大切なもの――SOLDIER DREAM――  ◆3OcZUGDYUo



エリアD-3の喫茶店で、テーブルを三つ隣り合わせ、計七人の男女が各々顔を向かい合わせにしながら座っている。
六人全員の顔を難なく見渡せる中心の位置に赤木しげる。
そして赤木から右に向かってパピヨン、空条承太郎、綾崎ハヤテ、才賀勝、才賀エレオノール、加藤鳴海
といって赤木に戻るという順序で、彼らは座席についている。
彼らは赤木の提案で、各々の交流を深める意味を兼ねて情報交換を行うことにしていた。
赤木を除いた彼ら六人も情報交換を断る理由はない。
寧ろこの異常な事態に対処するために彼らにとっても赤木の提案は都合の良い事だったからだ。
只一人、エレオノールに対して自分を綾崎ハヤテと偽り、不安そうな表情をした勝を除いては。
そして実際には今この場には計八人居るのだがその最後の一人、泉こなたは奥のソファ席で横になり静かな寝息を立て相変わらず眠っていた。
いくらネトゲーで睡眠不足に対しての耐性が有るこなたと言えども、この殺し合いが始まって八時間以上は経過しており、
更に夜中ネトゲーに勤しんでいた所でこの舞台に連れてこられていた。
こなたが睡魔に負けるのは無理も無い。
そんな眠っているこなたを見て、少しでも情報を得たいと思っていた赤木は、
こなたを起こそうと声を掛けようとしていたがそれはパピヨンに遮られた。
パピヨンが何故赤木を止めたかはわからない。
単純にこなたからは碌に有益な情報を引き出せない事は、己の経験で知っていたからだろうか、
それとも気持ち良さそうに眠っているこなたの、睡眠の邪魔をさせたくはなかったからだろうかは解らないが。

「それでは情報交換を始めようか……俺は赤木しげる、赤木とでも呼んでくれ」
人型ホムンクルス、スタンド使い、コンバットバトラー、人形破壊者(しろがね)など様々な者が一堂に会したこの場で
天才的な雀氏ではあるものの、異能といった能力は生憎持ち合わせていない赤木が始めの言葉を放つ。
誰に名前を聞かれたわけではないが、赤木はこの情報交換の場の主導権を握るため自発的に己の名を簡略に紹介する。

「いいだろう、こっちとしても情報が多い事には越した事はない。特に隠すような情報もないからな。
俺はパピヨン。蝶サイコーな存在、『人型ホムンクルス』さ」
おどけた調子でパピヨンは赤木が自分の事を紹介したのと同じように、パピヨンは自分が
あっさりとホムンクルスである事を、未だ信用に値するかどうかはわからない赤木、勝、エレオノール、鳴海に知らせる。
パピヨンにとって彼らに必要以上の情報を教えるメリットはないが、彼には何者にも負けないという絶大な自信があり、
別に自分がホムンクルスであると教えても問題がないと判断したからだ。
それに一定の情報を自ら提示する事で、情報交換を円滑に進める狙いもあった。
そう、たった今赤木がやったように。

「何だその『人型ホムンクルス』というのは? 貴様……一体何者だ!? 」
警戒心を剥き出しにしながらエレオノールがパピヨンの言葉に荒々しく噛み付く。
彼女としては勝を保護するために、どんな不安要素を抱えてはいけないという一種の焦りのような感情が心に根付いている。
更にエレオノールがパピヨンに持っている印象は、先程の問答のせいでとても良いものとは言えないせいで、
彼女は彼に対して必要以上に警戒しているからだ。

「俺は既に自分の名と身の上を話している……もう一度言うが人にものを訊ねる時はせめて自分の名くらい名乗ったらどうだ?
まぁ所詮貴様に一般の良識があればの話だがな」
「ッ! この……! 」
パピヨンの挑発的な言動にエレオノールは思わず席を立ち上がり、ナイフを取り出そうとする。
そのパピヨンの言動、エレオノールの行動に驚きハヤテは心配そうにパピヨンの方を見つめ、
勝はエレオノールの行き過ぎた行動を止めようと、彼女と同じように席を立ち上がる。
ちなみに既にハヤテはいつもの執事服に着替えている。
いつまでも女装服のままではまた武藤カズキのような、悲しき勘違い野郎を生み出すかもしれないためだ。
そして承太郎はさも呆れたような表情を浮かべ、腕を組みながら両目を瞑っている。
まるで俺には関係ないと言っているかのように。
そんな承太郎のいけすかない態度に鳴海は若干の苛つきを覚えながらも、目の前で今にも戦闘を起こしそうな
パピヨンとエレオノールを沈黙させるために席を立とうとする。
一方赤木は――

パン!
軽快な音が響き、赤木以外全員……いや承太郎は僅かに眼を開いただけだが、残り五人の顔が一斉にたった今
己の両の手の平を打ち合わせた赤木の方を向く。
五人分の視線を受けながら赤木は口を開く。
その味気のない表情に僅かな微笑を含ませながら。

「さて……そのくらいで止めてもらおうか?
生憎俺はお喋りがしたいわけじゃあない、情報交換……これ以上でも以下でもない事が望みなんでな」
エレオノールは依然パピヨンを睨みつけながらも再び席に座り、そのエレオノールの視線をまたも平然とパピヨンは受け流す。
事態の沈静化にほっとした勝が席に戻った時を見計らって、赤木は間髪入れずに次の言葉を発する。

「ではパピヨンの自己紹介が済んだ所で次はあんたから右回りにやってもらおうか?
出来るだけ自分の名、どのような存在かを含めてな…… 」
そう赤木は言って、承太郎に視線を向ける。
だが承太郎の表情には怒りとはいかないまでも、明らかに不満そうな色が見える。

「……気にいらねぇな」
「……何がだ? 」
承太郎の短い言葉に更に短い言葉で赤木は聞きなおす。

「自分の事は名前しか話さねぇくせに俺達には能力を含めて話せというてめーのそのあつかましさがな……」
明らかな苛つきを込めた言葉で承太郎は返答する。
別に承太郎にとっては自分のスタンド――スタープラチナの事について話すのに抵抗はない。
だが、信用が置けない人物となれば当然話は別だ。
目の前の赤木と言う男は情報交換をしようと言いながら自分の事についてろくに話はしないと来た。
承太郎に不信の念が生まれるのは無理も無い。

「ジ! ジョジョさん! ここは穏便に」
その様子に今度は承太郎の方を振り向き、ハヤテは慌てながら承太郎に言い掛ける。
ハヤテにとって情報交換など何も苦にはならない事であり、カズキの話に出たいまいち信用できないピエロの女の人が居るとは言えども
仲間が増えるのは当然嬉しい事である。
だがハヤテはそれ以上に途中で分かれてきた三千院ナギの事が心配だった。
自分たちが赤木、勝、エレオノール、鳴海と出会ったようにお嬢様とカズキが危険人物と今、この時出会い、
命の危険に晒されているかもしれない。
そう思うとこの情報収集を出来るだけ早めに切り上げて、今直ぐにでもS-5駅に戻りたかった。
そんな時に承太郎がこの場をややこしくさせるような事を言ったのでハヤテの焦りは募る。
パピヨン、勝、エレオノール、鳴海が状況を見守る中赤木は静かに承太郎の言葉に耳を傾け、やがて口を開いた。

「確かに俺は自分の名しか言っていないな……だが俺にはこれといった能力というものはない、
持ち合わせているものはせいぜい麻雀やトランプといったゲームの腕くらいだ」
自分の身の上について正直に赤木は話す。
ここで嘘をついても赤木には何もメリットはないからだ。
だが承太郎は未だ胡散臭そうな表情で赤木は見つめている。

(まぁ……完全には信用できないのは無理もない、俺だって信用しない。
だがそれゆえこのジョジョという男は仲間としてふさわしい。この警戒心はこの先生き残るには必要不可欠。
そしてこの男には……特別な力がある! )
何故赤木には承太郎が異能を持っているかわかったのか?
答えはこれから赤木が行う質問で明らかになっていく。

「完全には信用してもらわなくても構わない……それで少し此方から質問していいか? 」
「……何だ? 」
「あんたの先程の言葉……まるで俺が何か特別な力を持っているという前提だったが何故あんたはそう思った? 」
「……それは」
思わず返答に詰まる承太郎。
確かに髪の毛は老人のように銀一色と言えども、赤木は普通の一般人のように見え、先程の承太郎の質問は何か不自然に感じる。
だがこれはあくまでも一般人から見た時に限る事だ。
スタンド使いである承太郎は思わず目の前の赤木はナギとは違いスタンド、スタンドにない何か特別な力があり、
自分のようになんらかの戦いを潜り抜けてきたと思い込んでしまった。
この異常な事態に全く慌てない冷静さ。
異様な気を発する自分やパピヨンなどを目の前にして、堂々と情報交換の場を仕切るその意思の強さ。
これら常識外れの赤木の行動をほんの短時間の間見てきたからだ。
そしてこの承太郎の一瞬の沈黙は赤木の予想を更に強めるものとなる。

「そこで俺はこう考えてみた……あんたは何か特別な力を持っている。
そしてあんたはその力を使いこのバトルロワイアルに呼び出されるまで闘っていた……
そう、一般人からみたら異常な力を当然のように感じる程長い間。だから俺が特別な力を持っていると思った。
そうでなければ――」
そこまで言って一息ついて赤木は言葉を区切る。
そして右の一指し指を承太郎を向けて勝ち誇ったように赤木は言う。

「あんたの質問は……的を射ないものとなる」
「……ちっ!」
DIO打倒のため仲間達とエジプトへの旅を経験した承太郎は、旅の道中でれっきとした異能であるスタンドを持つ敵と何度も遭遇し、
同じくスタンドを持つ仲間達とこれを撃退し、見事DIOを打ち倒した。
そんな旅の中、承太郎の周りにはいつもスタンド使いが居た。
敵も味方も関係なしにどんな時でも。
そしてその状況にいつしか確かに承太郎は慣れていった。
そう赤木の言った事は的確なものであった。
その事はたった今承太郎が思わずついた舌打ちが証明している。

「やれやれ……クレイジーな奴だぜ」
「くくく……誉め言葉として受け取っておこう」
承太郎が呆れた様子で、赤木は不敵な笑みを浮かべながら言葉を交錯させる。
その二人の様子を見て依然ハヤテは心配そうな表情で見守っている。
そしてやがて承太郎が口を開く。

「……空条承太郎。変わった特技といえばスタンドが出せるくらいだ。スタンドの事を詳しく知りてぇならパピヨンに聞きな」
あまりにも投げやりな自己紹介を行う承太郎。
そして承太郎の説明不足な自己紹介は狙ったわけではないが、彼とパピヨン以外の五人に一つ違和感を残す。
承太郎の話に出てきたスタンド。
承太郎は「詳しく知りたいのならパピヨンに聞け」と言った。
なら承太郎の話が本当ならば誰だって「パピヨンはスタンドというのを知っている、
もしくは承太郎のようにスタンドを持っている」と思うだろう。
だがパピヨンの先程の自己紹介にはスタンドという単語は存在していない。
ならば――

「貴様!……まだ隠している事があるのか!? 」
パピヨンに疑惑の眼差しが向けられるわけだ。
そしてパピヨンに対する印象が更に悪化したエレオノールがパピヨンに問う。
また今にも先程の状況が再現されそうな勢いで。
だが承太郎、エレオノールの言葉を受けたパピヨンは何も慌てる様子は無く、只呆れたように片方の腕で頬杖をついている。

「ふぅ……やれやれ、誤解のないように言っとくが俺はその空条と一度闘った事があり、その時スタンドを見ただけだ。
逆に俺の方こそ是非スタンドの事についてもっと教えてもらいたいものだな空条?」
エレオノールの方ではなく、不気味な笑みを浮かべながら承太郎の方を向いてパピヨンは返答する。
まるで自分を無視したかのようなパピヨンの行動にエレオノールの不信感は更に高まり、
承太郎はパピヨンの意味深げな言葉に疑問を覚える。

(どういうことだ? こいつはスタンドの事について然程関心がなかったはずだが……
今は違う! まるで目の前に極上の獲物を見つけた獰猛な獣のような眼をしてやがる…… )
思わず自分とナギと別れた後何処かでスタンド使いと出会い、そして興味を持ったのではないか?という考えを承太郎は浮かべる。
だがパピヨンは自分達と別れた後直ぐにハヤテ達と合流したという。
それならばスタンド使いと遭遇する時間はない。
そこまで考えた所で承太郎はチラッと脇目である方向を見る。
その視線の先には……奥のソファー席で依然気持ち良さそうに寝ているこなたが居た。

(まさか……あのこなたっていう女……スタンド使いじゃねぇだろうな? )
承太郎はこなたを日本人で高校生である事しか知らないが、彼だって日本人の高校生である。
こなたがスタンド使いであると言われてもおかしい事ではない。
先程の赤木との会話による失敗の一件もあり、そこまで自信を持てないがそうでなければ
パピヨンが僅かな時間でスタンドに興味を持った事に辻褄が合わない。
実際にはパピヨンはこなたに支給されたストレイ・キャットを見た事により、スタンドに対して興味が湧いたわけだが承太郎が知る由もなく、
なにより生物と一体化したスタンドがあるとは思わなかったからだ。

そして承太郎とパピヨンが一度闘ったという新たな事実が浮き彫りになった今、二人を除いた五人に当然緊張が走る。
お世辞にも社交的とは言えない承太郎とパピヨンが闘ったという事実は、この先チームとしての連携をギクシャクしたものしていくだろう。
その懸念が彼らの頭を過ぎり、着々とこの喫茶店に不協和音が響いていく。
訪れる沈黙に貴重な時間が過ぎていく中――直ぐにその沈黙は破られる。

「詳しい事は互いの自己紹介が済んでからでいいだろう。では……次は執事服のあんたにお願いしょうか? 」
やはり赤木だった。
無論赤木にもスタンド、承太郎とパピヨンの闘争は気になることであるが、
それよりもまずは全員の自己紹介を速やかに行うべきだと彼は判断する。
当然出来るだけ時間は有効に使った方がいいからだ。
そして彼はハヤテの方を向きながら、情報交換を円滑に進ませるように誘導させる。

(……どうすればいいんだ? )
一連の騒ぎにはあまり眼を向けず、勝は必死に焦りながら考える。
勿論自分がどう名乗ればいいか? ということである。
エレオノールに対して綾崎ハヤテと偽った事が彼の行動を束縛していた。
偽称がエレオノールにもしばれたら、只でさえ暗雲が立ち込めているこの場が一層収集がつかない事になる。
そして次に今自己紹介をしようとしている執事服を着た高校生くらいの男の人が綾崎ハヤテという可能性もあった。
もし彼の口から綾崎ハヤテという言葉が出たら……思わず勝はゴクリと唾を飲み込む。
そしてハヤテの口が勝の焦りをせせら笑うかのように動く。

「わかりました。僕の名前は――」
そこまで言ってハヤテの言葉は止まる。
何故ならハヤテから見てガラス張りの壁越しに西の方角には光の柱のようなものが、そし北の方角に一発の花火が昇っていたからだ。
◇  ◆  ◇

「銀さんどこいったんだろうなァ……? 」
エリアE-2の中心部に歩を進める少年が一人。
まだ幼さが残る顔とは不釣合いな筋肉という肉の鎧を身体に纏い、
徳川光成が主催した世界中の猛者達で行われる最大トーナメントで、見事優勝を飾った弱冠十七歳の少年、範馬刃牙だ。

「別に銀さんじゃなくてもいいんだけど……でも銀さん強ぇだろうしなァ……」
強き者との戦いを何よりも好む刃牙は、以前共に行動していた坂田銀時を探していた。
口では弱いと言えども刃牙は戦士の本能とでも言おうか、直感的にこの男は出来る!と 感じ、
自分に支給されたソードサムライⅩを譲り、彼との闘いを期待していた。
結局その時は半ば強引に銀時に押し切られ、闘う事は叶わなく極めて残念な結果に終わったが。
そして刃牙が闘いを希望する者はもう一人居る。

「あと零が言ってた覚悟って人も居たなァ……あの時の啖呵、凄ぇよなァ……」
依然自分の支給品として共に行動していた鞄、強化外骨格零の本来の着装者であり、徳川光成に対して宣戦布告を行った少年、葉隠覚悟だ。
零の話によると自分と似たような境遇であり、更にかなりの腕前であるという。
銀時や覚悟の戦いを想像するだけで身体の奥底から興奮が湧き上がるのを感じ、頭上に広がる蒼い空を不自然にニヤついた表情で見上げる。
だが、今刃牙にとって強き者との闘争は最優先事項ではない。
そう今刃牙の額には人体にとって紛れも無い不純物……肉の芽が存在している。

「けどさっさと死体を用意しないと……俺がぶちまけちまったDIO様の血を補充するためにもなァ」
DIO様は自分に新しい力を与えてくれると力強く言った。
そのために自分が太陽が昇っている間は外に出れないDIO様の手足となって、彼の食料である人間や死体を彼の元に持っていく事になっている。
DIO様のためにも働く事が出来て、自分が強敵と戦える可能性もあり、更には褒美として更にあのDIO様から新たな力を授けてくれる……
言うなれば一石三鳥と言ったところか。
こんなうまい話はそうそうない。
不気味に感じる程の幸運に酔いしれながら刃牙は南下しようとするが……
その時横の方向から何か小さい音が聞こえてくるのを感じ、彼は頭をその方向に向ける。
そして数秒後彼の視界には一輪の花火が大空に舞った絵が飛び込んできた。

「へぇー……なかなか粋な事をする人も居るもんだなァ」
思わず立ち止まり刃牙は考える。
火がないところに煙はたたない。
人が居ないところには花火は昇らない。
そしてあんな自分の居場所をみすみすと知らせるような真似をするのは知能も力もない只の馬鹿、
そして……あんな事をやりそうなタイプの人間はもう一つある。

「そんなに闘いてぇなら俺が行ってやるよ……やろうぜぇ! 心が踊る闘いをさァ! 」
そう、もう一つは己の力に絶大な自信を持ち、自分から闘いの相手を求めるような相手を求めるタイプ。
刃牙は花火が見えたエリアD-2の方に向き直り、その方角にゆっくりと数歩歩み寄っていく。
そして……大地を砕くがごとくに勢い良く蹴り、歓喜の表情を浮かべながら刃牙は疾走した。
刃牙にとって何度でも貪る程甘く、それでいて何度貪っても決して飽きるという感情が涌くことがない『闘争』という果実を求めて。
◇  ◆  ◇

エリアD-3の七人がたった今見たものは、カズキが激情のあまり衝動的に揮ったサンライトハートにより放出されたエネルギーであった。
そしてその七人と刃牙が見た花火を打ち上げたのは――

「けっ! 流石に太陽が昇ってちゃああまりハッキリとは見えねぇなぁ」
範馬刃牙の父親であり、地上最強の生物の名を欲しいままに闘争を繰り返す男、範馬勇次郎である。
勇次郎は敵を新たな敵を求めるために、再び花火を打ち上げていた。
敵を求めて自分から各地を転々と動き回るのも良いが、それでは取るに足らない相手と遭遇する可能性も出てくる。
そう、数時間前に出会った眼鏡を掛けた闘う価値もない二人の小僧のような。
だがこの方法ならそれなりに己に自信を持った奴と会う可能性も出てくるだろう。
まぁ力もないくせに花火を打ち上げた者が助けを必要としている者と勘違いして、やって来る奴も居るかもしれないが。
そこまで考え勇次郎はペットボトルを一つ取り出す。
成人男性では二日は持たせる事が出来る程の水が入っているペットボトルを口に当て、ゴクリ、ゴクリと大きな音をたてて飲んでいき……
遂にはペッボトルの中身には何もなくなった。

「……足りねぇなぁ」
常人では考えられないよう量の水を一気に飲み、まだ水が足りないと勇次郎は言うのだろうか?
いや、もし水が足りないのならば新しいペットボトルを取り出し飲み干せばいい。
幸い勇次郎のデイパックには花山薫、津村斗貴子から奪ったためまだ同じ量のペットボトルが二本入っている。
だが勇次郎は新しいペットボトルを取り出しはせず、無造作に空のペットボトルを放り投げ叫ぶ。

「まだまだ足りねぇぞおぉぉぉぉぉ光成ぃぃぃぃぃ!!!
もっとだ!もっと俺に血を! 肉を! 命を見せて見やがれぇぇぇぇぇ!!! 」
そう、勇次郎が求めるのは水というものではなく闘争。
大空に向かって勇次郎の咆哮が響き渡る。
未だ見ぬ強敵との闘争を待ち望む猛獣のように。

◇  ◆  ◇