スタートライン ◆d4asqdtPw2



慣れないことはするもんじゃない。
才賀勝は肩で息をしながら思う。
いくら人形を操るために桁違いのトレーニングをこなしてきたと言っても、あくまで勝は小学生だ。
そんな小学生がしろがねの血多少を飲んだくらいでホムンクルスの足についていけるわけがない。
それでも勝は文句の一つも言わないでひたすら大地を蹴って進んでいく。
「……ッ!」
しろがねにつけられた両足の傷がズボンに擦れてヒリヒリと痛む。
その傷は、この少年が不幸な人生の中で受けた数々の傷に比べたらなんてことのない傷なのだろう。
だが勝にとってはどの傷よりも遥かに痛かった。
それが自分としろがねとの間に生まれてしまった心の距離を表しているように見えて。
それでも勝は走り続ける。この烙印が彼女を救うことでしか消すことが出来ないと知っているから。

「ぜひ、ぜひ……パ、パピヨン……待ってよー」
勝の後方で泉こなたが訴えている。かなり疲労しているのか、ふらふらと左右に揺れながら必死に前進しようとするが、思うように進まない。
勝ですらこのザマなのだ。運動神経が抜群とはいえ、普段からたいしたトレーニングも運動もしていない女子高生の追いつけるレベルではない。
だが、そこに泉こなたの責任など存在しない。彼女はただ彼女の日常を貪っていたにすぎない。
悪いのはそんな彼女をこんな殺人ゲームに招待した人間だ。
「おいパッピー待ってやれよー。こなたんフラフラだぜ?」
横の玉葱頭のキューピッド、エンゼル御前もこなたの頭上を旋回しながら訴える。

「おい泉、これでもかなり貴様らに合わせているつもりだぞ。あいつらは凄まじいスピードで移動している。
 このままではいつまで経っても追いつけん」
彼らが追っているのは2人のしろがねと自動人形に乗った男。
パピヨンですら本気で走って同じ速度といったところか。
大体の目的地は判明してはいるが、危険人物がいる可能性が高い以上、彼女たちがそこに留まっているとは考えにくい。
とは言いながらもパピヨンは振り返って立ち止まり、こなたを待ってやる。
別にパピヨンはこなたに優しく接しようとしているわけではない。
カズキにこなたを守ると約束した以上、あまり離れすぎてこなたを危険に晒すわけにはいかないからだろう。

「ゴメン……でもしろがねとか自動人形とかがこんなに速いなんて思わなかったからさ。ごめんよ勝くん、足手まといになっちゃって」
勝に数十秒遅れてパピヨンの元へ合流したこなた。地面にしゃがみ込んで2人に謝罪する。
大した努力などしなくても運動神経は常に自分がトップレベル。そんな世界で生きてきたこなたにとってこんな状況は初めてだろう。
「いや、いいんだ。僕が今走るべきだってのは、こなたが教えてくれたんだから」
さっきまで鋭い眼光を放ってひたすら走っていたはずの勝。彼がこなたに向ける目はとても穏やかだ。
もし、ここでこなたを置き去りにすればしろがねに会える確率はぐっと上がる。
だがそれで彼女を説得することが出来てもそんなのは勝が望む結末ではない。
誰かを足蹴にして得る幸せなんて認められない。そんなことをしたら誰も笑ってはくれないんだ。
勝は汗を拭い、顔を上げ、空を睨んで、……拳を強く握り締めた。

「はぁ……こんなときは、昔倒した敵なんかが助けに登場するのがお約束なんだけどなー」
未だに息を整えられないでいるこなたが呟く。
そんな間の抜けた一言に、勝も肩の力が抜けるのを感じた。
「えぇー……女の子なら『白馬の王子様』とかじゃないの?」
「勝くんはいつの時代の人間だね。今の時代にそんなこと言う女の子なんかいないよ」
こなたも一般的な女の子の基準からは大きく逸脱してはいるのだが。

そんなことを話していると、突然パピヨンが立ち上がって2人の会話を遮った。
「静かにしろ。何か来るぞ」

勝とこなたの耳に妙な音が聞こえてきたのは、そうパピヨンが告げた十数秒後のことだった。
ガキュキュキュキュと、なにか機械が軋むような音。
それに加えてドスドスと地面を叩く音。
「御前様はあたしの肩に乗ってて」
「おいっす! 了解だぜ」
殺し合いに乗っていないものだとすれば御前様がいると話がややこしくなる。
かといって危険人物の可能性もあるので武装解除はできない。
こうやってただの人形と思わせておけば相手の警戒心も薄れるだろう。
この足音らしき爆音から推定できる重量は明らかに人間のソレではない。
「自動人形? 来るッ!」
勝の叫び声に合わせ登場したのは太陽の光に照らされた大きな怪物。

……いや、怪物ではなく足の生えた大きな車であった。
「なかなかナイスな『白馬』じゃないか」
呆然とする勝とこなたをよそにパピヨンは嬉しそうな声でそう告げた。


◆     ◆     ◆


「子供2人に……変態が1人か。まさかあれが劉鳳か?」
逆十字号の運転席に座る白馬の王子様、愚地独歩が助手席の姫に尋ねる。
「おじさん……殴るわよ」
ふくれっ面の姫には既に意中の王子がいるようで。
王子……いや、よく見るとお世辞にも王子とは呼べない男、独歩は冗談冗談と笑いながらも眼下の3人を見定める。
「子供2人は十中八九殺し合いにはのってない。問題はあの男……嬢ちゃん、どう見る?」
「どうって、危ないロリコンにしか見えないわよ。ねぇ、無視して繁華街までいきましょ。ね?」
シェリスの顔は明らかに引きつっている。
パピヨンには悪いが、こんな見てくれの人物には関わりたくないと思うのが正常な思考回路を持った人間というものである。
もし彼が劉鳳と遭遇したのならば即効断罪の対象になっていたのではないか。
「いや、しかし奴が本当にロリコンだとしたらあの子供たちがかわいそうだろ。
 さっきの花火を上げたやつに襲われる可能性だってある。……実はそんなことをする人物に心当たりがあるんでな」
花火を上げたのは正にその人物なのだが、流石にその息子までが殺人鬼の手下に成り下がっているとは独歩も予想できなかった。
だけどぉ……と不満を漏らすシェリスをよそに独歩は3人をよく観察する。
1人は肩に人形を乗せた小学生らしき少女。初めて見るだろう奇怪な車を前にしても驚いた様子は見せず、気だるそうな目でこちらを見据えている。
その隣には少年。少女よりはやや大人びている。というよりその目はただの子供の眼ではない。未来を強く見据える眼だ。
そして問題のふざけた格好の男。バタフライマスクの奥の濁った瞳が、一切の眼球運動を拒絶して、ただただこちらを見つめている。

なるほど……ただの変態ロリコンと被害児童ってワケじゃあなさそうだ。

しばらく続いた異様な沈黙を切り裂いたのは、この場で最も急いでいる人物。才賀勝だ。
「すいません! 僕らは殺しあうつもりはありません! どうか降りてきて話を聞いていただけないでしょうか!」
「勝くん。危なくない? あのおじさんちょっと悪人面だよ」
こなたが勝に囁く。
パピヨンはよくて独歩はダメなその基準はなんなのだろうか。
「いや、殺し合いに乗っているなら真っ先に貴様らを踏み潰しにかかるはずだ。時間も惜しい。交渉するぞ」
この接触でかなり時間もロスしてしまっている。あの車ならば普通の乗用車より機動力は高いと見える。
彼らと交渉したときの期待値はパピヨンが初見で思った以上に高くなっていた。

「だってさ。おじさん、どうすんの?」
「……降りてみるか」
このまま誰にも合わないまま行動したところで何も成すことは出来ない。
だったらリスクを背負ってでも接触するべきだ。幸いさっきよりはそれほど危険人物には見えない。
「まぁいいけどさ、これどうやって降りるの?」
「そりゃあおめえ……このボタンを押してだな……オオゥッ!!」
そういえば前回ホテルで停車したときには逆十字号の足を出してはいなかった。
だから普通の車として停車すればよかった。だが今回はそうはいかない。
独歩がボタンを押した瞬間、まるで巨人がお辞儀をするかのように車体が前に傾いた。
そしてそのまま地面へと激突する。
「きゃっ!」
「危ない!」
助手席から吹き飛ばされたシェリスに勝がダイブして助ける。
地面に激突する前に、シェリスの体は勝の腕に収まった。
「大丈夫ですか?」
「あ……ありがと……えへへ」
お礼を言いながらもシェリスは、小学生でも抱えられるほど自分はスリムなんだ、と内心嬉しがっていた。
それにしてもこの少年、小学生なのにかなりの身のこなしだ。
「お゙お゙ぃ……こっちも誰か助けてくれよ」
一方で独歩は顎を大地に擦りつけ、海老反りの体勢になっていた。
そんな独歩をこなたとパピヨンは冷ややかな眼で見つめている。

「んしょ……っと。えっと……」
勝の腕から降りたシェリスが何か話を振ろうとしたのだが

『気分はどうかの諸君?』

2回目の放送、死者を告げる老人の声が響いた。


◆     ◆     ◆


ガキュキュキュ……と機械音を撒き散らしながら走るのは逆十字号。
運転席に座るのは独歩、その隣にはパピヨン、そして後ろの荷台に残りの3人が座っている。
偶然にも先ほどの放送で全員が知り合いを1人ずつ呼ばれていた。のにも拘らず、全員が大したショックを受けていないように見える。
流石に名前を呼ばれた直後はそれなりに驚いたりもしていたのだが、その後は淡々と生きている知り合いのことや、殺し合いが開始してからここに至るまでの経緯などを話し合って終わりだ。
ちなみにエンゼル御前はカズキの名前が呼ばれてからギャーギャー騒ぎ出したので武装解除させられていた。

「……みんな、知り合いが死んで大丈夫なの? 僕の知ってる人は……最低で身勝手で危険なヤツだったからむしろ良かったと思ってるけど」
そんな5人を見て勝が尋ねる。
知り合いの話を聞く限りでは他の4人の知り合いは悪い人間じゃない。
そんな人たちの死をあっさりと流せるのが勝には納得いかなかった。
「あー……花山ってやつぁ長生きできるような男じゃねぇのよ。これでも長生きした方さな」
間髪入れずに答えたのは独歩。運転に集中しているのか、勝の方を見ることなく答える。
「そうね、カズマも同じ。劉鳳はショックを受けるだろうけど、あたしはなんとなく予想してたわよ」
シェリスが続く。
花山もカズマも決して弱くない。いや彼らの知り合いの中ではトップレベルの強さだろう。
だが、彼らは生き残ることに固執しない。どこかで死んでいるのではないかと独歩もシェリスも薄々感じていた。
尤も、生存以上に大事なものがあるというのは劉鳳も同じなのだが。
「そうなんだ……」
そう言われても勝は納得出来ないでいた。
鳴海も長生きできるようなタイプでは決してないが、いざ彼が死んだときに自分はその死をあっさり受け入れることなど出来そうもない。
「パピヨンさんは? カズキさんとの戦いを楽しみにしてたんじゃ……」
おそるおそるパピヨンに尋ねる。
この男ならば老人の言っていた『願いを叶える権利』のためにゲームに乗っていてもおかしくはない。
下手に刺激してしまっては危ないが……勝は納得が出来る答えが欲しかった。
「フン。確かに武藤が死んだのは残念だが、嘆いても仕方ないだろ。その『願いを叶える』ってのもどう考えても嘘だ」
勝のほうを振り返り、鋭く尖った歯をむき出しにして告げる。
「それならば主催者を殺すことに専念するべきだ。そして『俺が帰るべき時間の武藤カズキ』はまだ存在している。
 もし今回の武藤の死によって『俺のいた時代の武藤カズキ』に影響が出てしまっているのなら、主催者の『時間を移動する方法』を奪い取ってしまえばよい」
「はぁ……なるほど……」
冷静に考えてるんだな、と勝は素直に感心する。
だが言われてみればそうだ。主催者が願いを叶えてくれるはずがない。
叶えるつもりだったのなら最初から希望者を募って殺し合いをさせればいい。
何らかの目的のために、強制的に殺し合わせるこの状況で参加者の望みを叶えるメリットなど主催者には皆無だ。
しかしタイムマシンを奪うとは、ぶっ飛んだ発想である。
パピヨンのような知識と戦闘力を兼ね備えた人物がこの殺人システムの破壊に本気になってくれるのは心強いが。
「だが、あの女はそこまで思考が回るとは思えんがな」
あの女とは津村斗貴子のことであろう。
その女の人のことは知らないけど、愛する人のために殺し合いに乗ったのなら絶対止めなくてはならない。
しろがねが殺し合いに乗ったら自分はつらいなんてもんじゃない。
カズキって人もそんな気持ちなのだろうから。

「あたしはね……」

ふいに喋りだしたのは泉こなた。
「あたしはね、まだ信じられないんだ。あの爺さんが名前を読んだだけで……みゆきさんが死んだことになったのが、さ。
 多分本当にみゆきさんは死んじゃったんだろうけど、上手くそのことが認識できてないんだよね……まだあたしは殺し合いらしい殺し合いにも遭遇してないしさ。
 だからいつかその死が事実なんだって分かったときが来たら、そのときに凄い傷つくんだと思う。
 でもそれはそのときの『悲しみ』。今そのときのことを心配してもしょうがないと思うんだ」
荷台に寝そべり、空を見上げて話すこなたの目は酷く空っぽだった。

勝にとってはパピヨン以上に意外な答えだ。それと同時に聞いてみると最も納得できる答えだった。
こなたは自分が精神的にも強くないことを分かっているのだろう。だからこそ、その弱さをありのままに受け入れることが出来る。
こなたがリアルに直面して、もしそのとき彼女が絶望したら自分が救ってあげよう。

勝はここで様々な意見に触れ、また1つ絶望に立ち向かう決心を固めるのだった。

その後は誰も口を開くことなく、逆十字号の足音と心地よい風の音だけが響き渡っていた。


◆     ◆     ◆


「……着いたぞ。駅だ」
「……誰もいませんね」
花火の打ち上げられたポイントである駅についたのだが、人がいる気配すらない。
使用済みの打ち上げ花火が捨てられているのだから発射地点はここで間違いないようだ。
「あの車は結構な足音だったはずだ。それに気づかないとなると……花火を上げた本人か、それに釣られてきたやつと戦闘になったと見て間違いないな」
パピヨンがつまらなそうに吐き捨てる。
「え?! じゃあ早く探しに行かないと」
勝の顔に焦りが浮かんだ。
こうなってしまった以上、一刻も早くしろがねたちと合流しなくては。
真実を伝えることすら出来なくなった後で後悔しても遅いのだから。

「ゴメン……あたしここに残るよ」
張り詰めた空気の中で、こなたの伸びやかな声が妙に美しく響いた。
「どうやらかがみ達はいないみたいだし、戦闘になったんだったらあたしは足手まといだからさ」
もし自分がついて来なかったのなら……しろがねが去る前にここに辿り着けたかもしれない。
それに今自分が殺し合いの場面に遭遇したら、高良みゆきの死をリアルとして感じ取ってしまう。
「だからみんなはしろがねさんを探してきてよ。見つかったらちゃんと迎えに来てね」
気だるそうな目はいつも通りだが、その声は明らかに震えていた。
一人で待つなんて怖いに決まってる。
だが自分を守るために誰かを残せばそれだけ戦力が減る。一人で待つくらい、自分にだってできるはずだ。

「そんな……危ないよ! 一人でなんて」
しかし勝がそんなこと許すはずが無い。
ここでこなたを置き去りにして、自分だけが目的を果たす。そんな選択肢は最初から存在していない。

「そうだな……俺も残ろう」
「パピヨンさん?」
「武藤が死んで状況が大きく変わったからな。主催者を叩き潰すことに全力を注ぐ必要が出てきた。
 ひとまず落ち着いて考えたいことがある。それに、しろがねという女は俺のことを嫌っているようだしな」
軽やかにそう告げるとパピヨンはこなたとシェリスを両脇に抱えて逆十字号から飛び降りた。
「ちょ……なんであたしまで!」
「貴様のアルターとやらについて聞きたいことがある。おい、独歩と言ったか! この娘は借りていくぞ!」
バタバタと両手足を振って暴れるシェリスを押さえつけ、パピヨンが独歩に叫ぶ。
「おうよ、丁寧に扱えよ!」
「ちょっとおじさんまで……」
パピヨンの腕から脱出して文句を言おうとしたシェリスを待つことなく、逆十字号はガキュンガキュンと駆け出していった。
後に残った沈黙の中、隣に立つ男の衣装を見て溜め息を吐くシェリスであった。


◆     ◆     ◆


「すいません、ここまで付き合わせてしまって」
助手席に移動した勝が独歩に謝罪する。
「いいってことよ。それに……花火を上げたのが勇次郎のやつだったら大変だからな」
ありがとうございます、と勝が呟いた後しばらくは沈黙が逆十字号を支配した。

「……フェイスレス、だったか?」
「え? いきなりどうしたんですか?」
「いや、さっき危険なやつだから死んでよかったって言ったよな?
 だが、おめぇさんの顔はそうは見えなかったぞ」
「そう……ですか」
そしてまた訪れる沈黙。
その沈黙は、今の勝はその質問に対する答えを持ち合わせていない、ということを表していた。

「まぁ、いいってことよ。……あぁそうそう、おめぇさんは人形を操るのが上手いんだったな」
右手をデイパックに突っ込みながら、独歩がそう言った。
中から血に染まった2枚の紙を取り出すと逆十字号を一旦停止して勝に見せる。
「シェリスの嬢ちゃんに会ったときに血で汚れちまったが、確か……こっちが馬だ」
馬? 渡された方の紙を見ると血で汚れてはいるが『黒王号』と書いてあるのが分かる。
説明書も汚れて見づらいが、どうやら馬が入っているらしい。
「全く同じ人間に車と馬を支給するたぁな。もっとバランス考えろってんだ。
 それと……こっちだこっち。この『じどうにんぎょう』ってのはお前さんのものか?」
「な……自動人形だって!?」
渡された紙を見ると、血で汚れた中に微かに『自動人形』の文字が見える。
だが先ほどの紙より汚れが酷く、それ以外の文字は一切確認できない。
「おーとまーた? なんだそりゃ?」
勝から紙を取り上げ、説明書を読むがやはり『自動人形』以外の文字は全く読み取れない。
「あぁ! 絶対に開けちゃダメです! 危険なやつがでてくるかもしれません」
普通に考えれば『支給品』なのだからグリポンのようなサポートタイプか、自動人形の使っていた武器などが入っていると考えられる。
主催者もわざわざ参加者になり得るものを支給品として出してくるとは思えない。
だが万が一にでも危険な自動人形が出てきたらやっかいだ。今はそんなことに時間を費やしている場合じゃない。
「おぅ分かった。この2枚はしまって置くとするか……お前さんの道具はなんでぃ?」
再び逆十字号を発進させながら勝に尋ねる。
「僕は今はこの携帯電話だけです。『アミバ』って人に繋がるらしいけど……」
「アミバか……ケンシロウのやつが言うには女子供も喜んで殺す外道らしい。今は下手に接触するべきじゃねぇな」
そう言われ勝は慌てて携帯をしまう。
「さぁ、とっととしろがねの嬢ちゃんを見つけて帰りますかぃ」
「……はい!」
2人は知らない。このアミバがシェリスの探している劉鳳と行動を共にしている事を。パピヨンの捜し求めている核鉄を所有している事を。
そして彼が自分たちと同じく、この殺し合いの破壊のために動いている事を。


◆     ◆     ◆


一方、駅に残った3人は特に会話もしないでそれぞれの時間を過ごしていた。
そのままどれだけの時間が経った後だろうか、パピヨンがシェリスに近寄った。
「……気は変わったか。シェリスとやら」
こなたに聞こえないように小声で囁く。
「は? 何のことよ?」
勝手に居残り組みにさせられてシェリスは相当不機嫌なようだ。
パピヨンに目を合わせようともせずにぶっきらぼうに答える。

「何のこと、だと? 貴様、殺し合いに乗っていただろ。貴様はまだあの老人の戯言を信用しているのか? と聞いているのだ。」
「なっ……! なんで……」
シェリスの目が大きく見開かれ、汗がどっと噴出した。
心臓の鼓動が加速していく。
どうしてバレた。まだ大した行動すら起こしていないはずなのに。
「やはりそうか。貴様が劉鳳とやらの話をしていたときの雰囲気から大方予想はしていたが、今の反応で完全に確信した。
 シェリス・アジャーニ、……貴様は殺し合いに乗っている」
「……」
……やられた。
せっかく決心したのに。せっかく愚地独歩の信頼を得たのに。
それなのに、こうもあっさり見破られるなんて思ってもいなかった。
「それで……あたしを殺すの?」
懐のナイフに手をやるが、相手はホムンクルス。どう考えてもナイフ1本じゃあ相手にならない。
どうする、……逃げるか。いや、自分の足ではこの男からは逃げ切れない。
一瞬の間に思考をフル回転させるが、どう転んでも勝機は無い。このままでは自分は……。
(劉鳳にも合えないままこんなところで死ぬなんて……そんなの……)

冷や汗まみれで身構えるシェリス。彼女をパピヨンの濁った眼が射抜き、その曲がった口が彼女に宣告する。
「いや、別に」
「……は?」
どうやら事態は彼女が想定していない方へと転がり始めたらしい。
「だから別に貴様を殺すつもりはない。そのつもりならとっくに貴様の死体がそこらへんに転がっている」
「だったらなんで……」
分からない。
この男が理解できない。
その思考も、目的も、美的感覚も全く自分とはずれている。
「脱出に協力しろ」 
いや、歪んでいるといったほうが適当だろうか。
「貴様は自覚していないかもしれんが、貴様のアルターはかなり重宝する。
 他人のエネルギーを制御する力……戦闘や、もしかしたら脱出にも役立つかもしれん」
「…………」
脱出に協力しろ? いままで殺し合いに乗った人間に?
(罠……? でも、そんなことをするメリットが無いわね)
じゃあ本気でこの男は自分を脱出計画へと誘っているのか。

「まぁ、貴様に選択肢なぞ残されてはいないがな」
……そうだ。これを拒んだら殺される。だったら迷う意味などはない。
もとより自分が優勝できるなんて思ってはいない。脱出が可能ならこの上ないことだ。
それならば今はどうするべきか、考えろ。
自分が今すべき事は、自分に有利なようにこの交渉を進めること。
「いいわ、協力してあげる。……その代わり条件があるわ」
「貴様に選択肢はないと言っているのだがな……なんだ言ってみろ」
「私が殺し合いに乗っていたということは誰にも言わないこと」
「そんなことか、協力するなら当然だ。約束しよう」

「それともう一つ、こっちの方が重要な事」
脱出作戦が上手くいくならそれは素晴らしいことだ。
だがシェリスにとってはそれ以上に重要なのが劉鳳との再開。
彼が死んでしまったなどということがあっては脱出に成功したとて全く意味が無い。
「足を引っ張るような一般人は……殺させてもらうわ」
一般人がいれば、ましてや保護する人間がいれば行動範囲は恐ろしく狭くなる。
その人物のために貴重な武器を消費するなんて馬鹿げている。
そんなことで時間をロスするなら……そんな雑草は刈り取ってしまえばいい。
そしてこの男もおそらくは弱者のことなど考えてはいないはず。

「……いいだろう、勝手に殺せ。ただし泉は殺すな。あれはあれで役に立つ」
そうは見えないが。いや、ここらへんで納得しておくのが得策か……。
このバトルロワイアルが始まってから、シェリス・アジャーニの思考回路は大きく作り変えられていた。
自分が、劉鳳がいつ死んでもおかしくない。この状況は彼女を焦らせる。
彼女の脳は、自分の目的を迅速かつ確実に達成することだけを考え始めていた。

「ん? どーしたの2人とも」
泉こなたが近づいてきた。
たった今、この2人の間で命を賭けたやりとりが展開されていたことなど、彼女は知ることは無いだろう。
たった今、自分の命も狙われかけたことなど、彼女は知ることはないだろう。
シェリス・アジャーニが誰かを殺すかもしれないことも、泉こなたは知ることは無いだろう。

「ん? なんでもないよ、こなたちゃん」
ただシェリスの笑顔がぎこちないことだけは……彼女はちゃんと気づいていた。

【D-2 駅前 一日目 日中】

【パピヨン@武装錬金】
[状態]:健康
[装備]:猫草inランドセル@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:首輪を外し『元の世界の武藤カズキ』と決着をつける。
1:勝と独歩を待ちつつ首輪などの考察をする。
2:シェリスの殺人は一般人に限り黙認する。殺し合いに乗っていたことも他言しない。
3:エレオノールを警戒しておく。
4:核鉄の謎を解く。
5:二アデスハピネスを手に入れる。
[備考]
※参戦時期はヴィクター戦、カズキに白い核鉄を渡した直後です
※スタンド、矢の存在に興味を持っています。
※猫草の『ストレイ・キャット』は、他の参加者のスタンドと
同様に制限を受けているものと思われます
※エレオノール、鳴海に不信感(度合いはエレオノール>鳴海)
※独歩・シェリスと情報交換をしました。

【シェリス・アジャーニ@スクライド】
[状態]:健康 
[装備]:光の剣(ただのナイフ)@BATTLE ROYALE、ホテルの従業員の服
[道具]:支給品一式
[思考・状況]
基本:劉鳳に会って脱出。
1:独歩と合流後、パピヨンの脱出に協力する。
2:劉鳳を探す。
3:足手まといだと判断した一般人は誰にも気づかれないように殺す。(こなたは殺さない)
4:平次、タバサ(両方とも名前は知らない)は殺人鬼という情報を流す。
[参戦時期]
劉鳳と同時期
[備考]
※タバサのマント@ゼロの使い魔 はホテルの脱衣所に放置、内側は血だらけです。
※アプライド=サック=アップについて。
触れた相手のアルターを吸収する能力。シェリス単独で使用可能とします。
アルター以外の特殊能力(スタンド、魔法など)にも吸収の効果は及びますが、能力などの制限は不明とします。
※パピヨン・勝・こなたと情報交換をしました。

【泉こなた@らき☆すた】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、フレイム・ボール@ゼロの使い魔(紙状態)んまい棒@銀魂、エンゼル御前@武装錬金
綾崎ハヤテの女装時の服@ハヤテのごとく
[思考・状況]
基本:みんなで力を合わせ首輪を外し脱出 。
1:勝と独歩と合流後、喫茶店に戻る。
2:かがみ、つかさを探して携帯を借りて家に電話。
[備考]
※エンゼル御前は、使用者から十メートル以上離れられません。
それ以上離れると、自動的に核鉄に戻ります。
※独歩・シェリスと情報交換をしました。
※みゆきの死をいまいち実感していません

【E-2 北西部 一日目 日中】

【愚地独歩@グラップラー刃牙】
[状態]:健康
[装備]:逆十字号@覚悟のススメ、キツめのスーツ
[道具]:支給品一式、黒王号@北斗の拳、不明@からくりサーカス
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない、乗った相手には容赦しない。
1:しろがね、花火を上げた人物を探す。
2:その後、駅に戻ってシェリスと合流。そのままシェリスの服を見立てる為に繁華街に行って、服を探す。
2:アミバ・ラオウ・勇次郎・ジグマール・平次(名前は知らない)と接触、戦闘。
3:乗っていない人間にケンシロウ・上記の人間・タバサ(名前は知らない、女なので戦わない)の情報を伝える。
4:シェリスとともに劉鳳を探す。
[備考]
※逆十字号に乗っている場合、移動速度は徒歩より速いです。
※パピヨン・勝・こなたと情報交換をしました。
※不明@からくりサーカス
『自動人形』の文字のみ確認できます。
中身は不明ですが、自立行動可能かつ戦闘可能な『参加者になり得るもの』は入っていません。

[参戦時期]
地下トーナメント後、死刑囚前。

【才賀勝@からくりサーカス】
[状態]:両足の脹脛に一つずつ切り傷。軽傷のため行動に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、書き込んだ名簿、携帯電話(電話帳機能にアミバの番号あり)
[思考・状況]
基本:殺し合いには乗らない
1:しろがねに真実を告げるため、しろがねを探す。
2:しろがねが殺し合いに乗るなら、全力で止める。
3:その後、駅に戻ってパピヨンたちと合流して喫茶店に戻る。
4:乗っていない人を探して味方にする。
5:みんなで脱出する。
6:フェイスレスの死に複雑。
7:アミバ・勇次郎・ジグマール・平次(名前は知らない)・タバサ(名前は知らない)に警戒。
[備考]
※勝は鳴海が自分のことを覚えていないということを感じましたが、同姓同名の別人ではないと思っています。
※独歩・シェリスと情報交換をしました。


133:『不死王は星を見た、拳王は月を見た、そして帝王は……』 投下順 135:ありったけの憎しみを胸に
133:『不死王は星を見た、拳王は月を見た、そして帝王は……』 時系列順 137:漫画キャラバトルロワイアル0点・家出編
118:未来の僕。過去のあなた。 泉こなた 144:らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常
118:未来の僕。過去のあなた。 才賀勝 146:更なる舞台(ステージ)へ
118:未来の僕。過去のあなた。 パピヨン 144:らき☆すた 第X話 あるいはこんな日常
115:LOVEサバイバー 愚地独歩146: 更なる舞台(ステージ)へ
115:LOVEサバイバー シェリス・アジャーニ 152:【裏】貴重な貴重なサービスシーン