激突! ラオウ対範馬勇次郎!!     ……特別ゲスト坂田銀時 ◆1qmjaShGfE



銀時はソードサムライXを真横に振るう。
その一撃でラオウを倒せるとは思っていない。
ただ、距離を取らせるのが目的だった。
が、ラオウはそれを左の腕をあげて受け止める。
『どんだけT-800なんだよそのボディ! ネッガーですか!? 市長ですか!?』
そして無造作とも思える動きで右の拳を銀時へと振り下ろす。
『無造作? 隙どころか蟻の這い出る隙間も無ぇじゃねえか!』
銀時はその振るわれた拳が、ありえない程の奇跡的な技術に支えられた拳である事を見抜く。
こんなのに向かって踏み込んだ日には命が幾つあっても足りやしない。
素直に後ろに飛んで距離を取る銀時。
『あっぶね、かわした!』
にも関わらず真後ろに吹っ飛ばされる。
『あんたリアルかめはめ波使いなんて聞いてねえよ! PTSDに訴えっぞ!』
北斗剛掌波は見ているし、PTSDは心的外傷後ストレス障害である。
単に拳から放たれた闘気に吹っ飛ばされただけなのだが、実はこれは幸いであった。
おかげで労せずに大きく距離を取る事が出来た。
すぐにラオウに駆け寄りながら斬り付ける。
今度はラオウも腕で受けたりせずに、左にこれをかわす。
問題は、その動きでラオウの体勢が全く崩れていない事だ。
だが、ラオウの拳の間合いからは数センチ遠い。
銀時は駆け寄った勢いそのままに逆側へと駆け抜ける。
その後ろ髪を僅かにラオウの拳がかすめた。
ラオウの拳の間合いに入らず、剣の間合いのみで戦う。
銀時が選んだ戦術は、辛うじて初撃、二撃目まではうまくいっているようであった。
もちろん長く近接していてはそれも為しえないので、入りと出をうまく使っての戦いとなる。
そして、足を止めたら最後ラオウがそりゃもう地球防衛軍に迫るゴジラ(放射熱線有り)の勢いで襲い掛かってくるので、一時たりとも攻撃の手を止める事は出来ない。
一呼吸の間すらおかず、再度斬りかかる銀時。
左斜め上からの袈裟懸けは、ラオウが右に移動する事でかわされる。
この際、その足捌きのおかげか、ラオウは直立した姿勢のままである。
銀時は半ばまで振り切った剣を反転させ、左のラオウを横一文字に切り裂かんとする。
しかし、何時の間にか振り上げられていたラオウの左足の方が早い。
まるで大砲のようなラオウの蹴りをしゃがんでかわすと、銀時はひらりと一回転しつつ剣を振り回し、大地を支える右足を斬り落とそうと剣を振る。
銀時の剣がラオウの右足を捉える寸前、ラオウの巨体は宙を舞う。
『まずっ!』
空中に居るラオウは、その左足で雨あられと銀時に蹴りを浴びせた。
一撃目、首を捻ってかわす。
二撃目、しゃがんでよけたかったが、既に体勢が低かったのでしかたなく狙われた頭部でなく肩口で受ける。
三撃目、剣で受け止めようとするも、受けた剣ごと弾き飛ばされる。剣は必死に握って離さず。
     偉いぞ右手、今度マリアさんのおっぱい揉ませてやる。
四撃目、剣を持つ手とは逆の腕で受け、その勢いを利用しつつ同時に両足に力を込めて真後ろに飛ぶ。
五撃目、踏ん張る足場も無い状態での一撃。物凄く痛かった。
六撃目、ゆっくり吹っ飛ばされる余裕もねえのか、ちっとは遠慮しろ。
七撃目、まだ蹴れんのかよ! おかしくね? いやさ、ほら物理とか無視すんのよくなくね?
八撃目、きっくー、きっくー、きっくのおにー♪ え? いやほら歌でも歌ってねえとやってらんねえじゃん。
     そういう時ってねえ?
九撃目以降、ようやく蹴りの射程から離れてくれた。この野郎、何処のタップダンサーだてめえは、
      足の裏にスプーン付けてうきうきですか、おめでてーな。

地面に倒れ臥す銀時。
着地したラオウは歩み寄りながら言う。
「立て」
その声に弾かれたように飛び起きる銀時。
「せっかくの死んだフリ無視してんじゃねーよ! こう見えても俺は演技派男優として業界じゃ『全身バイブの銀時』と恐れられ……」
ラオウの世界にAVは無い。
ツッコミ不在のまま戦いは続く。

銀時のソードサムライXは一度たりともラオウの体をかすらせる事すら無い。
しかし、ラオウもまた致命的な一打を加えられず居た。
銀時が最初に考えた戦術は既にラオウに見切られ、意味を成さない物となった。
ラオウは銀時の振るう剣をかわしながら踏み込み、より深い位置をとってから拳撃を放ってくる。
銀時の体捌き相手にはそれが必要と判断しての事、彼を評価しているといえばそう言えない事も無いが、無論銀時は嬉しくもなんともない。
拳の間合いと剣の間合いが時間にすると半々づつ。
銀時も大きく間合いを取る事は無くなった。
戦術を考えていた頃と比べて、その体捌きは既に別物となっている。
速さ、重さ、ラオウの攻撃に対する反応、全てが数ランク上の物となっている。
それでも尚、拳王には及ばない。
遂にその拳を避けそこね体勢を崩し、そしてラオウの突き出した人差し指が銀時の胸部へと迫る。
しかし、狙われている部位は急所から僅かにずれており、それをまたずらすにはそれこそ急所への一撃をラオウに許す事になる。
判断に迷う銀時であったが、そもそもそんな事を、そんな余裕を、ラオウの一撃は銀時に許していなかった。
「がっ!」
くぐもった悲鳴と共に吐血する銀時。
その胸部には、深々とラオウの指が突き刺さっていた。
ラオウがその指を引き抜くと、銀時はその場に両膝をつく。
銀時を見下ろすラオウ。
「秘孔新血愁を突いた。お前はこれより三日後に全身から血を噴出して死ぬ」
苦しそうに胸を押さえる銀時は、しかし減らず口が無くなったわけではない。
「歌舞伎町の母ですかてめーは。なんでいきなり俺の寿命が成人した蝉以下になってんだよ」
酷薄に笑うラオウ。
「その三日の間にこのラオウの恐怖を広めて来い。それが、貴様に残された最後の役目だ」
銀時は、そう言うラオウの目を、顔を見て判断した。こいつは本気だ。本気で、銀時が三日後に死ぬと思っている。
必死の形相で立ち上がる銀時。
「てめえ……」
しかしラオウは最早銀時には興味無いとばかりに立ち去ろうとする。
銀時は叫んだ。
「ふざけんな! だったらてめえ三日で食いきれねえ程のパフェもって来い! そんな今決めましたー的な適当締め切りで死ぬぐらいだったら
俺はパフェ食いすぎて大往生してやる! その上で俺の断末魔の絶叫と死を前にした大量の恨み言を聞いてからきっちり葬儀屋に頼んで式を遂行してくれ! 戒名代けちるんじゃねーぞ!」
珍しく、そうラオウにしては本当に珍しく、既にラオウにとって死人と化した銀時の方を振り返る。
「最後まで掴めん男だな貴様は。まあ好きにしろ、最後の三日をどう過ごすかは貴様の自由だ」
それだけ言って立ち去ろうとするラオウ。
それに追いすがる銀時。

「居やがったな銀髪!」

遠間から聞こえてきた声に、足を止め振り返るラオウ。
その襟首を掴む銀時。相互の身長差から、子供が大人にじゃれついているようにしか見えないが。
「おら逃げてんじゃねえ! さっさとパフェ用意しやがれ! ああ、後ついでに俺を治せ」
声をかけた男は、銀時に加えラオウを見つけると心底嬉しそうな顔をした。
「おおっ! キサマそんな所に居たのか!」
ラオウはその男、範馬勇次郎を睨みつける。
「貴様は……」
「会いたかったぜぇ、全く、散々探させやがって。まさかどこぞに隠れてたんじゃねえだろうな」
銀時はラオウから手を放す。
「うっせえぞてめえ! 太陽の塔みてえな頭しやがって、こっちは取り込み中だってのがわかんねーのか! 邪魔すんじゃねえ!」
「邪魔は貴様だ」
裏拳一発で吹っ飛ばされる銀時。
『アンタ……ツッコミ出来んじゃん』
ごろごろごろごろ、銀時は転がりながらそんな事を考えていた。
首を鳴らしながら前に出るラオウであったが、勇次郎は片手を前に出す。
「まあ待て。その前にそこの銀髪に戦いの邪魔された礼をしてからだ。何、すぐ済むからよ」
起き上がった銀時は、ゆっくりと自分を指差す。
「俺? なんで?」
「貴様だろう、さっき俺の戦いを邪魔しやがったのは」
ラオウは虫けらでも見るかな目で銀時を見た。
「下らん事をするのだな貴様は」
「ちょ、ちょっと待とうよ! 俺何もしてねえし! つーかたった今まで勝負してた俺よりぽっと出のキン肉マン二世、キン肉まんたろう信じるってお前それどうよ!? あれか? やっぱり肉繋がりか? 筋肉は筋肉を知るってか!?」
銀時の言葉を聞いているのかいないのか、ラオウは両腕を組んで勇次郎に言う。
「奴は既に死人だが、そうしたいのなら好きにしろ」
「死人? ……まあなんでもいいさ。さあやろうぜ銀髪!」
今にも飛び込んできそうな勇次郎。
それを前に、銀時は物憂げな顔になる。
「実はさ、俺……三日後にチンコが爆発して死ぬ病気にかかってんだ。だからさ、君の気持ちには応えられないんだ、ごめん。何、君ならすぐに良い相手が見つかるさきっと」
一足飛びに飛び掛って来た勇次郎の拳を、辛うじて剣で受ける銀時。
剣を持つ両腕、それを支える両足全てが余りの衝撃に痺れる。
「ど、どいつもこいつも少しは人の話信じろっての」
銀時の言葉を遮るように放たれた勇次郎の前蹴りを、銀時は左に身をよじってかわす。
その勢いで剣に押し当てられた拳をそらし、捻った体の反動を使って剣を勇次郎に振るう。
縦、横、右斜め上、左下、再度横、銀時の五連撃を勇次郎は、銀時にとって必殺の間合いに居ながらにしてかわす。
これを永劫に続けられれば、少なくともその間ぐらいは勇次郎の反撃を受ける可能性も低かったろう。
しかしいくら銀時とはいえ、それを、勇次郎の反撃を封じる程の攻撃を、いつまでも放てるわけはなかった。
僅かに甘くなった六撃目に合わせて勇次郎の回し蹴りが放たれる。
それをガードした左腕ごと胴にもらった銀時は、数メートル先まで吹っ飛ばされた。
銀時は空中で剣を口にくわえ、後ろに半回転すると空いた右腕で地面に手をつき、そのまま更に半回転。
両足を力強く大地につけると吹っ飛ぶ勢いを足で止め、臨戦態勢で立ち上がる。
勇次郎はそこで攻撃の手を止める。
「銀髪、キサマのその胸の穴はなんだ? その位置、深さなら結構な血が噴出してるはずだが」
攻防のやりとりの中で、そんなものを見ていたらしい。
数多の戦闘をくぐりぬけて来た範馬勇次郎、その彼が見たその傷は、確実な出血を伴うものであるはずだった。
銀時は恨みがましい目でラオウを見る。
「そいつはそこのペヤング四角い顔に聞いてくれ。俺にもわけがわからねえ」
ラオウは脅すでもなく誇るでもなく、淡々と告げる。
「経絡秘孔の一つを突いた跡だ。その男は三日後に死する定めにある」
「ほう」
すると、勇次郎は銀時も気付かない内に彼の懐に踏み込んだ。
「なっ!?」
驚く銀時を無視し、勇次郎は感心したようにその穴を覗き込む。
「こいつはすげぇ、経穴にしたってそこまで具体的な効果は望めねえはず。大した技術だな」
更に、コケにするかのようにせせら笑った。
「ま、闘い向きの技じゃねえがな。お医者さんごっこがしたきゃ、他所でやれよ」
勇次郎の興味、殺気は既に銀時には向けられていない。
それを察した銀時は恐る恐る問いかけた。
「あー、俺、もう行っていい?」
勇次郎は手をひらひらと振る。
「死人ってなそういう意味か。俺も死人にゃ興味ねえよ」
腹の前で拳を握ってガッツポーズな銀時。
「よっしゃ! 俺無事! 俺無傷! 神様ありがとう!」
あっと言う間にその場を走り去る。
「んじゃー筋肉同士勝手にケンカしててくれー。もう二度と俺の前に現れるんじゃねーぞー」
すったかたーと上機嫌で居なくなってしまった。
二人の視界から外れて少しすると「……無傷でも無事でもねえじゃん俺」と三日後死亡の事と、ラオウにフルボッコにされた我が身を思い出して愕然とその場に跪くのだが、それは置いておく。


ラオウの視線が鋭さを増す。
「我が北斗神拳をごっこと抜かしたか?」
勇次郎はコケにするような口調を改めない。
「児戯に等しい。そう言ったんだ、理解できなかったかいボウヤ?」
両手を下ろした体勢のまま、勇次郎に歩み寄るラオウ。
「この拳王を愚弄した報い、その身で受けい!」
右の拳に闘気を纏い、全力でそれを振り下ろす。
その拳に合わせ、自らの左の拳を振るう勇次郎。
先ほど勇次郎が花山に対した時と同じ手を狙ったのだが、ラオウの拳の鋭さは花山の比ではなかった。
タイミングを外す、打撃点をずらすなどという芸当も出来ず、真正面からぶつけあう事になる。
勇次郎の左腕に痺れるような振動が響き、弾かれるように二人は距離を取る。
「我が拳を拳で止めるか。だが、闘気の扱いが不十分だな」
ラオウは今の一撃で何ら損傷を受けていないようだ。
その事実とこの見下したような言い方で、勇次郎は完全にキレた。
「キサマッ!!」
真正面からの乱打戦を挑む勇次郎。
右拳、弾かれる。左拳、受けられる。右回し蹴り、受けられる。左拳、止められる。
同時にラオウからの反撃も飛ぶ。
左拳、かわす。左前蹴り、受け流す。右手刀、かわす。
二人の回転はどんどん上がっていく。
双方共、どこまで付いてこられるか試しているのだ。
そしてそれは、時期に双方にとっての限界領域にまで上がっていく。

勇次郎の右腕上部から鮮血が舞う。
ラオウのわき腹に赤黒い染みが刻まれる。
ある一定の速度を越えた頃から、双方に命中打が目立ってくる。
もちろん致命打ではないが、少しづつ、少しづつその量が増えてくる。
しかし、どちらも引かない。
打撃を行うに最適の間合いに立ち止まり、そこから一歩たりとも引こうとしない。
獣じみた蛮勇を振るう勇次郎。
その未来予知レベルの反射能力で致命打を避ける。
荒れ狂う暴風のように拳を唸らせるラオウ。
1800年に及び積み重ねられた術理に基づく捌きは、人の身でこれを突破し得るのは不可能かと思える程だ。
拳を交えながら、ラオウは確信する。
こいつは、必ず殺さねばならない相手だと。
勇次郎はかつて無い程の殺意を覚えた。
絶対にこいつは殺す。この男、これ以上この世に存在させてはおけぬと。
それぞれの歩む道、その先に必ずや立ちはだかるであろう敵。
ラオウにここまで敵を意識させた相手は数える程しか居ない。
しかしこの野人のような男は、今までラオウの耳に入る事すら無かったこの男は、この戦いで彼らと同格の敵としてラオウの意識に刷り込まれた。

勇次郎が歩んで来た人生において、ここまで底の知れない男と出会った事は無かった。
自ら最強を自負して止まず、飛び出した世界、その何処にも、この男に匹敵する相手は居なかった。
獣も試した、武器も試した、兵器すら相手にした。
しかし、単体でここまでの武力を誇るものには巡りあえなかった。
しかも、この男は自らと同じく、拳のみにて戦う闘士。
断じてその存在を許すわけにはいかない。
勇次郎はあらん限りの力を込め、この男を殴り、蹴り続けた。
しかし、この男に有効打を打ち込む事は出来ない。
もっと速く、もっと強く。
知らず、勇次郎の背中に鬼の面が浮き上がる。
一発、いいだろう、一発はもらってやる。
上半身を捩れさせ、全身の力を溜める。
予想通り背中に一発もらう、まさに剛の拳と呼ぶに相応しい一撃であった。
だが、それは勇次郎の鍛え抜かれた肉体を破壊し尽くすまでには至らなかった。

次の瞬間、ラオウの視界から勇次郎の腕が消えうせる。
勇次郎の闘気は、右の拳を放つと宣言している。
にも関わらず、その軌道が読めない、見えない、捉えられない。
来るとわかっている拳を捉えきれないのは、ラオウにとって初めての経験であった。
その動きに気付いた時には、既に左胸に勇次郎の拳が叩きつけられていた。
拳王の肉体すら粉砕する圧倒的な破壊力。
身に纏った闘気をものともしないその衝撃は、容易くラオウの心の臓を貫いた。
その一撃で、完全に動きが止まるラオウ。
勇次郎がその隙を見逃すはずもない。
両腕を振るい、その豪腕にて全てを引き裂かんと襲い掛かる。
そんな勇次郎の、胴体ど真ん中に、ラオウの渾身の前蹴りが叩き込まれた。
北斗無想陰殺、視界によらず、相手の殺気に反応して放たれる無意識無想の拳である。
勇次郎の反射能力を持ってしてもかわしきれなかった一撃は、彼を大きく後ろへと跳ね飛ばす。
空中で体勢を直し、両足から綺麗に着地する勇次郎。
そこで、我慢しきれなかったのか大量の血を吐き出しながら片膝をつく。
対するラオウは、半ば白目を剥いたまま虚ろな表情で天を見つめていたが、すぐに自らを取り戻し勇次郎をその視界に収める。
震える足を叱咤しながら、立ち上がる勇次郎。
未だ落ち着かない心臓の鼓動に体を震わせながらも勇次郎を睨みつけるラオウ。
「貴様は何だ。我が覇道を阻止すべく天が遣わした獣か」
勇次郎もラオウ同様、ラオウを睨みつけたままだ。
「フン、キサマこそ何者だ。世界中の強者と呼ばれる奴は一通り知っているが、お前のような奴が居るなぞと聞いた事すら無い」
ラオウは自らの眼前で拳を握りしめる。
「我が名はラオウ。世紀末の覇者、拳王ラオウなり」
ラオウの名乗りに勇次郎は高笑いで応える。
「ハーッハッハッハ! 聞いてて嬉しくなるような大風呂敷を広げてくれるじゃねえか! いいだろう教えてやる、俺の名は範馬勇次郎ッ!」
わざわざ息子を育てるまでも無い。世界は広く、まだこのような男を勇次郎に残していてくれたのだ。
わざとらしく後ろ足でとんとんと地面を叩く勇次郎。
「ラオウよ、お前に言っておく」
大地に足を踏み降ろし、ラオウを鬼の形相で睨む。

「俺はッ! キサマの存在がッ! 心の底から気に喰わんッッッ!!」

力の限り咆えると、今度はしわだらけの顔になって笑う。
「だが、俺はお前が居てくれたこの世界に心から感謝したい」
湧き上がる歓喜を堪えきれない。
「よくぞ鍛え上げたッ! 良くぞ磨き上げたッ!……この俺に倒される為にッッ! この俺を満足させる為にッッ!」
そんな勇次郎の様子を見たラオウは頷いた。
「なるほど、やはり貴様はこのラオウを止めるべく天が遣わした獣だ。そうか、天はこのラオウが至る事を良しとせぬか。それもまた良かろう」
語る時間は終わりだとばかりにラオウは歩を進める。

「天への障害はそれが天自身だとてこの拳で打ち砕いてくれるわ!」

豪腕を振り上げ、勇次郎へと襲い掛かった。