晴らしいぞ!」 JUDOの心に、新たな波紋が加わる。 その波は、ほんの僅か、そうJUDOの全エネルギーから比すればほんの1%程度だったが、心の中の異物を放置する事も出来ぬ。 「お前はムラサメか……ふん、どうせツクヨミが又何か……」 「JUDO、俺はお前の1%にすぎない。だが同時にお前自身でもある。その俺が命ずる……」 「愚かな……残る99%が否定するだけだ」 「俺の技を使え! 俺の最も強力な技を! それにより、今のお前に出し得る最大の攻撃が可能となる!」 村雨の提案は、それが本心からの物である事は、同化していたJUDOにも理解出来た。 「……何を?」 「覚悟の最大最後の攻撃を! お前は適当な技で迎え撃つ気か!」 そこに企みがある事も同時に知れる。 だが、それでも、JUDOは村雨の挑発を真っ向から受け止める以外術を知らなかった。 何より、それはJUDO自身の望みにも適った行為だ。 あそこで立ったままこちらを見ているアカギにも、我の最大の力を見せ付けたいと思っていた所だ。 「ハハハハハハハハッ!! 良かろう! 貴様の技! ゼクロス穿孔キックをこのJUDOの力で用いてやろう! 言っておくが貴様のそれなぞ比べ物にならんぞ!」 「当然だ! そうでなくばわざわざ俺が戻った意味が無いだろう! タイミングと技の使用は俺に任せろ!」 満を持して攻撃に移らんとする覚悟の既に失われたはずの耳に、かがみの声が響く。 「覚悟君、村雨さんの想いに……応えてあげて」 村雨がやろうとしている事、それを理解した覚悟は全身が震えるのを止める事が出来なくなる。 「ふ、ふははははははっ! やはり来たか村雨よ! お主もこのままでは済ませられんか! そうだろうとも! このような大戦! 二度とはお目にはかかれぬぞ!」 両足を肩幅から少し広めに構え、右足を大きく後ろに引く事で半身になる。 全ての魂はこの腕に、これ以上無い晴れ舞台。 ここで外すは男に非ず! 「来いJUDO!! 当方に迎撃の用意あり!」 JUDOもまた膝を落とし、両腕を大きく広げ構える。 「このJUDOを前に良くぞ吼えた! 行くぞカクゴ!」 大きくその両腕を振るうと、JUDOを中心に空気の渦が発生する。 それはあっと言う間に勢いを増し、渦から竜巻へ、そして真空の刃を伴う死の音速竜巻へと変化する。 竜巻の中心に居るのはJUDOと覚悟の二人。 しかしこれを放っているJUDOはともかく、覚悟はその疾風の刃に身動きが取れなくなる。 尚も強力になっていく嵐は、距離が開く毎にその効果範囲を増し、街並みを破壊し、更に奥にあった殺し合いの会場全てを巻き込み吹き飛ばす。 後方に吹き荒れる暴風は、しかし前方のそれと威力においては比較にならない。 その暴風ですら建物全てを消し飛ばす威力を持つのだ。 遙かに近しい距離にあり、最中にて舞い上がる事を堪える覚悟にかかる重圧はいかほどの物であろうか。 それでも、覚悟は動かない。 まるでその位置にしか存在しえぬがごとく、不動の体勢でひたすらに待ち続ける。 『覚悟! 最早我等も意識を保つ事能わず! されど戦士の誇りに賭け最後のその瞬間までお前を守ってみせようぞ!』 「頼むぞ零! お主のような戦士達と共に戦場を駆けれた事! 例え死すとも俺は忘れん!」 遂にJUDOが動く。 両足に込めたあらん限りの力で、大地を力強く蹴り出し、全ての力をこの一撃に込めんが為に。 この技は村雨でなくば間が計れない。 そのほんの一瞬、村雨はJUDOの意識の表層に飛び出す。 「行くぞ覚悟!」 その言葉の響きに、村雨の強い魂を感じた覚悟もまた、胸を張って返礼する。 「来い村雨! 覚悟……完了っ!!」 何と安心出来る、頼もしい言葉だろう。 この男ならば、一度見ただけの、しかもその後に改良を加え、完璧に仕上げたこの技すら、 見事打ち破ってくれるに違いない! 「これが俺の最高だ! ゼクロス穿孔キーーーーーーーーーック!!」 村雨ならば、あの時の欠点を必ず克服してくる。 そう信じタイミングを合わせていた。 流麗にして華麗な技の繋ぎ、全ての力を一点に集中していくその様の何と見事な事か。 最早村雨は未熟な戦士などにあらず。 一流の中の一流。 だからこそ、これこそが最強の一撃であると確信出来る。 単体で放ちうる最強の技、村雨の穿孔キックに対し、相手の攻撃力が高ければ高い程威力を増す覚悟の因果で迎え撃つ。 考えうる最大の破壊力を生み出すこれこそが、知恵を絞り策を組み上げた知恵者達の努力に応える戦士の一撃。 「そしてこれが俺達の最高だ! 因果あああああああああああああ!!」 JUDOは疲れた体を横たえ、満足気に目を閉じる。 その隣に座り、頬杖をつきながら見下ろしているのは柊かがみだ。 「……ツクヨミか?」 「今は柊かがみ。同じだけどね」 「ふん、人の意思を残したまま同化したか……面倒な事をする」 柊かがみはその身を神に捧げる事で神格を得、ツクヨミと同化する事で意識を保つ事が出来ていたのだ。 ツクヨミの能力もまた引き継いでいるかがみだからこそ、次元の牢獄もあっさりと開く事が出来た。 薄目を開けてツクヨミの姿を確認する。 ゼクロスに似たあの姿ではなく、元の人間の姿そのままになっている。 「あまり見目良くはない。元に戻せ」 「……いきなり感じ悪いわね、貴方」 友好的とは程遠い会話をかわすも、かがみは赤木に頼まれていた言葉を紡ぐ。 「で、どうだった?」 その話は、自身もしたかったせいだろう。見た目に文句をつけながらも、すぐに乗ってくる。 「ああ、素晴らしい時を過ごせた……これからもまた、このような時間が過ごせるかと思うと胸が高鳴る。ははっ、まるで人のようだ」 「そっ。良かったわね」 まだまだ話足りぬと、感動を言葉に変え続ける。 「我をも滅ぼし得ると思えた時、そこには確かに恐怖があった。そしてそれを乗り越えた時、  今まで想像だにしなかった程の喜びがあった……これは何物にも変えがたい。  アカギは宣言したとおり、素晴らしい時を我に与えてくれたぞ。ああいう人間も居るものなのだな……」 「じゃあさ、今貴方は人間が要らないなんて思う?」 「思わぬ。そのような暴挙、我が許しはしない」 赤木の最後の策。 例えJUDOを倒せずとも、JUDOとの共存が出来ればいい。それをJUDOに認めさせられれば、倒す必要すら無くなる。 それこそが、赤木の考えた最後の策だった。 倒せればそれで良し、例え倒せずともそこまで持っていければまた良い。 赤木シゲル人生最後のギャンブルは、そんな二段構えであったのだ。 「私も最後の爆発抑えるのに、随分力使っちゃったし……まあ貴方に比べればマシだけど」 「頼んだ覚えは無い」 「ええ、そうでしょうとも。でもね、もう一つだけね、貴方に用があるのよ」 「何?」 かがみは立ち上がって肩を鳴らす。 「これついさっき気付いたんだけどね」 神様や赤木さんには悪い事するなーとも思うが、もう止まらない。 「私まだ……」 恨みつらみは何時までも引っ張るものではない、そう思っても、やっぱり我慢出来そうにない。 「貴方を一発も殴ってないのよっ!!」 神様同士が殴りあったらどうなるかですって? そんなの両方共がエネルギー浪費するだけの話よ。 どっちが殴ろうと単純にエネルギーがぶつかりあうだけの話。 だから私みたいな下手くそが殴っても一緒なのっ。 いずれも計測すら困難な程のエネルギーを持つ両者が、その全てを叩き付け合った一撃。 ぶつかり合う二つのエネルギーは相互に反発し合い、ぶつかり合って瞬間的に放出される。 いわゆる、爆発と言われる現象だ。 あっと言う間に周囲全てを巻き込み、BADANが用意した会場全てを、そしてそれらが乗っていたテーブルマウンテンを丸々一つ消滅させる。 その時の光は、遠く北米ですら観測出来る程の強力な輝きで、周囲の生態系すら壊しかねないと危惧されている。 周りを人の住まぬジャングルで覆われていた事が幸いした。 人的被害はほとんどなく、たまたまそちらに目をやっていた幾人かが輝きに目をやられた程度だ。 元々調査していたおかげか、すぐにその異常に対応する事が出来たスピリッツは、滝を隊長とする調査隊を編成。 即座に現地に飛ぶが、テーブルマウンテンであった物が、巨大なクレーターに変化しているさまは、上から見ると最早唖然とするしかない。 これじゃ何も残っていないだろうと思うも、調査隊は調査がお仕事。 隊員達を引き連れ、緑一つ無い荒地と化した大地を進む。 ここが爆発の中心部、そう思われる場所で遂に発見があった。 部下達が止めるのも聞かず、滝は駆け寄る。 「お、おいお嬢ちゃん! あんた無事なのか!? 怪我はないか!」 へぇ、いきなり私の心配してくれるんだ。普通怪しむ方が先じゃない? 「ええ、大丈夫よ。貴方は?」 時間は残り少ない。あいつめ~、へろへろかと思ったら結構力残してたんじゃない。 「俺はスピリッツの滝だ。その、あんたは……」 もう後少しで消える事になる。あいつも消してやったけど、こっちももうほとんど出涸らし状態よ。 「はい、これ」 巫女服の懐から一枚のディスクを取り出し、彼に渡す。良い人みたいだし、きっとこれの意味わかってくれると思う。 「おい、これは……なあ、一体ここで何があったかあんたにはわかるか?」 本当に時間が無い。とりあえず結果だけ伝えて消える事にしよう。 私は、胸をそらして片手を突き出し、彼に向かってピースサインをしてやった。 「私達が、勝ったのよ」       漫画キャラバトルロワイアル       完 ----

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