エンゲージ  ◆d4asqdtPw2



呆然と佇む3人を、腹が立つほど青く静かな空が見下ろしている。
緑の木々が揺れ、さらさらと喧しい音を奏でる。
抉れた地面と折れた木だけが先ほどの戦闘の凄まじさを物語っていた。
その爪痕の中心には男の死体、仮面ライダー1号、本郷猛が倒れていた。
顔つきは穏やかではあるものの身体中が傷だらけ血まみれで、その姿が辺りの戦禍の主役を担っている。
本郷の傍でうずくまって微動だにしない少女が柊つかさである。その目は赤く腫れ、さっきまで嗚咽を繰り返した喉からは声も発さず、今は呼吸をしているのかすらも疑わしい。
そこから少し離れたところに桂ヒナギクが仰向けで寝そべっていた。何かを考えているのだろうか、青空と睨み合っているその目は虚ろだ。
さらに遠くへ目を向けると、川田章吾が大きな木片を器用に使って一心不乱に穴を掘っている。おそらく本郷の寝床であろう。

三者三様の沈黙を数十分ほど過ごしたところで、川田が地面に開けられた大きな楕円を見下ろして大きく息を吐いた。
「桂さん、本郷さんを運ぶのを手伝ってくれ」
そうヒナギクに告げると、手足に付着した土を払うこともせずに本郷へと向かう。
一方のヒナギクは何も言わずに腰を起こし、川田の数歩後ろを歩き出した。
「すまない。本当はこんな仕事を女の子にさせるべきじゃないんだが」
本郷の傍らに立つ川田が背後のヒナギクに対して淡々と謝罪の言を述べる。
ちらりとつかさを見やるが、つかさは糸の切れた操り人形が如く地面にへたり込んで動かない。
「いいのよ。引きずるわけにもいかないでしょうし、私も何かしてあげたいもの」
そう言うとヒナギクは本郷の足元へと回り込む。それを確認した川田は本郷の両脇に手をいれ、体を持ち上げようした。

しかし伸ばした川田の腕は本郷へと辿り着くことなく、つかさによって防がれることとなる。
腕を掴む、と言うよりは触れると言った方が正しいだろう。つかさの手には全く力がこもっていない。
物理的には振り払うまでも無く、先ほどまでの行為を継続させるのには全く支障はない。
しかし川田は動けない。
つかさから発せられている薄気味悪いモノ、瘴気とでも言えばいいのだろうか、それは川田の脳から発せられる信号が腕の筋肉に到達するのを完全にブロックしていた。

「どこへ連れて行くんですかぁ、ほんごーさんを」
つかさは顔を上げることなく、それどころか腕以外の体のどの部分も動かすことなく川田に尋ねる。
細くて冷たい声。辛うじて聞き取れるかと言うほど細く弱い声であるのに、波長が伝わった空間を凍りつかせてしまうほど冷たい声だった。

ヒナギクは気づいているだろうか。自分自身の体が震えている事に。
恐怖のせいだろうか、寒気のせいだろうか、ヒナギクの歯が音を立てている。
カチ、カチという音、脳に響いてくる。

『カチ、カチ』

「本郷さんを埋めてあげないと。このままじゃかわいそうだろ」
ヒナギクは知らないが、川田という男は、殺し合いの最中で人が狂う姿を嫌と言うほど見てきた。
そして柊つかさの放つ『それ』は狂った人間が放つ独特の空気。そしてそれは、いとも容易く他人に伝染する。
おそらく川田自身には何も影響はないだろう。しかしヒナギクはどうだ。
殺し合いの経験など皆無なヒナギクはおそらく耐えられない。彼女がつかさに中てられて一緒に狂ってしまう、それだけは避けなければいけなかった。
だから以前の彼なら、つかさを見捨ててヒナギクと共にどこかへ向かっていただろう。
しかし彼は言葉を紡いだ。本郷に託されたから、つかさを、ヒナギクを、使命を。

『カチ、カチ』

「俺たちは、本郷さんを埋めて先へ進まなきゃいけない」

『カチ、カチ、カ――……』
熱い思いがヒナギクを包んでいく。川田の思いが伝わってくる。
いつの間にか震えが止まっているようだ。

「やらなくちゃいけないことは、まだ沢山あるんだ」
川田章吾は一度死を経験し、生命におけるありとあらゆる出来事に対する覚悟は出来ていたと思っていた。
自分は立ち向かうために生かされた。2度目の命はそのためだけに消費すればいいと思っていた。
しかし本郷に出会ったとき、川田章吾は第2の人生最初の挫折を味わった。遥かな高みにいる男に憧れてしまった。
本郷の死を見届けたとき、2度目の挫折。死に向かう本郷を前に自分はなにも出来なかった。
穴を掘りながらずっと後悔していた。己の覚悟の足りなさに。命をかけること、命を捨てること、命を消費することに対する覚悟。
だからもう生きようとは思わない。死に向かうんだ、と川田は誓った。どうせ失った命なら代償としようと。だから
「つかささんだって友達に会いたいはずだ、だから――」
だから――

「だめですよ」

ぶわぁ、と広がる、寒気。

『……………カチ……』

「ほんごーさん、私の料理食べてないじゃないですか。おなかすいちゃいますよ」
死体は腹が減らない。なぜなら必要ないから。食べることが出来ないから。常識だ。
しかしこの少女は本郷の腹が減ると言った。悲しみを込めた別れの言葉ではない。彼女は本気で本郷が空腹になると心配しているのだ。

「つかささん、本郷さんはもう……」
「本郷さんにね、お姉ちゃんの事話したの。そしたらね、そしたらね、嬉しそうに本郷さんが笑ってくれたの」
川田の言葉を遮ってつかさが俯きながら、しかしとても嬉しそうに話し始めた。
「本郷さんのこともいっぱい聞いたの、えっとね、タロっていう犬を飼っててね、えっとね、警察官のお父さんがいてね、えっとね、えっとね」
少しずつ、本郷との思い出話を話し始める。その顔は見えないがやはりとても嬉しそうだ。
(本郷さんとつかささんが2人きりで話す機会はなかったはずだが……)
川田が感じていた違和感は次第に大きくなっていき、その肥大化の速度も加速していく。
「悪い敵をかっこよくやっつけてね、えっとね、バルタン星人とか、ゴジラとかも追い払ってくれて」

『……カチ……カチ……』

聞いたことが無い。もちろんバルタン星人もゴジラも知っている。だが本郷がそれらを相手に戦ってたことなど聞いたことが無い。
と言うか、そんな事があるはずがない。
「本郷さんとは……いつその話をしたんだ」
「え……? やだなぁ川田くん」
つかさがゆっくりと顔をあげる。
『……カチ……カチ、カチ』

「川田くんが穴を掘ってるあいだ、ずっと喋ってたんだよ」
へらへらと笑いながらそう告げた。

『カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、
 カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ』
(息が出来ない。寒い、寒い)
ヒナギクが必死に目を逸らそうとしても眼球が凍り付いてしまってはどうすることもできない。
耳を塞ごうとしても凍てついた腕は言う事を聞いてくれない。

「つかささん! 本郷さんは」
「見て、こんなに笑ってくれてるよ」
うつ伏せに倒れる本郷を指差して歪んだ笑顔の少女が告げる。

『カチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチカチ
 カカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカカ』
ヒナギクの顎が刻むビートが速くなっている。限界に近い顎関節がキリキリと痛みを発する。
しかしヒナギクにはどうすることも出来ない。彼女の体は辺りに満ちた瘴気だけが支配していた。

「本郷さんは死んだんだ! ラオウって男と、戦って」
川田が必死に叫ぶ。しかしその目は半ば諦めの色を帯びている。
彼女はもうダメなのではないか、と。
「ほんごーさんは死なないよ」
もう
「だってね、私の料理食べてくれるんだよ」
この少女は
「死んじゃったらムダになっちゃうよ。ね、ほんごーさん」

『カカカカカカカ――ギリ』

「……もう、いい」
もう、この女は終わりだ。
川田が地面に膝をつき、腕をだらりと下ろして、目を閉じた。
川田章吾、3度目の、挫折。
「ちゃんとムダにならないようにほんごーさんが起きるまで待ってあげなきゃね」


さて、桂ヒナギクが震え始めてからかなりの時間が経過していた。
いつからだろうか、ヒナギクの筋肉が脳の命令を受け付けなくなっているのは。
いつからだろうか、ヒナギクの五感が既に何者かに支配されているのは。
いつからだろうか、自分の生存、仲間の生存さえもどうでもよくなってしまっているのは。
いつからだろうか、私の、私の――
「ほんごーさん。こんなところでいつまでも寝てたらムダに疲れちゃいますよ」
「……いわよ」
いつからだろうか、私の
「……なに? ヒナちゃんも私に酷い嘘をつく――」

「ふざけんじゃないわよ!」

――私の恐怖の震えが、怒りの震えに変わっているのは。

「……ひっ!」
空を裂き、つかさの生み出した瘴気すらも全て吹き飛ばすほどの怒号。
思わずつかさの口から悲鳴が漏れる。
川田も目を丸くしてこちらを見つめていた。
「ヒ、ヒナちゃん、何をそんなに」
「本郷さんは死んだの! なに逃げてるのよ。ちゃんと見なさいよ」
川田が穴を掘ってる間、ヒナギクは寝そべりながらずっと考えていた。
自分に何が出来るのか。自分は本郷が命を捨ててまで助ける価値のある人間だったのだろうか。
「見てるよ……だからさっきまで一緒におしゃべり……」
「ちゃんと見なさいよ!」
ヒナギクがつかさの髪の毛を鷲掴みにして、本郷の方へと首を捻る。
「痛い! 痛いよ!」
「いいから見なさいよ。本郷さんはね、私たちを守って死んだのよ。
 アンタは自分の中に本郷さんの幻想を造って逃げていただけじゃないのよ!」
自分が何を成せば彼が報われるのか。どれだけ頑張れば彼の意思を継げるのか。
ヒナギクはずっと考えていた。
「本当に本郷さんは、ホントに生きてるもん!」
「あ、そう」
ヒナギクには、つかさの目を覚まさせる気など毛頭なかった。
「……え」
「そうやってあなたが逃げ続けるなら構わないわ」
ただヒナギクは純粋に怒っていた。
つかさの胸ぐらを掴んで、今にも噛み付きそうな顔で言い放つ。
「ただ1つだけ訂正しなさい」
本郷が何のためにボロボロになってまで戦ったのかはヒナギクには分からない。
自分たちを守るため? 悪が許せないから? もしくは自分が思いつきもしない別の理由があるのかもしれない。
それでも彼が命を捨ててまで戦い抜いたおかげで自分はここにいる。
最後の思いを自分に、川田に、つかさに託した本郷がいた。
だからヒナギクは許せなかった。
「本郷さんが死んだ事を、『ムダ』って言ったのは許さない!」
繋がれた思いを無価値とされたことが許せなかった。

「それだけは訂正しなさい」
ヒナギクの頬に涙がひとしずくだけ流れた。

「だってみんなで食べるって……約束して、みんなで本郷さんをさがして、そしたら戦ってて」

――手料理を食べてやれなくてすまなかった。

「…………あ……」

記憶の海に消えてしまう直前に、その声は蘇った。
もう少しで二度と思い出せなくなるところだった。低くて綺麗な声。

――お姉さん達が見つかる事を祈っている

やっと、思い出した。
「……あ、……あぁ……」
その声が引き金となって、自分の弱い心が閉じ込めていた記憶が次々と再生される。
最後まで。本郷が立ったまま絶命し、やがて地面に倒れるその瞬間まで。

「う……うぁ……」

恐怖に引きつった顔で隣で眠る本郷へと顔を向ける。

そこには生気を失い、横たわる本郷の大きな背中が存在していた。

「ほん……ごう、さん、し……死ん、じゃ、った」

「そうだ、俺たちを守って。それは決してムダじゃない」
川田が告げる。
「私がムダにしないわよ」
ヒナギクが続く。

「うぁ……ほ、ん……ごぉ……あぁ……」
枯れ果てたはずの涙が溢れ、つかさは声を上げて泣いた。
少女の絶叫を聞きながら、本郷を埋葬する準備にかかる川田とヒナギク。
彼らを見下ろす空は、やはり腹が立つほど青く静かであった。


◆     ◆     ◆


「ふぅ……やっと終わったな。まったく、デカい図体しやがって」
埋葬を終えた川田が腰を叩きながら愚痴を吐いた。
「川田くんだって結構デカいわよ」
いつまでも落ち込んでられない事を分かっているのだろう。2人とも無理に明るく振舞っているように見える。
「あー……それもそうだな……お!」
川田が驚いた様子でヒナギクの後ろへ視線を向ける。そこには
「つかさ……」
「あの……ごめんなさい!」
一呼吸置いてつかさが続ける。
「本当はヒナちゃんが一番長い間本郷さんと一緒にいて、私なんかよりずっと辛いはずなのに。
 私は自分が逃げる事ばっかりしか頭になくて、自分だけが辛いと思ってて、……最低だった。本当にごめんなさい!」
言い切るが早いか、深々と頭を下げる。
「えぇ。つかさ、最低だったわ」
そんな彼女に対してヒナギクはそんな言葉を吐いた。
「でも、自分で最低って分かってるなら十分よ。その悔しさ、忘れちゃだめよ」
つかさがブンブンと首を縦に振る。真っ赤な目の少女が2人で微笑み合う。

「あー……ちょっといいか。さっきの放送の事なんだが」
そこに介入してくる無粋な男。本当は彼だってそんな2人の姿をいつまでも見ていたい。
しかしここではそんな事もいってられない。

「放送? あぁ……あの爺さんが何か喋ってたやつの事ね」
「そういえばあったね、なになに?」
放送時といえば、3人は本郷を探していた真っ最中であった。
周囲の状況に警戒をして本郷が向かったであろう方向の音に集中していた彼女たちにとって年寄りの与太話など聞いている余裕はなかった。
しかし川田は違う。プログラムを2度も経験している彼は、放送の重要さを熟知していた。
バッグからメモを取り出して、続ける。
「まずは禁止エリアが発表された。ある時間以降にそこに入ると首輪が爆発して……死ぬらしい」
午前7時からH-7、午前9時からF-1、午前11時からA-3と放送で聞いたそのままを彼女たちに伝える。
2人は慌ててバッグから地図を取り出し、丁寧に斜線を引き始めた。
「なるほど……行動範囲を狭くして殺し合いを促進させる気ね。よく考えられてるわね」
ヒナギクが素直に感心する。尤も、大東亜帝国で長年に渡り洗練されたルールを流用したに過ぎないのだから、よく出来ているのは当たり前なのだが。
「それと……放送時までに死んだ人間の名前が発表された」
2人の手が止まる。
僅かにつかさが「へ?」と驚きの声を発した。

マズい。
ヒナギクは焦った。
本郷の死を知ってやっとの事立ち直ったばかりのつかさがもしも、もしも友人や双子の姉の死を知ったら……。
本郷のときだって自分はなにもしていない。彼の最後のメッセージがつかさを絶望から引き上げてくれたにすぎない。
ヒナギクも川田もつかさの知り合いについて何も知らない。次は誰も彼女を救ってやれない。
(もしそんな事になったら、つかさは……今度こそ壊れてしまう)
それだけはマズい。ヒナギクは川田に大丈夫かと視線で伝える。

「安心しろ。2人の友達は今のところみんな無事だ。もちろん、つかささんのお姉さんもな」
川田のセリフが終わるのと同時に、ほぅっと安堵のため息が2つ重なった。
「まったく、川田くん。気をもませるような伝え方しないでよね」
ヒナギクが引きつった笑顔で不満を漏らす。
なんにせよ知り合いが無事なのはいいことだ。つかさも笑顔でいてくれているようだ。
「スマンスマン。とりあえず、呼ばれた名前を挙げていくからメモしてくれ。まず、……杉村弘樹」
「す、杉村さんって川田くんの……」

川田は以前つかさに杉村の事を最も信頼できる男と言っていた。
川田も杉村も会話が上手なタイプでないが、だからこそ通じるものがあったのかもしれない。
「そうだったの……私たちの知り合いだけ無事で、はしゃいじゃってごめんなさい」
杉村の事を聞いていなかったヒナギクが申し訳なさそうに目を伏せる。
「いいんだ。あいつが長生きできるタイプじゃない事くらいわかっていたさ……続けるぞ。……毛利、小五郎」
ヒナギクの目が一瞬だけ大きく開いて、すぐに閉じた。
分かっていた、大丈夫だと言わんばかりに平静を装う。少なくともつかさの前ではそうしなければいけない。

結局その後合わせて8人の死者の名前が川田の口から読み上げられた。
その中には本郷が倒しに向かった三影英介、アレクサンド・アンデルセンの名前もあった。
本郷が倒したのだろうか、それとも別の強者にやられたのか。今となっては知る術はない。

「と、杉村や桂さんの言っていたアンデルセンとか言う男も死んでいる。2人ともかなりの実力者なのに、だ。気を引き締めていかないとな」
川田が淡々と述べる。
正直に言えば、杉村には生きて帰って欲しかった。
杉村とは前回のプログラムで何度か遭遇したが、七原と同じ正義を持ち合わせながら七原とは違う強さを持っている男であった。
最後はおそらく桐山に殺されたのだろうが、琴弾には会えたのだろうか。
杉村は俺とは違う。あの男には人生をやり直す権利があった。
杉村や本郷のような生きるべき人間が死んで、自分のような血にぬれた人間が生き残ってしまう。
恋人さえも信じられずに銃を向けた自分のような男が。
前回は杉村の死を七原、中川と共に放送で聞いた。そこで油断して桐山に強襲され、2人を危険に晒してしまった。
あんな事はあってはならない。今回の脱出は前回とは比べものにならないほど難易度が高い。
本郷の首輪をこっそり調べさせてもらったが、自分が前回解除したそれとは構造が根本的に異なっていて、分解してみないことには内部構造を理解する事も難しい。
流石に首を切り落として調べる事は出来なかったが、首輪の解除が脱出の最重要課題になることは間違いない。

そしてその為には2人を護りながら首輪を解除できる手がかりや人物を探さなくてはならない。
とてもじゃないが杉村の死と言えども悲しんではいられない。

「さぁ、メモし終えたならさっさと行くぞ」
メモをバッグの中にしまいながら2人に告げる。
「そうね……いつまでも留まっている訳にもいかないものね。……つかさ?」
ヒナギクが川田に次いで歩き出そうとしたとき、柊つかさはジッとこちらを、悲しそうな目で見つめていた。
「悲しく……ないの? 川田くん、友達が亡くなって、ヒナちゃん、毛利さんが亡くなって悲しくないの?」
「……俺は本郷さんに頼まれた事をやらないといけない。一度死んだこの身だ。悲しむ前に誰かのために出来る事をしなくちゃならない。
 そいつが……あらゆる情報を的確に判断して俺が導き出した……」
「……俺の脳味噌が導き出した……唯一の"答え"だ」
川田がハッキリと答える。が、迷っているのか、その目はどこか泳いでいた。
一方でヒナギクはじっと考え込んだまま何も答えない。

「私は、川田くんにとって保護するだけの存在なの?」
川田の目が見開かれたのにヒナギクだけが気づいた。
「そんなの……嫌だ!」

「私だって川田くんやヒナちゃんの支えになってあげたい。2人がつらいのを我慢してるのをただ見ているだけのちっぽけな存在にはなりたくない。
 さっき私が逃げ出しそうになったとき、川田くんやヒナちゃんが必死に救おうとしてくれた。私……すごく嬉しかった。
 だから……誰かが死んだら悲しんでよ! 誰かが間違えそうになったら叱ってよ。それが『誰かのために生きる』ってことじゃないかな」
ヒナギクは先ほどの自分の見解の間違いに気が付いた。
本郷の死につかさが絶望したのは彼女がただ弱いからだけじゃない。つかさが誰よりも他人の痛みに敏感だから。
誰かの気持ちを知ってやれるから。
たとえ先ほどの川田の死者報告で、つかさの知り合いが呼ばれたとしても彼女は壊れなかっただろう。
「2人は今……泣いていいんだよ?」
これから何があろうとも、彼女はもう決して狂わない。

先述したが、川田章吾は2度目の命に固執する気はなかった。感情を捨て、誰かを護るために消費していけばいいと思っていた。
「川田くんが言う"答え"だって間違ってない……でも」
それが彼の脳が導出した答えだった。
その答えが揺らいだのが3回。彼の信じた答えは彼が挫折を味わうたびに歪を生じ
「頭だけじゃなくて"こころ"で……物事をみつめてもいいと思うよ」
たった今、完全に崩壊した。
柊つかさの姿に別の少女の姿が重なった。
(け……けい……こ?)

そうか、やっと分かった。
俺は誰かを護りたい。プログラムを破壊したい。でもそれだけじゃない。
ちょっとした"整合性の欠如"なんだ。だが、俺の"つたない脳"が
――俺の"ハート"がそう決めちまった。
「俺は泣かないさ……でも、もう少し君たちを頼ることにするよ。ありがとう」

俺は柊つかさと一緒にいたいんだ。

――すまない慶子、杉村。

俺はまだ……死ぬわけにはいかないっ!

「結局私は蚊帳の外か……」
桂ヒナギクが2人とは少し距離をとって見守っている。
やれやれといった顔つきで微笑む。
「あーあ、私も恋愛したいなー。……ハヤテ君はなにしてるかな」
見上げた空は、清々しいほど青く静かであった。

【G-4とG-3の境界 林 一日目 午前】

【桂ヒナギク@ハヤテのごとく!】
[状態] 傷の手当ては完了している。
[装備] ボウガン@北斗の拳
[道具] 支給品一式。ボウガンの矢18@北斗の拳
[思考・状況]
基本:ハヤテ達との合流
1:さて、どうしようか……
[備考]

ヒナギクが聞いた轟音の正体は、三影の大砲の音です
参戦時期はサンデーコミックス9巻の最終話からです
桂ヒナギクのデイパック(不明支給品1~3品)は【H-4 林】のどこかに落ちています
ロードローラー@ジョジョの奇妙な冒険と捕獲網@グラップラー刃牙は【H-4 林】に落ちています

【川田章吾@BATTLE ROYALE】
[状態] 健康
[装備] マイクロウージー(9ミリパラベラム弾16/32)、予備マガジン5、ジッポーライター、バードコール@BATTLE ROYALE
[道具] 支給品一式×2、核鉄(バルキリースカート)@武装錬金、チョココロネ(残り5つ)@らき☆すた
    文化包丁、救急箱、ZXのメモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS、裁縫道具(針や糸など)
    ツールセット、ステンレス製の鍋、ガスコンロ、缶詰やレトルトといった食料品。
    薬局で手に入れた薬(救急箱に入っていない物を補充&予備)
    マイルドセブン(二本消費)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームに乗っていない参加者を一人でも多く救出し、最後は主催者にカウンターパンチ
1:つかさの姉や友人、ヒナギクの友人を探すのに協力する。
2:ゲームに乗っている参加者と遭遇した場合は容赦なく殺す
参戦時期:原作で死亡した直後
[備考]
桐山和雄の動きを警戒しています
桐山や杉村たちも自分と同じく原作世界死後からの参戦だと思っています
つかさには過去に2回プログラムに参加していること、首輪解除技能やハッキング技術を会得していることなどは話していません。
医者の息子であること、1度死んでいる事は話しています。
首輪は川田が以前解除したものとは別のものです

【柊つかさ@らき☆すた】
[状態] 健康
[装備] なし
[道具] 支給品一式、ホーリーの制服@スクライド、ターボエンジン付きスケボー @名探偵コナン
[思考・状況]
基本:ゲームには絶対に乗らない
1:お姉ちゃんやこなちゃんたちと合流したい
2:川田、ヒナギクの力になりたい
[備考]
川田、ヒナギクを完全に信用しています


102:偽りの脱出 投下順 104:以前の彼女
102:偽りの脱出 時系列順 110:バトルロワイヤルの火薬庫
079:Blue sky 桂ヒナギク 117:揺ぎ無い意思貫くように
079:Blue sky 川田章吾 117:揺ぎ無い意思貫くように
079:Blue sky 柊つかさ 117:揺ぎ無い意思貫くように