地獄の季節(後編) ◆3OcZUGDYUo



一人の男が地にゆっくりと落下する。
特に頭部、左肩、下腹部、鳩尾の箇所に痛々しい傷を負った青年。
範馬刃牙が虚ろな表情を浮かべ地に落ち、大地に伏せる。
スターフィンガーの衝撃のせいか、刃牙が一向に動く様子はない。
そして……

「ジ……ジョジョーーーーーッ!!」

三千院ナギの悲鳴が周囲に木霊する。
そう、刃牙が地に落ちた数秒後に空条承太郎の身体が同じように落下した。
音速拳をスタープラチナの胸ごと、己の胸に叩き込まれた承太郎。
左胸に不自然な空洞が空き、その傷口から、口から夥しい血液を撒き散らしていた。
承太郎もまた刃牙と同じように、動こうとはしなかった。

「し……しっかりするのだジョジョ!!」
「…………ああ」

ナギが承太郎の下へ駆け寄り、忙しなく彼の身体を揺する。
だが承太郎は普段よりも、更に短い言葉でしか喋らない。

「わ……私のスパイスガールとジョジョのスタープラチナは最強コンビなのだ! きっと全世界の支配者にだってなれるぞ!!」
「…………そうだ……な」

ナギの馬鹿らしい言葉にも、一切嫌な顔はせずに承太郎は答える。
だが今回もあまりに短い言葉のみ。
只、そんな言葉の数とは裏腹に胸から流れ出る血液の量は多くなっていく。

「そ……そうだ! そこに私のハヤテとジョジョが言ってたジョセフっていうジイさんを加えよう! これで無敵のカルテットの完成だ!
ハヤテだけスタンドがないけどなーに心配ない! 適当なDISCを手に入れればいい!!」
「…………悪く…………ねぇ……な……」

早口で捲くし立てるナギに承太郎が答える。
依然、承太郎の言葉は短い。
最早DISCの事について聞く余裕も無いのだろう。

「そう思うだろ!? きっと全宇宙さえも支配できるのだ! あのミツナリっていうフザけたジジイもブチのめせるぞジョジョ!!
だから…………………………」

ここにきて流暢に喋っていたナギの言葉が詰まる。
何を言うべきか考えが尽きたわけではない。
只、単に言葉が詰まってしまった……承太郎の言葉が段々小さくなっていくから。
悲しみがナギの小さな胸を締めつけていく。

「だから……だから…………死んだらダメだ…………もし、本当に万が一死んだりしたら…………許さないぞ…………」

顔を真っ赤にさせ、ナギが口を開く。
最後まで僅かな希望をあきらめはしない、してたまるもんか!
そんな意思を秘めた瞳で承太郎に話しかける。

「私は…………三千院ナギは許さない……絶対にだ……だから…… 死んじゃいやだ…………ジョジョーーーーーッ!!」
ありったけの大声でナギが叫ぶ。
両の頬には涙が太い線を描くように流れている。
頬から流れ落ちた涙が承太郎の制服をしっとりと濡らしていく。
只、ほんの少しだけだが。

「…………ピーピー泣くんじ……ゃねぇ……」

そう言った途端、承太郎はナギの胸ぐらを掴む。
突然の承太郎の行動にナギは思わず、赤くなった両眼を丸くする。

「泣くヒマがあるなら…………強くなれ……もう二度とこんな、なさけねぇ顔で…………後悔しねぇように…………な」

今までとは比べ物にならないほどの量の言葉を、承太郎は発する。
依然、口からも血を流しながら。

「おめーには…………スタンドがあ……る。スタンドは……誇りだ…………自信をもてナギ…………
そうすれ…………ば……おめーは……どこまでも…………強くなれ……る…………それだけだ…………」

承太郎の言葉にナギが小さな頭を、上下に振りコクコクと頷く。
両眼には今にも溢れそうな涙を浮かべながら。
そんな時ナギは承太郎の表情が僅かに緩んだような気がした。
ほんの僅か……ほんの僅かな緩みが。

「そうい…………う…………コト………………だ……………………
じゃ……………………あ………………な…………ナ………ギ…………………」

ナギの胸ぐらを掴んでいた承太郎の腕が力無く落ちる。
承太郎の身体に限界の文字が滲む。
刹那。
ナギの叫び声が響く。
喉が潰れてしまうと思える程悲痛で、大きな声が響いていた。

◇  ◆  ◇

実際には数十秒、だがナギにとっては数時間にも感じられた時間。
その時間の間ナギは泣き続けていた。
恥もへったくれもない程に、顔をボロボロにさせながらも泣いていた。
そんな状況で動きが起きた。

(俺は……生きてるのか………?)
スターフィンガーを受け、しこたま地面に倒れこんだ刃牙の意識が覚醒する。
だが、承太郎との闘いでの負傷により、鳴海に受けた傷も更に開いていた。
とても動けるような身体ではなく、満身創痍の刃牙。
(早く……立たねぇ……と…………)
だが、そんな身体に鞭を打ち、刃牙は立ち上がろうとする。
力を入れ、少し動かすたびに血が滲み出る刃牙のボロボロな身体。
常人なら、一先ず休む事を選択するだろうが、刃牙はしようとはしない。
(俺には…………やる……コト……が……)
刃牙にはやるべき事がある。
その目的のために序々に身体の節々を動かす事が出来るようになったが、未だ顔を上げる力は出ない。
だがあきらめるわけにはもいかない。

(うごけ……うごけよ…………なん………だ……?) 「――――金」
更に力を入れた刃牙は不思議に思う。
今聞こえた声はなんと言ったのだろう?
更にその後あのナギという少女が何か言っているのが聞こえる。
一体何を? そう思った瞬間、刃牙は違和感を覚えた。

ゴン!

頭に重い衝撃が走る。これは拳による打撃か?

ゴン!ゴン!

更にもう二発、先程より重い衝撃が襲う。
生暖かい液体が髪に纏わりつく。
だがあまりに大きすぎる衝撃……まさかこれは……

ゴン!ゴン!ゴン!

ピーキーガリバーの拳か?ならばさっきの声は武装錬金を発動した掛け声……。
こんなことが……こんなことがあって…………たまるか……。

ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!ゴン!

急に拳の速度が上がった。
身体が冷たくなり、意識が朦朧としてくる。
このままじゃ…………………………まず……………い。
けどこのまま……………死んで……………たまる……………か。

(俺は……………俺は……………まだやり……………終えちゃあいな……………
い…………………………ん……………だ……………ァ)
ゴン!!
最後の、ピーキーガリバーの一撃が刃牙に振り下ろされる。
やがて、赤い鮮血を噴出しながらあっけなく割れた。
傷だらけの刃牙の頭部が。

◇  ◆  ◇

「な……なにを……やったのだ…………」

三千院ナギが震えながら口を開く。
たった今、自分の目の前で起きた凄惨な光景を目の当たりにして。

「こ……答えろ…………」

震えが全く収まろうとはしない。
今まで体験してきた事の中で最も信じることが出来ない。
こんな事は有り得ない……そんな事を行った人物。

「答えろ……ハヤテッ……!」

ピーキーガリバーで範馬刃牙を撲殺した綾崎ハヤテに対して叫ぶ。
そのナギの言葉を受け、ハヤテはビクっと身体を震わせる。
そしてハヤテはゆっくりとナギの方へ振り向く。

「大丈夫ですか……お嬢様…………?」

刃牙の返り血、脳漿を全身に浴びたハヤテが振り向いた。
更にナギの視線と合うものがあった。
頭をカチ割られ、脳を地に撒き散らした刃牙の、衝撃により飛び出た虚ろな眼球が。

「い…………いやだあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっ!!!!!」

思わず後ずさりし、ナギは後ろにひっくり返る。
その両眼はいつもハヤテを見る時に、見せるようなキラキラしたものではない。
紛れも無い恐怖。
それ以外の感情など持ち合わせてはいない。
尻餅をついても、ナギは必死にハヤテと刃牙の死体から離れようとする。

「っ!…………お嬢様…………」

そんなナギの様子を見て、ハヤテは悲しそうな表情を見せ駆け出す。
だが、ナギの方ではなく何故か南の方へ。

「ハ…………ハヤテッ!」

駆けて行くハヤテを見て、ナギが言葉を掛けるがハヤテは止まらない。
いつもどんな我侭でも、笑いながら聞いてくれたハヤテが。
追いかけようとしても、ハヤテの走力に追いつけるハズもない。
そんな事を考えている内に、ハヤテの姿はとても小さいものになっていた。

「なぜだ……なぜなのだハヤテ…………」

力なくナギはそう呟く。
周囲に響く音はナギがすすり泣く声しかなかった。

◇  ◆  ◇

綾崎ハヤテが全速力で走る。
目的地などなく、三千院ナギから離れるために。
ナギを怖がらせないために。

(喫茶店に居ればきっと赤木さん達が戻ってきます……だから無事で居てくださいお嬢様)

ハヤテは先程の闘いで全く無力な存在だった。
自分が守るべき存在であるナギでさえ、あんな力を持っていたというのに。
自分にも力があれば仲間達を救えるかもしれない……そんな事を何度も思った。
そんな時刃牙がナギと同じような制服を着て、ピンク色の髪の少女が死んだと笑いながら言ったのを聞き、
ハヤテの頭の中は真っ白になっていた。

(恐らくあの人……僕が殺した人が言ってたことは本当だ……あの人に嘘をつくメリットはない。
時間稼ぎなどしても、あの人程の力なら僕とお嬢様を殺す事など簡単だからだ……)

ヒナギクが死んだ……大事な友達であるヒナギクが。
あまりのショックで、刃牙の攻撃になにも反応が示せなかった。
せめてお嬢様だけは守って死のう……地面に倒れながらそう思ったとき承太郎が現れた。

(ごめんなさいジョジョさん……僕に少しでも力があれば…………)

復活した承太郎の強さにすべてが収まるとハヤテは安堵していた。
だが承太郎の胸に風穴が空いたとき、再びハヤテを絶望が襲う。
ナギが必死に話しかけている姿が痛々しく、何も声を掛けられない無力な自分。
承太郎が息を引き取った時、ハヤテは涙が落とした。
『なんでジョジョさんが死なないといけない!』 何度も何度もそう思った。
やがて、何秒か経った後ハヤテは見てしまった。
刃牙の身体が僅かに動いた姿を。

(僕は……僕は取り返しのつかないことを……)

『何故この人は生きようとしているのか? ジョジョさんが死んでしまったのに! この人は……許せない!』
思わず湧き上がった感情。
自分でも驚くくらい、殺意に満ちた感情をハヤテは持った。
そこから先は……気付いたら核鉄を持ち、刃牙が言った言葉を同じように言い、殴っていた。
生を求めようとしていた刃牙を。

(あんなことをやった僕がお嬢様と共に居てはいけない……わかってるさ。
僕はあれだけの事をしてしまったんだ……当然の報いだ)

初めて殺人を犯した事をハヤテは信じられなく、呆然としていた時にナギの叫び声が耳に入った。
恐る恐るナギの方をハヤテは振り向いたが、彼女は脅えていた。
いや、実際は刃牙の凄惨な死体がナギの恐怖の大部分を占めていたが、ハヤテはそれを拒絶と受け取ってしまった。
ナギの恐怖一色の大きな瞳。
その瞳を見ているのがたまらなく嫌になったハヤテは無我夢中に駆け出した。

(僕はこれからどうすればいいんだ…………?)

許されない罪を犯し、守るべき主人さえも脅えさせたハヤテ。
『自分はどうするべきなのか』そう思い悩むハヤテにある考えが芽生えた。

(そうだ……マリアさんに全てこの事を話して、助言を貰おう。
マリアさんはいつだって僕に優しい言葉を掛けてくれた……きっと上手くいくはずだ!)

新たな目的が出来たことでハヤテの足取りが僅かに軽くなる。
何故かハヤテの表情すらも明るくなっている。
自分の理論がどこかおかしいものになっている事に気付かぬまま。

(待っててください……マリアさん)

ハヤテは依然走り続ける。

◇  ◆  ◇

喫茶店付近で二人の青年の死体が横たわり、一人の少女が蹲っている。
脳をブチ撒けた青年の死体の傍に奇妙な物体が転がっていた。
それはスターフィンガーによって串刺しにされ、取り除かれた物体。
それはおぞましい親指程度の物体。
それは範馬刃牙に植え付けられていた物体。
肉の芽が大きな風穴を空けて、転がっていた。
承太郎が決定した行動はこうだ。

『花京院典明、ジャン・ピエール・ポルナレフに対して行った時のように、
肉の芽を摘み出す事により取り除くのではなく、全力のスターフィンガーを突き刺す。その後強引に肉の芽を取り出す』

先程の考えを踏まえて、承太郎は刃牙に全力のスタープラチナの拳を叩き込み、殺そうと初めは思っていた。
しかし承太郎は寸前に考えてしまった……自分のかけがえのない仲間、花京院典明、ジャン・ピエール・ポルナレフの事を。
彼らも肉の芽をDIOに植えつけられたが、肉の芽を取り除くことで大事な仲間となった。
だが刃牙が肉の芽を植えつけられる前、どんな人柄だったか承太郎には見当が付かず、当然彼らのように仲間になるとは限らない。
しかし承太郎はその可能性に賭けた。
死んだDIOさえも参加者に仕立て上げ、未知の能力を持った参加者が存在すると思われるこの殺し合いで、
更に仲間を増やす意味が持つ重要性は高い。

スタンドがないとはいえ刃牙の力は仲間に加われば心強いものであり、十分賭けに値する存在だと思ったからだ。
しかし、いくらスタープラチナの精密動作性が優れているといえども、只全力の力を込め攻撃を行うのと、
肉の芽というあまりに小さすぎる対象をピンポイントで、しかも全力の速度で寸分の狂いもなく突き刺す。
この二つの動作に要する時間のどちらが少ないかは言うまでもないだろう。
攻撃対象が小さければ、その分狙いを付ける事に時間を取られるからだ。
だが、そんな僅かな時間の遅れでも刃牙には十分過ぎる隙となりうる。

そのため、承太郎はスターフィンガーで肉の芽を突き刺すと同時に、刃牙の額にもダメージを与えていた。
その時の衝撃で刃牙が気絶するとは思ってはいないが、攻撃の速度、打撃箇所にブレが生じ、即死にはならないと踏んでいた。
確かに承太郎の予想通り、高速で突き出されたスターフィンガーを額に受けた衝撃で、
刃牙の音速拳の勢いはほんの僅か落ち、疲労も伴って刃牙は一時気を失った。
スターフィンガーが音速拳より先に刃牙を捉えたのは、時を止める力も関係していたのはいうまでもない。
だが、脳内麻薬により身体能力が上昇した刃牙の拳は、スタープラチナの左胸を貫けるほどの力は十分にあった。
その事が承太郎最大の誤算であったが最早どうしようもなかった。
それは刃牙の勝利への執念が為せる業だったのかもしれない。

そんな承太郎の身を挺して刃牙がDIOを打ち倒すために、この殺し合いを共に止めるために賭けた望みは無駄に終わった。
彼の同行者による綾崎ハヤテの暴走によって。
当然、承太郎がこの無常な結果を知る事は出来ない。
これからもずっと永遠に…………。
エリアD-3、喫茶店付近、夕方。
そこには人知れず地獄の季節が顔を出していた。


【空条承太郎@ジョジョの奇妙な冒険:死亡確認】
【範馬刃牙@グラップラー刃牙:死亡確認】
【残り34人】


【D-3 喫茶店付近 一日目 夕方】
【三千院ナギ@ハヤテのごとく!】
[状態]全身に打撲、右頬に中程度のダメージ、首に痣あり、精神疲労(大)
[装備]スパイスガール@ジョジョの奇妙な冒険
[道具]無し
[思考・状況]
基本:殺し合いはしない
1:ジョジョ……ハヤテ……
2:ハヤテ、マリア、ヒナギク、ジョセフと合流する。
3:カズキの恋人という『斗貴子』とやらに会って、カズキの死を伝える。
参戦時期:原作6巻終了後
[備考]
※スパイスガールが出せるかは不明です
※ハヤテの変貌に恐怖を感じています。またハヤテの事が気懸かりになっています
※ヒナギクが死んだ事に当然確信はありません

【D-4 中部 一日目 夕方】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]精神不安定、下腹部、左肩、右頬に中程度のダメージ、中程度の疲労、核鉄 により自己治癒中
[装備]454カスール カスタムオート(7/7)@HELLSING、
[道具]核鉄(ピーキーガリバー)、支給品一式-水少量 13mm爆裂鉄鋼弾(35発)、ニードルナイフ(15本)@北斗の拳 女装服
音響手榴弾・催涙手榴弾・黄燐手榴弾、ベレッタM92F(弾丸数8/15)
[思考・状況]
基本: ??????????????????
1:マリアと合流する
2:力を得る
3:自分がやった事に強い戸惑い
4:もし、首輪を解除できずに乗ってない人だけが残ったら……?
[備考]
※判断力が低下しているためヒナギクは死んだと思っています


[共通備考]
※喫茶店のテーブルに首輪探知機@BATTLE ROYALE 不明支給品0~3(フェイスレス・ナギ)が放置されています
※ナギや刃牙の近くに支給品一式×4、フェイスレスの首輪、不明支給品0~2(本人は確認済。核鉄の可能性は低い)が放置されています


149:大乱戦 投下順 151:小さな死 ~ La Petite Mort ~
152:【裏】貴重な貴重なサービスシーン 時系列順 151:小さな死 ~ La Petite Mort ~
139:幕間~それぞれの思い~ 三千院ナギ 161:夕闇に悪魔、慟哭す
139:幕間~それぞれの思い~ 綾崎ハヤテ 156:コドクノテイギ
139:幕間~それぞれの思い~ 空条承太郎 死亡
148:『歯車』が噛み合わない 範馬刃牙 死亡