激突! ラオウ対範馬勇次郎!!     ……特別ゲスト坂田銀時(後編) ◆1qmjaShGfE



「おーしやれーそこだー。いけ! めがとんぱーんち」
ラオウと勇次郎の戦いの場から離れる事五十メートル程。
そこで銀時は体育座りで二人の戦いを観戦していた。
この謎の呪いを解けそうなのはラオウのみ。
なら、あの男から離れる事は出来ない。そう思ってこの場に戻ってきたのだ。
「……足止めに来た俺が足止めされてどーするよと」
ラオウが負けたら全ては終わり。
だからといってあの戦いに割って入る事も出来ないので、こうして応援しているのだ。
「お、そこだ! ふれーふれーら・お・う♪」
服の袖で目の辺りをこする。
「ぐすっ……べ、別に俺寂しいわけじゃないから、全然相手にされなくても、一人でも平気だし。マジでマジで、寂しくて泣いてるとかありえねーから」
ツッコミも無し。二人は戦いに夢中だ。
「でもさ、少しぐらい声援に応えるとかさ、あるじゃん。いや、マジで俺寂しくないよ。でもさ、そういう心配り一つで色んな物が違ってくるわけじゃん」
いくらいじけても、とことんノーリアクションなので銀時は少し真顔になる事にした。
「さて、どうしたもんかね~」
連中が逃げる時間稼ぎとしての役割は既に果たした。
後は自分の身の振り方である。
ラオウと勇次郎に蹴飛ばされた全身は、ここに来て泣きたくなるぐらい痛くなってきている。
寝ぼけた真似をしながらも、銀時はラオウと勇次郎の二人の闘いを見ていた。
戦闘スタイルにこそ若干の違いはあれど、基本的スタンスはとても似通っている二人。
どちらも最強を自負し、それを脅かすものの存在を決して許さない。
そしてこの二人の戦いを見ていた銀時は、そこからあるものを感じ取っていた。
それは二人と戦ったせいで蘇ってきた感覚、万屋に居た時からは考えれない程鋭敏になっている己の知覚のおかげで感じたものだ。
見過ごすには、あまりに大きすぎる。
「あんなのに関わった日にゃ、命が幾つあっても足りないんだがねぇ」

ラオウの振るう拳に、勇次郎も同じく拳で迎え撃つ。
おおよそ拳をぶつけあったものとは思えない、金属でも弾いたような音と、お互いの威力から溢れた衝撃波が周囲の雑草を激しく揺らす。
「うぬに真の北斗神拳を見せてやろう!」
先ほどと同じように乱打戦となるが、ラオウが狙うはただ一点。
ラオウの突きをかわす勇次郎、だが、北斗の動きが勇次郎を惑わし、急所でないと打撃を許してしまう。
その一点こそがラオウの狙いと知らずに。
「終わりだ勇次郎! 北斗残悔積歩拳!」
深々と勇次郎に突き刺さった指を抜く。
「終わり? 何をぬかす……ぬおっ!?」
勇次郎の足が、彼の意思に反して後ろへと後退していく。
「バカなっ!? この俺が後退だとッッ!」
すぐに勇次郎は先ほどの経穴の一種と察し、突き刺された部位に力を込め経穴を封じにかかる。
そんな勇次郎を鼻で笑うラオウ。
「無駄だ。心配はいらん、自ら引く屈辱も後数歩で終わる」
羅刹の表情となって叫ぶ勇次郎。
「このッ! 俺がッ! 敵を前に後退だとッッ!! 断じて認めんッッッ!!」
勇次郎の雄たけびに応えるかのように、ラオウが刺した部位が盛り上がり、その歩みが止まる。
ありえない出来事にラオウの顔が驚愕に歪む。
「バカなっ!? このラオウの秘孔を破ったというのか! ありえぬ! そのような……」
そこでラオウはここに来てから、自らの動きが鈍い事を思い出す。
『このラオウの秘孔が、このような力任せの野人に破られるなぞありえぬ。ならば、我が動き同様の事が秘孔にも起きていると?』
とても納得しがたい推測であったが、自分が全力で打った秘孔がこんな手段で破られたという事に比べれば、まだマシな推理であった。
憤怒の表情を見せるラオウ。
そしてそれは無理矢理後退させられた勇次郎も同じであった。
「八つ裂きでも飽き足らんぞラオウッ!!」
「ほざけ! ならばその肉体を粉々に砕いてやるまでよ!」
勇次郎のラッシュを何時までも受け続けるのは、このラオウを持ってしても厳しい。
後ろに下がり、距離がある間にラオウはカタをつける事にした。
闘気を操る術を持たない勇次郎ならば、これを受ければひとたまりもないはずである。
「北斗神拳の恐怖、その身に刻め勇次郎! 北斗剛掌波!」
ラオウが前にかざした右腕より、闘気の奔流が迸る。
正に不意打ち。
拳も蹴りも届かない位置に居ながらにして放たれたその衝撃波は、勇次郎を更に後方にあった病院を囲む壁にまで吹き飛ばした。
壁面に叩きつけられ、その壁を粉々に砕きながらも、勇次郎はその場に立っている。
しかし、その衝撃のせいか視線が覚束ない。
そこに空中に飛び上がったラオウの蹴りが襲い掛かる。
「おおおおおっ!!」
銀時の時のような無数の蹴りが勇次郎に襲いかかる。
その全てを、勇次郎は朦朧とする意識のまま両の腕で受けきる。
が、やはり全ての衝撃を吸収しきる事なぞ出来ず、更に奥、病院の壁に叩きつけられ、今度はその壁をも突き抜けて内部に蹴りこまれた。
ラオウは悠然とその突き破った壁を抜け病院内部へと侵入する。
トドメを刺さんと室内の勇次郎を探すが、当の勇次郎は、室内に入り込んだラオウの真上に居た。
「邪ァッッ!!」
張り付いていた天井から飛び降りざまにラオウを蹴り飛ばす。
虚を突かれたラオウは顔面にまともにもらい、室内の壁をぶち破って隣室へと叩き込まれる。
壁に空いた穴から飛び込み、ラオウに追撃の拳を喰らわさんとする勇次郎。
ラオウは飛び込んできた勇次郎に対し、右手を開いてその手の平で勇次郎の拳を止める。
「ぐぬうっ!」
「ぬあァッ!」
どちらも一歩も引かず、その位置での力比べとなる。
だが、ここでもラオウの北斗神拳が膠着状態を打ち砕く。
ゆっくりと左腕を前に掲げ、ここまで練りに練った闘気を解き放つ。
それは先ほどの北斗剛掌波とは比べ物にならない程の闘気。
勇次郎諸共、隣室とを分つ壁全てを吹き飛ばし、奥の部屋全ての物をバラバラに砕く。
その衝撃は衰える事を知らず、隣室の天井、更に奥の部屋とを分つ壁に大きくヒビが入り、轟音と共に崩れ落ちる。
煙が湧き上がり、ロクに見えない隣室に向かい、ラオウは昂然と言い放った。
「北斗神拳奥義、天将奔烈。このラオウ無敵の拳よ」
ゆっくりと煙が晴れる。
勇次郎は、隣室の中心で両足を踏ん張り、両腕で顔面を庇いながら、その場に立っていた。
頭の上に乗っかった崩れ落ちた瓦礫を払いながら、ラオウに言う。
「……闘気と言ったな。まさかこいつがここまでの威力を出し得る物だとはよ」
無事、とは言えないだろうが、勇次郎はまだ健在である。
それを見てラオウは一つ結論づけた事がある。
「なるほど、未熟とはいえうぬも闘気を操る術を心得ているか。しかしあくまで我が技を軽減する程度。北斗の技には程遠いわ」
別に勇次郎は闘気をそれと意識して操っているわけではないが、その天賦の才と修羅のごとき戦いの日々が自然とそれを身につけさせていたのだ。もちろん、それと認識して身につけたラオウとは比べるべくもないが。
その未熟な技術でラオウの天将奔烈をまともに受けたのだ。
今こそ勝機とラオウは勇次郎に向け踏み込む。
だが、それと同時に勇次郎もラオウに向かい踏み込んでいた。
ラオウはこの短い時間で勇次郎の人となりをある程度掴んでいたつもりだったが、その程の強さまでは把握していなかった。
予想ではその場にて迎え撃つと踏んでいたのだが、それを外されたラオウはすぐさま前傾姿勢の勇次郎に拳を振り下ろす。
勇次郎は更に低く踏み込む事でこれをかわし、ラオウの眼前でフリーの体勢を得た。
「邪アアアアァッッ!!」
左ボディがまともに入ったため動きが鈍ったラオウに、残る右ストレート、左足のロー、右肘、左ハイキックを叩き込む。
計5発、ラオウの鋼の肉体を持ってしてもこれにはその相貌を歪めずにはいられない。
「ヌンッ!!」
そして顎を真上に蹴り上げる。
ラオウの体は直上へと跳ね飛び、コンクリートの天井に突き刺さった。
その恐るべき勇次郎の蹴りの勢いは、ラオウの上半身までを完全にコンクリートの中に埋めていた。
完全に視界を失ったラオウに、勇次郎は飛び蹴りを放つ。
狙うは金的、しかしラオウはこれをその視界によらず察し、片足を上げて受け止める。
委細構わず蹴りぬく勇次郎。ラオウの体はそのまま上の階へとぶち抜けて行った。
勇次郎は一度床に着地すると、自らも跳躍して一足で二階へと飛び上がる。
そこで、ラオウは既に両腕を構えた状態で待ち構えていた。
「うぬは正に獣よ。だが、そのような野人にこのラオウは倒せぬわ」
そう言うラオウを勇次郎はせせら笑う。
「北斗だかなんだか知らんが、そんなもの俺には必要無い。貴様らのような弱者がそいつを肴に戯れていればいい」
勇次郎の挑発に激昂するかと思われたラオウだったが、意外にも笑いで応えた。
「フッ、野人らしい答えだ。成る程、その傲慢さが貴様を支えているというのであれば構わぬ、そのままかかって来るが良い」
どちらも既に常人ならば満身創痍と言っていいほどの傷を負っている。
打撃傷が主なので、見た目にはわかりずらいが、彼らの攻撃はお互いを確実に蝕んでいるのだ。
しかし、双方ともそれをおくびにも出さない。
勇次郎がラオウにつっかける。
それを、ラオウは北斗の技で迎え撃つ。
振るわれる勇次郎の拳がラオウを捉えるも、あっさりと空を切る。
ほんの瞬きの間にラオウがその位置を変えたのだ。勇次郎が貫いたのはその残影のみ。
そしてラオウから拳が放たれる。
勇次郎の死角から放たれた拳でありながら、勇次郎はそれを知覚した瞬間に身をよじりかわす。
そしてラオウの居る位置に今度は蹴りと突きの連撃を放つ。
しかし、既にラオウはその位置から移動を済ませ、勇次郎の死角へと回り込む。
これぞ北斗神拳奥義七星点心、北斗七星の示す敵の死角を移動しながら戦う技だ。
おおよそまともな拳法家では対処しようの無い拳であるが、勇次郎はそれに真っ向から立ち向かった。
死角だろうとなんだろうと、かわすラオウよりも早く拳を叩き込めばよい。
しかし、ラオウはそんな勇次郎の動きを読んでいた。
次なる死角から放たれた攻撃、勇次郎はこれを拳が風切る音で判別してかわしていたのだが、これが今回は複数であるようだ。
全てをかわすは不可能。ならばとそちらに向き直りながら両腕で受けに回る。
そんな勇次郎の構えた腕を擦りぬけて、ラオウの拳が勇次郎の顎にまともに入った。
北斗残影蠍拳、残像による速さで敵の虚を突きながら、思わぬ角度から突きの連打を繰り出す技だ。
一撃入れば、いかな勇次郎とて僅かに動きが止まる。何故ならその一撃は拳王ラオウの一撃であるからだ。
すぐに無数の拳を繋げる。
勇次郎の体に無数の拳が刻まれるも、ラオウはそれを止めようとしない。
まるで隙の無い連撃を飽くことなく撃ち続けるラオウ。
そう、ラオウは攻撃こそがその本分なのだ。
その攻撃に壁まで追い詰められる勇次郎。
全てをもらっている訳ではない、もちろん勇次郎もかわし、受けているが、それでもラオウの攻撃を止める事は出来ない。
真後ろの壁に亀裂が走り、中を通っている鉄骨が見えるもラオウの連撃は留まることを知らず。
遂に壁が砕け、鉄骨が引き千切れ、勇次郎の体が大きく後ろに殴り飛ばされた所でラオウはその手を止める。
否、ラオウは更に勇次郎を粉砕せんと奥に踏み込み、拳を振り上げる。
それをかわしながら、勇次郎はカウンターの右ストレートをラオウに打ち込んだ。
狙った顎ではなく、頬を打ったのはラオウがそれを外させたからであるが、にしても強烈な一撃である。
その巨体が僅かに傾く。
勇次郎はそんなラオウに、まるで今まで打たれたのがまるで効いていないかのように反撃を開始した。
拳、蹴り、肘、膝、ありとあらゆる部位を用いてラオウに攻撃を叩き込む。
飛び膝蹴りからの頭突きでラオウは大きく後ろに仰け反るが、それを両足の力だけで踏み止まる。
勇次郎の胴中央に向けて放たれる反撃の拳。
しかし、それをまるで事前から知っていたかのような速度で叩き落とす。
勇次郎の攻撃は前面からに留まらない。
ラオウの反撃を右に左にかわしながら、ラオウを側面と言わず背面と言わずありとあらゆる方角から攻め、その全身に勇次郎の打撃を打ち込んだ。
そう、勇次郎も攻撃こそがその本分なのである。
しかし、その攻撃を突然中止して大きくラオウから距離を取る勇次郎。
ラオウは放ちかけた北斗剛掌波を出し損ねる。
全身に打ち込まれた拳の痕が、ラオウの動きを蝕む。
しかし尚その構えに乱れは見られない。
勇次郎も常に無い程の疲労が溜まっていた。
自らと同格の相手との死闘なぞ、ついぞ記憶に無い。
ましてや、そんな相手に無数の拳を、奥義を叩き込まれているのだ。
それでも、勇次郎は止まらない。
ラオウは、しかしそんな勇次郎を理解出来ないわけではなかった。
自らと同じくひたすらに自身の拳のみを頼りとし、全てを捻じ伏せんと欲するその姿勢。
そんな勇次郎を黙らせるには、ただその体全てを破壊する以外に無い。
ならばと構えを変えるラオウ。
その構えは一定の位置にその手を固定せず、静かに、流れるように動き続ける。
その動きで勇次郎は何かを察したらしく、その相貌を険しくする。
いいかげん、この北斗神拳によるフルボッコをまともに受けてやる気も失せている勇次郎は、それらをコケに出来る、そんな攻撃を仕掛けてやるつもりだった。
腰を捻りながら踏み込み、全ての筋肉を右拳に。
それは、一度見せているからと使用を封じていたラオウの心臓を打ったあの拳であった。
『痴れ者が! このラオウに二度も同じ技を用いるとは!』
既にそのタイミングは掴んでいるラオウは、見る事すら適わぬその拳を受けてみせる。
直後に襲ってきた第二撃に、ラオウはその腕を大きく弾かれていた。
「何っ!?」
勇次郎は、あの全開の拳を、連打で放ってきたのだ。
三撃目からは受ける事も適わず、四、五、六、と立て続けにもらってしまう。
何処かが砕ける嫌な音が響く。
拳の理合も何も無い、技術も奥義もその全てがこの攻撃の前では無意味である。
何をする間も無く拳を打ち込まれ、何をどうしようと受ける事すら適わない。
代わりに勇次郎も正確に狙いを定める事を放棄しているが、それこそ些細な問題である。
当てた場所から順に砕いていけばいいだけの話なのだから。
七撃目で踏み止まるラオウの足から力が抜けると、続く八撃目でラオウは大きく殴り飛ばされ、背後の壁に叩きつけられる。
その壁も勇次郎の拳の威力とラオウの体重を支える事なぞ不可能で、僅かばかりラオウをその場に留めたかと思うとあっと言う間に砕け散り、隣室へとラオウは跳ね飛ばされた。
その際に壁面に出来た大きなヘコみは、その部屋の天井に致命的なダメージを与えていた。
会心の拳に笑みを浮かべている勇次郎の眼前で、天井が崩れ落ちてくる。
「どうした北斗神拳! 神の拳の名が泣くぞ! クックックハーハッハッハッッ!」
これは勝利の凱歌ではない。そう、再度立ち上がってくるラオウへの侮蔑の言葉である。
勇次郎は、まだラオウが立ち上がってくると信じて疑わなかった。

  流石に緊張する。だが、出来うる仕掛けはこれ以上思いつかない。

その殺気を感じ取り、勇次郎は自らの勘が正しい事を確認する。
奴は倒れない、何度でも勇次郎の前に立ちはだかってくる。
だから許しがたい。だから面白い。
これだけの愉悦の時、そんな簡単に終わろうはずも無いのだ。

  何時もやってきた事だ。何時だって、五分の条件、五分の相手など望むべくも無かった。

膝を付き、瓦礫の山に蹲るラオウ。
なんという獣か、北斗の技すら打ち破るその圧倒的な力は、ラオウの想像を絶していた。
心の中で師リュウケンを罵る。愚か者め、だから言ったのだ。
このような獣を相手に1800年間無敗の証を立てられるのは、トキでもましてやケンシロウでもない。このラオウのみだ。

  何時もどおり、自分がミスれば誰かが死ぬなんてのも何時もどおりなんだからよ。

壁の向こうの殺気が膨れ上がる。
そうだ、かかって来いラオウ。俺はここに居るぞ。
何度でも食らわせてやる、そう何度でもだ。貴様が息絶えるその時まで何度でも俺はお前を叩き伏せる。

「ぬかったな勇次郎! こっちだ!」

勇次郎の後方から突然ラオウの声が響く。
気配は勇次郎の正面にあったはず。確認の為後ろを振り向きかける勇次郎。
勇次郎の正面の壁が轟音と共に砕ける。
ラオウが壁を砕きながら飛びかかってきたのだ。
「小細工をッ!」
圧倒的な存在感と共に放たれる蹴りを受けるべく腕をあげかけたその時、僅かに覚えた違和感に従い全速で身をよじりながら振り返る。
そこに居た銀髪は、彼が見知った男とは別人に見えた。
戦場を駆け回った際、稀に見かけた目である。
目的の為に人殺しすら厭わない無情さと、強靭な意志を秘めた瞳。
この目をした人間は、そこがどのような戦場であろうと決して諦めたりはしない。
最もしぶとい兵士の目だ。
完全に消し去っていた殺気のせいで、勇次郎をしてその反応に遅れる程の踏み込み。
銀時のそれは、勇次郎の知る限りにおいて最高の奇襲であった。
銀時の振るう剣が勇次郎に迫る。
肩口から袈裟に狙ったその一撃を、勇次郎は身をよじってかわすも、僅かに間に合わない。
代わりに振り上げた左の二の腕に剣が打ち込まれる。
勇次郎の筋量ならば、銀時の意図を阻止しえると踏んでの事だ。
しかし、銀時の剣は勇次郎の腕を斬り裂き、胴を袈裟に斬り裂いた。
剣を振り切った後の剣士は次の一撃に繋ぐのに、どうしても徒手空拳より僅かに遅れてしまう。
勇次郎はその差を活かし、銀時に蹴りを見舞わせる。
おそるべき事に、この時同時にラオウのとび蹴りを空いた腕にて防ぎながらの技である。
銀時は、剣を振り切りながら勇次郎から距離を取る。
勇次郎の足先は微かに銀時を捉えて空を切る。
いや、銀時は勇次郎から距離を取ったのではない。
もう一つの目標、ラオウへと踏み込んだのだ。

  頼む、右拳で来い! 他だとぜってーかわせねえ!

闘いに割って入る無礼者、ラオウが怒りを覚えぬはずが無い。
一撃で粉砕せんと拳を銀時に叩き込む。
銀時はヤマを張っていた右拳をかわしざまに剣を斬りあげる。
ぼけーっと二人の闘いを見てきたのは、この時の為。ラオウ本気の拳は充分見させてもらった。
ラオウの胴体に銀時の剣による裂傷が刻まれる。
『浅いかっ!?』
そう言って舌打ちする暇も銀時には無い。
深手を負わせたはずの勇次郎の蹴り、そしてラオウ怒りの鉄拳が同時に叩き込まれたのだから。

部屋の端で壁にもたれかかりながら座り込む銀時。
そのポケットには蝶ネクタイ型変声機が入ったまま。銀時はこれを使いラオウの声を真似、陽動としたのだ。
トドメを刺さんとラオウが歩み寄ろうとするが、それを勇次郎が制する。
「よう、良い奇襲だったぜ。やれば出来るじゃねえかお前」
「……そう、思うんならさっきのであっさり倒れてくれ。あんまり手間かけさせんじゃねえよ……」
勇次郎は即座に殺さないつもりで居るらしいので、ラオウも殺す前に一つ気になった事を訊ねた。
「何故死に急ぐ?」
銀時はまっすぐにラオウと勇次郎を見つめている。
「感じたんだよ、お前等はきっとこの戦場の鍵になるってな」
「鍵だと?」
「そうだよ、いずれ戦場中の連中がアンタ達を倒すべく動き出すようになる」
そこで咳き込む銀時。内臓もやられているようだ。
「き、きっと山ほど死ぬ事になる。そいつが、俺には納得いかねえ。それだけの話だ」
勇次郎はそんな銀時を見て嬉しそうだ。
「おいラオウ、何が死人だ。こんな生きのいい死人見た事ねえぞ」
ラオウは何かを考え込んだまま銀時を睨みつけている。
銀時はおそらく勇次郎が秘孔を破る所を見ているはずだ。
ならば、この行動は死を前にした自暴自棄などではなく、銀時の信念に基づいた行動なのだろう。
本郷は仲間を守る為、まだ見ぬ誰かを守る為、ラオウに闘いを挑んできた。
そして、本来有り得ぬ打撃をラオウに加え、散っていった。
この銀時も同じ理由で戦いを挑み、本来有り得ぬ深手を勇次郎、ラオウに負わせた。
そう、ラオウですら為しえなかった、勇次郎の片腕を斬り落とすといった芸当を、銀時はやってのけたのだ。
その力の理由が、ラオウには理解出来なかった。
「おい聞いてんのかラオウ。こいつは俺が喰うが構わんな?」
勇次郎の声で我に返るラオウ。
特に文句も無いので了承の意を伝えると、勇次郎は嬉々として銀時に向き直った。
銀時も最初に会った頃とはまるっきり別人のような目で立ち上がっている。
ラオウはそんな二人に背を向け部屋を出ていった。
「さあ二度目だ。こっからが本番だろう銀髪」
片腕を失った事にはまるで触れない。同様に銀時の怪我も気にならないようだ。
「一人づつやってくれるか、ありがたくて涙が出るね。こちとらお前さん黙らせた後、もう一人の筋肉バスター仕留めなきゃなんないんで出来るだけ楽したいんだわ」
彼我の戦力差は理解している。
それでも、銀時は銀時である事を止めるつもりは無かった。
『やっぱり、命が幾つあっても足りねえよなこりゃ』

ラオウは病院を出ると、戦闘前に放り出したデイバックを拾って背負う。
勇次郎はラオウとの戦闘の間に、確実に成長していた。
それは直接拳を交えたラオウには良くわかっている。あの男はまだまだこの先強くなっていくだろう。
あの男、獣としか思えぬあの男、かつて攻め入った修羅の国の男達を思い出させるあの男は、一体何なのであろうか。
己こそ最強という自負が最強を作り出すとしたら、同じ思いを持つ二人の最強はどうすれば雌雄を決せられるであろう。
天への資質において自らが劣るとは思わぬ。
ならば何故勇次郎を圧倒する事が適わなかったのか。
それこそが、トキがラオウに教えたかった事ではないのか?
本郷、銀時にあって、自らに無い何かがあるのではないのか?
ラオウの疑念は晴れない。
一人思考に沈んでいると、後ろから声をかけられた。
「よう、こっちは終わったぜ」
病院から出てきた勇次郎は、右手にぼろぼろに傷ついた人間を引きずっている。
それをラオウに見えるように放り投げる。
部屋を出る時、既に銀時は深手を負っているように見えたが、それが軽症に思える程、銀時は全身傷だらけであった。
それを見下ろし確認しながら勇次郎に問う。
「勇次郎、貴様は北斗七星の脇に輝く蒼星を見たことがあるか?」
怪訝そうな顔になる勇次郎。
「星なんざ気にした事もねえ」
「そうか」
勇次郎に背を向けて歩き出すラオウ。
「勇次郎、勝負は預けた」
そう言うラオウに勇次郎は少し驚いた顔になるが、頬をかきながらも特にそれに異は唱えなかった。
「水差されちまったのは確かだな」
後ろを向いたまま、ラオウは勇次郎に言い放つ。
「貴様はまだまだ強くなる。次会う時を楽しみにしているぞ」
そう、次会うその時までに、この男を圧倒出来る何かを手に入れる。
その時こそ、天をその手に掴む時。
理由は無いが、ラオウはそう確信しているのだった。

ラオウを見送った後、勇次郎は自らの斬りおとされた左腕を袋詰めにし、中に氷を放り込む。
半ば廃墟と化してしまった病院であるが、その程度は簡単に揃った。
医者やってる奴でも居りゃいいんだが、とまるで人事のように考えながら勇次郎も歩き出す。
激闘の爪跡は勇次郎の体にも色濃く残っているが、それをまるで感じさせない力強い歩調であった。


病院は既に外から見てもわかるぐらい、危険な状態になっていた。
外壁には無数のヒビが走り、数箇所は明らかに崩れ落ちている。
中に残る人の姿も無く、その入り口には侵入者を拒むかのように死体が転がっている。
万力で捻じ曲げ、巨大なハンマーで叩き伏せたような怪我を負ったその死体は、何も語らない。
ただ、病院へ来る者に無言で忠告するだけだ。

『次はお前だ』と。

それがいかに生前の意志に反する事であろうと、それ以外を読み取れる者はこの場に於いても数少ないであろう。

【坂田銀時@銀魂:死亡確認】
【残り36人】

※銀時の持ち物は、遺体の側にあります

【F-4 北部/1日目 午後】
【ラオウ@北斗の拳】
[状態]内臓に小ダメージ 、鼻の骨を骨折、 胴体に刀傷 全身フルボッコ(強がって気にしないフリをしている)
[装備]無し
[道具]支給品一式
[思考・状況]
1:ケンシロウ・勇次郎と決着をつけたい。
2:強敵を倒しながら優勝を目指す。
3:覚悟の迷いがなくなればまた戦いたい。
4:本郷、銀時の死に様に思う所あり
[備考]
※自分の体力とスピードに若干の制限が加えられたことを感じ取りました。又、秘孔を破られやすくなっている事にも


【F-4 北部/1日目 午後】
【範馬勇次郎@グラップラー刃牙】
[状態]体中に浅い銃創 闘争に餓えている 左腕欠損 胴体に刀傷 全身フルボッコ(強がって気にしないフリをしている) 
[装備]ライター
[道具]食料と水2人分、打ち上げ花火2発
[思考] 基本:闘争を楽しみつつ優勝し主催者を殺す
1:首輪を外したい
2:左腕をくっつける医者を見つけたい
[備考]
※自分の体力とスピードに若干の制限が加えられたことを感じ取りました。



139:幕間~それぞれの思い~ 投下順 141:サイアクだあなたは、沈黙したその目にヤラれそう
138:遥かなる正義にかけて 時系列順 141:サイアクだあなたは、沈黙したその目にヤラれそう
130:絡み合う思惑、散る命 ラオウ 149:大乱戦
129::大切なのはゲームのやり方 範馬勇次郎 149:大乱戦
130:絡み合う思惑、散る命 坂田銀時 死亡