『不死王は星を見た、拳王は月を見た、そして帝王は……』◆YbPobpq0XY



同じ太陽が昇る中、同じ舞台で。
不死王は自ら光輝く星を見た。
拳王は自らを光り輝かせる月を見た。
そして帝王は……

☆   ☆   ☆
「アポロ11号か……フン、アホらしい」
列車の振動を身体に感じながら、DIOは手に持った雑誌の内容をつぶやく。
「月面など、そんなくだらん場所に行って何になると言うのだ……」
だってそうだろう?
ある物と言えば岩石とクレーターだけ、水はおろか空気すら無いゴミのような土地。
ウサギどころか、あらゆる生命体はあそこで生きる事など不可能だろう。
そんな所に人が立った所で何の意味があると言うのだ?
あるとすればせいぜい、誰も立っていない所に自分達は足を踏み入れたのだと言う自己満足……目クソほどの価値も無い。
そんなくだらない事に使う金があるのならば、カンボジアの貧民や砂漠の植林に使えばいいものを。
なのに何故それをしないのだか、DIOにはまるで理解ができない。
「だが………………」
窓の外に目をやれば、無機質なコンクリートに等間隔で設置された地下鉄証明の灯火が次々に流れていく。
暗闇の中を、切り裂くように流れていく光の塊は幻想的に美しく、また不気味で、まるで夜空に溢れる流星群のようだ。
彼らもこのような風景を見たのだろうか、はたして何を思ったのだろう? と、ふとDIOはそんな事を考えていた。
「…………人間も成長すると言う事か。アイツの言葉だったな」
それを含めて考えるならば、大切なのは月面着陸がどのような意味があるのかでは無く、それが人の心にどれほどの強さを与えたからなのだろうか?
もっともそんな事は吸血鬼と化してしまったDIOにとって、もはや考えても仕方の無い事なのだが……。
雑誌を座席の上において、踏ん反り返る。
ちなみにDIOが座っているのはシルバーシートだったりする(ある意味では間違っていないが)。
目を閉ればまぶたの裏に現れるのは、唯一尊敬の心を抱いた人間の顔。
肉体では圧倒的に上回っている自分を、心の強さで打ち破った男……先ほどの記事を見るとどうしてもソイツの事を思い出して仕方が無い。
考えてもみれば、長い永い人生の中でもっとも同じ時間を共有したのは彼なのだ。
思い出したのは今だが、彼の事が心からこぼれた事など一度も無い。
それだけは胸をはって言える事だ。

─────だ…

「…………?」
DIOの耳に、突然掠れた声が届いた。
その声は遠いようで近いようで、耳の奥から聞こえたようで、空からのようで……。
気のせいだろうか……?

─────れだ……

「!!」
いや、気のせいなどでは無い。
ずっと昔にも、DIOの鼓膜を震わしたのと同じ声だ……それが忘却の包みを解かれ、少しずつ浮上してくる。
そして先ほどから何かがおかしい事に気付く。
断続的に感じていた列車の揺れが全く感じられない。
目を開き辺りを見渡す。
「なァッ!?」
わずか数秒目を閉じた後に映ったのは、窓の外の流星群などでも無く、無論アポロ11号の記事でも無い。
(バカな……コレは? 一体?)
目の前の油が切れかけたランプに所々ヒビ割れた壁、自分が腰掛けているのはガタついたソファー……
周りを見渡せばそれは全て見覚えのある風景……そして────
「誰…だ? コソドロ野郎か……ゴホッゲホッ……」
ベッドの上に横たわり、咳き込んでいる中年の男。
「ゴホッ……ゴホ ゴホ。 言っとくが……ここ…………に金目の物はなんもねえぜ……」
そうだ……やはり…………。
ここは自分が暮らしていた掘っ立て小屋だ。
そしてコイツは……この男は……。
ディオは床のホコリを舞わせながらベッドへと歩みを寄せる。
男がDIOに気付いたらしい、その顔をこちらに向けてきた。
「ゴホッ……お…まえまさか…………ディオ! ディオじゃあねえ…か」
かつて自分が殺してやったはずの、何よりも誰よりも嫌悪してやまない実の父親……ダリオ・ブランドーがそこに居た。

「へ…へへ、ずいぶんと立派になったじゃあねーか……。実の息子によォ、会えて嬉しいぜ」
ヒヒヒとゲヒた笑みを浮かべる目の前の父親に、DIOは轢き殺されたドブガエルを見るような不快感が身体をかけめぐるのを感じた。
ここに居るだけで肺が腐敗する錯覚すらも覚える。
「おれは貴様の顔など二度と見たくは無かったがな」
そんな父親を鼻息を漏らしながら見下ろしてやる。
「それと、おれを息子などと呼ばない事だ……おれはすでにきさまを父親などとは思っていない」
「…………ディオ」
「フン、なんでこんな所に居るのかは分からないが……さっさと帰らせてもらうぞ。きさまはおれが頂点に立つ上で、何の意味も無い存在だからな」
「ディオ……変わっちまったな…………昔はこんなおれにもよォ……世話って奴をしてくれたほど、よく出来たガキだったってのに……」
ずいぶんと情け無い顔で、鳥肌が立つようなことを言ってくれる。
これがかつては飲んだくれては自分に暴力を振るった父親の姿なのか、と呆れを通り越して哀れにすら思えた。
「変わっただと?」
DIOの耳にその言葉だけが引っかかる。
数瞬悩んだ後、一つの食い違いに気付いた。
ああ…この男は、目の前にいる息子が自分を殺したのに気付いていないのだ、と。
さぞかしコイツにとって自分は良く出来た息子に見えた事だろう、と。
思わず笑みが口からこぼれそうになるのをこらえる。
全く……何という哀れ、どれほどこっけいなのだ、この男は。
──じゃあ、何も知らずにいるがいいさ
この男はこれから真実を知る事なく、この先も自分に感謝と贖罪を続けるのだろう。
そう思うと、母親の分をこの場で晴らしてやろうと言う気がどこかへ離散するのを感じた。
「別にどうだっていいだろう」
それだけ言って、DIOは踵を返す。
もうこんな所はどうでもいい。
「なぁ……ディオ」
これ以上何の用があると言うのだ?
足を止める事はせずに、ディオは扉へと歩みを進める。
なぜかそこを通ればもとの場所に戻れるという確信があった。
「おまえがどう思おうが……おれの息子だ。おれの血が流れている」
「…………言ったはずだ。おれはきさまなど、父親とは思っていないと。母を殺したきさまなど……」
扉を開け、忌まわしい空間から一歩を踏み出す。
「三度目は言わせるな」
これでもう二度とここに来る事は無いだろう。
ディオは後ろ手に扉を閉めた。

☆   ☆   ☆

気が付けば、DIOが立っているのはS7駅のホームだった。
放送を聞くためにコレまで一睡もしていなかったのだが、自分でも気付かないうちに疲れが溜まっていたのだろう。
S3駅で降りるはずが寝過ごしてしまった。
「………………」
振り向いてもそこに父親などいるはず無く、列車の扉が自分の降りるのを待っていたかのように空気が抜ける音と同時に閉じられるだけだった。
(ヒラガサイトはくたばったか……)
ラッパのような音と共に走り去ってゆく列車を背後に、舌打ちをしながら先ほどの放送を思い返す。
自分の手で殺せなかった事に関しては多少のガッカリと言うものはあるが、所詮はこのDIOを前に逃亡を選んだ小僧だ、そこまで惜しむ事でも無い。
デルフリンガーにこの事を伝えるのは後でいいだろう、それより今は確かめたい事がある。

付け替えた右腕の感度を確かめると、指の一本一本を違和感無く動かす事ができる。
この数時間でほぼ馴染んだと見ていいようだ。
これならば桂の時みたく、予想外の苦戦をする事は無いだろう。

おもむろにDIOは壁の前に立ち────
「────フン!!」
その拳を力いっぱい叩きつける。
コンクリートの壁がクレーターが出来上がり、中央から蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
場所をずらし、それを何度も繰り返す。
そのたびに地下鉄全体が振動し、壁のクレーターがどんどん増えていく。
10回ほど殴っただろうか?
平面な箇所が無くなってしまった壁から腕を放し、その手を見てみる。
────傷一つついていない。

この右腕は『前のよりイイ』……。
元の腕は失ったが、自分はソレ以上の物を手に入れたのだ。
ジョースター家などは自分に利用されるためだけの存在にすぎない、この体だって例外では無いのだ。
所詮使い捨て、アーカードの体を手に入れたならもう用済みだ。
そうだ……そのはず…………だ。

「ジョジョ……」
音の無い空間に、その声だけが充満して、そしてすぐに壁に染み込む。。
あんな夢を見たせいだろうか?
彼の名を口に出してみると、やけに変な気持ちになった。
今もDIOの心の中で生きているジョナサン・ジョースター、そしてDIOと彼は二人だけで一つの存在となっている。
そう、『使い捨てた』右腕を除いて……。
「………………フン」

夜にはまだ時間がある、横になるのに丁度いいベンチもプラットホームにある。
この際贅沢は言えないだろうと、DIOはベンチに横たわりその目を閉じた。
もう夢などを見る事が無いように祈りながら……


不死王が漆黒の闇の中に自らが輝く星を見た日……
拳王がひたすらな黒の中に自身を輝かせる月を見た時……
鉄格子の中で泥を見た帝王は眠りについた。

☆   ☆   ☆

────DIO……

…………

────DIO

誰だ…………?

────DIO!

君は…………、君か……驚いたね、今日はよく夢を見る日だ
君は…………、君か……驚いたね、今日はよく夢を見る日だ

────会いたかった

わたしも、だよ。 ハハ、ホラ抱きつくなって、苦しいよ

────…………もう二度と会えないのかと思ってた

そんな大げさ……いや、まさか…………まさか君も遠い世界に行ってしまった……のか?

────……今は何も言えないんだ。それと、わたしが君と会う時間も限られてるし、今の君を直接手助けはできないんだ……。

大丈夫だ。わたしは君に無理を望むつもりは無い……ただ、そうだな。
日没までまだ5時間以上ある、できるならそれまで……ヒマなんだ。何か無いかな? いい退屈しのぎは。

────そう言うと思ってね、本をいくつか持ってきたよ。何か読みたいものは?

きみが好きなものなら何でも。お勧めは?

────そうだね……『星の王子様』と言う本があるのだが…………

ああ、それなら名前だけは聞いた事があるな

────だが子供向けの本だ……いいのかな?

かまわないよ、わたしは君が読んでくれるならね

────ありがとう……じゃあ


夢というのも悪くない


【F-4 S7駅 1日目 日中】
【DIO@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:額に突き刺された傷(治療中) 睡眠中
[装備]:スタンド『世界』、デルフリンガー
[道具]:ダーツ(残弾数1)
    参加者顔写真&詳細プロフィール付き名簿。ルイズの杖。
    イングラムM10サブマシンガンの予備マガジン9。ライドル。
    スタングレネード×2。時計型麻酔銃(1/1)。麻酔銃の予備針8本。
    デイバック×4(DIO、桂、灰原、みゆき)
[思考]
基本:帝王に負けはない。参加者を殺し、ゲームに優勝する 。アーカードのボディを乗っ取り、太陽を克服する
0:『安心』とは、意外な所からやってくるものだ
1:夜になるまで地下で英気を養う。及び、地下鉄に乗りにやって来た参加者を各個撃破し体力を回復
2:デルフリンガーから平賀才人他の情報収集・デルフリンガーを用済み、又は障害と判断した場合破壊する。
3:アーカード打倒
4:ジョースター家を根絶やしにする
5:魔法使い・しろがね等の血に興味
6:ゲームを仕組んだ輩を断罪する
[備考]
ジャギの腕はほぼ馴染みました
アーカードとの戦闘で更に鬱憤が溜まりました。アーカードにはどんな手を使っても勝つつもりです
時を止められる時間は約3秒間です
首輪の他に、脳内に同様の爆弾が埋め込まれています
S5駅方面の列車は途中で地上に出ることを確認しました
刃牙との戦いで血を流したため、時止めはあと1~2回が限度です
デルフリンガーはコミックス2巻のフリッグの舞踏会の最中から召還されたようです。


132:絶対負けるもんか 投下順 134:スタートライン
132:絶対負けるもんか 時系列順 134:スタートライン
121:君には花を、いつも忘れないように DIO 139:幕間~それぞれの思い~