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**偽りの共闘 ◆DO.TxVZRzg  才賀勝は賢い子供だ。  彼は目的を達成するための手段を、綺麗に考えていくことが出来る。  例えば、首輪の仕組みを解析するために自分から進んで禁止エリアに入ったり。  例えば、人探しのために飛行能力を持つ支給品を有効活用したり。  大人でさえも気づかない方法を用い、目的に向かって邁進する。  本来人探しとは、多くの労力と手間をかけるものなのだが、 彼のように優れた頭脳を駆使すればきっと容易く目的の人物を見つけ出すだろう。 【午前4時 B1 才賀勝】  禁止エリアにおける首輪の反応を確認した才賀勝は、オリンピアに乗って移動を開始する。  人探しの際、こちらから相手を見つけるだけでなく、相手にも自分を見つけてもらおうと考えてのことだ。  無論、空を飛べば目立ってしまうため、少々危険になる。  だが、この会場で危険を無視した行動は利を生まない。  元々が殺し合いの場である。知力と暴力の限りを尽くし、他人を蹴落とそうとする場である。 であれば、どこかに隠れていても、周囲を警戒しながら歩いていても、死ぬ確率が0でない事に変わりはない。  もとよりの死ぬ確率が0でない以上、見返りを求めて行動を工夫することは決して間違いではない。  勝はギイの魂がこもったオリンピアを操る。  指貫を指に通し、両腕を広げて構える。  オリンピアは人よりも大きい天使の羽を広げ、大空へと飛び立っていった。 【午前4時15分 C2上空~ビル屋上 才賀勝】  才賀勝は一旦、オリンピアをビルの屋上に降ろした。  オリンピアの移動速度で上空を駆けていたのであれば、勝に会いたいと願う人々との出逢いを逃しかねない。  だから、時々地上に降りてそういった人を待つのだ。  この場所は、地上から非常階段で登ることが出来る場所である。  勝を見つけた人が、勝と合流するつもりであれば、簡単に出来るようにとここを選んだ。  そして同時に、屋上への入り口は非常階段しかなく危険な人物が入ってくる場所を一つに絞り込むことが出来る場所でもある。  仮に、危険人物が非常階段を登ってここまで来た場合は、オリンピアを操って逃げ出せばいいし、場合によっては戦うことも可能だ。  無論、状況を掴みきれていない今の段階で、危険な行動を取るのは出来る限り避けたいので、現状は逃げ優先。  ともかく、人を待つ準備は万端。  勝は指貫に指を通したまま、器用にデイパックから鉛筆と紙を取り出す。 「これまでの事をまとめないと」  ただ人を待つだけだと、時間を無駄に過ごす。  これまで分かったことだけでも、紙にまとめておく。  - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 1.地図の外は禁止区域である。  地図上で区切られた8x8のマスを出ることは出来ない。出ようとすると首輪が爆発する。 2.禁止区域での活動限界は30秒間。  禁止区域に入った場合、首輪が30秒間のカウントダウンを開始する。  カウントダウンを終了した後、首輪は爆発し、装備者を殺す。  - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - 「たったこれだけかぁ……」  事件に巻き込まれて数時間しか経っていない事を考慮しても、少ないと言わざるを得ない。  とはいえ、勝は小さな子供である。  そんな子供が、様々な情報を集められる方が無理というものだ。  とりあえず、考察できることも少なそうなので、参加者名簿でも見て他の参加者を待とう。  時間は午前5時まで。それまでに誰も来なかったら、ここを飛び立つ。 【午前4時30分 B2地上 エレオノール】  エレオノールは北に向かって歩いている。  目的は才賀勝の捜索だが、目的地は特に無い。  捜索対象の少年がどこにいるか不明である以上、探す場所など特定できないわけで…… 「たとえ、どれ程時間がかかろうと私はお坊ちゃまを見つけてみせる」 根気一つで才賀勝を探すより他は無いのだ。  もちろん、彼女が冷静に考えて、きちんと人探しの方法を検討していれば北に行くという選択を取らなかっただろう。  彼女のいる場所はB-2。ここから北に進んだところで、ほとんど何もない。  それよりは、人の多く集まる中央に移動した方が効率的に人探しが出来るというものだ。  エレオノール自身全く気づいていない事だろうが、地図上で8x8に区切られたこの会場を 無作為に移動して、人探しを行った場合の成功率は絶望的に低い。  無論、偶然の女神に助けられて目的を達する場合もある。  だが、それはあくまでも偶然、運が良かっただけというものだ。  計画性無くこの会場で人探しをするということは、64マスの区域全てを均一に扱って移動することを意味する。  つまり、64マス全てを移動して人を探すということだ。  周囲を警戒しつつ移動して、これまでエレオノールは1マスの移動に一時間かけてきた。  これだと全て移動するのには64時間かかることになる。  どこかのマスで確実に探し人が見つかると考えても、平均捜索時間は32時間。  自動人形破壊者が32時間ぐらい連続で動けると考えても、1日以上の時間を捜索に費やすことになる。  つまり、絶望的な時間がこの人探しにはかかる。  単純に言ってしまえば、エレオノールの手法だと目的は達成できないのだ。  それでも、幸運の女神に微笑まれて目的が達成されることがあるだろう。  けれど、幸運や偶然で手に入れる邂逅に何の意味があるのだろうか。  一度幸運に恵まれた人間は、帳尻を合わせるように幸運を失うことがある。  エレオノールが目的の人、才賀勝を探し当てた時は幸運を失う時ではないか。  幸運と不運は、いつか釣り合うものなのだから。  移動しているエレオノールの視界に、一瞬奇妙なものが映った。  見覚えのある人形。天使の羽根を持つ四本腕の懸糸傀儡。  あれは間違いなく…… 「オリンピア」 ギイ・クリストフ・レッシュが操るオリンピアに相違ない。  一瞬見えただけだったから、操っている人間の顔は見えなかった。  だが、見えなくとも分かる。あれを操っているのはギイ・クリストフ・レッシュだ。 「ギイ先生、今から行きます」  人形が向かった方角は東。  突き進めばそこに、ギイがいる。 【午前5時00分 C2ビル屋上 エレオノール】  エレオノールがC2について、暫く経った後。  彼女はそれほど高くないビルの屋上でオリンピアを見つける。 「この上に先生がいるのか」  才賀勝捜索中であったとしても、ギイの存在はエレオノールにとって特別である。  名簿に彼の名前が載っていなかろうと、エレオノールの常識ではオリンピアを操るのはギイしかいない。  だから、ここにギイがいることを全く疑わなかった。  彼女は非常階段を登り、オリンピアの元へと進む。エレオノールが屋上へと出る扉を開けると、そこには…… 「ギイ先生……じゃなくて、お坊ちゃま?」 才賀勝がいた。  一瞬、エレオノールの頭が混乱する。  つまり、先程までオリンピアを操っていたのはギイではなく才賀勝だったということか?  しかし、才賀勝にはオリンピアはおろか、一切の繰り人形を操る力が無いはず。  とすれば……  考えるまでも無いな。  エレオノールは、目の前にいる『才賀勝にそっくりな何か』に意識を集中させた。 【午前5時00分 C2ビル屋上 才賀勝】 「結局、誰も来なかったね……」  まぁ、一度の飛行で誰かと出会える程幸運に恵まれるわけがない。  何度も繰り返していけば、いずれは目的が達成できるだろう。  そう思って、勝は再び飛び立とうとする……     カチャリ……  飛び立つ直前、非常階段のドアが開く。     キィイ……  銀色の髪と、道化の化粧が目を引く長身の女性が現れる。 「ま、まさか……」  その女性の姿、勝にとって見覚えがあるとか、見たことがあるで済まされる姿ではない。  間違いなく、間違いなく…… 「しろがね!」  最も望んでいた人物の一人。銀髪の女性、自分の恩人、しろがねだ。 「ギイ先生……じゃなくて、お坊ちゃま?」  彼女もこちらに気づいたらしい。 「しろがね、そうだよ、僕だよ。勝だよ」  嬉しくて、嬉しすぎて涙が出る。勝は思わず、何もかもを忘れてしろがねに飛び込んでいく。  しろがねの腕に、今一時だけでも抱かれたい。  だが…… 「そこを動くな!」 しろがねの口から出た言葉は信じられないものだった。 「え? 何言って……  「許可なく喋るな!」  ナイフを片手にこちらを睨むしろがねの表情は、いつになく険しい。  自分を守ってくれたとき、倒すべき人形遣い達に向けた表情。  今の彼女はそれと同じものをしている。一体何があったのか勝には訳が分からない。 「まず、指貫から指を抜け、そして腕を広げて地面にうつ伏せになれ」  強い口調でこちらに命令してくるしろがね。本当に、何があったのかサッパリ分からない。 「何言ってるの? 僕が分からないの? しろ……  「喋るなと言ったはずだ」  言うが早いか、しろがねが投げたナイフは勝の顔を掠めて、後ろへと通り過ぎる。 (何、一体何なの? だって、どう見てもしろがねじゃないか? 別の誰かだって言うの?)  頭が混乱してくる。目の前にいるしろがねは一体何なのだ。彼女本人ではないのか。 「早くしろ!」  しろがねの表情は本気である。  かつて、しろがね本人が言っていた『芸人はまず、ショーのために表情から教わるもの』という言葉がある。  だから、これもあくまでショーのための演技ということも考えられる。  しろがねの演技力を考えれば、この『本気』も作り出すことが出来る。  だが、彼女の性格を考えれば、こんな事はありえない。  どう考えても、しろがねは本気だ。 (一体、何が……)  自然、勝の指に力が入る。オリンピアに意志を伝え、この窮地を脱出せんと力が入る。 「オリンピアを操って、私に歯向かうというのか? それも良いだろう。 だが、お坊ちゃまを騙るお前を許すつもりはないぞ、覚悟しろ」 (お坊ちゃまを騙る?)  つまり、しろがねは何らかの理由で、自分を才賀勝以外の存在と誤解しているということか。  とすれば、何より先にその誤解を解くことが必要。  勝は指に入れた力を抜き、オリンピアの糸を外す。 「いや、言うことを聞くよ」  戦闘をすれば、人形を持たないしろがねに勝利することは容易い。  だが、それでは誤解を解くことが出来ない上、最悪、しろがねを永遠に失う可能性さえある。  だから今は、彼女の言うとおりにするべき。  勝は両腕を広げ、地面にうつ伏せになる。 「さぁ、言う通りにしたぞ」  強い口調で、しろがねに宣言する。 「勇ましいことだな。だが、尋問の前に断っておくが、お前が成り済ましているお坊ちゃまはまだ10を過ぎたばかりの幼子だ。 そのような子供に勇ましさは無い。なりきる相手を間違ったな」  誤解の一端が見えてくる。だが、これだけで事態を掴むことはまだ出来ない。 「最初の質問だ。オリンピアはどこで手に入れた」 「支給品だよ。しろがねも見ただろう? あの紙の中……  「余計なことは喋らなくていい」 「次の質問だ。人形繰りはどこで覚えた」 「黒賀村。ギイさんに教えてもらった」 「三つ目の質問。ギイ先生とはどこで出会った」 「伊豆で。仲町サーカス団のみんなでサーカスをやろうとしたとき、墜落した飛行機に乗ってた」  ザンッ。右足のふくらはぎに熱い衝撃が走る。ナイフを突き立てられた。 「嘘を吐くな! 先生が日本に来る理由はない」  誤解の一端が、また見えてくる。だが、これも決定的な判断材料にならない。  勝は圧倒的に不利な現状でも、頭の中を全力で働かせている。  糸はない。武器もない。相手は人形破壊者であり、こちらは子供。  有利になる材料は一つも見つからない。でも、だからこそ…… (僕に油断はないよ) だからこそ勝は諦めない。  足に走る痛みなんて、些細なものだ。  血が出ているだろうが、今はしろがねの誤解を解くことが先決。  誤解さえ解ければ、問題は全て解決するのだ。  思考を働かせろ、頭を使え。この状況を破壊するために。 「最後の質問だ。お前はどこで、お坊ちゃま、才賀勝の情報を手に入れた」 「僕が才賀勝だ」 「尋問だと言っただろ、虚偽は許さん」  再び、足に激痛が走る。  虚偽なんて全く言ってないのに、これじゃ話が通じない。 「お前の話は、何一つ信用できないな……」  これまでの尋問で、勝はいくつかの情報を掴み取ることが出来た。  今ここにいるしろがねは、自分と出会った頃のしろがねと同じ性格をしている。  なぜ、同じ性格をしているのかは分からない。だが、同じ性格をしている事からいくつかの事が判断できる。  まず、このしろがねは目的のために怜悧冷徹になれる人だ。  相手が子供であっても、自分が正しいと思う事のためなら確実に殺すだろう。  だが、目的のために冷徹になるという事は、目的のために残酷になるという事を意味するのではない。  必要に応じて、優しくもなれる筈だ。  まずは、たとえ演技でも、嘘でも、優しいしろがねに戻ってもらう必要がある。  そうでなければ、足だけでなく体中に傷を負わされ、自分は死ぬ。 「信用できないか……、でもこっちはしろがねに伝えたいことがあるんだ。聞いて欲しい」  優しいしろがねに戻ってもらうために、勝が取った手段は情報提供。  誤解はともかく、彼女は才賀勝を守るために行動しているらしい。  だからこそ、勝を騙っている自分に対し、すぐには殺さず尋問を開始した。  彼女だって、この会場に連れて来られ、少ない情報の中、勝を守ろうとしているのだ。  手探りで、目的まで進んでいるに違いない。情報は欲しがるはずだ。 「何の話だ、話してみろ」  やはり食いついて来た。 「才賀勝と、この僕の関係」  今、しろがねは才賀勝を守るという目的のために、動いているはず。  だからこそ、才賀勝に成り済ましているモノを許さないという思考が働いている。  だとすれば、自分を生かすことが才賀勝を守ることに繋がると考えさせれば、この窮地を脱することが出来る。 「やはり、お坊ちゃまの情報を……  「とにかく、聞いてくれ」  今度は逆にこちらが主導権を握る。  少しでも攻勢に出た方が相手に対し有利になれる。  これから勝はサーカスの綱渡りより危険な道を歩かなければならない。  だから、有利になれることは少しでもやる。 「僕と才賀勝は双子の兄弟さ。生まれた順で僕が兄に当たる」 「愚かな事を……お坊ちゃまの情報はおじい様から聞いている。彼に双子の兄弟などいない」  おじい様から聞いている? 成る程つまりはそういう事か。  ここにいるしろがねは、記憶から性格から、ほとんど全て勝と出会った当時のものなのだ。  だとすれば…… 「でも、勝に会った事はないんだろう? 大体僕のことは周囲には内緒だったから、正二おじいさんさえ知らないんだ」 「……」  微かな動揺がしろがねに見られる。  双子など、完全に虚構の話だが、それでも、しろがねは嘘だと断定する証拠を持っていない。 「私には、お前が自動人形だと言われたほうが納得できるがな」 「自動人形の擬似血液がどんなものかは、知ってるだろう。僕は人間さ」  ある本で読んだことがある。詐欺師が人を騙すとき、途方もなく大きな嘘を吐いて人を騙すそうだ。  虚実が大きくなればなる程、人はそれを見抜けなくなるらしい。  だが、勝には大きな嘘を吐く勇気などない。  小さな一つの嘘、『双子』という話をした後には本当の話を続けて誤魔化す。 「だが、人間でもフェイスレス指令のような人間がいる」 「フェイスレスみたいな特技、何人の人間が出来ると思ってるの?」  自動人形破壊者として活動していたしろがねが、フェイスレスを知っているのは驚くに値しない。  だから、例として彼の特技を出したのだろう。  だが、これこそしろがねが『双子』という虚実を否定し切れていない何よりの根拠。  90年も生きたしろがねには分かってるはずだ。顔を自由に変形できる人間がどれ程特殊かということぐらい。  今目の前にいる子供に、そんな特殊能力があるかどうか、常識で考えれば分かるはず。  今の彼女は、そんな特殊事例を出さないと『双子』を否定できないのだ。  ここまで来たら、信じ込ませるのは不可能ではない。 「もしお前が、お坊ちゃまの兄だとしたら何故最初に嘘を吐いた」  双子という話を信じたのか。いや、まだだろう。  だが、後一歩。もう少し進めば、この虚実を信じ込ませられる。  そのためにも、これから先は少しも間違えられない。 「しろがねが本物という保証が無かったからさ。僕の目的は才賀勝を守ること。 だから、しろがねになりきってる偽者を放っておく訳にはいかないんだよ」 「私は本物だ」 「でも、僕から見たら証拠が無い。すぐに信じろっていうのは無理な話だよ。 大体、疑ったのはお互い様だろ」 「……」  しろがねに明らかな動揺が見られる。 「ギイさんから、人形繰りの技術を学んだのは才賀勝を守るためさ。 もちろん、先生はその事を知らなかったけどね」  また一つの嘘を吐いてしまう。辻褄合わせとは言え、冷や汗ものだ。 「お坊ちゃまを守るのは、この私の勤めのはず。余計な人間がなぜ、それをやろうとする?」  双子の話は、もう信じたと思って良いだろう。 「自動人形破壊者とは言え、一人では心許ないと判断したからだろうね。詳しい事は僕にも分からない」 「私があるるかんを使えば、それだけで十分なはずだ」 「よく言うよ、人形繰りの腕前はギイさん以下のくせに」  実際問題、しろがねの腕前がギイに劣るかどうかは分からない。  だが、しろがねにとってギイ・クリストフ・レッシュは人形繰りの先生だ。  まさか、先生より腕が良いなどとは言わないだろう。 「そ、それは……」  案の定、しろがねは返答に困っている。 「しろがねより上の存在がいる以上、最悪の事態を想定して万全を考えるのは人間の常さ。 だから双子という容姿を生かして、勝を守れる人間が必要だったんだ」 「……」  しろがねは今、必死でこの話の虚実を判断しているに違いない。  この話は嘘まみれの話だが、だからと言って、完全に嘘でもない。  だから、彼女には否定しきれないのだ。 「なぜ、お前はお坊ちゃまを守ろうとする」 「それは言えない」  そんな理由は考えてないから。守る理由は、この嘘の中で最も重要な位置を占める。  ここで、下手な理由を言ってしまえば全てが泡になる。 「そろそろ立ってもいい?」 「まだだ、まだお前の話を信じたわけではない」 「疑り深いなぁ……でも、考えてみなよ。この見た目は勝を守るのに使えると思わないかい?」 「……」 「しろがねの目的は勝を守ることなんでしょ? だったら、僕を利用しなよ」 「確かに、お前の容姿は利用価値があるな」  才賀勝は、しろがねの許可を待たず立ち上がる。 「お、おい誰が立っていいと……」 「いいでしょ? お互いの目的は同じなんだから」  しろがねは困った顔をしている。勝を殺す決定的な理由が自分の中で作れないといった様子だ。 「分かった。お前の話を信じたわけではないが、利用してやる。 お前の容姿は確かにお坊ちゃまを守るのに役立ちそうだからな」  この瞬間、勝は最悪の窮地から脱出したといっていい。  立ち上がった自分の足を見ると、傷は浅く放って置いても大事には至らなさそうだ。 「じゃ、これからお互いに才賀勝を探すって事で……」  勝はしろがねに握手を求める。  だが、しろがねはそれを否定した。 「勘違いするな。あくまでお前を利用するだけだ」  本当に、出会った頃のしろがねと同じだ。記憶喪失とも思ったが、それでは性格に説明がつかない。  鳴海に会えれば、活路が開けるかもしれないが、彼だってしろがねと同じようになっていないとも限らない。  事態は勝が思うより、ずっと大規模なもののようだ。  ふと横を見ると、しろがねがオリンピアの指貫を拾っている。 「これから先、お前は人形を操るな。お坊ちゃまは人形を操ることが出来ない子供だ。 それになりきるなら、人形繰りなど邪魔なだけだ」  しろがねにとって、才賀勝は人形繰りを覚える前の存在のようだ。  もうここまで来ると、ここにいるしろがねはタイムマシーンに乗って過去からやってきた と言われた方が説得力がある。 「それと、私の名前はしろがねではなくエレオノールだ。間違えるな」 「分かったよ、エレオノール」 「あと、お前の名前は何だ」 「綾崎、綾崎颯。綾崎は養父母の姓だよ」  名前は、名簿に載っている他の人からもらった。  本人に出会うと非常に不味いが、それ以上に名簿に載っていない名前を答える方が不味い。 「綾崎か、本物のお坊ちゃまを見つけるまでの協力関係だな」  こうして、才賀勝とエレオノールの再会は奇妙な形で幕を閉じた。  二人ともこの会場に来てから間がないため、あくまで自分達の常識でしか物事を見ていないことが、 今回の珍事を引き起こしたと言える。  才賀勝の方は後一歩で、事の真相にたどり着くところだったが、それでも彼の持つ知識が邪魔をした。  今ここにいるエレオノールは、才賀勝から見て過去のエレオノール。  そんな事、まともな人間が気づけるわけも無い。  過去から人がやってきた。あるいは、自分が未来から過去へ進んだ。  などの話をすぐに信じるのは、零点を連発する出来の悪い小学生だけで十分だろう。  才賀勝は幸か不幸か、頭のいい少年だったのである。  だからこそ、論理的にものを考えすぎた。  これから、この2人がどこへ進んでいくのか。  それはまだ誰にも分からない。 【C-2 ビル屋上/1日目/早朝】 【才賀勝@からくりサーカス】 [状態]:両足の脹脛に一つずつ切り傷。軽傷のため行動に支障なし。 [装備]:なし [道具]:支給品一式、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号アリ) [思考・状況] 基本:殺し合いには乗らない 1:鳴海と合流する。 2:しろがねの誤解を解く。 3:乗っていない人を探して味方にする。 4:フェイスレスには最大限注意を払う。 5:みんなで脱出する。 [備考] ※参加者全員の顔と名前を覚えていますが、顔と名前は一致していません。 ※参戦時期はギイ死亡後から ※エレオノールが自分より過去の時代から来たことに気づいていません。 ※エレオノールには才賀勝の双子の兄だと嘘を吐いています。 ※エレオノールには、自分の名前を綾崎颯(ハヤテ)と偽っています。 【才賀しろがね(エレオノール)@からくりサーカス】 [状態]:健康 [装備]:ピエロの衣装&メイク@からくりサーカス、ヴィルマの投げナイフ@からくりサーカス(残り12本)、オリンピア@からくりサーカス、支給品一式 [道具]:青汁DX@武装錬金 [思考・状況] 基本:『本物の才賀勝』の安全を確保する 1:本物の才賀勝を優勝させるため皆殺し(殺し合いに乗っている人間を最優先) 2:強力な武器が欲しい。人形は手に入れたので他の武器。 3:花山、斗貴子、カズキに関しては襲うのは保留 4:100%勝を傷つけないと確信が持てた人間に関してのみ、殺すことを保留する。 5:偽者の才賀勝と共に行動する。 [備考] ※参戦時期は1巻。才賀勝と出会う前です。 ※才賀勝の事を偽者と勘違いしています。 |060:[[Contact]]|[[投下順>第051話~第100話]]|062:[[立ち止まるヒマなんかないさ]]| |060:[[Contact]]|[[時系列順>第1回放送までの本編SS]]|062:[[立ち止まるヒマなんかないさ]]| |056:[[才賀勝]]|才賀勝|095:[[いま賭ける、この――]]| |037:[[信じるこの道を進むだけさ]]|才賀しろがね|095:[[いま賭ける、この――]]| ----

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