真赤な誓い  ◆3OcZUGDYUo



薄暗い地下鉄のホーム。このバトルロワイアルに用意されたため当然居るはずである駅員や乗客は居なくまた今は地下鉄も停車していない。
そのことが地下鉄のホームの何ともいえない寂しさを一層引き立たせていた。
しかし今この場に居る銀成学園に通う高校生――武藤カズキの頭にある事はそんな事ではない。
「この臭い、それにこの散らばっている物は…まさか!? 」
この状況から想像できる物――死体を探すためにカズキは周囲を注意深く懸命に見渡し警戒を強める。
「カ、カズキ! これは一体どういう事なのだ!? 」
三千院家のお嬢様――三千院ナギが動揺を隠せずその小さな身体を動かし階段を駆け降り慌てながらカズキに向かって叫ぶ。
(間違いなく何処かに死体はあるはずだ!…待てよ。死体があるって事は当然危険な奴…殺人を犯した奴が居る可能性もある! 
それならナギにやってもらう事は一つだ! )

「ナギ! 急いで俺の後ろに来てくれ! 危険な奴が居るかもしれない! 」
先程までホモ疑惑でうろたえていた時とは似ても似つかない程真剣な表情でカズキは数メートル先に居る保護対象であるナギに指示を飛ばす。
カズキの指示を受けナギはいそいそと走りカズキの後方に到着する。
(ナギは絶対俺が守ってみせる! それにもしナギが怪我でもしたらハヤテに会わせる顔がない。
誰かが悲しむのはもうたくさんだ! ここは俺が意地を見せるんだ! )
ナギが自分の後ろで震えているのを背中越しで感じ決意の炎を胸の中で燃やし、
まだ見ぬ危険人物に対抗するためカズキは左胸――核鉄が埋め込まれた箇所に手を当てる。
「武装錬…」
そこまで口にしたところでカズキの言葉は止まる。
なぜなら
「カ、カズキ。どうやらこの場には私達以外は居ないようだぞ。ほら、この探知機には私達2人以外は何も反応がない」
まだ動揺は残っているが幾分落ち着いた様子でナギがカズキにそう告げたからだ。
「え?」
「だから言っているだろう。この首輪探知機には私達以外には反応がないのだ」

思わず間抜けな声を上げたカズキに対してナギはそう言いながらカズキに探知機を見せ自分の言葉の正当性を証明する。
確かにナギの言う通り探知機には二つの光点しか存在していない。
その事がカズキの緊張を和らいでいった。

「そっか……それなら良かったよ。無駄な戦いもしなくてすむしね。」
「全く慌てすぎだぞカズキ! もっとこう私の様にドーンと構えていれば良いのだ! 」
「ハハハ、ごめん」
「あー何だその子供をあやすような目は!? べ、別に私は慌ててなんかいなかったからな! 本当だぞ! 」

必死に自分の今までの行動を弁解するナギを見て、
カズキは何か心が癒されるような気持ちになり自然とカズキの表情に笑みが浮かんでくる。
(ハヤテはナギの執事をしてるって言ってたけど苦労してるんだろうなぁ……
って今はこんな和んでいる時じゃない。死体を探さないと)
そう思いカズキは新たに自分の胸をポコポコと叩くことを始め未だに必死の弁解を続けるナギの小さな両肩に手を置く。

(え? な、何をする気だこいつは? というかこいつはホモではないのか? 
そ、そんなに顔を近付けるな! 私にはハヤテが居るんだぞ!)
カズキ側からしたら只暴れるナギに落ち着いて自分の話しを聞いてもらいたいだけの行動であった。 
しかしナギにとってはカズキの突然の予想外の行動に対応できず頬を赤く染めながら
池から顔を出した金魚の様に口をパクパクすることしか出来なかった。

「ナギ、今はこんな事をしている場合じゃない! 」
(あ、当たり前だろう! そんな事私にもわかっているに決まっている! 
お、お前は男が好きなのか女が好きなのかハッキリしろ!)
「一刻も早くこの血の持ち主を探さないと。死体を……いやもしかしたら怪我をしてるだけかもしれない。
手遅れにならない内に探そう! 」
(わ、私にはハヤテが居るからおまえの様な変態は眼中にないのだ!……
え? 血? 何の話をしているんだこいつは? )
ようやく自分とカズキの間にある違和感を感じ取りナギはその疑問をカズキにぶつけようとするが
すでにカズキはナギから手を離し血の臭いのする方向へと歩を歩ませていた。
「おーいどうしたの? 置いてっちゃうよ? 」
「わ、わかっている! 私をこんな所に置いていくのは許されないことだぞ! 」
ナギに向かって笑いながら言葉を発するカズキに対してナギは慌てて返答しながら駆け足でカズキの元へ駆けて行く。

(全く……真剣な顔になったら目を離すと次の瞬間には笑顔になっている。本当に騒がしい奴だ。
もっと私の様に冷静になれば良いものを。真剣な顔はハヤテやジョジョに劣らないくらいカッコいいのに……
い、いや私はハヤテ一筋なのだ! こんな考えは尻軽女のする考えだ! 
それにカズキはホモだしハヤテにも鼻の下を伸ばしていたからどっちかって言うと私のライバルでないか!?お、おのれ!カズキめぇ~。)
歪んだ情報を元にカズキの決意の炎に負けないくらいの闘志を燃やしながらナギは両の拳を握りカズキの方へ歩いていく。
そしてカズキの元へ辿り着くと……
「おい、カズキ」
「ん? どうしたのナギ? 」

ナギの言葉を受けカズキは何事か?と思い立ち止まりナギの方へ振り向き用件を待つ。
(この余裕の表情……私とハヤテを取り合って勝つという自信から生まれてくるのだな! )
と見事に勘違いをしナギは勝手にカズキへの対抗心の炎を燃やしていく。
そしてその炎が限界まで燃え上がった瞬間ナギはカズキに対して指を差し『宣戦布告』を行った。

「カズキ! この三千院ナギには夢がある! 
ハヤテと結ばれるという夢が! それをお前に邪魔されるわけにはいかない! 」
恐ろしく真剣な表情でナギは演説を始める。
その堂々とした口調には気品があふれていたが対照的にカズキはえ? 何で俺の名前が?
とでも言いたそうな驚愕の表情であまりの事態に口を半開きのままナギを見つめる。 
「だから私はお前に容赦はしない! ホモのお前とハヤテを取り合わないといけないのは心外だが
世の中にはお前の様な変わった趣味を持つ奴が居るのも事実だ! 
だからお前のその性癖に関しては文句は言わない。私とお前はライバルだ!!! 」

ナギの言葉が終わると一瞬カズキの脳は考える事を止めた。
一体ナギは何の事を言ってるんだ? ライバル? 何の? ホモって……誰の事?
段々と覚醒していくカズキの脳が必死に情報を伝達し状況の整理に尽力する。
そして一つの答えをカズキの脳が弾き出す。
それは……『自分はホモの疑いをかけられ目の前に居る少女――綾崎ハヤテを想う三千院ナギに恋のライバルだと認識されている。
さぁどうする武藤カズキ? 男らしく君は闘うのかね? 綾崎ハヤテを賭けて!』というものだった。

武藤カズキは考える。
勿論自分の脳の問いかけに対してだ。
(ま、まさかナギはハヤテの女装の事で俺がホモだって勘違いしてるのか!? 
や、やばいぞ! もしこんな事が斗貴子さんの耳に入ったら……修羅場だ)
ゴクリと唾を飲み込みそこまで考えカズキは今自分が直ちにしなければならない事に気付いた。それは……
「ち、違う! 俺は男には興味なんてない! 実はハヤテの女装の事は……」
目の前の少女三千院ナギに自分の潔白、先程の苦し紛れのうそについての弁解をする事にした。
◇  ◆  ◇

ランタンを持ちカズキとナギは線路の横を歩いている。
勿論血の正体を確かめるためである。もしかすれば死体とご対面するかもしれない状況ではあるが何故かナギの表情は重いものではない。
(ここは少し暗いな……でもカズキがホモでなくて本当に良かった!
これ以上ライバルを増やされてはたまったものではないからな。それにしても……
カズキの恋人という『斗貴子』とやらには会ってみたいものだな)

周りの暗さに少し嫌そうな表情でありながらもナギはカズキの恋人であるという斗貴子に興味を持ちながらカズキの前を歩いていく。
ナギは暗い場所はとても苦手ではあるが二人分のランタンの光もあり同行者であるカズキの存在、
そして自分のライバルが減ったという満足感でいつも程嫌そうではなかった。
そしてカズキは神妙な表情でナギの後ろを重い足取りで付いていく。
(どうしよう……思わず恋人と言っちゃったけど。い、いや俺と斗貴子さんはキスもしたし立派な恋人のはずだ!
 でも斗貴子さん何て言うかなぁ……?)
一抹の不安を抱えながらもカズキは更に歩を歩めていく。


そんな時ナギがふと思い出したかのようにカズキに話を振る。
「そう言えばさっき武装錬……と言いかけてたけどカズキも核鉄を持っているのか? 」
「ああ、持っているというよりも入っているって言った方が正しいけどね」
そう答えてカズキは何故自分が核鉄を心臓の代わりにした事をナギに話し始める。
カズキにとってナギはもう立派な仲間であり隠す事はないという判断からの行動だった。
「……まるで漫画のような出来事だな」
「ハハ、確かに俺もしばらくは夢かと思ったからね」
信じられないと言っているかのような表情をしているナギに対してカズキは笑って答える。
無理もない、核鉄やホムンクルスの存在を訊いて素直に納得出来る方が常識から外れているだろう。
そして更にナギは質問を続ける。
「ところでパピヨンとはどういう関係なのだ? 『友達』か? 」
「ああ……少なくとも俺はそう思ってるよ」
少し間を置いてカズキはナギに答える。
(でも蝶野は怒るかもしれないなぁ……)
そう心の中で付け足して。

しばらく歩いていくと二人は見つけてしまった。
胸に八つの傷を持ち血を抜かれしぼりかすのようになった男の胴体が線路にゴミのように無残に転がっているのを。
「カ、カズキ……これってまさか……? 」
「ナギ! 見ちゃいけない! 俺が調べる! 」
周りが薄暗いせいもあり一見すれば人間の胴体かどうかはわからなかったかもしれない。
しかし不運な事にナギの脳裏にはもしかして人間の胴体か?という考えが浮かんでしまった。
一度脳裏に浮かんだことはなかなか忘れにくいものが人間でありそれが衝撃的なことであるなら尚更な事である。
カズキはナギを気遣いその胴体を見せないように後ろを向かせ駆け寄る。

「こ、これは……」
ホムンクルス、錬金戦団、ヴィクターとの激闘を戦い抜いてきたカズキでさえも見たこともないほど凄惨な状況であった。
頭、両腕、両足は切断され文字通り達磨の状態となった死体。
そして胸の八つの傷や着ている服、体格、から考えて津村斗貴子やキャプテン・ブラボーではないと断定しカズキは安心……しなかった。
(何だこの胴体、まるで血が抜かれたように干からびている……それに首輪をしていない! 
確かあの老人は首輪に衝撃を与えたら爆発すると言ってたけど……まさか線路に置き去りにして地下鉄に轢かせたっていうのか!? 
そんな事をする奴が本当に居るのか……)
そんな奴は居ないと必死で否定したい感情はあるが以前出会ったフェイスレスと名も知らない道化師の事を思い出し
フェイスレスとの会話がカズキの脳裏を駆け巡る。

『でも、フェイスレス、お前は人を殺すんだろ……だから、約束しろ人は殺さないって』
『それはできないよ~ん。僕には『夢』があるからね。それに君は僕を殺せない』

(いや、フェイスレスがやったとは限らないさ……でもあの人ならやりかねない。
もしフェイスレスがやったなら……俺のせいでこの人は殺されたんだ。)
カズキは物を言わぬ無残に転がっている胴体がどこか自分を恨めしそうに訴えているような気がしてならなかった。
この胴体の持ち主――ジャギは決して善人ではなくむしろ因果応報とも言える結果であるが、
人一倍正義感が強いカズキには知る由もなく只
『自分がフェイスレスや道化師を止めらなかったせいで人が死んだ可能性がある』というあまりにも重過ぎる事実がのしかかっている。

「どうしたカズキ……? 何かあったのか? 」
先程からずっと黙っていたカズキを不審に思いナギは背中を向けながらカズキに声をかける。
ナギも大体の状況はわかっているのだろう。身体を震わせながらカズキの返答を待っている。
「……ホームへ戻ろう。いつ地下鉄が来てもおかしくないしね」
無残に横たわる胴体に向かって手を合わせ黙祷を捧げ、
カズキは極めて平然を装う事に努めナギの方へ振り返りホームへ帰る事を提案しナギの前を先導する。。
「カ、カズ……」
ナギは更に言葉を続けようとするがそれは叶わない。
すれ違った時に見えたカズキのあまりにも痛々しく重苦しい表情を見てナギの小さな唇はそれ以上動く事は出来なかった。
◇  ◆  ◇

今カズキとナギはS-5駅から地上に出てS-5駅周辺の大地に立っている。
カズキの外で新鮮な空気でも吸わないか?という提案を受けナギも別に断る理由もなかったからである。
二人はホームから地上へ出るとき偶然にも中身が入っていない空のデイパックを見つけた。
あの胴体の持ち主を殺した人物が持ち去ったのかそれともたまたま関係ない人物が持ち去ったのだろう。
一応何かに使えるかと思い今はカズキが担いでいる。

「ふぅ……やはり外の空気はおいしいものだなカズキ」
先程からあまり喋らないカズキを気遣いナギは言葉を発する。
(全く……先程の事でショックを受けているのか? そりゃあ私も驚いたけど……
でもカズキは悪い奴でないのだ。ここは私が元気付けてやらないとな)
ジャギの胴体を一瞬しか見なかった事が幸いしてナギのショックはそれほど大きいものではなかった。
何か気が利いた言葉を掛けようとするがナギは唇を動かすことをやめる。
何故ならおもむろにカズキが二つのデイパックを地面に降ろし、左胸に手を当てたからである。

「カズキ。何を……?」
「武装錬金!!!」
「えっ!?」

疑問の表情でこちらを見るナギを尻目にカズキは己の闘争本能を具現化した自分だけの武器――サンライトハートを右手に持ち、
そのサンライトハートを大空に掲げカズキは心の中でフェイスレスの言葉を思い出す。

『そんなにも、僕を止めたいなら、僕を殺すしかない。でも、君は僕を殺すことはできない。
君は背を向け、戦意をなくした相手に刃を向けるほど強くない』

(確かに俺は背中を向けた相手を倒す程戦士として強くない……けど!
 フェイスレス、もしあんたがあの胴体の持ち主を殺したのならば俺はあんたを許さない! )
そしてカズキは叫ぶ。自分の思いをサンライトハートに乗せて。
「エネルギー全開ッッッ!!! 」
内蔵されたエネルギーを爆発させる事によりサンライトハートの刀身を大空に向かってどこまでも伸ばす、伸ばす、伸ばす。
(俺が迷っている間に拾える命が消されていくのなら……俺がやる事は決まってる! )
放出されたエネルギーの粒子がカズキの周りに降りかかり、
そして大空に顔を出している太陽の光を受け何とも言えない幻想的な輝きを放つ。
その輝きにナギは心を奪われ一瞬思考が停止するがすぐにナギの思考は再始動する。

「な、何をやっているのだカズキ!? こんな目立つ事をして危険な奴が襲って来たらどうするのだ!? 」
この場合ナギの言い分はもっともだろう。
サンライトハートを上方に伸ばすなど危険人物に自分たちの居場所を教えているようなものだ。
だがカズキは何も答えない。彼にも当然自分の行動のリスクはわかっているだろう。
しかし……
(俺はもう迷わない……殺し合いに乗った人物がもし目の前に現れるのなら俺の全てを賭けて絶対に止めてみせる!
 たとえ俺の体がどうなってもそれで拾える命が拾えるのなら俺は……それだけでいい! )
地下鉄の線路で感じた怒り、悲しみ、憤りを糧にした炎のように燃える誓い――『真赤な誓い』が
カズキの心にさながらマグマのごとく沸き立っていた。

【B-3 駅周辺 一日目 午前】
【武藤カズキ@武装錬金】
[状態]健康
[装備]サンライトハート@武装錬金 
[道具]支給品一式 水分4/5  音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾 、空のデイパック
[思考・状況]
基本:みんなを守ってみせる
1:ハヤテたちが来るまでナギを守る
2:道化師の正体が気になるけど……
3:フェイスレスの約束を守る
4:勝君とエレオノールに会ってみたい
[備考]
※迷いはなくなりました。殺人を犯す可能性がある人物に対して容赦はしません。
※ナギからのホモ疑惑は解消されました。
※周囲3エリアからサンライトハートが上空に向かって放出されたのが確認できます。

【B-3 駅周辺 一日目 午前】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]健康 
[装備]首輪探知機@BATTLE ROYALE
[道具]支給品一式、不明支給品0~2(本人は確認済。核鉄の可能性は低い)
[思考・状況]
基本:殺し合いはしない
1:カズキと一緒にハヤテとジョジョを待つ
2:ハヤテ、マリア、ヒナギク、ジョセフと合流する
3:カズキの恋人という『斗貴子』とやらに会ってみたい
参戦時期:原作6巻終了後


095:いま賭ける、この―― 投下順 097:COOL EDITION
094:仮説 時系列順 097:COOL EDITION
086:漫画キャラバトルロワイアル特別編『SAGA』 武藤カズキ 111:心に愛を
086:漫画キャラバトルロワイアル特別編『SAGA』 三千院ナギ 111:心に愛を