悪魔の子 ◆iB.6y/yxJY



「マンションどこネ。この地図絶対おかしいアル。早くしないとマダオが危ないのに……。」
第一放送の少し前、神楽はマダオ(キュルケ)を背負いとぼとぼと歩いていた。
できれば走りたいのだがさっきまでずっと駆け回っていたせいかもう足が言う事を聞かない。
予定通りなら放送が始まるはるか前にはマンションに着いているはずだった。
本来なら今頃、マダオの傷を治療してやり、朝食でも食べているはずだったのだ。しかし、未だに着いていない。

神楽は地図を様々な角度から睨む。辺りは民家などで相当入り組んでいた。地図などほとんど見ない神楽にとって、この状況は辛い。
神楽が迷子になったと自覚したのは今から三十分程前。少しずつ焦りと不安が募っていく。

(マダオが危ないのに……。迷子なんてありえないアル)
マダオははたして大丈夫なのだろうか、このまま死んでしまうのではないだろうか。
神楽の心に不安感が少しずつ蓄積されていく。

(動き回っても仕方ないネ)
神楽はマダオを地面に寝かせ自身も腰を下ろした。地図を再び睨んでみたがもはや全然わからない。

マダオの容体が気になり、ゆっくりと顔を覗き込む。

さっき見た時よりも顔色が悪くなっている気がする。怪我をさせてから何時間経ったのだろうか。
青白く血色が悪い。止血のために頭に巻いてやったマントは血で真っ赤になっている。完全に止血できていなかったのだろうか。
再びマントをきつく巻いてやる。死んで欲しくない。神楽は怖くなってきた。

これで彼女に死なれてしまったら、自分はどうすればいい……。人を殺した、なんて絶対に嫌だ。ありえない。
死んで欲しくない。あれは冗談だったのに……。ただのツッコミだったのに。こんな事で、こんな事で大切な命を失ってしまうなんてありえない。
本当にマダオに死なれては、みんなに会わす顔が無い。

「嫌アル……。マダオ生きてヨ。死なないで」
神楽の切なる思い、マントを縛りながら神楽は呟いた。

まもなく放送が始まる。太陽が出始め辺りは明るくなりかけている。
辺りはしんと静まり返っている。人も犬も、猫も鳥もいない。静寂が町を支配している。
しかし、平和だ。そう、平和に見える。この上なく、まるで殺し合いなんて全て夢であったかのように……。

『…………そんな事言うんだな神楽ちゃんは。いったい誰のせいでこうなったと思ってるんだ?』
「……!」
パピーだ。パピーの声がした。頭の底の底、まだまだ未開拓な所から心の言葉が聞こえてくる。
『マダオに死なれてはみんなに会わす顔が無いってか。神楽ちゃんは本当に自分の事しか考えてないんだな』

……!!
心の中の大事な何かをスコップで乱暴に救い上げられたかのような激痛が走った。胸が痛い。
(違う……違うアル!あたしはそんな意味で言ったんじゃないもん)
『冗談だったのに、ただのツッコミだったのに~。これはどう説明する!言い訳だ!自分を少しでもましな物として捕らえようとしている。
 どう考えてもおまえが悪いのに!どう考えてもおまえは最低なのに!おまえは自分を正当化しようとしているッ!』

それはもはや神楽の父、星海坊主の声ではなかった。醜悪な化け物が神楽の心を支配しようとしていた。

神楽は俯いている。何も言い返せない。もしかしたら全て自分の父親の言うとおりかもしれない。
神楽の頬に涙が一筋流れた。

『とんでもないカマトトだよ、おまえは。命がどれだけ大切か、
 どれだけ尊いものなのかひとつもわかっちゃいない。たとえ傷が治ったとしても、マダオはもう決してお前を許しはしないよ。
 所詮おまえは呪われた種族の子供。いつまでも無垢な子供でいようったってもう底は割れているんだ。
 おまえは殺す以外は何一つできやしない悪魔の子供なのさ……。人を救うなんておまえには似合わない。いいやできっこないね。
 殺して殺して殺しまくって真っ赤になっちまったお前の方がむしろ自然に見える。おまえは――』

「うるさいうるさいうるさいアルッ!」
町の静寂が破られた。神楽は頭を押さえ涙を流しながら叫んだ。周りには誰もいない。神楽とマダオだけが存在していた。
……確かに……私は夜兎の子供アル。呪われた種族の子供なのかもしれない。悪魔の娘なのかもしれない。
それでも、たとえ悪魔の子であろうと、やらないといけない事ぐらいわかる。

「私は……私は……私は――」

神楽はゆっくりと立ち上がった。目は涙で赤くはれている。慎重にマダオを起こし背負った。

たとえマダオが許してくれなくても、たとえ私が悪魔だとしても……自分の尻ぐらい自分で拭くアル。
今はただマダオと急いでマンションへ行く。それだけでいいアル。

しっかりとマダオを背負い疲労した両足に鞭を打ち、神楽は走り始めた。

『……その後はどうする?殺し合いに乗るしかないよなぁ。おまえは悪魔の子供なんだから……』
化け物は神楽の心の中でしつこく暴れまわっていた。

※  ※  ※
朝日が照りつける道路。ケンシロウは足を止めた。時刻はまもなく6時になるころだ。
あの老人の話が本当ならばそろそろ放送が聞こえてくるはずである。

耳を澄ましていると、案の定聞こえてきた。老人の声が聞こえる。
簡単な前置き、禁止エリア、そしてこの放送までに死んだ者の名前が次々に放送されていく。

全く知りもしない参加者達の名が読まれていく中、兄、ジャギの名が呼ばれた。
ケンシロウは若干驚いたような表情を見せたが、すぐにいつもの無骨な表情、無表情に戻った。
そう、今、奴の死はどうでもいい。そんなことよりもはるかに気になることがあった。

放送が終わった。シェルブリットのカズマ、彼の名は呼ばれなかった。
ケンシロウはほっと一息つく。

アミバ……今のところは約束を守っているようだな。

ケンシロウは再び北へ向けて歩き始める。しかし、若干の違和感、何者かの気配を背中に感じた。
何かが近づいてきている。それもかなりのスピードで――。
ケンシロウは振り向いた。

「さっさとどくアル!この筋肉ダルマぁぁぁぁぁぁぁ!」

ケンシロウは驚嘆した。あんな少女がこれほどの速さで走っている事に。
しかし……いったいどうしたものか。ケンシロウは悩み始める。

このバトルロワイアルという状況、他の参加者達とはなるべく接触していきたい。だがあの少女は最初から接触する気なんて全くなさそうだ。
彼女はどけ、と叫んでいるのだ。あのスピード少々荒っぽい手段を使わなければ止められないだろう。手段を選びさえしなければ、俺なら簡単に止められる。
しかし、荒っぽい手段をとって止めたとしたら、その後はいったいどうなる。
少女は負傷し、さらに俺を警戒するだろう。間違いなく『穏やかに』接触出来るわけが無い。

「一度しか言わん!止まれ!」
ケンシロウはとりあえず一度、声をかけてみた。
「ふんぬうぅぅぅぅぅぅ」
しかし、少女はスピードを緩めずさらに加速した。
「待てッ!何かあったのか?」

ケンシロウとの距離が縮まる。ケンシロウは仕方なく脇によけ道を開けた。少女はケンシロウの目の前を猛スピードで駆けていった。

……この判断は正しかったのか?確かに誰も傷つかなかった。しかし、一時間後にあの少女は何者かに殺されているかもしれない。
俺ならどんな相手でも『戦う』ことが出来る。否、『勝つ』ことが出来る。

ケンシロウが今さらどれだけ後悔しても後の祭り。ケンシロウは駆けていく少女の背を見送った。

……?
再び違和感。少女の背が何かおかしい。何かがいる。

……女を背負っている!バカな!人一人背負ってなおあのスピード!?

ケンシロウは背負われている女を注視する。頭を負傷しているようだ。布で止血しているようだが、大丈夫なのだろうか。
怪我は重そうに見える。すぐに治療してやらなければならないかもしれない。俺なら治療できるかもしれない。
トキのように……北斗神拳で治療できる。

「くっ!」
ケンシロウは少女に向けて走り出した。しかし、もうかなりの距離が開いている。おまけにこの辺りは民家などでかなり入り組んでいる。
一度、見失えばもう二度と出会えないかもしれない。
とにかく、もう一度声を張り上げ叫ばなければならない。

「止まれ!動くな!」
しかし、その声はもはや少女達には届かない。暴走少女は全く足を緩めない。

(追いつかなければ!北斗神拳ならば背負われていた少女を治療してやれるかもしれない!
……あの女を傷つけたのは誰だ?アミバ、ジャギ、勇次郎?それとも妙な人形を操るあの老人?まさかとは思うがラオウか!?
いやまさか……あの十歳程度の少女が!?)

追いかけながらケンシロウは考える。少女すらも越える圧倒的スピード。いずれ追いつきそうに思える。
しかし、悲しい事に辺りは迷路のように入り組んでいる。
そしてケンシロウが見たところ、駆ける少女はでたらめに走っているようだ。
(あくまでそう見えるだけであって本当にでたらめなのかはケンシロウにはわからない)

追いかけ続けて数分、遂にケンシロウは少女達を見失ってしまった。

「…………」
ケンシロウの心に後悔という思いが次々に湧き上がってくる。あの時、無理矢理にでも止めておけば……。

まさに後悔先に立たず。ケンシロウの顔はいつもよりもさらに暗く、重たいものになった。

※  ※  ※
「ふんぬぅぅぅぅぅぅぅ」

風よりも早く、稲妻のように、砂埃を巻き上げ、烈火のごとく神楽は駆ける。
もう三十分は走り続けている。さすがの神楽も疲れているようで、その表情は見るに耐えないものになっている。

ここを右に曲がれば今度こそきっと、きっと――

曲がった先は行き止まりだった。かれこれ1時間は迷っている。放送も聴き忘れている。

焦り、苛立ち、不安感。神楽の心にひたすら陰鬱なものが蓄積されていく。
デイパックから地図を取り出し睨むように見る。わからない。今どこにいるか完全にわからない。
目的地であるマンションにどうやっていけばいいのか全くわからない。
神楽は完全に迷子になってしまっていた。

『おまえは殺す以外は何一つできやしない悪魔の子供なのさ……。』
さっきの化け物の言葉が思い出される。
そんなこと無い。そんなわけない。神楽は化け物を否定する。

(歌舞伎町の女王であるこの神楽がこんな所で迷子なんて……迷子なんて絶対にありえないアル!あたしは絶対にマンションに行くネ)
目の前の壁を睨みつける。神楽の頭の中ではこの壁を全く予期せぬ壁、あってはならないはずの壁であった。
憎たらしい。壁が憎たらしい。脳内地図でどう考えてみてもこんな壁なんて存在するわけがないのに。ここにはマンションがあるはずなのに……

(どうしよう……。もっと頭使って動かないと、本当にマダオが……。)

この時、神楽にある閃き。最高のアイデアが浮かんだ。

木刀を力いっぱい握り締める。マダオを背負っているので片手で木刀を握らなければならない。しかしまあなんとかなるだろう。
神楽は渾身の力を振りしぼって木刀を振った。

『ズガンッ!』

神楽は木刀で目の前の壁をぶっ壊した。

視界が広がる。しかしそこにはマンションなど無かった。目の前にはアスファルトできれいに舗装された道路が広がっていたのだ。

頭の中から化け物の嘲笑が聞こえてくるような感じがした。
化け物は神楽の心の奥の奥で必死になって煽っているようだ。神楽の焦りは頂点に達しようとしていた。

※  ※  ※
遠く離れた所で何かの破壊音がしたのをケンシロウは聞き逃さなかった。
非常に小さく、聞きづらかったが何かが崩れるような音に聞こえた。

ケンシロウは少しの間耳に意識を集中させた。

『ズ』
また何か聞こえた。さっきよりも少し大きい。
『ズガ』
だんだん大きくなってきている。
『ズガン』

こちらに近づいてきているのか?
この破壊音、何者かが暴れている音なのだろうか。それとも誰かと誰かが戦闘している音なのか?

……まさか。
ケンシロウの頭に最悪のイメージが浮かんだ。さっきの少女二人が悪漢に襲われているというイメージである。
一度、頭に浮かんだイメージはなかなか消えない。悪いイメージがどんどん膨らんでいく。

とにかく破壊音がする所へ行かなければ……。弱者を守れないような男に北斗神拳正統伝承者の資格などあるはずが無い。
彼女達を捜さなければ――

『ズガンッ!!』
ケンシロウの眼前にあった民家の壁が崩れた。あまりに突然の出来事だったのでさすがのケンシロウも少し驚いた。
埃が舞ってよく見えない。民家の中から誰かが出てくる。体格はよくない。女子供のようだが……。
まさかな……。

「うっ……うっ……また……また変な所に出ちゃったアルヨ~~。早くしないとマダオが――」

中から出てきたのは涙で赤くなった目を片手で擦り、背中に女を背負った例の暴走少女であった。

「あ……筋肉マンだ……」
その筋肉マンというのはなんだ。さっきは筋肉だるまって言ってたじゃないか!あだ名ぐらい統一させろ!
と、ケンシロウは脳みその隅のほうでツッコミを入れた。

※  ※  ※
「ここだ」
巨大な灰色の箱の前でケンシロウは少女、神楽に言った。
神楽は礼も言わずに背負った女と共にマンションの中へ駆けていった。ケンシロウも後を追う。

マンションの一室に女(マダオという名前らしい)を寝かせ傷を見た。打撲だった。
ほかの部分なら何とかなったかもしれないが、頭の打撲は北斗神拳では治せない。

部屋のドアが勢いよく開く。神楽が救急箱を持ってきたのだ。治療しようとしているが見ていて非常に危なっかしい。相当焦っているようだ。
「俺にまかせろ」と言ったが聞く耳を持たない。意地になっている。

消毒液を盛大にぶちまけた後、仕方なしに神楽は俺に治療を頼んできた。
俺はマダオに簡単な応急手当をしてやった。神楽は治療している間、マダオを心配そうに見ていた。
命には別状が無い事を知ると、やっと自分の事に気が回ったのだろうか……。デイパックから食料を取り出し掻きこむように食べた。
凄まじく大きい胃袋の持ち主らしい。食料が次々に消えていく。

「一つ聞きたい事がある」
神楽はぴたりと動きを止めた。
「……何アルか?」
「このマダオという女、誰にやられたんだ?」

神楽の首筋に一筋の汗が流れたのをケンシロウは見逃さなかった。まさか本当にこの少女が?何かの事故であったと信じたい。
「私は……私が……」
顔色が悪くなっていくのが手に取るようにわかる。心臓の鼓動が次第に早くなっていく。
表情に出やすいタイプなのだろう。ケンシロウはこの時点で確信した。
この少女がマダオを傷つけたのだ。故意なのか?それとも事故なのか?

「…………」
神楽は俯き沈黙した。

「お前がやったのか」
思い切って聞いてみた。
しかし神楽は返事をしない。かわりにゆっくりと頷いてみせた。
「私がやったアル……」
やっと口を開いてくれた。俺はとりあえず口を開いてくれた事にほっとした。
しかし彼女が言った事には全く『ほっ』と出来ない。

「事故か?それとも狙ってやったのか」
「…………」

彼女はどれだけ黙っていただろうか。一言も話そうとはしない。
今度の沈黙はさっきと比べてはるかに長かった。しかしどんな事にもいずれ終わりは来る。ゆっくりと静かに神楽は言葉を紡ぎだした。

「狙ってやってないネ。でも……事故でもないアル」
「……そうか」

神楽の心はひどく傷ついていた。


【F-5 マンションの一室 一日目 朝】
【ケンシロウ@北斗の拳】
[状態]:カズマのシェルブリット一発分のダメージ有り(痩せ我慢は必要だが、行動制限は無い)
    キング・クリムゾンにより肩に裂傷
[装備]:
[道具]:支給品一式、ランダムアイテム(1~3、本人確認済み)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない
1:これからどうするか考える
2:神楽が心配
3:ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎他ゲームに乗った参加者を倒す
4:助けられる人はできるだけ助ける
5:乗ってない人間に独歩・ジャギ・アミバ・ラオウ・勇次郎の情報を伝える。北に向けて移動中
[備考]
※参戦時期はラオウとの最終戦後です。

【キュルケ@ゼロの使い魔】
{状態}気絶中 後頭部打撲(止血、消毒済) 頭部が包帯でグルグル巻き マントが破られている
{装備}タバサの杖@ゼロの使い魔
{道具}支給品一式
{思考}
1:取り敢えず休憩したい。
2:神楽をどうにかする。せめて呼称だけでも言い改めて欲しい
3:タバサ、サイト、ルイズと合流する
4:危害を加えて来ない限りは仕掛けない。
基本行動方針
学院に四人で帰る。

【備考】
脳震盪を起こしている危険があります。
今はマンションの一室のベットで寝ています
第一放送を聞き逃しています

【神楽@銀魂】
{状態}疲労 心に深い傷
{装備}木刀正宗@ハヤテのごとく 
 ジャッカル・13mm炸裂徹鋼弾予備弾倉(30×2)@HELLSING
{道具}支給品一式 拡声器@BATTLE ROYALE
{思考}
1:罪悪感、マダオ(キュルケ)が起きたら謝る
2:銀ちゃん(銀時)と新八とヅラ(桂小太郎)を探す。
3:帰る方法を考える
4:殺し合いに乗る気は無い。
基本行動方針
殺し合いに乗っていない人は守る。乗っている人は倒す。

【備考】・原作18巻終了後から参戦。
    ・第一放送を聞き逃しています。


086:漫画キャラバトルロワイアル特別編『SAGA』 投下順 088:徳川光成! きさま! 聞いているなッ!
086:漫画キャラバトルロワイアル特別編『SAGA』 時系列順 088:徳川光成! きさま! 聞いているなッ!
073:帝王と死神 ケンシロウ 106:人の名前とか間違えるの失礼だ
068:マダオはマダオであってマダオ以外の何者でもない キュルケ 106:人の名前とか間違えるの失礼だ
068:マダオはマダオであってマダオ以外の何者でもない 神楽 106:人の名前とか間違えるの失礼だ