遥かなる正義にかけて(中編) ◆3OcZUGDYUo



「やっぱボコったらなんとかなるもんやな~。っと、もうすぐ変電所が見えてくるハズやな」

ほんの数分前、アミバが走り去っていた後直ぐに服部は突然調子が悪くなったバイクを動かそうと試みた。
だが現実は非情であり、どうやってもバイクは動こうとはしない。
よって、おもいっきり蹴りを叩き込む事によって、服部はなんとかバイクを動かす事に成功していた。
やはり所詮此処で調達した品で拵えたものだったから、うまくはいかないのか?
そんな事を思いながら服部はバイクを走らせ続ける。

「おっ! よおータバサ、劉鳳――――――――って何やってんのや!?」

背中を向けて前方を向いていたタバサと劉鳳に声を掛け、自分の存在をアピールしようとした服部。
だが、彼らの前方で行われている現状に服部は驚愕する。
そこには赤いコートを着た見慣れない男、アーカード。
全く同じではあるが、片方はボロボロな状態になっている白銀のコートを纏った二人の男、ブラボーとアミバ。
そして巨大な尾を持ち、縦横無尽に飛行する銀色のアルター、劉鳳が操る真・絶影が熾烈な闘いを繰り広げていた。
だが、そんな時ブラボーの怒声が上がる。

「アミバ! 俺にシルバースキンを貸せ! それは元々俺のもの! 俺の方がうまく扱える!」
「確かにこれは元々お前のものらしいな……だが断る! これはカズマが命を挺してある男から奪ったもの!
これは譲ってやるわけにはいかん!」

ブラボーと闘った時より機敏な動きで、繰り出されるアーカードの打撃を避わしながらブラボーとアミバは言い争う。
やはり核鉄の謎についてブラボーは知りたかったが、結局アミバに聞いた情報からはよくわからなかった。
只、核鉄で発動する武装錬金は、何故か固定されている事がわかっただけだ。
よってブラボーが、アミバにシリアルナンバーLXI (61)の核鉄を譲って貰ってもシルバースキンは発動しない。
シルバースキンはブラボーにとってどんな武器よりも、有用でなんとしても手に入れたい代物。
そのためアミバにシルバースキンを返還するように促すが、それをアミバが拒否しているのだ。

「アミバ! 貴様……どういうつもりだ!?」
「貴様の意見など聞いていないぞ劉鳳!」
「何ッ! 貴様ぁ!!」
「この核鉄は言うなれば俺の反逆の証! 軽くはないのだ!!」

劉鳳の言葉にアミバは必要以上に反応し、同様に劉鳳も必要以上に反応する。
二人とも数時間前の衝突の事を根に持っているのだろう。
今にもあの時のように闘いを繰り広げてしまうかもしれない状況。
杖がないため、この状況では碌に闘う事が出来ない、タバサは思わず心配を隠せない。
今まで捜し求めていたものを返せと言った事を完全に拒否されたブラボーも表情は険しく、
力づくでも取り返そうかという考えも伺える程だ。
またこの場に居る人物共通の敵であるアーカードは、不敵な笑みを浮かべ、拳や蹴りによる強烈な打撃。
柊かがみから奪った、フェイファーツェリザカによる銃撃を続けている。
そしてたった今この場にやってきた服部は――

「なにやっとんじゃあーーーーーおのれらはぁぁぁ!!」

取り敢えずありったけの声で叫ぶ事にした。

「「「服部!?」」」

服部の大声と共に、彼が到着していた事に驚いた劉鳳、アミバ、タバサまでも声の大きさに違いはあれども声を上げる。
服部の名を知らないブラボーは只唖然とした表情をし、アーカードは依然笑ったまま動作を止め、服部に視線を向けていた。

「オレらは仲間やろ!? ほんならなんでそんなオレらが言い争ってるんや!
そんなヒマがあるんなら……さっさとそのケッタイなおっさんを止める事が先やろがぁぁぁ!!」

そう言って服部は本来の世界でマーティン・ジグマールが使用していたスーパー光線銃を取り出し、アーカードに向かって引き金を引く。
未だ人を殺す決断が出来ていない服部はアーカードの足を狙い、アーカードの動きを封じようとする。
だが、所詮服部は銃器の使用に関して、アーカードのような存在と較べればズブの素人。
アーカードの足に直撃する前に、地面に当たり無駄に終わってしまう。
その服部の様子を見てアーカードは口を開く。

「ククク、服部と言ったか!? 一見何も力がない只の餓鬼がここまで言い切れるとはな!
さぁ劉鳳! キャプテン・ブラボー! アミバ! 貴様達はこの餓鬼を見てどう足掻く!? お喋りの時間はもうお終いだ!!」

今のアーカードは気分も良く、身体の状態もとても良好だった。
何故ならアーカードは瓦礫に埋まっていた間、散のデイパックから取り出した紙を開き、
出現した輸血パックにより充分な血液を補充していたからだ。
そんな服部とアーカードの言葉を聞き、劉鳳、ブラボー、アミバは俯くが――直ぐに顔を上げ、
ブラボーとアミバは劉鳳、タバサ、服部の元へ跳びアーカードの方へ向ける。

「すまん服部……俺達は大事な事を忘れていたようだ……」

そう言って劉鳳は左腕をタバサ、服部の方へ向ける。
アーカードの全ての攻撃から守ってみせると誇示するかのように。

「そうだ……今俺達がやるべき事は確かに言い争う事ではない……」

そう言ってブラボーは腰を落とし構えを整える。
アーカードに対して渾身の一撃を叩きこむと威嚇しているかのように。

「今は只俺達が……やるべき事、貫く事は……」

そう言ってアミバは一瞬両目を閉じる。
アーカードに対してかけがえのない仲間達と共に、対峙出来るきっかけを作ってくれたカズマに礼を送るかのように。

「ほう? それで何をすると言うのだ貴様達は!?」
「「「貴様を倒す事だ! アーカード!!」」」

刹那。
真・絶影がアーカードに圧倒的な速度で突撃する――その背中にブラボーとアミバが飛び乗る。
二人の仲間を乗せたまま高速で右へ、左へ、軌道を揺らしながら、飛翔する真・絶影。
その速度は今までの闘いの中で見せたそれよりも、群を抜いて速い。
一直線にアーカードの元へ、一閃の風となりてアーカードの元へ殺到する。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁ! 流星! ブラボー脚!!」

フェイファーツェリザカから放たれた銃弾を回避した真・絶影から、叫び声を上げながら飛び降りるブラボー。
ブラボーがブラボー技(アーツ)13の内の1つの名を力強く叫び、アーカードに向けて強烈な蹴りを繰り出す。
高高度から繰り出される、鋭さを伴った圧倒的な飛び蹴り。
目前の悪であるアーカードを打ち倒すために、ブラボーが宙を舞う。

「グッ! やってくれるなキャプテン・ブラボー!」

アーカードの鳩尾に、斜め上方向から飛び込まれたブラボー脚がブチ込まれる。
肉が千切れていくのを感じるが、アーカードはすぐさま左腕で、同様にブラボーの腹に拳を叩き込む。
生み出された衝撃により、ブラボーの身体を遥か後方へ容赦無く吹っ飛ばす。
だがそんな一動作を終えたばかりのアーカードは未だ気を抜く事は許されない。

「劉鳳! 絶影の動きを俺に合わせろ!」
「やってみせろアミバ!」

そう言ってアミバも高速で動く真・絶影から飛び降りる――だが、アーカードに向かってではない。
アーカードが位置する場所より左後方に向かって、アミバは飛び降りる。
そしてアミバを降ろした事により、更に速度を増した真・絶影が高速で撹乱。
アーカードを撹乱しながらアミバが目指す位置へ向かう。
訝しげにアミバと真・絶影の動きを追うアーカードだったが、劉鳳とアミバが逃げるわけはないと確信している。
先程から、自分を倒そうと躍起になっている二人がこのまま逃げるはずもない。
そのため、二人の動きを警戒をするが、アーカードのその動作は一足遅かった。

「くらえ! 鷹爪三角脚!!」

飛び降りたアミバと真・絶影の位置が重なり、アミバが吼える。
予め移動していた真・絶影の身体を蹴り飛ばす事による反発力を利用した、飛び蹴り。
俗に言う三角蹴りを今まさに、迎撃のため振り向こうとしているアーカードに向けて繰り出す。

「グフッ! しかしそれでは心臓をくれてはやれんな!」

だが、アーカードはアミバの動きを追っていたため、アミバの狙っていた背中には鷹爪三角脚が叩き込まれない。
狙いは外れ、代わりにアーカードの右肩に叩き込まれる結果となる。
その衝撃に、思わず取り落とされ、地面に落ちるフェイファーツェリザカ。
しかし、アーカードは即座に身体を左方向に回転し、空いた左の裏拳をそのままアミバの腹に叩き込む。
シルバースキンの能力でダメージは無いが、あまりに強い拳の勢いにより地面に叩き落されるアミバ。
それを確認した後、即座にアーカードはフェイファーツェリザカを拾い上げる。
だがその拾い上げるという動作で一瞬アーカードは見失ってしまう――依然飛行を続けている真・絶影を。

「アーカード!貴様ぁ!!」

劉鳳の怒声と共に、真・絶影の蛇のような巨大な尾が、しなりを帯びながらアーカードの頭部を打ち付ける。
襲い掛かる衝撃を無視し、アーカードもお返しと言わんばかりに拳を揮う。
その拳から逃れるため、真・絶影はアーカードから一旦距離を取ろうと上昇し、離脱。
だが、アーカードは咄嗟にフェイファーツェリザカを手放し、尾の部分を掴みその行動を妨害していた。
間髪入れずにアーカードが、その拳を大きく振りかぶる。

「ぐはぁ! まだだ! まだ俺の正義は砕けてはいない! 絶影!!」

真・絶影の左肩に、アーカードの拳が叩き込まれた事で、ダメージが伝達され、苦悶の表情を浮かべる劉鳳。
滲み出る痛みに、思わず左肩を押さえてしまうが、構わず劉鳳は真・絶影に向かって叫ぶ。
劉鳳の声を受け、真・絶影の腋に装備された剣のような鋭利な部位が上方に稼動。
そして充分な距離まで掲げたその部位を一気に振り下ろされる事となる。
そう。それこそが鋼鉄も、ダイヤモンドも、空間ですらも切り裂く真・絶影最大の技――

「断罪断!!」

剣のような鋭利な部位の稼動により、繰り出される断罪断の真空刃とも言える刃
真っ直ぐアーカードの身体を、一刀両断するために断罪断が躊躇なく向かう。
みすみす一刀両断される義理は当然ないアーカードは、身体を逸らす事で回避。
だが、断罪断の速度は恐ろしく、流石のアーカードでも完全には避けきれない。
反応が遅れ右肩ごとアーカードの右腕は切り落とされ、ドス黒い鮮血を撒き散らす結果となった。

「HAHAHAHAHAHAHAHA! 楽しい! 散との闘争と同じくらい楽しいぞ!」

右肩ごと欠損した、右腕。全身には多数の打撲。
更に、今まで倒れこんでいたブラボーは既に起き上がり、アミバも今起き上がろうとしている。
だがこんな危機的状況にも関わらず、アーカードは依然笑みを崩さない。

「貴様達は全てのカードを出した! なら私も出そうではないか!この闘争を盛り上げるためにもな!」

そう言ってアーカードは、予め散のデイパックから取り出したもの。
入れておいたエニグマの紙をコートのポケットから手に移し、折りたたまれているそれを開く。
その瞬間アーカードの手に一枚のDISCが握られ、劉鳳、ブラボー、アミバの三人は思わず目を疑う。
三人ともそのDISCと同質のものを見た事があるからだ。
だが見たことがあるだけで、それがどんな意味を示すかはいまいち解らなかったが。

「こんなものでスタンドが手に入るとは全く持って興味深い! 感謝の意を示してやろう徳川光成! 闘争という形でな!」

そう言い放ちアーカードは己の頭部にそのDISCを文字通り差し込む。
一度桐山がやっているところを見ていたブラボーに驚きはないが、彼以外の全員はアーカードの予想外の行動に驚く。
その瞬間――全身の所々にテントウムシの形をした装飾、肩には天使の羽のような装飾が施された人形。
まるで頭部がテントウムシそのものとも言える、黄金の人形がアーカードの傍に浮いていた。

「ゴールドエクスペリエンス、『黄金体験』か……味な名を付けたものだ」

そうアーカードが開いたエニグマの紙には『ゴールドエクスペリエンスのDISC』という文字が書かれていた。
ザ・ワールドのスタンドを持つDIOの息子であり、気高き覚悟と果てしなき夢を持つ少年、汐華初流乃、またの名をジョルノ・ジョバァーナ。
彼が持つゴールドエクスペリエンスの名が記載されていた。
突然現れたゴールドエクスペリエンスに対して、五人は思わず身構える。
そんな彼らの行動を尻目にアーカードは既に空にしておいた、
散のデイパックに入っていたペットボトルを取り出し――ゴールドエクスペリエンスの拳で殴らせた。

「「「「「何!?」」」」」

勿論、アーカードがゴールドエクスペリエンスに、ペットボトルを殴らせた事も理解不能な出来事。
その事よりもゴールドエクスペリエンスの拳を受けたペットボトルの変化の方が五人の驚きを引いた。
無数の植物の蔦のようなものに、変化していく現象に五人は驚きを隠せなない。

「ゴールドエクペリエンス! 生命を創り出すという力を私のような吸血鬼が使うとはなんと奇妙な事か!」

そう言ってアーカードはゴールドエクスペリエンスによって作り出され、
今もなお成長を続ける植物の蔦を真・絶影に向けて投げつけ、真・絶影の動きを拘束し自分の方向へ引っ張る。
しかし所詮ゴールドエクスペリエンスによって、生み出された蔦は金属などに較べて遥かに脆い。
真・絶影が現在成長している分の蔦を全て切り裂いたが、既にアーカードの拳は真・絶影の目前まで迫っていた。

「ぐぉ!」

腹に渾身の拳を受け、真・絶影の腹部に穴が空き、劉鳳は思わず膝を付く。
更に依然成長を続ける蔦を真・絶影の身体に括り付け――強引にブラボーとアミバが居る方向に振り回し、薙ぎ払った。
アーカードと真・絶影の間で結ばれている屈強な植物の蔦がブラボーとアミバを巻き込む事で、
思わず彼らの体勢は崩れ両の足で立っているのは遂に今まであまりにも早い闘いのせいで、
迂闊に後方支援が出来なかった服部とタバサだけとなる。

「まずは貴様から殺すとするか劉鳳!」

そう言った途端服部とタバサの前で苦渋の表情を浮かべ、地に膝を付いていた劉鳳に向けてアーカードが笑う。
かと思いきや、すぐさまフェイファーツェリザカのトリガーを引き絞り、アーカードは最後の弾丸を放つ。
度重なるアルターの発動と破壊、そしてたった今受けたダメージ。
最早、劉鳳に銃弾を叩き落す程の速さで真・絶影を動かす力はなかった。

「「劉鳳!」」

劉鳳の仲間であるブラボーとアミバも体勢を整えて、彼を救うために動こうとするが到底間に合う距離でない。

(俺は……ここで終わるというのか!?)

銃弾が迫り来る瞬間、劉鳳はふと思う。
進化の言葉、s.CRY.edを今この場で唱えても、間に合いはしないだろう。
柄にもなくこの状況を劉鳳が受け入れようとした瞬間――彼を突き飛ばす何かがあった。
突き飛ばされ崩れ行く体勢の中劉鳳は思う。
自分の身体はこんなにも軽かっただろうか?それほどまでにも負傷しているのだろうか?
だがそんな考えを一瞬のうちに中断し、劉鳳は今まで自分が居た位置に両目をやり、
自分を突き飛ばした何かを確認しようとする。

「なっ…………に?」

其処には胸に自分の代わりに鉛球を撃ち込まれ、そのまま弾丸は貫通。
口や胸から夥しい血液を撒き散らしている人物が、虚ろな目で今にも倒れそうな様子で立っていた。
勿論その人物は劉鳳の仲間の一人――

「タバサァァァァァ!!」

そう、水色の髪を生やす少女、タバサがその場で立っていた。

「何故だ! 何故俺のためにお前がこんな事を……」

出会って未だ数時間しか経っていなく、碌に話した事と言えば先程真・絶影の上で話した時くらいだけだ。
劉鳳以外のブラボー、アミバ、服部の三人もタバサの予想外の行動、
彼女の状況に呆然とした表情を浮かべる事しか出来ない。
そんなタバサは銃弾を喰らった部位が予想以上に悪く、とても声を出せるような状況でもなく、
その事が劉鳳達を更に不安にさせていく。

「HAHAHAHAHAHAHAHA! 滑稽だなぁ劉鳳!? 散の記憶では貴様の力が足りないせいで、
平賀才人が死んでいたが今のこの状況はどうだ!? 何一つ変わっていない! 何一つ守れていない! 貴様は只吼えるだけの狗ということか!!」

大声を上げて嬉しそうに言い放つアーカードを見て、劉鳳は只、無言で――それでいて、怒り一色の表情を浮かべアーカードを睨む。
抑えきれないアーカードへの怒り、タバサへの後悔。
それらの感情を爆発させるために、タバサの身体を劉鳳はそっと地面に寝かせようとする。
アーカードに『正義』とも『怒り』とも言える隠し様の無い複雑な感情をその身で思い知らせるために。
だがそれを制止させる者が存在した。

「待て、劉鳳。タバサの脈を取れ」
「何だと?」
「いいから早く取れ、グズグズするな!」

劉鳳に言葉を掛けた男はブラボー。
ブラボーは仲間がアーカードの銃弾に仲間が倒れたという、事実はなんとしても認めたくはない。
アーカードに対して揺ぎ無い怒りを抑えて劉鳳にタバサの生死を確認させようとしていたのだ。
もしここでタバサの脈が無ければきっとブラボーは即座に怒りを露にしながら、アーカードに飛び掛っていただろう。

「脈は……ある! 未だ生きている!」

その劉鳳の声を聞いて、ブラボー、アミバ、服部の三人は安堵の表情を浮かべる。
しかし、タバサが依然危機に直面している事に変わりはない。
そんな彼らをアーカードは興味深そうに観察している。
この人間達は自分に対してどう動くか? どうやって殺しに掛かるのか?
そんな事をアーカードが考えていると劉鳳が再び真・絶影を動かし、アーカードはそれに応えようとするが――

「劉鳳! ここは俺達に任せて、一刻も早く絶影でタバサを病院へ連れてゆけ!」
「何ッ!? し! しかし……」

依然危険な状況であると思われるタバサの身体をブラボーは案じる。
劉鳳に離脱するように促すが、それを劉鳳は苦渋の表情で渋る。
普段の劉鳳なら怒声一発でそのブラボーの言葉を退ける筈だが、当然彼もタバサの身体を案じていたからだ。
更にそのタバサが自分を庇い銃弾を受けてしまったので、尚更劉鳳が気に掛けるのも無理は無い。


「お前の絶影なら俺達の中で誰よりも早く病院へ辿り着ける! 行け! 行って必ずタバサの命を救え劉鳳!!」

しかし、そんな苦悩する劉鳳に対して、ブラボーは先程よりも強い調子で促し続ける。
一人でも多くの仲間を、人を救うためにここは劉鳳に己の取らせるべき道を行かせるために。
ブラボーの威厳に満ちた声に秘められた想いを読み取った劉鳳は、苦しそうな表情を浮かべながらも口を開く。

「……わかった。此処は任せるぞ! ブラボー、アミバ、服部――」
「待て、これを使え劉鳳!」
「こ!これは……」

ようやくブラボーの提案を遂に受け入れた劉鳳。
真・絶影を自分の元へ動かし、タバサを抱え飛び乗ろうと試みるが、それを何故かアミバが制止した。
更にアミバはシルバースキンのポケットからある物体を取り出し、劉鳳に投げつけ、咄嗟に劉鳳はそれを受け取る。

「核鉄か!」

そう、劉鳳の手に握られたそれはシリアルナンバーLXI (61)の核鉄、黒死の蝶ニアデスハピネスを発動する核鉄。
以前、自分も二つの核鉄で身体を治癒していた劉鳳は、即座にアミバの意図を理解する。
直ぐにタバサの小さな手に核鉄を握らせ、銃弾を受けた胸に彼女の手を添えさせる劉鳳。
これだけでタバサが助かるかどうかは解らないが、やらないわけにはいかない。

「行け劉鳳! 貴様の正義は一人の少女も救えん脆いものでは無い筈だ!」
「頼むで劉鳳! まさかアンタの絶影はもう根を上げてるわけじゃないんやろ!?」

アミバと服部の言葉が劉鳳の両の鼓膜を震わし――彼の心までも震わせる。
幼い頃読んでいた少年漫画で感じた何か心の奥底を熱くさせる不思議な感覚。
最早劉鳳にアミバと服部に対しての心の壁は崩れさろうとしていた。

「当然の……肯定だ! 俺を誰だと思っている!? 俺は銀色のアルター、絶影を持つ劉鳳だ……必ずタバサの命は救ってみせる!!!」

そう言って完全に迷いは振り切り、劉鳳は真・絶影にタバサを抱えながら飛び乗る。
ブラボー、アミバ、服部の三人に一瞥もくれず真・絶影を大空に向かって飛ばす。
何故なら劉鳳は信じているからだ……彼の仲間達は必ずアーカードを打ち倒し、また病院で出会えるという事を。

「ククク、二人退場したか……それで? 貴様達はどうする!?」

真・絶影が飛び去り、一部始終を眺めていたアーカードが両腕を広げて三人に問いかける。
無論、彼らのやる事は決まっている筈だという事をアーカードは既に知っているが彼は問う。

「言うまでもない!貴様を――」
「いや! アミバ! 服部! ここは俺に任せろ! お前達は劉鳳を追って共に病院へ行け!」

タバサを撃ったアーカードに対して、隠しようの無い怒りを顔に滲ませながら叫ぶアミバ。
そんなアミバをブラボーが、左腕を水平に翳し彼に制止を呼びかける。
その言葉は何故かアミバと服部に此処から離れるようにと意図するもの。
当然アミバと服部――特にアミバの納得がいくはずがない。

「どういう事だブラボー? 何故俺達まで!?」

共に目の前の悪、アーカードを打ち倒す目的を持った仲間が言った突然の言葉の意味がアミバにはわからなかった。
もしや自分の信念が疑われているのか?そんな事すらも一瞬思ってしまう程に。

「劉鳳は頼りになる男だ……だが、熱くなり過ぎて必要以上に誤解を出会う人に与えてしまうかもしれない。
だから! お前達には劉鳳のフォローをして貰いたい!」

口と胸から血を流したタバサ、そしてそのタバサの血で塗れた両腕で彼女を抱え、真・絶影という異形のものに乗っている劉鳳。
この状況で事情を知らない人物が、劉鳳を発見すれば悪い印象を持つのは有り得ない事でない。
更にあまり社交性に優れているとは言えない劉鳳である。
それならばアミバと服部も真・絶影に乗せてもらうか?と一瞬ブラボーは考えたが、直ぐにその考えを却下した。
何故なら劉鳳は既に疲弊し、真・絶影も四人を乗せるよりも二人だけを乗せた方が当然速い速度を出せる。
そのため、劉鳳なら迅速に病院を目指せると考えたからだ。
怒りに身を焦がしていると言えどもブラボーは錬金戦団戦士長であり、大勢の部下を束ねる男。
どんな状況でも最善の戦略を練る事を忘れる事はない。

「ブラボーはんのゆうとる事はよーくわかった。けど一つだけ聞きたいことがあるんや」

劉鳳の性格は理解しているためブラボーのその提案に、渋々納得の意を示したアミバに代わって今度は服部が口を開く。
未だ出会って数分しか経っていないが、どうしても服部はブラボーの口から聞きたい事があった。

「ブラボーはん! そこまで言うのならアンタには勿論あのおっさんに勝つ勝算はあるんやろな!?」

当然服部は劉鳳とタバサ、特にこの殺し合いに一番最初に出会った、
タバサの事は心配だったがブラボーの事もまた心配だった。
アミバと服部に向かって此処を離れろと言う事は自分一人で、
あの恐るべき力を持つアーカードと闘うと宣言しているようなもの。
だから服部は叫ぶ――ブラボーの闘志を今以上に奮い立たせるためにも。

「オレらは必ず劉鳳とタバサとコナンっていうオレの知り合いと合流して、
このけったいな首輪の謎を解いてみせる……ブラボーはん!
まだまだオレらがやるべき事はいくらでもあるんや!だからこんなところで死におったら……絶対に許さへんで!!」

自分の剣道の、柔道、銃器の技術では到底ブラボーの助けにはならない事は当然服部も解っている。
だが服部には『西の名探偵高校生』と称される程の類まれな頭脳がある。
その彼がライバルと認め、彼とほぼ同等の頭脳を持つ工藤新一。
またの名を江戸川コナンも、第二回放送の時点で、この殺し合いで生存している事が解っているのだ。
だから服部はブラボーに宣言した――それぞれ出来る事をやろう、同じ目的のために、そんな事を大声で。
そんな服部の叫びをしっかりと聞き、ブラボーは何か返事を返そうとするが、そんな彼にアミバは無言のまま何かを投げつける。

「核鉄だと!?」

武装錬金を解除し、素顔を晒したアミバがブラボーに投げつけたのはシリアルナンバーC (100)の核鉄。
今までブラボーが探していたものであり、数分前アミバが譲るのを拒否したものでもある、
核鉄が今ブラボーの手に握られていた。
心底不思議そうな表情を浮かべるブラボーにアミバが言葉を発する。

「貴様の正義を貫くためにはその核鉄が必要なんだろう……?
なら使え! そして貴様の正義を貫いてみせろ! 俺は俺の信念を貫く……俺に出来て、貴様に出来無い筈は無いと俺は信じているぞ!!」

そう言ってアミバは方向を変え、バイクの方へ走り、そのまま飛び乗る。
既に服部はバイクの運転席の跨っておりアミバが後部座席に乗ったのを確認し、アクセルを踏み病院の方角を目指して行く。
ブラボーの方を一度も振り返らずに。

「これで更に二人……貴様達全員で私を殺しに来ても殺せなかったのに貴様一人で私を殺せるのかキャプテン・ブラボー?」

アーカードの言う通り今ブラボーはたった一人であり、更にはアーカードにはゴールドエクスペリエンスがある。
あまりにブラボーにとって悪い状況――だが彼の眼は未だ死んではいない。

「確かにそうだろうな……だが! 俺は今この場に決して一人で立っているわけではない!」

そう言ってブラボーは手に握られた核鉄を強く握る。
その瞬間、核鉄が展開を始め、今までブラボーが着ていたコートと全く同じものを更にブラボーは纏う。
そう、無音無動作による武装錬金の発動。
だが完全には同じではなくボロボロだった以前のそれに較べて、どこにも汚れも破れもないがそれだけではない。

「劉鳳を救ったタバサ、タバサを救うため行った劉鳳、首輪の謎を解くと誓った服部、俺にシルバースキンを託したアミバ、
既に死んだ桐山と平賀……彼らの全ての思いを受けて俺は今この場に立っている! 貴様に負けるわけにはいかないアーカード!!」
「HAHAHAHAHAHAHAHA! 楽しいぞ! キャプテン・ブラボー!!」

ブラボーが遂にシルバースキンを纏い、再びアーカードに突撃を開始する。
彼がこの殺し合いの場で知り合い、誓い合った幾多の仲間達の思いを背負って。

◇  ◆  ◇

アミバは考えていた。
これで自分は良かったのかと?
それはシルバースキンをブラボーに託した事ではなく、タバサの事についてである。

(俺がタバサの出血を止める秘孔を突いていれば……いや、駄目だ)

北斗神拳は応用次第で医療にも利用する事が可能であり、本来の世界ではアミバはその道を極めたトキの名を偽っていた。
だがその時の彼は医療などに興味はなく、只最強の肉体を求めるために秘孔の研究をしていた。
人間を人間とは思わない非道極まりない実験を繰り返して。
そのため彼には自信が持てず秘孔を突く事は出来なかった。
自分の仲間を死なせてしまうかもしれないという不安に怯えたため。
そしてあの時の自分をもう思い出したくないかのように。

(トキ、今程、お前がどれだけ偉大な人物だったかが思い知らされた事はない……何が天才だ。
結果的に俺は劉鳳とブラボーに頼っただけではないか……)

アミバは嫌と言うほど自分の無力さを知ってしまうがいつまでもへこたれるわけにはいかない。
そんな事をしていれば天国のカズマに笑われてしまうからだ。
そして彼は今まで持っていたスティッキィ・フィンガーズのDISC。
そして服部から貸してもらった、空条承太郎の記憶DISCを持ち、観察する。
実はブラボーは初めはDISCがポケットからの落下を考えながら闘うのは面倒だと思い、
タバサの近くへ寄った時それを手早く託していた。
だがヌルヌルとした液体に塗れたDISCにタバサは嫌悪感が涌き、服部に押し付けたというわけだ。

(もしやカズマと闘ったあの男のキングクリムゾンという人形も、
アーカードがやったように頭部にこんなようなものを入れた事で出していたのか……?
なら俺もこの二つを頭に入れればあの人形のような力を……)

仲間達との再会を、無事を願いながらアミバはDISCを凝視する。
更なる力を切実に求めながら。
そんなアミバを尻目に服部は黙々とバイクを走らせる。
彼もまた先程の騒ぎで自分が行った事を只考えていた。

(タバサのヤツ……無茶しよって)

アーカードが劉鳳に向けて発砲した時、服部もどうにかしてその状況を打開しようとしていた。
だがあの時確かに服部は恐怖し、躊躇してしまった……太陽の光を受け黒光りを帯び、
迫り来る銃弾が自分の身体に捻り込まれる映像を思わず想像してしまった。
所詮自分は探偵……探偵は犯人を力で抑え込むものではなく推理で抑え込むもの。
探偵である自分が銃弾に恐怖を覚える事は可笑しい事ではない。
服部にそう言って、励ましてくれる者もきっと居るだろう。
だが服部は知ってしまった。
あの読書しか特に興味がなく、今まで自分達を何か冷めた眼で見ていた少女、
タバサが身を挺して劉鳳を救ったという事実。
その光景を見て服部は驚き、不安、怒りなど様々な感情が湧き上がったが、
今まで銃弾を恐れていた自分が、本当に下らない存在だと思わずにはいられなかった。
自分よりずっと小さく、か細く、か弱い少女であるタバサ――彼女が馬鹿みたいに大きな存在に見え始める。

(タバサ……お前の根性は見せてもろったで……今度はオレの番やな!
あのアーカードのおっさんには首輪はなかった。なら必ずこの首輪を外す事はできるってことや。
タバサ、楽しみにしとれよ、だから……死んだらアカンで)

自分がやれる事をやろうと服部は更に決意を固める……『脱出』という扉を開ける鍵を見つける事を己の義務と見なして。

◇  ◆  ◇

いつものように呼吸が出来ない状態でタバサは考えている。
何故自分がこんな事になったんだろうと言う事を。
所詮出会って数時間の仲の劉鳳を庇うと言う、無謀な事を行うのはタバサにとってあり得ない事だった。

(でもあの時…………)

あのアーカードという男が自分に向けて銃を撃った時、あそこに居た劉鳳達はタバサを心配してくれていた。
出会って十分も経っていないあのブラボーと言う男でさえも、タバサを本気で心配してくれていた。
そんな事は劉鳳達にとって当たり前の事だったが、タバサにはそれが不思議で――何故かとても嬉しかった。

(何故だかわからない……でも何故か……)

何故自分はあんなに心地よい気分になったのか?
まるで自分が白馬の王子様に助けられたお姫様になったような感覚についての疑問。
その事を考えていた時劉鳳が膝を付き、銃弾が彼に迫ってきた。
どうにかしなければ! 何か自分も彼らの役に立てたら!
そう思ったら何故か……身体が動いていた。

(私が劉鳳を……助ける事で得るメリットは…………ある……!)

何故かタバサは劉鳳がアミバと争うところや真・絶影の上で、
彼の正義について話しているところを見て期待に似た感情を感じていた。
劉鳳達が言う『正義』、『信念』、『反逆』とやらがこの状況を変えてくれるのではないか?
そんな事を考えながらタバサは今劉鳳を見つめていた。
劉鳳達がルイズやキュルケもきっと無事に保護出来るだろうと言う事も、同時に思いながら。
だからタバサは少し頑張る事にした――なけなしの力を振り絞って。

「……頼みがある……」
「声を出すなタバサ! 傷口が広がる!!」

そんな事知ってる……そんな事は知ってるから言わなくてもいい……。

「私の知り合い……ルイズと……キュルケ…………」
「ああ! 解っている! 必ずその二人に会わせてやる!だからもう喋るんじゃない!! 」

違う……そうじゃない……私の望みはそうじゃない……。

「二人を……必ず…………守って………………」
「だから言っているだろう! その二人もお前も必ず俺が守ってみせると!!」

全く……話が噛み合わない………………でも………………

「………………ありが…………と………う………………」

その瞬間劉鳳はタバサが言った意味が解らなかった。
ありがとう?何に対して?俺が一体何をした?
その事を劉鳳が理解したのは……彼女の手首を取り、脈を調べた時だった。

「タ…………タバサァァァァァ!!!」
絶叫を上げ、集中力を失った事で真・絶影が消失し、劉鳳は地面に降下していく。
もう話す事は出来ないタバサの遺体をその両腕で力強く抱えながら。

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