はらわたをまく頃に~侠客立ち編~ ◆ozOtJW9BFA



「だが倒れ付した相手に戦意を問い、追撃の機を逃すとはなんという軟弱ッ!!消え失せいッッッ!!!」

朝焼けの晴天を劈くが如きの、範馬勇次郎の怒号が響き渡る。
その怒気を受けても、津村斗貴子と花山薫の戦意に揺るぎは無い。

戦士としての自分を取り戻した斗貴子は、冷静に敵戦力を目測する。
身体能力は戦士長クラスかあるいはそれ以上、だが決して人間外と言う事では無い。
心臓や脳等の急所が損傷すれば死ぬ、つまり手持ちの武器で殺し得ると言う事。

花山が勇次郎に声を掛ける直前、斗貴子の手にあるAK74が火を放った。
AK74から放たれた弾丸は、正確に貫いた―――
―――勇次郎の身体が、存在した空間を。

斗貴子は瞬間目の前の事態を把握出来なかったが、すぐに分析が及ぶ。
銃撃とほぼ同時に勇次郎が立っていた地点で砂塵が舞い、すぐ横のブロック壁が破砕して勇次郎は姿を消した。
そして斗貴子と花山の居る位置は、ちょうど民家のブロック壁で挟まれている。
(壁越しからの、奇襲が狙いか!)

斗貴子は花山と背中合わせになり、共に壁に向かう。
(恐らくあいつは飛び道具を持っていない、壁を突き破って来ての奇襲を仕掛けてくるしかない。
 ならばこちらは後手からでも、カウンターを狙える)

破壊音。
斗貴子がそれをブロック壁を壊したものだと認識できた時には、花山の巨体が宙を舞っていた。

◇  ◆  ◇

目前の壁が破砕されそこから勇次郎が拳を突き出し飛び出してきたと認識できた時には、花山は衝撃で後方に吹き飛んでいた。
勇次郎は一撃でブロック壁を壊し、160キロを超える花山を殴り飛ばした。

路上駐車してある乗用車に叩き付けられながら、花山は勇次郎と斗貴子の方を見やる。

◇  ◆  ◇

空中の花山を驚愕の表情で見ていた斗貴子が、勇次郎に向き直りAK74の狙いを付ける。
目標との距離はおよそ3m。
目標は斗貴子の動きに気付いていない。

連続的な銃声。
「トロい狙いだな、おい」
AK74の銃弾が空に消えていく。
「威勢ばかりでよ」
3mは離れていた筈の勇次郎が、斗貴子の腕を捻り上げられる距離まで近付いていた。

(動きが目視出来ないほどに速い! どうにかして動きを止めなければ…………!!?)
斗貴子達を上空からの影が覆った。
影の主、花山が空中から勇次郎目掛け脚を振り下ろす。
160キロを超える花山の全体重を乗せた、胴廻し回転蹴り。

花山の脚が、勇次郎の頭部に当たる。
斗貴子の腕から、捻り上げていた力が消えた。
勇次郎が身体ごと花山を上に飛び越し
蹴り足を振り切れていない花山の顔を、踵で蹴り抜いた。
(胴廻し回転蹴りから、胴廻し回転蹴りでカウンターを取られたのか!!?)
地面に崩れ落ちる花山の横に、音も無く両足で着地する。

その両足を花山が掴む。

(今なら当てられる!!)
斗貴子は空になっていたAK74のマガジンを入れ替える。
「臓物(ハラワタ)を、ブチ撒けろ!」

斗貴子の手の中でAK74が暴れ、銃弾が放たれた。
マガジンに詰まった30発の5.45x39mm弾全てが、秒速900mの速さで勇次郎に打ち込まれる。
眼前でクロスした両手で
黒衣の下の胴体で
勇次郎の全身でAK74の弾が皮膚を貫き、肉を穿ち、血を噴出させた。

「…………な……何だと……!?」
「アホウが」
全身に傷を作りながらも、勇次郎には致命傷はおろか動きに支障も見えない。
「カラシニコフ如きで、俺を殺してのけるつもりだったか」

花山が勇次郎の両足を掴んだまま、立ち上がって背後に振りかぶり
そのまま頭上越しに、地面に叩きつけるべく前方に振りぬく。
「邪ッ!!」
勇次郎が花山の頭頂に、中指の第二関節だけを立てた拳を打ち込む。
意識を失った花山は、勇次郎を離し崩れ落ちた。

花山の首元を掴んで、勇次郎が斗貴子に詰め寄る。
斗貴子の戦士としての経験と判断力が、勇次郎からの逃亡を促す。
(現有戦力で取れる戦術はもう、AK74で弾幕をはって逃げる位しかない)

斗貴子の戦況分析は続く。
AK74を駆使しても、勇次郎から逃げ切れる可能性は低い事が分かる。
そして花山を見捨てて行かなくてはならない事も。
(……迷うな!これ以上ここに残っても、私にはどうする事も出来ない。
 今は共倒れになるのを避けるのが、最良の判断なんだ)
斗貴子は迷いを振り払い、勇次郎との間合いを測る。

周囲全域から響く声に勇次郎の動きも、斗貴子の思考も止まった。
『脱落した者の名を読み上げる』
(脱落した者……死亡者の事か)

『―――以上、8名じゃ』
(カズキと戦士長は無事か……)
勇次郎は口角を上げ、薄く笑みを作った。
「お仲間の戦士も、参加してるのかい?」

(―――何故それを!!?)
斗貴子は仲間の無事を知った安堵から一転、驚愕に強張る。
「ククク、当たりみてえだな」
(くそ!! 放送を聞いた私の反応を見て、カマをかけたのか!)

冷静に考えれば他の戦士の具体的な情報を、明かした訳では無いのだが
斗貴子は自分の迂闊さを悔やむ。
「手中の武器が通じなければ、戦う術も無いお前の様な腑抜けと違って
 そいつ等は俺を、楽しませてくれるんだろうな?」

斗貴子の中で経験に無い、戦慄が走る。
勇次郎が尋常な人間ではないと理解はしていたが、その闘争と殺傷を求める欲望はもはや人間の範疇に無い。
(こいつはここで殺しておかないと、必ずカズキや戦士長に害が及ぶ!)

斗貴子は弾かれた様に、勇次郎に向かって駆け出した。
(接近してAK74を使えば、先程より効く筈だ。刺し違えてでも殺してやる!)
AK74のマガジンを装填しながら、勇次郎の懐に飛び込む。
銃口を勇次郎の身体に押し当て
引き金を引く―――瞬間に気付いた。

銃口が花山の体に当たっているのを。

(馬鹿な!!? 何時の間に入れ替わった!?)
咄嗟にAK74の射線を逸らす。
脇腹の一発以外の銃弾は、全て地面に当たる。
(しまった!!)
「いけないなぁ、仲間を撃ったりしたら」
斗貴子の足が払われ、勇次郎に頭をから地面に叩き付けられた。

風景が酩酊し、斗貴子は立つこともままならない。
斗貴子の頭に伸びた勇次郎の手が、何者かに掴まれた。
「………………ありがとよ……姉ちゃん……」
声を聞いてそれが花山である事が、斗貴子に分かった。
「…………おかげで……目が…………覚めた……」

勇次郎の前腕を両手で間隔を置いて掴み、左右から圧迫する。
体液や体組織を圧縮し内部からの破壊を狙う、もはや技とも言えぬ攻撃法。
古タイヤを引き裂く握力を持つ、神に選ばれし喧嘩師のみが持つ攻撃法―――『握撃』。

「!!?」
勇次郎が微かに腕を捻り、花山の体が弧を描いて頭から落ちる。
腕を握るという単純で小さい動きの中でも、力の流れを見切りそれを操作出来る
神に選ばれし格闘士のみが持つ防御法。
低い破壊音。
花山の顎に蹴りが入り砕けた音が、斗貴子にまで聞こえた。

頭頂から、顎から、脇腹の銃口からの出血は止まず
蓄積されたダメージに震えながら、花山は勇次郎に立ち向かう。
(何故あの状態で立ち上がれる!? いやそれ以上に、もう勝算は無きに等しいのに何故まだ戦おうとする!!?
 くっ! せめて援護位は出来れば…………)

花山は文字通り自身の手を潰す勢いで拳を握り、身体を捻って溜めの構えを作る。
「ケッ、芸の無ぇヤロウだ」
両手を大きく開く、特異な構えを見せる勇次郎。
花山の右拳が撃ち出される。
最大値を計測出来る機械すらない握力に、スピードと体重が乗算された破壊力。

その拳が真っ向から打ち込まれた、勇次郎の左拳で砕かれた。
指は五本とも折れ、手の甲の部分まで変形している。
「一夜の……」

花山が先程とは左右逆に、身体を捻った構えを作る。
放たれる左拳。それを勇次郎の右拳が破壊。
五指があらぬ方向に折れ曲がり、手の甲まで歪んでいる。
「宿を…………貸し……………………一……夜で…………
 亡く……なる…………はず…………の………………名が……」

花山が右足を蹴り上げるも、勇次郎は予めその動きを知っていたかのように頭を下げてかわしながら花山の左足を蹴り込む。
左足は肉が裂け折れた頚骨が突き出しているが、花山は立ったまま右拳で反撃。
低い姿勢の蹴りから、体勢を立て直していた勇次郎の顔面を捉える。
ダメージを受けたと言うより、不意を付かれたと言う表情で殴り飛ばされた。

(完全に壊れていた右手で殴った為、不意を付けたのか!?)
「た…びの…………ば……く…………と……………………」
「小賢しい真似をしおって!!!」
勇次郎が悠然と花山に詰め寄る、怒りとも喜びともつかぬ表情をたたえて。

勇次郎の黒衣が内側から破れる。       花山の上半身の衣服は既にほとんどが破り取られている。
その背中の筋肉が形作るは『鬼の貌』。    その背中に描かれしは花山家に代々伝わる『侠客立ち』。
両手を真上に伸ばし背中の鬼が哭く。     勇次郎に『侠客立ち』を向ける。
悪魔に授かった筋肉でただ思い切りブン殴る。 自分の身体で最も信頼における場所、『侠客立ち』で勇次郎の攻撃を待ち受ける。

オーガが花山の心の臓腑を止めた。      侠客は勇次郎の攻撃を全て受け切った。

◇  ◆  ◇

斗貴子は視覚的な酩酊から抜け出す。
しかし未だ身体に力が入らない。
花山の死を前にしてもほとんど動きが取れない。
(すまない、君には最後まで守られっぱなしで、私が守ってやれなかった……)

見下ろす勇次郎に対し、抗する術も無い。
(戦士長、後を頼みます。カズキ、……君は死ぬなよ)
それしか出来ない自分の無力に歯噛みしながら、死を覚悟する。

勇次郎は斗貴子の身体を抱え、花山の前まで運んだ。
(何をするつもりだ!?)
花山の死体は、生きていた頃の威厳をそのままに屹立していた。
勇次郎は花山の脇腹に有る銃口に指を刺し、横に走らせ腹を切り裂いた。

「―――!?」

切り裂かれた腹から血を噴出しながら、なお花山は倒れない。
事態を飲み込みかねている斗貴子を意に介さず、勇次郎はその傷口に手を入れ肉と骨を力ずくで引き下ろす。
「臓物(ハラワタ)をブチ撒けろとか言っていたな」
斗貴子の手を掴み、勇次郎は花山の腹の中に突っ込む。
「止めろ!! 何のつもりだ!」
「ククク、思う存分ブチ撒けたらいいや、お友達の花山クンの臓物をよ」

花山の腹の中で手が動かされる度に、軟らかい内臓の手応えが斗貴子に伝わる。
「止めろと言っているだろ!!」
傷口から血がこぼれる度に、それが花山の尊厳を汚している如くに斗貴子には感じられた。
勇次郎は斗貴子の手を使い、花山の内臓をかき出す。
拳を硬く握り締めても、自分の意に背き
胃をかき出し、腸を引きずり出し、血を撒き散らしていった。

―――何処かで嗅いだ匂いがする。
―――夥しい血の匂い。
―――忘れる事の出来ない音がする。
―――臓物を引き裂かれる音
( あ あ あ あ あ あ あ あ あ あ )
―――ホムンクルスにクラスメイトを殺された時の記憶のままに。

「 う あ あ あ あ あ あ あ あ あ!!!」

初めてホムンクルスと戦った時と同じく、怒りと闘争心が力となって溢れる。
その時と違う点は、自分を掴まえている『怪物』に抗う事が出来ない点。
どれほど全身に力を入れ抗っても、右手と首筋を持つ勇次郎の手は小揺るぎもしない。

腹を殴られる。それだけで再び抵抗の力を失う。
花山の脚が払われ、斗貴子と顔をつき合わせる様に倒れる。
花山の頭に勇次郎の踵が落され、頭皮と頭蓋が大きく割られた。

「猿の脳味噌は旨いが、花山の脳味噌の味はどうだろうな?」
斗貴子は頭を掴まれ、顔から花山の頭蓋の中に突っ込まれた。
脳の予想外に軟らかい感触と、口の中に入る血の味。
それらが全て花山のものだと思い返した斗貴子は、喉の奥からこみ上げてくる物を堪える。
息苦しさにもがく力すら残っていない。

手を離され頭蓋の中から顔を出し
「花山の脳の味はどうだ? アハハハハハハハハハハハハハ!!」
息を整え、勇次郎に返事を返す。
「…………殺す…」

憎悪と殺気を具現化した様な表情で、勇次郎を睨み付ける。
「楽には殺さない、キサマがどう許しを請うと、地獄の痛みの中で殺す。
 臓物も、脳漿も、キサマの体の最後の一片までブチ撒けて殺す。
 必ずだ。キサマには地獄の苦痛以外、選択の余地は与えない」

「そうよ!! ただですませちゃァダメだ!」
歓喜と悦楽に満ちた表情で、勇次郎が吼える。
「正義の戦士なんだろ? 仲間が居るんだろ!? こんなひどいことをするやつァ許しちゃいけない!!!」

斗貴子の怒気を受け愉悦に笑う勇次郎は、斗貴子と花山のデイパックを取り口を開き中の荷物を全て落とす。
「俺はこれから繁華街に行き花火を上げる、必ず俺を殺しにくるんだ」
落ちた荷物から、食料と水だけを拾い去って行った。

斗貴子は虚無感を押し殺して、荷物を拾いデイパックに詰める。
疲労の残る身体を支えるのは、明確な怒りと闘志。
(一つだけ感謝するぞ勇次郎、キサマは私が戦う理由を思い出させてくれた。
 その礼に望み通り殺してやる! キサマもホムンクルスと同じく私の敵だ! 敵は全て殺す!!)

◇  ◆  ◇

消防署に戻った勇次郎は、床に放置してきたデイパックを拾い上げ
中の支給品一式を捨て、食料と水を詰める。

強い飢餓にあった勇次郎は、花山と斗貴子を喰らった程度では満足を覚えない。
その狂おしい程の餓えは、更に勇次郎を突き動かし続ける。

―――まだまだ喰らい足りぬ。
―――まだまだ壊し足りぬ。
―――まだまだ殺し足りぬ。

(繁華街で花火を上げりゃ、人も集まるか……)

更なる餌を求め、勇次郎は北上を始めた。
未だ満ち足りぬオーガだが、その足取りに焦りは無い。
殺し合いは始まったばかり、オーガの求める餌は尽きていないのだから。


【花山薫@グラップラー刃牙:死亡確認】
【残り47人】


【D-4北西部 一日目 朝】
【津村斗貴子@武装錬金】
[状態]:極度の疲労、強い怒り。
[装備]: USSR AK74(0/30) 水のルビー@ゼロの使い魔
[道具]:支給品一式(食料と水無し)、USSR AK74の予備マガジン×7.始祖の祈祷書@ゼロの使い魔、キック力増強シューズ@名探偵コナン
[思考・状況]
基本:主催者をなんとしても倒す
1:範馬勇次郎をなんとしても殺す
2:カズキ、またはブラボーと合流。パピヨンには警戒
(備考)花山の持っていた支給品一式と川田のタバコ@バトルロワイアルはD-4北西部の路上に放置しています

【D-4北部一日目 朝】
【範馬勇次郎@グラップラー刃牙】
[状態]体中に浅い銃創 健康 闘争に餓えている
[装備]ライター
[道具]食料と水3人分、打ち上げ花火3発
[思考] 基本:闘争を楽しみつつ優勝し主催者を殺す
1:繁華街へ行き花火を上げて参加者を待ち、戦うに値する参加者ならば戦う
2:首輪を外したい
(備考) 二枚の紙(日本刀と自転車)と支給品一式は消防署内に放置しています


083:逢鬼ヶ刻 投下順 085:Drastic Soul
083:逢鬼ヶ刻 時系列順 085:Drastic Soul
041:鬼と戦士と喧嘩師 津村斗貴子 104:以前の彼女
041:鬼と戦士と喧嘩師 範馬勇次郎 113:大切なもの――SOLDIER DREAM――
041:鬼と戦士と喧嘩師 花山薫 死亡